January 1st.

リクエスト内容『巫女さんをすることになった宍戸さん。
他のメンバーは放っておかない。+初詣デート。』

年が明けてからまだ数時間。宍戸は跡部と布団の中で気持ちよく眠っていた。ところが、
突然そんな眠りを妨げるような音が宍戸の耳元で鳴り響く。
「う〜・・・誰だよこんな時間に。」
「こんなときくらい電源切っとけよな。」
「ゴメンな跡部。もしもし?」
まだ眠たそうな声で宍戸は電話に出た。電話の相手は宍戸の母親。こんな時間にかけてく
るなよなと思いながらも宍戸は何か急用でもあるのかと思って、一応その理由はしっかり
聞いた。
「えっ、マジで?うん、うん。えー、今から!?まだ4時半だぜ。いくらなんでも早すぎ
・・・あー、そっか。しょうがねぇなあ。分かったよ。うん、じゃあ今から向かう。」
ポチッ
「電話の相手、お前の親か?」
「ああ。ゴメン、跡部。俺、これから出かけなくちゃいけなくなっちまった。」
面倒くさそうにベッドからおり、宍戸は着替え始める。どうやら何か急用が出来てしまっ
たらしい。昨日の夜、行為を終えたままそのまま眠ってしまったので着替えはとにかく身
につけるだけだ。今日はずっと一緒にいられると思っていた跡部はあからさまに不満を顔
に出し、テキパキと服を着ていっている宍戸をベッドの中から眺めていた。
「こんなに朝早く・・・つーか、まだ夜も明けてねぇけど、どこ行くんだ?」
「知り合いの神主さんの娘がさあ、なんか風邪ひいて熱出しちまってるらしいんだ。それ
で今日元旦だろー?初詣客でいっぱいな神社で人手が足りないから、バイトが来る昼頃ま
で巫女さんの仕事代わりにやれってさ。だから、今からそこに行かなきゃいけねぇんだよ。」
「巫女さんの仕事?ってことは、お前その格好するのか?」
「うーん・・・まあ、一応な。まあ、こういうふうな感じで手伝うのは小学校の時とかも
よくやってたし、あんまり抵抗はねぇよ。」
それを聞いて跡部の表情は一変した。巫女さんの格好をするなんておいしいことを聞けば、
これはもう一緒について行って見るしかないだろう。
「宍戸、俺もついて行っていいか?」
「は?何で?今から行くんだぞ。お前、一緒に来てどうすんだよ?」
「別にいいじゃねぇか。そこまで送って行ってやるし、巫女さん姿のお前も見るのも悪く
ねぇ。」
それが目的か・・・と宍戸は半ば呆れながら返事をする。
「別にいいけどよ。俺は仕事しなきゃいけねぇからあんまりお前に構ってる暇ねぇぞ。」
「そんなのは百も承知だ。よし、じゃあ俺も着替えるか。外は寒みぃからな。暖かい格好
して行くぞ。」
「はいはい。」
コートに腕を通しながら、宍戸は適当に返事をする。跡部もあっという間に着替え、神社
へ行く準備はすぐに出来た。まだ、真っ暗な外に出て、二人は車でその神社へと向かった。

神社に到着すると宍戸は初詣に来た客の間をすり抜けて、神主さんのもとへと向かう。も
ちろん跡部も一緒だ。裏口から神社の中に入れさせてもらい、とある部屋へと案内された。
そこには白と赤を基調とする巫女さんお決まりの服がキレイにたたまれている。宍戸は慣
れた手つきでその用意された服に着替え始めた。
「おっ、サイズバッチリじゃん。久々だなー、この格好すんの。」
「随分と慣れた手つきだな。そんなに何回もその格好してんのか?」
「そんなにたくさんはしてねぇよ。でも、親が仲良くてさあ、ここの神主と。だから、結
構小さいころは手伝わされてたな。」
「手伝うにしてもその格好はねぇんじゃねぇの?まあ、確かに似合ってるけどよ。」
「俺、小学校の時から髪長かったから、ここの姉ちゃんが着させてくれてたんだよ。そし
たら、いろんな人が似合う似合うって言ってくれたからそれ以来手伝うときはこの格好。」
「何だよその理由は。恥ずかしいとか思わなかったのか?」
「別にー。この神社、学校の知り合いとかはほとんど来ねぇし。俺の知り合いでこの格好
見せるの跡部が始めてだぜ。」
腰のあたりのリボンに似た帯を結びながら、宍戸は飄々とした表情で言う。跡部からすれ
ば、こんなに何の抵抗もなく宍戸が自ら女がするような格好をするのを見るのは初めてだ
ったので微妙な違和感を覚えていた。だが、その格好が似合うのは事実。まだ、巫女さん
の髪型まんまにするには少し短めの髪をきちっとまとめる仕草を見て、本当に男かよと疑
ってしまうほどだった。
「よし、こんなもんかな。あっ、おじさん。お久しぶりです。」
「?」
「いやあ、大きくなったね亮君。今、いくつだっけ?」
「今、中三です。」
宍戸が着替え終わると同時にタイミングよくこの神社の神主さんが入ってきた。跡部は面
識がないのでその会話に入っていけない。
「あれ?その子は亮君のお友達かい?」
すると神主さんの方が跡部に気づき、宍戸に尋ねる。
「はい。跡部景吾って言います。同じ学校の・・・友達です。」
宍戸的には友達というのに少し違和感を覚えたが、こんな場面の紹介ではこれが妥当であ
ろう。神主さんはニコニコとした表情で跡部にもあいさつをした。
「初めまして、景吾君。今日は亮君の付き添いかい?」
「初めまして。昨日、宍戸は俺んちに泊まっていたので、何となく一緒についてきました。」
「こんなに朝早くすまないねぇ。ところで、景吾君は着物とか興味ないかい?私が若い時
に着ていたものがあるんだが、よかったら着て欲しいんだがね。」
「別にいいですよ。でも、俺、和服はあまり着ないんで自分じゃ着れませんけど。」
「それは心配しなくてもいいよ。ちゃんと着させてあげるから。」
どうやら神主さんが着物を着させてくれるらしい。着物を着る機会などそう滅多にないの
で、跡部はそれを快く了承した。神主さんは嬉しそうに着物を取りに行く。そして、持っ
てきた着物は見た感じはほとんど新品と変わらず、色もなかなか上品で落ち着いた雰囲気
のものであった。
「へぇ、なかなか似合うじゃん跡部。」
「当然だろ?俺様は何でも似合うんだ。」
「本当によく似合っているよ。それで、亮君。もうそろそろ仕事に入ってもらってもいい
かな?」
「はい。じゃあ、跡部。俺、もう行くからさ、お前は適当にここ見学してたりいろいろし
てろよ。」
「分かった。お前、終わるの何時頃だっけ?」
「たぶん昼前には終わると思う。」
「了解。じゃあ、頑張って来いよ。」
「おう。じゃあ、後でな。」

完璧に準備を終えると宍戸は仕事に取りかかりに行った。残され暇になってしまった跡部
はしばらく境内を見学した後、いったん外に出る。外に出るとちょうど太陽が出ようとし
ている時だった。初日の出くらいは宍戸と一緒に見たいと跡部は宍戸が作業をしているお
守りやお札が売っているところへ行く。まだ、そんなにお客さんはたくさんいなかったの
で少しは余裕を持ってそれを眺めることが出来た。
「おー、昇ったな。あっ、跡部。あけましておめでと。今年もよろしくな。」
「ああ。よろしくな。」
にこっと笑いながら宍戸は今更ながら新年のあいさつを跡部に言う。跡部も笑いながら、
返事をした。宍戸が忙しくなるのはここからだ。日が昇ると参拝者の数は一気に増え、跡
部と話している暇など本当にないほど忙しくなった。本格的に暇になってしまった跡部は
執事に朝食を持ってこさせ、軽く腹ごしらえをした後、同じテニス部メンバーに電話をか
け始める。
『もしもし?』
「あー、向日か。お前、今日初詣とか行く予定あるか?」
『うーん、今のところは別にないけど。何で?』
「今、ちょっととある神社に来てるんだけどな、そこで宍戸が巫女さんの格好して働いて
んだよ。」
『マジで!?うわあ、ちょっと見てみたいかも。なあ、侑士。宍戸がね、巫女さんの格好
して神社で働いてんだって。からかいにいかねぇ?』
「そこに忍足もいんのか?」
『うん。いるぜ。あー、かなり見てみたいよそれ。じゃあ、もうちょっとしたら行くな。
場所は?』
「場所は・・・」
こんな感じの電話を岳人だけでなく、滝やジロー、樺地にもかける。これだけ人が集まれ
ば少しは暇もつぶせるだろう。他のメンバーが来るのを待ちながら、跡部はまた神社の中
を見学することにした。

一時間ちょっと経って、跡部が電話をかけたメンバーが続々とやってきた。みんな正月と
いうこともあり、着物を着ている。まず一番初めにやってきたのは、岳人と忍足のペアだ。
その二人に少し遅れて樺地もやってきた。それからしばらくして、滝、鳳のペアとジロー
もやってくる。
「跡部ー、来てやったぜー♪」
「ウス。」
「おー、お前らも和服か。でも、やっぱり俺様が一番だな。」
「また、跡部はそないなこと言って。だからナルシーって言われるんやで。」
「本当のこと言って何が悪いんだ?なあ、樺地。」
「ウス。」
鳥居の横のところでそんなことを話していると、滝や鳳もそれに加わる。
「うわあ、見事にみんな和装だね。あれ?あと誰が来てないの?」
「ジロー先輩がまだみたいですけど。」
「あいつ起きれないんじゃねーの。まだ、朝早いし。」
宍戸を除いた7人がここに来るはずなのだが、ジローがまだ来ていない。ジローにとって
はこんなにも朝早く来るというのはかなりつらいことだろう。他のメンバーが諦めかけた
その時、あの騒がしい声がどこからか聞こえてきた。
「みんなゴメーン!!着物着るのに時間かかっちゃっ・・・どわっ!!」
着物を着てパタパタと走ってきたジローは、跡部達の前で思いっきりこけた。
「何やってんのやジロー?」
「起こしてやれ樺地。」
「ウス。」
「おわぁっ、ちょっ・・・樺地たんまたんま!!」
樺地はひょいっとジローを持ち上げ、起こそうと試みる。いきなりそんなことをされては
ジローでなくともビックリするだろう。早く下ろしてもらおうと手足を宙に浮かせたまま
ジローはばたばた暴れた。
「ジロー、今日はちゃんと起きれたんだね。えらいじゃん。」
「えー、だって、宍戸の巫女さん姿見てみたかったC〜。それにおみくじとかも引きたい
しね。」
「あっ、おみくじいいな!!俺もやりたーい!!」
ジローと岳人のお子ちゃまペアがおみくじをやりたいと言い出したので、宍戸のところへ
行っておみくじをやろうということになった。
「いらっしゃいませ。」
そこへ行くと宍戸は営業スマイルをふりまいて参拝客にいろいろなものを売っていた。そ
れをレギュラーメンバーは見つけて、わあわあ騒ぎ出す。
「ホントに宍戸巫女さんの格好してるー。」
「なかなか似合うじゃん。」
「さすが宍戸やな。」
「声かけてみようか?おーい、宍戸ー♪」
岳人が大きな声で宍戸の名前を呼んだことにより、宍戸はこのメンバーがここに来ている
ことにやっと気がついた。
「げっ!!何でお前らここにいんだよ。」
見られたくなかったのか宍戸はあからさまに嫌そうな顔をして7人を見る。だが、そんな
ことはお構いなしにこのメンバーはお守りやおみくじが売っている店の目の前に来て、宍
戸の姿をさらに近くで確認した。
「俺が電話してやったんだ。大勢の方が楽しいだろ?」
「余計なことすんじゃねぇよ!!」
「だって暇だったんだぜ。お前がこっちで仕事ばっかりやってるからよ。」
「うっ・・・確かにそうだけど・・・・」
跡部が暇になってしまうのはよく分かっていた。だが、全員を呼ぶ必要はないだろうとか
なり怒り気味。そんな気分を打ち破るかのように岳人とジローの二人がおみくじをやらせ
ろとうるさいくらいに話しかけてくる。しょうがないので、宍戸はお金をもらいおみくじ
をまずはこの二人にやらせた。それを見ていた他のメンバーもやりたくなってしまい、結
局跡部以外は全員そこでおみくじをひいた。
「やったー、俺大吉!!」
「俺も俺も!!今年は運がいいぞー!!」
「俺は末吉やな。何かコメントしづらい結果やなあ。」
「何だよ侑士。末吉かよー。でも、俺は大吉だからいーっぱい侑士に運を分けてやるよ。
だから、今年もずっと一緒に居ような♪」
「おおきにな、岳人。」
岳人は大吉、忍足は末吉、ジローも大吉という結果だったようだ。
「俺は小吉です。」
「俺は中吉。なんか良くも悪くもないって感じだね。」
「なあなあ、樺地は樺地は?」
「ウス。」
「中吉か。そんなに悪くはないよね。」
鳳は小吉、滝は中吉、樺地も中吉だ。この三人は特にそれほど悪いとも言えないし、いい
とも言えない結果だ。
「お前ら見たんなら、あそこの木に結んでこいよ。悪かったやつはあれで運勢がよくなる
んだぜ。」
宍戸は店の向かい側にある木を指差してそう言った。内容をしっかり覚えると岳人や忍足、
滝や鳳、ジローに樺地はその木におみくじを結ぶ。これでみんな運がよくなるぞーとこの
一年に期待をいっぱい込めながらしっかりと細い枝に結びつけた。
「お前らお守りとか絵馬とか買わねぇ?せっかく来たんだから少しは貢献しろよな。」
売るお手伝いをしている宍戸は出来るだけ多くの人に何かを買って欲しいとこのメンバー
にもいろいろ勧める。勧められるままに滝と鳳は絵馬を、岳人と忍足はお守りを、ジロー
と樺地は願掛けの鈴を買った。何だかんだしているうち宍戸が手伝わなければいけない時
間はあっという間に過ぎていった。

バイトの人も来て、人手が足りるようになると宍戸は仕事を終わらせて、跡部と一緒にこ
こに来た服装に着替えるためにもう一度神社の中に入った。巫女さんでない服に戻ってし
まうのは少々残念だと感じながら跡部は名残惜しそうに宍戸が着替えるのを眺めていた。
「そんなに名残惜しそうな顔で見んじゃねーよ。」
「似合ってたのになあ、あの格好。あー、写真の一枚や二枚撮っておきゃよかった。」
「撮らなくていい!!」
これ以上余計なことはすんなと宍戸は必死で抗議する。完全に着替えを済ますと宍戸はさ
っき神主さんから今日のお礼だということでもらったお守りと鈴を跡部に渡す。気をきか
せて神主さんは2セット用意してくれていたのだ。それもこの二つは特別で通常売ってい
るものとは色や模様が若干違い、少し特別な意味があったりする。
「はい。これ、お守りと鈴。」
「おっ、サンキュー。ふーん、この鈴なかなか音がいいな。お守りもキレイな色じゃねぇ
か。」
「・・・なあ、跡部。この神社ってどんな神様が祭られてるか知ってるか?」
「いや、知らねぇ。今日、初めて来たんだからそんなこと知るわけねぇだろ。」
「そうだよな。」
「何の神様なんだよ?」
「えっ!?・・・えっと・・・・」
「何でそこで黙るんだ?そんな変なものなのか?」
「・・・え、縁結びと恋愛成就。」
宍戸は何故か顔を真っ赤にして答える。その表情はあまりにも可愛くて跡部はくすくす笑
った。
「何、そんなに赤くなってんだよ?可愛いやつだな。俺達にピッタリの神様じゃねーか。」
「この・・・お守りな、売ってるのと違って本当はここで結婚式を挙げるカップルにしか
あげないやつなんだよ。これ持ってるといつまでも仲良く幸せでいられるんだって。」
「へぇ。じゃあ、俺達は結婚式をあげる奴らと同じなんだ。あの神主もなかなかやるな。」
「・・・・・。」
何がそんなに恥ずかしいのか宍戸さらに赤くなってうつむく。ハッキリ言ってしまうと宍
戸はこのお守りを跡部とペアでもらえることが嬉しくてたまらなく、それが顔に出てしま
うのが恥ずかしくてこんなになってしまっているのだ。
「ほら、宍戸。もう行こうぜ。あいつら外で待ってるからよ。」
「そうだな。」
「それから、あとで一緒におみくじ引こうぜ。」
「おう。」
宍戸と引きたいがために跡部はさっきみんなが引いたときに引かなかったのだ。外に出る
と他のメンバーが暇を持て余しながら待っていた。
「遅いぞー!!」
「あともうちょっとだけ待ってくれねぇか。おみくじやりたいんだ。」
「あー、宍戸ずっと仕事してたもんね。」
「あれ?ジローはどうした?」
「あそこで寝てます。」
「また寝てんのかよぉー!!あいつ寝すぎー!!」
岳人がまたもや騒いでいるのを尻目に二人はおみくじを引いた。結果はどちらも大吉。顔
を見合わせ笑いながら交換して相手のを見てみる。なかなか内容もおもしろく嬉しいこと
ばかりだった。
「よっしゃ、じゃあ俺達も木に結んでいくか。」
「そうだな。お前ら、せっかくみんな集まったんだ。これからどっか遊びに行こうぜ。」
『賛成ー!!』
着物のままなど全く気にせずこれから遊びに行くことする。ちょうど新年会のような感じ
になるのだろう。新年早々楽しいことがいっぱいの氷帝メンバーの一年は今年もいい年に
なるのはまず間違えなさそうだ。

                                END.

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