時は戦乱の世。駆け巡るように過ぎるそんな時代に『鬼』と呼ばれた者がいた・・・・。
とある城に向かうための野原に、何十もの軍勢が一人の男を囲んでいた。二本の紅い槍を
手にしたその男の名前は向日岳人。同じ軍の仲間であり、恋仲である忍足侑士が敵方の城
に捕らわれたため、今この軍勢と戦うことを余議なくされている。何十人もの敵を前にし
ても、岳人の顔には怯みや焦りは微塵も感じられなかった。その表情に浮かんでいるのは、
狂気にも似た怒りと薄笑い。鳥がその場がから飛び立つかのように岳人は高く飛び上がり、
二本の槍を振り回した。
ヒュン・・・・ヒュ・・・
目にも止まらぬ速さで、岳人はそこに居る敵を倒してゆく。忍足に手を出す者は、どんな
者とて許せない。そんな強い嫉妬にも似た感情から、岳人は手に持つ槍をさらに紅く染め
ていった。
「侑士・・・」
顔についた赤い雫を手の甲で拭いながら、岳人は呟く。信じられい程の強さを目の当たり
にし、数人残った敵軍の侍はその場から逃げ出そうとするが、岳人はそれを許さない。忍
足の居る場所を聞き出さなければならないのだ。目についた一人の侍に飛びかかり、その
体を倒し、顔のすぐ横に槍を突き刺した。
「ひっ・・・!!」
「侑士は・・・どこだ?」
「し、城の・・・一番奥の・・・・」
そこまで口にしたところで、岳人の後ろから残っていた侍が複数人で攻撃をしかける。し
かし、左手に握られた槍が彼らに牙をむいた。その身に少しも触れさせることなく、岳人
は忍足の居場所を再び問う。
「侑士は、どこだ?」
「城の一番奥の部屋に捕らわれている・・・曼珠沙華の襖の・・・部屋だ。」
「嘘じゃないだろうな・・・?」
「嘘じゃないっ、嘘じゃないっ!!だ、だから・・・命だけは・・・・」
忍足の居場所を聞き出し、岳人はその口に小さく笑みを浮かべると、その侍から離れる。
助かったと思ったのも束の間、岳人の槍はその侍にも襲いかかった。
ドサッ・・・
「今助けに行くからな・・・侑士。」
岳人の頭には、忍足の顔しかなかった。風に揺らされる草は鮮やかな赤で彩られ、岳人の
辿った跡をはっきりと残していた。
城の一番奥の部屋に捕らわれている忍足は、その身を縛られ、自軍の情報を教えろと脅さ
れていた。しかし、忍足は決して口を開かない。多少の拷問を受けることも覚悟の上であ
った。
「ほら、言わねぇか!!」
「あんたらに言うことなんて、何もあらへん。」
「何だと!?」
「まあまあ、こういうタイプは痛みよりもコッチの方が早く口を割るもんさ。」
気性が荒い者と冷静であるがどこかその瞳に冷たさを持った者。そんな二人に責められよ
うとしていながらも、忍足はそこまで心乱してはいなかった。しかし、落ち着いた者の出
したモノを見て、忍足は一瞬顔を強張らせる。
「扇?そんなもんどうすんだよ?」
「こうするんだ。一応、口塞いでた方がいいぜ。」
「あ?ああ。」
口を抑えつつ、扇を持った者はそれを仰ぐ。次の瞬間、甘ったるい香りと共に忍足の口と
鼻の中に何かが入ってくる。
(くっ・・・霞扇の術か。)
ある程度薬学の知識のある忍足は、自分のかがされた薬がどんなものかをすぐに理解する。
これはまずいと思うが、相手の思うような反応をするのはさらにまずい。むしろ、岳人以
外の者にそういうことをされるなど忍足の中であり得なかった。
(媚薬かがすなんてやってくれるやん・・・けど、岳人以外に触られるなんて絶対にあり
えへん・・・)
岳人のことを思った瞬間、忍足は強い精神力でその心を閉ざす。時間が経てば経つほど、
薬の効果が表れ始めるが、それでも忍足はその変化を外に出さなかった。
「さっきの扇なんだったんだ?少し虚ろな目になってるけど、そんなに変わったようには
見えねぇぞ。」
「おかしいな・・・結構強力なぶつなんだけど。」
あまりに変化のない忍足に二人は首を傾げる。当然だと言わんばかりに、忍足は二人に心
を読ませないようにしながら、その顔を見上げる。
「もう少しかがせた方がいいんじゃねぇのか?」
「そうだな。」
あまりに忍足に変化がないので、再び扇を仰ぐ。さらに媚薬をかがされ、忍足は熱くなっ
てくる体を必死で抑える。
(くっ・・・さすがに、これはアカンかも・・・・)
それでも忍足は、この二人に触れられたくない一心で心を閉ざし続けていた。しかし、二
回目にかがされた薬が効いてくると、じわじわと汗が滲み、目の前が霞んでくる。
(ああ・・・もうアカンっ・・・・)
そう思った瞬間、襖が大きな音を立てて開いた。そこに立っていたのは、全てが紅く染ま
った岳人であった。
「がく・・と・・・・」
「誰だ!?」
「お前、どうやってここまで・・・・」
特に大きな傷のない忍足を見てホッとする岳人であったが、すぐにその目の色は怒りの色
に変わる。たとえ傷がなくとも、こんなところに閉じ込めて縛られていること自体あり得
ないことであった。くるりと紅い槍を回し構えると、岳人は電光石火の如く、忍足の前に
居た二人に飛びかかる。
『うわあああっ!!』
あっという間に二人を倒すと、岳人は忍足を縛っていた縄を解く。
「助けに来たぜ、侑士。」
「岳人・・・」
「立てるか?」
「・・・・・。」
立とうと思っても薬の所為で体が思うように動かない。小さく首を振ると、岳人は安心し
ろと言うような顔で、槍を背中にくくりつけ、両手を差し出す。
「しっかり掴まってろよ、侑士。」
火事場の馬鹿力とでも言おうか、自分より背丈のある忍足をいとも簡単に抱き上げ、岳人
はその部屋を出る。そして、城を出るために駆け出した。
城の外に出ると、どこからか伸びている細い縄に岳人は火をつけた。その火はあっという
間に城の中に入って行く。
「何・・・したん・・・?」
岳人に抱きかかえられたまま、忍足は尋ねる。
「侑士が居た部屋に行くまでに、火薬をまいておいたんだ。今のは伝え火。そろそろ届く
はずだぜ。」
岳人の言う通り、しばらくすると城の中からいくつもの爆発音が聞こえる。そうとう広範
囲に火薬をまいたのか、みるみるうちにその城は炎に包まれてゆく。
「侑士に手を出したんだ。これくらいしねぇと気がすまねぇ。」
燃え上がる城を見ながら、岳人はそんなことを呟く。全てが燃え尽きるのを見るまでは帰
れないと、岳人は忍足を抱えたまま、城から少し離れた場所にある倉に入り、扉の鍵を閉
めた。そして、その場に忍足を優しく下ろす。
「しばらくここで大人しく身を隠してようぜ。」
忍足を助け出したことで、だいぶ落ち着いたのか、岳人は先程のように殺気立ってはいな
かった。しかし、媚薬をかがされている忍足は、岳人に助け出されたことで安心し、その
効果が全面に表れる。
「ハァ・・・が・・くと・・・・」
「どうしたんだ!?侑士!毒でも飲まされたのか!?」
「毒やない・・・けど、媚・・薬・・かがされて・・・・・」
「媚薬・・・」
媚薬をかがされたということを聞き、岳人の表情は強張る。媚薬をかがされているとなる
と、そういうことをされたと考えるのが自然である。
「あいつらに・・・そういうことされたのか?」
「されてへん・・・岳人以外に触られるなんて・・・ありえへんからっ・・・・」
「本当か?」
「ああ・・・媚薬が効いてるのを隠すために、ずっと我慢しとったから・・・んっ・・・」
顔を紅潮させ、忍足はひどく息を乱す。そんな忍足を前にし、岳人の胸はドクンと高鳴る。
「もう限界や・・・岳人・・・・今、ここで・・・抱いて?」
「ゆ、侑士っ・・・」
「もう苦しい・・・なあ、岳人ぉ・・・」
媚薬の所為でいつもとは明らかに雰囲気の違う忍足に迫られ、岳人は我慢出来なくなる。
がしっと忍足の肩を掴むと、岳人はその身を床に押し倒した。
忍足を組み敷いたまま、岳人は噛みつくように口づける。血の匂いと忍足の匂いが岳人の
本能を刺激し、理性を失わせてゆく。
「ぅ・・・ん・・・ふぅ・・・・」
「ハァ・・・侑士・・・」
「岳・・人・・・んんっ・・・」
熱い舌が絡み合い、溢れる蜜が混ざり合う。頭の奥が痺れるような快感。媚薬がそんな感
覚を大きくさせ、忍足の心を快楽で満たしてゆく。
(キスだけやのに・・・すごい気持ちええ・・・・)
全身がとろけてしまいそうな感覚に、忍足は恍惚感を覚える。貪るような激しい岳人のキ
スを存分に味わいつつ、忍足の熱は次第に高まっていった。
「ん・・・ん、んんっ・・・・」
あまりの熱さと心地よさに忍足の体は小さく震える。そんな忍足の反応を楽しむかのよう
に岳人は、何度も角度を変え、忍足の口内をじっくり味わった。
(ああ・・・もうアカンっ・・・・気持ちよすぎて・・・・っ)
「ふっ・・・う・・・んん――っ!!」
今までになく大きく身体を震わせ、忍足は岳人にしがみつく。頭の中が真っ白になるよう
な快感。こんなにも早くそれが訪れることに驚く忍足であったが、それ以上に岳人の方が
驚いていた。
「ぷはっ・・は・・・ハァ・・・ハァ・・・・」
「キスだけで、達っちまったのか?」
「・・・・・」
息を乱しながら、忍足は真っ赤になって頷く。ここまで感じやすくなっている忍足に、ド
キドキしつつも、敵が与えた薬の所為だと思うと何となく腹が立った。着物の前を開き、
忍足の放った蜜で汚れた褌を脱がすと、その一枚の布を使って岳人は忍足の手首を頭の上
で縛った。
「・・・・岳人?」
「今の侑士なら、どんなことしても感じるんだろ?たまには、こういう感じのも悪くない
んじゃねぇ?」
口元に笑みを浮かべながらも、その瞳の奥には明らかに嫉妬の炎が燃えている見える。そ
んなことに気づいて、忍足はぞくっと胸の奥が痺れるのを感じた。
「侑士は俺だけのもんだ。他の誰にも渡さねぇ。」
そう呟くと、岳人は忍足の肌に自分のものであるという印をいくつもつける。敏感になっ
ている忍足の身体は、一つ跡をつけられるたびに、焼きごてを当てられているような熱さ
を感じていた。
「あっ・・・ん・・・あっ・・あぁ・・・・」
絶えず忍足の口から漏れる甘い声。それが岳人の本能をさらに掻き立てる。忍足の肌を吸
いながら、指の先で蜜で濡れた熱の中心をなぞる。たったそれだけのことで、大きく身体
を跳ねさせ、再び真っ白な蜜を放った。
「あっ・・・ああぁんっ!!」
掌についた熱いミルクを舐めながら、岳人は口角を上げる。こんなにも感じやすく、素直
に乱れる忍足をどうしてやろう。そんな嗜虐心にも似た気持ちが岳人の中で次第に高まっ
ていく。
「やらしい侑士。こんなにいっぱい溢して。」
「あっ・・・だって・・・・」
「俺に触られて気持ちいい?俺にキスされて感じる?」
岳人の言葉が、頭の深い部分で反芻される。耳を塞ぎたくなるくらい自分の心臓の音が大
きく聞こえる。
「次は、どうして欲しい?」
耳元で低く囁かれ、忍足の身体はズクンと疼く。自分の全てを岳人で満たして欲しい。餓
えにも似たこの切なさを早くどうにかして欲しい。そんな欲求が忍足の中で渦巻く。
「・・・・れ・・て・・・・」
「何だよ?ちゃんとハッキリ言わないと聞こえない。」
「岳人の・・・もう・・・入れて・・・・俺の中に・・・・」
「慣らしてないのにいいのかよ?」
「かまへん・・・早く・・・岳人が欲しい・・・・」
あまりに率直な忍足の言葉に、岳人の胸はひどく高鳴る。妖しい色香を放つ忍足を前に、
岳人はもう自分の欲求をコントロールすることが出来なくなっていた。大きく忍足の足を
開くと、その中心に自分自身を突き入れる。
「あっ・・・ああぁ―――っ!!」
「くっ・・・すげ・・・熱っ・・・」
媚薬の為か、少しも慣らしていないにも関わらず、忍足の中はひどく熱く、岳人の楔を咥
え込むかのように蠢いていた。自分の内側が岳人でいっぱいになる感覚に、忍足は先程と
は比べ物にならない激しい快感を感じる。
「岳人っ・・・ふあっ・・・ああ・・・・」
「侑士ん中、ありえないくらい熱いぜ。・・・すげぇ気持ちイイっ。」
それは忍足とて同じことであった。岳人の熱が自分の中で脈打つ。それだけで、もう何も
考えられなくなるほど、忍足の身体は快感しか感じなくなっていた。
「あっ・・・あぁ・・・んっ・・・あっ・・・」
「動くぜ、侑士。」
「・・・・っ!!ひあぁっ・・・ああっ・・・!!」
岳人の楔が自分の中を擦り上げる。身体も心も全てとかされてしまいそうな悦楽。岳人が
動くたびに、忍足はそんな強すぎる刺激を全身で受け止める。
「あ・・はぁ・・・岳人っ・・・あんっ・・・がく・・とぉ・・・」
「侑士、侑士っ・・・」
忍足の中の気持ちよさに岳人は夢中になり、何度もその内側を抉る。引き抜こうとすれば、
離すまいと絡みつき、再び突き入れれば、飲み込むように受け入れる。その感覚がたまら
ず、岳人は息を乱し、忍足の名前を呼び続ける。
「ああっ・・・もうアカンっ・・・あっ・・・あ・・・あぁっ・・・・!!」
「侑士、俺も・・・俺もっ・・・!!」
二つの熱が絡み合い、熱い雫が混じり合う。意識が飛びそうな程の快感が二人の身体を包
み、絶頂という名の高みへと連れて行った。
「あっ・・・ふあっ・・あ・・・・」
「ハァ・・・ハァ・・・・」
あまりの愉悦に目の前に霞がかかったように見える。そんな甘い余韻に浸りながら、二人
は深く唇を重ね合わせた。
「んむっ・・・んん・・・・」
(気持ちええ・・・けど・・・こんなんじゃ、足りへん・・・・)
岳人が唇を離すと、忍足は潤んだ瞳でその顔を見上げ、ハッキリと口に出す。
「もっとして・・・岳人。」
「っ!!」
「まだ、全然足りへん。もっと、たくさん・・・気持ちよくさせて・・・?」
媚薬の効果が切れていないのか忍足は、岳人の予想だにしなかったことを口にする。そこ
までハッキリ求められると、岳人の熱も再び熱くなる。腕を縛っていた一枚の布を解くと
岳人は自身を忍足の中から抜き、忍足を柵のある窓のところへ立たせた。
「今度は後ろからしてやるよ。しっかりそこの柵に掴まってな。」
「ああ・・・」
岳人の言う通り窓の柵に掴まると、忍足はふとその視線を窓の外へ向ける。その目に映っ
たのは、紅蓮の炎に包まれている敵城であった。
(紅い・・・綺麗やな・・・・)
忍足にとって赤は岳人を連想させる色であった。燃えさかる炎を眺めていると、後ろから
その身を思いきり突かれる。
「ふあっ・・・ああぁんっ!!」
「さっきより全然入れやすいぜ。どうよ?侑士。」
「あっ・・・あ・・・エエ・・・メッチャ気持ちエエ・・・」
「俺も最高。侑士の中、トロトロで熱くて、ぎゅうぎゅう俺の締めつけてきて・・・マジ
たまんねぇ。」
「なあ・・・早く動いて・・・俺ん中・・・・たくさん擦って・・・」
「いいぜ。侑士がそこまで言うなら、いくらでもしてやるよ。」
ニヤリと笑うと、岳人は先程よりもいくらか激しく動き始めた。大きく突かれるたびに、
脳天の突き抜けるような快感が体中を駆け抜ける。がくがくと下肢を震わせながら、忍足
は全てを岳人に支配される恍惚に浸っていた。
「あ・・はぁんっ・・・岳人っ・・・岳人・・・あっ・・・ひあぁ・・・」
「侑士、好きだぜ。愛してる。」
「あっ・・ん・・・岳人ぉ・・・・」
「全部、俺で埋め尽くしてやるよ。心も体も。」
中を抉られながら、耳元で囁かれる言葉に忍足はさらに感じてしまう。目の前の炎の紅に
岳人に与えらる熱という名の紅。心も体も全てが岳人の紅で埋め尽くされる。岳人を感じ、
何度も悦楽の高みに押し上げられ、心が堕ちてゆく感覚を味わう。それは、完全に薬の効
果が切れるまで続けられた。果てしなく続く甘く激しい契り。紅に燃える炎のように、二
人の胸は焦がれていくのであった。
あり得ない回数契りを交わしてしまった二人は、その疲労感から最後に一回が終わった途
端、深い深い眠りに落ちた。そんな二人が目を覚ましたのは、丸二日後であった。
「んん・・・あれ?」
ぐるりと辺りを見回すと、自分のすぐ隣に忍足が眠っていた。着乱れた着物と褌をつけて
いない下半身を見て、した後、そのまま眠ってしまったということに気づく。
「そっか。寝ちまったんだっけ。あー、ひっでぇなこれ。少しは後始末しないと。」
ひどく床が汚れているのを見て、岳人はてきぱきと掃除をし始めた。また、起きた時に着
物を着ていないと慌てるかもしれないと思い、忍足にしっかりと着物を着させる。しかし、
褌は汚れてしまっているので、あえてつけさせずに袴だけを穿かせた。
「んぅ・・・岳人・・・?」
「ああ、侑士、起きたか?」
「俺ら・・・何でこんなとこに居るんやっけ・・・?」
「いろいろあってな。それより、侑士、体大丈夫か?」
「ああ、別になんともないけど。むしろ、すっきりしてるって感じか?」
「そっか。それならよかった。よーし、それじゃ、そろそろ帰るか。」
忍足を助けるために、岳人はこの城に居た者は一人残らず倒していた。そのため、今、そ
のまま外に出ても何の問題もないということを知っていた。暗い倉から外に出ると、忍足
は岳人の血塗れっぷりに驚く。
「何や岳人、その血は!?」
「ああ、返り血だから平気平気。俺自身の血はほとんどないから。」
「それならええけど・・・どうしてそんな・・・あっ!」
媚薬の所為で記憶があやふやな部分があったが、目の前にある焼けた城跡を見て、どうし
て自分と岳人がここに居て、何故、ここまで岳人が血塗れなのかを思い出す。
「ああ、せやった。俺、この城に捕まっとったんやっけ。」
「そうだぜ。もう本当心配したんだからな!!」
「岳人が来なかったら、俺、どうなってたか分からへんもん。ホンマおおきにな。」
「別に礼を言われることのほどでもねぇって。だって、侑士は俺の大事な大事な想い人な
んだからな!!想い人を守るのは男として当然のことだろ?」
「ホンマ格好いいなあ岳人は。俺、一生岳人についてくわ。」
「へへへ、嬉しいこと言ってくれるじゃん。なら、俺はどんなことがあっても、侑士のこ
とは守るぜ。」
そんなことを話しながら、岳人と忍足は自軍の領地に向かって歩き出した。自軍に帰ると
生きててよかったと他の仲間に喜ばれる。そこで初めて二人は自分達が二日間も眠ってい
たことに気づくのであった。
二人にとっては、ただの救出劇であったが、この事件で岳人は一つの城を一人で全滅させ
たことになる。それ故、岳人は後の世で『鬼』と伝えられることとなった。
END.