秋風薫る公園で

秋晴れの休日、岳人と忍足は隣町の大きな公園にやってきていた。広い公園のどこから回
ろうかと、公園案内図を見ていると、なかなか興味をそそられるものを岳人は見つける。
「なあなあ、侑士!!ここ行ってみようぜ!!」
「ふれあい動物園?こないな公園に動物園があるんか?」
「たぶんアレじゃねぇ?普通の動物園っつーよりは、うさぎとかハムスターとかそういう
小動物系がいるような感じの。」
「ああ、なるほどな。それは確かに面白そうやな。行ってみるか。」
「おう!」
まずは『ふれあい動物園』とやらに行ってみようと、二人は案内図に示されている場所へ
と向かう。公園内の道はそれほど複雑ではなく、岳人と忍足はすぐにその場所へと辿り着
くことが出来た。
「へぇ、そんなにおっきくはないけど、確かに動物園って感じだな。」
「けど、ポニーとかには乗れるみたいやで。まあ、乗馬が学校の授業でもあるし、いちい
ち金払って乗ろうとは思わんけどな。」
「確かにー。とりあえず、入ってみようぜ。」
「せやな。」
入口で話しているのも何だということで、二人はその小さな動物園に入っていく。中に入
ってまず目に入ったのは、かなりの高さのある檻であった。
「随分高い檻やな。何が居るんやろ?」
バサバサバサ・・・・
忍足がそんなことを呟くと、上の方で何かが動いた。二人はそろって上を見上げる。高い
檻の中には、何本かの木が生えており、その枝から枝へと何かが飛び移るのが見えた。
「おおっ、鳥が居るぜ!侑士。」
「ホンマやな。何て鳥なんやろ?」
「おっ、ここに書いてあるぜ。えーと、何々?ベニ・・スズメに、ジュウシマツ・・・・
それから、オカメインコにブンチョウか。へぇ、結構色んな種類のがいるんだな。」
全ての鳥が見えるわけではないが、その檻の中には何種類もの鳥が居るようだ。しばらく、
その檻を眺めていた二人だが、突然バサッと隣の檻から大きな音が聞こえる。
「隣の檻にも何か居るみたいやな。」
「見に行ってみようぜ!侑士。」
鳥の大好きな岳人は、テンション高くそんなことを言って、忍足より一足早く隣の檻へと
移動した。
「孔雀が居るぜ!!しかも、尾羽バッチリ開いてるし!」
「さっきの音は、尾羽を開いた音やったんやな。」
「何か色んな鳥が居ていいな、ここ!!」
「岳人は鳥大好きやもんな。」
「おう!!うわあ、超テンション上がるし!!こんなに楽しい公園があるなんて知らなか
ったぜ。」
隣町という比較的近い場所にある公園だが、微妙な近さだからこそ、あまり来る機会がな
い。遊びに来るにはなかなかいい場所だと、岳人は一気にこの公園が好きになった。と、
突然突風が二人の間を吹き抜ける。
ビュオォォ・・・・
『うわっ!!』
思わず目を閉じる二人だが、風がおさまって目を開けると、忍足は自分の足元に普段なら
滅多に手にしないものが落ちていることに気づく。
「すごい風だったな、侑士。」
「ああ。けど、今の風がいいもん置いてってくれたで。」
「へっ?何?」
ハテナを浮かべる岳人に、忍足は足元にあったあるものを拾って岳人に差し出す。忍足の
手にしているものを見て、岳人はキラキラと目を輝かせた。
「うっわあ、どうしたんだよ!?それ!!」
「さっきの風が、あの檻から飛ばしてくれたみたいやで。」
「マジで!?すっげぇ!!本物の孔雀の羽根だあ!!」
忍足が手にしていたもの。それは、目の前に居る孔雀の尾羽であった。他の鳥にはない独
特の模様の入った大きな羽根を手にし、岳人は幼い子供のようにはしゃいだ。
「岳人、鳥の羽根集めてるんやろ?滅多にこんなもん手に入らへんし、もらっておいたら
ええんちゃう?」
「うんうん!!もらうもらう!!サンキュー、侑士!!」
あまりの嬉しさに、岳人はぴょんぴょんと跳ねながら忍足に抱きついた。はしゃぎまくり
の岳人に少々困惑する忍足であったが、岳人が嬉しそうにしているのを見て、何となく自
分も嬉しくなる。
「よかったな、岳人。」
「おう!今日は超ラッキーデーだぜ!!」
孔雀の羽根を抱きしめて、満面の笑みを浮かべている岳人につられて、忍足も自然に顔が
ほころぶ。何だかイイ気分だなあと思いながら、忍足は次の場所へ移動しよと岳人を誘う。
「そろそろ他のところにも行ってみぃひん?」
「そうだな。ふれあい動物園なのに、まだ全然動物にもふれあってねぇしな。」
「あっちの方がそれっぽいで。」
「本当だ。じゃあ、行くか。」
鳥を眺めているのもよいが、ふれあい動物園というくらいなのだから、動物とふれあわな
いとということで、岳人は忍足の誘いに頷く。先程忍足から受け取った孔雀の羽根は、し
っかりとベルトに差して、岳人はニコニコしながら忍足と共に、真っ白な囲いのある場所
へ向かって歩き始めた。

白い囲いの中には、うさぎやハムスター、モルモットやはつかねずみなど、小動物の代名
詞のような動物が居た。
「可愛らしい動物がいっぱいやな。」
「そうだな。うーん、こんだけ居るとどれを抱っこするか迷っちまうな。」
「とりあえず俺は・・・」
迷っている岳人を横目に、忍足は真っ白なうさぎを抱き上げた。立っていると、うさぎも
落ち着かないだろうと、忍足はすぐ側にあるベンチに腰かけた。
「大人しくて可愛いなあ。」
「んじゃ、俺はハムスター抱っこしよう。ハムスター、やっぱちっちぇえなあ。」
岳人は小さなハムスターを手に乗せ、忍足の隣に座る。小動物の温かさにほんわかした気
分になりながら、二人は話をする。
「うさぎ見ると、どうも岳人っぽいなあと思うねん。」
「跳ねるからか?」
「まあ、そうやな。単純かもしれへんけど。」
「うさぎみたいって言われるのは、そんなにやな気分じゃないぜ。でも、俺的にはうさぎ
は侑士っぽいと思うけど?」
「は?何で?」
自分にうさぎっぽい要素があるとは思えないと、忍足は首を傾げる。そんな忍足につられ
るかのように、忍足に抱かれているうさぎも首を傾げた。
「顔には表わさないし、特に何も言わないんだけど、実はすごく寂しがり屋なところとか、
すげぇ似てると思うけど。」
「ホンマに?俺、そんなに寂しがり屋かなあ?」
「じゃあ、今、俺が侑士置いてどっか行って戻って来なかったら、どう思うよ?」
「そりゃヘコむに決まってるやん。・・・一人で置いてかれたら、やっぱ寂しいし。」
ナチュラルにそんなふうに答える忍足の言葉を聞いて、岳人はくすくす笑う。疑問に思っ
ている割には、随分ハッキリ認めるようなことを言っていると、忍足のことを可愛らしい
なあと思う。
「やっぱ侑士可愛いわ。そのうさぎに負けてないぜ!」
「そ、そないなことあらへんって!!」
「安心しろよ。侑士を置いて一人でどっか行ったりなんてしないからよ。」
にっと笑ってそんなことを言われ、忍足は何だか恥ずかしくなってしまう。真っ赤になっ
てうつむいていると、抱いていたうさぎがぴょこんと下に下りた。
「あっ・・・」
「あのうさぎはそんなに寂しがり屋じゃねぇみてぇだな。」
「もうええやん・・・その話は。」
「あはは、そろそろ移動するか。あっちにはもっと大きな動物も居るみたいだし。」
手に乗せていたハムスターをもと居た場所に戻すと、岳人はすっと立ち上がる。岳人の目
線の先には、ヤギやヒツジなどの少し大きな動物がのっそり歩いていた。
「あっちにも行くん?」
「せっかくふれあえるんだから、とりあえず行ってみようぜ。」
あまり大きい動物とふれあうのは気が乗らないと思いながらも、岳人が行きたいというの
ならと、忍足は小動物の囲いから中型の動物の囲いへと移動する。囲いの外から見る分に
はそうでもないのだが、中に入って完全にふれあえるような状態になると、ヤギやヒツジ
もなかなか迫力がある。
「侑士、ヤギとかに餌あげられるみたいだぜ。」
「へ、へぇ。そうなん?」
「俺、ちょっともらってくるな。」
餌あげをしてみたいと、岳人は餌を配っている係員のところへ行き、その餌を少し分けて
もらう。餌を持って忍足のところへ戻ろうとすると、何故か何も持っていない忍足が何匹
かのヤギやヒツジに迫られていた。
メェ〜、メェ〜・・・
「うわっ、ちょっ・・・何やねんっ!?」
メェー、メェー・・・
数匹のヤギやヒツジに迫られるというのは、なかなか怖いものがある。じりじりと後ずさ
りしながら、忍足は囲いの方に追いつめられていた。
「やっ・・・嫌や・・・」
「こら!!お前ら、侑士いじめてんじゃねぇ!!」
忍足とヤギとヒツジの間に割りこみ、岳人はそんなことを言う。ヤギやヒツジ相手に真面
目な顔で怒っている姿は少々滑稽ではあるが、忍足からすれば、またとない助けになった。
岳人の後ろに身を隠しながら、忍足は岳人の服をぎゅうっと掴む。
「ほら、これやるからあっち行け!!」
持っていた餌をポーンとなげると、ヤギやヒツジはそちらの方へ去って行った。やっとそ
れらの動物が離れてくれたのを確認すると、忍足は大きな溜め息をつく。
「はあ〜、ビックリした。」
「何か妙に好かれてたな、侑士。」
「マジありえへんわ。ここは苦手やなあ。」
「侑士がそう言うならしょうがねぇな。もう動物園は出て、他のところも回ってみるか。」
「せやな。」
とりあえず、公園内の他の場所にも行ってみようと、二人はふれあい動物園を後にする。
孔雀の羽根を手に入れたというラッキーなこともあり、小動物とのふれあいで癒しもあり、
ヤギやヒツジの囲いでドキドキさせられることもありで、小さな動物園であったが、二人
はそこでなかなか充実した時間を過ごした。

ふれあい動物園を出た二人は、少し離れたところにある日本庭園に向かった。動物園は子
供も多いということもあり、にぎやかであったが、日本らしさの溢れる庭園は、非常に落
ち着いた雰囲気が漂っていた。
「何か侑士が好きそうな雰囲気の場所だな。」
「こういう場所、ホンマ落ち着くわー。さっきのところもよかったけど、ここもええなあ。」
「俺はどちらかと言えば、にぎやかなとこのが好きだけど、侑士と一緒だったら、こうい
う場所もいいと思うぜ。」
ゆっくりと緑や水場の多い庭園を歩き、二人は落ち着いた雰囲気を堪能する。少し奥まっ
たところまで行くと、小さな滝のあるすぐ側に木で出来たベンチがあるのを見つけた。
「おっ、こんなところにいい感じのベンチがあるぜ。」
「ホンマやな。ちょっと休むか。」
「そうだな。」
さっきの動物園ではしゃぎまくった岳人は、ふーっと小さな溜め息をついて、緑の中にあ
るベンチに腰かける。涼しい秋の風がさわさわと木々を揺らし、ザーザーと滝の流れ落ち
る音が耳に響く。
「気持ちええな。」
「おう。風も涼しいし、滝の音もいい感じだし、すっげぇ落ち着く。」
「岳人。」
「ん?何だよ?」
「今ならあんまり人も居ないみたいやし、少しだけ甘えてもええか?」
突然そんなことを言ってくる忍足に驚く岳人だが、そんな可愛いことを言われてダメだと
は言えない。
「いいぜ。侑士がそうしたいなら、存分に甘えろよ。」
「おおきにな、岳人。」
にっこりと笑いながら、忍足は岳人の肩に頭を乗せる。本当に甘えたような仕草を見せる
忍足に岳人は胸を高鳴らせる。自分の座っているすぐ横に置かれている忍足の手に、岳人
はそっと自分の手を重ねた。
「岳人の手、あっついなあ。」
「えっ!?どけた方がいい?」
「いや、俺、この熱さ好きやで。岳人に触れられてるて感じがして。」
「そ、そっか。」
今日の忍足は本当にドキドキするようなことばかり言ってくると、岳人はちらっと忍足を
見る。自分の肩にもたれかかりながら、気持ちよさそうに瞳を閉じている忍足を見て、岳
人はふっと微笑った。
(侑士って、本当綺麗な顔してるよなあ。こんな近くでこんな無防備な顔見れるの、きっ
と俺だけなんだろうな。)
そう思うと何だか無性に嬉しくなってくる。自分の手の下にある手をぎゅっと握り、忍足
の頭に自分の頭をくっつけるかのように、岳人はコツンと頭を傾けた。そんな状態で二人
はお互いのぬくもりと穏やかな雰囲気に浸り、目を閉じる。そのあまりの心地よさに、ど
ちらも淡い夢の世界へと誘われていった。

ふと二人が目を開けると、辺りは夕焼け色に染まり始めていた。そんな景色を見て、二人
は少しの間眠ってしまっていたのだと気づく。
「あー、何か寝ちまったみてぇだな、俺達。」
「せやな。もうすっかり夕方やん。」
「うーん、でも、超気持ちよかった気がする。リラックス出来たって感じで。」
「俺もやで。たまにはこういう場所で、何もせんとゆっくりするのもええな。」
「そうだな。せっかくだからよ、この辺り全部が夕焼け色に染まるの見てから帰ろうぜ。
きっと綺麗だと思うんだよな。」
「ええで。ほなら、もう少しだけゆっくりしとくか。」
緑に包まれていた景色が、赤く染まってゆくのを眺めながら、二人はしばらくベンチに座
ったままでいる。いつもよりゆっくりと時間が流れているように感じ、二人はその夕焼け
色の時間の中で、今二人でこの景色を見られる幸せを噛みしめていた。完全に日が沈み、
辺りが夕闇に包まれると、岳人はひょいっと立ち上がる。
「そろそろ帰るか、侑士。」
「せやな。」
少し名残惜しい感じもするが、もう充分にこの庭園は堪能したと、二人はその出口へ向か
って歩き出す。出口の側の柳の下まで来ると、岳人はふと歩みを止める。
「どないしたん?岳人。」
「侑士、ちょっとだけこっち来て。」
「何?」
柳の木の裏にその身を隠すように移動すると、岳人は悪戯っ子のように笑い、ぐいっと忍
足の腕を引っ張った。そして、少し前かがみになった忍足の唇にちゅっとキスをする。
「へへ、奪っちゃった。」
「なっ・・・岳人っ。」
「急にちゅうしたくなってさあ。デートの最後にはつきもんだろ?」
「だからって・・・別に今せんでもええやん。」
「だって、公園の外出たら、人がいっぱいで出来ねぇもん。それとも、侑士は他の奴らに
見せつけてやりたかったのか?」
「そ、そないなことないけど・・・・」
「なら、いいじゃん。よーし、それじゃ帰るか!!ほら、行くぞ、侑士。」
いきなりキスをされてドキドキしている忍足だが、かなりご機嫌な岳人を見て、全くしょ
うがないなあと苦笑する。こんなデートも悪くないと、歩き出す岳人の横に並び、忍足は
ふっと笑って呟いた。
「またこの公園来ような、岳人。」
「おう!!俺、この公園超気に入ったし。侑士もそうだろ?」
「当たり前やん。なかなかええデートスポットやで。この公園。」
「だよな!!絶対また来ようぜ。」
「ああ。」
またこの公園でデートをしようというようなことを話しながら、夕闇に包まれている公園
の道を二人は歩いて行く。いつも通りの休日だが、今日は少し贅沢な時間を過ごせたと、
どちらも充足感を胸に抱き、他愛もない話をしながら家路を辿るのであった。

                                END.

戻る