平古場の家に泊まった甲斐は、朝起きて自分の体の違和感に気づく。パジャマの胸のあた
りがキツく、肩が重い。何故だろうと起き上がって自分の身を確かめてみると、甲斐は声
にならない叫びを上げた。
「〜〜〜〜〜っ!!??」
ありえない状況にパニくりながら、甲斐は布団から出ようとすると、隣で寝ていた平古場
が目を覚ます。
「ん〜・・・裕次郎・・・?」
こんな姿を平古場には見せられないと、その場から逃げ出そうとするが、ぱしっとパジャ
マと平古場に掴まれ、動けなくなった。
「どうした?トイレか?」
そう問う平古場に目をやって、甲斐は再び驚く。自分と全く同じような変化が、平古場に
も現れていた。
「り、凛・・・俺もお前も、女になってる・・・・」
「はあ?何寝ぼけたこと言って・・・・」
何を言っているのだと、首を傾げる平古場だったが、ふと目線を自分の胸のあたりに移し
て、声を失う。甲斐の言う通り、その部分には本来あるべきものではないものがあった。
「うわあっ、女になってるー!!」
「だから、言っただろー?何でだ?ありえんだろ、こんなこと。」
「いや、思い当たることならあるさぁ、裕次郎。」
「何?」
「昨日、木手が罰ゲームだとか言って、変なジュース飲ませただろ?」
「あー、あのありえん不味さの奴か。」
「アレ、今沖縄に遊びに来てるっつー、青学の奴らが作ったものらしいさー。ほら、乾っ
て奴居ただろ?あいつが持って来たって、知念が言ってた。」
「確かにあいつなら、こういうふうになる変なものも作れそうだな・・・」
あのジュースが絶対原因だと確信した二人は、ズーンとヘコんだ様子を見せる。しかし、
ただ落ち込んでいても仕方がない。幸いにも今日は休日だ。学校に行かなければ、それほ
ど大きな問題はないだろうと、平古場はすくっと立ち上がって動き出した。
「どこ行くば?凛。」
「ねーねーにどうすればいいか聞いてくる。服とかも貸してくれるかもしれないし。」
「えっ!?マジで!?」
「だって、俺、女子の服持ってないし。」
「い、いや・・・そういうことじゃなくて・・・・」
この姿を家族とは言えども他人に見せるのかと、甲斐は平古場のことをすごいと思ってし
まう。とりあえず、自分はこの部屋で待ってるかと、甲斐は部屋を出て行く平古場を見送
った。
しばらくして、平古場は姉を連れて自分の部屋へ戻って来る。きっと変な目で見られると
思っていた甲斐であったが、平古場の姉の反応はそんな甲斐の予想を裏切るものであった。
「きゃー、裕次郎くんもでーじ可愛くなってるさーvv」
「えっ・・・?」
「凛も結構可愛いと思ったけど、裕次郎くんはもうちょっと大人っぽい感じさー。」
「ねーねー・・・はしゃぎすぎ。」
女の子になってしまった弟とその友達を前にして、平古場の姉は目をキラキラと輝かせ、
はしゃぎまくっている。自分の部屋から持って来たいくつかの服を二人に合わせて見なが
ら、どれが似合うかを吟味する。
「凛は、今どきの女の子って感じになってるから、これと・・・あと、下はこれがいいか
ねー?」
「ちょ、ねーねー、それ、スカート短すぎじゃねぇ?」
「そんなことないさー。ねぇ、裕次郎くん。」
「は、はい・・・」
体は女の子になっていても、意識は男のままなので、平古場の女の子姿に甲斐はドキドキ
してしまう。しかも、平古場の姉が平古場に合わせて選んでいる服は、かなり露出度の高
いものばかりであった。
「よーし、凛のはこれでオッケー。じゃあ、次は裕次郎くんね。ちゃんと着替えなさいよ、
凛。」
「・・・はーい。」
何だかありえない服ばかりだと思いながら、平古場は姉の選んだ服に着替え始める。平古
場の姉も、平古場と同じようにかなりオシャレな感じなので、雰囲気の違う服をいくつも
持っていた。平古場とは一味違った雰囲気の服を甲斐に合わせ、一番しっくりくるものを
探した。
「うーん、裕次郎くんはこんなのが似合うかねー?うん、いい感じ♪」
「・・・・・。」
完全に女の子の服を合わせられているのを見て、甲斐は変な気分になる。しかし、今の自
分の体は完全に女の子なのだ。こんな服が似合ってしまうのかあと思い、甲斐は少し恥ず
かしくなった。
「裕次郎くんの服はこれで決定!!うん、我ながらいい感じにコーディネート出来たさー。」
「あ、ありがとうございます・・・」
「いえいえ、じゃあ、また何かあったら呼んでねー。私が居ると、着替えにくいでしょ?」
甲斐に選んだ服を渡すと、平古場の姉はそそくさと部屋から出て行った。平古場の姉が出
て行くと、二人は大きな溜め息をつく。
「あいかわらず、凛のねーねーパワフルだな。」
「もうちょっと、大人しいといいんだけどな。全く。」
「それにしても凛、その服、でーじ似合うさー。可愛いー。」
「そ、そんなことないし!!てか、早く裕次郎も着替えろよ!!」
「はいはい。」
ずっとパジャマのままでいるわけにはいかないと、甲斐は平古場の姉に渡された服に着替
え始める。いつものノリで普通にパジャマを脱いだ裕次郎だったが、顔を赤くしてじーっ
と自分の方見ている平古場の視線に気づく。
「何か?凛。」
甲斐にそう尋ねられ、平古場はパッと顔を背ける。しかし、やっぱり気になるようで、そ
の視線は自然と甲斐のある部分にいってしまう。
「何かよー・・・」
「ん?」
「裕次郎の胸、俺のより全然大きいよな。」
「そうか?」
自分の胸と甲斐の胸の大きさをもう一度見比べ、甲斐の言葉に平古場はこくこくと頷く。
「別にもとは男なんだし、そんなこと気にしたってしょうがないだろ?」
そうは言うものの、やっぱり気になってしまう。自分の方が小さいのが少し悔しくて、平
古場はまだ服を着ていない甲斐の胸をむにっと掴んだ。
「えいっ。」
「わっ、ちょっ・・・何してるかよ!?凛!!」
「・・・うっわ、でーじ柔らかい。」
いきなり胸を掴まれ、甲斐は真っ赤になる。しかし、それ以上に胸の柔らかさに驚いた平
古場の方がより真っ赤になっていた。あまりの柔らかさに感動した平古場は思わずもみも
みとその大きな胸を揉んでしまう。
「うわああ、凛っ!!やめろって!!」
「いいなあ、こんなに大きくて。」
「もー、そんなことばっかしてると・・・・」
自分だけそんなことをされるのは不公平だと、甲斐は素早く平古場の後ろに回り、後ろか
ら平古場の胸を鷲掴みにした。服を着ているとは言えども、平古場が着ている服は薄いキ
ャミソール一枚だ。その薄い布を一枚隔てて、先程の平古場と同じように甲斐も普段なら
存在しない胸をもみもみと揉んだ。
「小さくても柔らかいぜー、凛のおっぱい。形は凛の方がいいんじゃねぇ?」
「やっ・・・裕次郎っ・・・やだっ!!」
「やだって、さっき凛だって、俺の胸、メッチャ揉んでたじゃん。自分はよくて、俺がす
るのはダメだなんて、そんなの不公平やし。」
「だ、ダメだってぇ・・・そんなに揉まれたらぁ・・・」
ぷるぷると震え、涙目になっていく平古場を見て、甲斐はズキュンと胸を打たれる。これ
はヤバイと、パッと手を離し、今着替えようと思っていた服を抱いてしゃがみ込んだ。
(ヤッベェ、男の俺だったら、下半身直撃だったぜ、今のは・・・・)
甲斐に胸を揉まれ、すっかり力の抜けてしまった平古場もその場に崩れ落ち、腕で自分の
胸を覆って、キッと甲斐を睨んだ。
「裕次郎のエッチ!!何してるかよ、もー!!」
「い、いや・・・ゴメン。」
平古場と同じことをしただけなので、謝る必要はないのだが、何故だか謝らずにはいられ
なかった。とりあえず、服を着てから平古場の機嫌を直そうと、甲斐は持っていた服を身
に付ける。
「うーん、着たことのない服だから、変な感じさー。おかしくないか?凛。」
まだ、ちょっと不機嫌ではあるが、甲斐に話しかけられ、くるっと甲斐の方を振り返る。
そこには想像以上に色っぽく、綺麗なお姉さんになった甲斐が立っていた。
「う・・・」
「どうした?やっぱ、似合わないか?」
(似合いすぎて何も言えんし・・・)
「凛?」
「何でそんなに美人になってるかよ?もー、腹立つくらい似合いすぎてて、何言っていい
か分からんし!!」
真っ赤になりながらそんなことを言ってくる平古場に、甲斐は思わず吹き出してしまう。
本当に可愛らしいなあと、ポンポンと頭を撫でて、甲斐はあることを提案した。
「そんなに似合ってるなら、この格好で外に遊びに行くか。凛も超可愛い女の子になって
ることやし。」
「へっ!?」
「女の子同士のデートってのも、結構面白そうだと思うけど?」
悪戯っ子のような笑みを浮かべている甲斐に、平古場はほだされてしまう。女の子ならで
はのことをしてみるのも悪くないと、平古場はその誘いに乗った。
「まあ、確かに面白そうではあるよな。」
「だろー?なら、決まりだな!」
「お、おう。」
そうと決まれば即実行だ。街へ出かける用意をするため、平古場はもう一度姉のところへ
行き、鞄や靴を借り、オプションとして身に付けるアクセサリーも貸してもらった。
完全に女の子になった甲斐と平古場は、街に出ると、まずはゲームセンターに向かった。
平古場の提案でプリクラを撮ろうということになったのだ。
「ずっとこの姿のまんまじゃないだろーし、撮っておいて損はないだろ。」
「でも、ちょっと恥ずかしくないか?」
「んー、少しは恥ずかしいけど、裕次郎の女版、でーじ綺麗だから、ちゃんと残してお
きたいなあと思ってさ。」
「俺としては、その言葉が恥ずかしいさー。」
照れもせずにそんなことを言ってくる平古場に甲斐は真っ赤になってしまう。甲斐が赤
くなるのを見て、何だか平古場も恥ずかしくなってしまう。
「と、とりあえず、ちゃっちゃと撮ろうぜ!」
「そ、そうだな。」
お互いに照れるのを隠すような態度を取りながら、プリクラの機械の中に入った。チャ
リンチャリンと機械にお金を入れると、平古場がポンポンと設定を決めてゆく。
「凛、慣れてんなー。」
「俺、結構プリクラって好きなんばぁよ。」
「へぇ。で、俺はどうすればいいの?」
「まあ、一枚目はとりあえず・・・・」
機械が何かを喋っている間に、平古場は甲斐と背中合わせになり、腕を絡めた。そして、
カメラの方を向きながら、甲斐にもそうするように指示を出す。
「裕次郎もカメラの方見て、笑って。」
「お、おう。」
『それじゃあ、撮るよ。さん、にー、いち・・・カシャっ!』
一枚目が撮り終わると、今度は向かい合わせになり、平古場は甲斐の首に腕を回した。そ
して、シャッターが切られる直前に、平古場は甲斐の唇にキスをした。
「っ!!??」
カシャっ!
「ちょ、凛っ!!何するば!?」
「一枚くらいキスプリがあったっていいだろー?」
「そんなもんなのか?」
「そんなもん、そんなもん。」
プリクラに関しては、平古場の方がよく知っているので、甲斐はそれに従うしかない。初
めは慣れずに戸惑っていた甲斐であったが、すぐに慣れ、いつの間にか甲斐もノリノリに
なっていた。
「凛♪」
「へっ?」
ちゅっ・・・カシャ!
今度は甲斐の方が平古場の頬っぺたにキスをし、その直後にシャッターが切られた。ふい
うちだったので、変な顔していると、今度は笑いながらという感じで、平古場はもう一度
頬っぺたにキスをするように頼んだ。
「何度でもしてやるさー。」
「あと一枚だけどな。」
「そうなのか?残念。」
とにかく最後の一枚は、ちゃんと撮ろうとどちらも楽しそうに笑いながら、頬っぺにちゅ
うなプリクラを撮った。撮り終わったら、次は落書きだ。落書きは美術が得意な平古場の
出番だ。慣れた手つきで、印刷したい写真を選び、平古場はスラスラと落書きをしていっ
た。
「さっすが凛だな。」
「このくらい朝飯前さー。よし、これでオッケーだろ。終了!」
終了ボタンを押すと、平古場は甲斐の手を引いて、落書きスペースを出る。そして、プリ
クラが印刷されて出てくるのを待った。
カタン・・・
取り出し口から出てきたプリクラを手に取ると、二人はどんなふうに撮れているかを確か
める。
「うん、よく撮れてるさー。」
「ちょ、凛、何書いてるかよ?ボインって・・・」
「だって、そうやし。」
「もー、さっきから凛そればっかりやっさー。」
「悔しいんだもーん。」
やはり、そのあたりは悔しいようで、平古場は素直にそう口にする。いかにも女の子な会
話を交わし合った後、二人はゲームセンターを出た。
「次、どこ行く?裕次郎。」
「んー、別にどこでもいいけど。適当に見て回ろーぜ。」
「そうだな。」
行き当たりばったりでよいかということで、二人は商店街を適当に見て回る。女の子向け
の雑貨屋さんに入ったり、ランジェリーショップを覗いてみたりと、普段は絶対に出来な
いようなことを存分に楽しむ。これはなかなか楽しいなあと、二人は女の子になってしま
ったという大変な事態を、それほど嫌なものだと思わなくなっていた。
3時を少し過ぎた頃、おやつでも食べようということで、甲斐は冷やしパイナップルを、
平古場はイチゴのかき氷をガードレールに寄りかかりながら食べていた。すると、二人組
の高校生と思われる少年達が声をかけてくる。
「やー、可愛いやっさー。にーにー達と遊ばん?」
明らかにナンパだと思ったが、せっかくのデートを邪魔されたくないと、二人は顔を見合
わせる。ここはハッキリと断ってしまおうと、甲斐が平古場の前に出た。
「遊ばない。」
「何でよ?」
「だって、俺、凛だけいれば十分やし。なあ、凛。」
「えっ・・・うん。」
「わったー、しんけん愛し合ってるさに。邪魔すんな。」
そう言いながら、甲斐は道端にも関わらず、平古場にちゅーっとキスをした。これには、
平古場もビックリ。しかし、下手に嫌がれば、甲斐がせっかく断ってくれたのが無駄にな
ってしまうと、文句を言うのを堪えた。
「そ、そんなら、別にいいさー。」
「お、おう。」
ナンパに失敗して残念だと思う気持ちもあるが、美少女二人のキスシーンを見れたという
ことで、ちょっといいものを見たと思いながら、その高校生達は赤くなりながら、二人の
側から立ち去った。
「ちょっ・・・いつまで、抱きしめてるかよ!?」
「あー、ゴメンゴメン。」
「あんな断り方ありえんし。」
「でも、ちゃんと撃退出来ただろ?」
得意気にしている甲斐とは、対照的に平古場はむーっと少し不機嫌顔になっていた。しか
し、それは甲斐が道端でキスしてきたことに対して怒っているからというわけではなかっ
た。
「・・・・裕次郎。」
「ん?どうした?」
「裕次郎が中途半端にキスしてきた所為で・・・もっとして欲しくなっちゃっただろ!」
それを道端で言うのこそ、どうだと思ったが、言われて嬉しくない言葉ではない。だった
ら、もっと人気の少ないところに連れてってやろうと、甲斐は平古場の手を取った。
「したら、俺の秘密の場所に連れってってやるさー。そこなら、ほとんど人も来ないし、
そういうことしても平気さー。」
「じゅんになぁ?」
「おう。行こうぜ、凛!」
「う、うん。」
甲斐に手を引かれ、平古場は胸を高鳴らせる。ツインテールに結んだ髪を揺らしながら、
平古場は甲斐の手をぎゅっと握り返した。
甲斐が平古場を連れてやってきたのは、林の奥にある大きなガジュマルの下であった。確
かにここなら人が来ることは滅多になく、木が生い茂っているために街よりはいくらか涼
しかった。
「ここなら、平気だろ?」
「た、確かに。」
「凛がして欲しいこと、もっかい言って。」
「裕次郎に・・・もっとちゃんとした、キスして欲しい。」
「いいぜ、凛。」
お互いの体をぎゅっと抱きながら、二人は深く甘い口づけを交わし合う。いつもとは違う
柔らかい体。ピッタリとくっついた胸は、マシュマロのようにふわふわだった。
「はぅ・・・ゆう・・じろ・・ぉ・・・・」
「可愛い、凛。もっと・・・な?」
「うんっ・・・んむ・・・んん・・・・」
いつもとは違う感じに、二人はドキドキと胸をときめかせ、夢中になってお互いを味わう。
雲の上にいるようなふわふわした雰囲気に飲まれながら、二人は日が暮れるまで、柔らか
い唇を重ねていた。
辺りが暗くなると、さすがに帰らなければならないだろうと思い、二人は体を離して、立
ち上がった。夢のような時間の余韻に浸り、二人はドキドキしながら、お互いの顔を見る。
「そろそろ帰らないとな。」
「うん。」
とりあえず、林は早めに出なければと二人は道路に向かって歩き始める。静かな夜道を歩
きながら、平古場はきゅっと甲斐の手を握る。
「凛?」
「俺、男の裕次郎も女の裕次郎も大好きだぜ。」
「はは、女になるのは本当はありえないんだけどな。でも、俺もどっちの凛も大好きだぜ。
男でも女でも、凛は俺の自慢の彼女さー。」
「へへへ。」
自慢の彼女と言われ、平古場は嬉しそうに笑う。本当に可愛らしいその笑顔に、甲斐の胸
は更にドキドキと鼓動が速くなった。
「初めはありえないと思ってたけどよー・・・・」
「うん。」
「こう一日過ごしてみると、こういうのもたまにはいいもんだな。女の子同士のデートっ
てのも、なかなか楽しかったし。」
「そーだな。ちゃんと証拠も残ってるし。あのプリクラ、ちゃんと手帳かなんかに貼ろう
ぜ。」
「おう。どうせだったら、キスプリ貼るか。」
「おっ、それ上等やっし。絶対貼るさー。」
今日一日が本当に楽しかったと、二人は始終笑顔でそんな話をする。いつもより少し高い
声で会話をしながら、二人はいつもの家路を辿るのであった。
END.