お化けとお菓子と悪戯と

リクエスト内容『跡宍でハロウィンパーティー』

「そろそろハロウィンだな。今年も何か仮装してパーティーみたいなのすんのか?」
部室にかかっているカレンダーを見ながら、日誌をつけている跡部に宍戸はそう話しかけ
る。
「いや、今年は特に大々的にする予定はねぇが・・・。何だよ?ハロウィンパーティーし
たいのか?」
そんなことを尋ねてくるということは、パーティーをすることを期待しているのではない
かと、跡部はそう聞き返す。
「べ、別にそういうわけじゃねぇけどよ!・・・その、跡部んちのお菓子って豪華で美味
いじゃん?」
「なるほどな。菓子目当てってわけか。」
「だって、そういうイベントだろ?ハロウィンって。」
「まあ、半分はな。そんなにしたいんだったら、いいぜ。ハロウィンパーティー開いてや
るよ。ただし・・・」
跡部の家のお菓子が食べられると、宍戸は素直に嬉しそうな顔を見せる。しかし、跡部の
『ただし』という言葉が引っ掛かった。
「ただし、何だよ?」
「今回は他の学校の奴らとか、うちのレギュラーメンバーとかも呼ばねぇ。俺様とお前の
二人だけが参加するパーティーだ。それでも構わねぇっていうなら、してやってもいいぜ。」
「まあ、目的はお菓子だしな。大人数の方が楽しいっちゃ楽しいけど、別に俺はそれでも
全然構わねぇぜ。」
跡部と二人だけであれば、用意されたお菓子がたくさん食べれるし、それはそれで悪くな
いと宍戸は跡部の出した条件を呑む。これはなかなか楽しみだと、跡部はニヤリと口元を
緩ませる。
「やっぱ、仮装とかしてった方がいいのか?」
「いや、そこはこっちで用意するからお前がわざわざ準備してくる必要はないぜ。」
「ふーん、そっか。じゃあ、10月31日はお前んちでハロウィンパーティーってことで、
決まりだな。」
「ああ。楽しみにしてるぜ。」
跡部にとってお菓子を食べるということなどどうでもよかった。ハロウィンというイベン
トに便乗して、宍戸に様々な仮装をさせようと考える。せっかくなので、写真もたくさん
撮ってやろうと跡部はご機嫌な様子で、手帳に予定を書き込んだ。

10月31日ハロウィン当日、宍戸は跡部の屋敷へやってきた。いつも通り、跡部の部屋
へ通された後、跡部に連れられ別の部屋へと移動する。
「テメェの為に、たくさんお菓子を用意してやったぜ。」
「おー、マジか!楽しみだな。」
美味しいお菓子がたくさん食べれると、宍戸はかなりご機嫌だ。ハロウィンパーティーを
するという部屋に通されると、宍戸はその部屋の様相に唖然とする。
「うわあ、何だよここ・・・?」
「どうせだったら、ハロウィン的な雰囲気を存分に味わいたいだろ?お化けの衣装もバッ
チリ用意してやったから、ちゃんと着ろよ?」
意味ありげな笑みを浮かべながら、跡部はそんなことを言う。その笑みに少々不安を覚え
つつも、宍戸は部屋の奥へと進んでいった。
「このへんは、何かドラキュラとかが出てきそうな雰囲気だな。てか、部屋の中にこんな
古城みてぇなのを再現するのがすげぇよ。」
「悪くねぇ読みだぜ。ここで着る衣装はコレだ。」
西洋の古城を再現した部屋の一角で、跡部は宍戸にその雰囲気にあったお化けの衣装を渡
す。もちろんお化けの格好をするのは、宍戸だけではなく跡部もだ。とりあえず、着替え
ようと二人はその雰囲気に合うお化けの衣装を身に付けた。
「・・・・・・・。」
「ふっ、似合うじゃねぇか。」
「どー考えてもおかしいだろ!?コレ!!耳とか尻尾で狼男だってのは分かるけどよ、露
出度高すぎだろ!」
宍戸が身につけているのは、狼男の衣装だ。狼男と言っても全く怖い感じはなく、狼の耳
と尻尾を付け、胸と腰回りだけを狼を思わせる毛皮で覆っているという感じだ。しかも、
手には爪と肉球のついたもふっとしたグローブをつけている。
「その毛皮は本物だぜ?俺から見たら、かなり狼男だと思うけどな。」
「俺はこんななのに、どうして跡部は普通にドラキュラの格好なんだよ!?ずりぃよ!!」
「なら聞くが、俺がこの格好するのと、今テメェがしてる格好するのとどっちが似合うと
思うんだ?」
正直ドラキュラの格好をしている跡部は、全く違和感がなく、宍戸から見てもカッコイイ
と思わざるを得ない状態だ。しかし、今自分がしている格好を跡部がしていると考えると、
それはないなと思ってしまう。
「・・・・俺のしてる格好を跡部がするのはねぇな。」
「だろ?だから、これでいいんだよ。」
納得いかないが、今の格好が似合っているのは確かなので、これ以上文句を言うことは出
来なかった。ほんの少しむすっとした顔をしていると、宍戸の前にケーキのようなお菓子
が差し出される。
「この場所でのモチーフのお菓子だ。」
「おー、マジか!?激美味そうじゃん!!」
お菓子を差し出され、宍戸の顔は一気に笑顔になる。そのお菓子に手を伸ばそうとすると、
さっとお菓子の乗った皿を隠された。
「ただであげるわけにはいかねぇな。」
「何だよー、あれか?トリック・オア・トリートって言えばいいのか?」
「それじゃ面白くねぇだろ。・・・そうだな、今してる格好に見合った俺をぐっとさせる
セリフを言えたら、渡してやるぜ。」
「面倒くせぇな。てか、お前がぐっとくるセリフってどんなだよ?」
「それは自分で考えろ。」
「む〜・・・」
早くお菓子が食べたいのにと宍戸はぷく〜と不機嫌顔になる。しかし、言わなければお菓
子が食べられない。しばらく考えた後、宍戸はドンっと跡部を突き飛ばし、よろけて倒れ
たところで、押し倒すかのように跡部の上に馬乗りになった。
「いきなり突き飛ばすとはいい度胸じゃねぇか。」
跡部が文句を言うのを聞き流し、ニヤリと笑みを浮かべながら宍戸は考えたセリフを口に
する。
「満月の夜の俺は、いつもとは比べ物にならないほどすごいぜ?」
この体勢でそれを言うかと、跡部は不覚にもドキッとしてしまう。そっちがその気ならと、
そのセリフに返すようなセリフを、上半身を起こし、宍戸の頬に手を当てながら、跡部は
口にした。
「だったら、その血、存分に味わわせてもらおうか。イイコトしながらな。」
「なっ・・・・!?」
あまりにナチュラルにそんなセリフを吐いてくる跡部に、宍戸は顔を真っ赤にさせて固ま
ってしまう。その顔があまりにも可愛くて、跡部は思わず吹き出した。
「可愛い反応見せてくれるじゃねぇの。今のセリフ、よかったぜ。ほら、お待ちかねの菓
子だ。」
「・・・・跡部も言うなんて聞いてねぇし。」
「いらねぇのか?」
「いるよ!!さっさと寄こしやがれ!!」
恥ずかしさを誤魔化すように、宍戸は跡部に渡されたお菓子を頬張る。外から見ただけで
は分からなかったが、柔らかな生地を噛んだ瞬間、真っ赤なソースが口の中に溢れた。
「おー、激うまっ!!イチゴかラズベリーかなんかが入ってるのか?」
「ああ。ドラキュラと狼男だから、噛んだら血がってイメージでな。ふっ、いきなりがっ
ついたから、テメェの口元すげぇことになってるぜ。」
「へっ!?」
パシャっ
まるで、人を喰らった後のように口元が真っ赤になっている宍戸の姿を跡部はカメラに収
める。
「ほらな。」
「おー、こりゃ確かに血みてぇに見えるな。」
今しがた撮った写真を跡部は宍戸に見せる。ソースが口にべったりつき、それが血に見え
なくもないと宍戸は跡部の言葉に納得してしまう。
「跡部も食べてるのに、そうでもねぇのな。」
「テメェが食べるの下手なんだよ。そんなに口に血をたくさんつけてると、こういうこと
したくなっちまうぜ。」
ドラキュラ的なセリフを口にしながら、跡部はペロッと宍戸の口元を舐め、それをパシャ
っと写真に撮る。突然そんなことをされ、宍戸はそのソースと同じくらい顔を赤く染め、
動揺するような反応を見せる。
「なっ・・・あっ・・・」
「甘いな。もっと喰っていいか?」
顔を近づけてそんなことを言ってくる跡部に、宍戸はあまりにも心臓がバクバクしすぎて
何も言えなくなっていた。本当にいい反応をしてくれると、跡部はくっくと声を殺して笑
った。
「冗談だ。まだまだ他にも菓子も衣装も用意してるんだぜ。ここだけで留まってないで、
次行くぞ。」
すっと離れる跡部に、ホッとしながら宍戸は溜め息をつく。先程からのドキドキが治まら
ず、ひどく顔が熱くなっていた。
(こんなに露出度の高い服なのに、メチャクチャ暑い。全部跡部の所為だ!!)
そんなことを思いながらも、次のお菓子がどんなものなのか気になるので、黙って跡部に
ついていくしかなかった。
「次はここだ。」
そう言いながら、跡部が移動した先は、十字架の墓標がいくつも並ぶ外国の墓地のような
スペースであった。
「墓だな。」
「ああ。ここではこんな衣装はどうだ?」
「・・・これは、どう着りゃいいんだ?つーか、この場合、着るって言えねぇ気がするん
だけどよ。」
その場所で宍戸が跡部から受け取ったのは、短いズボンと幅のある包帯であった。ここで
跡部が宍戸にさせたい格好はミイラ男の格好であった。
「仕方ねぇな。特別に俺様が着させてやるよ。」
宍戸が自分で出来ないということを跡部は予測済みであった。ここはもう自分好みに包帯
を巻いてやろうと、跡部は宍戸の全身に包帯を巻いていく。もちろんケガをして、包帯を
巻くわけではないので、ところどころで肌が露出するような感じで、緩く且つバランスよ
く巻いていった。
「こんな感じでどうだ?」
「おー、すげぇ。ミイラ男だ。で、跡部は今度は何の格好すんだよ?」
「俺様はこれだぜ。」
そう言って跡部が着替えた格好は真っ黒なマントに大きな鎌、そして、アクセサリーとし
てスカルの首飾りをつける。こんな格好のお化けはアレしかいないと、宍戸はそのお化け
の名前を口にする。
「死神か。まあ、墓だし、確かに背景にはあってるよな。」
「せっかくだから、お菓子の前に記念撮影しとこうぜ。」
宍戸の首の近くに鎌を構える形で、跡部は写真を撮る。いきなり目の前に大きな鎌を突き
つけられ、宍戸はビクッとする。
「あ、危ねぇだろ!!鎌を人の顔に近づけるな!!」
「別にレプリカだし、切れたりしねぇから心配いらねぇよ。そんな危ないものだったら、
こんなふうに使わねぇし。」
「うわっ、ちょっ・・・だから、そんなに近づけるなっつーの!!」
偽物と分かっていても、一見鋭い刃物に見えるそれを目の前に出されると、恐怖を感じる。
いちいち驚く宍戸の反応が面白くて、跡部はしばらく大きな鎌を宍戸の首の近くに近づけ
たままにしていた。
「だぁー、もう!!やめろって!!」
「偽物だっつってんのに、そんなにビビってんのか?」
「偽物だろうが何だろうが、そんなん首に当てられたらビビるに決まってんだろ!!リア
ルすぎんだよ!!」
「やめて欲しいなら、それ相応のことしろよ。」
こういうふうに言われてどうすればいいか、宍戸は今までの経験から理解していた。ぐい
っと跡部のマントを引っ張り、振り向くように顔を上げると跡部の唇にちゅっとキスをす
る。
「ほら、これでいいだろ!!」
「そこまでされたら、仕方ねぇな。」
宍戸にキスされたのが素直に嬉しくて、跡部は鎌を下ろす。そして、宍戸の欲しがるもの
を出してやった。
「ここでの菓子だ。死神特製トリュフチョコレートだぜ。」
普通のトリュフチョコレートに比べて、そのチョコレートはかなり真っ黒だった。見かけ
は普通とは違うものの香りは紛れもなく美味しそうなチョコレートだ。
「何か毒入ってそうな色してんな。」
「じゃあ、食わないでおくか?」
「食うに決まってんだろ。いただきます。」
死神のマントと同じくらい真っ黒なチョコレートを宍戸は口に運ぶ。それと同時に跡部も
そのトリュフチョコレートを口に運んだ。
「すっげぇ濃厚なチョコだな。これも激美味い!」
「当然だろ?うちの専属のパティシエに作らせたんだからよ。」
「もう一個もーらい!うーん、うめぇvv」
もともと美味しいものを食べるのが大好きな宍戸は、本当に幸せそうな顔で跡部の用意し
たチョコを食べる。いい顔するなあと、跡部はそんな宍戸の表情もカメラに収めた。
「あんまりたくさん食べると、他のが食べられなくなっちまうぜ。」
「確かにそうだな。美味くてまだ食べたい気もするけど、これはこのくらいにしておくか。」
まだ他にもお菓子があるということを聞いて、宍戸はトリュフチョコレートを食べるのを
やめる。指についた粉を舐めながら、ふと跡部の方へ目をやると、跡部の口の端にココア
の粉がついていることに気づいた。
「跡部。」
「ん?何だ?」
跡部がこちらに顔を向けた瞬間、宍戸は先程跡部がしたようにペロっと自分の舌でそれを
舐め取った。
「口に粉がついてたからよ。さっきのお返しだぜ。」
悪戯っ子のように笑う宍戸を見て、跡部の胸はひどく高鳴る。自然と口元が緩み、跡部の
顔にも笑みが浮かぶ。
「ふっ、やってくれるじゃねぇの。」
「次のとこ行こうぜ。まだ、お菓子食わせてくれんだろ?」
「ああ。」
宍戸がお菓子をせびるので、跡部は次の場所へと移動する。今度の場所は床に敷かれた絨
毯に魔法陣のような模様が描かれていた。
「おー、何かすげぇ模様だな。」
「今度の仮装はコレに合うような奴だぜ。あ、次はこれもつけろよな。」
真っ黒な衣装と帽子と一緒に跡部が宍戸に渡したものは、少し前の宍戸の髪型を再現した
ようなウィッグであった。
「なるほど、今度は魔法使いってわけか。」
「魔法使いっつーよりは、魔女だけどな。」
「跡部は何なんだよ?」
「俺か?俺はこの魔法陣から出てきそうな奴だぜ。」
用意された衣装に着替え、跡部も宍戸もお互いの姿を見る。どちらも全く違和感がないよ
うな感じでその衣装を着こなしていた。
「跡部、その格好似合うな。全然違和感ねぇぞ。」
「それは俺がもとから悪魔みてぇだって言いてぇのか?」
「まあ、天使よりは悪魔のが似合うんじゃねぇの?黒だし。」
「そういう観点でかよ。テメェの魔女も全然違和感ないぜ。ウィッグも似合ってるしな。」
「ウィッグどんな感じになってんだ?」
「こんな感じだぜ。」
宍戸がどうなっているか気になると言うので、跡部は鏡を渡してやった。魔女の格好では
あるが、その髪型は髪を切り落としてしまう前の髪型そのままで、宍戸は少し感動する。
「髪切る前の髪型だ。うわー、これいいなあ。」
「そんなに魔女の格好が気に入ったのか?」
「違ぇーよ!!このウィッグ、髪の毛切っちまう前に髪型そのままだからよ。短いのも手
入れ楽でいいんだけど、やっぱ長い方が俺としては好きだなあと思って。」
「また、伸ばせばいいじゃねぇか。俺も長い方が好きだぜ。」
「そっか。んー、ならまた伸ばそうかなあ。そんなことより、跡部、お菓子お菓子。」
「テメェは見かけによらず、よく食うよな。」
髪の話をしていると思ったら、またお菓子を要求してくる。とりあえず、一枚と魔女姿の
宍戸を撮った後、跡部はここでのお菓子を差し出した。
「今度のも美味そうだな!!アップルパイか?」
「ああ。」
「でも、悪魔と魔女で何でアップルパイなんだ?あんまりそんなイメージないんだけど。」
「エデンの園の話知ってるか?アダムとイブが知恵の実を食べて、楽園を追放されたって
話なんだけどよ。」
「聞いたことあるようなないようなって感じだな。」
「知恵の実はリンゴのことだ。そして、その身を食べさせたのはヘビとして描かれてるが、
その正体は悪魔だ。」
「へぇ、なるほどな。」
「魔女との関連は、白雪姫の魔女は毒リンゴを食わせるだろ?そのイメージだ。」
「あー、そういうことか。」
今の仮装で、アップルパイが出て来た理由を聞いて、宍戸は納得する。納得したところで、
アップルパイに手を伸ばすと、跡部がその手を掴み制止した。
「何だよ?」
「菓子を食べる前にやることがあるだろうが。」
「また、何か言うのか?もういいっつーの。」
「なら、このアップルパイはおあずけだぜ。そうだな。とりあえず、シチュエーション的
には魔女が悪魔召喚して、そこで一言って感じでどうだ?」
「ったく、面倒くせぇなあ。」
文句を言いながらも、アップルパイ食べたさから宍戸はセリフを考える。悪魔を召喚して
自分だったらどんなことを思うだろうかと想像し、その結果思いついた言葉を口にした。
「べ、別にお前と契約とかしたくて召喚したわけじゃねーんだからな。ただ悪魔ってどん
なもんかなあと思ってよ。まあ、俺の願い事を叶えてくれるっつーんなら、契約してやっ
てもいいぜ。」
完全にツンデレのテンプレなセリフに跡部は笑う。考えた結果がそれかと思いながらも、
実に宍戸らしいなあと思い、顔が緩むのを抑えられないまま、宍戸に返す言葉を考えた。
「お前が望むものなら何でも与えてやるよ。その代わり、その身体も心も魂も、全部俺の
ものだぜ。」
ぐいっとその身体を引き寄せ、腕を掴んだまま、跡部はそんなセリフを口にする。本物の
悪魔に言われているような感覚に、宍戸の心臓はドキドキと高鳴り、跡部の真っ青な瞳か
ら目をそらすことが出来なかった。
(よくそんなセリフ思いつくよなあ。悪魔の格好にピッタリで、全然違和感ないから無駄
にドキドキしちまうぜ。)
「も、もういいだろ!!さっさと、アップルパイ食わせろよ!!」
「ああ。ほらよ。」
宍戸の放ったセリフは跡部としてはかなりツボだったので、素直にアップルパイを渡す。
もきゅもきゅとアップルパイを頬張る宍戸を見て、本当に可愛いなあと跡部は口元を緩ま
せた。
「お前、よくあんなツンデレのテンプレみたいなセリフ思いつくよな。」
「ツンデレのテンプレって何だよ?別に思いついたままに言っただけだぜ。」
「素があれなのか。さすがだな。」
「そしたら、跡部だってそうじゃん。よくあんな恥ずかしいセリフ思いつくよな。」
「普通だろ?あのくらい。」
「全然普通じゃねーよ!その格好も無駄に似合ってるから、それであんなこと言われたら
ドキドキしちゃうじゃん・・・」
さらっと本音を溢す宍戸に、跡部は軽くちゅっと頬にキスをしてやった。バッとキスされ
た頬に手を当て、宍戸は顔を真っ赤に染めて跡部を見る。
「そういう反応も大好きだぜ。」
「ウルセー!!物食ってるときに、そういうことすんな!!」
「仕方ねぇだろ。テメェが可愛すぎるのが悪いんだぜ。」
「意味分かんねぇし。ったく・・・」
お化けの仮装をしているといういつもとは少し違う状況に、宍戸はいつも以上にドキドキ
させられ、恥ずかしさと嬉しさで胸がいっぱいになる。ほどよくお腹がいっぱいになって
きている状態で、跡部と一緒に食べる知恵の実のパイは、他のお菓子よりも何倍も甘く感
じられた。

それからもうしばらく様々な仮装をしながら、お菓子を食べたり、写真を撮ったりなハロ
ウィンパーティーを二人は続ける。お腹もいっぱいになり、もう満足というところまでく
ると、宍戸はふわ〜と大きなあくびを一つする。
「はあ〜、激腹いっぱい。腹いっぱいになったら、眠くなってきちまった。」
「ガキみてぇだな。」
「しょうがねぇじゃん。でも、まあ、お菓子は超美味かったし、仮装も何だかんだで楽し
かったから満足だぜ。」
「そりゃよかったな。だが、俺はまだまだ満足してないぜ。」
「まだ、お菓子食うのか?」
「菓子はもう十分だ。ハロウィンはお菓子をくれないと悪戯してもいいんだろ?」
「へっ?」
「俺様はお前にたくさんのお菓子をあげたぜ。でも、お前は俺にお菓子をくれなかっただ
ろ?」
ニヤリと笑って跡部はそう言う。その顔を見て、宍戸は跡部が何をしたいのかを何となく
理解してしまった。
「いや、だってそれは・・・・」
「俺がお前にあげたお菓子の分だけ、たくさん悪戯させてもらうぜ。」
「ちょっ、ちょっと待っ・・・・」
「ああ、せっかくだからいろんなお化けの仮装してしようぜ。その仮装に合わせたプレイ
でな。」
実に楽しそうな笑みを浮かべて跡部はそんなことを言う。たくさんの美味しいお菓子を食
べさせてもらったために、宍戸は思いきり拒否することも出来ない。困惑した表情になり
ながらも、もうどうにでもなれという気分になっていた。
(あんだけいっぱい美味いお菓子食べさせてもらったんだから仕方ねぇか。眠いけど、寝
れるのは食後の運動した後になりそうだなあ・・・)
そんなことを考えつつ、宍戸は苦笑するしかなかった。この際だから、跡部の悪戯さえも
楽しんでしまえという心持ちで、宍戸は再び部屋の奥の方へと向かう跡部について行く。
お菓子の次は悪戯をと、跡部も宍戸もまだまだ続く二人だけのハロウィンパーティーを心
ゆくまで楽しむのであった。

                                END.

戻る