Happy Day in the Love

リクエスト内容『学校でイチャらぶな跡宍』

「おい、宍戸。まだかよ。」
「ちょっと待てよ。プリントが・・・あっ、あった!」
五時間目の予鈴が鳴り、教室に残っているのは跡部と宍戸の二人のみ。五時間目の授業は
理科で、今日は生物関係の実験が実験室で行われることになっている。昼休みにギリギリ
まで遊んでいたので宍戸は準備に戸惑っていた。跡部はそんな宍戸を待っている。
「トロイ奴だな、早くしねーと本鈴鳴っちまうだろうが。」
だったら先に行けばいいじゃないかと思うが、宍戸は置いて行きたくないとイライラしな
がらもしっかりと待っているのだ。
「少しぐらい遅れても大丈夫だろ?」
「ダメだ。ほら、早く行くぞ。」
「おう。」
跡部に急かされながら宍戸は準備を終わらせる。二人は慌てて教室を出た。本鈴が鳴るま
であと一、二分。走れば充分間に合うはずだった。
「うわっ・・・!!」
慌てたのがいけなかったのだろうか。階段にさしかかった時、宍戸は足を踏み外し真ん中
辺りから落ちた。
「痛ってー・・・・」
「何やってんだよ。バーカ。」
階段を下りながら跡部はバカにしたように言う。
「とにかく早く行くかねーと・・・・痛っ!!」
早く実験室に行かなければと立ち上がろうとした瞬間、足首に鈍い痛みが走った。
「どうした?足でも捻ったか?」
「そうっぽい。」
宍戸は足をおさえながら跡部を見た。跡部は溜め息をつきながら宍戸に問う。
「保健室行くか?」
「ヤダ!今日の実験やりてぇもん。」
「しょうがねぇなあ。ほら、コレ持ってろ。」
跡部は持っていたノートや教科書を全て宍戸に渡した。そして、何の躊躇もなしに宍戸を
抱え、実験室に向かう。
「わっ、ちょっと跡部!?」
「急ぐからつかまれるんだったらつかまれ。」
授業の開始を告げるチャイムが鳴るまであと少ししかないので、跡部は全速力で走った。
そのスピードに振り落とされそうになるので、宍戸は二人分の教科書を抱え、跡部の首に
しがみつく。
ガラガラガラ
「セーフ・・・」
宍戸は思わず呟く。二人はチャイムが鳴るギリギリ前に実験室に入った。他の生徒はすで
に着席している。先生ももう黒板の前に立っているがまだ授業は始まっていない。
「ギリ間に合ったな。」
「ああ。お前やっぱすげぇな。」
普通に会話をしている二人だが、傍からみればどう見ても普通じゃない。理科の先生もこ
の光景には唖然としている。跡部と宍戸は同じ班なので跡部は自分達の席まで宍戸を連れ
て行った。二人が席に着いた瞬間、五時間目の本鈴がなった。
「はい、じゃあ授業を始めます。」
理科の先生は内心ものすごくドキドキしながら,いつも通り授業を始めた。
「ねぇねぇ、何で跡部君、宍戸君をお姫様抱っこして入ってきたの?」
実験の用意をしながら跡部達と同じ班の女子が興味津々という感じで尋ねた。
「そうだよな。俺、メチャメチャビビったぜ。」
「あー、こいつがここに来る途中階段から落ちたんだよ。ダッセーよな。」
「言うなよ、跡部!」
自分の失態をあっさりバラされ、宍戸は怒った口調で跡部につっこんだ。
「でも、跡部君優しいよね。いくら階段から落ちたからって、普通あーいう風に連れてこ
ないよ。」
「本当、本当。跡部って宍戸には超甘いよな。」
からかうような口調で同じ班の男子が言う。この二人はいつもケンカをしているがクラス
メートも認める程仲がよいのだ。実験を進めていく途中、宍戸は何度か顔をしかめること
があった。それに跡部は気づく。
「宍戸、足痛ぇのか?」
「あ、ああ・・・。ちょっとな。」
「じゃあ、この授業が終わったら保健室行くぞ。どうせ次はLHRだしな。」
「じゃあ、私達、先生に言っといてあげるよ。」
「ああ。頼む。」
同じ班の女子が次の授業に出れないと伝えてくれるというので、この時間が終わると二人
はそのまま保健室に向かった。さすがにお姫様抱っこは疲れるので、今度はおんぶで行く
ことした。保健室の前まで行くとドアに出張中の札が掛けられていた。
「あれ?保健室の先生いねぇみたいだな。」
「えー、マジで。」
「あっ、でも鍵は開いてるみたいだぜ。」
ドアに手をかけると鍵はかかっていないで普通に開けることができた。
「じゃあとにかく入ろうぜ。」
今日は保健室の先生は出張中のようだが、鍵は開いていて休みにきた人のためにストーブ
もついている。たぶん定期的に暇な先生が来ているのだろう。二人はそのまま保健室に入
った。宍戸をストーブの近くのイスに下ろすと跡部は棚の中からシップや包帯を取り出し、
宍戸の足の手当てを始める。
「保健室、メチャクチャあったけーな。」
「動くな。ずれるだろうが。」
跡部は元テニス部部長。捻挫程度の手当てなら朝飯前だ。
「よし。そんなにひどくはないみてーだな。」
「そっか。サンキュー跡部。」
「こんなキレイな足なのに怪我してんじゃねーよ。」
「な、何言ってんだよ!?」
跡部の言葉に宍戸は顔を赤く染める。跡部はそんな宍戸を見て意地悪く笑う。
「お前の反応、ホントおもしれぇな。なあ、宍戸。教室行ってもまだ寒みぃだろうからこ
こでちょっと温まっていこうぜ。」
五時間目が実験だったため、教室はまだストーブをつけたとしても暖まっていないはずだ。
なので、跡部は保健室で温まっていこうと考えた。
「いいぜ。でも、今日そんなに寒いか?」
「寒みぃよ。」
「そうかな?俺はそんなに寒いとは感じないけど・・・。あっ、分かった。跡部、ちょっ
と手貸せよ。」
「?」
宍戸は跡部の手に触れた。思った通り跡部の手は氷のように冷たい。
「これじゃあ、寒いって感じんのは当然だな。」
「お前の手、熱いな。」
「お前の手が冷たすぎなんだよ。」
あまりにも跡部の手が冷たいので宍戸は自分の手で跡部の手を温め始めた。ぎゅうっと握
ったり息を吹きかけて擦ったりして温める。
「よくさあ、心のあったかい奴は手が冷たいって言うけどアレ絶対うそだよな。」
「何でだよ?」
「お前、どう考えても心あったかくねぇもん。」
「その考え方だと手の熱い奴は心が冷たいってことになるよな?じゃあ、お前は心が冷た
いんだな。」
「だから、その考え方が違うっつってんだろ。」
「あってるんじゃねーの?やっぱ。」
手の温かさが心の温かさに関係するというネタで微妙な言い争いをする。そのうち二人の
手の温度は同じくらいになった。
「でも、同じくらいの温度になったらどっちも変わんねぇことになるよな?」
「そうだな。」
「もう同じくらいの温度になったと思うぜ。どうだ跡部。手、温まったか?」
「ああ。」
温まった手に目を落とし、それから軽く宍戸にキスをする。
「サンキュー。すっかり体も温まったぜ。」
「俺も何かすっげぇポカポカしてきた。」
ラブラブな雰囲気で体も心もポカポカになった二人は教室に戻ることにした。
「跡部、肩貸してくれよ。」
「おぶってやるよ。ほら。」
「ありがと。さっきからゴメンな。」
「別に。お前結構軽いからこれくらいどうってことねーよ。」
宍戸をおぶうと跡部は保健室を出て、階段を上がり教室に向かう。さすがに階段はちょっ
とキツイなあと跡部は感じていた。
「大丈夫か?」
「ああ。全然余裕だぜ。」
だが、宍戸にはそれを気づかれないようにする。やはりこういうときは強がってみせたい
ものだ。どのクラスでも六時間目はLHRなのでざわめきがいたるところから聞こえる。
だが、廊下に出ているものはほとんどいない。階段を上がる跡部の背中で宍戸は不思議な
心地よさを感じていた。
「なあ、跡部。」
「ん?」
「お前ってさ、俺とひっついてんの好き?」
「急に何言ってんだよ。」
「だって、手繋いだり、おんぶしたり、抱きしめたりしてくるのって、いっつもお前から
じゃん。」
「そういやそうだな。」
宍戸は跡部の首に回している腕に軽く力を入れて、ぎゅっと甘えるように頭を肩にうずめ
た。
「俺は・・・跡部にくっついてんの好きだぜ。」
「何で?」
「お前がいっぱい伝わってくるから。匂いとか心臓の音とか温かさとか。」
「そしたら俺も同じだな。お前と一緒にいんと不思議と落ち着くし今だって背中がすげー
温かくて気持ちいい。」
「よかった。」
宍戸はうれしそうな安堵の声を漏らす。自分と同じことを跡部も感じている。こんなに気
分がいいことを二人で分かちあえることがとてもうれしい。宍戸は満面の笑顔で跡部に寄
りかかった。そして、何故だかここで会話は途切れた。

ガラガラ
跡部が教室のドアを開けるとクラスメートが一斉に二人を見た。先生も不思議そうな顔を
している。
「おい、跡部。寝ている奴をわざわざ教室に連れてくることないんじゃないか?」
「は?何言ってるんですか先生。・・・・・!?」
担任の言葉を疑問に思った跡部は宍戸の方を振り向いた。宍戸は跡部の背中で気持ちよさ
そうに寝息をたてている。跡部は宍戸をイスに座らせると、揺り起こそうとした。だが、
いっこうに起きる気配はない。
「おい、宍戸。起きろ!教室着いたぞ。」
「・・・・・・。」
その光景はクラスメートにとっては結構おもしろい図だった。ここで跡部は誰もが予想し
ていなかったことを実行する。
「起きろっつってんだろうが。」
『えっ・・・!!』
『うっそぉ!』
『うわあ・・・』
その時、クラス中が固まった。生徒も先生も口を開けてポカンとしている。そう跡部はい
つものように宍戸にキスをして口を塞いだのだ。そのせいで息苦しくなった宍戸は目を覚
ます。
「・・・んっ。あれ?跡部、ここどこ?」
「教室だ。お前、何寝てんだよ。」
「あっ、そうか。俺寝ちゃって・・・・おい!跡部。お前、今俺のことどうやって起こし
た!?」
「休みの日にいつもしてるみたいにだぜ。」
「・・・・・!?」
自分がどういうふうに起こされたかを知って、顔をゆでだこのように真っ赤にして宍戸は
いきなり立ち上がった。
「な、な、何すんだよ!!」
「だって、お前が起きねーから。」
「だからって教室ですることねーだろ!?それもこんなに人がいる中で。」
「そんなことより、お前そんな立ち方して足大丈夫なのか?」
怒りと羞恥で普通に立ち上がってしまった宍戸は、跡部のこの言葉で自分が捻挫をしてい
たことを思い出す。その瞬間、激痛が走った。
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
「大人しくしてないと悪化するぜ。」
痛みから涙目になっている宍戸は跡部をキッと睨んだ。言葉は発していないが、目でお前
のせいだ!!と訴えた。
「あー、跡部に宍戸。今、一応LHR中なんだが、話進めてもいいか?」
「ああ。いいですよ。」
「できれば着席して欲しいんだが・・・。」
担任の言う通りに跡部も宍戸も自分の席に着いた。跡部は平然と涼しい顔をしているが、
宍戸はさっき跡部にされたことが頭をよぎり、ドキドキが止まらなかった。話もほとんど
聞けない状態で、あっという間に六時間目は終わった。今日ももちろん部活はあったが、
正レギュラーメンバーはほとんどもう引退で、宍戸は足を捻挫しているのでどっちにして
も出れない。
「跡部、一緒に帰ってくんねぇ?」
さっきされたことに対してはまだちょっと怒っている宍戸だったが、足が痛いので一人で
帰るのは困難だった。
「ヤダっつったらどうすんだ?」
なんとなく跡部は聞いてみる。
「一人で帰る。」
「その足でか?」
「しょうがねーじゃん。跡部が嫌なら別にいいし。」
もっとあからさまに自分を頼って欲しかった跡部は少しむっとした表情で宍戸を自分の方
へ引き寄せた。
「痛っ・・・」
「そんなんで帰れるわけねーだろ。バーカ。」
「だって・・・跡部は別に悪くねーし、確かにさっきしたことに関してはちょっと怒って
るけどさ、階段から落ちたのは俺がドジだったからだし・・・。俺の都合で跡部に無理に
何かさせるのも嫌だし。」
ハアっと溜め息をつき、跡部は宍戸の髪をくしゃっと掴んで言った。
「俺はもっとお前に頼って欲しいんだよ。それに、そんな状態で帰られちゃ心配で部活ど
ころじゃねーし。」
跡部のこの言葉を聞いて宍戸は目を輝かせて跡部を見た。
「じゃあ、一緒に帰ろうぜ。俺、一人じゃ帰れねーよ。跡部に肩貸して欲しい。」
本当に言いたかったことがさっきの跡部の言葉によって自然に出た。跡部はふっと笑って
宍戸の手と取る。
「全く世話の焼ける奴だな。俺様の肩を貸してやるんだ。光栄に思え。」
「何だよそれー。」
宍戸はケラケラ笑いながら、跡部の肩に腕を回した。跡部は回された腕を右手でつかみ、
左手を腰に回して宍戸を支える。今日のこの二人はいつもにも増してなんだかラブラブだ。
教室に残っているクラスメートは誰もがそう思った。とその時、一人の女子が呟いた。
「あっ!そっかあ。今日の恋愛運NO.1って、天秤座だったっけ。」
そう、跡部も宍戸もどちらも天秤座。つまり、どちらにとっても今日は恋愛関係でイイコ
トがある日だったのだ。

                                END.

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