岳人や滝、ジロー達と別れた後、跡部と宍戸は一緒に帰ることになった。今日の七夕祭り
は楽しかったというようなことを話しながら川縁を歩いていた。
「マジで今日の七夕楽しかったな。」
「ああ。意外な収穫もあったし。」
「お前、そんなの引き取ってどうすんだよ?」
跡部の手にはとある服の入った白いビニール袋が下げられている。今日の七夕でゲームセ
ンターで取ったものだ。
「別に。あったらいろいろ使えると思ってよ。」
「どうせ、俺に着せんだろ?もう着ないからな。」
「昼間はノリノリで着てたじゃねーか。」
「あ、あれはその場のノリで・・・・」
「じゃあ、またノリがよかったら着てくれんだな。」
「うっ・・・・」
その服というのはUFOキャッチャーで取ったウェイトレスの洋服だ。いかにもコスプレ
衣装ですというような感じで、今日みんなでカラオケに寄った時、全員で着回しをして遊
んだのだ。
「宍戸、もうそのまま家帰るか?」
「うーん、どうしよう・・・。もうちょっと何かしたいよなあ。せっかくの七夕なんだし。」
「じゃあさ、ちょっとこの河川敷で遊んでいかねぇ?」
「別にいいけどよ。でも、もう夜だぜ。遊ぶたって何すんだ?」
「ま、それは下に下りてから決めようぜ。」
というわけで、跡部は宍戸の手を取って河川敷へと下りて行った。そして、躊躇もせずに
跡部は川に入り、向こう岸へと渡って行く。宍戸は置いていかれ、どうしようと戸惑うが
浴衣を着ているのでそのまま川に入るわけにもいかず、ただおろおろとするばかりだ。
「あ、跡部!!俺、どうすりゃいいんだよ!?」
既に向こう岸にいる跡部に宍戸は大声で呼びかける。跡部は笑いながら答える。
「お前も渡って来いよ。ここそんなに深くないから全然余裕だぜ。」
「でも、浴衣が濡れちまう。」
「ちょっとくらい大丈夫だって。俺のこと彦星だと思って渡って来い。」
「俺は織姫か!?」
「そうだ。ほら、早く渡って来ないと今日が終わっちまうぜ。」
「まだ、終わらねぇよ!!」
「じゃあ、先帰っちまうぜ。」
「嫌だ!!う〜、分かったよ!!行きゃあいいんだろ!?」
宍戸は怒りながらも跡部の方に行こうと、浴衣の裾を上げて、川を渡り始めた。確かに跡
部の言う通りこの川はそんなに深くなく、渡ることは可能だ。だが、今は浴衣といういつ
もより動きにくい服装である。転ばないように慎重に宍戸は川を渡ってゆく。
「跡部、この川渡りにくい!!」
いくら裾を上げているからといってまったく浴衣が濡れないわけではない。宍戸は足元が
濡れる不快感となかなか進めないことにイライラしし始め、跡部に不満をぶつけた。
「お前の俺に対する愛はその程度か?」
「違ぇーよ!!でも、もう嫌だ!!俺、岸に戻るからな!!」
まだ、大して進んでいなかったので宍戸は元いた岸に戻ろうとした。すると、跡部が向こ
う岸からやってきて、宍戸の腕を掴む。跡部も宍戸と同じく浴衣姿だが、濡れることは全
く気にしていないようだ。跡部は腕を掴んだ後、宍戸のことをぎゅっと抱きしめた。
「浴衣が濡れるくらいいいじゃねーか。織姫と彦星も今頃こうやって川ん中で抱き合って
んじゃねーの?その後は岸に行って・・・・」
そう跡部が囁いた瞬間、宍戸の体がふわっと宙に浮いた。
「うわっ!!」
「濡れるのが嫌なら、俺が向こう岸まで連れてってやる。」
跡部は宍戸を姫抱きし、向こう岸に向かって歩いて行く。突然姫抱きをされ運ばれる感覚
に宍戸はドキドキと鼓動が早くなるのを感じた。思わず首に手を回し、抱きついてしまう。
「そんなにしがみつかなくても、途中で落とさねぇよ。」
「分かってるよ。そんなこと・・・。」
分かっていても、つかまらずにはいられない。落ちそうとかそういうことではなく、ただ、
もっと近くに跡部を感じていたいのだ。
「到着。」
岸に到着すると、跡部は宍戸を優しく地面に下ろす。宍戸は何も言えず、ただ跡部の顔を
見るだけだった。と、突然顔に水が垂れるのを感じる。
「雨?」
宍戸は首をもたげ、空を見る。星の見えない真っ暗闇の空から確かに雨粒が落ちてきてい
た。そして、その雨粒は次第に大きくなりザーザーと音を立て、二人に降りそそいだ。
「うわっ、何だよいきなり〜。」
「ともかくあそこの橋の下で雨宿りすんぞ、宍戸。」
「おう!」
二人は慌てて橋の下まで走り、これ以上濡れないように雨宿りをすることにした。
「はぁ〜、いきなり降るなよ。これじゃあ、帰れねぇじゃん。」
「まだ、時間的には大丈夫だろ?」
「まあな。遅くなるって言ってあるし、もしヤバそうなら跡部んちに泊まるって電話すり
ゃいいんだし。」
「でも、確かにこの状態じゃしばらくここに居るしかねぇな。」
「そうだな。まあ、いいんじゃねぇ?ここなら濡れないしよ。」
二人は草のあまり生えていない場所に腰を下ろした。雨はだんだんと激しくなり、今にも
二人の座っている場所まで入り込んできそうなほどだった。
「宍戸、暇だよな。」
「んー、別にぃ。この状態じゃさっきみたいなことは出来ないし、ただ待ってるだけでい
いんじゃねーの?」
ぼーっと雨が降るのを眺めながら、宍戸は軽く答えた。
「俺は暇だ。」
「あっそ。」
「何だよ、そのそっけない返事は。」
宍戸は分かっていたのだ。この状態で跡部が何をしたいのか。だから、あえて自分はそう
いうことに興味がないフリをしている。本当はこんなシチュエーションでドキドキしまく
っているのは宍戸の方なのだ。
「宍戸。」
「何だよ?さっきから。」
少し怒り気味口調の宍戸の手に自分の手を重ね、跡部は顔をぐっと近づける。宍戸はドキ
ッとして、一瞬心臓が止まったかのように感じた。
「跡・・・部?」
本当に目前にある跡部の顔に見つめられ、宍戸の顔は紅潮していく。手はしっかりと固定
され抵抗することは不可能。まあ、宍戸からすれば端から抵抗する気など全くないので、
特に問題はなかった。だが、こんなに近くで見つめられては平常心でいられない。心臓が
壊れそうなほど高鳴って、何も言えなくなってしまった。
「宍戸・・・。」
「っ・・・んぅ・・・・」
結局いつものように唇を奪われ、宍戸は目を閉じてしまう。自ら軽く口を開き、跡部の舌
を受け入れた。
「・・・っふ・・・ぁ・・・んん・・・」
「宍戸、暇つぶしにしようぜ。」
唇を離し、一息つくと跡部は妖しく囁く。宍戸は黙って頷き、跡部に身を任せた・・・。
浴衣の襟の部分が重なっている部分から、跡部は懐に手を入れ、宍戸の体に直に触れてゆ
く。夏にも関わらず、冷たい跡部の手に宍戸は言いようもない心地よさを感じていた。
「んっ・・・跡部っ・・・・」
「外でやるのって、あんまりねぇから何か興奮しねぇ?」
「っ・・・・ここって、人通るかな?」
「さあな。河川敷自体はほとんど来ねぇかもしんねーけど、橋の上は分かんねぇよ。」
「・・・・じゃあ・・・あんまり声出せねぇな・・・・」
ボソッと呟くように宍戸は言う。人に聞かれるほど恥ずかしいものはない。いつ人が来る
か分からないので、宍戸は声はなるべく出さないようにと心の中で決めた。跡部はそのこ
とに気づいているのか、いないのか浴衣の帯より上の部分を脱がし、今度は口で肌に触れ
てゆく。
「・・・うっ・・あ・・・・っん・・・」
声を出さないといっても跡部に触れられると、やはり自然と声が漏れてしまう。それでも
何とか堪えようと宍戸は下唇を噛んで、必死で声を上げないように努めた。だが、跡部と
してはやはりいつものあの甘く切なげな声を聞きたい。なので、宍戸の弱い場所に軽く歯
を立てたり、キスマークをつけたりと無理やりにでも声を出させてやろうと行動を起こし
た。
「んっ・・・くっ・・・・んん・・・・」
ビクッと体を震わせるが、声は上げない。跡部は次は何をしてやろうかと頭の中でいろい
ろと策を巡らせる。なかなか手強い宍戸だが、その声を押し殺す表情はなんとも言えない。
ある意味いつもより色っぽいくらいだ。
「宍戸、声出せよ。」
跡部は宍戸の耳に唇をつけ囁く。それだけでもう宍戸は下半身に痺れが走る。いつものよ
うな声が思わず出てしまいそうになるのを必死で堪え、潤んだ目で跡部の方をちらっと見
た。
「嫌だ・・・人が来たら・・・・バレる・・・」
「バレたらバレたでいいじゃねーか。俺はお前の声で聞きたいんだ。」
「嫌だっ!!」
跡部の言葉に宍戸は反論する。跡部は軽く舌打ちをして座る位置を移動した。宍戸の後ろ
に回り、後ろから抱きしめ、帯より下の部分をまくり上げて下着を脱がしてしまう。
「ちょっ・・・跡部っ!!」
「絶対、声出させてやるからな。覚悟しろよ。」
「・・・っ!!・・・やっ・・・跡部・・・・」
跡部に直接触れられ、宍戸は再び声を上げそうになる。また、口を閉じようとしたその時、
それは跡部の手によって阻まれた。
「さっきの表情もいいけどよ、やっぱ俺は我慢してる顔じゃなくて、俺のすることに反応
して喘いでる顔の方が好きだな。だから、この後はさっきの分までしっかり声を聞かせて
もらうぜ。」
「あっ・・・・ぅあっ・・・やぁ・・・・」
宍戸としては堪えてるつもりなのだが、跡部が口に指を入れてきているので必然的に唇の
間に隙間ができ、声が漏れる。出したくない声が出て、恥ずかしさのあまり自然と涙が零
れ落ちた。
「何も泣くことはねぇだろ。」
「らって・・・あっ・・・あん・・・くっ・・・」
跡部の指が普通にしゃべることも出来なくさせている。跡部は零れる涙を舐め取り、宥め
るような口調で宍戸に人が来ても気づかれないということを説明した。
「別に声出したところでバレねーよ。ここは上からじゃ死角になってるし、それ以前にこ
の暗さじゃ見えねぇって。それにこんだけ強く雨が降ってんだ。雨の音でお前の声なんて
掻き消されてんよ。」
「ホントか・・・?」
「ああ。絶対大丈夫だから、普通に声出せよ。」
跡部は宍戸の口から指を抜く。宍戸ははあっと息をつき軽く後ろを振り返るような形で、
すぐ横にある跡部の頬にキスをした。
「分かった・・・・でも・・・いつもよりかは少し・・・控えるからな・・・」
「そんな余裕ないくらいにしてやるよ。」
笑いながら跡部は言い、すっと立ち上がった。
「何で立つんだよ?」
「いいからお前も立て。」
首を傾げる宍戸に手を差し出して、跡部は宍戸を立たせる。
「壁に手ついて、軽く腰突き出せ。」
「はぁ?・・・・こうか?」
宍戸が言われた通りの格好をすると跡部はさっき宍戸に濡らしてもらった指を、今度は後
ろの口に差し込んだ。その瞬間、力が抜け宍戸の膝は崩れそうになる。そんな宍戸をしっ
かりと支え、跡部は自分と宍戸が繋がるための準備を始めた。
「ん・・・はぁ・・・やっ・・・跡部っ・・・」
「しっかり自分で体支えてろ。」
「だって・・・あっ・・・やぁ・・・あん・・・・」
内側を掻き回され、宍戸はいつもと同じように喘ぐ。跡部はやっとこの声が聞けたと実に
うれしそうだ。ある程度その声を満喫した後、もっと率直なイイ反応見せてもらおうと跡
部はしっかりと浴衣の裾をまくり上げ、自分のモノを挿入した。
「やっ・・・ああ――っ!!」
突然の衝撃に宍戸は一瞬頭の中が真っ白になる。だが、跡部が動くことでそこからありえ
ないくらい強い快感が走るので、現実に引き戻された。壁に手をついているとはいえ、こ
の状態では体を支えることは不十分だ。跡部に支えてもらってかろうじて立っていられる
状態なので、宍戸はもっと楽な体勢にして欲しいと涙声で跡部に訴えた。
「あっ・・・跡部・・・跡部・・・」
「どうした?宍戸。」
「この体勢・・・キツイ・・・もっと・・・他のがいい・・・」
「他のっつったって・・・・」
立ったままでやるのにこれ以外に何があるかとしばし考える。その時、跡部の頭にあるも
のが思い浮かんだ。
「分かった。じゃあ、宍戸。反転させるぞ。」
「はあっ!?・・・ちょっ・・・そんな無理!!」
跡部は宍戸の左足を持ち上げ、半強制的に自分の方を向かせた。繋がったままなのでその
衝撃は計り知れないものがある。片足が浮いた状態なので抜けてしまうことはなかったが
この後、そうすればいいのか宍戸には全く分からなかった。
「あっ・・ああ――っ!!・・・跡・・部っ・・・キツっ・・・・」
「左足を俺の腰のあたりに絡ませろ。あとは腕で俺につかまっっとけ。」
跡部に言われるまま宍戸は左足を腰の所に絡め、両手で跡部にしがみついた。これなら跡
部に自らつかまることが出来るので、さっきよりかは楽であろう。
「はぁ・・・跡部ぇ・・・」
「大丈夫か?この体位じゃやっぱ少し・・・」
「大丈夫・・・大丈夫だぜ・・・・だから・・・」
「だから?」
「お前の・・・好きなように・・・して・・・・」
「宍戸・・・。」
「あぁ・・・はぁんっ・・・・跡部ぇ・・・」
宍戸の誘うような台詞に跡部はもう魅せられまくり。気遣うのも忘れて思うままに攻める。
宍戸も声を控えることなどすっかり忘れて跡部の美技に酔いまくる。浴衣の乱れも気にな
らなくなった時、地上の織姫と彦星は天の川の河川敷で契りを交わし、お互いを感じ合っ
た。
「ああ――っ!!跡部――っ!!」
「くっ・・・あっ・・・宍戸っ!!」
同時に果てるとどちらも立っていられなくなり、その場に崩れた。
「跡部ー、浴衣がうまく直せねぇよぉ。」
「あーん?あー、そうじゃねーよ。ここはこうだ。」
乱れてしまった浴衣を直そうと宍戸は四苦八苦している。跡部に手伝ってもらい、なんと
か着直すことが出来た。
「あー!!雨やんでる!!」
「本当だな。雲もどっかいっちまったみたいだ。」
「うわあ、星が出てる。七夕に星が見えるのって珍しいよなあ。」
空が晴れ、星が出ていることで宍戸はうれしそうな表情になった。この地域では天の川は
ハッキリ見えないが、ベガとアルタイルくらいならかろうじて見ることが出来る。
「跡部、あれが織姫の星であっちが彦星の星だよな?」
「ああ。ベガとアルタイルだな。」
「でもさあ、すげぇよな織姫も彦星も。一年間も好きな人に会わないで我慢してるんだぜ。
俺だったら、せいぜい三日が限度だな。」
「確かに。俺もそうだ。でも、俺だったら一年も待ってねぇよ。」
空を見上げながら跡部は呟く。
「俺だったら、どんな危険を冒してもどんなに決まりに反していても、絶対お前を迎えに
行く。それで、二人だけでどこか邪魔者のいないところで暮らすんだ。」
「お前、よくそんな恥ずかしいこと言えんな。でも、もしそうされたら俺は迷わずついて
いくぜ。」
そう言いながら宍戸は跡部に笑いかける。跡部はいたずらっぽく笑いながら、宍戸の手を
取ってヨーロッパの紳士のように軽くキスをした。
「じゃあ、さらっちまうぜ。このまま。」
「俺は別に構わねーよ。あっ、そういや今何時だろうな?」
「今の時間か?えっと・・・」
跡部は鞄から携帯を出し、時間を見た。その瞬間ふと固まる。
「どうした?跡部。今、何時なんだ?」
「もう11時半過ぎてる・・・・。」
「マジで!?ヤッベー、怒られる〜。どうしよ、跡部ぇ。」
「俺んちに泊まったことにしろ。むしろ今日は泊まれ。」
「おう。じゃあ、早く帰ろうぜ。早く帰んねーとお前の両親とか執事とか心配すんだろ?」
「そうだな。あっ、そうだ。どうせだからそのへんにある葉っぱか何かに願い事書いて川
に流そうぜ。今日は七夕だからな。」
「いいぜ。」
二人は少し大きめの葉っぱに願い事を書き、川に流した。二人にとってはこの川が天の川
なのでこういうことをすれば、なんだか願い事が叶うような気がしたのだ。さらさらと葉
っぱが流れていくのを見送り二人は土手を登る。
「今日は本当楽しかったな。」
「それ、さっきも言ってなかったか?」
「今さっきのこともあわせてだよ。でも、こんなに遅くなっちゃうなんて思わなかったな。
ま、七夕だからいっか。」
「そうだぜ。今日は特別なんだよ。」
楽しそうに話す二人だが、こんなに遅くに帰って跡部の親と執事に注意を受けたのは言う
までもないだろう。
END.