Heartfull Night

リクエスト内容『岳忍で忍足さんが岳人に甘い感じ』

〜〜〜♪ 〜〜〜〜♪
「何や?こないな時間に・・・」
もう夜更けとも呼ばれる時間に、突然携帯電話が鳴り出す。こんな遅い時間に誰だろうと
思いながら、忍足は電話を取った。
「もしもし?」
『もしもし?侑士?』
「何や、岳人か。こんな時間にどうしたん?」
『俺ね、今、侑士んちの近くの公園にいるんだ。』
「はあ!?だって、もう11時近くやで。そんなとこで何しとるん?」
呆れたような口調で、そう問いただすと岳人はしばらく黙っている。これは何かあるなあ
と思いつつ、忍足は岳人の言葉を待った。
『・・・・家出してきた。』
「またかいな。全くしょうがないなあ。」
『だってよー、親父がさあっ・・・』
「はいはい。今、そこに迎えに行ってやるからそこで待っとき。」
『お、おう。』
岳人が家出してくるのは、しょっちゅうあることなので、忍足はしょうがないなあと思い
ながらも、公園まで迎えに行ってやる。玄関まで来ると、風呂上がりの姉に見つかり、声
をかけられる。
「侑士、こんな遅くにどこ行くん?」
「また岳人が家出してきたみたいで、ちょっと迎えに行ってくるだけやで。」
「なるほど。それじゃ、今日はまた岳人くんがお泊りするわけやね。」
「そーいうこと。すぐそこの公園だから心配せんといてな。」
「了解。」
忍足の姉も岳人のことはよく知っているので、くすくすと笑いながら自分の部屋へと向か
う。もう冬真っ只中でかなり外は冷えるので、忍足はコートを羽織り、マフラーと手袋を
身につけて外へ出た。

公園に入ると岳人はブランコに座って、白い息を吐きながら手を温めようとしていた。か
なり気温が低いにもかかわらず、岳人は薄いコートを羽織っているだけで、マフラーや手
袋などの防寒具は一切身につけていなかった。
「岳人。」
「あっ、侑士。」
「ったく、家出するのは勝手やけど、もう少しちゃんとした格好で出て来ぉへんと風邪ひ
くで。」
そう言いながら、忍足は岳人の首に自分の巻いていたマフラーを巻いた。そして、つけて
いた手袋を片方外し、岳人に渡す。
「サンキュー侑士。でも、それじゃあ侑士が寒くなっちゃうだろ?」
「別に家はすぐそこやし、かまへんよ。それより、岳人、手ぇメッチャ冷たいやん。」
むき出しになっている手で岳人の手に触れると、氷のように冷たくなっていた。手袋がつ
けられない方の手は、自分の手で温めてやろうと、忍足は岳人の右手を自分の左手で握る。
「侑士の手、超あったけー!!」
「まあ、さっきまで室内にいたからな。ほら、行くで。」
岳人の手を引き、忍足は自分の家に向かって歩き出す。家出をしてきたことをそれほど咎
めることなく、優しく声をかけてくれる忍足に、岳人はひどく安心する。先程まで、父親
とケンカをしたことでひどくイライラしていたが、忍足のぬくもりに触れ、そんな気分は
完全にどこかへ飛んでいってしまった。
「侑士。」
「何や?」
「また家出してきて怒ってる?」
「別にいつものことやからな。それほど、気にしてへんで。」
「本当に?」
「ホンマやって。どないしたん?」
「今日な、親父にお前は自分勝手な行動をしすぎてるって怒られてよぉ。侑士もそう感じ
てるんだったら、やっぱりイライラすんのかなあと思って。」
少ししょぼんとした表情で、岳人は呟く。今回のケンカの原因はそれかと思いながら、忍
足は苦笑した。
「確かに時々呆れることもあるで。」
「やっぱり・・・」
「でもな、自分のしたいように動けるって悪いことばっかやないと思うねん。俺はそんな
岳人を見てて、少し羨ましいなあと思うし、エエとこやなて思うで。」
「侑士・・・」
忍足の言葉に岳人はうるっときてしまう。ケンカしてきて家を飛び出してきてしまったこ
ともあり、ほんの少し情緒不安定になっているのだ。泣いてしまいそうなのを堪えるため
に、岳人は忍足の手をぎゅうっと握った。
「痛いで、岳人。」
「手冷えてて、すっごい寒いんだよ!」
「分かった分かった。ほら、もうすぐ着くから。」
もう忍足の家はすぐそこだった。自分の家に到着すると、忍足は他の家族の迷惑にならな
いように、出来るだけ音を立てないように、玄関のドアを開け、中に入った。
カチャ
「おかえり侑士。いらっしゃい、岳人くん。」
『あっ。』
「外寒かったやろ?お風呂場に岳人くんの服用意しといたから、入って温まり。」
家の中へ入ると、忍足の姉が笑顔で二人に声をかけた。
「気利くやん姉貴。」
「せやろ?ゆっくりしてってな、岳人くん。」
「あ、ありがとうございます!」
まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので、岳人はドギマギしながら忍足の
姉にお礼の言葉を述べる。必要なことだけ伝えると、忍足の姉はにこっと微笑んで、自分
の部屋へと戻って行った。
「忍足の姉ちゃん、超いい人だよな!」
「いつもはこんな気の利いたことせぇへんのになあ。」
「本当に俺、風呂入っちまってもいいのか?」
「ああ、全然かまへんで。出てきたら、直接俺の部屋にくればええからな。」
「分かった。本当いろいろサンキューな、侑士!!」
冷えた体を温めたいと、岳人は忍足や忍足の姉の好意に甘え、用意された風呂に入ること
にした。

風呂に入り、じっくりと温まった岳人は、用意されていたパジャマに着替えると、そのま
ま忍足の部屋へと向かった。部屋に入ると、忍足はいつもつけている眼鏡を外し、ベッド
で小説を読んでいた。
「風呂、サンキューな。いい湯だったぜ。」
「ああ、出たんやな。」
岳人が部屋に入ってきたのに気づくと、忍足は読んでいたページにしおりを挟み、小説を
読むのをやめた。
「別にまだ読んでてもいいのに。」
「暇つぶしに読んどっただけやからな。」
「ふーん、そっか。」
濡れた髪を拭きながら、岳人は忍足の隣に腰掛ける。忍足の隣に座ると、岳人はじっと忍
足の顔を眺めた。
「何や?岳人。そんなにじっと見つめてきて。」
「んー、何か眼鏡外した侑士の顔見るの久しぶりだなーって思って。」
「せやったっけ?」
「うん。学校じゃいつもつけてるし、最近、こんなふうに泊まりに来ることもなかったし
な。」
「あんまり見んなや。・・・恥ずかしい。」
あまりにも岳人がまじまじと顔を見てくるので、何だか恥ずかしくなってきてしまう。た
だ見ているだけなのに、ここまで照れる忍足が可愛いと、岳人は少しからかいたくなって
くる。
「そんなに恥ずかしいんだったら、目つぶってりゃいいんじゃねぇ?」
「うっ、確かにそうやけど・・・」
「ほら、目つぶれよ。」
どうして目をつぶらなければならないのかと思いつつ、忍足は素直に目をつぶる。本当に
素直で可愛いなあと思いながら、岳人は忍足の唇にちゅっとキスをした。
「っ!!??」
唇に何かが当たる感覚に、忍足は思わず目を開けてしまう。目の前にある岳人の顔にビッ
クリし、忍足は声にならない声を上げた。
「あははは、侑士、驚きすぎー。」
あまりにも驚いている忍足を見て、岳人は腹を抱えて笑う。そこまで笑うことないだろう
と、忍足は真っ赤になりながら、少し拗ねたような顔をする。
「い、いきなりキスなんかされたら、ビックリするに決まっとるやろ!!」
「いやー、目つぶってる侑士があんまりにも可愛かったからさ。」
「岳人がつぶれって言うたやん。」
「まさか本当につぶってくれるとは思ってなかったし。だから、つい、ね。」
「ったく、ホンマにビビったわ。」
「ゴメンゴメン。」
反応の一つ一つが可愛いと、岳人は顔が緩むのを抑えられないまま、忍足に謝る。心臓が
ドキドキと速くなるのが治まらず、忍足は火照る顔をパタパタと手で扇いだ。眼鏡を外し
たままで、しかも、ほどよく紅潮している忍足の顔を見て、岳人は何だかムラムラしてき
てしまう。
「なあ、侑士。」
「今度は何や?」
「今、侑士と超したい。ダメ?」
あまりに率直な岳人の言葉に、忍足の顔はゆでだこのように真っ赤に染まる。心臓もうる
さいくらいにドキドキし、いつもの忍足では考えられないくらい冷静さを失っていた。
「な、何言うとんねん!!」
「だって、侑士、マジ可愛いんだもんよ。しょうがねぇじゃん!」
「また、岳人はそないに自分勝手に・・・・」
その言葉を口にした瞬間、岳人の顔が曇った。今日はその言葉が原因で家出をしてきたの
だ。これは言ってはいけなかったと、忍足は口をつぐむ。
「分かってるよ!俺が自分勝手だってことは!!でも、俺が侑士としたいと思うのは、俺
がただしたいって思うだけじゃなくて、侑士のことがマジ好きだって思ってるから・・・」
泣きそうになりながら、岳人は少しイラついているような口調でそう言い放つ。その言葉
を聞いて、忍足は胸がときめき、絆されたような気分になる。
「分かっとるよ。・・・悪かった、自分勝手なんて言って。」
「違っ・・・ゴメン、謝んなくちゃいけないのは俺の方・・・・」
「ええよ。岳人のしたいこと、何でもすればええ。」
「でもっ・・・」
「岳人、俺も岳人と同じくらい、岳人のコトが好きなんやで?」
ふっと優しい微笑みを浮かべて、忍足はそんなことを言う。そんな忍足の言葉に、岳人は
ひどく胸を打たれた。
「本当に・・・本当にいいの?侑士。」
「ええって言っとるやん。俺の気が変わる前に早くやった方がええと思うけど?」
「する!!したい!!」
「はは、じゃ、始めよか。岳人。」
ある意味忍足から誘っているようなセリフに、岳人はドキドキしてしまう。少しの余裕を
見せながら、そんなことを言った忍足も、本当は全く余裕がなかった。速いリズムを刻む
鼓動が重なり合うと同時に、二人の唇はゆっくりと重ね合わせられた。
(ホンマに俺は、岳人には甘いなあ・・・)
心地よいキスの感覚に酔いしれながら、忍足はそんなことを思っていた。

するべきことが終わると、岳人も忍足もしっかりとパジャマを着直し、一つの布団の中で
横になっていた。体はすっかり疲れているのだが、何だかそのまま眠ってしまうのはもっ
たいないような気がして、二人はまだ眠らずにいる。
「岳人、まだ眠らんの?」
「んー、眠いっちゃ眠いんだけど、も少し侑士の顔見てたいなあって思って。」
「何やそれ?」
岳人のまだ眠らない理由を聞いて、忍足はくすくす笑う。しかし、忍足も岳人と同じよう
な理由でまだ眠りたくないと思っていた。
「侑士だって、眠いんじゃねぇの?俺より疲れてるはずだろ?」
「まあ、そりゃそうなんやけど・・・せっかく岳人がいるのに先眠っちゃうのは悪いかな
ーと思て。」
「別にそんなの気にしなくていいし。俺が勝手に押しかけてきちゃったようなもんなんだ
からさ。」
「せやけど、俺、まだ岳人と話してたいねん。岳人が起きてるんやったら、俺も起きてる。」
何だか可愛いことを言ってくれるなあと、岳人は顔を緩ませる。その言葉が嬉しくて、岳
人は布団の中にある忍足の手をぎゅっと握る。
「何や?」
「少しでも侑士とどこかで繋がってたいなあと思ってさ。」
そんな岳人の言葉を聞いて、忍足は何だか胸がポカポカと温かくなり、嬉しくなる。自分
のところに来た時は、あんなにも冷たかった手が、今は自分の手よりも暖かくなっていた。
「岳人の手ぇ、あったかいなあ。」
「そうか?きっと、侑士が隣で寝てるからドキドキして熱くなってんだよ。」
「さっきの方がドキドキしてたやろ?」
「アレはまた別だって。さっきはずっとドキドキしっぱなしって感じだけど、今は安心し
てる気分とドキドキしてる気分が半分くらい。」
「確かにそう言われてみればそうかもしれへんなあ。」
好きな人と一緒に眠っているというドキドキ感と、一緒に居るために感じられる安心感。
それが二人にとっては、とても心地よかった。
「侑士。」
「ん?」
「・・・今日はありがとな。あと、いろいろ迷惑かけてゴメン。」
「そんなの気にせんでええって言っとるやろ?俺は、向こう見ずで自分勝手で、思った通
りのことをしたり言ったりする岳人が好きなんやで。冷静に物事考えて、しっかり計画を
練ってから動く岳人だったりしたら、逆にキショイわ。」
「うわあ、ひっでぇー!」
「せやから、岳人はそのまんまでええねん。たとえ親父さんとそのことでケンカしようが、
月に何度も家出しようが、それが岳人やん?俺に出来ることがあるなら、俺を頼ればええ
し。それが俺は嬉しいんやからな。」
どうしてこう嬉しいことばかり言ってくれるのだろうと、岳人は忍足のことをたまらなく
愛しく思う。この気持ちをどう伝えようかと考えるが、なかなかいい手が見つからない。
仕方がないので、忍足の腕をぐいっと引っ張り自分の方へと引き寄せた。
「わっ!!」
「侑士、すっげぇ今の言葉嬉しい。」
「あ、ああ。」
「俺も侑士のこと大好きだからな!!俺に出来ることだったら、何でも言ってくれよ。俺
だって侑士に頼られるの嬉しいんだからな!!」
ぎゅうっと抱きしめられながらそんなことを言われ、忍足は思わず顔が緩んでしまう。こ
ういう率直な行動や言葉が大好きだと、忍足は岳人に対する想いを更に募らせた。
「岳人。」
「何?」
「キスしてくれへん?」
「えっ!?何で?」
「そういう気分なんやって。な?」
「お、おう。侑士がして欲しいって言うなら、いっくらでもしてやるよ。」
「おおきにな。」
ニコッと笑う忍足に岳人は心臓が壊れてしまいそうなほど、胸が高鳴る。たくさんの想い
が込められた甘い甘いキス。どんなラブロマンスを読むより、ドキドキして幸せな気分に
なるなあと、忍足は岳人との口づけを楽しむのであった。

                                END.

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