雨の日の放課後

「うーん、やっぱ降って来ちゃったね。」
「あーあ、これじゃあ部活出来ねぇじゃんか。」
今はちょうど部活が始まる時間であるのだが、ザーザーと雨が降り出してしまった。昼間
から曇っていたので、降りそうだとは思っていたのだが、一応部活をする用意はそれぞれ
していたのだ。
「跡部、今日はどうすんだ?これじゃあ外での練習は無理だぜ。」
「そうだな。部活をなしにしてもいいが、せっかく集まったんだからそれは勿体ねぇよな。」
「でも、これは仕方ないやろ。普通になしにしてもええんちゃう?」
部活をなしにするかどうかを話していると、さっきまで昼寝をしていたジローが起きだし
た。外が大雨なことを知ると残念そうな声を上げる。
「うわあ、超雨降ってんじゃん!!これじゃあ、練習出来ねぇよ〜。」
「だから、これからどうしようか話をしてるんでしょ。」
「そうなの?あっ、俺、トランプ持ってるぜ。部活出来ないんだったら、みんなで遊ぼう
ぜ。」
「トランプか。悪くはないんじゃねぇ。」
「でも、9人でトランプやるってのも結構微妙ですよね。」
「なあなあ、だったらさぁ、トランプ使って王様ゲームやらねぇ?1から8のカードとキ
ングのカード使ってさ。」
ジローがトランプで遊ぼうというのに加えて、王様ゲームをやろうと言い出したのは岳人
だ。暇つぶしにはなかなか面白い遊びである。それは楽しそうだと他のメンバーもその意
見に賛成した。
「王様ゲームか。いいんじゃねぇ?」
「確かに楽しそうだよね。」
「でも、やばげな命令はなしにした方がいいですよね。ここ、一応学校ですし。」
「それはみんな分かってるっしょ。じゃあ、やろうぜ!」
というわけで、雨で部活が出来なくなったメンバーは王様ゲームをして遊ぶことになった。
ハートの1から8までのカードとキングのカードを抜き出し、よくきる。それを裏返しに
バラバラに置き、それぞれ好きなものを取っていった。
「よっしゃー、俺、王様!!」
まず王様になったのはトランプで遊ぼうと言い出したジローだ。王様になったということ
で、どんな命令をしようか、しばらく黙って考える。
「よし、決ーめた!6番が甘える猫の鳴き真似〜。」
「そんなに大変な命令じゃないですね。」
「もっとすごいのでもいいんじゃねぇ?」
「いいのー!で、6番は誰?」
その命令を聞いて、困ったなあという顔をしているのは宍戸であった。ハートの6のカー
ドを持っているのは宍戸なのだ。
「マジでそんなことしなきゃいけねぇの?」
「別にそんなに難しくない命令だと思うで。」
「そうなんだけどさあ・・・」
甘える猫の鳴き真似というのは、自分の中でしゃれにならないと宍戸は思っていた。何故
なら何度か跡部に強制的にやらされたことがあるからだ。当然跡部はこんな場で宍戸のそ
のような声が聞けるとニヤニヤと笑っていた。
「ほら、宍戸、早くやれよ。」
「わ、分かったよ。」
王様であるジローに急かされ、宍戸は仕方なく命令されたことを行う。すっと息を吸って、
普段しゃべっている時よりもいくらか高い声で猫の鳴き真似をしてみせた。
「ニャアーン・・・」
思った以上にうまい猫の物真似にジローを初め、他のメンバーは感心する。しかし、跡部
だけは片手で顔を覆い、一人身悶えていた。
「ジロー、ここに一人おかしくなってる人がいるけど。」
「どうしたんだよ、跡部ー?」
「どうせ宍戸の猫の鳴き真似聞いて、一人で興奮してんだろ。」
「結構うまかったですもんねー。」
からかうようにそんなことを言う滝や岳人、鳳の言葉を聞いて、宍戸は大きな溜め息をつ
く。だから、したくなかったんだよと言わんばかりにむすっとした顔になった。
「跡部ー、2回目の王様決めいくでー。」
いまだに冷静になっていない跡部にそんなふうに声をかけつつ、2回目の王様決めを行う。
次に王様になったのは日吉だった。
「俺が王様だ。」
「次は日吉か。日吉もそこまでやばそうな命令はしなさそうだよね。」
「いや、分かんねーぞ。意外と大変な命令してくるかもしんねぇじゃん。」
ジローと同じようにしばらく考えた後、日吉は命令を口にする。
「それじゃあ、2番と3番が無理矢理な柔軟運動。他の人達はしっかり柔軟出来るように
手伝ってあげてください。」
ふっと笑いながらそんなことを言う日吉を見て、ひどいなあという顔をしているのは、鳳
と忍足だ。ある程度柔軟性はあるものの、岳人やジローほどの柔軟性はない。足を広げ、
背中を無理矢理押されれば、もちろん痛い。しかし、そんなことはお構いなしに日吉の言
葉に乗った宍戸やジローは二人の背中をぐーっと力いっぱい押した。滝や岳人だったら、
パートナーとして少しは手加減するのであろうが、この二人は全く手加減なしだ。あまり
の痛さに二人は悲鳴にも似た声を上げる。
「うあっ、い、痛いですっ、やめてください〜!!」
「い、痛い、痛いっ!!あっ・・・これ以上は無理、やめて・・・」
「もっとやっちゃってもいいですよ。」
「おう、任せとけ日吉!」
「俺ももっとやるー。」
日吉の容赦のない命令とそれに乗る二人の所為で、鳳と忍足の声はより悲痛なものとなっ
た。さすがに耐えられなくなり、鳳は滝に、忍足は岳人に涙目で助けを求めた。
「やっ・・・もう無理です・・・滝さん・・・助けてください・・・」
「岳人ぉ・・・・もうアカンて・・・助けて・・・」
あまりの痛さに二人の言葉は切れ切れだ。そんな二人のセリフを聞き、滝と岳人は他のこ
とを連想してしまう。
「ヤバ・・・これはちょっといいかもしれない。」
「同感。日吉、ナイスな命令してくれてんじゃん。」
あることを連想される二人の声と言葉に滝と岳人は思わずニヤついてしまう。これはナイ
スな命令だったと少なからず日吉に感謝した。
「もういいですよ、宍戸先輩、ジロー先輩。」
「ハァ・・・日吉ひどい。宍戸先輩も。」
「ジロー・・・少しは手加減せぇや。」
「えー、だって王様の命令だもんなあ。」
「ねぇ、王様の命令は絶対だもんねー。」
自分達が柔軟をする側ではなかったので、二人は楽しそうに笑いながらそんなふうに話す。
自分が王様になった時は絶対仕返ししてやるーというようなことを思いながら、二人はゆ
っくり椅子に腰かけた。
「ほら、次の王様決めいくぜ。」
跡部に促され、3回目の王様決めをする。キングのカードを引いたのは岳人であった。
「おっ、今度は俺が王様じゃん。何命令しようかなあ?」
うきうきした表情で岳人は命令を考える。思いついたような仕草を見せると岳人は明るい
口調で命令を言い放った。
「7番が物真似〜。自分の一番得意なやつでいいぜ。」
またもや物真似ネタかと思うメンバーだが、指名された7番のカードを持っている者はな
かなか乗り気な感じであった。
「ふーん、物真似か。だったらやっぱアイツかな?」
ハートの7を持っているのは滝だった。どうやらうまく物真似を出来る人物がいるらしい。
「誰の物真似すんだよ、滝?」
「青学の海堂。俺、海堂の真似うまいよ?」
「へぇ、海堂か。結構難しいんじゃねぇ?」
大丈夫だと笑ってみせると、滝はすっと立ち上がり、ゆらゆらと揺れて海堂の真似をする。
そして、必殺技であるブーメランスネイクを打つ真似をしながら、その技名を口にした。
「ブーメランスネイク!!」
その声はまさに海堂そのもの。あまりのそっくりさに周りのメンバーは声を失う。
「ふしゅ〜・・・勝つのは俺達だ。」
「うっわあ、すっげぇ!!超そっくりじゃん!」
「だろ?これちょっと自慢ー。これで、命令はちゃんと果たしたことになるよね。」
「おう!バッチリだぜ。」
思った以上に滝のうまい物真似に岳人は大満足だった。次の王様を決めようと再びトラン
プをテーブルの上に広げる。次の王様は、今指名を受け物真似をした滝だった。
「あっ、俺、王様。」
「滝さん、そんなに大変な命令はしないでくださいね。」
「大丈夫だよ、長太郎。えーと、そうだなあ・・・・じゃあ、全員笑顔でそれぞれのパー
トナーに“大好き”または“愛してる”って言う。」
『はあ!?』
「何だよー?そんなに大変な命令じゃないし、パートナーにってしてあげたんだから何の
問題もないでしょ?」
そうだけどーと他のメンバーは不満そうな顔をする。そういうことは二人きりの時に言う
もので、こんなふうに公衆の面前でというのはかなり気が引ける。
「王様の命令は絶対だからね。はい、じゃあまず1番の人から。」
「1番、俺や。」
「じゃあ、岳人にだね。ニッコリ笑わなくちゃダメだからね!」
「ホンマかいな・・・」
恥ずかしいなあと思いつつ、忍足は岳人のもとまで歩いてゆく。そして、ふっと微笑みな
がら滝の命令した言葉を言った。
「大好きやで、岳人。」
「・・・・・」
周りに他のメンバーがいるのも忘れて、岳人は忍足のその笑顔に見とれてしまう。あまり
にも岳人がぼーっとした表情をしているので、忍足は恥ずかしくなってしまった。
「何かつっこめや、岳人!何も言われんとただ恥ずかしいだけやん。」
「あっ、悪ぃ悪ぃ。思わず見とれちまったぜ。」
「もうええやろ。はい、次!」
「次は2番の人。誰?」
「2番は俺ー。俺は樺地に言えばいいんだよな!」
2番のカードを持っているジローはノリノリで樺地のところまで移動する。そして、いつ
もの明るい笑顔でその言葉を言い放った。
「大好きだぜ、樺地!!」
「う、ウス。」
戸惑いつつもそう言われて悪い気はしない。樺地はほのかに赤くなりながら、返事をして
しまった。
「何かあの二人はいつもと変わんないよな。」
「ジローはしょっちゅう言ってるからな。」
「なかなかイイ感じじゃん。はい、じゃあ次、3番。」
「3番は俺です。でも俺、そんなセリフ言う相手いませんよ。どうすればいいんですか?」
「んー、じゃあ、日吉はいいや。」
「あー、そんなのずるいぞ!!俺だって、言いたくねぇ!!」
「宍戸はダメだよ。ちゃんと言う相手いるでしょ?」
言わなくていいと言われ日吉はホッとする。そんな日吉がずるいと宍戸は滝に抗議するが、
当然のことながら全く相手にされない。ちゃんと言わなきゃダメだと笑顔で諭されてしま
った。
「4番は?」
「4番は俺だ。」
「跡部か。宍戸は言いたくないみたいだから、言いたくなるように言ってあげて。」
「当然だろ?俺様の熱い告白で嫌でも言いたくなるようにしてやるよ。」
「絶っー対なんねぇ!!」
そう豪語する宍戸だが、いざされてみると全く態度が変わってしまう。跡部は宍戸にだけ
見えるようにふっと微笑み、耳元に唇を持っていく。抵抗する間も与えられないまま、宍
戸は耳元で愛の言葉を受け取ってしまった。
「愛してるぜ、亮。」
「っ!!」
その瞬間、宍戸の顔は火がついたように真っ赤になる。まさか名前呼びで言われるとは思
っていなかったので、その動揺っぷりはいつも以上だ。
「なっ、あっ、跡部っ!?」
「ほら、言ってやったぜ滝。これでいいだろ?」
「うん、宍戸の動揺っぷりも面白いしね。かなりいいと思うよ。次は5番。5番は誰?」
5番のカードを持っているのは宍戸であった。まだ心臓のドキドキが止まらないが、自分
だけこうなっているのは悔しい。なので、跡部にもこんな気分を味あわせてやろうと、じ
っと跡部のことを見る。
「5番、俺だ。」
「宍戸か。ちょうどいいじゃん。さっきの告白のお返ししてあげたら?」
「言われなくてもやってやるぜ!」
何故だかやる気満々になっている宍戸を不思議そうに眺めながら、他のメンバーは宍戸が
どんなふうにその言葉を言うのかを黙って待った。
「おいおい、そんなに睨んでちゃ笑顔で大好きなんて言えねぇんじゃねぇのか?」
宍戸があまりにも睨んでくるので、跡部はからかうような口調でそんなことを言う。しか
し、宍戸はそんな言葉を全く無視して、自分のやりやすいように事を進めた。
「ウルセー、どうでもいいからいったん目つぶって、3秒経ったら開けろ。」
「はいはい。」
宍戸に言われるままに跡部は目を閉じる。そして、心の中で3秒数え、3秒経つとパッと
目を開いた。その瞬間、宍戸はちゅっと跡部の唇にキスをする。跡部が驚いて油断してい
るということが分かると、これ以上ないほど満面の笑みで指示された言葉を言ってやった。
「大好きだぜ、景吾!」
『・・・・・・』
これに驚いたのは、跡部だけではない。それを見ていた他のメンバーも跡部と同じくらい、
いや、それ以上に驚いていた。まさか宍戸が自らここまでするとは思っていなかった。
「うわあ、宍戸大胆。」
「滝が命令した以上のことしとるやん。」
「へっ、これでおあいこだからな、跡部!」
何がおあいこなのか全く理解出来ないが、宍戸はそれで満足らしい。跡部は予想外のこと
にすっかり固まってしまっている。もう宍戸の感じていたドキドキ感とは比べ物にならな
いほど、跡部の鼓動は速くなっていた。
「まあ、いいや。次行こうか。次は確か6番だったよね。」
「6番、俺だ。うーん、でも今の告白見せられちゃあ、大したもん出来ねぇぜ?」
「あれは跡部や宍戸が勝手にやったことだから、気にしないで。忍足にだよね?」
「おう!」
隣に座っている忍足にきゅっと抱きつきながら、岳人は指示された言葉を言う。
「侑士、大好きだぜ!!」
その顔は純粋に嬉しそうな笑顔だ。これは、ナチュラルでいいなあと思いながら、滝はオ
ッケーを出した。
「うん。やっぱ、このくらいの言い方が自然でいいよね。次は?」
「7番は・・・自分です。」
「樺地か。樺地の告白って聞いたことがないから聞いてみたいなあ。」
「ウ、ウス・・・」
人がこれだけいる中でそういうことを言うのは何とも気恥ずかしいと、樺地はなかなかそ
の言葉を出せないでいた。
「樺地?」
ジローが声をかけてくるので、樺地はさらにドキドキしてしまう。しかも、笑顔で言わな
ければいけないので、それもまた樺地には難題であった。しかし、他のメンバーがちゃん
と言っていたのだから自分だけ言わないわけにはいかない。意を決して樺地は深呼吸をし
た。
「ジローさん・・・」
「おう。」
「・・・大好き・・・です。」
にこりというよりは、穏やかに微笑むような笑顔をして、樺地はその言葉を言う。普段は
見れない樺地の笑顔に他のメンバーも思わず見入ってしまった。
「樺地の笑った顔って、結構いい感じじゃねぇ?」
「せやな。なかなか可愛いんちゃうん?」
「もっと笑えばいいのにねー。」
「うっわあ、何かチョーうれC〜!!メチャクチャ照れるけど、やっぱ言われるといいよ
な!!」
樺地の告白にジローは大満足のようだ。樺地が終わった時点で残りは後一人になっていた。
残りの一人は王様である滝にその言葉を言うべき鳳だ。
「ということは、最後は長太郎だね。」
「はい。」
「いい感じの告白、聞かせてよね。」
軽くプレッシャーをかけられ、鳳は緊張してしまう。しかし、いつも思っていることをた
だ口に出せばいいのだと思いなおし、滝の前に立った。そして、ニッコリと笑って、滝の
指示した言葉を口にする。
「滝さん・・・大好きです。」
自分が命令したと分かっていても、その笑顔と言葉に滝は完全にノックアウト。いい命令
をしたと自分で自分を褒めてやりたい気分になった。
「こんな感じでいいですか・・・?」
「うん、もうバッチリ!!」
「よかったです。」
ここでまた鳳はニコっと笑う。もうそんな鳳に滝はメロメロだった。
「今度は滝がおかしくなってるけど、次行くか。」
滝が悦っているのを全く無視して、岳人は次の王様決めに移ろうと話を進める。さっきと
同じように王様決めをすると、今度は忍足がキングのカードを引いた。
「お、今度は俺が王様やな。」
「今度はもう少しまともな命令にしろよな!」
「でも、忍足だからねー。何言ってくるか分かんないよ。」
「さっきの滝の命令で、結構時間くってもうたからなあ。これから言う命令、ぽんぽんみ
んな答えてくれや。」
また全員答えるタイプの命令かあと数字のカードを持ったメンバーはげんなりする。
「今までパートナーに言われた一番甘い言葉、またはきゅんとした言葉、ドキドキした言
葉ってのをパッパと答えてもらおか。」
そんなんパッパと答えられるか!!という気持ちを抑えつつ、仕方がないので考える。
「いくらラブロマンスが好きだからって、そこまで言わせることねぇだろ!」
「王様命令や。文句言っとらんで、早く言えや。」
文句たらたらな表情で宍戸は忍足を睨む。他のメンバーもどうしようかなあと困ったよう
な表情を浮かべていた。
「ほなら、一番から順番に間空けずにな。」
「忍足先輩、さっきと同じなんですけど、俺はどうすればいいですか?」
「日吉はええよ。何番?」
「8番です。」
「なら、特に飛ばすってことはないな。ほな、始めよか。」
甘い言葉、きゅんときた言葉、ドキドキした言葉が並ぶということで、忍足の気持ちはか
なりわくわくだった。はあーと溜め息をつきながら、他のメンバーはその言葉を思いつく
ままに答えてゆく。
「一緒に寝ようとしてる時に上目づかいで、『手繋いで寝てもいいですか?』」
「起こした時にぎゅっと首に抱きついてきて・・・『おはよー、樺地♪』」
「えっと・・・跡部の吐くセリフってもとからくさいのが多いからなあ・・・でも、あえ
て選ぶなら『お前と二人なら地獄だろうが天国だろうが、どこに行ったって構わねぇ』」
「そうだなあ・・・キレイな花をたくさん持ってきて『ジローさんに・・・似合うと思っ
て・・・』」
「えっとぉ・・・ずごくふわふわした感じの雰囲気の中で、俺のことを抱きしめながら、
『このまま時間が止まっちゃえばいいのにね。』」
「黙って本を読んでたら、おずおず近づいてきて、きゅっと服を掴みながら、『しようぜ、
跡部・・・』」
「そういうことが終わった後で、眼鏡外したまんま『ホンマの俺を見せられるんは岳人だ
けや』」
忍足に言われた通り、番号順に跡部達はパートナーに言われたセリフを答えていった。上
から滝、樺地、宍戸、ジロー、鳳、跡部、岳人という順番だ。
「へぇ、みんなかなりすごいこと言ってるんやな。宍戸はそのセリフ、どんな時に言われ
たん?」
「えっ!?・・・そ、そんなの言えるかよ!」
「あー、要するに最中だね。」
「なっ、そんなこと言ってねぇだろ!!」
「バレバレだって宍戸。」
「それに跡部の言ったのを聞くと、宍戸自分から誘うこともあるんやな。」
「ああ。結構あるぜ。これがまた可愛くて・・・」
「余計なこと言うな!!跡部っ!!」
自分で言ったセリフと跡部の言ったセリフで宍戸は他のメンバーからいろいろなつっこみ
を受けた。何で自分だけそんな目に合わなければいけないのかと、拗ねたような顔になっ
てしまった。
「でもさぁ、忍足も岳人に結構すごいこと言ってるよね。」
「あ、あれは別にその場の雰囲気で・・・」
「でも、それ言った時の侑士、超可愛かったぜ!」
「いらんこと言うな、岳人!!」
自分で言った命令なのに、自分にもつっこみが入ってしまった。この命令は間違ったかな
あと思いつつ、ふと視線を人のいない方へ逸らした。
「あっ!」
「どうしたんだ?侑士。」
「雨やんどるで。」
忍足の言葉に他のメンバーも窓の方を見る。窓の外では確かに雨はやんでいた。しかも大
きな虹がかかっている。
「わあ、虹だー!!でっけー。」
「雨が止んだんなら、別にもうここで時間つぶしてる必要性はねぇな。」
「じゃあ、部活やるか?」
「まあ、コートは濡れてるだろうが、ランニングや基礎練なら出来んだろ。もう全員着替
えてあるしな。」
だいぶ時間は経ってしまったが、あと一時間くらいは十分練習が出来る。というわけで、
広げたトランプを片付けるとそこにいたメンバーは部室の外に出て行った。
「あー、本当晴れたね。」
「はい。虹も綺麗ですし、たまには雨が降るってのも悪くないですね。」
「王様ゲームも面白かったしな。」
「俺も王様なりたかったー!!くっそー、今度は絶対なってやる!!」
「宍戸が王様になったらどんな命令するつもりだったん?」
「そんなのなってから考えるに決まってんだろ。」
「なれなきゃ意味ないですけどね。」
「結構キツイこというなあ、日吉。そういや跡部も王様になれてなかったよな?」
「あーん?別に他の奴らがなかなか面白い命令してたから、特に気にならなかったな。」
「あー、確かに跡部にとっては楽しい命令ばっかりだったかも。」
「俺にとっては全然楽しくない命令ばっかだったー!!」
「まあ、いいじゃないですか。また、やりましょうよ。」
王様ゲームの感想を話しつつ、跡部達はコートへ向かう。鳳のまたやりましょうという言
葉に今日のゲームが満足だったメンバーもそうでないメンバーも頷いた。突然、雨の降っ
た放課後。たまにはこんな遊びもよいとそこにいた誰もが思うのあった。

                                END.

戻る