「・・・・というわけだ。行ってよし。」
『はあ!?ちょ、ちょっと待って下さい、監督!!』
ここは氷帝学園テニス部レギュラー部室のミーティングルームだ。連絡があるということ
で、太郎に召集をかけられたレギュラーメンバーだが、太郎の話を聞いて大慌て。そんな
ことは納得いかないと一斉に太郎を呼び止めた。
「何だ?文句があるなら、別に参加しなくてもよいぞ。そのかわり、これはレギュラーは
絶対参加だからな。レギュラーを辞める覚悟があるならの話だが。」
『そ、そんなあ〜。』
こんなことでレギュラー落ちなんて冗談じゃないと、そこにいたメンバーは文句を言えな
くなった。どうしようもなくなったメンバーを尻目に太郎は部室を出て行ってしまう。
バタンっ・・・
「おいおい、マジかよ。跡部、どうにかしろよ!!」
「いや、監督が決めたことはさすがに俺でもどうしようもねぇ。」
「監督って、時々、全く予想だにもしないこと提案してくるよねー。交流会でそんなこと
するなんてありえないし。」
太郎がレギュラーメンバーに伝えたこととは、一週間後にある、幼稚舎、中等部、高等部
の交流会についての話であった。この交流会では、それぞれの部活をより知ってもらうと
いうことで何か出し物をしなければいけないことになっている。今回、テニス部は何故か
『メイド喫茶』になったのだ。もちろん参加はレギュラー中心。若干準レギュラーも入る
が、こんな出し物ならむしろ参加したくはなかった。
「滝とか宍戸とかならまだ似合いそうだけどさあ、俺、跡部とか樺地とか鳳とかがそうい
う格好してるの想像出来ないぜ。」
「同感やな。このメンバー全員ってのは、どう考えても無理があるやろ。」
「ですよね。監督は近いうちにその時着る服は用意するって言ってましたけど、本当どう
なるんでしょう。」
メイド喫茶となると衣装はどう考えても、メイド服になるだろう。メイド服となると似合
うメンバーと似合わないメンバーが出てくると、岳人や忍足、鳳は口々にそんなことを話
す。それはその会話に参加していない樺地や日吉も思っていた。
「ふあ〜、でも、決まっちゃったんならしょうがないんじゃないの〜?俺、レギュラー落
ちすんのやだから参加するよ〜。」
『うっ。』
寝起きのジローの言葉に他のメンバーはぐさっとくる。この企画を断ったら、レギュラー
落ちは確定だ。それは何としても避けたいと、他のメンバーも参加するしかなかった。
「確かにジローの言う通りだよな・・・。よし、ここは俺も腹決めてやるか!」
「仕方ねぇ。メイド服だろうが何だろうが着こなしてやろうじゃねぇの。」
「二人ともやる気だねー。ま、面白そうだし、俺も参加するか。」
「先輩達がやるなら、俺達もしないわけには行かないよね。」
「ウス。」
「下剋上だ。」
「こりゃ、俺らもやらなきゃいけなそうだな、侑士。」
「せやなあ。まあ、何とかなるやろ。」
不本意ではあるが仕方ないと、ジロー以外のメンバーも覚悟を決める。本当に監督の思い
つきには困ったものだと思いながら、そこにいたメンバーは部活をする用意をし始めた。
それから数日後、レギュラーメンバーのみ部活を早く終わるように太郎からの連絡があっ
た。何だろうと全員そろって部室に戻るとミーティングルームの机の上に大きな段ボール
が乗せてある。
「何だ?これ。」
「さあ。何やろな。」
「跡部、開けてみろよ。こういうのは部長の仕事だろ。」
「まあ、確かに気になるしな。とにかく開けてみるか。」
ここは部長の跡部が開けるのが適当だろうと思いつつ、しっかり閉じられている段ボール
を開ける。そこにいたメンバーは、ふたの開いた段ボールの中を覗き込んだ。中に入って
いるものを見て、全員言葉を失う。
『・・・・・・・』
そこに入っていたのは、まさに今度の交流会で使う衣装であった。本当にこんなものを用
意したのかと、半分呆れ、半分感心。さすが太郎だと思わざるを得なかった。
「うわあ、マジで用意しやがったよ。」
「すっげー、本物のメイド服だあ!!」
「はしゃぐことやないやろ、ジロー。何考えとんねん、あの監督は。」
「あれ?これ、名札がついてますよ。」
「本当だ。ん?これ、みんなそれぞれデザインが違うみたい。」
上から順番に出してゆくと次々に違うデザインのメイド服が出てくる。しかも、一つ一つ
に御丁寧に名札までつけてある。どうやら、どのメイド服を誰が着るかが決まっているら
しい。
「これが、跡部ので、これが宍戸。これは・・・岳人だね。これが忍足で、これがジロー。
俺のは、これか。あと、これが長太郎で、これが日吉。最後のが樺地のだね。」
段ボールからビニールに入ったメイド服を出しながら、名札を見て、滝は一つ一つ渡して
ゆく。全ての服を出し終えると段ボールの一番そこのところに、メモ書きを発見した。
「何々?・・・サイズが合うか衣装合わせをしておけ。それが終わったなら、帰ってもよ
し。榊太郎。だってさ。」
「今からこれを着ろってことか?」
「みたいだね。」
「面倒くせぇ。」
文句を言いつつ、そこにいたメンバーは自分の名札が貼られたビニールから服を出す。そ
して、躊躇いつつもそれに腕を通していった。さすが、個別に用意されたものだけあって、
一人もサイズが合わない者はいない。着てみたことで、それぞれデザインが違う理由が分
かった。
「あー、何かあれだね。」
「一人ひとりデザインが違ったのは、そういうことか。」
「監督もなかなか考えとるんやな。」
着てみて分かったのだが、誰も用意されたメイド服が似合わない者がいないのだ。それぞ
れの個性に合わせ、その個性に見合ったデザインになっている。膝丈くらいのスカートの
長さの跡部、宍戸、鳳、ミニスカート的なデザインの岳人、ジロー、日吉、くるぶしくら
いまでのロングスカートタイプの忍足、滝、樺地。それぞれ、主になる色やエプロンのデ
ザイン、リボンの大きさや飾りの多さ、誰一人として同じものはいない。
「何か跡部と宍戸はスタンダードなメイド服って感じだよね。でも、宍戸の方がちょっと
可愛い系かな?」
「てか、俺とジローのってメイド服って言えんのか?ジローはノースリーブな上にヒラヒ
ラがいっぱいだし、俺のなんか、何かのアニメに出てきそうなほどリボンとか飾りが多い
ぜ。」
「でも、どっちも似合ってるやんか。鳳とか樺地もメイド服なんて似合わん思うとったけ
ど、意外と似合ってるやん。樺地のなんかは他のと違ってシンプルでええな。鳳のは、白
が基調になっとるから、鳳のイメージにピッタリやし。」
「俺はお前と滝のその着こなしにビックリだぜ。滝とか結構ヒラヒラなのに全然違和感ね
ぇし、忍足はその中途半端な長髪と服がマッチしてるしな。」
「日吉もなかなかいい感じだと思うよ。似合ってる似合ってる。」
「お前にそんなこと言われても嬉しくない。」
「何でだよ?似合ってるよね、樺地。」
「ウス。」
あまりの似合いっぷりにお互いに感想を述べ合う。これなら別に問題はないのではないか
とノリ気になってきたとき、ジローが何かを発見する。
「あれ?何これ?」
「どうした、ジロー?」
「何かね、メイドマニュアルとか書いてある。あー、言葉遣いとか載ってるよ。」
机の上に置いてあった怪しげな本をパラパラとめくり、ジローはそんなことを言う。どん
なものかと他のメンバーもそれを覗いて見る。
「うわあ、メッチャ秋葉系って感じの用語集やな。」
「これ・・・本当に俺らが言わなきゃいけねぇのか?」
「仕方ねぇだろ。監督命令だ。」
「跡部が言ってるとこなんて、想像出来ねぇ。超見てみてぇ。」
「アーン?どういう意味だ、向日?」
「まあまあ。とにかくこの数日間で、ちゃんと言えるようにしなきゃだね。」
「何か難しそうです。こんな言葉普段絶対使わないですもん。」
「あはは、使ってたらある意味面白いけどねー。でも、こんなのどっから持ってきたんだ
ろうな。超気になるC〜!」
『確かに。』
どこまで太郎は予想に反する行動をとるのか、少し怖くなりながらジローの言葉に他のメ
ンバーは頷く。何はともあれ、何とかここに書かれている内容を覚えなければならない。
気が乗らないなあと思いつつ、そこにいたメンバーは人数分用意されたそのマニュアルを
手に取るのであった。
そして、交流会当日、氷帝テニス部レギュラーメンバーは、大教室をデコレーションして
いかにもそれらしい喫茶店を作った。マニュアルに書いてあることはだいたい全部覚えた
が、ぶっちゃけやりたくないというのが正直な感想だった。
「はあー、マジやる気になんねぇ。」
「とか言いつつ、カツラまでかぶっちゃってメチャメチャ女の子っぽくしてんじゃん。」
「だって、あの短髪にこの衣装はねぇだろ!」
「俺はこっちの方が好みだぜ。テメェ、やっぱ長いの似合うよな。」
「そ、そうか?」
跡部に褒められ、宍戸は嬉しそうな顔になる。バカップルと思いながら、岳人や滝は仕事
の用意をし始めた。
「なあ、メニューってこれでええの?」
「うーん、いいんじゃない?よく分かんない名前ばっかだけど。」
「メイド喫茶って設定だから仕方ないですよ。」
「ウス。」
各テーブルに置かれたメニューには、無茶苦茶な名前の食べ物や飲み物がずらっと並んで
いる。頼むのも恥ずかしいが、これを注文として繰り返すのも恥ずかしい。
「よーし、こっちのテーブルセットは終わったよ。」
「こっちもオッケーやな。じゃあ、店開けるか。」
「ま、やるだけやってみるか。」
「今更恥ずかしがってても仕方ねぇしな。」
ここまで来たら、もう当たって砕けろだ。メイド服に身を包んだメンバーは、店を開け、
噂を聞いて外で待っていたお客さんを迎え入れた。
『おかえりなさいませ、ご主人様。』
そこにいるメンバーは精一杯の営業スマイルで、教室内へお客さんを案内する。美形の多
い中等部のテニス部レギュラーメンバーが、メイド服を着て、笑顔を振りまいているのだ。
どの学年の生徒も男女関係なく、ぽーっとしてしまう。
「今日はどれになさいますか?ご主人様。」
何の恥ずかしげもなくお客さんから注文を取っているのはジローだ。普段は眠っていて、
何にも話を聞いてないように見えるが、こういう場面では抜群の記憶力と適応力を見せる。
「すっげぇ、ジロー。よし、俺達も頑張って注文取り行くぜ、侑士!」
「別に対抗せんでもええやん。」
「いいんだよ!!ほら、行くぞ!!」
「はいはい。」
ジローに負けたくないと岳人も無理矢理忍足を引き連れて、注文を取りに行く。それを見
て、もう一人対抗心を燃やしている者がいる。
「下剋上だ・・・。」
ポツリとそう呟くと、日吉は水とお手拭きを各テーブルに運びに行く。そして、普段は見
せないような笑顔を見せて、水とお手拭きをお客さんに手渡した。
「どうぞ。」
『キャー、若君可愛いー!!』
そこに座っていたのは、高等部の女の先輩であった。関東大会、全国大会に出たこともあ
り、日吉もある程度の有名人になっていた。可愛いと言われ、さすがに日吉は照れる。そ
れが、また先輩達の乙女心をくすぐる。
「若君、照れてる。可愛い〜vv」
「ねー。あっ、注文いいかな?」
「はい、ご主人様。」
真っ赤になりながら、ご主人様と言う日吉の姿に高等部の先輩は萌えまくり。こんなんで
いいのかなあと思いつつ、日吉はしっかりと注文を取った。
「日吉もなかなかやるねー。長太郎は注文とか取って来ないの?」
「まだ、少し恥ずかしくて。」
「それじゃあ、一緒に客寄せにでも行く?」
「それって、もっと恥ずかしいじゃないですか!」
「いいじゃん。ね、二人なら平気だって。一緒に行こうよ。」
「・・・はい。」
こんな格好で客寄せなど、恥ずかしくて出来ないと思っていた鳳だが、滝に手を引かれ、
入り口の外へ連れて行かれてしまう。外では高等部や幼稚舎、中等部の他の学年の人が様
々な部活を見学していた。
「ただいま、中等部男子テニス部ではレギュラー陣によるメイド喫茶を開いております。
どうぞ、お立ち寄りくださいvv」
ニッコリと笑いながら、滝は廊下を歩いている人に声をかける。すごい勇気だなあと感心
しながら、鳳は傍らで黙っていた。
「ほら、長太郎も。」
「えっ、でも・・・・」
「大丈夫、長太郎も十分可愛いから。」
「う〜〜。」
本当に恥ずかしいと思いつつ、鳳は勇気を出して滝と同じように声をかける。滝のように
積極的にはいかないが、その初々しさが逆に心を掴んだ。鳳に誘われた人も滝に誘われた
人も迷わず、メイド喫茶の教室へと向かう。
「人も増えてきたみたいだし、戻ろうか。」
「そうですね。」
一方、教室内にいるメンバーは滝と鳳の客寄せ効果で増えた客を相手にあくせくしていた。
「一気に客足増えたな。」
「滝と鳳の奴が、客寄せ行ったみたいだからその効果じゃねぇの?」
「俺らもちゃんと働くか。」
「そうだな。」
少しサボリ気味だった跡部と宍戸もしっかりと働き始める。時間いっぱい全員で働き、や
っと終わったころにはもう全員ヘトヘトだった。普段使わない言葉に、慣れない態度、そ
して、メイド服というなかなか動きにくい服で動いていたのだ。そりゃ疲れもする。教室
をもとの通りに片付けると、レギュラーメンバーはそのままの格好で、着替えの置いてあ
る部室へと向かった。
『あー、疲れたー!!』
部室に到着すると、ソファにボスンと腰かけ、そんな言葉を発する。もう着替えるのも面
倒なほど、くたくたに疲れていた。
「樺地〜、俺、超眠みぃ〜。おやすみー。」
「ウ、ウス!?」
着替えもせずにジローは樺地の膝を枕にして眠ってしまった。これでは樺地が着替えられ
ない。
「全く、どうしようもねぇなジローの奴。」
「今日は結構頑張ってたからな。仕方ねぇだろ。」
「そうだ!着替える前にさ、写真撮らない?どうせ、もうみんなこんな格好する気ないで
しょ?」
「賛成ー!!どうせだったら、ペアごとで撮ろうぜ!!」
「そりゃ確かに面白そうだな。俺も乗ったぜ。」
「ホンマかいな。まあ、ええか。」
「面白写真出来そうだし、いいんじゃねぇ?」
滝の提案で着替える前に写真を撮ろうということになった。ごそごそと鞄の中からデジカ
メを出すと、滝はまず樺地とジローにレンズを向ける。
パシャっ
「?」
「何か仲良さげだなあと思ってさ。うん、いい感じに撮れた。」
メイドがメイドに膝枕している構図などなかなかない。不意打ちで撮ったために表情など
もかなり自然だった。いきなり撮られて樺地は少し驚いたが、そこまで動揺はしていなか
った。
「次、俺ら撮って、滝ー。」
「いいよ。どんなポーズにする?」
「どうしよっか、侑士?」
「別に何でもええやん。」
「本当に何でもいいの?」
「ああ。別にかまへんで。」
そんな忍足の言葉は聞いて、岳人はニッと笑う。そして、ソファの後ろから忍足の眼鏡を
外し、自分の方へ向かせ、額にちゅっとキスをした。
パシャっ
「おおー、いい構図じゃん岳人。」
初めはポカンとしていた忍足だったが、状況を把握して、急に恥ずかしくなる。
「なっ・・・い、いきなり何すんねん、岳人!!」
「だって、何でもいいって言ったじゃん。」
「そりゃそうやけど・・・滝、今の撮ったんか?」
「うん。バッチリvv」
「あー、もう、絶対マヌケな顔しとるわ。今のはズルイで。」
「でも、いい感じに撮れてるよ。納得いかないならもう一枚くらい撮っておく?」
「あっ、じゃあ、今度はちゃんとカメラ目線で撮ろうぜ!」
それならまあいいかと、忍足は頷き、滝の構えるカメラの方を向く。岳人が後ろから抱き
締めるような形でピースをし、忍足も恥ずかしそうに笑う。なかなかいい絵が撮れたと、
滝もニコッと笑った。
「うん、いい感じいい感じ。よし、じゃあ次は、跡部と宍戸撮ろうか。」
「ああ。頼むぜ。」
次は跡部と宍戸のペアだと、そちらの方へカメラを向ける。こんな服で撮る機会は滅多に
ないと跡部も宍戸もノリノリでポーズをつけた。
「わー、何か超百合っぽい。もうちょっと、顔くっつけたり出来る?」
抱き合うような形で、撮ってもらっていると、滝がそんな提案をする。恥ずかしげもなく、
跡部も宍戸も滝の言う通りにした。
「こうか?」
「うん。すごいラブラブっぽくていいねー。」
何枚か跡部と宍戸の写真を撮ると、今度はパッと日吉の方へカメラを向けた。日吉は写真
を撮られることに興味はないので既に着替え始めていた。
パシャっ
突然のシャッター音とフラッシュに日吉はドッキリ。ちょうど上を脱いでいる時だったの
で、なかなかセクシーな写真が撮れた。
「な、何撮ってるんですか!?」
「おー、セクシーショット。」
「やめてくださいよ。」
「いいじゃない、一枚くらい。あっ、何だったらもっと撮る?」
「結構です!!」
これ以上撮られては困ると日吉は慌てて、制服に着替える。残念そうな顔をしながら、滝
は日吉を撮るのをやめた。
「俺と長太郎も撮って欲しいな。誰か撮ってくれない?」
「あ、はいはーい!!じゃあ、俺、撮りたい!」
滝の言葉に手をあげたのは岳人だ。滝からデジカメを受けとると岳人はポーズの指示を出
す。
「えっと、じゃあ滝はソファに座って、鳳は床にちょっと座って。」
「こうですか?」
「そうそう。で、滝は、足組んで、鳳の顎をキスする前みたく上げて。」
「こう?」
「うん。おっ、いい感じじゃん!」
パシャ、パシャっ
注文通りのポーズをとってくれる二人を岳人はしっかりカメラに収める。何枚か撮った後、
なかなかいい構図がいっぱい撮れたと岳人は大満足でカメラを滝に返した。
「ありがと、岳人。」
「どういたしまして。いい感じの写真、いっぱい撮れたぜ。」
「なあ、単品の写真も撮らねぇ?いろんなポーズつけてよ。まだ、撮れるだろ?滝。」
「うん。まだ全然いけるよ。それも面白いかもね。」
ペアもいいが、一人ひとりで撮った写真も欲しいと跡部はそんなことを提案する。そんな
こんなで、部室ではしばらく写真撮影会が続いた。メモリーがいっぱいになるくらい撮る
ころには、日はすっかり暮れ、外は真っ暗になっていた。
「うわっ、外もう真っ暗だぜ。そろそろ帰らねぇと。」
「写真撮影にすっかり夢中になっちゃったね。メモリーもいっぱいになっちゃったし。」
「さっさと着替えて帰るか。滝、現像したらちゃんと見せろよ。」
「もちろん。ちゃんと持ってくるよ。」
「俺、侑士の写真焼き増しして欲しいー!」
「何言うとんのや岳人。でも、俺も岳人の写真は欲しいかもしれへんなあ。」
「持ってきてもらったもので、どれが欲しいか選べばいいんですよ。」
「そうだね。じゃあ、今週中には持ってくるからみんな楽しみにしててね。」
『おう!』
そんな約束をすると、やっとそこにいたメンバーは着替え始める。どんな写真が撮れてい
るかを楽しみしつつ、氷帝テニス部レギュラーメンバーは部室を後にした。
数日後、約束通り、滝は現像した写真を持ってきた。部活終わりに机の上に広げ、全員で
どんなふうに撮れているかをチェックする。
「へぇ、なかなかよく撮れてるじゃねぇか。」
「うわあ、マジで百合っぽいなこの写真。」
「二人ともノリノリだったからねー。結構イイ感じな雰囲気醸し出してたよ。」
「俺が寝てる間にこんなに撮ったんだ。起こしてくれればよかったのにー!!」
「あんなに騒いでたのに起きなかった方が悪いんだぜ。おっ、この侑士可愛いーvv」
「どれや?へぇ、何や自分でも見ても別人やな。メイド服パワーすごいわ。」
「これって、向日先輩が撮った写真ですよね?何かすごいことになってますよ。」
「本当だ。言われるままにポーズとったけど、傍から見るとこんなになってたんだね。」
「へへー、すげぇだろ?俺ってカメラマンの才能あり?」
一つ一つ写真を手に取り、思い思いの感想を述べる。ラブラブな雰囲気の写真やら、セク
シーな写真やら、可愛らしい写真やら、どの写真にもそれなりの魅力があり、メンバーの
目を楽しませた。
「俺、この写真欲しい。」
「俺は、これとこれとこれと・・・」
「あー、ちょっと待って。後ろに番号書いておいたから、名前と欲しい番号紙に書いて。
こんだけあったら、言われたって覚えられないよ。」
紙とペンを渡し、滝は焼き増ししなければならない写真の番号を書かせる。ペアで撮った
写真はもちろん、自分のパートナーの写真も全部欲しいとそれぞれたくさんの番号を紙に
書いてゆく。
「日吉も何か欲しいのがあればいいよ。」
「そうですね。何かのネタに使えそうなんで、いくつか書いておきますよ。」
自分が撮られた写真はいらないが、他のメンバーの写真は持っていたら、何かに使えそう
だと日吉もいくつかの番号を紙に書いた。
「よし、これで全部だね。じゃあ、明日までに焼き増ししてくるね。」
「おう、楽しみにしてるぜ。」
「いやあ、初めはすげぇ嫌だったけど、終わってみると結構収穫あったな。」
「せやなあ。楽しかったと言えば、楽しかったし。」
「まあ、監督の思いつきも時には悪くないってことだな。」
「ウス。」
言われた当初は戸惑いまくりで、嫌がるメンバーが多数だったが、終わってみると、意外
と誰もが楽しんだようだ。少しばかり太郎に感謝しながら、そこにいるメンバーは明日写
真を持ってきてもらうのを楽しみにするのであった。
END.