初めて出会ったのはいつだろう?この湖の畔で幼い頃に出会った俺とお前。あの時はただ
二人で居るのが楽しくて、毎日毎日飽きもせずにここにやってきては、他愛もない話で盛
り上がり、日が暮れるまで遊んだ。俺はその頃からお前のことが大好きだった。
数年前、跡部と宍戸はこの湖の畔で偶然出会った。国境にある小さな湖。ここにはたくさ
んの花が咲き乱れ、多くの動物達の憩いの場でもあった。幼かった跡部は、嫌なことがあ
ると必ずここへ来て、傷ついた心を癒していた。そんなある日、いつものようにこの湖に
来ると、花摘みをしている一人の少年に出会った。黒くて長い髪に大きな瞳、格好こそ王
子のものであるが、パッと見はどこかのお姫様かと思えるほど、その姿は愛らしかった。
跡部が宍戸を初めて見たとき、その姿に見惚れてしまい、全く声をかけることが出来なか
った。しかし、跡部に気づいた宍戸は、ニッコリと笑いながら跡部に話しかけた。
「こんにちは。」
「こ、こんにちは。」
「おまえもここにあそびにきたの?」
「う、うん。」
「オレ、りょうっていうんだ。おまえのなまえは?」
「オレはけいご。」
「けいごだな。いまな、はなのわっかつくってんだ。できたら、おまえにあげるな。」
持っていた花を器用に繋げてゆくと、宍戸はあっという間に花の冠を完成させた。それを
跡部の頭の上に乗せる。
「はい、どうぞ。」
「ありがと。」
「なあなあ、いまからいっしょにあそぼうぜ!いつもはひとりであそんでるんだけど、い
まいちおもしろさにかけるんだよなあ。な、だから、いっしょにあそぼ?」
「うん!!」
それはかねがね跡部も感じていたことだった。本当に偶然に出会っただけなのだが、この
日をきっかけに、二人は毎日この場所で遊ぶようになった。一人で遊んでいたときには味
わえなかった楽しさやわくわく感、それが二人ならば何倍にもなって感じられる。そんな
きっかけで出会った二人は、成長しても時間を見つけては、いつもと同じこの場所で、二
人の時間を過ごしていた。
しかし、ある程度の年齢になると幼い頃には気づかなかったものが見えてきた。自分達が
どのような家柄なのか、そして、お互いの家同士が国の支配権を巡って対立しているとい
うこと。初めはそんなこと全く気にならなかったのだが、年を重ねるにつれ、無視出来る
問題ではなくなっていった。
「なあ、景吾。俺達、いつまでこんなふうに会ってられるのかなあ。」
「何、腑抜けたこと言ってやがんだ。会いたい時に会えばいいだろ。」
「俺だって出来るならそうしてぇよ!でもさ、最近、マジ親の目が厳しくて。この前も、
景吾と会ってるのがバレて、監禁されかけた。」
「マジかよ?・・・ちっ、さすがにそこまでされるとウゼェな。」
敵対する家柄同士。そんな家の息子と会うなどとんでもないと、どちらの親も跡部と宍戸
の行動に目を光らせていた。今はどちらの家の親も少し離れた街へ外出中なので、こうし
て会っていられるのだ。しかし、どこからともなく馬を走らせる音が聞こえる。跡部はそ
れが自分の家の馬だということがすぐに分かった。
「亮、逃げるぞ。うちの奴らが来る。」
「えっ?」
宍戸の手を取り、跡部は出来るだけ音を立てないように走り出す。湖から離れ、少し森の
奥の方へと入って行く。そこには小さな古ぼけた教会があった。
「ひとまず、あそこに隠れるぞ。」
「お、おう!」
もう使用されてないと思われるその教会に二人は身を潜めた。すぐ側まで跡部の家の者は
やってきたが、二人が教会の中にいることに気づかず、通り過ぎて行ってしまう。窓から
その様子を見ながら、跡部は宍戸の体を後ろから抱き締めるような形で、口を塞いでいた。
「よし、行ったみてぇだな。」
「んんっ、んんーっ!!」
「おっと、悪ぃ悪ぃ。もう大丈夫だぜ、亮。」
「ぷはっ・・・別に口塞がなくても騒がねぇぞ!はあー、激苦しかった。」
大きく深呼吸をしながら宍戸は少し怒った様子で、跡部を睨む。そんな顔も可愛いなと思
いつつ、宍戸の機嫌を取ろうと髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
「悪かったって。機嫌直せよ。」
「だったら、頭撫でんなー!!」
「ははは、テメェ可愛いから思わずな。」
「ったく。で、この後どうすんだ?今、外出てったら絶対見つかるぜ。」
「そうだな。しばらくここで、待機するか。・・・にしても、ここも随分変わっちまった
なあ。」
教会の中を見回しながら、跡部はそんなことを呟く。今は半ば廃墟と化し、全く使われて
いない状態だが、跡部や宍戸が幼い頃はここでちゃんとミサなども行われていた。そんな
儀式に参加するのは面倒なので、二人は参加はしていなかったものの、窓の外から中の様
子を眺めるのは大好きだった。心地よい賛美歌にステンドグラスから差し込む淡い光、美
しいマリア像に祭壇の前の十字架。幼い二人にとって、それはまるで天国の一部を見てい
るようで、夢のような光景であった。
「昔はあんなに綺麗だったのにな。」
「今じゃこんなに廃れちまって。聖域の欠片もありゃしねぇ。」
「でも、俺はこれはこれで好きだぜ。今の俺達にはピッタリの場所だと思う。」
「ふっ、なるほどな。俺らは二重の禁忌を犯してる。敵対する家柄同士、キリスト教じゃ
御法度の男同士の恋。だが、禁忌だからこそ余計に燃える。」
幼い頃には持っていなかった感情を最近はお互いに持っていることに気がついた。初めは
多少戸惑いもあったが、今はそれは自然のことだと受け入れている。そういう感情がある
からこそ出来る契りも何度も交わした。罪悪感や嫌悪感は全くない。むしろ、それを繰り
返せば繰り返すだけ、お互いに持っている想いは強まってゆく。
「だよな。けど、やっぱ親のアレは何とかしてぇよな。」
「同感。いくら燃えるったって、会えなきゃ意味ねぇもんな。」
「別に領地がどうとかどうでもいいんだよなあ。俺と景吾で治めたら、全く問題ねぇのに
な。別々に統治しようと思うから、ケンカになんだよ。」
何の気なしに宍戸の放った言葉に跡部はハッと気がつく。そうだ、そうすればいい。自分
と宍戸で治めれば、敵対するも何もない。親もいい年だし、自分達ももうそういう仕事が
出来る年齢だ。さっさと統制権を譲ってもらい、二人で二つの家分の土地を治めれば、問
題は万事解決だ。それはいいアイディアだと、跡部は宍戸を褒める。
「それ、すげぇいい考えだぜ亮!!」
「へっ?」
「俺らが牛耳っちまえばいいんだよ。国の統治を。」
「でも、いきなりそんなこと言ったって、きっと許してもらえないぜ。」
「そりゃ、いきなりは無理だ。だが、ここは頭の使いようだぜ。」
いきなり統制権を譲れと言って、譲る親はそうそういない。なので、まずは簡単に受け渡
してもらえるような土台を作ろうと跡部はとある計画を考え出した。
次の日から、跡部と宍戸は王である父親が忙しい時を狙い、二人そろって城下に出かけて
行った。そして、農民の様子や市場の様子を見て回り、そこにいる人々に様々な話を聞く。
どれだけの土地があり、何を作っているのか、今の生活に不満はあるか、足りないものや
制度は何かなどなど。そして、その場でアドバイス出来ることはどんどんしていった。何
か手伝えることがあれば、体を使って出来る限り手伝った。特に跡部はとても十代とは思
えないほどの知識と統率力があるので、農民や商人は跡部を次第の尊敬の眼差しで見始め
る。宍戸は頭脳労働より、肉体労働の方が得意なので、そちらの方で頑張る。そんな努力
の成果もあり、民の心は跡部と宍戸にだんだんと傾いていった。
「いい感じじゃねーの。なあ、亮。」
「ああ。マジで景吾すげぇーな。こんなこと思いつかなかったぜ。」
「いや、ヒントをくれたのはテメェの方だからな。民の心を掴んじまえば、あとはこっち
のもんよ。」
一仕事を終えると、二人は決まってあの教会へ行くようになった。今も農民達の手伝いを
終わらせ、そこに来ている。
「もしさ、本当に俺ら二人で国を統治出来るようになったら、同じ城とかで住めたりすん
のかな?」
「余裕だろ、そんなこと。どうせだったらさ、俺達の城作りたくねぇ?そんなにデカくな
くていいからよ。誰にも邪魔されずに二人だけで過ごせる城が欲しいよな。」
「それいいな!何にも気にせず、景吾とずっと一緒に居られるなんて最高じゃん!!」
「これを夢で終わらすわけにはいかねぇからな。絶対実現しようぜ、亮。」
「ああ。」
ぐ〜
「あっ。」
せっかく希望にあふれた真面目な話をしているのに、宍戸の腹の虫はそんなことはお構い
なしに大きな声で鳴いた。慣れない農作業を半日してたので、すっかりお腹が減ってしま
ったのだ。
「真面目な話してたのに台無しだな。」
くっくと笑いながら跡部はそんなことを言う。
「わ、悪ぃ。でも、マジ腹は減ってんだよな。」
「そういや、さっき手伝った農家の親父に木の実もらったんだよな。ほら。」
布の鞄の中から、跡部はもらった木の実を出す。麻の布に包まれたその木の実は見たこと
もないほど真っ赤で、二人の食欲を誘った。
「うわあ、何かすげぇ美味そう!」
「見たことねぇ実だよな。何かテメェの腹の音聞いたら、俺も腹減ってきちまった。」
「じゃあ、一緒に食べようぜ!」
「ああ。」
麻の布の上にあるたくさんの赤い実を二人は一つ一つ食べる。それほど大きい実ではない
が、噛めば甘酸っぱい蜜がたっぷりと口の中に行き渡る。城の中では食べれないような自
然のさわやかな味に二人は感動する。
「これ、すげぇうめぇな!!こんな美味い木の実食べたことねぇ。」
「ああ。こんなもんがあるなんて知らなかったぜ。」
「もっと食っちまえ。」
こんな美味しいものを前にしたら我慢出来ないと、宍戸も跡部もパクパクとその木の実を
食べていった。どちらも同じ数くらいずつ食べてゆくと、最後に他の実よりも大きな実が
一つ残る。
「一個余っちまったな。」
「ああ。」
「景吾、いるか?景吾が食べたいなら俺は別に食べなくてもいいぜ。」
「いや、ここは二人で食べるのが妥当だろ?」
ニッと笑って跡部は一つ残っている実を宍戸の口に咥えさせた。そして、そのまま咥えき
れていない半分を自分の口で咥える。
「・・・っ!!」
突然跡部の顔が半端なく接近するので、宍戸は驚いて目を見開く。跡部がその実を半分に
噛み分けるので、自然とあの甘酸っぱい蜜が口の中に入ってきた。しかし、跡部はそのま
ま唇を離そうとしない。それどころか、もっと深く探り合いたいと言わんばかりに、蜜を
飲み込めきれていない口の中に舌を入れてくる。
「んっ・・んんっ・・・ん・・・」
キスをしながらも跡部は器用に木の実を噛み砕いてゆく。それを宍戸の口に入れてやれば、
少し躊躇しながらもゴクンと飲み込む。そんな様子を見ながら、跡部は楽しそうに宍戸の
口の中を探った。
「ふ・・ぅ・・・んん・・・んぅ・・・」
もう木の実の欠片も口の中に残っていないが、跡部は全くキスをやめようとしない。宍戸
の口の隙間から漏れる声もだんだんと艶っぽいものに変わってゆく。それが楽しくて、跡
部は心の中でニヤついていた。しばらくそんなキスを楽しむと跡部は満足気に唇を離す。
「美味かったぜ、最後の一つの実。」
「ふはぁ・・・全く何すんだよ。今ので思わずキちまったじゃねぇか。」
顔を真っ赤に染めて、力のない声で宍戸はそう抗議する。それは好都合だと跡部はふっと
笑う。
「へぇ、俺様のキスがそんなによかったのか?」
「そりゃ・・・まあな。」
「だったら、続き、してやってもいいぜ?」
率直な跡部の誘いに恥ずかしくなる宍戸だったが、跡部とするのは嫌いではない。むしろ、
好きな方だとぎゅっと跡部の首に抱きついた。
「くそっ・・・」
悔しそうな言葉を放つ宍戸だが、それは頷きの言葉でもある。ここが教会であることなど、
全く気にせず、二人は最近になって覚えた遊戯をし始めた。
それから数ヵ月して、ついに家同士の争いは軽い紛争にまで発展しかけていた。それぞれ
の国にいる傭兵を配備して戦わせようということになったのだ。しかし、それは、跡部と
宍戸にとってはこれ以上ないチャンスであった。この数ヵ月間で、跡部と宍戸は民から絶
大な信頼と尊敬を得ていた。それは、もちろん民の生活に触れ、民の生活に即した対策を
独自に行ってきたからだ。お互いの家が戦い始めるというこの日、跡部と宍戸は傭兵を集
めた広場に、それぞれの親と共にやってきた。
「この国を絶対に跡部家に渡してはならぬ。自分達の国を守るため、心して戦え!」
「宍戸家に負けるわけにはいかない。我々は必ず勝てる!全力で戦っていけ!!」
二人の王の言葉に傭兵達は誰一人として反応を示さなかった。どちらの国の傭兵も普段は
農民や商人である民なのだ。こうなることはもとから跡部と宍戸から聞かされていた。自
分達の親は敵対し、国を巡って争っている。この争いがひどくなれば、戦争にもなりかね
ない。もし、そうなったときには何も知らないふりをして戦場に集まれと、跡部と宍戸は
出会った民達に言い聞かせていた。だから、戦うつもりなどないまま、傭兵として、民は
この場に集まったのだ。
「ど、どうしたというのだ!?何故、戦わぬ!?」
「お前達は、自分達の国がなくなってもいいというのか!?」
己の利益のことしか考えていない王の言葉に民は耳を傾けなかった。二人の王が困惑して
いるのを見て、跡部と宍戸は心の中で笑う。そして、示しを合わせ、二人そろって民の前
へと出て行った。二人が王より前へ出ると、そこに集まった傭兵達は歓声を上げる。宍戸
は照れくさそうにしているが、跡部は自信満々な態度で指をパチンと鳴らした。その瞬間、
歓声はピタリとやみ、辺りは沈黙に包まれる。
「テメェらよく聞け!俺達は家同士で争う気なんてさらさらねぇ。あと少しで収穫だって
のに、無駄な戦争でせっかく育ってきた作物を台無しにすんなんて真っ平だからな。テメ
ェらが望むのであれば、俺と宍戸は王になり、二つの国を一つにして、二人で治める。賛
成する奴は拍手をしろ。」
そこにいた傭兵達はそろって大きな拍手をした。跡部の家の領地の民も宍戸の家の領地の
民も関係なく、あたりに大きな拍手の音が鳴り響く。そんな状況を目の当たりにし、二人
の父親、すなわち現在の王はたじろぐ。こんなことされれば、もう王の座を降りざるを得
ない。
「よし、どうやら全員一致で俺らが王になることに異論はないようだな。見たか、うちの
国の民は俺らが王になることを望んでるみたいだぜ。」
「うちの国の民もそうみたいだぜ。」
「王の座は今から俺達のもんだ。文句はねぇよな?」
「王は民のことを一番に考えなきゃいけないんだぜ、親父。」
『ぐっ・・・』
自信たっぷりにそんなことを言ってくる二人に、二人の王は返す言葉がない。もともと継
がせるつもりではあったのが、まさかこんな形で王の座を降りるとは思ってもみなかった。
激しい悔しさを感じながらも、二人の王はただ頷くしかなかった。
「よし。なら、今から国の統治権は俺達のもんだぜ。俺らの統治の仕方に文句は言わせね
ぇ。第一、それは民が望んでることだしな。」
「俺らはこの数ヵ月、この国の状況を事細かく体を使って調べてきた。少なくとも、親父
達よりはいい統治が出来ると思うぜ。な、景吾。」
「ああ。」
二人で顔を見合わせて笑うと、跡部はくるっと民の方へ向きを変えた。宍戸も跡部の横に
立つ。
「喜べお前ら!今から俺と宍戸がこの国の王だ!!お前らがもっといい生活出来るように
出来る限りのことはする。だから、お前らも俺達に協力してくれ!」
跡部の言葉にそこにいる民全員が大歓声を上げる。さすがだなあと思いつつ、宍戸はそん
な跡部を嬉しそうに眺めていた。
「俺らの勝ちだな。」
「ああ。これからは何も気にせず、いつでも一緒に居られるぜ。」
「そうだ!俺らの城をさ、街の大工に作ってもらおうぜ。確かすげぇ腕のいい大工がいた
よな?」
「そりゃいいな。後で相談しにいくか。」
「おう!」
二人が楽しそうにそんな話をしていると、納得のいかない跡部達の親である元王が問いか
ける。
「どうして、二人で統治しようなんて思ったんだ?一人で多くの土地を持っていた方がい
いじゃないか。」
「俺、景吾と一緒に居たいから。」
「俺もコイツと一緒に居たいから。亮と一緒に居られるんだったら、どんな手を使ってで
もそう出来るようにするぜ。」
「それじゃあ、権力を握りたいとかそういうわけじゃないのか?」
「権力?そんなのは別に望んでねぇよ。俺が王になろうと思ったのは、とにかく誰にも邪
魔されずに亮と一緒にいるためだけだぜ。」
さらっとそう言い放つ跡部に、二人の元王は呆然。それだけの理由でここまでしたのかと、
驚きを隠せない。
「何故そんなに二人で居ることにこだわるんだ。」
「そうだ。敵対していた家の息子なんだぞ!」
「何故って、なあ?」
「ああ。」
「俺達、愛し合ってるから。」
跡部の首に腕を回しながら宍戸は親に向かって言う。王になって、一緒に居ることが許さ
れた今なら、自信を持って言える。そんな宍戸に便乗し、跡部も笑いながら宍戸の腰を抱
いた。
「もう誰にも俺達は止められないぜ。ここにいる奴らも、俺達の関係をちゃんと認めてる
しな。」
数ヵ月間も二人で民に触れ合ってきたのだ。その間にそういう話も出てくる。普通に考え
たらおかしなことでも、跡部が言うと何故か説得力が生まれる。二人の行動と想いに感動
し、これから治めるべき国の民達は、跡部と宍戸の関係をいいものとして見ているのだ。
「よっし、じゃあ、俺達が王になった祝いでもしてもらうか。」
「そうだな。お前ら、これから祝賀会を行う。俺達が城下に出るからしっかり準備してお
けよ!」
跡部の言葉にそこに居た民達は全員頷いた。あまりに破天荒な跡部と宍戸の行動に二人の
親は、もはやかける言葉もない。そんな親を尻目に跡部と宍戸は、実に嬉しそうな表情で
城下の街へ向かって歩き出すのであった。
それからしばらくして、二人のための城が出来上がった。場所は二人が出会った湖の側の
あの教会があった場所だ。寂れた教会をもとにし、それを改装・大きくする形で二人の城
は造られた。それほど大きな城ではないが、自然の真っただ中にあり、あの湖も見渡せる
ということで、跡部と宍戸は大満足であった。
「本当に実現出来ちまったな。」
「当然だ。でも、本当によかったと思ってる。これで、誰にも邪魔されずにテメェと一緒
に居られるんだからな。」
「ああ。今更だけどよ、これからよろしくな、景吾。」
「ふっ、本当今更だな。けど、俺もそう思ってるぜ。よろしくな、亮。」
湖が見える大きな窓の前で、二人は誓いの口づけを交わす。それはさながら結婚式の一場
面のようだ。この数ヵ月間、お互いに協力し合い、共に努力をしたことで、二人の心の絆
はさらに強いものとなった。そして、これからは同じ時間を同じ場所で過ごし、自分達の
思うままに事を進められる。そんな期待感を胸に二人は夜の湖を眺める。黄金色の大きな
月に照らされた湖は、二人の行く先を暗示するかのようにキラキラと輝いていた。
俺達は今、初めて出会った湖の側で共に暮らす。コイツと居れば、不可能なことはない。
全てが光に変わる。何もかもが輝き始める。何故なら俺はコイツを、愛してるから。
END.