New School Life!

リクエスト内容『入学式で牽制する跡部さま』

桜の舞う穏やかな日。今日は氷帝学園高校の入学式だ。新入生、それに加えて2年生、3
年生が全て大きな体育館に集まっている。
「新入生のみなさん、御入学おめでとうございます。これから・・・・」
入学式という学校にとってはかなり重要な式なので、形式的でかなり堅苦しい。中学から
そのまま高校にエスカレーター式に上がった新入生にとっては、つまらない以外の何もの
でもなかった。
入学式って暇なんだよな。まあ、中学とか知らない奴とかいっぱいいて、ドキドキしたり
するって雰囲気なら別にいいんだけど、これだけメンバーが同じじゃあなー。
宍戸は周りに聞こえないくらいの小さな溜め息をつき、ぐるっと自分の周りを見回した。
出席番号が1番で1番前の席に座っているにも関わらず、爆睡しているジロー。マジメに話
を聞いている滝と忍足。自分と同じようにつまらないなあということをもろに顔に出して
いる岳人。そう、奇跡的に氷帝学園中学テニス部正レジュラーだったメンバーは全員同じ
クラスになったのだ。
てか、絶対このクラス仕組まれてんよなあ。中学ん時の正レギュラーがみんな同じクラス
になるなんてありえねぇし。でも、まあ確かに楽しそうではあるけど。
しばらく学園長や理事長、来賓代表の言葉が続き、式としては最後の話の『新入生代表の
言葉』になる。当然というか何というか、もちろん跡部である。
新入生の言葉は跡部か・・・。でも、どうせこれだってつまんねぇことばっか言うんだろ
うな。聞き流そう。
こう思っているのは宍戸だけではなかった。岳人も別におもしろくないだろうと聞き流し
ている。ジローもさっきから起きる気配は見せない。
「・・・・これからの高校生活を充実させるため・・・・・」
あいつら全然聞いちゃいねぇな。確かに自分で言っててもつまんねぇと思うけどよ。あそ
こまであからさまに聞かれてねぇとむかつくよなあ。
舞台の上から自分のクラスを見下ろしながら、跡部はたんたんと言葉を続ける。
まあ、ここまでは形式通りとして、最後は自分オリジナルでまとめてやるか。
無表情でしゃべっていた跡部だったが、最後の方に差し迫ると次第に表情に笑いが帯びて
くる。
「最後に・・・」
最後に何だよ?どうせ、まだつまんねぇこと続けんだろうな。
宍戸は苦笑しながら跡部を見る。その瞬間目が合った。跡部はふっと笑い全校生徒に向か
って誰もが想像していなかったことを口にした。
「先輩方、そして同じ学年の奴らに告ぐ。1年A組の宍戸亮は俺のもんだ。友達と付き合
うくらいなら文句は言わねぇ。だが、それ以上の対象として手を出すことは許さねぇ。も
しそうした場合、容赦しねぇからな!」
普通にマイクを使い、跡部は満足気に言い切る。入学式といったらもちろんのこと保護者
も大勢いる。さずがに宍戸もここの部分だけは聞き流すことが出来なかった。
「なっ・・・何言ってんだよ、跡部!!」
宍戸は思わず立ち上がった。こんなに多くの人に向かってそんなことを言われては、黙っ
ているわけにはいかない。だが、その行為の所為で体育館にいた人全ての視線が宍戸に注
がれた。
「だって、こういうふうに言っておいた方がお前に悪い虫がつかなくていいだろ?」
「だからって、こんな場で言うな!!」
「こういう場だからこそ言うんだろ。」
「ウルセー!!跡部のアホ!!」
視線が注がれているという羞恥心と跡部に対する怒りから宍戸の顔は真っ赤だ。
「そんな言い方ねぇだろ。」
「そんなこと言わなくたって、俺はお前以外とはそういうふうには、絶ーっ対なんねぇよ
!!だから、これ以上何も言うな!!」
宍戸は恥ずかしさからとにかく跡部の言うことをやめさせようと何も考えずに叫ぶ。この
セリフで周りのざわつきはさらに大きくなった。
「よし、認めたな。ほら、お前らも聞いただろ?俺と宍戸は恋人同士だ。だから、邪魔す
んじゃねぇぞ。」
「っ!!」
宍戸は自分がもの凄いことを言ってしまったと気づき、言葉を失った。もう反論する気も
失せ、ストンと椅子に座る。そうなっても周りのざわめきはおさまらない。
「えー・・・新入生代表の言葉でした。」
何とかその場を落ち着かせようと司会の先生がまとめる。跡部は何事もなかったかのよう
に自分の席へと戻った。
「跡部も宍戸もやるねー。」
「さすが、跡部だよな。まさかあんなこと言うとは思わなかったぜ。」
「ホンマ、ホンマ。あないなこと言ったら、どんなに跡部が好きな女子でも宍戸が好きな
女子でも諦めるよな。」
滝、岳人、忍足の3人は他人事だと思って、笑いながら話している。宍戸はもううつむい
たまま顔を上げることが出来ない。そのまま閉式の言葉になり、入学式は終わった。
「それでは、新入生のみなさんは退場し、自分のクラスに行って下さい。」
新入生はバラバラに立ち上がって、体育館を出て行った。もちろん跡部達も体育館をあと
にする。
「何か・・・すげぇ後輩が入ってきたな・・・」
「ああ・・・。」
残された先輩陣一同は唖然とした表情で1年生を見送った。

「やっと、終わったー!!」
「結構長かったよね。」
「それにしてもラブラブやったな。跡部も宍戸も。」
「だろ?お前らもそれくらいやってみたらどうだ?」
「俺は恥ずかしいだけだったぞ!」
「えー、何々!?入学式何かあったのー?」
「な、何でもねぇよ!!」
全員同じクラスなので向かうところは同じ。6人はさっきのことを話ながら教室に向かう。
だが、ジローだけは入学式中ずっと寝ていたので跡部が壇上で何を言ったか、その時どん
な状況だったかをつかめていなかった。
「確かA組はこっちだったよな?」
「ああ。でも、このあと教室なんか行って何するんだろうな?」
「さあ。係とか委員会とか決めんじゃねーの?」
「もう決めんのか?早くねぇ?」
「でも、それくらいしかやることないやん。」
教室にはもうほとんどの生徒が来ており、出席番号順に机に座っていた。跡部達も席に着
く。

あーあ、宍戸と離れちまった。早く席替えしてぇな。
出席番号が離れているので必然的に跡部と宍戸は席が離れてしまう。跡部が前を向いてボ
ーっとしていると、突然視界に宍戸の姿が入った。
「なあ、跡部。」
「おっ。お前から話しかけてくるなんて珍しいな。」
「お前さ、係とか委員会とかどうする?」
「そうだなあ・・・委員長でもやるかな。」
「委員長か。俺、何やろうかなあ。」
宍戸は跡部の机に手をつき考える。しばらく黙って見ている跡部だったが、楽しそうに口
を挟む。
「じゃあ、お前副委員長やれよ。委員長と副委員長ってシチュエーションもいいと思うぜ。」
「そういう問題なのか?」
「そういう問題だ。どうよ?副委員長。」
「うーん、あんまり仕事なさそうだし、それでいいかな?」
「じゃあ、決まりな。二人でこのクラス統率していこうぜ。」
なかなか萌なシチュエーションだと跡部は本当にうれしそうに話す。そんなことを話して
いると担任が教室に入って来た。
「よーし、みんな揃ってるな。今日は初日だからすぐに帰らせるけど、委員長と副委員長
くらいは決めたいと思う。ちょっと放課後やって欲しい仕事があるんだ。誰か立候補する
奴はいないか?」
待ってましたとばかりに跡部は高々と手を上げる。
「俺、委員長やります。」
「さすが、跡部。委員長ピッタリじゃん。」
岳人がからかうように言う。担任は続けて副委員長の立候補がないかも聞く。
「副委員長をやりたい奴はいないか?」
宍戸はあまりこういうものに自ら手をあげたことがないので、緊張しながらおずおずと手
をあげた。
「えっと・・・俺、副委員長・・・やります。」
「そうか。じゃあ、委員長は跡部で副委員長は宍戸だな。じゃあ、今日はこれで終わり。
跡部、早速だが号令かけてくれ。」
「はい。起立、気をつけ、礼!!」
『さよなら。』
跡部が号令をかけると、やはりみんな早く帰りたかったのか次々に教室から出て行く。そ
れは岳人や忍足、滝やジローも同じだった。
「じゃあな、跡部、宍戸。俺達先に帰るから。」
「委員長と副委員長の仕事頑張りや。」
「あっ、さっきからなんか空が曇ってきてるからさ、雨が降らないうちに早めに帰った方
がいいと思うよ。」
「ああ。じゃあな。」
跡部も宍戸も手を振りながら、3人を見送る。ジローはいまだに机につっぷしたまま眠っ
ている。跡部は頭を軽く小突いて起こすのを試みた。
「おい、ジロー。もうHR終わったぞ。帰るんだったらさっさと帰れ。」
「んー・・・あれ?もう終わったの?」
「新学期早々よく寝るなお前。何か滝が雨が降りそうだとか言ってたから早めに帰った方
がいいと思うぜ。」
「そうなの!?俺、傘持ってきてないや。じゃ、早く帰ろう。」
ジローも慌てて教室を出て行った。もう教室に残っているのは跡部と宍戸と担任の先生だ
けだ。
「それで、二人にはこれをやって欲しいんだが。」
「座席表ですか?」
「ああ。本当は先生がやれりゃあいいんだが、最近、いろいろ忙しくてな。すまないが引
き受けてもらえないか?」
「いいですよ。今日中に終わらせますんで。」
跡部は名前の彫られたハンコと真っ白な座席表を受け取った。
「ありがとな。じゃあ、頑張ってくれ。」
『はい。』
担任も仕事を二人に任せると教室から出て行ってしまった。
二人は跡部の席で仕事をすることにした。
「いきなり仕事があんのか。面倒くせぇな。」
「でも、大した仕事じゃねぇよ。ほら、俺は左半分やるからお前は右半分やれ。」
跡部は自分の席に、宍戸はジローの席に座っている。もちろん座席表は跡部の机の上に置か
れている。その状態を見て、宍戸は不満そうに跡部に文句を言った。
「俺、逆から押さなきゃいけねぇじゃんか。」
「そうだな。」
「そうだなじゃねぇよ。こっちに向かせるか、横にするかどっちかにしろ。」
「あーん?何でそんなことしなくちゃいけねぇんだよ。だったらお前がこっち側に来りゃ
あいいだろ。」
「う〜、お前自己中。」
「俺が委員長だ。お前は副。俺の方が偉いじゃねぇか。」
「分かったよ!そっち行きゃいいんだろ!!」
宍戸は怒りながらも椅子ごと跡部の隣に移動した。同じ紙にハンコをいっぺんに押そうと
するので自然と体が密着してしまう。
うわあ、何かこの体勢って結構ドキドキだ。もろに跡部の匂いがするし。ヤベー、顔赤く
なりそう。
「お前、今、やらしいこと考えてただろ?」
「はあ!?考えてねーよ!!」
「だって、顔真っ赤だしよ、全然手進んでないぜ。」
宍戸は座席表に目を落とす。すでに左半分は埋められていた。
「跡部やるの激早っ。」
「テメーが遅ぇんだよ。さっさと終わらせないと先に帰っちまうぜ。」
「ちょ、ちょっと待てよ!今、終わらすから。」
宍戸は慌てて手を動かす。跡部は立ち上がり何となく窓の外を見た。
「あっ。」
「どうしたんだよ?」
「すげー雨降ってる。」
「マジで!?どうしよう、俺、傘持ってきてねぇよ。」
「俺、折りたたみなら持ってるぜ。入れてやろうか?」
「・・・ああ。濡れて帰りたくはねぇからな。」
一瞬、戸惑ったがこんな雨の中濡れて帰るなんて、絶対に嫌だったので宍戸は跡部の厚意
に素直に甘えることにした。
「よしっ、終わった!!」
「終わったか。じゃあ、それ担任に出してさっさと帰るか。」
「おう。なあ、帰り跡部んち寄っていいか?」
「別にいいけど。何で?」
理由を聞かれて照れる宍戸を見て、跡部はニヤニヤして顔を覗き込んだ。宍戸は顔をそら
して赤くなった顔を隠そうをする。
「い、いいじゃんか別に。行きたいんだからいいだろ!!」
「ま、いいけど。じゃあ、行くぞ。」
跡部は出来上がった座席表を手に取って、ドアに向かう。宍戸もそのあとを追った。

外に出ると雨はザーザーと音を立て、激しく降り続いていた。跡部は鞄から傘を出しバッ
と開いた。
「ホント、すげー雨だな。」
宍戸は真っ黒な空を見上げ、呟く。
「早めに帰らねぇともっとひどくなりそうだな。宍戸、さっさと入れ。」
「・・・・ああ。」
宍戸は少し控えめに跡部の傘の中に入った。やはりアイアイ傘をするのは少し気が引ける
らしい。中途半端に入るので、宍戸の鞄が濡れてしまう。
「おら、もっとちゃんと入れ。」
「うわっ・・・!」
跡部は宍戸の肩を抱き、自分の方へ引っ張った。自然と跡部が宍戸を抱きとめる状態にな
る。
「何すんだよ!?」
「だって、傘が小せぇからよ、ちゃんと入んねぇと濡れちまうだろ。」
「だからって、こんな・・・・」
「何だよ?恥ずかしいのか?」
「今日の入学式に比べりゃ全然だけどよ、やっぱちょっとな・・・・」
「大丈夫だって。あんだけ宣伝しちまえば誰も怪しまねぇよ。」
跡部の言う通り周りにはたくさんの人がいるが、誰もこの二人のことを気に止めてはいな
い。というか、もうあれだけ大胆につきあってると宣言してしまえば、例え気になってい
ても何も言えないだろう。
「跡部って、絶対恥ずかしいとかそういう感情ねぇよな。」
「人を厚顔無恥みたいに言うんじゃねぇよ。」
「だってよ、俺は恥ずかしいのにそんなのお構いなしに人前でいろんなことするじゃねぇ
か。」
「何で恥ずかしがるんだよ?俺は宍戸が好きだから、そういうことするんだぜ。お前、俺
のこと嫌いなのか?」
「嫌いじゃないけど・・・」
恥ずかしいと好きとか嫌いは全然関係ないじゃんか。そんなこと言われてもどうしようも
ねぇよ。
「じゃあ、問題ねぇよ。」
「大ありだ!!」
「だから、何でだよ?羞恥心ってのはな、人より劣ってると思う気持ちからくるんだぜ?
こんな完璧な俺様に愛されてて、人より劣ってるなんてありえねぇよ。」
「う〜〜。」
あまりにも跡部が自信あり気に言うので、宍戸は困惑してしまう。確かに言っていること
は正しいのだがそれこれとは話が別だと思わずにはいられなかった。校門を出た辺りで跡
部は突然立ち止まる。
「どうしたんだよ?」
跡部はくるっと校舎の方を向き周りを見回し、周囲にどのくらい人がいるかを確かめた。
「最後の牽制、かけてやるか。」
「えっ?」
そう呟くと跡部は宍戸の顔に躊躇なしに顔を近づける。宍戸はあっという間に唇を奪われ
てしまった。
「っ!!」
周りにいた人はさずがにこの光景に固まってしまった。確かに宣言はしていたが、人前で
ここまでするとは思わなかったのだ。
「これで完璧に俺とお前の仲を邪魔する奴はいねぇよ。これからもよろしくな宍戸。」
何の悪びれた様子もなく跡部は笑いながら言った。宍戸はもう恥ずかしくてたまらない。
「跡部っ!!」
「そんなに怒るんじゃねぇよ。周りの奴らだってそのうち慣れるだろ。」
宍戸はそのまま駆け出してしまいたい衝動にかられたが、雨が強くなってきているのでそ
れは出来ない。それ以前に跡部にしっかりと手を握られていて動けないのだ。
「もう、お前本当むかつく!!」
「むかつくけど、離れられないってか?」
「ウルセー!!さっさと帰るぞ!!」
宍戸は握られた手を握り返して、ぐいぐいと跡部を引っ張った。その顔は怒りと羞恥が8
0%くらいだったが、残りはどこか楽しそうなうれしそうなそんな感情が垣間見える。高
校生になっての初日。宍戸にとっては前途多難を思わせるようなことばかりだったが、こ
のあとの学校生活に期待が持てるのも確かであった。

                                END.

戻る