「こんにちはー。」
休日の昼間、甲斐は特にすることがなく暇だったので、平古場の家にやってきた。外にい
た平古場の母親に挨拶すると、平古場が家にいるかを尋ねる。
「あら、いらっしゃい裕次郎くん。」
「凛、家にいるば?」
「部屋にいるはずよ。でも、誰かと電話してるみたいだったねー。」
「電話?」
「そう。ヤマトグチで話そうとしてたから、内地の子かねー?ほら、テニスの大会で、東
京に行ったでしょー?そこで会った友達なんじゃないかね。」
「ふーん。」
確かに全国大会で東京に行ったが、平古場が他校のメンバーと仲良くなったという話は聞
いていなかった。誰と話しているんだろうと、甲斐はその相手が気になってしょうがない。
「凛の部屋、上がっていい?」
「構わないさー。あっ、私とおばあとでこれから買い物に行って来なきゃいけないんだけ
ど、そのこと、凛に伝えといてくれる?」
「了解。いってらっしゃい。」
「はい、いってきます。おばあ、出かけるよー。」
「あー、はいはい。」
平古場の代わりに母親と祖母が出かけるのを見送ると、甲斐は平古場の家へ上がった。そ
して、迷わず平古場の部屋へ向かう。
(電話って、誰としてるんだろ?俺を差し置いてー。)
暇なら自分と遊んでくれればいいのにと思いながら、甲斐は平古場の部屋のドアを開ける。
ノックもなしに開けたのだが、平古場は特に気にする様子もなく、そのへんで座って待っ
ててくれというのをジェスチャーで伝えた。
「そうだなー、俺はあんまりしたことないけどー、真栄田岬とか万座ドリームホールとか
が有名だぜ。」
(ダイビングの話か?)
平古場が話している内容を聞いて、甲斐はそんなことを考える。しかし、誰と話している
のかは、さすがに推測することが出来なかった。
「へぇ、そりゃすごいなー。ホントにこっちに来る機会があったら、見せてくれよ。」
実に楽しそうに平古場は喋っている。いつの間にそんなに仲良くなった奴が出来たのかと、
甲斐は何となくイライラしてくる。
「あはは、マジかよ〜。その話、聞かせて聞かせて。」
甲斐が来ていることに気づいているにも関わらず、平古場は電話を終わらせるつもりは全
くないらしい。何とか気を紛らわそうと、平古場の部屋にある雑誌や漫画を開いたり、閉
じたりしていた甲斐であったが、やはり平古場のことが気になってしまう。結局、そのま
ま一時間近く放置され、甲斐のイライラはもう限界まで高まっていた。
「うん、じゃー、またな。面白い話、いっぱい聞かせてくれてありがとーな!」
もう大満足という顔で平古場は電話を切る。その表情がまた、甲斐の癪に障った。
「はあー、久しぶりにこんなに電話しちゃったぜ。」
「誰と電話してたば?」
むすっとした表情で、甲斐は尋ねる。あまりにも放っておいたから少し不機嫌になってる
だけだろうと、それほど気にせず平古場は笑顔でその質問に答えた。
「んー、とーきょーのルドルフの赤澤。全国大会には出てなかったけどよ、大会前の無人
島合宿には来てただろ?一緒に遭難しちゃった女の子達の送別会の時に、ちょっと話した
ら意外と気が合ってさー。あいつ、でーじ海のことに詳しいんだぜ!」
ダイビングが趣味な赤澤は、海についてはとても詳しい。今日は、沖縄にダイビングに行
くとしたら、どこらへんがオススメなのかを話し合っていた。それから、少し話がそれた
りして、実に盛り上がる長電話となったわけだ。他の学校の奴と仲良さげに話をしていた
ことにも腹が立っているのに、さらにその相手を褒めるときた。
(なんか・・・でーじわじわじーする・・・)
「で、今日は裕次郎何しに来たば?」
ご機嫌な様子で聞く平古場だったが、その言葉が甲斐をキレさせた。しかし、今回の甲斐
のキレ方は、怒鳴ったり手を出したりするのではなく、全く違う方向へのキレ方だった。
いつも首から下げている指輪のついた紐で、甲斐は平古場の手首を後ろ手に縛ってしまっ
た。何が起こったか分からない平古場は、文句も言う暇も抵抗する暇も与えられず、甲斐
の唇で、その口を塞がれていた。
「んっ・・・ぅ・・・」
イラついているわりには、甲斐のキスはひどく優しく、しかし、確実に平古場を煽るよう
なものであった。だんだんとぼやけてくる意識の中で、平古場はどうしてこんなことにな
っているのか考えていた。
(裕次郎の奴・・・怒ってる?なんでだ・・・?)
唇を離されると、平古場は呼吸を乱しながら甲斐の名を呼ぶ。
「ハァ・・ハァ・・・ゆ、裕次郎・・・?」
しかし、甲斐は黙って平古場のシャツをめくり、跡がつくくらい肌に吸いつき、いくつも
のキスマークを残す。それは、まるで平古場が自分のものであるということを主張するか
のようであった。
「んっ・・・ぁ・・・ゆうじ・・ろ・・・・」
甲斐の唇が肌に触れるたびに平古場は甘い声を漏らす。縛られている手首が少々痛いが、
口づけられる快感の方が何倍も強く、そんなことは大して気にならなかった。
「あっ・・・ふあっ・・・!」
と、一際大きな声が上がってしまった瞬間、平古場はあることに気づく。今日は休日で、
家には母親もおばあいるはずだ。そのことに気づいた瞬間、平古場は初めて抵抗らしい抵
抗を見せる。
「あっ・・・ゆ、裕次郎っ・・・ダメ、今日は・・・かあちゃんも・・・おばあも・・・
家にいるからっ・・・・」
その言葉を聞いて、甲斐はニヤリと笑う。実際は、二人とも買い物に出てしまっていて、
この家にはいない。しかし、平古場はいると思いこんでいるのだ。それならば、そのこと
を使って、今日は少しお仕置きをしてやろうと考える。
「凛が声出さなきゃバレないさー。」
そう言いながら、甲斐は平古場のズボンを脱がしてしまう。そして、先程の口づけで半勃
ちになっている平古場の熱を左手で握り、ゆっくりと擦り始める。
「ふあっ・・・ん・・くっ・・・ダメっ、やっ・・・・!!」
「ダメとか言いながら、感じてんじゃん?」
「あっ・・・んんぅ・・・んくっ・・・・」
必死で声を押し殺そうとしている平古場だが、少し力を入れて擦られれば、嫌でも声が出
てしまう。絶妙な力の加減で、甲斐は平古場を追いつめる。声を我慢している所為か、平
古場自身、いつもより感じやすくなっているため、すぐに達してしまいそうになる。
「んんっ・・・ひ・・ぅ・・・ぁ・・・んっ・・・・」
(ああ、もうダメ・・・もう・・もうっ・・・)
もう一度、大きく擦られたら達してしまうというところまで高められた平古場であったが、
あともう一息のところで甲斐がパッと手を離す。ギリギリまで高められた状態で、今まで
与えられていた刺激がなくなり、平古場にもどかしいほどの切なさが襲いくる。
「あっ・・・ゆ、ゆうじろぉ・・・・」
「もう触ってないのに、凛のココ、でーじビクビクしてるな。」
「こんな状態・・・やだぁ・・・・」
ふるふると震えながら、懇願するような目で自分を見ている平古場を見て、甲斐はぞくっ
と体の奥底から興奮が湧きあがってくるのを感じる。
「これから俺の言うことが出来るんだったら、なんとかしてやるぜ。」
「・・・・何か?」
「手の奴、ほどいてやるから、後ろを自分の指で弄ってイってみろよ。前は触ったら、ダ
メだからな。」
「・・・・っ!!」
「それが出来ないって言うんだったら、そのままの状態にして、俺は帰るぜ。そんな格好
誰かに見られたら、大変だよなー?」
「・・・・何で・・・そんな・・・・」
そんなことは恥ずかしくて出来ないと思いつつ、このまま放置されるなどもっとあり得な
い。どうしてそんなひどいことをさせるのかと、半泣きになりながら、平古場は甲斐を見
た。
「出来ない?」
「・・・・・。」
甲斐の質問に平古場はうつむいたまま黙っていた。出来ないのだったら仕方がないと、甲
斐はすくっと立ち上がった。
「出来ないんだったら、俺は帰るさー。じゃあな、凛。」
本当に帰ろうとしている甲斐を見て、平古場は青ざめる。こんな状態で放置されて、母親
や祖母に見つかったらと考えると、羞恥心で心臓が止まりそうになる。
「やだっ・・・帰るな!!裕次郎っ!!」
「だってよー、凛、出来ないんだろー?」
「・・・する・・・するからぁ・・・・」
「じゅんになぁ?」
「する・・・ちゃんと・・・するから・・・帰るなぁ・・・」
ボロボロと涙を溢しながら、平古場は必死になって甲斐を止める。泣かせてしまったのは、
悪いと思っているが、今は罪悪感よりも興奮の方が勝っている。そこまで言うなら、見せ
てもらおうと、甲斐は手首を縛っていた紐をほどき、平古場の右手の指を丁寧に舐め始め
る。
「あっ・・・ひぅ・・・」
「指舐められるだけでも、そんなに感じるばー?」
「・・・・っ。」
甲斐が発する一言一言が、平古場の中の羞恥心を煽る。しかし、ドキドキと高鳴ってゆく
心臓が、その羞恥心とは裏腹に平古場の身体を敏感にさせていった。
「よし、これだけ濡らせばだいじょーぶだろ。」
「じゅんに・・・やらなきゃダメ・・・?」
震える声で平古場は問う。そんな平古場の言葉に、甲斐は当然だと言わんばかりに頷いた。
「ちゃんとしなきゃ、また手ぇ縛って、そのままだからな。」
「う・・・」
「ほら、凛。」
意地悪な笑みを浮かべ、甲斐は平古場の右手を開かれた足の中心へと持って行く。本当は
こんなことしたくないが、しなければもっと恥ずかしい思いをしなければならなくなる。
ぎゅっと目をつぶりながら、平古場はゆっくり自らの秘部に触れた。
「んぅっ・・・」
「早くイキたいんだろ?だったら、中に入れないとイけないぜ。」
「ハァ・・・んっ・・・ん・・くぅ・・・」
甲斐の言葉に促され、平古場は中指の第一関節あたりまで、その内側に埋める。違和感を
感じるが、いつもそこで甲斐自身を受け入れているのだ。全く入れられないということは
なかった。むしろ、一度侵入を許してしまうと、より大きな刺激が欲しいと、その蕾は疼
き始める。
「あっ・・・ハァ・・・はっ・・・・」
「もっと奥まで入れて、中を掻き回すんだぜ。」
「んっ・・・んあっ!!・・・ふっ・・・ぁ・・・・」
甲斐に言われるまま、平古場は自らの指をその内側のより深いところまで埋め、ゆっくり
と動かし始める。ぎこちない動きしか出来ないが、ひどく敏感な身体にはそんな刺激だけ
でも十分であった。
「あっ・・・あんっ・・・ひあっ・・・あっ!!」
(これは思ったよりクるかも・・・・)
自分で自分の入口を弄り、悩ましげな声を上げる平古場を前にし、甲斐の熱は一気に高ま
る。そんな平古場に甲斐は完全に心を奪われ、目が離せなくなる。
(恥ずかしいっ・・・裕次郎に見られて、しに恥ずかしいのにっ・・・・)
恥ずかしくて死にそうなのに、勝手に指は動いてしまう。途中まで抜いた指をもう一度中
に入れた瞬間、指の先が一番敏感な部分に触れた。
「あっ・・・ああぁ―――っ!!」
直接的な刺激に耐えられず、平古場は真っ白な精を放ちながら達してしまう。激しい羞恥
心と全身がとろけてしまいそうな快感。その両方が、平古場の頭の中をぐちゃぐちゃにし
ていた。
「ふっ・・・ハァ・・・ハァ・・・・」
ずるっと自分の中から指を抜き、平古場は激しく息を乱しながらぐったりと壁に寄りかか
る。そんな平古場を前にし、もう我慢が出来ないと、甲斐は平古場の手をぐいっと引き、
その体を前に倒した。
「ハァ・・・凛。」
平古場の後ろに回り、甲斐はその腰をしっかりと捉える。次の瞬間、平古場の狭い入口を
抉じ開けるかのように、大きな熱の塊がねじ込まれた。
「ひっ・・・ああっ・・・んあぁ――っ!!」
まだ落ち着いていない身体に、先程とは比べ物にならないような刺激を与えられ、平古場
は思わず大声を上げてしまう。
「そんな大きな声出すと、バレるぜ?」
「う・・・んぐっ・・・・ふぅ・・・」
家の者にバレるのは困ると、平古場はぐっと声を殺そうとする。その緊張からか、平古場
の内壁はいつもより強くぎゅうぎゅうと甲斐の熱を締めつけた。
(くっ・・・こりゃ、たまんないさー。)
平古場の内側の気持ちよさに浸っていると、甲斐はあることに気がついた。
「凛、ほんのすこーしでいいから、顔上げてみ?」
「んっ・・・く・・・」
甲斐にそう言われ、平古場はほんの少しだけ顔を上げる。そうして目に映ったものを見て、
平古場の心臓はドキっと跳ねた。
「あっ・・・い、いやっ・・・・」
思わずそう口にした理由。それは、自分と甲斐を映している姿見だった。本当に偶然では
あるが、自分達を鏡に映すような形で甲斐は平古場をうつ伏せに倒していたのだ。
「後ろからしてるのに、凛の顔がちゃんと見れるなんてさいこーだぜ。」
「やっ・・・こんなの嫌だっ・・・・」
「なんでよ?凛、でーじ可愛い顔してるぜ。」
ぐいっと身を進めながら、甲斐は平古場の顔を強制的に上げさせた。見たくなくても目を
開けていれば、甲斐と身を繋げている自分の姿が鏡に映っている。それが恥ずかしくて、
平古場はいつもより余計に感じてしまう。
「やだっ・・・嫌っ・・・ああっ・・・・」
「でーじ締まってるぜ。凛のココ。しに気持ちイイ・・・」
「ふあっ・・・ゆうじろっ・・・・動くなあっ・・・ひっ・・ああっ・・・・」
「こんなにイイのに、動かないわけにはいかないだろー?」
「んんっ・・・ダメっ・・・やあぁ・・・・」
拒絶の言葉とは裏腹に、平古場のそこはもっと奥まで甲斐の熱を味わいたいと甲斐の楔を
引き込むような動きを見せる。それがたまらなく気持ちがよく、甲斐は夢中になって平古
場の内側を擦り上げた。
(嫌なのにっ・・・恥ずかしくて死にそーなのにっ・・・・なんでこんな・・・・)
「あっ・・・やっ・・・ゆうじろぉ・・・・」
「ハァ・・・凛っ・・・俺、もうっ・・・・」
「あっ・・・もぉ・・・イ・・っちゃ・・・・・」
「凛っ!!」
切羽詰まったような声で甲斐は平古場の名前を口にし、後ろから平古場の体を抱きしめた。
そして、平古場の中に熱い雫を迸らせる。
「ふあっ・・・ああ―――っ!!」
内側が甲斐の放った雫でひどく熱くなるのを感じると、平古場も達してしまう。あまりの
快感に、今まで嫌というほど感じていた羞恥心はどこかに飛んでいってしまった。絶頂の
余韻に身を任せつつ、甲斐も平古場もゆっくりと目を閉じた。
平古場がぐったりとして、体を休めている間に、甲斐は後始末をする。ある程度、体力が
回復すると、ごそごそと脱がされた服を着ながら、平古場は不機嫌そうな声で甲斐に尋ね
た。
「裕次郎・・・何であんなことしたば?」
かなり平古場が怒っていることを察した甲斐は、平古場から目をそらしながら、ボソボソ
とした声で答えた。
「凛が、他校の奴らと仲良く話してんの聞いて・・・腹が立ったから・・・・」
「まあ、それは百歩譲って許すとするさー。けど、今日はかあちゃんもおばあも家にいる
から嫌だって、俺、言ったよなぁ?」
「ああ、それならだいじょーぶだぜ。二人とも買い物に行ってるから。俺が凛の部屋に来
る前に見送ったからゆくしじゃないし。」
「はぁ!?」
「凛に伝えてくれって頼まれてたんだけど、言わないほーが、凛が恥ずかしがって可愛い
反応見せてくれるかなーと思って。」
問題ないと笑いながらそんなことを言う甲斐の頬に、平古場の拳が勢いよく入った。あま
りに突然のことだったので、甲斐は頬を押さえて呆然としてしまう。
「・・・・ってぇ。」
「信じらんねぇ!!俺がどれだけ恥ずかしい思いしたと思ってるかよ!?あ、あんなこと
させてぇ・・・裕次郎のバカッ!!」
怒鳴るようにそう言い放つと、平古場はタオルを持って部屋を出て行く。このイライラを
抑えるのと、汚れた体を洗いに行くために、風呂場へと向かったのだ。部屋から出て行く
平古場を止めようともせず、甲斐は頬を押さえたまま、大きな溜め息をついた。
「さすがにアレは、やりすぎたかー。後でちゃんと謝ろう。」
怒らせてしまったことは反省しつつも、いつもとは一味違う平古場を見ることが出来たの
で、先程したことに対しての後悔はなかった。恥ずかしがりつつ怒っている平古場も可愛
いなあと、不謹慎なことを思いながら、殴られた頬を冷やしに行こうと、甲斐も平古場の
部屋を出た。
「ただいまー。あい!!裕次郎くん、その頬っぺたどうしたか?」
平古場の部屋を出ると、ちょうど買い物から帰ってきた平古場の母親とはちあわせする。
赤く腫れた甲斐の頬を見て、母親は驚いたような声を上げた。
「あー・・・凛と武術で勝負してたら、モロに入っちゃって。」
「あぎぢゃびよー、手当てしないとだねぇ。して、凛は何してるば?」
「でーじ汗かいたから、今、シャワー浴びてるさー。」
「全くあの子はぁ・・・今、救急箱持ってくるから少し待っててね。」
本当のことは全く言わず、甲斐はありえそうな嘘をつく。平古場の母親に殴られた頬の手
当てをしてもらいながら、平古場にどうやって謝ろうかを考えていた。
一方、シャワーを浴びている平古場は体を洗いながら、先程のことを考えていた。いつも
とは少し違ったことをさせられ、いまだに恥ずかしさは消えないが、平古場はあることに
気づいていた。
(でーじ恥ずかしかったけど・・・なんとなーく、いつもより気持ちよかった気ぃがする
んだよな。)
特に甲斐に入れられた後などは半端なかった。そんなことを考えていると、また顔が熱く
なってくる。そんな気分を誤魔化そうと頭から水を浴び、平古場は頭を振った。
「さすがにグーで殴るのはやりすぎたかな・・・」
恥ずかしさと怒りに任せて殴ってしまったが、結局は自分もいい思いはしているのだ。シ
ャワーから上がって、甲斐が帰っていないといいなあと思いながら平古場は、きゅっとシ
ャワーの水を止めた。
「出たら、裕次郎に殴っちゃったこと謝ろう。」
シャワーを浴びて、少し気分が落ち着いてきた平古場は、そんなことを考える。ふぅと息
をつくと、平古場は風呂場を出た。乾いたタオルで体を拭き、先程来ていた服に着替えな
がら、先程甲斐の言ってた言葉を思い出す。
(あんなことされるのはちょっと勘弁だけど、ヤキモチ焼かれるのは、そんなに嫌ではな
いなあ・・・・)
ヤキモチを焼かれるというのは、とても想われている証拠だ。そう考えると、ちょっとい
い気分かもしれないと思い、ついさっきまでは不機嫌顔だった平古場の顔に笑顔が戻る。
髪を拭きながら自分の部屋へ戻ろうとすると、廊下で頬の手当てをし終わった甲斐と、バ
ッタリ顔を合わせた。
『あっ・・・』
「凛。」
「裕次郎。」
『さっきは、ゴメン!!』
思わず重なった言葉に、二人は顔を見合せて、しばらく沈黙する。そして、ぷっと吹き出
し、声を上げて笑い始めた。ほんのちょっとしたいさかいも少し間を置けば、すぐに解決
してしまう。それは、何だかんだと言いながらも、お互いのことを心から想い合っている
が故に出来ることだ。先程のケンカモードが全くなくなった二人は、もう少し一緒にいよ
うと、再び平古場の部屋へと戻るのであった。
END.