あの事件が起こってからもう一週間が経つ。いまだに岳人の様子は変わっていない。一週
間前の部活の時間、ダブルスの練習をしてた時に一つのボールが岳人の頭に当たった。こ
れが普通の奴が打ったものなら、大丈夫だったのかもしれへん。だけど、よりによってあ
の鳳が打ったサーブだった。打ちどころが悪かったみたいで、岳人は・・・・記憶喪失に
なってしもうた。それも俺のことだけを覚えているという微妙な記憶喪失で・・・・。
「侑士、部活行こうぜ。」
「おう。」
テニスが好きだということも覚えているらしい。アクロバティックなプレーも健在や。だ
けど、部員や監督のことはすっかり忘れとる。跡部や宍戸、鳳や樺地に会っても誰だっけ
?と首を傾げて俺に聞いてくる。こんな状態の岳人でも、前と同じ生活は送れるし、それ
以外の問題はないから傍から見ればそれほど大きく困ったことはないように見えるかもし
れへん。でも、岳人には問題がなくても、俺にとっては大きな問題が一つだけあった。岳
人は俺のことを覚えていると言っても、『普通の仲がよい友達』程度にしか思っていない
ことや。俺はもちろん岳人のことは友達以上の存在として見ている。なのに、岳人はそう
は思っていない。急に変わった岳人の態度に俺は戸惑いを隠せないでいた。
「ゲームウォンバイ、向日&忍足ペア。6−2。」
「やったー!!勝ったぜ侑士。」
「せやな。岳人、すごい汗やで。これ、俺のタオルやけど使うか?」
「えっ、いいよ。あっちに俺のあるし。それより、喉渇いちゃったー!!早く向こう行こ
うぜ。」
「・・・ああ。」
なんか失恋したみたいな気分や。いつもならこないな試合に勝ったら、喜んで俺に抱きつ
いてくるのに・・・。タオルだって、俺が貸そうかなんて言わんでも、自分から貸してっ
て言ってきてたのに・・・。どうしてこないなことになってしまったんやろ・・・・。
記憶喪失になってしまった岳人と居ることは、忍足にとってとてもつらいことだった。一
緒に居るのが嫌なのではない。ただ一緒に居ると嫌でも岳人が自分のことを友達としか見
ていないことを強く感じてしまうからだ。それでも、忍足は岳人が何か用があるとき以外
は一緒に行動するようにした。岳人が今ちゃんと覚えているのは自分だけ。自分が覚えて
いないことばかりの状況で一人で行動するのがどれだけ心細いかを忍足は考えた。それを
考えると岳人一人で行動させることなどとても出来ないのだ。だが、それももうそろそろ
限界に近づいていた。岳人と前みたいに恋人がするようなことをしたい・・・そんな思い
が忍足の中ではだんだんと膨らんできている。だが、それはかなわない。そんな状況が一
週間以上も続いて、忍足はだいぶ精神的にダメージを受けていた。
「忍足。」
「あっ、宍戸に滝。どないしたん?」
「いや、お前最近元気ないなーって思ってさ。」
「別にそないなことあらへんよ。」
そう言う忍足の顔はどうみても寂しげで、かなり気持ち的に疲れているのが見てとれた。
滝と宍戸は忍足の席の近くに座り、話し始める。
「お前さ、少し無理しすぎじゃねぇ?岳人と一緒に居るのつらいんじゃねぇの?」
「岳人、忍足のことしか覚えてなくても『友達』としか見てねぇんだろ?」
「・・・せやけど、岳人の方がもっと寂しい思いしてると思うし、そのこと以外は前と大
して変わらんから。」
明らかに元気のない声でこう言われ、宍戸と滝は顔を見合わせた。忍足の気持ちはすごく
よく分かる。もし自分達が今の忍足と同じ状況に陥ったら、たぶん忍足と同じことをする
だろう。だけど、見ている方としては、今の忍足はあまりにもいたたまれない。
「本当はどう思ってるんだよ?」
「そうだよ、俺達になら話せるだろ?誰かに本当の気持ち言わないと気持ちがつぶれちゃ
うよ。」
忍足はうつむいて、唇を噛んで何かを必死で堪えていた。誰かにこの気持ちを言いたいの
は山々だが、それを言ってしまったら今まで我慢していたものが全部崩れてしまうような
気がする。と、そこへ跡部がやってきた。
「こんなところに居たのか。宍戸、もう部活の方は終わったみてぇだから帰るぞ。」
「跡部、部活に長太郎来てた?」
「いや、来てねぇ。あいつもいくらあんなことがあったからって、こんなにサボってばっ
かだとヤベェぞ。」
軽く教室の外に目をやりながら、跡部は言う。鳳も岳人をあんな状態にしてしまったこと
に責任を感じて、かなりショックを受けているのだ。そのため、この数日間部活をずっと
休んでいる。忍足と鳳、この二人はこの一週間行動に全く生気が感じられない。しばらく
沈黙が続いた後、ずっと黙っていた忍足が口を開いた。
「・・・俺、岳人と前みたいに接したい。俺は岳人のこと好きなのに・・・岳人は違うみ
たいに感じる。一緒に居るのに、心が通っていないんや。」
「忍足・・・。」
本当の気持ちを言葉にした瞬間、忍足の目から涙がこぼれた。それを見た三人は、何て言
葉をかけていいのか分からなくなる。自分達にはどうすることも出来ない。そんなもどか
しさから、この三人も忍足と同じくらいの痛みを感じた。
「俺が・・・こんなこと言っていいのか分からないけど、大丈夫だよ。きっと岳人の記憶
は戻る。だから、忍足頑張って。」
「そうだ。信じてれば絶対戻るって。だから、元気だせよな。」
「そんなに悩んでたってしょうがねぇだろ。あいつは単純だ。すぐ戻る。」
三人は精一杯忍足を励ます。自分にもそういう大事な人がいるからこそ、こういう言葉が
出てくるのだ。するとそこへ先生に呼ばれ、職員室に行っていた岳人が戻ってきた。
「はあ〜、すげぇ遅くなっちゃった。あー、何かみんなそろってるー。どうしたんだ?」
無邪気な笑顔で岳人は四人のところへと歩いてくる。忍足は慌てて涙を拭き、笑顔を作っ
た。
「随分遅かったな。先生の話長かったん?」
「そうなんだよー、最悪だよな。それよりさ、もう帰ろうぜ侑士。俺、疲れちゃった。」
「せやな。じゃあ、帰るか。じゃあな、滝、宍戸、跡部。」
「ああ、じゃあな。」
「また明日な。」
「明日の朝練、遅れんじゃねーぞ。」
何事もなかったかのように笑顔で手を振る面々だが、忍足と岳人が完璧に見えなくなると
一気に表情を曇らせた。
「忍足、すごいね。」
「ああ。でも見ててすげぇつらい。さっきまで、あんなに泣いてたのに岳人が来たら、笑
ってたぜ。そんな状況じゃねぇはずなのによ。」
「あいつらしいって言ったら、あいつらしいけどな。でも、あのままじゃさすがにヤバイ
と思うぜ。岳人の奴、早く思い出せよな。」
忍足の姿を見て、とても痛々しく思う三人は言いようもない切なさを感じていた。だが、
忍足はこれよりももっと大きな寂しさと切なさを感じているのであろう。岳人に記憶から
消されている三人は自分達の無力さに苛立ちを覚えながら、帰る用意をし始めた。
次の日の放課後。忍足と岳人が学校から家への道を辿っていると、突然、空から大粒の雨
が降ってきた。その雨はあっという間に強くなり、二人の体を濡らしていく。二人がいた
場所からは明らかに忍足の家の方が近かったので、ひとまず、雨宿りのため岳人もそっち
へ向かった。
「うっひゃあ、いきなり降ってくんなよなあ。ビショビショじゃん。」
「ホンマ。今日、天気予報では雨が降るなんて言ってなかったのになあ。」
忍足の家に着いた時には髪も制服ももうびしょ濡れだ。とにかくタオルを取りに行こうと
二人はそのまま忍足の部屋へと向かった。忍足の後について行く岳人だが、後ろからその
姿を見ていてとあることに気がつく。
何か雨で濡れてる所為かな?侑士の制服がすげぇ透けて見える。背高いけど細いんだよな
あ。髪も濡れててなんか色っぽいし。って、何考えてんだろ俺。こんなこと友達に対して
抱く感情じゃないって。・・・でも、今の侑士見てるとすごくドキドキしちゃう。あー、
もう!!どうしちゃったんだよ俺っ。
記憶喪失のため、いつもならあたりまえのように感じている忍足に対しての感情に岳人は
違和感を抱いてしまう。『友達関係』としか見ていないので、当然と言ってしまえば当然で
あろう。そんなことには全く気づかず、忍足は部屋のドアを開け、そこへと入っていった。
「今、タオル出すからちょっと待ってな。」
「・・・うん。」
忍足はタンスの中からタオルを出すと岳人に渡す。タオルを持ったもののどちらも体を拭
こうとはしない。それを持ったまま立ち尽くして、何も言えないでいた。岳人はさっき忍
足に関して感じてしまった感情から、忍足はこの家に今、自分と岳人が二人きりだという
ことを意識してしまったからという理由で、何だか気まずくなってしまったのだ。この微
妙な雰囲気の空間に先に耐えられなくなったのは忍足だ。今までのこともあって、かなり
忍足は溜まっていた。本当はこんなことはしてはいけないのかもしれない。岳人が困って
しまう・・・そうは思うもののそれ以上に、今まで我慢していたものの方が大きかった。
この微妙な雰囲気にのまれ、忍足は自分でも想像していなかったことを実行してしまう。
「岳人・・・」
「・・・何?」
忍足は自分のベッドに濡れたまま腰かけ、眼鏡を外した。そして、岳人に向かって腕を伸
ばし、あることを頼む。
「岳人、もっと、こっちに来てくれるか?」
「うん。」
ドキドキしながら、岳人は忍足に言われるままベッドの方に近づいて行った。腕が届くく
らいまで近づくと忍足は岳人を抱きしめ、ちょうど胸のあたりに顔を埋めた。
「わっ!!ちょっ・・・侑士!?」
「・・・・て・・」
「えっ・・・?何?」
何かを言ったのは聞こえたが、岳人にはそれが聞き取れなかった。聞き返してから、ある
程度の時間をおき、忍足はもう一度その言葉を繰り返した。
「・・・岳人・・・抱いて・・・?」
「っ!?」
岳人は自分の耳を疑った。忍足がこんなことを言うはずがない。というか、友達なのにそ
んなことはダメだろうということが頭をよぎったのだ。
「じょ・・・冗談だろ・・・?」
「冗談やない。俺、岳人に抱いて欲しい。」
「そ・・んな・・・」
突然のことで困惑しまくっている岳人を前にして、忍足はまた胸にズキンっと大きな痛み
を感じた。やはり、もう元には戻れないのかと不安でいっぱいになり、涙が頬を伝う。だ
が、ここで諦めてしまってはもうこの先何も出来なくなるかもしれない。そんな思いが頭
の中を凌駕し、忍足はさらに大胆なことをし始めた。制服のネクタイを外し、自らワイシ
ャツのボタンを外していく。胸がはだけた状態で、岳人の唇に軽くキスをした。
「お願いや・・・岳人・・・。俺・・・岳人のこと好きやから・・・こういうことして欲
しい・・・」
「侑士・・・。」
こんなことを頼まれても岳人は全く嫌ではなかった。ポロポロと涙を流しながら、上目使
いでこんなことを懇願する忍足はこれ以上なく艶やかで可愛い。岳人はそのままベッドに
忍足を押し倒し、今度は自分から唇を重ねた。
おかしい・・・。こんなこと初めてなはずなのに、やってて全然違和感がない。というか
むしろ楽しいし。それに、この感覚、今まで何度も味わってる。
岳人は忍足を自分の下に組み敷きながら、こんなことを考えていた。記憶がない岳人はこ
ういうことが初めてだと思い込んでいる。だが、記憶にはなくても体は覚えているらしい。
ごく当たり前のことのように岳人はその行為を進めていった。
「んぅ・・はっ・・・あぁ・・・・」
「なぁ、侑士。俺とこういうことするの初めてだっけ?」
「・・・違う・・・今まで何回もしたことある・・・・」
「そっか・・・。」
まだハッキリとは思い出せないが、岳人はこれをしながらだんだんと記憶が戻ってくるよ
うな感じを覚えた。初めは忍足の変わりように驚いたような気がしたが、よくよく考えて
みると自分はこの忍足を知っている。それは確かだった。
「やっ・・・岳人っ・・・あっ・・・ああ・・・」
「ここ、触られるのいいの?」
「んっ・・・あっ・・ん・・・・やぁ・・・」
「侑士、何か可愛い。俺、少し思い出してきたよ。侑士はここをこうされるのも好きなん
だよね?」
「っ!!ぁっ・・・んんっ・・・くあっ・・・」
岳人はちゅっと自分の指を口で濡らすと、忍足の下の口に持っていった。それが、内側に
入ると忍足は一際大きく反応し、岳人に濡れた声を聞かせる。
「やぁ・・・岳・・人ぉ・・・・んっ・・んぅ・・・」
「すごい・・・。ここってこんなに濡れるんだ。なぁ、侑士。他にどこ触ればいい?」
「・・・・そんな・・・言えへん・・・」
「教えて。俺、侑士がそういう顔してるのもっと見たい。」
両手を使って下を弄りながら、岳人は尋ねた。忍足は濡れている岳人のワイシャツに触れ、
自分の触れて欲しいところを示した。その手はかなり震えている。
「俺の・・・ここに触って欲しい・・・。」
岳人は一瞬驚いたような顔をするが、分かったと頷いてその部分に唇を落とした。すっか
り赤くなっているそこは岳人の口に含まれると、忍足に今まで以上の快感を与える。
「あっ・・・あぁんっ・・・」
「ちょっと口つけただけでそんなに感じるんだ。じゃあ、こうしたらどう?」
「うあっ・・・やっ・・・アカン・・・!!」
忍足があまりにも過敏に反応するので、岳人はその部分と軽く吸ったり噛んだりしてみた。
その度に忍足はその刺激に見合った反応をする。しばらく、そんなふうにしていろいろな
ところを弄んでいると、次第に岳人の方も我慢が出来なくなってきてしまう。
「な、なあ、侑士。」
「んっ・・・何?」
「俺、もう我慢出来ないかも・・・。ここって俺の挿れても大丈夫?」
まだ、完璧には記憶が戻っていないため普通ならしないような質問を岳人はした。忍足は
少し唖然とするような顔をするが、ふっと笑って岳人の首に手を回し、抱きしめながら頷
く。
「大丈夫やで・・・俺はちゃんと岳人のこと・・・・受け入れられるから・・・」
「えっと・・・じゃあ挿れるよ?」
「ああ。」
恐る恐る岳人は自分のものをそこにあてる。そして、ゆっくりと忍足の中へと挿入してい
った。思っていた以上にすんなり入ってしまったので、岳人は驚きの声を上げるとともに
想像以上の気持ちよさを感じた。
「んんっ・・・!!」
「うわっ・・・これ、すげ・・・イイ。」
「はっ・・・せやろ?・・・今、俺と岳人繋がってるんやで・・・気持ち・・イイよな?」
「うん。すごく・・・なぁ、少し動いても平気か?」
「たぶん・・・」
言葉だけ聞いているとまるで初めてしているような感じなのだが、してる感じとしてはそ
うではない。いかにも慣れているという感じで忍足の感じやすいポイントを攻めていく。
「ぅんっ・・・ああっ・・・あっ・・・岳人っ・・・」
「何か侑士とこうしてるのって、すごく嬉しいし、気持ちイイ。俺、侑士の友達って思っ
てたけど、ホントは違うんだな。友達同士じゃこんなこと出来ねぇもん。」
「・・・・岳人・・・」
その岳人の言葉を聞いて、忍足は心からホッとしてぎゅっと岳人のことを抱きしめた。ま
だ、記憶は戻らないがそれだけは思い出してくれたようだ。そんな安心感を感じていても
体はまた別。岳人が与える刺激で忍足はもう、かなり意識が飛びかけていた。
「ハァ・・・あっ・・・う・・・んん・・・」
「侑・・士っ・・・俺、もうダメかも。」
「いつもより少し早ない?・・・って言っても・・・・俺ももうアカンけどな・・・」
「いつもって言われても分かんねーよ!!あっ・・・もうホント限界っ・・・」
「じゃ・・・一緒に行こか・・・?」
「う・・うん。」
平気なフリをしている忍足だが、実を言うと岳人よりよっぽど余裕はなかった。思わず背
中に爪を立ててしまい、そのまま果てる。岳人もそれとほぼ時を同じくして忍足の中に自
分を放った。
「うあっ・・・侑士!!」
「あっ・・・ああ―――っ!!」
この瞬間、ほんの一瞬だけ岳人の意識が途切れる。だが、次の瞬間岳人の頭の中に様々な
ことが、走馬灯のように駆け抜けた。そう記憶が完璧に戻ったのだ。
行為が終わってしばらくは二人とも動けないでいた。体が濡れたままやってしまったので
布団もかなり濡れてしまい、ただいまシーツを替えたところだ。当然のことながら、制服
は着ていられる状態ではないので、全て脱いでしまい、二人は私服に着替えている。だい
ぶ落ち着くと二人はクッションの上に座り、体を休めた。しばらく二人とも何も言わずに
黙っていたが、ふと岳人が忍足にくっつくような感じで寄りかかった。そして、おもむろ
に顔に手をあて、唇を重ねる。
「・・・っ。」
突然の岳人の行動に忍足は驚く。唇を離すと岳人はニコッと笑った。
「今まで、本当ゴメン侑士。俺、全部記憶戻ったぜ。」
「・・・・・・。」
忍足は岳人の言っていることがすぐに把握出来ない。しばらく考えた後、やっと岳人が言
ったことの重大さに気がつき、驚きの声を上げた。
「ホ、ホンマか!?」
「うん。友達としてしか見てなかったなんてありえねぇよな。その所為で、侑士かなり悩
んでたんだろ?本当に本当にゴメン!!」
岳人は忍足に頭を下げて謝った。そんなことはおかまいなしに忍足は嬉しさのあまり思い
きり岳人のことを抱きしめる。
「うっわ・・・!!」
「岳人が謝ることなんて何もあらへんよ。・・・でも、ホントよかった。」
「侑士・・・。」
「岳人、好きやで。もちろん友達としてじゃなくて、それ以上の意味で。」
「俺もだぜ。侑士。侑士は俺の恋人だ。」
「岳人・・・・」
この一週間ずっと言って欲しくてたまらなかった言葉が聞くことができ、忍足はあまりの
嬉しさから目にいっぱいの涙を浮かべた。お互いの存在を確かめ合うように二人は抱き合
う。もう日は沈んでしまったが、外はすっかり晴れ、金色に輝く上弦の月が昇っていた。
次の日からの二人はもういつも通りだ。
「侑士ー!!」
「うわっ、岳人。そないに急に飛びつかれたら転んでまう。」
「えー、だってここ一週間侑士とイチャイチャしてなかったからさー。」
「これで、転んで今度は俺が頭打って記憶喪失なったらどうするん?」
「えー!!それはヤダ!!」
教室にも関わらず、二人は無駄にベタベタくっつきイチャイチャしている。様子を見に来
た三人は呆れながらも心底ホッとしていた。
「岳人の記憶、戻ったみたいだね。」
「ああ。前の二人に戻ったな。普通に見てる分にはかなりウザイけど、やっぱあの二人は
ああでなくちゃ。」
「さてと、今日は久々に部活がオフだ。みんなでどこか遊びに行くか。」
「跡部がそんなこと言うなんて珍しいじゃん。じゃあ、俺は長太郎とか樺地とか日吉を誘
って来よーっと。」
「岳人ー、忍足ー、跡部が帰りに遊びに行こうだって。一緒に行こうぜ。」
「マジで行く行く!!」
「おもしろそうやん。俺も行く。」
跡部の提案で今日は帰りにみんなでどこかに寄り、遊びに行くことになった。岳人はもう
記憶を完璧に取り戻したので、跡部など他の部員のこともしっかり分かる。みんなで遊び
に行く中でこの一件のことで誰もが思った。確かにいつも一緒に居るのが当たり前になる
とその大切さは薄れるが、その当たり前がなくなるほど怖いことはない。いつも通りが最
高だと思いながら、氷帝テニス部レギュラーメンバーは仲良くみんなでの時間を楽しむの
であった。
END.