Our love is locking

リクエスト内容『跡宍で、色違いの浴衣を着て夏祭りに行く』

「宍戸、夏祭りに行くぞ。」
「は?夏祭り?」
夏休み真っ只中、跡部が突然そんなことを言い出した。いきなり夏祭りに行きたいと言わ
れてもそうタイミングよく行われるわけではない。また無理なことを言い出すなあと思っ
ていると、跡部は宍戸に向かって、薄紫色の何かを投げつける。
「ぶっ!」
投げられたそれは宍戸の顔を覆う。全く何なんだと少し腹を立てながら、その布を顔から
剥がした。
「何だこれ?」
顔から剥がした布を広げてみると、それは着物のような形をしていた。しかし、着物ほど
しっかりとした生地ではなく、もっと身近に着れるような、そんな素材で出来ている。
「浴衣?」
「ああ、そうだ。どうだ?なかなかいい色だろ?」
「確かにいい色だけどよ・・・こんなの投げつけてきて何なんだよ?」
「だから、これを着て、夏祭りに行くんだ。ちなみに俺様のはこれだけどな。」
自分の分だと、跡部は藍色の浴衣を宍戸に広げてみせる。浴衣を投げつけてきた主旨は分
かったが、それ以前の問題が宍戸の中で解決していない。今、自分達の住んでいるところ
では、夏祭りなど行われていないのだ。
「夏祭りに行きたいったって、このへんじゃやる予定ないぜ。」
「だったら、やってるところまで行きゃいいだろ。」
「確かにそうだけどよ、やってるところったって・・・・」
そんなの分からないと言おうとした瞬間、跡部がそれを遮るように言葉を放つ。
「都心じゃごみごみしててウザイからよ、少し田舎っぽいところでやってないか探してみ
たんだ。そしたらいくらでも出てきたぜ。で、今日やるってところのがなかなか興味深く
てな。新しい浴衣も用意したことだし、テメェと行きたいと思ってよ。」
「あー、そう。」
そこまで言われたらもう文句は言えない。カニが食べたいと誰かが言い出したら、その日
のうちにレギュラーメンバー全員をつれて、北海道まで飛ぶくらいの行動力の持ち主なの
だ。郊外の夏祭りくらいパッと行ってもおかしくない。
「だから、さっさとこれに着替えるぜ。早く用意しねぇと終わっちまうからな。」
「マジで今日行くのか?」
「当然だ。ほら、さっさと着させてもらえ。」
「ったく、しょうがねぇなあ。」
そこまで決めてしまっているのなら仕方がないと、宍戸は跡部の誘いに応じることにする。
あまりに突然すぎる思いつきの提案に多少困惑する部分もあるが、行ったことのない場所
の夏祭りというのもなかなか心惹かれる。こんなことは跡部と付き合ってないと出来ない
と、宍戸はこの状況を大変だと思うのではなく、むしろ楽しんでしまうことにした。

自家用車を使って連れてこられたのは、東京から車で2時間程度のところにある小さな村
の祭りであった。そんなに大きな祭りではないが、大勢の村の人で賑わっている。
「何か東京である祭りとはだいぶ雰囲気が違うな。」
「そうだな。でも、こんな雰囲気もなかなかいいんじゃねぇの?」
東京で行われる祭りは本当に人が多く、移動するのも大変であるが、ここの祭りはそんな
感じではない。お互い顔見知りで、そこらじゅうに明るい声と楽しそうな笑顔が溢れてい
る。
「何か屋台見てたら、腹減ってきちまった。跡部、何か食おうぜ。」
「何かって、何食うんだ?」
「うーん、そうだな。どうせだったら、二人で食べれるのがいいよな。そうすっと、焼き
そばとかお好み焼きとかか?」
「テメェの好きなのでいいぜ。俺はいまいちこういうところで食う食べ物は分からねぇか
らよ。」
「じゃあ、とりあえず、お好み焼きと焼きそば買うか。で、足りなかったらまた他の買お
うぜ。」
「ああ。」
まずは軽く腹ごしらえをしようと、宍戸はお好み焼きと焼きそばを一つずつ買う。二つず
つ買ってもよかったのだが、跡部と半分こにして食べたいという意図もあり、あえて一つ
ずつしか買わなかった。
「買ってきたぜ。」
「なら、どっかに座って食べるか。」
屋台の裏にある木の下に二人は腰掛け、買った食べ物を広げた。もらってきた箸を跡部に
渡すと、宍戸は自分の持っている割り箸をパキンと割った。
「ほら、早く食べようぜ、跡部。」
まずはお好み焼きから食べようと宍戸は卵の乗ったお好み焼きを半分に分ける。そして、
その半分をさらに一口大に切って、自分の口に運んだ。
「はふっ、熱っ!!」
「おいおい、気をつけろよ。」
「はぅはぅ・・・」
あまりの熱さに宍戸は口を押さえて、はふはふと息を吐く。そんな宍戸を見て、跡部は可
愛いらしいなあと思ってしまう。少し味見をしてみようと、跡部も小さくお好み焼きを切
り、ふーふーと息を吹きかけて冷ましてから、自分の口へと運んだ。
「へぇ、結構美味いもんだな。」
「むぐむぐ・・・」
あまりの熱さに涙目になりながらも、跡部の言葉に宍戸はこくこくと頷く。とりあえず、
今口の中にある分をゴクンと飲み込むと、宍戸は大きく息を吐いた。
「はあー。」
「大丈夫か?」
「ああ、まあな。あー、ちょっと舌火傷しちまったかも。」
「慌てて食うからいけねぇんだよ。テメェに自分で食べさすと危ねぇからな。俺様が食べ
させてやる。」
「あっ!」
宍戸から箸を取り上げると、跡部はニヤリと笑って、お好み焼きを切り分ける。そして、
そのうちの一つを取り上げ、ふーふーと息を吹きかけた。まずは自分でその半分くらいを
食べ、熱くないのを確かめてから残りを宍戸の口の中へ入れる。
「ほら、これなら熱くねぇだろ?」
「熱くねぇけど、すっげぇ恥ずかしい。」
「俺は別に恥ずかしくねぇけどな。」
「こんなん激ダサすぎるし・・・・」
「あーん?この俺様がわざわざ冷ましてやって、食べさせてんだ。激ダサなんてありえね
ぇよ。」
「はあ・・・」
どっからその自信が来るのかと半ば呆れつつ、宍戸は大きな溜め息をつく。しかし、それ
でもお腹は減る。せっかく買ったんだから、全て食べきらなければもったいないと、宍戸
は跡部に食べさせるのを続けさせた。
「ほら、食わせるんだったらさっさと食わせろ。」
「おっ、急に素直になったじゃねぇか。」
「うるせー。腹減ってんだよ!食べさすんだったら、最後まできっちり食べさせやがれ!」
自ら口を開けて、食べさせられるのを待つ宍戸に、跡部はもう萌えまくりだった。このま
ま襲ってしまいたいという衝動を抑えつつ、お好み焼きを食べさせる楽しみを存分に享受
する。
「もうお好み焼きはなくなっちまったな。」
「そうだな。」
「でも、まだ、焼きそばが残ってるからな。」
「えっ?」
宍戸の横においてあった焼きそばのパックを手に取ると、跡部は再び宍戸に食べさせよう
とする。
「ちょ、ちょっと待て、跡部!」
「アーン?何だよ?」
「そっちはもう冷めてんだろ。自分で食えるから、もう食わせなくていいって。」
「俺がしてぇんだ。」
「何わがまま言ってやがる。しかも、焼きそばって相当食べさせにくいだろ。」
「いいんだよ。ほら、口開けろ。」
「嫌だ。テメェに食べさせてもらうくらいだったら、俺がテメェに食べさせた方がまだマ
シだ!」
もうあんな恥ずかしい思いはしたくないと、宍戸は思わずそんなことを口にする。その言
葉を聞いて、跡部はニヤリと笑った。
「ほう。だったら、そうしてもらうぜ。ほらよ。」
持っていた焼きそばのパックを跡部は宍戸に渡す。もしかして余計なことを言ってしまっ
たのではないかと、宍戸は黙って焼きそばを見つめる。
「え、えっと・・・?」
「食わしてくれるんだろ?だったら、さっさと食わせろよ。」
「・・・・・」
完全にああ言い切ってしまった手前、断ることが出来ない。これも食べさせられるのと同
じくらい恥ずかしいのではないかと思いつつ、宍戸は箸で焼きそばを取り、跡部の口へと
運ぶ。絶対お好み焼きよりも食べさせにくいと思いながらも、宍戸は何とか上手い具合に
箸を使い、跡部に焼きそばを食べさせていった。
「ふーん、いかにも庶民の味って感じだが、悪くねぇな。」
「あー、そうかよ。」
「何だよ?これはテメェにとっては美味くねぇのか?」
「そんなことねーよ。ただマジで何でこんなことしてんのかなあって思ってよ。」
「いいじゃねぇか。浴衣で夏祭りに食いもん食べさせ合うなんて、こういう時じゃなきゃ
出来ねぇぜ。」
「確かにそうだけどよ・・・」
それが恥ずかしいんだと言おうと思ったが、そんなことを跡部に言っても聞き流されるだ
けだと、宍戸は出かかった言葉を飲み込んだ。しかも、今の跡部は実に楽しそうである。
それは跡部がする顔の中でも、宍戸にとってはかなり好きな部類に入る顔であった。そん
な顔を見せられては、嫌だと思っていたことも何だかどうでもよくなってきてしまう。
(あーあ、マジで俺、何やってんだろ。でも、俺、跡部のこの顔に弱いんだよな〜。)
ほのかに顔を赤らめながらも宍戸は、焼きそばが空っぽになるまで、跡部に食べさせ、そ
の合間合間で、自分の口にも運ぶ。焼きそばを食べているだけなのに、宍戸の心臓は無駄
にドキドキと速いリズムを刻んでいた。

屋台の食べ物や射的や輪投げなどのゲームを堪能すると、跡部は宍戸の手を引いて、祭り
の中心の場所から移動する。屋台は神社の周囲を中心に並んでいたが、そこから100メ
ートル程離れたところにテレビ塔がある。そこに向かって跡部は歩いた。
「どこ行くんだよ?跡部。」
「あのテレビ塔だ。」
「テレビ塔?何でそんなところに?」
「これから花火大会もやるらしいんだよ。少し高いとこから見た方がよりよく見えると思
ってな。」
「ふーん。」
確かに跡部の向かってゆく方向にはテレビ塔が見える。あれに登るのかあと考えている間
に、あっという間にその下に到着した。
「へぇ、離れて見るより意外と高さがあるんだな。」
「まあ、登れるのは真ん中のあたりまでだろうけどな。とりあえず登ってみようぜ。」
鍵の掛かっていない鉄の扉を開け、その先にある階段を上ってゆく。先に跡部が上り、そ
の後を追うようにして、宍戸も上ってゆく。踊り場につくと跡部は宍戸に手を差し伸べた。
「何だよ?」
「浴衣じゃ上りにくいだろ。」
「別に女じゃねぇんだから。」
女扱いされているようで、少しムッとする宍戸だったが、素直に差し出された手を握る。
照れ隠しに顔を背けるが、しっかりと跡部の手を握り、残りの数段を上りきる。
「まだ、もうちょい上に行けそうだな。」
「ああ。」
「行くぜ、宍戸。」
今度は初めから手を握りあったまま、残りの階段を上ってゆく。塔のちょうど中ごろあた
りは、展望台のようになっており、村全体が360°見渡せるようになっていた。安全の
ために柵とフェンスがついているが、花火を見るには絶好のスポットだ。
「今は8時か。そろそろ始まるんじゃねぇか。」
「花火が?」
「ああ。」
跡部が頷いたと同時に、ヒューっと、花火が打ち上げられる音が聞こえる。次の瞬間、夜
空に大輪の花が咲いた。
ド―――ンっ!!
大きな音とともに、夜空に開く火の花を見て、宍戸は目を輝かせる。先程までいたところ
とは少し離れた広場のようなところで打ち上げられているようだが、それほど距離が離れ
ていないので、その迫力はなかなかのものであった。
「わあ、すっげぇ!!」
「結構近くで打ち上げてるみてぇだな。」
「ここ、人もいねぇし、花火もバッチリ見えるし、特等席だな!!」
「そうだな。」
宍戸がはしゃぐのを見て、跡部はふっと微笑む。花火に目を奪われ、キラキラと目を輝か
せている宍戸の腰にそっと手を回し、自分の方へ引き寄せた。それでも宍戸は次々に打ち
上がる花火に夢中になっている。
「超綺麗だな、跡部っ!!」
「ああ。」
何気なく跡部の方を向くと、思った以上に跡部の顔が自分の顔の近くにあり、宍戸はドキ
っとしてしまう。しかも、その顔は宍戸の一番好きな自分だけに見せてくれる優しげな微
笑みを浮かべた顔であった。
「宍戸・・・」
耳元で名前を囁かれ、宍戸は力が抜けてしまう。花火ではなく自分に視線が向けられてい
ることに気づき、跡部は宍戸の身体をぐいっと自分の方へ向けた。そして、顔を傾け、ゆ
っくりと自分の唇を宍戸の唇に重ねた。
「ん・・・ふぁ・・・・」
唇にくすぐったさを感じ、宍戸は小さく口を開く。それを見計らって、跡部はより深く、
優しくも激しい口づけを施す。全身がとろけてしまいそうな甘い口づけに、宍戸は次々に
打ち上げられている花火のことも忘れ、その感覚に夢中になってゆく。
(すげぇ、気持ちイイ・・・)
うっとりとしながら、薄目を開けると驚くほど近くに跡部の顔がある。いつもはしっかり
と目を開けて、宍戸の様子を窺っている跡部だが、今回はきっちりと目を閉じ、じっくり
と宍戸の唇を味わっている。
(跡部、まつ毛長ぇ。マジ綺麗な顔してんよな。あー、何かすっげぇドキドキしてきた。)
跡部の顔をじっくり見ていると、本当に自分は跡部のことが好きなんだなあと改めて思い
知らされる。それと同時に、トキメキが胸の中でだんだんと高まり、鼓動が速くなる。も
うしばらくこのままでいたいと、宍戸はぎゅっと跡部の背中に腕を回した。
ヒュルルルル・・・・・・ド――――ンっ!!
一際大きな花火の音を聞き、跡部は唇を離した。もうそろそろ花火大会も終わりに近づい
ている。花火の種類が変わったことに気づき、最後の大きな花火くらいはしっかり見せて
やろうとそうしたのだ。
「跡部・・・?」
「そろそろ花火大会も終わりみたいだぜ。ほら。」
自分の方ではなく、花火が打ち上げられている方に宍戸の顔を向ける。そこには、金色の
雨が降っているかのような大きな花火が打ち上げられていた。いかにもクライマックスで
すというような種類の花火に、宍戸は再び目を奪われる。
「うわあ・・・」
「俺、この種類の花火は結構好きだぜ。だから、これくらいはしっかり見ようと思ってな。」
「そうだな。」
夜空に咲く黄金色の花を二人はしっかりと目に焼きつける。そして、その花が全て咲き終
わった時、跡部はぎゅっと宍戸のことを後ろから抱きしめた。
「今ので最後だな。」
「あ、ああ。そうみてぇだな。」
「なあ、もう一つしてぇことがあるんだけどよ、いいか?」
「えっ?」
後ろから抱きしめられているという状況で、そんなことを言われたらどんなことだろうと
無駄にドキドキしてしまう。しかし、跡部のとった行動は、宍戸が考えていたようなこと
ではなかった。
「ちょっとこっちに来い。」
跡部はすっと宍戸から離れ、神社が見える方へと歩き出す。神社にある提灯や、屋台の光
がキラキラと輝いているのがよく見えるところに連れて来られ、宍戸は首を傾げる。
「何だよ?」
「今日の夏祭りは、あの神社に祀られている神様のための祭りらしいぜ。」
「ふーん。で?」
「あの神社には、どんな神様が祀られてるか分かるか?」
「さあ。いきなり連れてこられただけだからな。」
いきなり何を言い出すんだと思いつつも、宍戸は跡部の話を聞き流したりせずに、しっか
り聞く。
「あの神社にはな、縁結びの神様が祀られてるらしいぜ。そんなに有名じゃねぇけど、そ
の効力はかなりのもんなんだってよ。」
「縁結びねぇ。まあ、跡部が連れてきそうっつたら、そうだけど。でも、わざわざ縁結び
されるって関係じゃねぇぜ、俺達。」
「そりゃ俺だって十分承知してる。だから、お参りとかじゃなくてよ・・・」
そう言いながら、跡部はポケットから何かを取り出した。
「ん?何だよそれ?」
「見て分からねぇか?」
掌に乗せられているものを宍戸に見せ、跡部は不敵に笑う。
「うーん、南京錠に見えるけど・・・デザイン的には結構高そうだな。」
「別に値段なんかどうでもいいんだよ。確かにテメェの言うとおり、何の変哲もない南京
錠だ。」
「そんなもんどうすんだ?」
南京錠ということは分かったが、そんなものをどうするのかは全く想像がつかない。不思
議そうな顔で、宍戸がその南京錠を見ていると、跡部はサインペンを取り出した。そして、
その南京錠に何かを書き始める。
「何してんだ?」
「テメェもここに名前を書け。ローマ字でいいぜ。漢字だとこの範囲に書くのは少し大変
だからな。」
「お、おう。」
よく分からないが宍戸は跡部に言われた通り、跡部の名前が書いてある下に自分の名前を
ローマ字で書いた。二人の名前が書かれた南京錠を受け取ると、跡部はその裏に今日の日
付を書き、その下にドイツ語で何かを書く。本当に何がしたいのか分からないと宍戸は首
を傾げて、跡部のすることを黙って眺めていた。
「よし、こんなもんだろ。」
「マジでそれ、どうすんだよ?俺、全然分かんねぇんだけど。」
「宍戸、ここのフェンスから神社の方を見てみろよ。この部分、ちょうど穴の開いてる部
分が鳥居とかぶってるだろ?」
「ああ、そうだな。」
「ここにな、この南京錠をつけるんだ。まあ、今日ここへ来た記念みたいなもんだけどな。
せっかくだから縁結びの神様ってのに俺らのことを見守っててもらおうと思ってよ。」
「随分、乙女チックなこと考えついたな。」
「アーン?そんなことねぇだろ。」
「でも、まあ、いいんじゃねぇ?悪くねぇと思うぜ。その提案。」
跡部にしてはかなりロマンチックなことを思いついたなあと、少々驚く宍戸であったが、
その内容はなかなか面白いと思うものであった。
「どうせだったらさ、ちゃんと二人でその錠つけようぜ、跡部。」
「そうだな。」
宍戸が自分の提案に乗ってきてくれたことを嬉しく思い、跡部は一気に笑顔になる。宍戸
に錠自体を持たせ、跡部は引っ掛ける部分に手を乗せた。
「それじゃあ、はめるぜ。」
「おう。」
鳥居にぶら下がっているように見えるようにフェンスに引っ掛け、その錠の吊部分を穴に
あわせて下に押し込む。少し力を加えるとカチャンと鍵のかかる音が響いた。
「おー、なかなかいい感じじゃねぇ?」
フェンスにつけられた南京錠を見て、宍戸はそう跡部に言う。跡部もその感じに非常に満
足し、宍戸の言葉に頷いた。
「ああ、そうだな。」
「へへへ、何かちょっと照れるけど、こういうのってドキドキするし、ちょっと二人の絆
が強くなった気がして嬉しくなるよな。」
「そう思うか?」
「おう!跡部はそう思わねぇの?」
「いや、そんなことねぇぜ。ただテメェからそんなこと言ってくれるとは思ってなかった
からよ、ちょっと確認したかっただけだ。」
「そっか。」
跡部も同じ気持ちなんだと思うとより嬉しくなり、宍戸は満面の笑顔を見せる。ここまで
乗ってくれると思わなかったので、跡部も宍戸ほど外には出していないが、どうしようも
ないくらいの嬉しさを感じていた。
「さてと、もうすぐ祭りも終わるみてぇだし、そろそろ下りるか。」
「そうだな。」
まだ屋台の明かりはついているが、だんだんと人は少なくなってきていた。この村に泊ま
るわけにも行かないのでそろそろ帰る準備をしなければならない。

テレビ塔を後にすると、二人はもう一度祭りの中心である神社に向かった。今度は屋台は
素通りし、神社の境内へ向かう。
「さっきはお参りはしねぇっていってたけど、これを預けなきゃならねぇからな。」
「預ける?何を?」
境内に向かって歩きながら跡部が取り出したのは、先程テレビ塔のフェンスにつけた南京
錠の鍵であった。お参りをするための賽銭箱の前までくると、跡部はためらいもせず、そ
の鍵を賽銭箱の中に投げ入れた。
「あっ!」
「こうしなきゃ、外せちまうだろ?この神様に預けておけば安心だと思ってよ。」
「なるほど。確かにそうだな。」
「せっかくだからお参りもしていこうぜ。」
「おう。」
お賽銭ではないが、その代わりになるもっと重要なものを入れ、二人はガラガラと大きな
鈴を鳴らし、手を合わせる。もちろん二人の願いは同じであった。
「よし、それじゃそろそろ帰るか。運転手も結構待たせちまってあるしな。」
「ああ。」
もう十分楽しみやりたいことはやりきったと、跡部も宍戸も満足気な顔で車に向かって歩
き始める。少し離れた場所での夏祭りは二人にとって、かなり有意義な時間になり、よい
思い出になった。
「なあ、跡部。」
歩いている途中、宍戸はそっと跡部の手を握って、名前を呼んだ。非常に自然な流れだっ
たので、跡部は立ち止まりもせず、宍戸の手を握り返すことで返事をする。
「何だ?」
「この祭り、また来年も来てぇな。あの南京錠がちゃんとついたままか確かめたいし。」
「そうだな。俺的にもこの祭りは結構楽しめたし、テメェが行きたいなら全然構わねぇぜ。」
「なら、来年も絶対一緒に来ような!」
「ああ。」
宍戸が笑ってそう言うのを見て、跡部も笑って頷いた。そんな二人の姿を見て、この神社
に祀られている縁結びの神様も静かな微笑みを浮かべるのであった。

                                END.

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