EXISTENCE
− ultimate relationship −

人里離れた孤島にある大きな城。『King of Kingdom』と呼ばれるその城に
は、誰もが恐れる魔王が住んでいた。そんな魔王を倒そうと、一人の勇者がその城を訪れ
る。勇者が魔王の城を訪れるのは、一度目ではなかった。今までに幾度も幾度も、この城
を訪れていた。魔王の力は実に強大で、本気を出せば、世界征服など容易く達成出来てし
まうほどであった。そんな魔王に勇者は勝つことが出来ず、数えきれないほど勝負を挑ん
でいた。

「お前はどうしてそこまで俺を倒そうとするんだ?」
「ハァ・・・お前は、魔王だし・・・俺は勇者だから・・・」
「別に悪いことはしてねーだろうが。まあ、その気なりゃ人間の作ったくだらねぇこの世
界の決まり事なんて、簡単に壊せるがな。」
魔王である跡部は、勇者である宍戸を前にそんなことを言う。今も戦いの真っ最中。とは
言えども、跡部が宍戸を一方的に責めている状態であった。その戦い方というのも普通の
戦い方ではなかった。武器や魔法を使い、お互いに攻撃し合う。初めの方はそんな戦い方
をしていたものの、今はそんな戦い方は全くしていない。
「お前は、俺様が世界征服でもすると思ってんのか?」
「・・・お前なら、出来るんだろ・・・?」
「まあな。けど、こんな世界なんて俺にはこれっぽちも価値がねぇんだよ。俺が欲しいと
思う唯一のモノ。何度も教えてるから分かるだろ?」
手足の自由を奪われ、様々な方法で宍戸は跡部に嬲られている。跡部の言葉を聞いて、宍
戸は複雑な表情を浮かべながら、跡部を見た。
「分からねぇのか?」
「・・・・・・」
「お前のココに俺の言葉が伝わるまで、何度も教えてやるよ。」
宍戸の胸を指でなぞり、跡部は言う。そして、宍戸の奥を穿つようにその身を進め、さら
に言葉を続けた。
「うあぁっ・・・」
「俺様にとって、世界征服なんてどうでもいい。俺が欲しいと思うのはお前だけだ。俺は
お前を愛してる。俺にとってこの世で一番価値があるのはお前だ。他には何もいらない。
たとえお前が拒もうとも、いつかは必ず俺のものにしてみせる。」
繰り返し紡がれる愛の言葉に宍戸の頭は混乱していく。自分にとって、跡部は敵なはずで
あるのに、自分のことを心の底から愛していると言っている。しかし、戦いを挑めば、気
を失うまで激しく犯される。跡部の言葉の真意は何なのか、自分にとって跡部はどういう
存在なのか、宍戸にはもう何が何だか分からなかった。
「・・・なら、どうして・・・こんな・・・・無茶苦茶なこと・・・」
思わず口から出た言葉。それは今まで言うまいとしていた言葉であった。その言葉を言っ
てしまえば、自分が跡部に負けて続けているということをひどく意識せざるを得なくなる
からだ。
「あーん?そんなの決まってんだろ。」
ニヤリと笑い、跡部は宍戸の顎をぐいっと上げる。そして、唇同士が触れるか触れないか
の距離で言葉を続ける。
「お前の身体に俺を焼き付けるためだ。激しくひどくした方が、お前の身体は俺様に反応
するようになるだろ。それに、現に今だって・・・」
「あっ・・ああっ・・・!」
ギリギリまで抜いた後、跡部は再び宍戸の奥をその楔で責める。宍戸の腰を捉え、自分の
腰にぐいっと引き寄せると、跡部は妖しく囁いた。
「俺達は繋がっているんだぜ。」
「・・・・っ!!」
それを意識させられた瞬間、狂おしいほどの快感が宍戸を襲う。抵抗する心が砕かれ、思
考が停止する。また負けてしまったと思いながらも、宍戸は心のどこかで安堵する気持ち
が生まれるのを感じていた。

気を失うほど激しくされたとしても、宍戸の身体には何の影響もなかった。毎度戦いとい
う名の交わりが終わるたびに、跡部は宍戸に回復魔法を施し、体力を全回復させた上で、
城の外の安全な場所へと運び出していた。
「ああ、また今日もだ。」
自分の体の状態を確認し、宍戸は小さな溜め息をつく。傷一つなく、疲れも全く感じてい
ない。
「全く本当ムカつく奴だぜ。」
真っ青な空を見上げながら、宍戸はポツリと呟く。吸いこまれそうな青空を眺め、宍戸は
跡部のことを考えていた。宍戸にとって、跡部を倒すということは生き甲斐と言ってもい
いようなもので、それが自分が存在している意義だと思っていた。だからこそ、跡部は敵
であるし、いくら負けたとしても諦めずに挑む気持ちになれる。
「跡部なんて、嫌いだ。」
跡部が自分のことをどれだけ想っているかを宍戸は理解していないわけではなかった。そ
んな状態で、そんな言葉を呟くと、宍戸の胸はひどく苦しくなる。本心を拒絶しているか
のような感覚に、宍戸はまるで心が凍りついてしまうような冷たさと痛みを感じていた。
「ああ、くそっ・・・何でだよ、もう。」
自分の気持ちがよく分からないと、宍戸はイラついた様子でそう言い放つ。自分は跡部を
倒したい。それは間違いのないことであった。だったらと、宍戸は跡部を倒した後のこと
について考えてみる。
(跡部を倒したら・・・・うん、やったーって気持ちになるな。でも、倒すって、どうし
たら、倒すってことになるんだ?跡部が死んだらってことか・・・?)
跡部が死ぬと考えた瞬間、宍戸は言いようもない絶望感に襲われる。息が出来ない程に胸
が締めつけられ、切なさで涙が溢れそうになる。跡部がいなくなってしまったら、自分は
何を目的に生きればいいのか、跡部のいない世界で自分に存在価値はあるのか、そんなこ
とが頭の中を駆け巡り、宍戸の目からはボロボロと涙が溢れていた。
「・・・んで、こんな気分になんだよ。もう全部アイツのせいだ!!」
ぐしぐしと涙を拭いながら、宍戸は立ち上がる。そして、跡部のいる城の中へ向かって、
走り出した。

大きな窓の側に立ち、城の外を眺めながら、跡部は宍戸のことを考える。
「空と風が自由に操れたらなあ。空を通して、アイツのことがいつでも見ていられるし、
風がアイツの声を運んでくれりゃ、アイツがいない間、こんな気分にならなくて済むのに
よ。」
宍戸のことを思うが故に、跡部は宍戸をこの城の中に閉じ込めておくというようなことは
しなかった。しかし、どこにいても、何をしていても、頭の中にあるのは宍戸のことばか
り。空も風も味方に付けて、いつでも宍戸の側にいたい。そんなことを考えていると、バ
タンとドアが開き、聞き慣れた声が耳に入る。
「勝負だ!!跡部!!」
振り返るとそこには、今一番欲しいと思うモノの姿。ふっと口元に笑みを浮かべると、跡
部は魔力を全開にして、宍戸の誘いに応えた。
「望むところだ。」
宍戸を前にし、跡部の心は完全に一つの想いで満たされる。宍戸の全てが欲しい。その想
いの力が一気に放たれ、宍戸はあっという間に身動きができなくなった。
「んっ・・・あっ・・・・」
「昨日の今日でまた俺のところに来るなんて、そんなに俺に会いたかったのか?」
「ち、違っ・・・」
「俺は毎日でもお前に会いたいと思うぜ。」
相変わらず囁かれ続ける愛の言葉に、宍戸の鼓動は速くなる。見えない糸に拘束され、跡
部の魔法で全身に様々な刺激が与えられる。もちろん痛みを伴うようなものは一切ない。
「今日はすげぇ気分がいいからな。いつもよりよくしてやるよ。」
そう言いながら、跡部は宍戸に口づけを施す。舌が絡み、混じり合う蜜が喉を通過すると、
甘い痺れが身体の奥底から湧き上がる。
「ふあっ・・・!!」
敏感になった宍戸の弱い部分を跡部はさらに責め立てる。跡部に触れられるところ全てが
言いようもない快感を生み出し、宍戸の心を蕩かしていく。
(ああ、どうしよう・・・気持ちいい・・・・こんなのありえねぇのに・・・ダメなのに
・・・もっと・・・欲しくなる・・・・)
「ほら、気持ちいいだろ?」
「んっ・・・そんなこと・・・ひあっ・・・!!」
「そういう素直じゃねぇところも、俺は好きだぜ。」
「い・・やだ・・・・こんなの・・・ダメ・・・・」
自分ではどうすることも出来ない快感に溺れながら、身を震わせている宍戸に、跡部はど
うしようもなく興奮する。このままこの城に閉じ込めて、ずっとこうしていたい。そんな
思いが頭をよぎるが、宍戸のことを思うとそれは出来ないと跡部は自分の欲求を制止する。
(まだ、ダメだ。こいつの心が俺に向けられるまでは・・・)
少し気持ちを落ちつけようと、跡部は宍戸に自分のことを話し始める。
「なあ、宍戸。お前にだけ特別に俺様の弱点を教えてやるよ。」
「んっ・・・どうせ、嘘なんだろ・・・・」
「嘘なんかじゃねぇ。お前に弱点を知られたところで、どうってことねぇからな。」
「くそっ・・・馬鹿にすんなっ・・・」
こんな状態でもまだ強気な言葉を放つ宍戸に、跡部は口元を緩ませる。そして、そのまま
言葉を続けた。
「俺はな、この城から出られねぇんだよ。」
「は・・・?・・・嘘だろ?」
「いや、嘘じゃねぇ。何度も出ようとはしたんだけどな、何故だか出られねぇんだ。」
「で、でも・・・いつも俺を城の外に出して・・・・」
「あんなもん、テレポーテーション使えばいくらでも出来る。俺は城からは出てねぇよ。」
そういえば、確かに跡部が城の外に出ているところは見たことがないと、宍戸は今までの
ことを思い出す。もう数えきれない程、この城にやってきてはいるが、一度として跡部が
城の庭にさえも出ているところを見たことがなかった。
「俺が存在出来るのは、この孤島に立っているこの城の中だけだ。だから、お前みてぇに
外からやってくる奴がいない限りは、俺はこの場所で永遠に一人きりなわけだ。」
その言葉を聞いて、宍戸は初めてこの城に来たときのことを思い出す。この城に着いたと
き、跡部は大きな窓の側に立ち、険しい表情で外を眺めていた。魔王らしいその揺るぎの
ない姿に、宍戸は若干の恐怖を覚えつつ、見惚れるほどの麗しさも同時に感じていた。あ
のときの表情が、悪意に満ちた険しい顔ではなく、孤独さ故だと知り、宍戸は何とも言え
ない切なさを感じる。
「・・・たった一人で、この城にいるのは・・・・寂しくないのか・・・?」
「もし、お前がこんな状況だったらどうだ?」
「すげぇ・・・寂しいと思う・・・」
「俺だって同じだ。」
即答する跡部の言葉が宍戸の胸に刺さる。外に出るという自由のない状況で、たった一人
で生きるということがどれだけ孤独なことか。少し想像するだけでも、宍戸の胸はひどく
痛んだ。
「お前以外にこの城に来た奴がいなかったわけじゃねぇ。だが、一度叩きのめしてやった
ら、それっきり来ることはなかった。まあ、そんな奴ら、俺様が何度も相手をする価値も
ねぇけどな。」
「俺は・・・・」
宍戸が何かを言いかけたところで、跡部は宍戸の体をしっかりと抱きしめ、自分の想いを
口にする。
「だが、お前は違った。何度打ちのめしても、俺に立ち向かってきて、何度も何度もここ
に来た。本当呆れるくらいに。俺はそれがすげぇ嬉しかった。お前のその諦めない目が好
きだ。お前が俺を敵だと思って、倒したいと思ってここに来ているのは百も承知だ。けど
な、俺はお前を心の底から好きになっちまった。だから、どうしてもお前が欲しい。たと
えこの想いがお前に届かなくても、お前に倒されるなりして俺の体が砕け散ったとしても、
俺がお前をどれだけ愛していたかってことをお前に刻みつけられれば、それでいい。」
動かすことの出来ない身体を抱きしめる腕の強さ、冗談とは思えない真剣な声色から、跡
部の言葉が嘘偽りのないことであることは明らかであった。跡部の心からの想いを聞いて、
宍戸の頬には涙が伝っていた。
「・・・ふざけんなよっ・・・・お前ばっかり、俺のこと考えてるみたいに・・・言いや
がって・・・・俺だってな、お前を倒すことが生き甲斐で、お前のことばっか・・・いつ
も考えてて・・・でも、お前がいなくなっちまったらとか考えると、死ぬほど胸が苦しく
なって・・・倒したいのに、いなくなって欲しくなくて・・・・嫌いなのに、お前がいな
きゃ生きていけなくて・・・・敵なのに、一緒にいたいと思ってて・・・・こんなわけ分
かんねぇことになってるの・・・全部お前の所為なんだからなっ!!」
涙声でそう叫ぶ宍戸の言葉に、跡部の胸はひどく高鳴る。涙で濡れた宍戸の頬に両手を添
えると、跡部はこれ以上ないほど優しくキスをする。
「んっ・・・・」
「その気持ち、一言で表せねぇか?」
「・・・知らねぇよ。」
「そうか。お前が俺のことを嫌いでも好きでも構わねぇ。ただ、次の質問にお前が俺の望
むような答えを返してくれたら、たとえこの城から永遠に出られなくとも、俺は自由にな
れる。」
「・・・もし、望む答えじゃなかったら・・・どうなんだよ?」
「さあな。」
いつも通りの不敵な笑みにも見えるが、宍戸にはそれがひどく悲しげな笑みに見えた。し
かし、宍戸はどんな質問であろうとも、素直に自分の気持ちで答えようと心を決める。そ
して、跡部は宍戸に問いかけた。
「お前が俺を倒せるまで、俺と一緒にいてくれねぇか?」
もっと強制的に何かをさせるような質問を想像していた宍戸は拍子抜けしてしまう。この
質問であれば、迷うことはない。
「いいぜ。・・・それは俺も望んでることだしな。」
「そうか。」
期待通りの返事を聞いて、跡部はひとつ安心したように笑う。跡部にとって、これほど嬉
しい返事はなかった。
「だったら、これからはいつでもお前と戦えるな。」
「ま、まあ、そうだな・・・」
「とりあえず、今の勝負の続きをしちまうか。」
「えっ・・・ちょっ・・・っ!!」
少し喋りすぎてしまったと、跡部は宍戸への攻撃もとい愛撫を再開する。もちろん宍戸は
抵抗することなど不可能で、跡部にされるがままになっていた。
(ああ、ダメだ・・・もう体力が・・・もたねぇ・・・・)
途切れることのない跡部の責めに、宍戸の体力はもう限界で、意識も朦朧としていた。こ
れ以上達かされたらまた気を失ってしまうと、宍戸はあることを跡部に頼む。
「ハァ・・・あと・・べ・・・跡部・・・・」
「何だ?」
「腕・・縛ってんの・・・外して・・・・」
そんなことを言ってくるのは初めてなので、跡部は宍戸の腕を拘束していた透明な糸を外
してやる。腕が自由に動かせるようになると、宍戸は朦朧とする意識の中、跡部の存在を
確かめるかのように腕を伸ばし、手探りで跡部の首に抱きついた。そして、そのままぎゅ
っと跡部を抱きしめる。
「宍戸・・・?」
思ってもみない宍戸の行動に跡部の心臓は壊れそうなほど高鳴る。ひどく乱れた呼吸の中、
宍戸は跡部の耳元で言葉を紡いだ。
「お前が・・・寂しくないように・・・・俺が・・・ずっと・・・一緒に・・・いてやる
・・・・・」
「・・・・っ!!」
「ふあっ・・・跡部・・・――――っ!!」
宍戸が跡部の想いを受け入れるような言葉を口にした瞬間、眩い光が二人の身体を包み込
む。この世で一番欲しいと願い、必ず掴みとると心に誓ったモノが手に入った喜びと幸福
感。それが抑えきれない魔力となって、跡部の身体から溢れ出ていた。それは真昼の紺碧
の空を突き刺し、突き抜けるほどに眩しく輝く。そんな光に包まれながら、二人は極上の
心地よさを感じ、お互いの腕の中で果てていった。

いつものように気を失ってしまった宍戸であるが、今日は城の外には出されず、雲のよう
に柔らかい布団の上で、跡部の腕の中にいた。そろそろ太陽が西の空に沈むという時分に
なり、宍戸は目を覚ます。
「ん・・・あ、あれ・・・?」
「目覚めたか?」
「跡部っ!?えっ、何で・・・!?」
「一緒にいてくれるんだろ?」
そう言われて、宍戸は自分が気を失う前に口にした言葉を思い出す。随分恥ずかしいこと
を言ってしまったと、宍戸の顔は真っ赤に染まった。
「あれは嘘だってのか?」
「い、いや・・・そんなことはねぇけどよ。」
ならいいと、跡部は本当に嬉しそうに笑う。そんな跡部の顔を見て、宍戸はドキドキして
しまう。
「あのよ・・・」
「どうした?」
「俺がお前を倒せるまでって言ってたけど、どうしたらお前を倒したことになるんだ?」
「それはお前が決めればいい。まあ、そう簡単には倒されねぇけどな。」
それは困ったと宍戸は困惑した表情を見せる。ちょっとしたことで倒したことになるのは
自分でも納得がいかず、だからといって、殺したらというのは跡部がいなくなることにな
るので、宍戸にとっては堪え難いことであった。
「普通なら殺したらってことになるんだろうけど、それは絶対嫌だしなあ。」
「ああ、だったらそれでいいんじゃねぇか?」
「何でだよ!?嫌だっつってんだろ!!」
「お前に俺は殺せねぇよ。だがな、お前に関することで俺が死ぬってなったなら、お前が
俺を倒したってことになるだろ?」
「んー、まあ、そうなるのか?」
跡部の言いたいことがよく分からないが、宍戸は一応頷いてみせる。
「お前がもし何らかの理由で死ぬことがあれば、俺はもう生きている意味がねぇから、き
っと自分で命を絶つ。『お前が死んだことで、俺は死ぬ。』こうなったら、お前が俺を倒す
ことになるだろ?そしたら、お前は俺がいなくなるということで悲しまなくていいし、お
前は目的をちゃんと達成出来る。」
「なるほど・・・って、ちょっと待て!それって、俺からしたら一生お前と一緒にいるっ
てことにならねぇか?」
一度は納得してみせるが、よくよく考えると自分が死ぬまで跡部を倒せるということにな
らず、跡部と約束した『自分が跡部を倒すまで一緒にいる。』という約束は、『一生跡部と
一緒にいる。』ということになる。
「そうだな。だが、それが納得いかないなら、お前が俺を倒すという定義を考えればいい
だけの話だろ。」
「うーん、まあ、そうなんだけどよ。お前の言ってる案が俺としても一番しっくりくると
いうか、納得できるんだよなー。まあ、とりあえず、俺はお前に勝負を挑み続けるし、そ
れでもお前がいいっつーんなら、それでもいいかな。」
「いいに決まってんだろ。勝負の仕方もいつも通りでって感じでな。」
いつもの勝負とは、もちろん先程したような勝負のことだ。そんな勝負で、宍戸が勝てる
要素はほとんどないのだが、跡部に挑み続けられるということであれば、その内容は宍戸
にとってはどんなものでもよかった。
「これからもっともっと、俺の存在をお前の心と身体に焼き付けてやるよ。お前が俺のこ
としか考えられなくなるくらいにな。」
「俺だって負けねぇ。お前に俺のこともっともっと欲しいって言わせてやる!」
どちらも自分の存在を相手により強く刻みつけてやろうという意気込みを口にする。魔王
と勇者という対照的な存在でありながら、互いに強く惹かれ合い、共に生きることを約束
した二人には、もう怖いものなどなかった。

人里離れた孤島にある大きな城。そこには誰もが恐れる魔王が住んでいた。そびえ立つ牙
城に見える魔王の姿はいつもひとりきり。しかし、その魔王の顔は外からは見えない。今
まで城の中にあった孤独を外に放り出し、その孤独に背を向ける。以前よりも揺るぎない
姿で魔王はそこに立ち、麗しいほどの笑顔を、その城の中に在るこの世で一番大切な存在
に向けているのであった。

                                END.

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