Little boy

ニャーン・・・・
休日の朝、跡部はいつものように飼い猫に起こされる。久しぶりの休日なので、いつもよ
り少し寝坊してしまった。体の上に乗る猫は何かを伝えたいのかしきりに跡部の頬をペロ
ペロ舐める。
「何だよ?もう起きるって。どうした?」
そんなことを尋ねると跡部の体の上から机の上へとぴょんっと移動する。見ると机の上で
一つの携帯がぶるぶると震えていた。
「メールか?」
腕を伸ばし、携帯を取って中身を確認する。メールは宍戸からだった。
『今日は休みだしよ、一緒に遊ばねぇ?これからお前んち行っていいか?』
「ふ、可愛いじゃねぇの。」
当然跡部は構わないという趣旨のメールを返信する。宍戸が来るならば、さっさと着替え
なければと跡部はベッドを下りた。
バサッ・・・
その瞬間、何故だかパジャマがずり落ちる。何かがおかしい。そんな嫌な予感を抱えつつ、
跡部は全身が移る鏡の前に立ってみた。
「なっ・・・!?」
そこには10年は若返っているだろうという自分の姿。跡部の年で10年若返るというこ
とは年齢でいえば、4、5歳だ。こんな姿では宍戸に会えないとパニくるが、もうメール
は返信してしまった。宍戸も返事を待っていたはずだろうから、すぐにこの家に来てしま
うだろう。
「何でこんなことになってんだ?昨日、俺、変なもんでも食ったか?」
どうしようかと部屋の中をうろうろしているうちに時間はどんどん流れていく。しばらく
すると、突然ドアを叩く音が聞こえた。
「っ!!」
「跡部、もう起きてんだろ?入ってもいいよな?」
宍戸が既に自分の部屋の前にいることに気づき、跡部の心臓は壊れそうなほどドキドキす
る。こんな姿は見られたくない。そう思いながら跡部は思わず怒鳴ってしまった。
「入ってくんじゃねぇ・・・っ!?」
怒鳴って驚いたのは、宍戸よりもむしろ跡部自身だった。体だけでなく声まで幼くなって
いる。今ので完璧にバレた。跡部の顔は一気に青ざめる。
「跡部、どうした?声が変だぜ。とにかく入るからな。」
もちろん宍戸も跡部の異変には気づいた。跡部の部屋のドアはもとから鍵などかかってい
ないので、カチャっと普通にドアを開ける。跡部はそれを止めようと思ったが、だぼだぼ
のパジャマがドアの前までいくのを阻んでしまった。
「跡部、どうし・・・・」
宍戸が部屋に入ってきた瞬間、バッチリ目が合ってしまった。もう誤魔化せない。当然宍
戸は今目の前に見えるものが理解出来ずに固まってしまう。言い訳も何も出来ない状況で
跡部は黙っているしかなかった。しばらく沈黙が続いた後、宍戸はやっと今起こっている
おかしな状況を把握し、感嘆を含んだ驚きの声を上げた。
「うっわあ、どうしたんだよ跡部!?激可愛い〜!!」
「はぁ?」
子供好きの宍戸にとって、幼くなった跡部はかなりツボだった。何年も前に見たことある
姿ではあるが、今見るのとではだいぶイメージが変わって見える。そんなチビ跡部に近づ
くと宍戸はその小さな体をひょいっと抱き上げた。
「うわっ・・・」
「何でお前、こんなになってんの?」
「知らねぇよ。こっちが聞きてぇ。」
「何か跡部じゃないみてぇ。面白いからおばさんに見せに行こうか。」
「はあ!?ふざけんな!!」
「だって、このままの格好でいるわけにはいかねぇだろ?跡部んちなら、小さい時の服と
かも全部とってありそうじゃん。」
「だからって・・・あっ、おい!!宍戸、下ろせ!!」
跡部を抱いたまま宍戸は部屋を出て行く。バタバタと暴れて抵抗するが、幼児になった跡
部の力が中学生のままの宍戸の力に敵うはずがない。宍戸はそのまま跡部の母のもとまで
チビ跡部を連れていってしまった。
コンコン
「はーい。あら、亮くん。いらっしゃい。」
「あの、跡部の部屋に行ったら、跡部がこんなになってたんですけど・・・」
「あら・・・」
無理やり連れて来られた跡部は、これ以上なく不機嫌顔でうつむいている。そんな跡部を
見て、跡部の母は宍戸と同じようなリアクションをとった。
「まあ、随分可愛くなっちゃったじゃない。どうしたのかしらね?」
「今日、跡部と遊ぶ約束してたんですけど、この跡部に合うサイズの服ってあります?」
「もちろんあるわよ。ちょっと待っててちょうだい。」
幼くなった跡部を宍戸から受け取ると、跡部の母は部屋の中へと入っていった。しばらく
すると、いかにも幼稚園児というような服を着た跡部を抱いて部屋から出てくる。
「これからお出かけするんでしょ?だから、ちょっとおめかしさせてみたの。」
アップリケのついたパーカーに半ズボン。しかも可愛らしいくまの帽子つきというチビ跡
部に宍戸はもうメロメロ。どんなに無愛想な顔をしていようがお構いなし。可愛い可愛い
を連発して、ぎゅうっと抱きしめる。
「うわあ、もう跡部可愛すぎだし。」
「だー、もう!!可愛いって言うな!!」
「だって、本当のことじゃねぇか。そう思いますよね?」
「ええ。景吾ちゃん、お人形さんみたよ。」
体はいくら幼くなっていても、頭の中はそのままなのだ。可愛いを連発され、お人形さん
みたいと言われても、全く嬉しくはない。そんなやりとりをしているうちに、また宍戸に
抱き上げられてしまった。
「それじゃあ、おばさん。俺達これから出かけて来ますんで。跡部のことは任せて下さい。」
「はあ!?何ふざけたこと言ってんだ。俺は出かけるつもりなんてさらさらねぇ!!」
「ええ。楽しんでらっしゃいね。」
跡部が嫌がっていることなど全く無視で、宍戸はそのまま外出してしまった。初めは本気
で嫌がっていた跡部もあまりにも宍戸が嬉しそうにしているので、だんだんとそんな気も
失せてきてしまう。仕方ないと軽く溜め息をつき、素直に宍戸と出かけることを決めた。

いったん跡部の部屋に戻って、鞄や携帯を持った後、二人は家を出る。宍戸がまず向かっ
た先は中心街にあるゲームセンター。ゲームで遊ぶのはもちろんのこと、今回はもう一つ
目的があった。この可愛いチビ跡部とプリクラを一緒に撮りたいとと思ったのだ。
「跡部、プリクラ撮ろうぜ、プリクラ♪」
「あーん?プリクラ?」
「こんなにちっちゃくなっちまったんだから、記念によ。なあ、撮ろうぜ。」
「仕方ねぇなあ。」
子供はどっちだとツッコミたい気持ちを抑えて、跡部は宍戸とプリクラを撮る。普段なら
恥ずかしがって、無理やりにでも引き寄せないとくっついてこない宍戸が、今回は自ら跡
部の頬に顔をくっつけてきた。幼くなった姿を撮られるのは、微妙な気分だがこれはなか
なか嬉しいと不機嫌顔も、撮る瞬間は笑顔に変わる。
『最後の一枚だよ。しっかりポーズをつけてね!』
機械の声が最後の一枚だということを伝えると、宍戸は今までで一番大胆なポーズをつけ
る。幼い跡部のぷにぷにした唇のすぐ横にちゅっと唇を押しつけたのだ。
「っ!」
「よーし、オッケー。跡部、次は落書きだってよ。」
「ああ。」
今の跡部の身長では、落書き画面が見えないので、落書きは全て宍戸任せということにな
った。出てきたプリクラを見て、跡部は驚く。プリクラの落書きには、自分に矢印が向け
られていて、「激カワイイvv」やら「俺のもの♪」などということが目立つ色のペンで
書かれているのだ。
「すげぇ落書きだな・・・」
「そうか?よく出来たと思ったんだけど。」
「俺がこういうこと書くと、文句言うじゃねぇか。」
「あれはだって、今のまんまの俺に対してじゃん。今の跡部は可愛いからいいんだよ。」
全く筋の通って理論を述べる宍戸に跡部は呆れる。しかし、宍戸が自ら素直に自分のこと
を書いたりしてくれることはそう滅多にない。これはこれでいいかと、跡部はもう一度先
程撮ったプリクラに目を落とした。
「跡部、太鼓やろうぜ。」
跡部がプリクラに目を奪われていることなどお構いなしに、宍戸は次やるゲームを勝手に
決める。小さな跡部と遊べるのが相当嬉しいらしい。はしゃぎまくりの宍戸を冷静に見つ
つ、跡部は太鼓に付き合ってやることにした。
「難易度は普通でいいよな。」
「俺は別に難しいでも構わないぜ。」
「その体で、難しいは無理だろ?無難に普通でいこうぜ。」
バカにされたようで、跡部はムッとしたような表情になる。目に物見せてやると跡部はバ
チを持って気合を入れた。
「曲は・・・っと。」
「これでいこうぜ。」
跡部が選んだのはベートーベンの『運命』だ。このゲームの中では普通であってもかなり
難易度の高いものである。曲が始まると二人の表情は一気に真剣なものになった。初めの
方は両者譲らず、同じくらいのレベルであったが、中盤あたりをすぎリズムが複雑になる
と宍戸の方がミスを連発し始めた。
「あっ、くそ・・・」
そんな宍戸とは対象的に跡部は一度もミスをせずに完璧に叩ききっている。どうみても幼
稚園児くらいにしか見えない子供がハイレベルな曲を一度もミスらずに叩いている。次第
に二人の周りには人だかりが出来ていた。
タン!!
最後の一回を叩き終えると周りから大きな拍手がわきあがった。ゲームに夢中になってい
た二人はこの状況に気づかず、それを聞いて驚いた。
「うわ、何でこんなに人が集まってんだ!?」
「さあな。俺様の美技に見惚れてたんじゃねぇの?」
「まあ、確かに今の跡部だったらこうなるのは当然かもな。」
今の自分の姿を自覚してないような跡部の物言いに宍戸はそう返す。確かに幼稚園児がこ
んなゲームであれ、完璧に最後までやることが出来たのなら誰でも感心するのは当然のこ
とであろう。
「ま、こんなとこで囲まれててもしょうがねぇし、他のゲームもしようぜ。」
「そうだな。」
そんなわけで、二人はこの後もUFOキャッチャーやルーレットゲーム、格闘ゲームなど
で遊ぶ。どのゲームをやっても宍戸は跡部に敵うことはなかった。体が子供になっていよ
うが、こういうことに関する技術は全く衰えていないようだ。いくつかのぬいぐるみやお
菓子をゲットし、二人はゲームセンターを後にした。

「あー、楽しかった。何かいっぱい取れたな。」
ゲームセンターを出た二人の手には黒いウサギのぬいぐるみやジャンボサイズのポテトチ
ップス、マグカップのセットなどが抱えられていた。これは全てさっき跡部が取ったもの
だ。
「意味ねぇもんばっかだけどな。」
「そうか?そのウサギの人形とか結構可愛いと思うぜ。」
「あーん?じゃあ、テメェが持ってろよ。」
「それは跡部が持ってた方がお似合いだろ。」
大きめのぬいぐるみを抱えている跡部の姿はまた格別に可愛らしい。そんなことを言われ
て少々腹が立つ跡部だったが、ニコニコと笑っている宍戸の顔を見ているとどうもそんな
気がそがれてしまう。いくつになろうが、跡部から見れば宍戸はやっぱり可愛いのだ。
「なあ、腹減らねぇ跡部。」
「あー、確かに。少し空いてるかもしれねぇな。」
「俺な、この前なかなかいい感じの喫茶店見つけたんだ。行ってみようぜ。」
「ああ。」
小腹が空いてきたということで、二人は喫茶店へ向かった。この喫茶店で宍戸はあること
をしようと考えている。
カランカラン・・・
「へぇ、なかなかいい店じゃねぇか。」
「だろ?まだこの時間だと空いてんな。跡部、あそこらへんに座ろうぜ。」
宍戸が座りたいと言ったテーブルは、壁際の端っこの方の席だ。その壁には西洋美術と言
われそうな大きな絵画が飾られている。宍戸自身、この絵がとても気に入っていた。
「この絵なんかよくねぇ?俺、かなり好きなんだけど。」
「確かにいい感じの絵だな。お前に美術的なよさが分かるなんて意外だけどな。」
「ウルセー。余計なお世話だ。」
壁にかかった絵を見ながらそんなやりとりをしているとウェイトレスがやってきた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「はい。サンドイッチセット一つとお子様パンケーキ一つとオレンジジュース二つでお願
いします。」
「は?おい・・・」
「サンドイッチセットがお一つ、お子様パンケーキがお一つ、オレンジジュースがお二つ、
以上でよろしいですか?」
「はい。」
「かしこまりました。」
跡部に注文を言わせる余裕を与えずに宍戸はポンポン注文を言う。跡部が唖然としている
間にウェイトレスはその場から立ち去ってしまった。
「おい、どういうことだ宍戸?」
「何が?」
「何がじゃねぇよ。何勝手に俺様の分まで注文してんだ。しかもお子様パンケーキって、
ケンカ売ってんのか?あーん?」
「あはは、悪い悪い。ちょっとした理由があってな。」
「理由?」
けらけらと笑う宍戸は全く悪いとは思っていないようだ。そんな宍戸に腹を立てながら、
跡部は仕方なく頼んだものがくるのを待った。店内が空いていることもあり、注文した品
は5分たらずで二人のもとへ持ってこられる。自分の分として頼まれた『お子様パンケー
キ』を見て、跡部は大きな溜め息をつく。大きなパンケーキと小さなパンケーキが組み合
わさり動物の顔のようになっている。しかもトッピングはアイスクリームで鼻が作られ、
二つのグミでくりくりの瞳がつけられているというもの。いかにも子供向けのパンケーキ
である。
「宍戸、テメェ本当に俺のこと馬鹿にしてんのか?」
「うっわあ、やっぱうまそーvv俺一人で来たら頼めねぇんだよな。このパンケーキ、前
からずっと食べたいと思ってたんだあ。」
「・・・・は?」
宍戸が間髪入れずに注文をしたのはこのためなのだ。跡部に普通にメニューを選ばせてい
たら、お子様パンケーキなど頼んでもらえるはずがない。だから自分で勝手に注文を言っ
て、このパンケーキを頼んだのだ。
「跡部はサンドイッチセット食っていいからさ、それ、俺にくれよ。」
「ガキかテメェは・・・」
そんなことを言われても宍戸は全く動じない。宍戸はとにかくこのパンケーキが食べたく
て仕方がなかったのだ。
「だけどよ、宍戸。お前がこのパンケーキ目の前に置いて食ってたら、やっぱおかしな光
景になるぜ。」
「あー、確かにそうだよな。うーん、でも食いたいし・・・」
「何なら俺が食わせてやるよ。」
「マジで?じゃあ、お願いしようかな。」
そっちの方がおかしな光景になるということに宍戸は気づいていない。ナイフとフォーク
を器用に使って一口サイズにパンケーキを切ると、それを一つ一つ宍戸の口へと運ぶ。幼
稚園児にパンケーキを食べさせてもらっているという何とも奇妙な状況を醸しつつ、宍戸
はパンケーキを完食した。
「あー、うまかったー!!」
「満足か?」
「おう。超満足♪」
「そりゃよかったな。」
パンケーキを食べる宍戸がかなり可愛かったので、跡部も跡部で満足であった。体は幼稚
園児でも頭の中は中学生の跡部のままなのだ。跡部自身もサンドイッチを食べ終えると会
計をしようとレジへ向かう。会計を済ませようとして、宍戸はあっと何かに気づいたよう
な顔をした。
「あっ・・・」
「どうした?」
「跡部・・・金、足りねぇ。」
「あーん?ったく、世話の焼ける奴だな。」
さっきゲームセンターでお金を使いすぎ、足りなくなってしまったのだ。もちろん跡部も
財布を持ってきていたので、宍戸の代わりに払ってやる。ここでもまた微妙な状況になり
つつ、その場を切り抜けた。二人のよく分からない関係に、その店の店員は首を傾げ、何
とも言えない気分になりながら二人を見送った。

喫茶店を出てからも二人は中心街で遊び、家に帰ったのは日が沈んでからだった。家に帰
ると言っても、それは跡部の家に帰ることを意味し、宍戸はそこで夕飯をご馳走になる。
せっかくここまでいたのだから泊まっていきなさいという跡部の母の言葉に甘え、宍戸は
跡部の家に泊まることになった。
「跡部ー、一緒に風呂入ろうぜ!」
「お前からそんなこと言ってくるなんて珍しいじゃねぇか。」
チビ跡部の裸を見てみたいというかなり下心いっぱいの理由から、宍戸はそんなことを言
う。跡部も頭の中はそのままなので、そんな誘いを受け、断るはずがない。理由はどうで
あれ、二人は結局一緒にお風呂に入ることになる。
「うわあ、チビ跡部の体超ぷにぷにしてる。」
「うるせー!仕方ねぇだろ。なりたくこうなったんじゃねぇ。」
服を脱いでバスルームに入りつつ、そんなやりとりを交わす。触り心地のよい跡部の体が
ひどく気に入り、宍戸はお風呂に入っている間中、ずっと跡部を抱えていた。髪を洗うと
きも体を洗うときも湯船に入るときも跡部を膝に乗せ、中学生の跡部からは考えられない
ようなぷにぷに感を楽しむ。体は幼くなっていようとも、頭の中はもとの跡部のままなの
だ。裸のままで入浴中ずっと宍戸に抱えられ、何とも思っていないはずがない。
(こいつわざとやってんのか?くっそー、この体じゃ何にも手だし出来ないないじゃねぇ
か・・・)
宍戸と密着出来ることを嬉しいと思う反面、何も手を出せないという悔しさがある。そん
なことに気づいているのかいないのか宍戸は、痛いところをつっこんできた。
「てかさぁ・・・」
「あーん?何だよ?」
「やっぱ、体がちっちゃくなってんと、全部がちっちゃいんだな。」
「はあ?」
初めは意味が分からないというような顔をしていた跡部だったが、宍戸の目線がどこにあ
るのかに気づき、何のことを言っているのか理解した。その瞬間、カアっと顔が真っ赤に
なり、思わず宍戸の顔に水をかける。
「っるせー!!これは仕方ねぇだろ!!むしろ、そのままのサイズだって方がありえねぇ
だろうが!!」
「ぶはっ・・・ちょっと言ってみただけじゃねぇか。そんなに怒ることねぇだろ。」
思った以上に跡部が怒るので、宍戸は困惑しながらも笑ってしまう。怒った跡部は宍戸か
らパッと離れ、湯船から出て行ってしまった。行動までもガキになってると苦笑しながら
宍戸はすぐに跡部の後を追いかける。
「悪かったって。謝るから許してくれよ。」
「別に怒ってなんかねぇ。」
「怒ってるじゃねぇか。ほら、さっさと着替えてお前の部屋行こうぜ。」
跡部の機嫌をとりつつ、宍戸はタオルで跡部の体を拭いてやる。こんなことをされること
はそう滅多にないので、跡部は黙って拭いてもらった。
「着替えは自分で出来るよな?」
「当然だろ。どこまで馬鹿にしたら気が済むんだ?あーん?」
「悪ぃ悪ぃ。じゃ、早く着替えて行こうぜ。」
パジャマに着替えると二人は跡部の部屋へと向かう。部屋に来たところで、やれることは
一つ。今日はもう寝るしか出来ないのだ。
「いつもなら、この後お楽しみなのにな。」
からかうように宍戸がそういうと跡部はムッとした表情になる。拗ねてしまったのか、小
さな体でパタパタ走り、一人でベッドにもぐってしまった。
(チビ跡部、行動一つ一つがマジ可愛いし。)
そんな可愛らしい跡部を追いかけるようにして、宍戸も布団の中に入る。そして、小さな
体をぎゅっと抱きしめ、体を自分の方へと向かせた。
「あったけぇ。跡部の体、すげぇ気持ちいいぜ。」
「・・・・・」
「たまにはこういうのも悪くないよな。」
初めは目を合わせようとしなかった跡部だが、ふと宍戸の顔を見上げてドキンとする。そ
の顔は実に嬉しそうで、自分のことを本当に好きだと思っている気持ちが溢れ出ていた。
「宍戸・・・」
ふっと呟き、跡部は目の前にある唇に軽くキスをする。いつもなら当たり前のこんな行動
が何だか照れくさく、跡部はそのまま宍戸の胸に顔を埋めてボソッと呟いた。
「おやすみ。」
「ああ、おやすみ跡部。」
思った以上にガキっぽいことをしてしまったと思いつつ、もう顔を上げることは出来ない。
しばらくすると、すやすやと穏やかな寝息が聞こえてくる。跡部の体温ですっかり気持ち
よくなってしまった宍戸は、すぐに眠りに落ちてしまった。
「俺なんかより、ずっとお前の方がガキじゃねぇか。」
そんなことを呟きながら、跡部は宍戸の寝顔を見て微笑う。しばらく寝顔を見てみようと
思ったが、すぐに睡魔が襲ってきた。宍戸の腕の中でゆっくりと瞳を閉じ、跡部も夢の中
へと落ちる。お互いの温もりを感じながらどちらも心地よい眠りに誘われていった。

次の日、跡部が目を覚ますと自分の腕の中に宍戸が眠っている。どうやらもとに戻ったよ
うだ。眠りについたときと感じが違うことに気づいたのか、宍戸もすぐに目を覚ました。
「あっ、跡部、もとに戻ってる。」
「ああ。昨日のは一過性のものだったみてぇだな。」
「あーあ、チビ跡部、激可愛かったのになあ。」
ひどく残念がるような声を出す宍戸を跡部は布団に入ったまま、自分の下に組み敷く。
「おわっ・・・」
「今の俺様の方がいいってこと、証明してやろうか?」
ニヤリと笑いながら跡部はそんな質問をする。宍戸は戸惑うような笑みを浮かべて首を振
った。
「いや、遠慮しときます。」
「そう言うなって。言っておくけどなあ、体は幼児になってても頭の中はそのままだった
んだぜ。昨日のお前の行動、どんだけ俺を誘ってたと思ってんだ?あーん?」
「だ、だって、あれは跡部が小さかったから。」
「言い訳は聞かねぇ。昨日出来なかった分、しっかり取り戻させてもらうぜ。」
「やっぱり、チビ跡部の方がよかったー!!」
「ウルセー。黙っとけ。」
チビ跡部がよかったと嘆く宍戸だが、内心はそうではない。小さかろうが大きかろうが跡
部は跡部。やっぱりどっちも好きなんだよなあと無理やりなキスをされながらも、そんな
ことを思ってしまうのであった。

                                END.

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