Sweet Illumination

「うっわあ、裕次郎、見てみろよコレ!!」
甲斐の家に泊まりに来ている平古場は、テレビを見ながらそう口にする。テレビの画面に
映されていたのは、今の時期ならではの映像であった。
「もうクリスマスだもんな。てか、東京のイルミネーションはすごいな。」
「だからよー。うわあ、いいなあ、でーじ綺麗やっし。」
テレビの映し出されているイルミネーションを見て、平古場はキラキラと目を輝かせる。
そんな平古場を見て、甲斐はふとあることを思いついた。
「なあ、凛。」
「何?」
「今年のクリスマスは、コレ、見に行くか?」
「へっ??どーいうこと?」
「俺、まだクリスマスに何プレゼントもらうか決めてないんばぁよ。だから、クリスマス
にコレを凛と見に行きたいっていうのを、クリスマスプレゼントにしてもらおうかなあと
思って。」
少々大人びて見えると言っても、二人ともまだ中学生だ。まだまだ親からクリスマスプレ
ゼントをもらえる年齢である。さすがに全額出してもらうのは無理にしても、普段から貯
めているお小遣いや貯金を合わせれば、東京に行くのは不可能ではない。
「それ、いい考えだな!!」
「だろ?ただ、東京はきっとでーじ寒いだろうから、コートとか買わなきゃダメかもしれ
ないけどな。」
「それはそれで、楽しそうやし。俺もかあちゃんやおばあに言ってみよーっと。」
行けるものなら、是非行きたいと平古場は甲斐の提案に乗る。そうと決まればと、甲斐は
早速自分の親にそのことを話に行った。思いついたら即行動な甲斐の性格を分かっている
甲斐の親は、ちゃんと自分で計画するならと、そのクリスマスプレゼントを承諾した。甲
斐が大丈夫であれば、自分もきっと大丈夫だと、平古場は携帯で自宅へ電話する。中学生
最後のクリスマスなので、それくらいのプレゼントでもいいだろうということで、平古場
も甲斐と同じく、クリスマスに東京に行くことを許された。
「よかったな。オッケーもらえて。」
「ああ。今からもうでーじ楽しみさー。次の休みはコートとか洋服とか一緒に買いに行こ
うぜ。」
「そーだな。このへんだと、どことかがいいのかなー?」
「俺が調べておくさー。何か買い物もかなり楽しみだなー。」
もうクリスマスが楽しみで仕方がないと、平古場はニコニコしながら、何を用意しようか、
どこへ買い物に行こうかを甲斐に話した。そんな平古場の様子を見て、甲斐も東京で過ご
すクリスマスがかなり楽しみなってくる。いつもとは一味違うクリスマス。数週間後に迫
ったその日を楽しみにしながら、二人は期待に胸を膨らませた。

そして、ついに迎えたクリスマス。と、言っても25日ではない。どうせならば、クリス
マス・イブからクリスマスにかけてを東京で過ごそうということで、終業式が終わってか
ら、その足で東京へ向かおうということになった。終業式は午前中で終わるので、それか
ら家に帰って空港に向かったとしても、東京には夕方頃には到着する計算だ。その計画通
り、二人は準備をし、沖縄から東京へと飛び立った。沖縄を出発してから、およそ2時間
半で、二人は東京の空港に到着した。
「うっひゃあ、やっぱ東京は寒いなー。」
「確かに。テニスの全国大会は夏だったからなー。そんなに気温が違うとは感じなかった
けど、やっぱ冬は違うさー。」
空港を出て外へ出ると、冬の冷たい風が二人の頬をかすめる。沖縄とは全く違う冷たい空
気に甲斐も平古場もぶるりと体を震わせた。
「寒いけど、裕次郎と一緒だからな。気持ち的にはぽっかぽかだぜ。」
「新しいコートも買ったしな。このくらいの寒さ、何ともないさー。」
気温はかなり低いが、これからのことを考えると胸が躍り、気持ちがうきうきしてくる。
そんな期待感に胸を高鳴らせながら、二人は真っ白な息を吐きつつ、テレビで見たイルミ
ネーションがある場所へと向かった。

沖縄にはない地下鉄などを乗り継いで、甲斐と平古場は目的地を目指す。目的の場所の駅
に着いたのは、ちょうど6時半を回った頃で、イルミネーションを見るには、なかなかよ
い感じの時間帯であった。
「確かこの駅でいいんだよな?」
「ああ、あってるはずだぜ。」
「えっと、この地図によると・・・こっちの方か?」
この日のために買ったMAPを見ながら、二人は歩き始める。少し歩いて行くと、地下歩
道の柱に、例のイルミネーションが紹介されているポスターが貼られていた。
「あってるみたいだな。」
「あと、もうちょっとなはずなんだけどなー・・・・あっ!!」
どこらへんにそのイルミネーションがあるのだろうと、意識しながら歩いて行くと、平古
場の目にテレビで見た光景と似た景色が映る。
「裕次郎、一つ目のはきっとあそこだぜ!!」
「あー、絶対そうだな。」
「早く行こうぜ!!裕次郎!!」
見たかったイルミネーションを発見すると、平古場はぱあっと顔を輝かせ、その方向に向
かって駆け出す。そんな平古場を追うかのように、甲斐は走り出した。
『うわあ・・・・』
そのイルミネーションが飾られた場所に来ると、二人は感嘆の声を上げる。真っ白な木に
真っ白な植木。全てが真っ白なその道は、白く輝く無数の光を纏い、さらにその身を輝か
せていた。
「何か雪景色って感じさー。」
「でーじちゅらさー。裕次郎、写メ撮ろうぜ、写メ!」
ポケットの中から携帯電話を取り出すと、平古場はこの綺麗な景色を写真に収める。キラ
キラと輝く景色を夢中になって写メっている平古場に、甲斐はふっと笑って声をかけた。
「凛。」
「ん?何、裕次郎?」
パシャっ
平古場が振り向くと、甲斐は持っていたデジカメのシャッターを切る。いきなり写真を撮
られ、平古場は驚いたような顔を見せる。
「どうせ、写真撮るんだったら、携帯でよりもデジカメの方がいいかと思って、持ってき
たんだばぁよ。」
「やるじゃん、裕次郎。なら、それでいーっぱい、綺麗な写真撮ろうぜ!!」
デジカメがあるのであれば、それで撮った方が綺麗な写真が撮れると、平古場はテンショ
ン高くそんなことを言う。何枚も何枚も白く輝くイルミネーションをカメラに収めた後、
そのイルミネーションをバックにお互いに自分達を撮り合ったり、他の人にとってもらっ
たりする。そんなことをしながら、雪景色のようなイルミネーションを満喫すると、二人
は次のイルミネーションのところへ移動しようと話し始めた。
「確かこのすぐ近くに、もう一つすごいイルミネーションがあるんだったよな?」
「ああ。えっと、このMAPによるとこっちの方だから・・・」
「おっ、あそこじゃねぇ?」
MAPを見て、平古場が歩き始めた方向を見て、甲斐はもう一つのイルミネーションを発
見する。白い光のイルミネーションで、ある程度のテンションの高さを使ってしまった二
人は、先程よりも落ち着いた様子で、そちらの方に歩いて行った。
「うわあ・・・すげぇ。」
「さっきのも相当綺麗だったけど、こっちのもなかなか迫力あるやし。」
ショッピングビルの入口前に飾られているイルミネーションは、辺り一面を真っ青な光で
染め上げていた。しかも、その光はただ青い光を放っているだけではない。たくさんの光
が集まり、とあるものを形づくっている。それは、甲斐や平古場にとってはひどく身近な
ものであった。
「じゅんに光の波って感じだな。」
「光の海の中にいるみたいやっさー。」
青い光が形づくっているのは、大きな波であった。『ブルー・オーシャン』というテーマ
通りのそのイルミネーションに、二人は目を奪われる。光の海に浮かぶキャンドルや光の
水しぶきをデジカメに収めると、甲斐はふと光の海の中心にあるものに目を移した。
「なあ、凛。」
「何?」
「あの鐘、鳴らしてみたくねぇ?」
光の海の中心には、見に来た人が鳴らすことの出来る鐘があった。クリスマスの記念にそ
の鐘を鳴らしているところをデジカメで撮ってもらおうと、甲斐は平古場を誘う。
「いいな、それ。いかにもクリスマスって感じやし。」
「だろー?なら、列に並んどこうぜ。」
鐘の前には、それを鳴らしたいと思っている人の列が出来ていた。しかし、そんなに長蛇
の列というわけではないので、すぐに二人の番がやってくる。
「写真撮ってもらってもいいですか?」
「はい、もちろんです。」
係の人にデジカメを渡すと、二人は鐘を鳴らすための紐に手をかける。すると、デジカメ
にうまく入らなかったのか、カメラを持った係の人が平古場の方に声をかけた。
「彼女の方、もう少し内側によってくれるかな?」
『彼女??』
それを聞いて、思わず二人は顔を見合せてしまう。確かに今日の平古場は、ファーのつい
た白いコートを着ているために、女の子に見えないこともない。本当のカップルに見られ
たことが少し照れくさく、しかしそれが嬉しくて、平古場は甲斐の方に近づくと、はにか
むように笑った。
「俺、裕次郎の彼女だって。」
「まあ、間違ってはないし。それに凛、可愛いからな。女の子に間違えられてもおかしく
ないって。」
「じゅんになあ?」
「ああ。少なくとも俺は、凛のことでーじ可愛いと思ってるさー。」
「えへへ。」
そんなことを小声で話しながら、二人はリンゴンと鐘を鳴らす。それと同時に、デジカメ
のフラッシュが光り、シャッターが切られた。撮ってもらった写真を見てみると、確かに
これは普通にカップルに見える。それが何だか嬉しくて、二人は顔を見合せて笑った。

ブルー・オーシャンなイルミネーションも存分に楽しむと、二人は今日泊まる予定のホテ
ルに向かった。ホテルの部屋に到着すると、甲斐は荷物を置き、カーテンを開けて、窓か
ら見える景色を確認する。
「凛、ちょっとこっち来てみろよ。」
「何?裕次郎。」
「こっから見える景色も、でーじちゅらさー。」
部屋の窓からは、東京の街の夜景が見下ろすことが出来た。特にイベントがなくとも光で
溢れている東京の街であるが、クリスマスともなれば、いたるところにイルミネーション
が輝いている。そのカラフルで鮮やかな光のアートが、窓から見える夜景をより美しく彩
っていた。
「わあ・・・」
「やっぱ、今日東京に来て正解だったな。」
「そーだな。はあー、でも、いっぱいはしゃいだから疲れたー。」
コートを脱ぐと、平古場はふかふかのベッドにダイブする。見たかったイルミネーション
を実際に見ることが出来て、大満足であるが、ずっと高いテンションのままはしゃいでい
たので、だいぶお疲れ気味であった。
「少し休んだら、レストランに飯食いに行こうぜ。」
「そーだな。俺も腹ペコだぜ。」
軽く荷物を片付け、少し体を休めると二人はホテル内にあるレストランに夕食を食べに行
く。クリスマス・イブということもあり、そのメニューは実にクリスマスのディナーとい
った感じのメニューであった。そんなクリスマスの御馳走を存分に堪能すると、二人は部
屋に戻り、順番にシャワーを浴びて、ベッドに腰かけながらくつろいだ。
「そうだ。」
しばらくくつろぎながら話をしていると、甲斐が何かを思い出したかのように立ち上がる。
そして、自分の鞄の中から何かを取り出すと、それを持って平古場の隣に腰かけた。
「俺、凛にクリスマスプレゼント用意してきたんばぁよ。」
「じゅんになあ?」
「ああ。」
平古場の問いに笑顔で頷くと、甲斐はそのプレゼントを平古場に手渡した。平古場の好き
な色の包装紙に包まれたそれは、甲斐が心を込めて作った世界に一つだけのプレゼントで
あった。
「開けてもいい?」
「もちろん。」
丁寧に包みを開けて出てきたもの。それは、雪の結晶がモチーフのシルバーで出来たペン
ダントトップのついたチョーカーであった。
「うっわあ、でーじ上等やっし!!」
「島じゃ雪は降らないけど、こういうモチーフ、凛なら似合うかなあと思ってさ。」
「これ、裕次郎が作ったば?」
「まあな。どうせあげるんだったら、手作りの方がいいかなーと思って。」
「ありがとう、裕次郎!!でーじ嬉しいさー!!」
格好よくしかも手作りのプレゼントをもらい、平古場は大喜び。本当に嬉しそうにしてい
る平古場を見て、甲斐も嬉しくなり、自然に顔が緩んでくる。甲斐からもらったチョーカ
ーを早速つけると、平古場も自分の鞄から小さな袋を出してきた。
「俺もなぁ、裕次郎にプレゼント用意してきたんばぁよ・・・」
恥ずかしそうにそのプレゼントを手にしながら、平古場は甲斐の隣に座り直す。どんなプ
レゼントがもらえるのだろうと、甲斐は期待の眼差しを平古場に向けた。
「何くれるば?」
「・・・・笑うなよ。」
そう言いながら、平古場は手に持っていた袋を甲斐に差し出した。小さな袋に入っていた
のは、数枚のカードであった。
「カード?」
見たところどうやら手作りらしい。何のカードだろうと、甲斐が一枚一枚その内容を確認
すると、自然と胸が高鳴ってくる。それは、いわゆる「肩たたき券」なノリのカードであ
った。「回数制限なし・使用期限:無期限」と書かれた何枚ものカードには、平古場から
○○をするというような内容がいくつかに分けられた上で書かれていた。
(コレはヤバイだろ・・・)
「やっぱこんなプレゼント、嬉しくないか?」
「いや、でーじ嬉しいぜ!!つーか、じゅんにこのカード使っていいわけ?」
「当たり前だろ。・・・使って欲しいから、あげるんやし。」
恥ずかしそうに顔を赤らめながらそんなことを言う平古場に、甲斐の胸はひどく高鳴る。
「でも、よくこんなの思いついたな。なかなか思い浮かばないぜ、これは。」
「・・・おばーにな、どんなプレゼントが一番嬉しいかって聞いたら、『肩たたき券とか
嬉しかったねー。』って言われたんだばぁよ。だからー、裕次郎にもこういうのあげたら
喜ぶかなあと思ったんだけど・・・」
頬を染めてじっと見つめられながらそんなことを言われ、甲斐はきゅんきゅんしてしまう。
こんなに嬉しいプレゼントは他にないと、甲斐はぎゅうっと平古場の体を抱きしめた。
「わっ・・・ゆ、裕次郎?」
「ありがとう、凛。こんなに嬉しいクリスマスプレゼントもらったの初めてかも。」
「そ、そんなに・・・?ただの○○券だぜ?」
「凛のおばーの気持ちでーじ分かるわ。これは本当嬉しいから。」
「・・・・よかった。」
こんな子供だましのプレゼントで甲斐が喜んでくれるか分からず不安だったため、甲斐の
言葉を聞いて、平古場は心底ホッとする。ふっと口元に笑みを浮かべると、甲斐の背中に
腕を回して、ぎゅうっと抱きしめ返した。
「なあ、凛。早速凛のくれたカード使っていい?」
「えっ?」
「まずはコレ、使いたいなあと思うんだけど。」
そう言って甲斐が平古場に差し出したのは、「俺からちゅう券」であった。これは、平古
場からキスをしてくれるというカードである。いきなり使うのかと思いつつも、すぐに使
ってくれるのが嬉しいと、平古場は笑顔で甲斐の言葉に頷いた。
「いいぜ。回数はどうするば?裕次郎が自由に決めていいんだぜ。」
「凛がしたいと思う回数すればいいさー。まあ、多いに越したことはないけどな。」
「なら、たっくさんしてやるさー。」
甲斐の首に腕を回して、平古場は甲斐の唇にそっと口づける。一度唇を離すと、二人は顔
を見合せて笑った。そして、再び唇を重ねる。何度も繰り返される平古場からの甘い甘い
キス。胸の中が幸せな気持ちでいっぱいになるのを感じながら、甲斐は存分に平古場から
のキスを味わった。
「凛。」
「ん・・・何?裕次郎。」
「メリークリスマス。今日はずーっと一緒だからな。」
「うん。大好き、裕次郎。」
そんな会話を交わした後、再び甘い口づけを交わす。光の煌めく二人きりのクリスマス。
二人の甘い聖夜はまだまだ始まったばかり・・・・。

                                END.

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