Lovely Pet,Lovely You

リクエスト内容『跡宍で1年か2年の今より初々しい
甘あまでツンデレ宍戸さん』

部活後の自主練が終わった後、宍戸は誰もいない部室で着替えをしていた。すっかり外
は暗くなり、あたりは閑散としている。
「ちょっと遅くなっちまったな。」
そんなことを呟きながら、制服のボタンを留めていると、突然携帯の着信音が鳴った。
それは宍戸自身の携帯電話の着信音ではなかった。自分しかいない部室内で、自分以外
の携帯の着信音が鳴るというのはなかなか驚くことである。
「な、何だ・・・?」
ビクビクしながら、音のするもとをたどってみると、テーブルの下に携帯電話が落ちて
いた。
「誰のだろ?」
二つ折りのそれをパカッと開くと、指がボタンに触れてしまい、通話状態になってしま
った。
「あっ、ヤベっ・・・」
『もしもし?』
「も、もしもし?」
『その声は宍戸か?今、お前どこにいる?携帯一つ落としちまって、どこにあるか分か
らないから、他の携帯でかけてみたんだけどよ。』
「テニス部の部室。」
『そっか。じゃあ、今から取りに行くから、ちょっとそこで待ってろよ。』
「えっ・・・おいっ、ちょっ・・・切れちまった。」
大して話を聞かずに、電話を切ってしまった跡部に少しムッとしながら、宍戸は通話終
了ボタンを押す。通話画面が閉じると、待受画面が表示される。跡部の携帯に映し出さ
れた壁紙を見て、宍戸の目は釘付けになる。
「うわぁ、可愛いー。」
跡部の携帯の画面に表示されたのは、跡部の飼い犬の写真であった。毛の長い大きな犬
に犬好きな宍戸の心はひどくときめく。実物に是非会ってみたいなあと思いながら、そ
の壁紙をじっと眺めていると、ガチャっと部室のドアが開いた。
「待たせたな、宍戸。」
跡部の声を聞いて、宍戸はハッと我に返る。パタンと携帯を閉じると、そっぽを向きな
がら、それを跡部に差し出した。
「全く迷惑な奴だぜ。」
「仕方ねぇだろ。落としちまったもんは。」
跡部に携帯を手渡すと、宍戸はさっきから気になって仕方ないことを口にする。
「その携帯の待受って、お前の飼い犬か何かか?」
「ああ、そうだぜ。うちの飼い犬だ。賢そうだろ?」
「ふーん。」
自分の家の飼い犬だと言うことを伝えると、宍戸は明らかにそわそわし始める。宍戸が
犬好きだということは、当然跡部も知っていることなので、宍戸が何がしたいかを跡部
はすぐに見極めた。
「今度うちに見に来るか?」
「いいのか!?」
本物の跡部の飼い犬を見てみたいという気持ちから、宍戸は実に嬉しそうな声でそう聞
き返した。あまりにも素直な宍戸の反応に、跡部はクスクスと笑いながら、もちろんだ
と頷く。
「あっ・・・」
跡部が笑っていることに気づき、宍戸は何だか恥ずかしくなってしまう。これではまる
で、跡部の家に遊びに行きたかったと言っているようなものだと、宍戸はそれを否定す
るような言葉を口にした。
「べ、別にお前の家に遊びに行きたいってわけじゃないんだからな!ただ、その待受の
犬に会ってみたいってだけだぞ。勘違いするなよ!!」
「分かってるよ。別にそんなに必死で否定することでもねーだろ。」
こういうのをツンデレって言うんだろうなあと思いながら、跡部は必死で笑いを噛み殺
していた。
「なら、次の休みにでも遊びに来いよ。時間は何時でもいいからよ。」
「お、おう。」
あの可愛らしい犬に会えるという期待感に宍戸の胸は躍る。しかし、それを悟られない
ようにと、宍戸は平静を装った。が、跡部には宍戸がかなり嬉しがっていることなどお
見通しで、その素直ではないようで素直な宍戸にキュンキュンと胸をときめかせていた。

その次の休みの日、宍戸は跡部の家に遊びに行く。跡部の家に遊びに行くのはこれが初
めてで、宍戸は少々緊張しながら、大きな門の前の横にあるインターホンを押した。イ
ンターホンから聞こえる声は跡部のものではなく、初老の男性のような声であった。
『少々お待ち下さいませ。』
跡部の友達で、今日は遊びに来たということを伝えると、ギーッと音を立て、大きな門
が開く。中に入ると、あまりの敷地の広さと奥に見える大きな屋敷に宍戸は唖然として
しまう。
「すげぇ・・・どんだけデカイ家に住んでるんだよ、跡部の奴。」
とりあえず、あの屋敷に向かって歩いて行けばよいのかなあと思いながら宍戸は歩き始
める。しばらく歩いて行くと、どこからか犬の鳴き声が聞こえてきた。あの待受の犬が
近くにいるのかと思い、胸を躍らせながら、宍戸はその鳴き声がする方に向かう。
「ほら、こっちだ!マルガレーテ!」
「ワンワンっ!!」
大きな庭に出ると、そこでは実に楽しそうな表情で跡部があの待受の犬と戯れていた。
犬の可愛さもさることながら、学校では見せない跡部の表情にも宍戸は目を奪われる。
(跡部もあんな顔するんだ。ちょっと意外かも・・・)
そんなことを考えながら、跡部と犬を眺めていると、跡部がふとこちらの方に目をやる。
宍戸が来たことに気づいた跡部は、犬を連れて宍戸の方へやって来た。
「よう、宍戸。」
「約束通り、遊びに来てやったぜ。」
「よくここにいるのが分かったな。誰かに聞いたのか?」
「いや、犬の鳴き声が聞こえたからこっちかなあと思って・・・」
「そうか。こいつが俺の飼い犬のマルガレーテだ。ほら、挨拶しろ。マルガレーテ。」
「ワン!」
跡部の言葉を理解しているかのように、マルガレーテは宍戸に向かってワンと吠える。
賢い犬だなあと感心しながら、宍戸はマルガレーテの頭を撫でる。
「マルガレーテってすごい名前だな。」
「いい名前だろ?」
「まあ、悪くはないんじゃねぇの?」
名前はさておき、人懐っこくて賢いマルガレーテに、宍戸はすっかり心を奪われていた。
お手やお座りをさせつつ、宍戸はマルガレーテとコミュニケーションを取る。本当に犬
が好きなのだなあと、跡部は嬉しそうにマルガレーテと戯れる宍戸をしばらく眺めてい
た。
「あはは、くすぐってぇよ。」
「ワンワン!!」
ペロペロと顔を舐められ、楽しそうに笑っている宍戸を見て、跡部もふっとその顔を緩
ませる。
「マルガレーテも宍戸のこと気に入ったみたいだな。」
「もってどういうことだよ?」
「アーン?そんなことも分かんねぇのか?」
馬鹿にしたようにそんなことを言ってくる跡部にムッとする宍戸であったが、マルガレ
ーテがじゃれついてくるので、そんなことはどうでもよくなってしまう。しばらくの間、
二人と一匹は大きな庭で遊び、どちらも学校で見せる顔とは一味違う雰囲気で、その時
間を存分に楽しんだ。

疲れるまで外で遊ぶと二人は屋敷の中に入る。海外の映画に出てくるような屋敷の中の
様相に宍戸はただただ驚くばかりであった。
「メチャクチャ広いな、跡部んち。」
「そうでもねぇと思うけどな。」
「家っていうか、城みてぇだもん。一人で来たら絶対迷うぜ。」
「激ダサだな。」
「それ、俺のセリフ!」
「あはは、お前がよく言ってるから覚えちまったぜ。」
いつもはケンカばかりしている二人だが、今日はマルガレーテも混ぜて一緒に遊んだた
めか仲良さげにそんなやりとりをする。そんなやりとりをしている間に、跡部の部屋に
到着した。
「・・・部屋も半端ねぇな。」
「今、飲み物とお菓子でも持って来させるから、適当に座って休んどけ。」
「お、おう。」
自分の部屋の何倍もある跡部の部屋に入り、宍戸はまたもや驚かされる。適当に座って
ろと言われてもこんなに広いとどこに座ればよいか迷ってしまう。
「にゃーん。」
と、まだ開けっぱなしだったドアの隙間から一匹の猫が部屋の中へと入って来る。
「猫だ。」
「ああ、こいつも俺のペットだぜ。」
「へぇ。跡部いろんな動物飼ってんだな。」
「基本的に動物は好きだからな。」
プルルル・・・プルルル・・・・
入ってきた猫が跡部の足元のあたりまでやってきたところで、部屋の中にある電話が鳴
る。受話器を取ると、跡部はその電話の相手と軽す。そして、話し終わると、ふうっと
小さく溜め息をついた。
「悪ぃ、宍戸。ちょっとここで適当にくつろいでてくれ。」
「どうしたんだ?」
「ほんの少し野暮用が出来ちまってな。すぐ戻ってくるからよ。」
「分かった。」
何か用事が出来てしまったようで、そんなことを言い残すと、跡部は部屋から出て行っ
てしまう。ぽつんと部屋に残された宍戸は、どうしようかと広い部屋をぐるりと見回し
た。
「本当、跡部の家ってビックリするようなことばっかだよなあ。くつろいでろったって、
こんな広い部屋じゃ全然くつろげねぇぜ。」
そんなことをぼやきながら、宍戸はポスンと跡部のベッドに腰かける。
「跡部いないと暇だなあ・・・。何してよう?」
「にゃーん。」
暇を持て余す宍戸の目に入ってきたのは、先程部屋に入ってきた猫であった。少しの間、
こいつに遊び相手になってもらおうと、宍戸はチッチッチッチと音を鳴らして、猫を呼
び寄せようとした。しかし、興味がないのか、ドアの前に座っている猫は宍戸に目もく
れず、毛づくろいを始める。
「うーん、ダメか。近づいたら逃げられるかな?」
少し近づいてみようと、宍戸は立ち上がり、猫に近づく。そして、猫の目線に少しでも
合わせようと、その場にしゃがみ、手を差し出しながら、猫の鳴き真似をした。
「ニャー。」
宍戸の鳴き真似を聞くと、猫は毛づくろいをやめ、耳をピクンと動かしながら、宍戸の
方を見る。そして、その鳴き声に答えるかのように、その猫は鳴き声を上げた。
「にゃー。」
「おっ、反応した。ニャー、ニャーン。」
「にゃー、にゃー。」
宍戸の鳴き声に反応し、その猫はテクテクと宍戸の方に近づいてくる。これなら、遊ん
でもらえるかもと、宍戸は猫の鳴き真似をしながら、その猫と交流を図る。
「ニャー、ニャー、ニャーン。」
「にゃー、にゃーん。」
言葉が伝わるわけではないが、宍戸の鳴き真似に親近感を覚えたのか、猫は宍戸に懐き、
ゴロゴロと甘えるような仕草を見せる。これは可愛いと、宍戸は嬉しそうにしながら、
しばらくその猫とじゃれていた。

跡部が用事から戻ってくると、部屋の中から何故か二匹分の猫の鳴き声が聞こえる。ど
ういうことだろうと、疑問に思いながら小さくドアを開けると、宍戸がニャーニャーと
猫の鳴き真似をしながら、自分の飼い猫と実に楽しそうに戯れていた。
(猫の鳴き真似しながら猫と遊ぶって、どんだけ可愛いことしてくれてんだよ。)
あまりにも可愛い宍戸にひどく胸を高鳴らせながら、跡部はしばらく部屋には入らず、
ドアの隙間からその様子を眺めていた。宍戸が猫のような声を上げるたび、跡部は顔を
緩ませる。
「はあ、何か疲れちゃったな。」
「にゃーぅ。」
「ちょっとだけ休むか。」
「にゃー。」
遊び疲れてしまったのか、宍戸は猫と一緒に跡部のベッドの上に横になった。宍戸に顔
をくっつけながら、小さく丸まり猫はすぐに眠りに落ちる。そんな猫と同じように、宍
戸も夢の中へと落ちていった。
(あいつ、寝ちまいやがったのか?)
音を立てないようにしながら、跡部はそっとドアを開け、部屋の中へと入る。足音を立
てないようにベッドに近づいてみると、完全に宍戸は熟睡してしまっていた。
「可愛すぎだろ・・・」
猫と一緒に眠っている宍戸は、跡部にとってドストライクであった。これはもう写メっ
ておかないとということで、跡部は一番使用頻度の高い携帯で、天使のような二匹の猫
の寝顔をバッチリ収めた。
「よく撮れてるじゃねーの。こりゃ新しい待受決定だな。」
宍戸と猫のツーショット写メを待受画面に設定すると、跡部は満足気に笑う。携帯をし
まって、宍戸の寝顔を眺めていると、跡部はどうしようもなく宍戸に触れたくなってし
まう。
「こんなにドキドキさせられる奴が身近にいるなんて今までありえなかったぜ。本当、
どこまで俺様を夢中にさせるんだろうなあ、お前は。」
そんなことを口にしながら、跡部は眠っている宍戸の唇にちゅっと軽くキスをする。完
全に夢の中に落ちてしまっている宍戸は、跡部がそんなことをしても気づくことはなか
った。
「好きだぜ、宍戸。」
溢れる想いを伝えるかのように、跡部は宍戸の耳元でそう囁く。宍戸からの返事は返っ
てこないが、自分のベッドでこんなにも気持ちよさそうに眠っている寝顔を見られるだ
けで跡部は満足であった。しばらく宍戸の可愛すぎる寝顔を眺めつつ、跡部はゆっくり
と流れるこの甘い時間を満喫するのであった。

宍戸が目を覚ましたのは、それからだいぶ経ってからであったので、一緒に夕食を食べ
た後、家まで車で送ることになった。
「随分気持ちよさそうに寝てたな。」
「だ、だって、跡部がなかなか帰ってこないからよ。」
「ま、寝れるくらいくつろげたってことだからな。悪いことではないと思うぜ。」
車の中で、二人はそんな会話を交わす。初めて行った家であそこまで熟睡出来るとは、
宍戸自身も思っていなかったので、跡部の言うことに対してそこまで文句は言えなかっ
た。
「どうだ?マルガレーテと実際に会えて満足か?」
宍戸が黙っていると、何気なく跡部はそんなことを尋ねる。マルガレーテや猫と遊んで
楽しかったのは確かなので、宍戸は素直に頷いた。
「まあな。楽しかったし。」
「そうか。そりゃよかった。」
実に嬉しそうに笑う跡部の顔を見て、宍戸は何となく恥ずかしくなってしまう。恥ずか
しくなると、思ってもいないことを言ってしまうのが宍戸の癖だ。
「でも、楽しかったのは、マルガレーテや子猫と遊んだからであって、お前と遊んだか
らじゃねぇんだからな!」
「マルガレーテに会いたくてうちに来たんだから、それでいいんじゃねぇの?」
「う・・・」
そう返されると、逆に少し悪い気もしてしまう。確かに動物と遊ぶのも相当楽しかった
のだが、学校では見られないような跡部の顔が見れ、そんな跡部とテニス以外のことを
して遊んで、楽しかったのも間違いではなかった。
「・・・・また、遊びに来ていいか?」
「マルガレーテに会いにか?」
「当然だろ!ま、まあ、お前がどうしても俺と一緒に遊びたいっていうなら、遊んでや
ってもいいけどよ。」
ほんの少し顔を赤らめながら、そんなことを言ってくる宍戸に跡部は顔がニヤけるのを
抑えられない。口元を緩ませながら、宍戸の頭をわしゃわしゃと撫で、宍戸の言葉を肯
定した。
「なら、遊んでもらうぜ。いつでも好きな時に遊びに来い。俺は大歓迎だぜ?」
「それなら、たまーに遊びに行ってやるよ。」
どこまでもツンデレ全開なセリフにも、本当の気持ちは嫌というほど表れているので、
跡部は宍戸の一言一言が嬉しくてたまらなかった。宍戸も宍戸で、跡部が自分の素直で
ない言葉に怒ったりはしないことに安心し、次々と言葉を紡ぐ。いつの間にか二人の顔
には笑顔の花が咲いていた。

初めて二人で遊んだ休日。跡部のペットが二人の心を一気に近づけ、どちらも満足のい
く時間を過ごすことが出来た。そんな何気ない一日が、まだ幼い二人の仲を、より親密
なものにするのであった。

                                END.

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