それはきっと好きだから

リクエスト内容『タカ久々+5年生orタカ久々』

火薬委員会の仕事が終わり、久々知とタカ丸は服や髪についてしまった火薬の匂いを消す
為に、二人そろって風呂場へ向かう。
「今日も疲れたね〜。」
「そうですね。校外実習で一年と二年はいなかったので。」
「ただでさえ人数少ないから、こういうとき人数多い委員会はうらやましくなるよね。」
「でも、生物委員会は人数多くてもほとんど一年だから、今日みたいな日は大変だと思い
ますよ。」
「あ、確かにそうだね。」
そんな会話を交わしながら、二人は廊下を歩き、風呂場へ到着した。今は誰も入ってい
ないようで、脱衣所の棚は空っぽであった。
(久々知くんと二人でお風呂かぁ。久しぶりだから何かドキドキしちゃうなあ・・・)
久々知と一緒にお風呂へ入るのは久しぶりだと、タカ丸は若干胸を高鳴らせる。そんなこ
と考えながら、ゆっくり服を脱いでいると、後ろから声をかけられる。
「タカ丸さん、先入ってますね。」
「えっ!?久々知くんもう脱いだの?早っ!!」
「別にそんなに時間のかかることじゃないですよね。」
「あ、あはは、確かにそうだね。」
恥ずかしげもなく全裸になっている久々知を前に、タカ丸はドキドキしつつ、それを誤魔
化すように笑う。とにかく自分もさっさと脱いで久々知を追いかけようと、着ていたタカ
丸は制服を全て脱ぎ去った。
「お待たせ、久々知くん。」
「もう来ちゃったんですか?」
「あう、ひどいなぁ。」
「冗談ですよ。」
ちょっと突き放すようなことを言うと、本気でしょぼんとなるタカ丸を見て、久々知はク
スクスと笑いながら冗談だと返す。
「さてと、髪洗わなきゃだけど、結構大変なんだよなあ・・・」
軽く体を流し、髪を洗おうとしながら、久々知はそう呟く。そんな久々知の言葉を聞いて
これはチャンスだとタカ丸はとあることを頼む。
「それなら、ぼくに髪の毛洗わせて。」
「え、別に構わないですけど・・・髪多いから大変ですよ?」
「ぼくは髪結いだよー。そんなの全然気にしないよ。」
久々知の髪に触れるのが好きなタカ丸は、思いきり久々知の髪に触れるとルンルン気分で
髪を洗うための石鹸を泡立てる。そして、たっぷりの泡で久々知のつやつやふわふわの髪
を包んだ。優しく髪を洗われ、ほどよい力で頭皮をマッサージされ、久々知はうっとりと
目を閉じる。
(あんまり人に洗われたことないからよく分かんないけど、すごい気持ちいいー。)
「かゆいとことかない?久々知くん。」
タカ丸が髪結いお決まりのセリフでそんなことを尋ねると、久々知は大丈夫だと返す。眠
くなりそうなほど心地よい髪を洗われる感覚に、久々知は素直にそのことをタカ丸に伝え
る。
「タカ丸さん、髪洗うの上手いですね。すごく気持ちいいです。」
髪結いだからと、タカ丸が言おうとしたその瞬間、横から誰かが言葉を挟む。
「上手くて、気持ちイイとか、何やらしいこと言ってんだ?兵助。」
そんな言葉で久々知に話しかけたのは、鉢屋であった。声のする方にタカ丸が顔を向ける
と鉢屋と雷蔵が腰にタオルを巻いた姿で立っていた。
「あ、三郎くんに雷蔵くん。」
「こんにちは、タカ丸さん。で、今どんなエロいことを?」
「してるわけないだろ!!」
ニヤニヤと笑いながら、そんなことを尋ねる鉢屋の言葉に、久々知は全力で否定の言葉を
返した。タカ丸も苦笑しながら鉢屋の質問に言葉を返す。
「髪を洗ってあげてただけだよー。」
「なるほど。ということは、兵助はその長い髪が性感た・・・・」
ゴスっ!
「ぐあっ・・・!!」
「ゴメンね、タカ丸さん。さっきから三郎が変なことばっか言ってて。」
あまりに変なことばっかり言っている鉢屋につっこみを入れるがごとく、雷蔵は鉢屋を殴
って言葉を止める。なかなか激しい止め方だなあとタカ丸は鉢屋と雷蔵のやりとりを見て、
苦笑するしかなかった。
ガラガラ・・・
「随分中が騒がしいと思ったら、こんなに入ってたのか。」
突然風呂場のドアが開き、そんなことを言いながら入ってきたのは、竹谷であった。今日
も脱走した毒虫の捜索をしていたのか、竹谷の顔や手は泥だらけであった。
「八左ヱ門も今お風呂か。」
「孫兵のペットの捜索でこんなになっちまったからな。」
次から次へと入ってくる同じ学年のメンバーに久々知はほんの少しぶすっとした表情を見
せる。二人きりでタカ丸とゆっくりお風呂に入れると思っていたのを邪魔をされたような
気分になっているのだ。そんな久々知の気分を知ってか知らずか、鉢屋も雷蔵も竹谷も自
分の体を洗い始める。久々知以外の五年生メンバーが各々自分のことを始めたので、タカ
丸は再び久々知の髪を洗い始めた。タカ丸に髪に触れられると、今し方感じていたイライ
ラ感はすっと消える。やっぱり気持ちいいなあと思っていると、隣で顔を洗っていた竹谷
が声をかけた。
「タカ丸さんに髪洗ってもらってるのか。タカ丸さん髪結いだから、髪洗うのもさぞ上手
なんだろ?」
「ああ、すっごく気持ちいいぞ。」
「そりゃうらやましいな。タカ丸さん、兵助が終わったら、俺の髪も洗ってくれません?」
「うん、別に構わ・・・・」
「ダメだ!!」
竹谷の頼みに快く頷こうとしたタカ丸であったが、その言葉を遮るように久々知は否定の
言葉を口にする。思ってもみない久々知の言葉に、タカ丸はぽかんとしてしまい、竹谷も
つっこむ。
「何で兵助が答えるんだよ?」
「タカ丸さんを取られたくなかったんだろ?」
竹谷の言葉に、髪と体を洗い終えた鉢屋が立ち上がりながら口を挟む。冗談で言ったのだ
が、久々知はそんな鉢屋の言葉にハッキリと答えた。
「そうだよっ!!悪いか!!」
『・・・・・・。』
まさかそんな返しが来るとは思っていなかったので、鉢屋、雷蔵、竹谷の三人は唖然とし
てしまう。しかし、一番驚いているのは、タカ丸であった。
「そこまで言われたら・・・」
「邪魔出来ないよね。」
「だな。」
三人が顔を見合わせながらそう言っているのを聞いて、久々知はハッとして、自分の放っ
た言葉の意味をもう一度考える。何て恥ずかしいこと言ってしまったんだと、久々知の顔
はのぼせたかのように一気に赤くなった。
「・・・すみません、タカ丸さん。」
「えっ、何で謝るの?」
「何か・・・う〜・・・・」
ひどく恥ずかしがりながら、真っ赤になって言葉を失っている久々知に、タカ丸は無駄に
ドキドキしてしまう。
(裸にその表情はヤバイよ〜。落ち着けぼく!!)
風呂場ならではの格好と赤面した顔のコンボは攻撃力が高すぎると、タカ丸は必死で高鳴
る胸の鼓動を抑えようとする。
「と、とりあえず、髪の毛の泡落として、体洗おうか。」
タカ丸の言葉にも、久々知は黙って頷くだけだ。あまり長いことお風呂に入っているのは
危険だと、タカ丸は久々知が体を洗っている間に、自分の髪と体を素早く洗い、湯船に入
った。
(久々知くん、全然喋ってくれない。何か話しかけづらいし、どうしよ〜。)
湯船に入っても黙ったままの久々知を前に、口元までお湯に浸かりながらタカ丸はそんな
ことを考えていた。どうしようと頭を悩ませていると、久々知がざばっと湯船から上がり、
ちらっとタカ丸の方へ目をやった。
「タカ丸さん、上がりますね・・・」
「えっ!あっ、うん。」
久々知の言葉に頷きながら、タカ丸は風呂場から出ようとしている久々知を追いかける。
二人が風呂場から出ると、残された三人はそろって湯船に入った。
「今日の兵助面白いなあ。」
「そう言うなよ。本当はタカ丸さんと二人っきりで入りたかったのを俺らに邪魔されて、
機嫌悪くなってるんだから。」
雷蔵のふとした呟きに竹谷は苦笑しながらそう言う。そんな二人の横でパパッと久々知の
顔になり、鉢屋は先程の久々知のモノマネを少しオーバーにする。
「タカ丸さんは俺のだから、あげないもん!!」
『ぶはっ・・・』
笑ってはダメだと思っていても、その剣幕があまりにも先程の久々知に似ているために、
雷蔵と竹谷は吹き出してしまう。その後も鉢屋が久々知の真似をするので、風呂場の中
では楽しそうな笑い声が響き渡っていた。

寝巻きに着替え、脱いだ制服を抱えながら、久々知とタカ丸は長屋に向かって廊下を歩く。
先程のことを引きずり、久々知は黙ったままうつむいていた。
(はあ〜、もうさっき何であんなこと言っちゃったんだろう・・・。本当ありえない。)
そんな久々知にタカ丸はいつもの調子で話しかける。
「ねぇ、久々知くん。これから久々知くんの部屋に行ってもいい?」
「何でですか?」
不機嫌そうにそう返す久々知にたじろぎながらも、何とかいつも通りに接しようとタカ丸
は言葉を続ける。
「お風呂上がりの髪の手入れしてあげる。」
「それなら別に構わないです。」
それなら別に断る理由はないと久々知は自分の部屋にタカ丸が来ることを許した。さっき
ことでまだ恥ずかしさは残ってはいるが、タカ丸ともう少し一緒にいたいと思っているの
は確かであった。そうと決まれば、さっさと部屋に行って少し落ち着こうと、久々知は歩
く速度を少し速めた。
「どうぞ。」
「お邪魔しまーす。」
タカ丸を部屋に通すと、久々知はピタッと障子を閉める。そして、適当な場所へ腰を下ろ
した。
「髪拭くから、一回髪下ろすよ。」
「はい。」
寝巻きが濡れないように頭の高い位置で束ねた久々知の髪を下ろすと、タカ丸は乾いた手
拭いでその水気を拭きとってゆく。ある程度久々知の髪が乾いた状態になると、タカ丸は
洗い流さないタイプのリンスを手に取り、久々知の髪に馴染ませてゆく。
「何してるんですか?」
「リンスだよ。久々知くんの大好きなお豆腐と同じ原料から作られてるんだ。」
「豆腐と同じってことは、大豆ですか?」
「正解。しんべヱくんも使ってるらしくて、サラサラになる効果は抜群なんだ。」
「へぇ、そうなんですね。」
しっかりリンスを馴染ませると、タカ丸は久々知の髪を丁寧にくしでとかす。髪をくしで
とかされる感覚にも、久々知は先程髪を洗ってもらったときに感じた心地よさを覚える。
「何か・・・タカ丸さんに髪弄られてると、やっぱり気持ちいいと思います。」
「そうなんだ。それは嬉しいなあ。」
そんな久々知の言葉を聞いて、タカ丸は本当に嬉しそうに笑う。しかし、久々知は何だか
複雑そうな表情をしている。
「他の奴らもこうなんですかね・・・」
小さな声でそんなことを呟く久々知の言葉をタカ丸は聞き逃さなかった。
「他の奴って??」
「・・・タカ丸さんに髪を結ってもらったり、切ってもらったりしてる人達です。」
久々知の言葉にタカ丸は、今久々知がどんなことを思っているのかを理解した。
「もしかして、久々知くんその人達に妬いてるの?」
「・・・少し。」
しばらく黙った後、久々知は素直にそう答える。それを聞いて、タカ丸のテンションは一
気に上がった。
「もう久々知くん可愛すぎ!!」
「わわっ!!」
テンションの上がったタカ丸は、ぎゅうっと久々知を後ろから抱きしめる。いきなり抱き
つかれて驚く久々知であったが、決してはがそうとはしなかった。そして、タカ丸はその
まま久々知の耳元で囁く。
「大丈夫だよ。」
「えっ・・・?」
「久々知くんが髪をぼくに触られて気持ちいいと思うのは、ぼくが久々知くんのこと大好
きで、久々知くんがぼくのこと好きだから。」
「どういうことですか?」
よく分からないと、久々知はそんなことを問いながら、タカ丸の方を振り返る。すると、
タカ丸はここぞとばかりに久々知の唇を奪った。
「ふっ・・・ぁ・・・・」
抵抗する間も与えられず、久々知はタカ丸のキスを受け入れる形になってしまう。しばら
くタカ丸の好きなようにさせていると、久々知はすっかりタカ丸のキスにメロメロになっ
てしまった。
「ふはっ・・・ハァ・・・・」
口を離すとタカ丸はいつもの笑顔で久々知に尋ねる。
「ぼくにキスされて、気持ちいい?」
「・・・はい。」
「でも、他の人にされたとしたら、そうは思わないでしょ?」
そう問われて久々知は少し考えてみる。タカ丸以外の者にこんなことをされたら、きっと
突き飛ばしたくなるだろうなあと久々知は思った。
「そうですね。」
「それはぼくと久々知くんが好き合ってるから。」
先程と同じような言葉をタカ丸は繰り返す。しかし、今度はどういうことかという疑問を
持たずに、その言葉を受け入れられた。
「髪触られて気持ちいいのも、同じってことですか?」
「うん。」
「そっか。」
「だから、安心してね。久々知くん。」
そういうことであれば、他の人がタカ丸に髪を結ってもらったりしたからといって、自分
と同じように感じてることはないだろうと、久々知は納得した。それが何となく嬉しく思
えて久々知はホッとしたような笑顔を溢す。
(うわ、何か・・・)
そんな久々知の顔を見て、タカ丸は突然立ち上がる。
「あっ、そうだ!」
「どうしたんですか?」
「今日宿題あるのすっかり忘れてた〜。ゴメンね、久々知くん。ぼく、自分の部屋に戻ら
なきゃ。」
「は、はい。」
宿題があるなら仕方ないと久々知は頷く。髪の手入れをしていた道具を片付けると、タカ
丸は久々知の部屋から出て行こうとする。しかし、障子に手をかけたところでピタっとそ
の動きを止めた。そして、ててててと久々知のもとまで戻ってきて、もう一度軽く触れる
だけのキスをする。
「!」
「おやすみ、久々知くん♪」
「お、おやすみなさい・・・」
満面の笑みを浮かべて、そんなことを言ってくるタカ丸に、久々知はそう返すことしか出
来なかった。また明日と小さく手を振り、タカ丸は久々知の部屋を出ていった。

久々知の部屋を後にし、自分の部屋に向かって歩きながら、タカ丸はふぅっと小さな溜め
息をついた。
「本当は宿題なんか出てないけど、あれ以上久々知くんの部屋にいたらいろいろ我慢出来
なくなっちゃうもんなあ。」
あまりに久々知の表情、挙動が可愛すぎて我慢出来なくなりそうだということで、タカ丸
は嘘をついて、久々知の部屋から出てきた。本当はもう少し久々知と一緒にいたかったの
だが、自制心を保つにはこれが思いつく中で最良の選択であった。
「それにしても、今日の久々知くんは本当可愛かったなあ。」
お風呂での久々知、さっきまでの部屋での久々知、どれをとっても可愛すぎるとタカ丸は
様々な久々知の表情を思い出し、ニヨニヨしながら廊下を歩いた。

一方、部屋に一人残された久々知は、布団を敷いてその上に寝転がりながら、先程のタカ
丸の言葉や行動を思い出し身悶えていた。
「あー、何かもうダメだぁ。」
恥ずかしい気持ちがありつつも、それ以上に嬉しさとときめきで久々知の胸はいっぱいに
なっていた。
「どうしよう・・・本当好きすぎる。」
枕にボスンと顔を埋めながら、久々知はバタバタと足を動かした。落ち着かないなあと思
ってふと視線を布団の横に移すと、見慣れた紫色の制服が目に入った。
「あ、タカ丸さん、制服忘れてる・・・」
洗濯しなければいけないものであるので、そうすぐに持って行く必要もないだろうと、久
々知はすぐには届けに行こうとはしなかった。
「明日、渡せばいいよな。」
タカ丸はこの部屋からいなくなってしまったが、タカ丸の制服があれば、何となくタカ丸
がいてくれる雰囲気だけは味わえる。そんな状況の中、久々知はドキドキと高鳴る胸を持
て余しつつ、そっとその制服に手を伸ばすのであった。

                                END.

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