12月24日、今日はクリスマス・イブだ。そんな一年に一度の前夜祭に跡部と宍戸は、
とある遊園地へやってきていた。
「うわー、マジで誰もいねぇんだな。」
「当然だ。今日は貸し切りだからな。」
この遊園地は跡部のところで経営している遊園地であるため、今日一日二人で楽しむだけ
に貸し切りにされていた。
「クリスマス・イブなのに、こんなに空いてる遊園地で遊ぶなんて変な感じだな。」
「人混みの中で、乗り物乗るにも並ばなきゃいけないよりかは全然いいだろ?」
「まあな。こんなに自由に乗れるってなると、何から乗るか迷っちまうなあ。」
普通ならあり得ない状況に、多少戸惑いを覚えつつも宍戸はどの乗り物に乗ろうか考える。
もともと宍戸を楽しませる為にここへ連れて来たので、跡部はどんな乗り物に乗るかは宍
戸に選ばせようと考えていた。
「やっぱ、始めはジェットコースターかな。いいよな?跡部。」
「ああ、どれでも構わないぜ。」
やはり始めは絶叫マシンから攻めていこうと宍戸はそんな提案をする。スリルのある乗り
物が好きな宍戸は、ジェットコースターに乗った後、バイキングやフリーフォール、回転
系の乗り物を次々に制覇していく。跡部も絶叫系の乗り物が特に苦手というわけではない
ので、宍戸と共にそれらの乗り物に乗るのを楽しんだ。
「はあー、すっげぇ楽しい!!」
「お前、絶叫系好きだよな。」
「おう!!あの体が浮くような感じとか、スピード感とかスリルとか、どれも最高に好き
だぜ!!」
いつもなら、何十分も並ばないといけない乗り物に、次から次へと乗れるため、宍戸のテ
ンションはかなり高くなっていた。そんな宍戸に、跡部は自分のオススメのアトラクショ
ンを薦めてみる。
「この遊園地はな、お化け屋敷もなかなか怖いって有名なんだぜ?絶叫系が好きなら、そ
ういうのもありなんじゃねぇの?」
「お化け屋敷・・・?」
「何だよ?お化け屋敷は苦手だって?」
ニヤリと笑って跡部がそんなことを言うと、宍戸は食ってかかるように言葉を返した。
「そ、そんなことねぇよ!!いいぜ、入ってやる!!」
「じゃあ、行くか。すぐに入れるしな。」
「おう!」
ある意味絶叫系ではあるが、お化け屋敷はまた種類が違う。それほど得意なわけではない
が、跡部も一緒なので大丈夫だろうと、宍戸は跡部と共にお化け屋敷へと向かった。
お化け屋敷の前まで来ると、宍戸はその外観に驚く。それは中世ヨーロッパの城を思わせ
るような姿をしていた。
「これがお化け屋敷なのか?」
「ああ。結構広いからな。回るのにはかなり時間がかかるぜ。」
「まあ、今日は俺達の他には誰もいねぇからな。そんなに急いで回る必要もないんじゃね
ぇの?」
表向きは平静を装っている宍戸だが、内心はかなりビクビクしていた。宍戸が若干怖がっ
ていることに、跡部は気づいている。
「やめるなら今だぜ?宍戸。」
「ふん、やめるわけねーだろ。何だよ?跡部は怖いのか?」
「いや、全然。どんな仕掛けがあるかも知りつくしてるしな。」
「な、何だよそれ!?ずりぃぞ!!」
「知らない方が楽しめるだろう?さてと、じゃあ入るか。覚悟はいいな?」
「お、おう!!」
覚悟はいいなと言われて宍戸の鼓動はさらに速くなる。城の大きな扉がギーッと音を立て
て開くと、二人はその中へと入っていった。中に入ると、その室内は薄暗く、何とも言え
ない空気が漂っている。入口のところに小さなライト代わりの腕輪が置いてあり、跡部は
宍戸にそれをつけさせる。
「何だ?これ?」
「中は暗いからな。ライトの代わりだ。」
「ふーん。」
ライトとはいっても、それほど強い光ではなくほのかに明るくなる程度のものであったの
で、宍戸はあんまり意味がないなあと思いながら足元を照らした。どう進むのかが分から
ず辺りを見回していると、跡部が声をかける。
「まずは、あの扉に入るんだぜ。」
跡部の指差す先には、一つの部屋に続くドアがある。そのドアには『時計塔の部屋』と書
かれた札がかかっていた。
「時計塔の・・・部屋?」
「ああ、時計塔の部屋だ。」
意味ありげな笑みを浮かべて、跡部はそう口にする。何だか引っ掛かる名前の部屋だなあ
と思いつつも、宍戸は跡部に連れられるまま、その部屋に入った。中に入ると入口とは比
べ物にならない程真っ暗で、その部屋に何があるか全く分からない状態であった。
「真っ暗だな・・・・」
「そうだな。」
「うわー、やべぇドキドキする。」
あまりの暗さと何が起こるか分からない状態に、宍戸は素直にそんなことを口にする。し
ばらく、動くことが出来ずにその場にとどまっていると、どこからともなく金属がぶつか
りあうような音が聞こえてきた。
シャキーン・・・シャキーン・・・・
それはまるで大きなハサミで宙を切るような音であり、次第にその音は大きくなってゆく。
「何だ・・・?この音・・・?」
と次の瞬間、宍戸の目の前に大きなハサミを持った小さな男が現れた。宍戸は思わず絶叫
する。
「うわああぁっ!!」
驚いた宍戸は思わず逃げようとするが、部屋が暗いためどこへ逃げたらよいのか分からな
い。とりあえず部屋内を動き回るが、跡部がいるにも関わらず、大きなハサミの男は宍戸
だけを追いかけ回す。
「シザーマンだ!!ちょっ、何で俺ばっか追いかけてくるんだよ!!」
出口も分からず、いくら逃げても逃げられない。完全に詰み状態な宍戸は、跡部の後ろに
隠れ、パニック状態だ。
「助けろ、跡部!!」
「それは無理な注文だな。」
そう言った直後、シザーマンのハサミは跡部の腹に突き刺さる。それを見て、宍戸はさら
に絶叫する。
「うわあああ、跡部っ!!」
跡部がやられてしまったと、宍戸は半泣き状態だ。しかし、ハサミで刺されても跡部はケ
ロっとしていて、パニックになっている宍戸の反応を楽しんでいる。
「いい絶叫してくれるじゃねぇの。次の部屋行くぞ。」
「へっ!?あれ?跡部、大丈夫なのか!?」
「大丈夫に決まってるだろうが。ほら、進むぞ。」
ふと気づくとシザーマンの姿はいつの間にか消えていた。あまりの恐怖に、宍戸は跡部の
腕にしっかりとしがみつきながら、歩みを進める。次の部屋のドアには、『静かなる丘の
部屋』と書かれている。
「静かなる丘・・・?」
「ほら、入るぞ。」
「ちょ、ちょっと待てよ!!まだ、心の準備が・・・」
宍戸の言葉に構わず、跡部はそのドアを開け、ためらわずに進んで行く。置いていかれる
わけにはいかないので、宍戸は慌てて跡部を追いかけた。
バタンっ!!
ドアが閉まると、目の前に現れたのは、両腕がなくクネクネと動くゾンビのようなものと
下半身を二つ合わせたようなゾンビのようなもの。ゲームで見たことのある怪物が今目の
前にいる状況に、宍戸は叫びながら跡部にしがみつこうとする。しかし、ついさっきまで
一緒にいた跡部は宍戸の前から姿を消していた。
「うあああっ、来るなあ!!跡部、跡部!!どこだよっ!?」
その怪物から逃げようとして、宍戸は走り出そうとする。しかし、ここは狭い部屋だ。何
かに足を取られ、宍戸は派手に転んだ。
「ってぇ・・・ひっ!!」
転んだ床にはかなり気持ち悪い部類の姿をした虫ががさがさと這い回っていた。慌てて立
ち上がろうとするが、腰が抜けて立つことが出来ない。完全に逃げ場がなくなった宍戸の
目に映ったのは、先程のゾンビのような怪物が数体と、赤い三角形の兜をかぶり、大きな
鉈を持った人型の怪物。今にも鉈を自分に向けて振り下ろさんとしているその怪物を前に
宍戸は悲鳴を上げることしか出来なかった。
「跡部ぇ――っ!!」
もう完全に涙声で宍戸は跡部の名を叫ぶ。すると、今まで姿の見えなかった跡部が振り下
ろされた鉈から守るかのように、宍戸の目の前に現れた。
「助けに来てやったぜ。宍戸。」
「うわあぁぁんっ!!どこ行ってたんだよ!!」
跡部を前にすると、宍戸は思いきり跡部の首に抱きつき号泣する。ここまで素直に怖がっ
てくれると、連れてきた甲斐があると、跡部は口元を緩ませた。
「もうギブアップするか?宍戸。」
「す、するわけねぇだろ!!」
「随分怖がってるみたいだけど、大丈夫なのかよ?」
「こ、怖いけど・・・ギブアップなんてしたくねぇもん。」
「ふっ、いい度胸じゃねぇの。なら、次のとこ進むぜ。」
このお化け屋敷はホラーゲームの詰み状態をリアルに体験出来るような構成になっている。
3Dで映像を映しているだけなのだが、その再現度はかなり高く、映像と知らなければ本
物に襲われているようで、その恐怖は尋常ではない。もちろん跡部はその原理もどこの部
屋でどんなものが出るかを知りつくしているので、驚くことも恐怖を感じることもない。
しかし、宍戸は新たな部屋に入るたびに、悲鳴を上げ、泣く程怖がり、跡部に縋りついた
り、助けを求めたりしていた。それが跡部にとっては楽しくて仕方のないことであった。
「ここが最後のドア、出口だぜ。」
「ほ、本当か・・・?」
恐怖に震え、跡部の腕に縋りつきながら、宍戸は震える声でそう問う。跡部がそのドアを
開けると、眩しいくらいの光が宍戸の目に入る。
「眩し・・・」
「室内が暗かったからな。このお化け屋敷、途中でギブアップする奴がほとんどだけど、
お前なかなか頑張ったじゃねーか。」
「ギブアップするのは、俺の性に合わねぇからな。」
「俺的にはかなり楽しかったぜ?スリル満点だっただろ?」
「スリル満点どころの問題じゃねぇよ!!どんだけ怖いお化け屋敷だよ!?」
「あははは、お前の反応、本当最高だったもんな。ちなみにあいつらがお前にしか襲いか
かって来なかったのは、その腕輪の所為だぜ。それが人物探知機になってるからな。」
「なっ!?」
「お前だけに襲いかかっていくから、こっちとしてはお前のいろんな表情が見れてよかっ
たぜ。」
そんなことを言いながら、本当に楽しそうに笑う跡部を見て、宍戸はむぅっとした表情を
見せる。若干不機嫌になりつつも、まだ恐怖が完全には消えていないので、宍戸は跡部か
ら離れようとはしなかった。
それから、軽く食べ物や飲み物を口にしたり、他の乗り物に乗ったりして、時間はあっと
いう間に夕方になってしまう。この時間にはあの乗り物に乗るしかないだろうと、跡部は
一旦立ち止まり、宍戸に声をかけた。
「宍戸、そろそろあれに乗ろうぜ。」
「あれって何だよ?」
「夕焼けは高いところからゆっくり見た方が綺麗だろ?」
「・・・・観覧車か?」
「そうだ。それに遊園地デートの醍醐味だろ?観覧車は。」
「まあ・・・確かにな。」
それは認めざるを得ないと、宍戸は跡部の言葉に頷く。日が沈む前に乗らなければという
ことで、二人は早速観覧車へと向かった。
「これに乗るぞ、宍戸。」
「えっ?」
ゆっくりと回っていくゴンドラの中でも、一風変わったゴンドラに跡部は乗り込み、宍戸
の腕を引いて乗せた。そのゴンドラはガラス張りのように全てが透明で、上下左右全ての
方向の景色が見えるようになっていた。
「これ、最近よくあるスケルトンゴンドラってやつか?」
「まあな。だが、そんじょそこらのスケルトンゴンドラとは透明度が違うぜ。ほら、下を
見てみろよ。」
跡部にそう言われて宍戸は足元を見る。そこには、驚くほどハッキリと景色が見えていた。
「すげぇな。高いとこ行ったら少し怖いくらいの透明度だ。」
「だろう?ま、普通のゴンドラより丈夫に出来てるから、落ちるなんてことは絶対にあり
えねぇけどな。」
それを聞いて宍戸はホッとしながら、だんだんと高くなっていくゴンドラの中、そこから
見える景色を楽しむ。跡部と宍戸の乗っているゴンドラが高度を上げるに従って、赤く染
まった太陽はゆっくりと沈んでいく。沈むゆく夕日の放つ光が、空も雲も辺りに広がる景
色を夕焼け色に染め、宍戸の瞳を輝かせた。
「全部が夕焼け色になってるな。」
「そうだな。やっぱ、この時間に乗って正解だろ?」
「おう!激綺麗だぜ!!」
そろそろ頂上に到着する頃になると、辺りは全て真っ赤に染まっていた。そして、ちょう
ど頂上に着いたとき、ガタンという音を立て、二人の乗ったゴンドラの動きが止まる。
「あ、あれ?何か止まっちまったみてぇだけど。故障か?」
いきなり動きを止めたゴンドラに、宍戸は焦るような声を上げる。
「故障じゃねぇよ。俺が止めた。」
不安気な表情を見せる宍戸に、跡部は余裕の表情でそんなことを言う。何故そんなことを
したのかと、宍戸が問う前に跡部はその答えを口にする。
「ここには今俺達しかいないんだ。しばらく空の上から見る景色を楽しもうぜ。」
そう言いつつも、跡部は宍戸の唇を自らの唇で塞ぐ。これじゃあ、景色が見えないと思い
ながらも、宍戸は跡部の口づけを拒むことなく受け入れた。
「んっ・・・ぁ・・・・」
この遊園地には自分達二人しかおらず、誰もいないということは理解しているが、自分達
の乗っているゴンドラがあまりにも透明すぎて、宍戸は誰かに見られているのではないか
という感覚に陥り、いつも以上にドキドキしていた。
(すごい、目閉じてても赤いのが分かる・・・)
目を閉じていても、目を開けていても赤いというその状況に、宍戸の気分は高揚していく。
繰り返される口づけに、宍戸の表情はすっかりとろけ、その顔は夕焼けのように赤く色づ
いていた。
「なんか、ここまで透明なゴンドラの中でこうしてると、空に浮いてこういうことをして
いるみてぇだよな。」
唇を離し、口づけの合間に紡がれる跡部の言葉に、宍戸はコクンと頷く。もう少し空の上
で甘い口づけを交わし合っていたいと、二人は日が完全に落ちるまで、唇を重ね合ってい
た。
「・・・そろそろ時間か。」
「ふ・・はぁ・・・・時間って、何が?」
「もう完全に太陽は沈んじまっただろ?夜には夜の楽しみがあるってことだ。」
跡部がそう言うと、今まで止まっていたゴンドラが再びゆっくりと動き出す。動き出した
ゴンドラの足元に目をやり、宍戸は跡部の言ったことを理解する。
「うわあ・・・すげぇ・・・・」
夕闇に包まれた遊園地は、様々な色の灯りに彩られていた。赤、オレンジ、黄色、緑、青、
藍色、紫・・・虹色の光がいたるところでピカピカと瞬いている。ゆっくりと高度を下げ
てゆく透明なゴンドラから見るその景色は、宍戸の胸を躍らせた。
「なんか虹の中に落ちてくみてぇ。」
「綺麗だろ?」
「ああ・・・・」
美しい景色に見惚れている宍戸の表情はひどく魅力的で、跡部の目を奪う。今足元に見え
ている景色よりも、こちらの方が何倍も心を満たしてくれると思いながら、跡部はゴンド
ラが地上に到着するまで、ずっと宍戸の顔を眺めていた。
地上に下りると、二人は色とりどりのイルミネーションで彩られた園内を歩く。クリスマ
スらしいその雰囲気を楽しみながら、跡部は宍戸を連れてある場所へと向かった。その場
所へ到着すると、跡部は立ち止まる。
「これがこの遊園地の中で、一番派手なイルミネーションだぜ。」
「うわあ、激すげぇ・・・」
そこには大きなモミの木に飾りつけが施され、木全体がキラキラと輝いていた。そんな大
きなクリスマスツリーに宍戸が目を奪われていると、どこからともなく鈴の音が聞こえて
くる。
シャンシャンシャンシャンシャンシャン・・・・
「何の音だ?」
「ああ、あれだ。ほら、あそこを見てみろ。」
跡部に言われて空を見上げると、そこにはトナカイの引くソリに乗り、空を駆けて行くサ
ンタクロースの姿があった。
「っ!!??」
「Merry Cristmas!!」
そう言いながら、サンタクロースは一つのプレゼントを落としていった。小さなパラシュ
ートのつけられたそのプレゼントは宍戸の手に綺麗に収まる。今起こったことが信じられ
ず、宍戸は目を丸くして手に収まっているプレゼントと先程までサンタクロースがいた空
を交互に見る。
「い、い、今の見たか!?跡部!!」
「ああ、見たぜ。」
「あれ、本物か!?」
「とりあえず、そのもらったプレゼント開けてみればいいんじゃねぇの?もし、お前の欲
しいと思っているものだったら本物なんじゃねぇか?」
そう言われて、宍戸は慌ててそのプレゼントを開ける。中に入っていたのは、最近宍戸が
欲しいと思っていたものであった。それは、跡部や他のレギュラー部員には話してはいる
が、他の者に話した覚えは一切ない。
「マジかよ・・・信じらんねぇ。」
「よかったじゃねぇか。それお前の欲しがってたもんだろ?」
「そうだけど・・・うわあ、マジで本物?どうしよう、激ドキドキしてんだけど。」
サンタクロースなどいないものだと思っていたが、あんなものを見て、実際にプレゼント
をもらってしまったら、サンタクロースが存在しないなどとは言えなくなってしまう。
「何か、まだ信じらんねぇけど・・・すっげぇ嬉しい!!」
プレゼントを抱えながら、白い息を吐きながら嬉しそうに笑う宍戸を見て、跡部はドキっ
としてしまう。先程のサンタクロースも今宍戸が抱えているプレゼントも跡部が用意した
ものであった。
「ふっ、サンタクロースにプレゼントもらえて、今年はかなりいいクリスマスになったん
じゃねぇの?」
「おう!!いっぱい跡部と遊園地で遊べたし、プレゼントもらえたし、本当最高のクリス
マスだぜ!!ありがとな、跡部!!」
満面の笑みを浮かべてそんなことを言う宍戸に、跡部も満足気な笑みを浮かべる。どちら
にとってもかなり満足いくクリスマスデートになり、二人はホクホクとした気分で胸が満
たされる。存分に二人きりの遊園地デートを楽しんだ後、二人は跡部の家へと帰ることに
なった。
休み明け、宍戸は同学年のレギュラーメンバーにクリスマスの日にサンタクロースからプ
レゼントをもらったということを話す。小等部の頃から仲のいい岳人やジローは素直に宍
戸の言葉を信じ、すごいすごいとはしゃいでいるが、そんな三人より少し大人びている忍
足や滝はそう簡単には信じられなかった。
「サンタクロースからプレゼントもらえるなんて、うらやまC〜!!」
「サンタクロースっていないと思ってたけど、本当はいるんだな!!」
「俺もいないと思ってたんだけどさー、もうマジもんでさー。」
キャッキャッと楽しそうに話している三人の横で、忍足と滝はその真意を跡部に尋ねる。
「宍戸の話はどこまで本当なの?」
「せや。まさかリアルサンタクロースを連れてきたわけやないやろ?」
「そこは本当だぜ。だが、プレゼントは俺が用意した。」
「へぇ、サンタクロースは本物なんだ。」
「日本にも公認サンタクロースってのがいてな。その人に頼んで、ちょっとしたパフォー
マンスをしてもらったんだ。」
「宍戸があないに信じてるってことは、相当リアルな感じやったんやろなぁ。」
「まあな。ま、イブは宍戸のいろんな顔が見れたから、俺的にはかなり満足出来たぜ。」
「そりゃよかったじゃん。宍戸も随分楽しめたみたいだしね。」
子供っぽい笑顔を浮かべる宍戸、岳人、ジローの側で、ほのぼのとした気分で微笑う跡部、
忍足、滝。クリスマスの余韻は長く穏やかにそこにいるメンバーの心をキラキラと輝かせ
るのであった。
END.