Loving Children

「つーわけだから、よろしくな。」
ここは岳人と忍足が同居している一軒家。朝早くに跡部と宍戸は、二人の子供を連れて二
人のもとへやってきた。
「はあ!?ちょっと待てよ!!いきなり来て何言ってんだよ!?」
「そうやで。普通、昨日のうちに連絡するとかしてから来るやろ!?」
「だって、急に二人で出かけたくなっちまったんだもん。仕方ねぇじゃん。」
今日行きたくなったんだからしょうがないと、宍戸は飄々とした表情で言う。そんな全く
筋の通ってない理屈に岳人と忍足は反論しようとするが、跡部の言葉によってそれは遮ら
れる。
「もちろんただでとは言わねぇよ。バイト代として帰りに土産たくさん買ってくるからよ、
それで許せ。」
跡部の買ってくるお土産は値段も豪華さも半端ではない。そんなことを言われれば、一日
くらいいいかという気分になってきてしまう。
「うーん、どうする?侑士。」
「せやなあ・・・まあ、一日くらいだったら、面倒見てやってもええかな?」
「さっすが、元氷帝のゴールデン・ペア。頼りになるぜ!」
「その代わり、本当に今日だけだからな!!」
「分かってるって。じゃあ、お前ら、岳人と忍足の言うことちゃんと聞くんだぞ。お前ら
にもたっくさんお土産買ってきてやるからな。」
『はーい。』
二人の子供の頭をぽんぽんと撫でると、宍戸は跡部と共に玄関を出る。そんな二人を見送
りながら、岳人と忍足は顔を見合わせ、溜め息をついた。
「ホント、アイツらって自分勝手で人の都合考えねぇよな!」
「ホンマや。宍戸もあーいうところがなければ、誰もが認める美人妻って感じになるんや
けどな。」
「まあ、跡部の影響もあるのかもしれねぇけど。」
二人がそんな話をしていると、跡部と宍戸の子供がじっと二人の顔を見上げている。あま
り子供の前で、二人の悪口を言っててもよくないかと、岳人と忍足は跡部と宍戸に対して
の文句を言うのをやめた。
「それにしても、お前らちょっと見ないうちに大きくなったなあ。いくつになったんだっ
け?」
「オレが5さいで、せいとが3さい。」
「へぇ、もうそんなになったんか。聖冬はミルク飲んでるイメージが強かったんやけどな
あ。」
跡部と宍戸の子供は男の子が二人で、上が冴月(さつき)で、下が聖冬(せいと)という
名前だ。岳人も忍足も二人が赤ん坊のときから知っている。なので、いきなり面倒を見ろ
と言われても、多少困惑はするもののそれほど問題があるわけではないのだ。
「ぼく、もうミルクなんてのまないよー。」
「分かっとるって。もう赤ちゃんやないもんな。」
「とりあえず、部屋ん中入るか。こんなとこでしゃべってても仕方ねぇもんな。」
『うん!』
ひとまず部屋に入ろうと岳人は二人の子供に声をかける。遊び盛りの二人は、パタパタと
廊下を駆けていった。
「元気やなあ。」
「あの二人の子供だし、元気はあり余ってんだろ。」
「確かに。今日は忙しくなりそうやで。」
「そうだな。でも、まあ、たまにはこういう日もあっていいんじゃねぇ?」
楽観的に考える岳人を見て、忍足は何となく頼もしいなあと思う。大変な一日になるのは
間違いないが、それはそれで楽しめばよいかと忍足もプラスに考えることにした。

何だかんだしているうちにお昼の時間になり、忍足は台所の棚からあるものを出してきた。
見たこともない機械に冴月と聖冬は興味津々だ。
「ゆうにい、これなに?」
いくつもいくつも穴が開いている黒いプレートを見て、冴月はそう尋ねる。
「これはな、たこ焼き焼く機械やで。」
「たこやき?」
「聖冬はたこ焼き食べたことないんか?」
「うーん、わかんない。」
跡部の家で出る料理は豪華なものが多いので、聖冬はいまいちたこ焼きがどんなものか分
かっていないらしい。それならば、美味しいたこ焼きを食べさせてやろうと、忍足はやる
気満々で準備をし始めた。
「侑士、たこ焼きのタネ出来たぜ。」
「ああ、じゃあ、こっちに持って来。」
「おう。」
岳人がたこ焼きのタネを持ってくると、忍足はプレートに油をしき始める。そして、手際
よくたこ焼きをつくり始めた。
じゅうぅぅ・・・・
プレートにトロッとしたタネが入ると、冴月と聖冬は目を輝かせてその光景を眺める。こ
こまで目の前でたこ焼きを焼くのを見るのは初めてなのだ。
「侑士の作るたこ焼きは絶品なんだぜ!」
『ぜっぴんって?』
「すっげぇ美味いってことだ。俺、侑士の作るたこ焼き超好きっ!!」
「へぇー、たのしみだな、せいと。」
「うん!」
そんな会話をしているうちに、たこ焼き作りは佳境に入っていた。キリのような道具を使
い、くるっくるっと忍足はたこ焼きを裏返している。
『わー、すごーい!!』
鮮やかな忍足の手さばきを見て、二人は感動。さっきまでは、いろいろな具が乗ってよく
分からない形をしていたものが、今は真ん丸になっている。
「もうそろそろ出来るから待ってな。俺が、一番美味しい食べ方教えてやるわ。」
たこ焼きが焼きあがると忍足は皿の上にコロコロと乗せてゆく。真ん丸で綺麗に焼きあが
ったたこ焼きを見て、冴月も聖冬も大はしゃぎだ。
「おいしそー!!」
「ゆうにい、はやくたべたい!!」
「まだ、アカンで。今、食べたら口ん中火傷してまう。」
「侑士、バッチシだしも用意してあるぜ。」
「おおきにな。岳人。」
焼きあがってすぐ食べると火傷をするということで、忍足は皿の上でしばらくたこ焼きを
冷ます。いい感じに冷めると、忍足はソースやかつお節など必要なものをパパッとかけた。
たこ焼きの上で踊るかつお節を見て、冴月や聖冬はもちろんのこと、岳人も食欲をそそら
れる。
「よし、もう食べてええで。」
『わーい!!』
「このたこ焼きをな、このだしにつけて食べるとメッチャ美味いねん。ほら、やってみ。」
忍足に言われた通り、二人はソースのかかったたこ焼きを岳人の用意しただしにつけて食
べてみる。熱々で中がとろりと柔らかいたこ焼きは二人の舌をとろかせる。
『おいしいーvv』
「せやろ。たくさん焼くからどんどん食べ。」
「侑士、俺もたくさん食べていい?」
「もちろんやで。さて、第二段階焼き始めるか。」
自分のお気に入りの食べ方が気に入ってもらえて、忍足はとても機嫌がよくなる。ニコニ
コしながら、再びプレートにたこ焼きのタネを注ぎ始めた。

思う存分たこ焼きを食べると四人は満足そうにくつろぐ。しばらくすると、聖冬がうとう
とし始めた。
「せいと、ねむいの?」
「うん・・・ねむい〜・・・」
「腹いっぱいになったから、眠くなっちまったんだな。ちょっと待ってな、今、隣の部屋
に布団敷いてきてやるから。」
「ありがと、がくとにい。」
眠そうな聖冬を見て、岳人は隣の部屋に布団を敷きに行く。その間に、忍足はたこ焼きを
焼く機械を台所へと持って行った。二人がリビングへ戻ってくると、聖冬だけでなく、冴
月もゴロンと横になって眠ってしまっていた。
「ありゃ、冴月まで寝ちゃってる。」
「まあ、まだ幼稚園児やからな。」
「布団敷いてきたし、そっちの方に運んでやるか。」
「せやな。」
岳人が冴月を、忍足が聖冬を抱えて布団まで運んでやる。ぐっすりと眠り込んでしまった
二人の子供を見て、微笑ましいなあと岳人と忍足はくすくすと笑う。
「やっぱ、可愛いよなあ子供って。」
「ホンマやな。でも、やっぱ二人とも跡部と宍戸にそっくりやわ。」
「そうか?あの二人より全然素直でとても似てるとは思えねぇけどな。」
「性格やなくて、見た目の話や。冴月はどちらかと言えば、跡部似やろ?髪の毛も金髪だ
し、同じところにホクロあるし。ただ目の色は宍戸の色を受け継いでるみたいやけどな。」
「確かに。そうすっと、聖冬はどっちかと言えば宍戸似だよな。綺麗な黒髪だし、ちょっ
と長いし。目も一重だからミニ宍戸って感じ。でも、冴月とは逆で目の色は跡部を受け継
いで、真っ青なんだよな。」
「お人形さんみたいやな、聖冬は。二人とも跡部と宍戸のいいとこばっか、受け継いどる
わ。」
「起こしたら可哀想だし、俺らはリビングでもう少しくつろぐか。」
「せやな。俺も腹いっぱいでもう少し食休みしたいと思ってたところや。」
あんまり話をしていて二人を起こしてしまうのも悪いと、岳人と忍足はひとまずリビング
に戻る。しかし、戻ったところで特に何もすることがないので、忍足はテレビをつけて、
DVDでも見ようと思った。ところが、何故か岳人がそれを止める。
「何や岳人?」
「せっかくアイツらも寝ちゃって二人きりになったんだから、DVDなんて見ないでさぁ。」
「せやけど、いつ起きてくるか分からんで。」
「別にそんな大したことするわけじゃねぇし、な、いいだろ、侑士。」
あまりにも素直にラブラブなことをしたいとねだってくる岳人に忍足は少々困惑しながら
も笑う。キス程度ならまあいいかと、許しを出すと、岳人は子供のように喜んだ。初めは
遊んでいるかのように、ちゅっちゅっと軽くキスをしているだけの岳人だったが、そのう
ち本気になってきてしまう。
「んぅ・・・はっ、岳人っ・・・」
「侑士・・・」
もちろんそんなふうにされれば、忍足も乗り気になってきてしまう。しばらくソファで、
イチャついていると、ふとすぐ側で視線を感じる。
「ゆうにいとがくとにい、ラブラブなんだな。」
『〜〜〜〜っ!?』
突然声をかけられ、二人は心臓が止まるかと思うほど驚く。パッと唇を離し、声のする方
を見てみると、冴月が楽しそうに笑いながら起きてきている。
「さ、冴月っ、いつ起きたんだよ!?」
「うーん、いまさっき。せいとはまだねてるよ。」
「今のは別に何でもないんやでっ。ホンマに・・・」
「べつにごまかさなくてもいいじゃん。うちでもパパとママがいつでもしてるし。それに
ママからゆうにいとがくとにいは、ラブラブだってきいてるしね。」
焦りまくってる二人を見て、冴月はけらけら笑いながらそんなことを言う。どんなことを
話してるんだと、恥ずかしくなりながら二人はいったん離れた。
「宍戸のヤツ、何話してんだよ。」
「ホンマや。しかも、子供らが見てるところで何しとんねんアイツら。」
「ねぇねぇ、がくとにいはゆうにいのことスキなの?」
「は?あー、まあ、そりゃな、好きだぜ。」
「ゆうにいはがくとにいのことスキ?」
「えっ・・・せやな、岳人のことは好きやで。」
「じゃあ、ふたりはパパとママとおんなじなんだな!うちのパパとママもね、おたがいの
ことスキスキっていいあってるんだ。」
実に嬉しそうにそんなことを言う冴月に岳人と忍足はビックリ。どれだけ素直にそういう
感情を出しているのだと、半ば呆れてしまう。しかし、冴月を見る限りではそれほど悪い
影響はなさそうだ。
「跡部と宍戸もさすがやなあ。」
「でも、悪い影響は与えてるってわけじゃなさそうだぜ。ちなみに、冴月は跡部と宍戸、
どっちが好きなんだよ?」
跡部に似ているところを見ると宍戸だろうと思っていた二人だったが、冴月は二人の予想
していなかった答えを返す。
「パパはママがいちばんだし、ママはパパがいちばんだから、どっちかなんてえらべない。
でもね、オレはせいとがいちばんスキなんだぁvv」
ニコニコしながら冴月は恥ずかしそうにそんなことを言う。そんな話をしていると、隣の
部屋で眠っていた聖冬が起きてきた。
「う〜、さつきー。」
「あっ、せいと!」
「うにゅ〜・・・」
まだ寝ぼけている聖冬は、冴月にぎゅうっと抱きつく。すると、冴月は聖冬の顔を上げ、
ちゅうっと唇にキスをする。それを見て、岳人と忍足は絶句。
「おはよう、せいと。おきたか?」
「うー、おはよ、さつき。」
「な、何しとん冴月?」
「なにって、おはよーのちゅうだよ。」
「うん。おはよのちゅー。」
「あー、きっと跡部と宍戸がやってんだよ。それ、真似してんじゃねーの?」
「ありえるわ。」
当たり前のようにおはようのキスと言って、兄弟同士でキスをする二人を見て、岳人と忍
足は跡部と宍戸がそうしているのを頭に思い浮かべる。そう考えれば、当然のことなのか
もしれないと、二人は冴月と聖冬のしていることに妙に納得してしまった。
「がくとにいとゆうにいもするでしょー?」
「と、時々な。でも、そんなに毎回はしねぇよ。」
「そーなんだ。じゃあ、オレたちのがラブラブだな、せいと。」
「ねー。」
「さすが、あの二人の子供。」
「言うことが違うわ。てか、聖冬も冴月のことそんなに好きなんか?」
「うん!パパよりもママよりもさつきのがもっとスキーvv」
こんなとこまで、あの二人に似てるとはと二人は顔を見合わせて苦笑する。まあ、仲がよ
いことは悪いことではないだろうと、二人のその仲のよさを認める。自分達も変わらない
と言えば変わらないのだ。
「まあ、仲がええことはいいことやしな。さてと、聖冬も起きてきたことだし、また、ひ
と遊びするか?」
『うん!!』
どちらもお昼寝から起きてきたということで、岳人と忍足は、もうひと遊びすることにし
た。跡部と宍戸が帰ってくるまで、四人は時間を忘れて遊んだ。

ピーンポーン
日が暮れて一時間くらい経ったころ、呼び鈴が鳴った。跡部と宍戸が帰ってきたのだと思
い、四人はそろって玄関へ行く。
「開いてるで。」
ガチャっ
「遅くなって悪かったな。」
『おかえりー!!』
帰ってきた二人に冴月と聖冬は飛びつく。そんな二人を抱き上げて、跡部と宍戸は岳人と
忍足に買ってきたお土産を渡した。
「これ、テメェらへの土産だ。こんだけありゃ十分だろ?」
「すっげぇ!!何が入ってんだよ、これ!?」
「こんなにたくさん・・・どこ行ってきたん?二人とも。」
「内緒♪ま、お土産見れば分かるかもしれねぇな。」
「えー、何だよそれー!」
「とにかく、今日は冴月と聖冬の面倒見てくれてありがとな!じゃ、俺らはそろそろ帰る
から。」
「ああ。」
「じゃあな。また、何かあったらお願いするぜ。」
跡部とのデートが相当満足出来たようで、かなりご機嫌な様子で、玄関を冴月と聖冬を連
れて玄関を出る。やっと肩の荷が下りたと岳人と忍足は、ホッとした様子でリビングへ戻
って行った。
「ちゃんといい子にしてたか?」
家までの夜道を歩きながら、宍戸はそんなことを尋ねる。
『うん!』
「お前らのおかげですげぇ楽しめたぜ。サンキューな。」
そう言いながら跡部は冴月と聖冬の頬にキスをする。跡部のキスを受け、二人とも嬉しそ
うに笑った。
「きょうね、たこやきたべたの。すっごくおいしかったんだよ!!」
「あー、忍足の作るたこ焼きはそん所そこらのたこ焼きとは格が違うからな。」
「あれは、俺が食べても美味いと思うぜ。」
「それからね、ゆうにいとがくとにいはラブラブなんだ。でも、オレとせいとのほうがラ
ブラブなんだよ。」
何を言い出すかと思えば、そんなこと。さては、イチャついてるのを見られたなと跡部と
宍戸はその光景を想像して笑った。
「そっか。でも、一番ラブラブなのは、やっぱ俺と景吾だと思うぜ。」
「そうだな。俺らの愛の強さは世界一だからな。」
「ぼくもパパとママがいちばんだとおもう!!」
「オレもー!!」
自信満々に言う跡部と宍戸の言葉に、二人の子供は自分達もそう思うと高々と手をあげた。
本当に可愛い息子達だと、宍戸は二人をひょいっと抱き上げた。
「お前ら、本当賢いなあ。さすが、俺の息子だぜ。」
『えへへー。』
「こら、亮は俺のだ。さっさと下りろ。」
「なーに、子供相手にヤキモチやいてんだよ?」
「別にいいだろ。テメェを一番好きなのは、この俺様だ。」
「パパ、さすがぁ。ママ、おろしていいよ。オレはせいととてつなぐから。」
「うん。ぼく、さつきとおててつなぐー。」
物分かりのよい二人の息子は、早々と宍戸の手から下りる。そのかわりに二人でしっかり
と手を繋いだ。呆れたように笑いながら、宍戸は跡部の手をきゅっと握る。
「ったく、しょうがねぇなあ。ほら、これで満足だろ?」
「それで満足なわけねぇだろ。これくらいはしねぇとな。」
宍戸の手を握り返すと跡部は道の真ん中にも関わらず、宍戸の唇にちゅっとキスをする。
それを見て、冴月と聖冬はきゃーっと顔を赤らめた。
「な、何してんだよ!?こんなとこで。」
「何って、俺がテメェのことどれだけ好きかってのを表してやっただけだぜ。」
「そーいうことはうちに帰ってからしろ!!全く・・・」
文句を言いつつも宍戸の顔はどこか嬉しそうだ。やっぱりラブラブな二人を見て、冴月と
聖冬は何だか嬉しくなる。
「やっぱりパパとママにはかなわないね。」
「うん。パパとママはせかいでいちばんスキどうしだもんね。」
「何こそこそ話してんだ?内緒話か?」
『ううん、別にー。』
ニコニコ笑いながら二人は跡部と宍戸にそんなことを言う。何だろうと不思議に思いつつ、
まあいいかと跡部と宍戸は、仲のよい息子達を見て笑った。大好きオーラを醸し出しなが
ら、四人は家までの道のりをゆっくりゆっくり歩くのであった。

                                END.

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