『A・S 観察日記』

「なあ、樺地、樺地!」
「?」
「俺な、すっげぇこと考えついちゃったんだけど、協力してくんねぇ?」
昼休みにジローさんと会って、しばらくお昼寝をさせていたら、突然起きだしてこんなこ
とを言ってきた。何やら夢でインスピレーションを感じたらしい。どんなことかは分から
ないが相当すごいことそうなので、かなり気になる。
「何・・・ですか?」
「樺地ってさぁ、跡部と一緒にいることがかなり多いよな?」
「ウス。」
「最近の跡部と宍戸って超イイ感じじゃん。普段どんなことしてんのか、気になるんだよ
なあ。だからさ、あの二人の行動、ちょっと観察してくんねぇ?」
観察って言われても何をするのかさっぱり分からない。観察日記でもつければいいのか?
「観察って・・・何すればいいんですか?」
「別にそんな大変なことじゃねーよ。あの二人の行動見て、面白いことがあったら俺に教
えてくれればいいからさ。」
「それくらいなら・・・」
「いい!?」
「ウス。」
まあ、確かに面白そうだし、跡部さんとは授業の時間じゃなければ結構一緒にいるもんな。
ちょっと頑張ってみよう。

「あー、疲れたー、おっ、お疲れ樺地!」
「ウス。」
今日の練習もキツかったなあ。と、そうだ。跡部さんと宍戸さんを観察しなきゃいけない
んだっけ。跡部さんはまだ帰ってきてないみたいだな。
「ふえ〜、やっと終わったあ。」
「おっ、珍しいじゃんジロー。ちゃんと部活終わってこっち帰ってくるなんて。」
「んー、だって、寝てると樺地が俺のこと探しにきちゃうでしょー。それは困るの〜。」
「は?何で?」
「ねー、樺地。」
「ウ、ウス。」
「よく分かんねぇけど、まあいいや。さっさと着替えちまおう。」
ジローさん、そんなこと言ったらあやしまれちゃうのに。危ない、危ない。でも、宍戸さ
んがそういうことあんまり気にしない人でよかった。あれ?宍戸さん、首のところ、何か
赤くなってる?
「宍戸さん・・・」
「ん?どうした、樺地?」
「首のここらへん、赤くなってますけど・・・虫にでも刺されたんですか?薬、あります
けど・・・」
「へっ!?マジで!?うわっ、本当だ!くそー、跡部の奴〜。」
「跡部さんがどうかしたんですか?」
「い、いや、別に何でもねぇんだ!大したことねぇからよ、別に薬とかはいらねぇよ。サ
ンキューな、樺地!」
すごい動揺してる。絶対虫刺されではないな。こういうのって、指摘しない方がよかった
のかも・・・。
「樺地、樺地。」
「ウス。」
「宍戸のアレ、絶対キスマークだよな。宍戸の奴、超焦ってるC〜。」
うわあ、ジローさんメチャクチャ楽しそう。でも、確かにあの反応見たらそうとしか思え
ないよなあ。
ガチャ・・・
あっ、跡部さんが戻ってきた。何か不機嫌そうだな。どうしたんだろう?
「おー、遅かったな、跡部。」
「テメェらまだ残っていやがったのか。」
「いちゃ悪ぃのかよ?」
「別に悪ぃなんて一言も言ってないぜ。ジロー、テメェはさっさと着替えろ。早く着替え
ねぇと、部室の鍵閉めちまうぞ。」
「へーい。」
跡部さん不機嫌だと怖いんだよなあ。無理な要求しまくってくるし。何とか機嫌がよくな
ってくれるといいんだけど・・・
「なあ、跡部。」
「何だ?」
「今日さ、宿題激出たじゃん。俺、一人じゃ終わらなさそうなんだよな。今日、テメェん
ち行くから教えてくれねぇ?ちゃんとお礼はするからよ。」
こんな時にそんなこと頼むなんて、宍戸さんすごいなあ。というか、跡部さん、こんなに
不機嫌そうなのに許すのかな?
「へぇ、俺を家庭教師にすると高いぜ。それでもいいのか?」
「うっ・・・もちろん、金じゃ返せないけどよ、他のことで返しゃいいだろ?いつもみた
いに。」
いつもみたいにって何だろう?うわあ、すごい気になるなあ。ジローさんもきっと、不思
議に思って・・・って、寝てるし。
「いつもみたいに・・・か。いいぜ、教えてやるよ。そのかわり、代金は即払いだからな。」
「えー、マジかよ。明日も学校あるんだぜ。」
「構やしねぇよ。俺様が教えてやるんだ。ありがたく思いな。」
「へいへい。」
あっ、何かすごい跡部さんの機嫌よくなってる。さすが宍戸さん。うーん、ジローさんに
言われてやってるけど、この二人の観察、確かに面白いかも。明日からもちょっとチェッ
クしてみよう。
「樺地、そろそろ帰るぞ。支度終わってんのか?」
「ウス。」
「あー、またジローの奴、寝ちまってるぜ。どうする、跡部?」
「樺地、おぶってやれ。」
「ウス。」
「テメェも大変だな、樺地。」
ジローさん、軽いからあんまり大変とは感じないんだよな。もう慣れたし。よし、今日あ
ったことはちゃんと家帰ってからノートに書いて、ジローさんに見せようっと。

うーん、今日は朝以降は跡部さん達と一緒になる機会がないな。あの二人って、いつも教
室とかでお弁当食べそうだし。昼休みは諦めて、どっかにお弁当食べに行こう。
「あっ。」
と思ったら、跡部さんと宍戸さん発見。どこかにお弁当食べに行くのかな?こっそりつい
て行ってみよう。
「よーし、誰もいねぇ。天気もいい感じだし。」
「そうだな。たまにはこういうとこで食べるのも悪くないんじゃねぇ?」
ここ、たまにジローさんが昼寝しにくるとこだ。ここからなら、二人から死角だし、誰も
来なさそうだから、ご飯食べながら観察しようっと。
「今日も豪華だな、跡部の弁当。」
「当然だ。何だよ?欲しいのか?」
「ん〜、ちょっとな。でも、どうせ跡部はくれねぇんだろ。」
「今日は天気もよくて、機嫌いいからな。少しくらいだったら分けてやってもいいぜ。」
「マジで!?やったあ!!じゃあじゃあ、俺、これ食いてぇ。」
「これか?」
「おう!」
「じゃあ、口開けろ。」
すっごい仲よさそうにご飯食べてる。これはちゃんとメモっとかなきゃ。『跡部さんが宍
戸さんに自分のおかずを食べさせてた』っと。よし、オッケー。
「うわあ、超うめーvvなあなあ、もう一口くれよ。」
「ったく、しょうがねぇなあ。」
宍戸さん、餌もらってる鳥みたい。跡部さんも顔緩んでるし。あんな笑い方、宍戸さんの
前でしかしないんだろうなあ。ずっと一緒にいてもあんな笑い方するの見たことない。や
っぱ、宍戸さんは特別なんだな。面白いからこれもメモだ。
「俺のやってんだから、テメェの弁当も少しよこせよ。」
「えっ、でも、俺の弁当大したもん入ってねーぞ。」
「その卵焼きなんか、結構うまそうじゃねぇか。」
「まあ、跡部が欲しいっつーんならやってもいいけど。」
「じゃあ、食わせろ。」
「態度デケェな。まあ、いいや。」
今度は宍戸さんが食べさせてる。何か本当恋人同士って感じだよな。
「へぇ、なかなか美味いじゃねぇか。」
「そうか?普通の卵焼きだと思うけどな。」
「もう一つ残ってんじゃねぇか。くれ。」
「えー、俺も卵焼き結構好きなんだけど。他ので勘弁してくんねぇ?」
「じゃあ、テメェが食っていいぜ。もともとテメェのだしな。」
意外とすぐ諦めるんだな、跡部さん。らしくないって言ったら悪いけど・・・
パクッ
「っ!!」
って、全然諦めてなかった。宍戸さん固まってるよ。口に咥えたの半分口で取るなんて、
普通予想しないもんな。さすが。
「やっぱ、美味いな。気に入ったぜ、この味。」
「だーっ!!いきなり何しやがるんだ、跡部っ!!」
「やっぱり、食べたくなってな。いいじゃねぇか、ケチケチすんなよ。」
「そういうことじゃねぇ!!だったら、初めから半分にしてくれだの言えばいいじゃねぇ
か!!」
「テメェが食べてるのを食べたくなったんだ。」
「ったく、誰もいないからいいものを。こんなこと教室でしたら、ぶっ飛ばすからな!」
「教室でするわけねぇだろ。バーカ。二人きりだからしてやってんだ。」
見てるのバレたら大変だ。絶対バレないようにしなくちゃ。それにしても、すごい光景見
ちゃったな。これもしっかりジローさんに教えなくちゃ。あっ、二人の観察してたら、全
然お弁当食べれてないや。ちゃんと食べなきゃ。
「はー、食った食った。跡部、まだ昼休み残ってるよな?」
「ああ。」
「んじゃ、ちょっと寝転がっちまえ。ここ、木漏れ日がいい感じで気持ちいいし。」
「寝るなよ。残ってるったって、たかがしれてんだからよ。」
「分かってるって。」
うわー、宍戸さんうらやましいなぁ。あそこで寝るのって、すごく気持ちいいんだよな。
・・・って、あれ?宍戸さん、本当に寝ちゃった?
「おい、宍戸。おい!」
「Zzzz・・・」
「寝ちまいやがった。ったく。」
跡部さん、笑ってる。怒るかと思ったのに。どうするんだろう?起こすのかな?
「全く、どうしようもない奴だぜ。」
わー、何かすごくいい雰囲気。あそこだけ別世界って感じだ。あんなに優しそうに笑って
るの見るのってそう滅多にないかも。あっ、跡部さん、屈んで・・・
ちゅっ
すごい場面見ちゃった。これは、バッチリ伝えなくちゃ。
キーンコーンカーンコーン
あっ、昼休み終わった。早く片付けて教室戻らないと・・・
「宍戸、宍戸、起きろっ!」
「ん〜、何〜?」
「昼休み終わったぞ。教室帰るぞ。」
「あー、マジ?ふあ〜、もうちょっと寝てたかったんだけどなあ。」
「ほら、さっさと立て。置いてっちまうぞ。」
とか言いつつ、手差し出してるあたり跡部さんらしいよな。何か昼休みは一際ラブラブな
感じだったような気がする。
「あれ?樺地?」
「っ!?」
「どうした?こんなところで。」
見つかっちゃった。どうしよ、ここは適当に誤魔化さないと・・・。
「ジ、ジローさんからメールがあって・・・探してたんです・・・・」
「あー、ジローの奴、どこで寝てるか分かんねぇからな。でも、もうチャイム鳴っちまっ
たから、探すのは諦めて教室戻った方がいいぜ。用があれば、また連絡してくんだろ。」
「ウス。」
危機一髪だった。危ない、危ない。観察してるのバレたら、跡部さんにメチャクチャ怒ら
れそうだもんな。次からは気をつけなきゃ。さてと、教室戻って今見たことまとめよう。

あれ?跡部さんだ。まだ帰らないのかな。もうとっくに部活の時間終わってるのに。
「どうした?樺地。」
「忘れ物・・・しちゃって・・・」
「そうか。」
ここは跡部さんのこと待ってて、一緒に帰った方がいいのかな?
「あと10分くらいか。」
「えっ・・・?」
「いや、別に何でもねぇんだ。今日はどうする樺地?帰りたいなら別に帰ってもいいぞ。」
跡部さんからそんなこと言ってくるなんて珍しい。きっと何か理由があるんだろうな。少
し気になるし、ちょっとここで待ってて様子を探ってみるのも面白いかも。
「・・・待ってます。」
「分かった。・・・・なあ、樺地。」
「ウス。」
「テメェから見ても、俺は宍戸を贔屓してるように見えるか?」
「・・・・・」
「他の奴らの前ではそうしてるつもりはねぇんだけどな。特にテニスに関しては。だが、
他の部員から見ればそう見えるらしい。お前はどう思う?」
贔屓してるっていうよりは、宍戸さんのことが好きだってのはすごくよく表れてると思う
けど・・・何て言ったらいいんだろう?
「贔屓って感じには・・・見えないです。でも・・・」
「でも、何だ?」
「他の人に対しては・・・持っていない感情を・・・持っているようには見えます。」
「なるほどな。他の奴らに対しては持っていない感情ね。・・・やっぱり、隠せねぇよな。」
「?」
「俺様としたことが、こんな感情に振り回されちまうなんてな。でも、仕方ねぇんだよな。
俺はアイツのことがどうしようもなく好きなんだからよ。」
「・・・・・」
「・・・今のは独り言だ。気にすんな。」
「ウス。」
すごい告白聞いちゃった。跡部さん、本当に宍戸さんのこと好きなんだなあ。
プルルル・・・プルルル・・・
「はい。あっ、監督。はい、今ですか?はい、大丈夫です。」
監督から電話かな?こんな時間に大変だな。
「分かりました。今から行きます。」
ピッ・・・
「樺地、俺、監督のところに行ってくるから、宍戸が帰ってきたら、少し待っててくれと
伝えておけ。」
「ウス。」
そうか。跡部さんは宍戸さんを待ってたんだ。だから、先に帰っていいだの、いつもと違
うこと言ってたんだ。いつもなら用がなければ待ってろって言うもんな。
「あー、疲れたあ。待たせたな、跡部・・・って、あれ?」
「跡部さんは・・・さっきまでいたんですけど・・・監督に呼び出されて行っちゃいまし
た。少し・・・待っててくださいって。」
「へぇ、そっか。分かった。サンキューな樺地。」
もともと一緒に帰るつもりだったのかな?本当に最近仲いいよな。宍戸さん、前は鳳と行
動してる方が多かったのに。
「さっさと着替えて、帰る用意しよーっと。跡部、早く帰って来ねぇかなあ。」
「宍戸さんと跡部さんって・・・相思相愛って感じですよね。」
「へっ!?い、いきなり何だよ?何か樺地に言われると妙な感じがするなあ。」
「さっき・・・跡部さんが言ってたんです・・・・」
「何を?」
「跡部さん、宍戸さんのこと・・・どうしようもないくらい好きだって・・・言ってまし
た。」
「マジかよ?・・・跡部の奴、樺地に何言ってんだ。」
宍戸さん、すっごい照れてる。照れてるってことはやっぱり、宍戸さんも跡部さんのこと
すごく好きなんだろうな。
「・・・宍戸さんはどうなんですか?」
「えぇ!?そ、それは・・・その・・・俺だって跡部のこと、一日の中で考えてないとき
がないくらい・・・好きだぜ。」
おー、こっちもすごい告白。本当ラブラブなんだなあ、この二人。
「そりゃ嬉しいな、宍戸。」
『っ!?』
ビ、ビックリしたー。跡部さん、いつの間にか戻って来てるし。
「樺地に何話してんだよ?他の奴に話したくなるほど、俺のこと好きなのか?」
「ち、違っ・・・今のは樺地が聞いてきたから・・・」
「聞いてきたからって、そこまですごいこと答えねぇだろ。なあ、樺地。」
そこで、同意を求められても・・・。でも、まあ、ここはいつも通りに・・・
「ウ、ウス・・・」
「樺地〜。で、でもっ、樺地が跡部が俺のことどうしようもないくらい好きだって言って
たから、俺もそういうふうに答えたんだぜ!」
「なっ!樺地、そうなのか!?」
「・・・ウス。」
『・・・・・・』
わ〜、何か気まずい沈黙。やっぱり、今は帰った方がいいかも。
「失礼します・・・」
『えっ!?おいっ、樺地!!』
ここは逃げるが勝ちだ。さっさと出てっちゃおう。
バタンっ!
「行っちゃった・・・」
「時々、樺地の行動が読めねぇ・・・」
「まあ、こんな状況になったら逃げたしたくもなるよな。それにしても跡部、さっきの言
葉、本当に言ったみてぇだな。」
「あ、あれは独り言だ。それを樺地が聞いてて・・・」
「ふーん。独り言ねぇ。・・・俺的には、独り言で済ますんじゃなくて、ちゃんと面と向か
って言って欲しいけどな。」
「へぇ、言ってくれるじゃねぇか。だったら、テメェが言った言葉も、今度はちゃんと俺
に向かって言いやがれ。」
帰ったふりして、実は外から見てたりして。追いかけてこないなら、少しくらい見てても
大丈夫だよな。
「まずは跡部から言えよ。」
「俺はテメェのことがどうしようもなく好きだ。他の部員に感づかれるくらいな。」
「えっ、そうなのか?」
「さあな。本当かどうかは自分で確かめてみろ。次はテメェの番だぜ。」
「あ、ああ。俺も跡部のこと、一日の中で考えてるときがないくらい・・・好きだぜ。」
「ふっ、ホント俺らってどうしようもねぇな。」
「そうだな。」
ギリギリ声は聞こえるけど、また二人ともすごいこと言ってるな。さっきの告白、面と向
かってちゃんと言ってるよ。しかも、その後普通にキスシーンだし。ここまで、見れたら
十分かな。そろそろ帰らないと本当にヤバイかも。今日あったことも全部ジローさんに報
告だ。

「うっわあ、マジマジ!?あはは、すっげぇ!!」
ジローさん、すごく喜んでる。ちゃんとノートにまとめといてよかった。
「樺地、すっげぇな。よくこんなに観察したよ。マジで感動〜。」
「ありがとうございます。」
「また、時間があったらさ、こういうの書いて教えてくれよ。これ、超ハマるC〜!!」
「何騒いでんだよ?面白いことでもあんのか?」
うわっ、跡部さんだ。どうしよう、これバレたら怒られちゃう。
「ん〜、面白いよ。でも、跡部には内緒ー。これは、俺と樺地の交換日記なの!!他の人
は見ちゃダメー。」
「ふん、交換日記かよ。まだまだガキだな。」
「いいもん、ガキで。ねー、樺地。」
「ウス。」
「別に人の日記なんてみたいと思わねぇよ。ほら、そろそろ部活始まるぞ。さっさと準備
しろ。」
「はーい。」
「ウス。」
よかったあ。ジローさん、ナイスフォロー。これでしばらくあの二人の観察、続けられそ
うだ。確かにこれはハマっちゃうかも。これは、自分とジローさんの秘密にしておこう。
次の観察日記を書くのが楽しみだ。さてと、部活の用意しようっと。

                                END.

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