ただいま時間は夜の10時を回っている。
(あー、今日はちょっと練習しすぎちまったから眠みぃな。帰ってきてシャワーは浴びた
し、このまま寝ちまおうかなあ・・・)
眠るには少し早い時間ではあるが、宍戸はベッドに寝転がってうとうととしている。少し
気を抜いた瞬間、宍戸はそのまま眠りについてしまった。
「Zzzz・・・・」
しばらく眠ってしまったが、完全に眠っていたわけではなかったので、30分ほどして宍
戸は目を覚ました。
「ん・・んん・・・」
パチッと目を開けて宍戸は目を疑った。目の前に今ここにはいるはずのない人物の顔があ
るのだ。
「よお、宍戸。」
「・・・・・。」
「テメェ寝るの早ぇーな。まあ、ジローは寝てるかもしれねぇが。」
「っ!?な・・・なっ、何でテメェがっ・・・!?」
目の前に何故か跡部がいることに気づき、宍戸はがばっと起き上がり、驚いた素振りを見
せる。しかし、跡部はさもここにいるのが当然であるかのように、宍戸のベッドの上に腰
かけている。
「ちょっとテメェに用があってな。」
「こんな時間に何の用だよ!?つーか、何で部屋まで入ってきてんだ!?」
「おばさんが快く入れてくれたぜ。まさか寝てるとは思ってなかったけどよ。」
「・・・・・。」
あまりの唐突さと見事なまでも身勝手っぷりに宍戸は返す言葉もない。眠かった目もすっ
かり覚めてしまったと、宍戸は頭を掻きながら座り直す。そして、一つ大きな溜め息をつ
くと宍戸は改めて何しにここに来たのかを跡部に尋ねた。
「で、テメェはここに何しに来たんだ?」
「ああ。ちょっと試してぇことがあるんだ。」
「試したいこと?」
「ちょっと目つぶってろよ。」
「何すんだ?」
「それはまだ言えねぇな。」
意味深な笑みを浮かべているので、怪しいなと思いつつ、宍戸は素直に目を閉じた。次の
瞬間、頭の上に何かの液体をかけられるのを感じる。
「うわあっ!」
「さあ、効果はどうよ?」
次の瞬間、宍戸は体が二つに引き離されるような感覚を覚える。否、本当に体が二つにな
ってしまったのだ。しかし、その姿は全く同じものではない。一人は今のままの姿、つま
り、短髪の宍戸。そして、もう一人は、数ヶ月前の長髪のままの宍戸であった。
「完璧な出来だな。」
『いきなり何しやがんだ!!』
二人の宍戸は声をハモらせ、跡部に抗議の言葉を浴びせる。しかし、跡部は実験は成功だ
と言わんばかりに笑っている。跡部が今日宍戸の部屋に来た理由。それは、今回新しく作
った薬を宍戸で試すためだった。
「うわっ、何で俺がもう一人いるんだ!?しかも、髪切る前の俺だし。」
「まあ、そういう薬をかけてやったからな。」
「ふざけんなよ!!こんなことして、何が目的なんだ?」
短髪の宍戸も長髪の宍戸も基本的にはそのままの性格なので、強気な口調で跡部に食って
かかる。短髪宍戸と長髪宍戸が交互に喋るのを聞き、跡部は胸を高鳴らせる。
「別に大した目的はねぇよ。テメェが二人になったら、両手に花な気分を味わえるかなあ
と思ってよ。」
「そんなくだらない理由で二人にするって、テメェの頭どうなってんだ?」
「本当だぜ。激ありえねぇ。」
若干怒り気味の宍戸達。その一方の腕を跡部はぐいっと引き、自分の方へと引き寄せた。
「うおっ!?」
「長髪の宍戸は久しぶりだからな。まずはテメェから可愛がってやるよ。」
「えっ、ちょっ・・・」
長髪の宍戸の体をぎゅっと抱きしめ、跡部はちゅっちゅと何度もキスをする。初めは嫌が
る素振りを見せていた宍戸だったが、跡部のキスにやられ、すっかりとろけた表情になっ
ていた。
「はふ・・・ハァ・・・」
そんな表情の自分の姿を見て、短髪の宍戸は顔を真っ赤に染め、その光景から目を逸らそ
うとする。ベッドから下り、少し離れたところに動いた。
「・・・もっと、嫌がっとけよ、俺。」
ボソっとそんなことを呟く宍戸だが、イチャつく二人が気になって仕方がない。それに気
づいた跡部はニヤリと笑って、短髪の宍戸の方を見た。
「っ!!」
「テメェもこっち来いよ。一緒に可愛がってやるからよ。」
「い、行くわけねぇだろっ、アホ!!」
心を読まれたようで、ドキッとしてしまった短髪宍戸は思わず怒鳴ってしまう。
「まあ、テメェがこっちに来ねぇならコイツで、好き勝手やらせてもらうけどな。」
そう言いながら、跡部は長髪宍戸の髪ゴムを外し、背中に落ちた黒髪を指で梳く。そして、
柔らかい耳をそっと食んだ。
「んっ・・・!やだ、跡部っ・・・」
敏感に反応している自分の声を聞き、短髪宍戸はドキンと鼓動が速くなるのを感じる。頭
に血が集まってくるような感覚に顔が熱くなってくる。無意識に足は跡部に向かって動い
ていた。
「跡部・・・」
「どうした?」
「俺も・・・して?」
「フッ、いいぜ。」
跡部の目の前に立ち、真っ赤になりながら宍戸は言う。長髪の宍戸を腕に抱えたまま、も
う一方の腕を短髪の宍戸の前に差し出す。短髪の宍戸はその手を取り、ベッドの上に再び
腰かけた。そんな宍戸の肩を抱き、軽く触れるだけのキスをする。
ちゅっ・・・
「なあ、二人がかりでよ、俺のこと気持ちよくさせてみろよ。そうしたら、もとの姿に戻
してやるぜ。」
『二人がかり』という言葉を聞き、長髪宍戸と短髪宍戸はお互いに顔を見合わせる。意識
としては、一人の宍戸のなので、意見は当然のことながら一致する。こんな状況ともとに
戻してもらえるという条件つき。跡部の言葉に従う以外、宍戸の頭に選択肢はなかった。
ベッドの上には濡れた音が響いている。跡部の足の間で、二人の宍戸がペロペロと跡部の
熱を舐めているのだ。
「んっ・・・んぅ・・・」
「はむ・・んっ・・・ん・・・」
(ヤベェ・・・これは思った以上にクるな。)
今までにしたことのない体験に、跡部はいつも以上に興奮し、感じまくっている。
「う・・跡部の・・・いつもよりおっきくねぇ?」
「俺もそう思う・・・」
「ま、まあ、二人にされてりゃな。」
「今回は二人でしてるから、別に構わねぇけど・・・」
「一人でしてたら、口に入んねぇかも。」
舐められながら交互に喋られ、跡部はゾクゾクと背筋に快感を感じる。思わず声が出てし
まうのを抑えられず、小さく喘ぐ。
「くっ・・・ぁ・・・」
『!』
跡部がここまで率直に声を出すほど、反応することはそう滅多にないので、二人の宍戸は
驚いた素振りを見せた後、目を輝かせる。黙ってペロペロと夢中で舐め、早く跡部をイカ
せようと頑張った。
「んんっ・・・は・・・」
「んっ・・・んん・・・」
「あー、すげぇイイ。マジイイぜ。」
一生懸命にご奉仕をする二人の宍戸を見て、跡部は口元に笑みを浮かべる。こんなによい
ものだとは予想だにしていなかったので、この状況が半端なく幸せだと感じている。と、
次の瞬間、二人の宍戸が示しを合わせたかのように一際大きな刺激を、跡部のそれに与え
た。
「くっ・・もう出る・・・」
『ひゃっ・・あ・・・』
しっかり咥えているというわけではなかったので、どちらの顔にも跡部の放った白蜜はべ
ったりかかってしまった。しかし、予想していなかったことではないので、どちらの宍戸
も指でその蜜を掬い、口へと運んでゆく。
「苦・・・」
「でも、嫌いな味じゃねぇよな。跡部のだし。」
「まあな。」
「やってくれるじゃねぇか。それじゃ、今度は俺様がテメェらを気持ちよくさせる番だな。」
『へっ?』
これで終わりだと思っていた二人は、思ってもみない跡部の言葉に素っ頓狂な声を上げる。
「で、でも、俺、二人になってるし。」
「そうそう。二人いっぺんに相手にするなんて無理だって!」
「無理じゃねぇ。」
そう言うと、跡部は長髪の方の宍戸のズボンを脱がし、ポケットから出したローションで
一気に後ろの蕾を慣らしてゆく。
「ひゃっ・・・待っ・・・跡部っ!!」
「うるせぇ、黙ってろ。」
「んんっ・・・嫌っ・・あぁ・・・」
目の前で自分が犯されかけてるのを見て、もう一方の宍戸は顔を紅潮させながら固まって
しまう。止めようにも止められず、ただただその光景を眺めていることしか出来ない。
「そろそろ大丈夫だろ。」
「くふっ・・・あっ・・・」
蕾から糸を引くように指が出るのを見て、短髪の宍戸はずくんと下半身が疼くのを感じる。
されているのは自分ではないのだが、二人になっていても感覚はシンクロしているようで、
呼吸が勝手に乱れてくる。
「ハァ・・・」
「まだ、俺の治まらねぇみてぇなんだよな。テメェはここに腰を下ろして、俺のを中に入
れろ。出来ないとは言わせねぇぜ。」
中途半端に慣らされたそこは、嫌でも跡部を求めてしまう。長髪の宍戸は、目に涙を溜め
ながら、跡部の足を跨ぎ、すっかり硬さを取り戻している楔に腰を下ろす。
「あっ・・・ああぁぁ――っ!!」
ドキンっ・・・
もう一人の自分が跡部と繋がる様を見て、短髪の宍戸も我慢が出来なくなる。瞳を潤ませ、
呼吸を乱しながら、跡部にすり寄った。
「跡部ぇ・・・」
「安心しろ。テメェもちゃんと気持ちよくさせてやるからよ。」
「でも、どうやって・・・?」
涙声で宍戸はそんなことを問う。すると、跡部は深いキスを短髪の宍戸に施し、妖しげな
笑みを浮かべながら囁いた。
「自分でズボンを脱いで、シャツを上げろ。」
「お、おう・・・」
もう跡部に触って欲しくてたまらない宍戸は、跡部の言うことを素直に聞く。ズボンを自
ら脱ぎ捨てると、シャツの裾を上げ、ふるふると身体を震わせながら、跡部の前に膝立ち
をした。
「もうすっかり勃ってるじゃねぇか。」
「だ、だって・・・」
「すげぇ美味そう。テメェは口と指で天国へ連れてってやる。」
そう言い放つと跡部は目の前にある宍戸の熱を口に咥え、指をひくひくと収縮を繰り返す
蕾に持っていった。
「ああぁんっ!!」
「あ、跡部、もっと・・・してぇ!!」
二人の宍戸の喘ぎが響き、跡部はいつもとは違う興奮を覚える。宍戸の内側の熱さと口の
中で感じる熱、それがあいまって、くらくらするほどの快感を覚える。
「ハァ・・・跡部の熱い・・・いつもより大きいし・・・」
「指・・・気持ちイイ・・・あっ・・・ひぅっ・・・!」
「俺も・・・口でも下でもテメェの熱さ感じられて、最高の気分だぜ。」
「もっと・・・動いていいか・・・?」
「跡部・・・もっと指・・・ちょーだいっ・・・」
積極的に自分を求めてくる宍戸に、跡部はうっとりと酔いしれる。宍戸の要求するまま、
跡部は指を増やしその動きを激しくさせる。そして、自分の上に乗っている長髪の宍戸の
腰を左手で支え、その動きをサポートする。
「あっ・・・あぁんっ・・・跡部ぇっ!!」
「はぁっ・・・んっ・・ああっ!!」
ちゅ・・・ちゅく・・・
「うあっ・・・跡部・・・もぉ・・・」
「お、俺も・・・あっ・・あ・・ああっ・・・!!」
興奮が高まるにつれ、跡部の口の動きも指の動きも速くなり、短髪の宍戸はもう達する寸
前まで、快感が高まっている。跡部の楔に貫かれている長髪の宍戸も限界が近づいていた。
(ああ、もうこれ以上は耐えらんねぇ・・・!!)
宍戸以上に跡部が限界であった。高まる宍戸の中の締め付けと、いつもの二倍響く宍戸の
甘い喘ぎ声。そんな相乗効果に跡部の頭はだんだんとぼーっとしてくる。
『もう・・・イクぅっ!!』
「・・・・っ!!」
三人ともほぼ同時に達する。宍戸の放った蜜を飲み干しながら、宍戸の中へと自分自身の
熱を放つ。今まで味わったことのないその感覚に、跡部は意識が飛んでしまうかと思う程
の衝撃が身体中を駆け巡った。
(あー、すげぇイイ・・・こんなのも結構ありだな。)
そんなことを考えながら、跡部は宍戸のそれから口を離し、蕾からは指を抜きつつ、ベッ
ドの上に倒れこんだ。
二人の宍戸は達した瞬間気を失ってしまった。そんな二人の宍戸にもう一つの用意してき
た液体をかけると、二人の宍戸は重なり合い、一人の宍戸に戻ってゆく。
「さて、目的は果たしたし、帰るか。」
宍戸をしっかりとベッドに寝かせると、跡部は自宅へ帰ってゆく。スヤスヤと気持ちよさ
そうに眠っている宍戸の頬に軽くキスをした後、跡部は宍戸の部屋を出た。
チュンチュン・・・・
「んん・・・ん・・・」
朝起きると宍戸は何だか妙な気分にとらわれつつ、起き上がる。確かに昨日跡部が家にい
て、大変なことになったのは記憶にあるのだが、今の状態を見るとそんなことがあったと
はとても思えない。
「あ、あれ?・・・夢?」
夢にしては、リアルであったし、何となく感覚は残っている。しかし、この状況を見る限
りでは夢であったとしか思えない。
「何か・・・すげぇ夢だったな。」
跡部に入れられつつ、咥えられているというような通常ではありえないような感覚を思い
出し、宍戸は顔を真っ赤に染める。とりあえず、着替えようとベッドから下りようとする
と、床に何かが落ちているのを見つける。
「ん?何だ、これ?」
拾い上げてみると、それは跡部の生徒手帳であった。その瞬間、宍戸は昨日あったことは
全て現実のことであったと悟る。
「やっぱ、昨日跡部の奴来てたんだ・・・じゃあ、昨日あったことは全部夢じゃねぇって
こと・・・?」
そう思った瞬間、宍戸の心臓はドキドキと速くなる。
〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜♪
と突然、宍戸の携帯電話が鳴り出した。着信音から跡部からであるということが、取る前
に分かってしまったので宍戸は心臓が止まってしまうかと思うほど驚く。
ピッ・・・
「も、もしもし・・・?」
『あー、宍戸。おはよう。起きてたんだな。』
「さっき、起きた。」
『俺、テメェの部屋に生徒手帳忘れて来ちまったみたいでよ、あるか?』
「ああ、あるぜ。・・・あのさ、跡部。」
『アーン?どうした?』
「き、昨日の夜・・・俺のトコ、来たよな?」
ドキドキしながら、宍戸はそんなことを尋ねる。これで、そうだと跡部が頷いたなら、自
分は昨日ありえない体験をしたことが証明される。
『・・・ああ、行ったぜ。』
少しの間があった後、跡部は肯定の言葉を述べた。
「そ、そっか。じゃ、じゃあ、やっぱ昨日のは夢じゃねぇんだな・・・」
『夢でたまるか。最高だったぜ。昨日のお前。』
「っ!!」
妖しく囁くような口調でそんなことを言われ、宍戸は急に恥ずかしくなる。いきなり家に
来て、妙な薬を使われた上にあんなことをされるなど、夜這い同然だ。
「て、テメェ、マジ何考えてんだよ!?」
『そのセリフ、昨日も聞いたぜ。』
「ウルセー!!とにかく、昨日のこと、誰にも話すんじゃねぇぞ!」
『別に言われなくても話しゃしねぇよ。あんなイイコト、他の奴らに教えられるか。』
「ったく、本当テメェは自分勝手だな。今度あんなことしたら承知しねぇからな!!」
『はいはい。もうテメェには使う気ねぇから安心しろ。・・・ちゃんとなるって分かって
んだったら、自分に使った方が何倍も楽しめそうだし。』
宍戸に聞こえないほどの小さな声で、跡部はボソっと呟く。電話越しということもあり、
宍戸にはそのセリフは全くもって聞こえなかった。
「は?何か言ったか?」
『いや、別に何でもねぇよ。それより、俺の生徒手帳、今日学校に持って来いよな。忘れ
んじゃねぇぞ。』
「自分で忘れてったくせに、何でそんなに偉そうなんだよ・・・」
『今日は昨日の礼に昼飯くらい奢ってやんよ。それでいいだろ?』
「えっ!?マジで!?」
『ああ。そろそろ電話切るぜ。早く用意しねぇと学校に遅刻しちまうからな。』
「うわっ、本当だ。もうこんな時間だし。俺、まだ着替えてもねぇのに。」
『じゃあ、また後で学校でな。』
「おう、じゃあ、後でな!」
ピッ・・・
電話を切ると、宍戸は慌てて学校へ行く用意を始める。昨日のことはまだ納得がいってな
いが、何となく気持ちよかったのは身体の感覚として覚えているので、まあいいかと思っ
てしまう。
「跡部も本当変な薬ばっか作ってくるよなあ。・・・ま、悪いことばっかじゃねぇけど。」
そんなことを呟きながら、宍戸は跡部の生徒手帳を自分の制服のポケットに入れる。まだ
ドキドキが治まっていないが、とりあえず学校に遅刻してはいけないと鞄を持ってパタパ
タと部屋を出た。
その日の宍戸の昼食が、ありえない程豪華であったことはテニス部メンバーのみならず、
学校全体の噂になった。しかし、その理由を知るものは跡部と宍戸、当人ただ二人だけで
あった。
END.