学園長のお使いで外出していた伏木蔵は、学園へ帰る帰り道で見たこともない綺麗な花を
見つける。
「わあ、可愛い花。何て花なんだろう?」
足元にある花を覗きこむように、伏木蔵はその場にしゃがみ込む。群生しているその花が
どんな花であるかを調べようと、伏木蔵は一本だけその花を折り取る。
「ちょっと痛いかもしれないけど、ごめんね。学園に戻ったら、ちゃんと水に差してあげ
るから。」
折り取った花にそう話しかけながら、伏木蔵は再び歩き始める。いい手土産が出来たと、
ご機嫌な様子で学園までの道を辿った。
学園に着く直前で、伏木蔵は手に持っていた花の香りを嗅いでみる。その瞬間、花粉が鼻
に入ってしまい、伏木蔵はくしゅんとくしゃみをした。
「はう〜、花粉が花に入っちゃった。」
むずむずする鼻を指で擦り、伏木蔵は学園へ入る門をくぐり、長屋へと向かう。長屋へ戻
る前にトイレへ行って来ようと、伏木蔵はトイレへと向かった。そこで、伏木蔵はありえ
ない事態に気づく。
「えっ・・・・?」
本来ならあるべきものがない。その為、どうやって用を足したらよいかも分からない。む
しろ、あまりにも驚きすぎて用を足したい欲求がどこかに消え去ってしまった。トイレか
ら出ると、伏木蔵はこのありえない事態に混乱する。
(えっと、えっと・・・アレがないってことは、ぼく女の子になってるってことだから、
えーっ!!)
とにかくこのことが他の者にバレてはいけないと、伏木蔵は無意識にそう思う。心臓がド
キドキするのを隠しつつ、伏木蔵は自分の部屋に向かう。
(とりあえず、外から見たらぼくが女の子になってるなんて分からないはずだから、いつ
も通りにしてれば大丈夫なはず。あっ、でも、お風呂入っちゃったらバレるかも・・・。
今日は他の人と一緒に入るのはやめよう。うん、そうしよう。)
こうなってしまうと、意外と頭が働くもので、伏木蔵はこれからどうするかを考える。幸
い変わっているところと言えば、男の子だけについているものがついていないというだけ
で、くノ一のように胸が膨らんでいるわけではない。お風呂さえ気をつければ気づかれな
いと思いながら、伏木蔵はいつも通りを装うことにした。
他のクラスメイトや他のクラスの人がお風呂に入り終わるのを待ち、伏木蔵は誰も入って
いないような時間を狙って、お風呂に入る。裸になり、何故か変わってしまった箇所をま
じまじと見ながら、伏木蔵は困ったように真っ赤になる。
「何でこんなことになっちゃったんだろう・・・。とにかくさっさと入らないと。いつ誰
が入ってくるか分からないし。」
風呂場に誰もいないことを確認すると、伏木蔵は中に入り、テキパキと髪や体を洗ってし
まう。後は湯船に入って少し温まるだけと思った瞬間、ガラッと風呂場の扉が開く。
「っ!!??」
入ってきたの二年生の左近であった。他の二年生はいないようで、扉の前に立っていたの
は、左近一人であった。
「さ、ささ、左近先輩っ!?」
「おー、伏木蔵。お前も今、風呂か?」
「は、はいっ。さ、左近先輩も随分遅い時間に入ってきたんですね。」
なるべくいつも通りを装うとする伏木蔵であったが、目の前に居るのが好意を抱いている
左近ということもあり、頭の中は大パニックであった。とにかく気づかれないように、腰
に巻いてある手拭いをしっかりと握ると、伏木蔵は湯船に入ろうとする。手拭いを巻いた
上で水の中に入ってしまえば、そう簡単にはバレないと思っての行動だ。
「ぼ、ぼく、もうある程度体とか洗っちゃったんで、先に湯船に入りますね。」
「おう。」
自分も体を洗おうと、左近が伏木蔵とすれ違おうとした瞬間、伏木蔵は濡れた床に足を滑
らせる。
「あっ・・・!!」
「危ないっ!!」
とっさに左近は伏木蔵の体を支えた。左近のおかげで転ばずに済んだが、バランスを崩し
たことにより、ハラリと腰に巻いていた手拭いが落ちてしまった。
『っ!!!???』
手拭いが落ちてしまったことにより、伏木蔵が必死で隠そうとしていた場所は左近の目に
晒される。バレてしまったと慌てる伏木蔵だが、それ以上に左近の方がありえないほど顔
を真っ赤にして、パニくっていた。
「な、なな・・・ふ、伏木蔵っ、お、おま、お前っ・・・女の子だったのか!?」
「ち、違います違います!!こ、これはそのっ・・・ぼくにもよく分からないんですけど、
急にこんなことになってしまって・・・・」
「急にこんなことになるってありえないだろ!?えっ・・・ちょっ、待っ・・・」
あまりにパニックになっている二人は、まともに話をすることが出来なくなっていた。し
かし、人間ある程度あたふたすると逆に冷静になるもので、しばらくすると伏木蔵は落ち
着きを取り戻す。
「も、もうちょっと落ち着いて話しましょう、左近先輩!」
「そ、そう、そうだな。」
「誤解しないでくださいね、ぼく本当にちゃんと男の子ですから。・・・確かに今は女の
子になっちゃってますけど・・・」
「お、おう・・・」
「今日、学園長のお使いから帰ってきて、長屋に帰る前にトイレに行ったんですよ。そし
たら、今みたいな状態になってて・・・」
「何かこうなった心当たりとかないのか?」
「特にはな・・・・あっ!!」
特に思い当たることはないと思っていた伏木蔵であったが、ふと帰り道に摘んできた花の
ことを思い出す。もしかしたら、あの花が原因なのではないか。そんなことが伏木蔵の頭
をよぎった。
「な、何かあるのか?」
「帰り道に見たこともない綺麗な花が咲いていたんで、何ていう花か調べたくて、一本だ
けその花を摘んできたんですよ。それで、学園に入る前に匂いを嗅ごうとしたら、花粉が
鼻に入っちゃって・・・」
「確かにそれは怪しいな。」
まだドキドキしている左近であるが、ここは先輩として何かアドバイスをするべきだと必
死で気持ちを落ち着けようとする。もしその花が原因であるならば、薬草の知識に長けた
伊作に相談するのが一番手っ取り早い解決の糸口だと、左近はそう伏木蔵に伝えた。
「とりあえず、伊作先輩に相談してみよう。その花、捨ててはないんだろ?」
「はい。ちゃんと花瓶にいけてあります。」
「じゃあ、風呂からあがったら、伊作先輩のところに行くぞ。」
「は、はい。」
このことを他の人に知られるのは恥ずかしいと思う伏木蔵であったが、伊作ならば何とか
してくれるかもしれないと、左近の提案を呑む。やはり、左近は頼りになるなあと思いな
がら、伏木蔵は心の中でふっと笑った。
まだ保健室に残って仕事をしていた伊作のところへ行くと、二人は事の成り行きを話す。
「確かにそれは、その花が怪しいね。」
「やっぱり先輩もそう思いますか?」
「ちょっと詳しく調べてみたいから、その花預かってもいいかな?」
「はい。あの・・・原因とかどうやって戻るかとかが分かったら、教えてください。」
「うん、もちろん教えるよ。でも、よかったね、外から見る限りではそんなに変わってな
くて。それなら、他の子にバレるってことはそうそうないと思うよ。」
いつも通りに見える伏木蔵を見て、伊作は苦笑しながらそんなことを言う。しかし、あか
らさまに女の子になっている部分を確認してしまった二人は、顔を見合せて真っ赤になっ
ていた。
「確かに外から見たら変わらないですけど・・・あれはちょっとビックリしますよ。」
「あるはずのものがないって・・・結構ショックですよ?」
「あはは、そうだよねー。でも、せっかく女の子になってるんだから、二人でデートでも
してくれば?ちょうど明日は休みだし。」
『えっ!?』
思わぬ伊作の提案に、左近も伏木蔵もドギマギしてしまう。性別が変わってしまったとい
うことでパニックになっていたため、そんなことを考える余裕はなかった。
「デ、デートって・・・」
「んー、伏木蔵が女の子に格好して、二人で町に遊びに行くって感じでさ。滅多に出来な
い体験だと思うよ?」
「た、確かにそうですけどぉ・・・・」
それはまた恥ずかしいと、二人は顔を見合わせる。しかし、伊作の言う通り、確かに楽し
そうではある。
「どうする?伏木蔵。」
「えっ!?えっと・・・ぼくは、左近先輩が嫌じゃなければ、行きたいなあと思うんです
けど・・・」
恥ずかしそうにそんなことを言ってくる伏木蔵に、左近はキュンとしてしまう。確かにこ
んなチャンスは滅多にない。ここは思い切って行ってみようと、左近は伊作の提案を受け
入れることにした。
「じゃ、じゃあ、明日町に行くか。」
「は、はいっ!!」
照れつつも左近はそうハッキリと言い放つ。そんな左近の言葉に伏木蔵は笑顔で頷いた。
あまりにも可愛らしい二人のやりとりを見ていて、伊作は思わずニヤけてしまう。
(やっぱ、二人とも超可愛いなあ。それにこの花、なかなか面白そうだし。もし本当に女
の子になれるなんて効果があるなら、相当楽しいことが出来るかも。)
うきうきとした様子で伊作は、伏木蔵から受け取った花を机の上に置く。明日の予定を話
す二人を見ながら、伊作はその花を調べる準備をし始めた。
次の日、伏木蔵はめいいっぱいおめかしをして左近の前に現れる。級友には、女装の練習
に先輩が付き合ってくれるという名目で話をしていた。
「お、お待たせしちゃってすいません!!左近先輩!!」
二人分の外出届を持って、左近は門の前で待っていた。想像以上に可愛くなっている伏木
蔵の姿を見て、左近はドキドキしてしまう。
「そ、そんな格好してると、本当まんま女の子だな。」
「まあ、今は本当に女の子になっちゃってますから。」
苦笑しながら、伏木蔵はそんなことを言う。あまりにも可愛い伏木蔵を直視出来ないと、
左近はすたすたと伏木蔵の前を歩き始める。
「ほら、行くぞ!」
「は、はいっ。」
前を歩く左近に追いつこうと、伏木蔵はパタパタと早足で歩く。左近の横に並ぶと、伏木
蔵はきゅっと左近の袖を握った。
「な、何だよ?」
「あ、あの・・・・」
恥ずかしそうにうつむいていた顔をバッと上げて、伏木蔵は思いきったことを言う。
「手、繋いで下さい!!」
「なっ・・・!?」
「ダ、ダメですか・・・?」
左近が驚くような反応をするので、伏木蔵は残念そうな表情を浮かべてそう問う。恥ずか
しいが、大好きな伏木蔵は可愛い格好をしてそんなことを言ってきてくれているのだ。こ
れは、断る方がもったいないと、左近はそっぽを向きながら、伏木蔵に左手を差し出した。
「ほら。」
「えっ・・・?」
「お前が手繋ぎたいって言ったんだろ!!」
「は、はい!ありがとうございます!!」
差し出された手を、伏木蔵はきゅっと握った。これから左近とデートが出来ることが嬉し
くて、伏木蔵はふふっと笑顔を浮かべる。
「何、そんなに笑ってるんだよ?」
自分の行動がおかしかったのかと思い、左近はほんの少し不機嫌気味な声でそう問うが、
伏木蔵は首を横に振り、にっこりと笑いながら笑顔の理由を話す。
「だって、左近先輩と一緒にお出かけ出来るんですよ?そう思うと、自然に顔が緩んで来
ちゃうんです。」
「そ、そうか。」
自分と出かけることが嬉しいと聞いて、左近の胸はひどく高鳴る。柔らかい小さな手のぬ
くもりが、より大きなときめきをもたらす。たまには、こんなふうな雰囲気を味わうのも
悪くないなあと、左近も口元を緩ませた。
町に到着すると、二人は様々な店を見て回る。普段は見ない髪飾りを見たり、小物を見た
りと、いかにもデートらしいことをして楽しんだ。しばらく歩いていると、お腹が空いて
きたので、二人は美味しいと評判の団子屋に入る。
「たくさん歩いたんで、お腹空いちゃいましたね。」
「そうだな。伏木蔵はどれ食べる?」
「えーと・・・どれにようかな?どれも美味しそうだし・・・」
「ぼくは、このよもぎ団子にしようかと思うんだけど。」
「本当ですか?じゃあ、ぼくは三色団子にします。」
それぞれ自分の食べたい団子を決めると、それを注文する。それほど時間をかけずして、
注文した団子は二人のもとへ運ばれて来た。
『いただきます。』
声をそろえてそう言うと、二人は目の前にある団子を食べ始めた。噂通り、その団子はと
ても美味しく、二人は舌鼓を打った。
「うわあ、美味しいですね!!」
「ああ、噂通りだな。」
「これなら一皿ぺろっと食べられちゃいますね。」
「そうだな。なあ、伏木蔵。お前の頼んだ団子、一口味見させてくれよ。」
人が食べているものは、美味しそうに見えるもので、左近は伏木蔵にそう頼む。そんな左
近の言葉に伏木蔵は笑顔で頷いて、自分の食べていた団子をすっと左近の口元に差し出し
た。
「どうぞ、左近先輩。」
「えっ・・・どうぞって。」
「あーんしてください。」
食べさせてもらうなんて恥ずかしいと思いつつも、あまりに可愛らしい伏木蔵にやられて、
左近は素直に口を開けてしまう。口に入れられたピンク色の団子をパクッと食べると、左
近は伏木蔵を見ながら、もぐもぐと口を動かした。
「美味しいですよね?左近先輩。」
「あ、ああ。美味いな。」
「へへ、やっぱり二人で一緒に食べると違いますね。」
本当に嬉しそうに素直にそう言ってくる伏木蔵に左近はたじたじだ。本当はもっと自分が
いろいろしてあげたいのだが、恥ずかしくてなかなか実行に移せない。何かしてやりたい
なあと考えていると、伏木蔵はクシュンと小さくくしゃみをする。
「大丈夫か?」
「はい。何かちょっと鼻がむずむずしちゃって。」
「風邪か?」
「いえ、たぶん違うと思います。きっと誰かがぼくの噂をしてるんですよ。」
はにかみながらそう言う伏木蔵に、左近はきゅんとしてしまう。もうどんな仕草でも表情
でも伏木蔵が可愛く思えてしまうため、左近は胸がドキドキしっぱなしだった。
「あ、あの・・・ぼく、ちょっとトイレ行ってきますね。」
「ああ。」
トイレに向かった伏木蔵を見送りつつ、左近は自分の手元にある団子を食べる。しばらく
すると、少し様子の違った伏木蔵が戻ってきた。
「左近先輩っ!!」
「どうした?そんなに慌てて。」
「ぼく、男の子に戻ってました!!」
「本当か!?」
「はい!よかったです。元に戻らなかったらどうしようかと思ってましたから。」
ホッとしたように笑う伏木蔵を見て、左近も安心したような笑みを浮かべる。そして、か
らかうような口調で少し冗談を言ってみた。
「ま、女の子のまんまだったら、ぼくが嫁にもらってやったんだけどな。」
「ええっ!?」
まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので、伏木蔵は真っ赤になって驚くよ
うな声を上げる。そんな伏木蔵の反応を見て、左近は自分がものすごいことを言ってしま
ったということに気がついた。
「あっ・・・い、今のは何だっ・・・口が滑ったというか・・・と、とにかく忘れろ!!」
「そ、そんな・・・無理ですよ。」
「な、何でだよっ!?」
「だってぼく、今の言葉、すっごいすっごい嬉しかったですから。」
恥ずかしそうに笑ってそう言う伏木蔵に、左近は完璧に落ちる。恥ずかしいのと嬉しいの
が半々で、もう何を言っていいのか分からなくなっていた。
(あー、もうどうすればいいのか分からん!!)
「あ、あの・・・左近先輩。」
「な、何だよ・・・?」
「男の子に戻っちゃいましたけど、もう少し一緒に居てくれませんか・・・?」
男の子に戻ったと言えども、その姿はまだ可愛らしい女の子のままだ。そんな伏木蔵のお
ねだりに、左近はかあっと顔を赤く染める。しかし、まだ一緒に居たいと思うのは、左近
の方も同じであった。
「べ、別に男とか女とかは関係ないだろ。・・・ぼくは、伏木蔵と一緒に居てやってるん
だから。」
ちょっとツンとした感じでそう言う左近の言葉を聞いて、伏木蔵は花が咲いたような明る
い表情になる。思わずぎゅうっと左近の腕に抱きつき、その嬉しさを全身で表した。
「わわっ!!な、何抱きついてんだよ!?」
「嬉しいです、左近先輩!!ぼく、やっぱり左近先輩のこと大好きです!!」
「なっ・・・!!こ、こんなところで何言ってんだよっ!?」
「日が暮れるまで、もっとたくさんデートしましょうね!」
あまりにもはしゃぐような態度を見せる伏木蔵に困惑しながらも、左近はその言葉に頷い
てしまう。本当に自分は伏木蔵にハマっているのだなあと思いながら、左近は胸いっぱい
のときめきを持て余していた。
心行くまでデートを存分に楽しむと、二人は学園に帰る。学園に帰ると何だか上級生の長
屋の方が騒がしかった。
「何か騒がしいな。どうしたんだろう?」
「さあ?何かあったんですかね?」
二人がそんなことを離していると、そこへ三郎次と久作がやってくる。
「おー、おかえり左近。デートは楽しかったか?」
「なっ・・・何言ってんだよ!?」
「それより、六年生が大変なことになってるんだぞ。」
『大変なこと??』
久作の言葉に左近も伏木蔵も首を傾げて聞き返す。すると、バタバタと廊下を走る六年生
が見える。
『伊作――っ!!待て――っ!!』
「待たなーい!!」
『っ!?』
走る六年生の姿を見て、二人は違和感を感じる。確かにどうみても六年生であるのだが、
何だかいつもと違う。それは、昼間の伏木蔵と同じ変化であった。
「六年生全員、女の人になってる??」
「ですよね。伊作先輩があんなに他の先輩に追いかけられてるってことは・・・・」
「きっと、あの花で何かやらかしたんだな。」
「あの花?何の話だよ?」
「い、いや、別になんでもない。」
「気になるだろー!教えろよ!!」
あの花のことを知られたら、きっと面倒くさいことになると左近は二人に伏木蔵がとって
きた花のことをあえて言わなかった。
「でも、伊作先輩も女の子になってますよね?」
「そうだな。悪戯するにしても自分もなっちゃうなんて・・・」
「ぼくらが言うのも何ですけど・・・」
『さすが、不運委員長。』
声をそろえてそう言うと、二人はぷっと吹き出し、声を上げて笑い出す。理由が分かって
いるからこそ笑えるが、三郎次や久作はわけが分からず、ただ不思議そうに首を傾げるだ
けだ。結局、六年生は数日間女の子になったままだった。男の子に戻るきっかけが、「く
しゃみ」だということに気づくのは、時間が経ったら戻るのではなく、何かがきっかけで
戻るということに気づいた左近と伏木蔵が、それを伊作に伝えてからであった。
END.