I hate the dark

リクエスト内容『激甘える宍戸さん』

今日の天気は曇り。真っ黒な雲がどんよりと空を覆っている。
「はあ〜、ヤダなあ。何か、雨降りそう・・・」
今日は宍戸は家に一人。父親は出張中。母親は友人の家に泊まりに行っているという状態
だ。宍戸はこういう天気が好きではない。これから夜が更けていこうとしているのに、家
に一人でいるというのは宍戸にとってかなりつらいことだった。
「・・・跡部に来てもらおうかな。」
宍戸は携帯を手に取り、リダイヤルで跡部に電話をかける。
跡部出てくれるかな・・・・出てくれなかったらどうしよ・・・・
何度か耳に呼び出し音が響く。なかなか電話に出ない跡部にだんだんと宍戸は不安になっ
てくる。
『何だよ、宍戸。』
「出るの遅ぇーよ。」
『で、何の用だ?用がないなら切るぞ。』
「わあー、待てよ!跡部!!」
『冗談だ。せっかくお前から電話してきたのにそう簡単に切らねぇよ。』
宍戸はホッとして、用件を伝える。本当は不安で仕方ないのだが、何とか平静を装い跡部
にうちに来ないかと誘った。
「今、家に誰も居ねぇんだよ。跡部、うち来ねぇか?」
『今からか?』
「ああ。・・・・ダメか?」
声のトーンが急に変わったので跡部は宍戸がどうしても自分の家に来て欲しいと思ってい
ることを悟った。
『いいぜ。行ってやるよ。ちゃんと、家で待ってろよな。』
「分かった。」
ピッ
電話を切り、宍戸は何となく窓の外を眺めた。いつの間にか雨が降り出している。遠くの
方で雷が鳴る音も響いていた。
ヤバイな・・・このままだと跡部が来るまで動けねぇかも。

跡部は着替えと鞄を持ち、宍戸の家に向かった。雨がしだいに強くなって、行く手を阻も
うとする。
すげぇ雨だな。でも、宍戸の奴、何か声が震えてたし、行ってやらなきゃいけねーような
気がする。
本格的にドシャ降りになってきたので、跡部は宍戸の家まで走った。息を切らし、呼び鈴
を鳴らすとすぐに宍戸が玄関から出てきた。
「よっ。すごい雨だな。早く入れよ。」
「ああ。邪魔するぜ。」
宍戸は普通を装っているが、跡部が来るまで不安で仕方がなかった。リビングやキッチン
などには寄らずに真っすぐ自分の部屋へと跡部を連れて行った。
「本当に誰もいねぇんだな。」
「ああ。でも、よかった跡部が来てくれて。」
「何だよ。一人じゃ寂しいってか?」
「ち、違ぇーよ!!」
宍戸が跡部に反論した瞬間、稲光が部屋に差し込み、すぐにゴロゴロと雷が落ちる音が聞
こえた。かなり近くに落ちたらしい。そして、次の瞬間、部屋の電気がブチッと消えた。
「うわあっ!!」
宍戸は思わず跡部に抱きつく。だが、跡部は落ち着き払って宍戸をなだめた。
「ただの停電だ。そんなにビビることねぇだろ。」
「あっ・・・そうか・・・」
跡部にそう言われ、ゆっくりと体を離す。だが、宍戸の体は静かに震えている。
「宍戸、懐中電灯とかねぇのか?」
「・・・どこにあるか分かんねぇ。」
「この暗さじゃ探すってのも無理だな。」
「立ってんと危ないから、ベッドにでも座ろうぜ。」
「そうだな。」
宍戸は手を引き、跡部をベッドまで連れて行った。自分の部屋なので何がどこにあるのか
は見えなくてもほぼ正確に分かる。
「それにしても、すげぇ雨だな。」
「・・・・・ああ。」
「まあ、もうそろそろしたら目も慣れるだろ。」
「・・・そうだな。」
「?」
会話に違和感があるのを跡部は感じた。どこか宍戸の様子がおかしい。それは電話を受け
た時から感じていた。だいぶ目が暗さに慣れてきたので、跡部は立ち上がった。宍戸はそ
れに気づき、跡部の服をぎゅっと掴む。
「宍戸、ちょっと手離してくれねぇか?」
「どこ行くんだよ?」
「トイレだよ。トイレ。目慣れてきたから行こうかと思って。だから、離せよ。」
「・・・・・。」
トイレに行きたいと話したにも関わらず、宍戸は手を離そうとしない。
「宍戸。マジでこれじゃあ動けねぇんだけど。」
「・・・・一人になりたくない。」
「ちょっと、トイレ行ってくるだけじゃねぇか。待ってろよ。」
「・・・・・。」
いつまで経っても服を離してくれないので、跡部はそのまま宍戸を連れて行くことにした。
「全く何なんだよ。だったら、一緒に来い。」
「うん。」
トイレに行くまで宍戸は跡部の服を離さない。そんなこんなでトイレに到着。さすがに中
までは一緒に入れないので、宍戸はドアの前で待つことになる。
「跡部、居るか。」
「居るに決まってんだろ。」
「・・・・跡部。」
「居るっつってんだろ!」
本当何なんだよ、宍戸の奴。俺の方がトイレに入ってんのにどこかに行くなんて不可能だ
ろ。逆だったら有りえるけどよ。
跡部がトイレから出てくると、宍戸は再び跡部の服を握る。この辺りから跡部は宍戸の異
変に気づき始めた。部屋に戻ると宍戸は跡部にベッドの上に上がって座らせることを促し
た。
「跡部、ベッドの上にちゃんと乗って座ってくれねぇか?」
「別にいいけど。」
暗闇のままなので表情は見えないが、宍戸の顔はひどく不安気だった。跡部がしっかり座
ったということを確認すると、宍戸はすがるように跡部に抱きつく。
「どうした?宍戸。」
「・・・・・。」
宍戸は返事をしない。だが、跡部はあることに気づいた。宍戸の体が異常なほど震えてい
るのだ。
「大丈夫か!?おいっ、どうしたんだよ?」
「ごめ・・・ん・・・跡部、大丈夫だから・・・。」
大丈夫と言いながらも宍戸の声はこれ以上ないほど震えている。雷が鳴った瞬間、宍戸は
抱きつく腕に力を込めた。そして、跡部は気づく。宍戸がこうなってる原因はこの状況に
あると・・・。
「お前、怖いのか?」
「・・・・違う。」
「じゃあ、何でこんなに震えてんだよ?」
「分かんねぇよ!!・・・ダメなんだ俺。こういう状況になると体が勝手にこうなっちま
う・・・。」
「何か原因あんのか?」
「・・・・小さい時のアレが原因だと思う。」
「アレ?」
宍戸はこうなってしまう原因と思われる出来事を話し始めた。それは、宍戸がまだ幼稚園
に入る前あたりのこと・・・・。
「俺が幼稚園入る前くらいの時、今の状況と同じようなことがあったんだ・・・。父さん
が仕事で遅くなってて、母さんは電車で二駅くらいのところに買い物に行ってた。俺が買
い物に連れて行ってもらわなかったのは、その日が今日みたいな天気で・・・危ないから
って・・・・それで、大雨が原因で電車が止まっちまって、どっちもうちに帰ってこれな
くなっちまって・・・・。」
「じゃあ、その間家にいたのはお前だけだったのか?」
「・・・・ああ。それで、近くに雷が落ちて、今みたいに停電になった。真っ暗だぜ?俺
どうすればいいか分からなくて・・・泣きじゃくった。でも、誰も助けには来てくれない。
・・・それから、何時間かずっと雷は鳴り続けてて、部屋は真っ暗だし・・・怖くて、怖
くて・・・・ずぅっと、一人で泣いてた。それ以来、マジでダメなんだよ。こういう状況。
そんなにハッキリ覚えてるはずないのに・・・・すっげー、不安になって、怖くて震えが
止まらなくなっちまうんだ・・・・。」
「トラウマって奴だな。」
跡部はさらっと宍戸に言った。宍戸はもっと心配してくれてもいいだろというようなこと
を顔に表すが、暗くて跡部には見えない。だが、次の瞬間、ぎゅっと抱きしめられるよう
な感覚が宍戸を包む。
「そんな理由があるんじゃしょうがねぇな。だけど、今はお前一人じゃないぜ。俺がいる。
この状況じゃそんな大したことは出来ねぇけど、何か俺に出来ることがあれば言ってみろ。」
跡部は宍戸を落ち着かせるように、宍戸の頭を撫でながら静かに言った。
「じゃ、じゃあ・・・ずっと、このままで居てくれよ。・・・・それから、思いっきりお
前に甘えたい。震えが止まるまで、ずっと抱きしめててくれ。」
「いいぜ。そのくらいならいくらでもしてやる。」
跡部にそう言われ、ホッとしたのか宍戸の震えはだんだんとおさまり始めた。もっと、し
っかり跡部を感じていたいと宍戸は抱きついている腕に力を込める。跡部もそれと同じく
らいの力で宍戸を抱きしめ返した。
「跡部って、やっぱ優しい。」
「いつものことだろ?それは。」
「俺が不安になったり、情緒不安定になったりするといつもこうしてくれるよな。」
「お前、俺がこうしてんと落ち着くんだろ?」
「うん・・・。」
いつもならそんなことはないと反発する宍戸だが、気持ちが不安定なので、素直に頷く。
いつもとは少し違う宍戸に跡部はドキドキだった。
「なあ、跡部。」
「何だ?」
「キスして欲しい。」
「どこに?」
「いろんなとこ。口とか目とかほっぺとか顔全部。」
「了解。」
暗くて見えにくいが、もうだいぶ目が慣れているので跡部は顔の上の方から順番にキスを
していく。初めは額。次はまぶた。その次は鼻先。両方の頬にし、最後に唇を重ねる。
「これでいいか?」
「ううん。もっと。」
「もっと?顔、全部にしてやったぜ。」
「口へのキス。もっと、深くしてくれよ。」
「わがままな奴だな。」
そう言いながらも跡部の表情は実にうれしそうだ。顔を傾け、片手で宍戸の頭をしっかり
支え、さっきよりも深い口づけを宍戸に施した。
「んんっ・・・んぅ・・・」
宍戸も背中に回していた手を首の方に移し、さらに深くしてもらえるように促す。それに
応えるように跡部は器用に宍戸の口内をゆっくりと舐め回す。
「・・・ぁん・・・ふ・・・はぁ・・・んん・・・・」
いつの間にか宍戸の体の震えは止まっていた。跡部のキスで闇に対する恐怖心などどこか
に飛んでいってしまったようだ。
「はぁ・・・・跡部ぇ・・・」
よほど跡部の口づけがよかったのか、宍戸は満足気な吐息とともに跡部の名前を呟いた。
「あれ?お前、体の震え止まってねぇ?」
抱きしめる体がいつもの感じを取り戻したことに気づき、跡部はそれを宍戸に伝えた。
「あっ、本当だ。」
「よかったな。じゃあ、もうそろそろ離れてもいいか?」
冗談で跡部は言う。
「何でだよ!?・・・・もうちょっと、このままで居させろよ。」
離れたくないと宍戸は再び跡部の背中に腕を回して抱きつく。
「甘えん坊。」
「何だよ。お前だって俺にこうされてうれしいんだろ。」
「まあな。それにしても、まだ、停電直んないのかねー。」
跡部が溜め息をつきながら、そう呟いた瞬間・・・・
パッ
「あっ・・・」
「ついたな。」
部屋の明かりがパッとついた。停電が直ったようだ。宍戸は本当に安心した表情で跡部に
寄りかかる。
「よかったー。」
「そういや、いつの間にか雷もやんだみてぇだな。」
「雨もだいぶ弱くなってきてるぜ。」
「・・・宍戸、停電の間泣いてたのか?」
「えっ!?」
跡部の意外な言葉に宍戸は焦る。自分ではそんなつもりはないのだが、跡部が言うのなら
そうであろう。
「な、何で?」
「目、真っ赤だぜ。」
「うそ!?マジで!?」
「本当、本当。お前、マジで暗いのダメなんだな。」
「うわあ、恥ずかしい。」
まさか自分でも泣いていたなんて、分からなかったので宍戸は顔を赤らめた。だが、跡部
はそんな宍戸も可愛いと言わんばかりにそのままの状態で抱きしめる。
「な、何だよぉ!!」
「お前、本当可愛いぜ。怖がりで甘えん坊で泣き虫で、俺がいないと何にも出来ねぇ。」
「そんなことねぇよ!!」
「うそつけ。俺がいなかったらお前今頃どうなってたよ?こんなに文句いっぱい言える余
裕ないんじゃねぇの?」
「う゛っ・・・」
図星を指され、宍戸は言葉を失ってしまう。こうなったらもう開き直るしかない。
「そうだよ!俺、どうせお前が居ないとダメなんだよ。だから、ずっとこのままで居やが
れ。足が痺れたって言ってもどいてやんねぇからな!!」
「そりゃあ、困るな。うれしいけどよ。」
「えっ、俺がいると迷惑ってこと?」
「違ぇーよ。足が痺れたまんま乗られるのは困るってこと。」
「何だそっちかよ。」
「お前がずっとこうしててくれるのは俺的に大歓迎だぜ。」
「じゃあ、マジでずっとこうしてんぞ。」
「だから、足が痺れるのは困るっつってんだろ。」
「うわっ・・・!!」
跡部は腕に力を入れ、宍戸をベッドに倒した。そして、自分もその横に寝転がり、もう一
度宍戸を抱きしめなおす。
「こっちの方が楽だろ?」
「それはお前がだろ?」
「いいじゃねぇか。抱きしめてることには変わんねぇんだからよ。」
「そうだけど・・・。もういいや。お前の勝手にしろよ。俺はもう文句言わねぇ。」
「そうか?じゃあ・・・」
「ただし、やるのはなし!明日も学校だからな。」
「ちっ。いけると思ったのに。」
「別にこのままでも同じだろ?一晩中くっついてんだから。」
「ま、今日はこれで我慢してやんよ。」
宍戸の頬にキスをして、跡部は笑いながら言う。宍戸はもういつもの宍戸だ。やはり跡部
は宍戸にとってなくてはならない存在なのであろう。

                                END.

戻る