『今日のナンバー1は天秤座。パートナーと嬉しいハプニングがあるかも。ラッキーカラ
ーは赤。赤いものを身につけてると、いいことがあるよ。』
へぇ、天秤座は今日運勢1位か。占いなんて、そう滅多に信じねぇがこう言われると悪い
気はしねぇな。おっと、もうこんな時間だ。早くしねぇと朝練に遅れちまう。
いつも通りの朝、跡部はたまたまつけていた占いを見て、気分よく家を出た。ゆっくりと
歩いていくと遅れそうなので、専属の運転手に学校まで送ってもらうことにした。
これなら全然余裕で間に合うな。学校に着くまで、音楽でも聴いているとするか。
そんなことを考え、車内にクラシックのCDをかけさせる。気分の安らぐ音楽を聴きなが
ら、何気なく窓の外を見ていると慌てた様子で全力疾走している宍戸を見つける。
あの占い、意外と当たるのかもしれねぇな。朝っぱらからアイツと会うなんていい感じじ
ゃねぇか。
「おい、アイツの横に車を持っていけ。」
「かしこまりました。」
走っている宍戸の横に車をつけると跡部は窓を開けた。
「なーに、そんなに急いでんだ?宍戸。」
「げっ、跡部。ま、まだ間に合うからな!!遅刻じゃねぇぞ!」
朝練に遅刻すると跡部から軽く罰を受けるので、宍戸はあせったような口調で言い訳をす
る。
別に怒ってねぇのに、えらい慌てようじゃねぇか。これでこの車に乗せてやるなんて言っ
たらどんな顔するんだろうな?
「宍戸。」
「何だよ!?早くしねぇとマジで遅刻になっちまう!!」
「乗っていくか?」
「へっ?」
想像していなかった言葉に宍戸はきょとんとしてしまう。跡部はくすくす笑いながら、運
転手にドアを開けさせた。
「乗れ。」
「お、おう。」
戸惑った様子で宍戸は跡部の隣に座る。しばらく黙っていたが、その場の雰囲気に慣れて
くると今日遅れそうになって走っていた理由を自ら話し始めた。
「昨日な、親戚んちからメロンが送られてきてさ、今日の朝デザートとして食べてたんだ。
で、あんまりにもうまいからパクパク食ってたら、いつの間にか出る時間過ぎてた。」
「へぇ。それが遅刻しそうになった理由かよ。」
「だって、メロンなんて滅多に食えねぇからさ、思わず夢中になっちまったんだよ。」
「そんなにそのメロンはうまかったのか?」
「ああ。もう頬っぺた落ちそうになるくらいうまかったぜ!」
メロンの味を思い出して、うっとりしている宍戸の表情に跡部は何故だかドキドキしてし
まう。
ヤベェ・・・今の表情は反則だろ。いきなりそんな顔されたら・・・・
必死で理性を働かそうをするが、若干本能の方が勝ってしまった。
「わっ・・・跡・・・っ!?」
宍戸のその表情がたまらなく、跡部は無理矢理宍戸の唇を奪った。手首をしっかりと固定
し、動けないようにしてしまう。突然のことで宍戸は抵抗する暇もなかった。
「ぅ・・・ん・・う・・・・」
ぎゅっと目を閉じ、宍戸は唇を舐められる何とも言えない感覚に耐える。宍戸の唇を十分
に味わうと、跡部は満足した様子で宍戸を解放してやる。
「い、いきなり何すんだよ!?」
「テメェがあんまりメロンがうまかったって言うからな。どんな味なのかちょっと確かめ
てみたくなっただけだ。」
「だったら、言えばいいだろ!!まだたくさん余ってるから食べさせてやるのに・・・」
「いや、今ので十分そのうまさは分かったぜ。テメェの味と混ざってまた格別にうまくな
ってたしな。」
そんな跡部のセリフを聞き、宍戸の顔は真っ赤に染まる。その反応も跡部にとってはかな
りツボであった。
これ以上コイツのこと見てたら、いろんな意味で我慢が出来なくなっちまう。
車内でこれ以上のことは出来ないと、跡部は必死で興奮を抑えながら、自制心を働かせる。
本来ならリラックスを与えるはずのクラシック音楽も全く役に立ってはいなかった。家を
出る前に見た占いが変な方向に作用しているようだ。
学校に着いた後も天秤座のラッキー効果は続いているようだった。
「うーん、やっぱうまく吹けねぇ。」
「別に譜面通りに指を動かせばいいだけだろうが。」
今日の音楽の時間はリコーダーの練習であった。リコーダーと言っても馬鹿に出来ない。
氷帝学園では、一般の教科書に乗っているようなものではなく、もっとレベルの高い曲を
当然のように吹かされるのだ。
「うー、やっぱ変な音になっちまうー!これはきっとリコーダーの所為だ!!跡部、お前
のリコーダー貸せよ。」
「はあ?」
どう考えたって練習不足の所為だろうが。リコーダーを変えたところで音は変わらねぇは
ず・・・・
許可も出していないのに、宍戸は跡部のリコーダーを取り上げ、何の躊躇いもなしに吹き
始めた。それを見て、跡部は呆然としてしまう。別に宍戸はそれほど気にしていないのだ
が、先程まで跡部が吹いていたリコーダーを吹いているということは、間違いなく間接キ
スになる。
「おっ、やっぱ、跡部のやつの方がいい音出るじゃねーか。きっと値段が違うからだな。
跡部は俺のやつ使っとけ!」
偉そうに言う宍戸だが、跡部はそんな宍戸に全く腹を立てていない。いつもだったら、俺
様の物を勝手に使うんじゃねぇと口論になるのだが、今日はそうはならない。跡部の目は
宍戸の口元に釘付けになっていた。
宍戸の奴、自分が何してるのか分かってねぇのか?さっきまで俺が口に銜えてたもん、平
気で銜えやがって・・・。
そんなことを考えていると、次第にまた興奮してきてしまう。とてもまともにリコーダー
など吹ける状態ではない。
「跡部ー。」
「何だよ?」
「ここ、どういうリズムか分からねぇ。ちょっと吹いてみてくんねぇ?」
「俺様のリコーダー、テメェが持ってるじゃねぇか。」
「ああ、悪ぃ悪ぃ。ほら、返すから教えてくれよ。」
今まで自分が吹いていた跡部のリコーダーを宍戸は拭きもせずに跡部に返す。
このまま吹けってことかよ?何考えてんだよ、宍戸の奴。でも・・・・
宍戸が口をつけたリコーダーを跡部がわざわざ拭くわけがない。しかし、異常に速くなっ
た鼓動は、リコーダーを吹く呼吸にも大きく影響してしまった。自分でも信じられないほ
ど、おかしな音が音楽室中に響く。
ピーヒャーピーッ
「跡部・・・?」
「跡部、もっとソフトに息を吹き込まなければその部分は演奏出来ないぞ。お前らしくも
ない。もっと真面目にやりなさい。」
「・・・すいません。」
太郎に注意されるが、口先だけで謝るだけだ。他のクラスメートもくすくす笑っているが、
そんな声は跡部の耳には入っていない。
ちょっと貸してただけなのに、すげぇ宍戸の味がする。こんなんじゃ、まともに吹いてら
んねぇ。
「どうしたんだよ?跡部。」
「べ、別に何でもねぇよ!ちょっと失敗しちまっただけだ。」
「ははは、跡部でもこんなもんで失敗することなんてあるんだな!」
ケラケラと笑う宍戸だが、跡部はもうそれどころではない。口の中に残る宍戸の味と口に
銜えることを躊躇わせるリコーダーが跡部の気分をさらに煽っていた。
2限目の英語の時間は何の問題もなく過ぎたのだが、3、4限目の体育はそうはいかなか
った。最近の体育では柔軟性を鍛えるために器械体操を行っている。乗馬や何かと違い、
器械体操は普通の体操着で行われる。
「器械体操ってあんまり得意じゃねぇんだよな。」
「向日とかなら得意なんじゃねぇか?」
「そりゃそうだろ。ムーンサルトとか出来るんだぜ。まあ、あんなん出来たってしょうが
ねぇけどな。」
「まあ、ムーンサルトは出来なくていいとしても、基本的なものは出来ないと格好悪いぜ。」
「だよなあ。まあ、とにかく器械体操する前は柔軟が大事だからな!跡部、ちょっと手伝
ってくんねぇ?」
「ああ。」
体が硬いままだと怪我をしてしまうと、宍戸は柔軟の手伝いを跡部に頼む。足を広げ、体
を前に倒す。自分だけではやはり限界があった。
「ちょっと背中押してくれねぇ?ゆっくりな。」
「いいぜ。」
跡部は宍戸の背中をゆっくり押した。順調に筋肉は伸びてゆく。しかし、あるところまで
くると、宍戸は顔をしかめて止めろと言い出した。
「痛ってぇ、跡部、これ以上はちょっと無理。押すの止めろ!」
「まだいけるだろ?ほら。」
「うああっ、マジ無理無理!!痛いっ!!」
「うるせー。ちょっとぐらい我慢しろ。向日やジローだったらこれくらい余裕だぜ?」
岳人やジローに負けると思うと何だか悔しくなってくる。跡部の言葉に乗せられ、宍戸は
しばらく我慢する。
「んっ・・・く・・・」
しかし、岳人やジローはもともと柔軟性が優れているのだ。この程度、出来て当たり前で
ある。そんな二人に急に宍戸が追いつけるわけもなく、次第に息は荒くなり、表情もどん
どんきつそうなものになっていった。
「ハァ・・・痛っ・・・く・・・」
「ほら、もう少しで頭が床につくぜ。」
もう少しで頭が床につくというところで、宍戸はギブアップをした。もう少し宍戸の痛み
に耐える表情を見たかったなあと残念に思いながら、跡部は背中を押すのを止める。
「お前、柔軟してるときエロい顔してるよなあ。」
「はあ!?何ふざけたこと言ってんだよ!?」
「痛いの必死に我慢して、呼吸乱して、まるでそういうことしてるみたいな顔してるんだ
ぜ。鏡で見せてやりたかったなあ、今の顔。」
冗談じみた跡部の言葉に宍戸は本気で怒る。
「な、何意味分かんねぇこと言ってんだよ!!跡部の変態!!」
「おいおい、そんなこと大声で言うんじゃねぇよ。今は体育の時間だぜ。」
「テメェが先にふっかけてきたんだろ!?」
「俺は思ったことを素直に口に出しただけだ。別に何にもおかしなことは言っちゃいねぇ。」
「さっきのセリフのどこがおかしくねぇって言うんだよ!?どう考えてもおかしいだろ!」
「まあ、そんなにカリカリすんなよ。早く練習始めねぇと他の奴らに遅れをとるぜ。」
さらっと今までのことを流すような発言を跡部はするが、もちろん宍戸は納得いかない。
しかし、跡部の言う通りこんなことでいつまでもケンカをしてても周りに遅れをとるだけ
なので、宍戸は不機嫌になりながらも練習に入ろうと気持ちを切り替えた。
「で、今日は何をやるんだっけか?」
「ちゃんと先生の話聞けよなぁ、跡部。倒立だよ倒立。」
「何だ倒立かよ。それなら、簡単じゃねぇか。」
目の前に用意されたマットに軽く勢いをつけ、手をつき、跡部は軽々と倒立をやってのけ
る。
「ほらな。」
「へ、へぇ。やるじゃねぇか。」
「お前もやってみろよ。」
「おう!やってやるぜ。」
威勢よくそんなことを言う宍戸だが、実は倒立は全く出来ない。もちろん跡部はそんなこ
とは百も承知だった。マットに向かって思い切って手をつき、足を上げてみるが、体は止
まることなくそのまま倒れた。
「痛ってぇ!」
「出来ねぇじゃねぇか。」
「わ、悪ぃかよ!!倒立なんて日常生活で全く使わねぇから、出来ねぇんだ!」
「俺様が手伝ってやる。今日で完璧にマスターさせてやるぜ?」
「マジ・・・?」
一日でマスター出来るというのは信じられないが、跡部の言うことだ。本当に出来るかも
しれない。宍戸は素直に跡部に倒立の仕方を習うことにした。
「俺が支えてやるから、ここに向かって足を上げろ。」
「おう。」
跡部に言われるまま、宍戸は倒立をしようとした。跡部が足を支えてくれているため、先
程のように倒れるということはない。
「こ、これでいいのか?」
「ああ。顔をちゃんとマットと平行にするんだぜ。」
「わ、分かった。」
マットを見せることでバランスをとらせる。しかし、それにはもう一つの目的があった。
いい眺めじゃねぇの。器械運動は体操服ってのがいいよな。このチラリズムがたまんねぇ。
足を支えていれば、必然的にハーフパンツの中をのぞけてしまう。そのことに気づかれて
はいけないと跡部は宍戸の顔をマットと平行にさせたのだ。
「うわっ!」
と、突然宍戸が声を上げる。見ると、体操服がめくれすっかり顔の方へ落ちてしまってい
る。
「跡部、いったん手離せ!」
「もう少しこのままでもいいんじゃねぇ?」
「何言ってんだ!!早く離せよ!!」
手を離して欲しいと宍戸はじたばたと暴れる。跡部の手は宍戸の足から離れたが、バラン
スを崩し、宍戸はさっきよりももっと派手に倒れた。
バッターンっ
「・・・ってぇ。」
めくれた体操服はそのままで倒れたため、今の宍戸はかなり乱れた格好になっている。そ
んな宍戸を見て、跡部はまたあらぬことを考えてしまう。
マットの上で、体操服のまんまってのもありだな。これは結構燃えるかもしれねぇぞ。
あまりにもじっと跡部が自分のはだけた上半身に視線を注いでくるので、宍戸は慌てて起
き上がり、体操服をもとに戻した。
「テメェの所為だぞ、跡部。」
「あーん?俺は手伝ってやっただけだろ。テメェが暴れるのがいけないんじゃねぇか。」
またケンカになりそうになっているところに、遠くから怒鳴り声が聞こえる。
「跡部、宍戸っ!!いったん集合だと何度言ったら分かるんだ!!早く来い!!」
実は集合の合図がさっきから何度もかかっていた。しかし、あまりにも自分達のやること
に夢中になりすぎた跡部と宍戸は全くそんなことに気づいていなかった。ヤバイと顔を見
合わせると二人はもうほとんど集合が完了しているこの授業を受けているメンバーのもと
へと走っていった。
午後の授業も終わり、部活も特に問題なく終わった。今日は宍戸が鍵当番で、跡部は日誌
を書かなければならず、二人は一番遅くまで部室に残っていた。
「跡部ー、まだ終わんねぇの?」
「ああ。あともう20分くらいだ。」
「あと20分!?そんなかかんのかよ?」
「仕方ねぇだろ。来週練習試合があるんだからよ。」
「むぅ。」
「鍵置いて、先帰ってりゃいいじゃねぇか。」
跡部がそう言うと宍戸は鍵を机の上に置いた。本当に帰ってしまうのかと思いきや、宍戸
はロッカーの中から、バスタオルを出した。
「じゃあ、俺、ちょっとシャワー浴びてくるわ。それまでには終わんだろ。」
「あ、ああ。」
いきなりシャワーって何だよ?・・・ちょっと期待しちまうじゃねぇか。
ドキドキしながら、跡部は宍戸が部室を出て行くのを見送る。そういう雰囲気になったと
きのために跡部は予想していた時間の二倍のスピードで日誌を書き上げた。
「よし、日誌は書き終えたし、片付けもバッチリだ。あとは宍戸が戻ってくるのを待つだ
け・・・・」
「あー、さっぱりした。」
「は、早かったな宍戸。」
「そうか?まあ、ざっと汗流してきたくらいだからな。」
何つー格好してんだよ・・・。そんな格好で入ってきて、俺が何とも思わねぇと思ってん
のかコイツは。ヤベェ、マジで今回ばかりは耐えられねぇかも。
ただいまの宍戸の格好はワイシャツは羽織るだけで、下は下着しか穿いていないという状
態だ。面倒だということでこんな格好をしているらしいが、跡部からすれば誘っているよ
うにしか見えていない。
「ふー、あっちぃ。跡部、クーラーつけていい?」
「あーん?もう日誌書き終わったぜ。」
「もうちょっと休んで行こうぜ。もう何時に帰ったって同じだよ。」
どこまで俺を興奮させたら気が済むんだ?マジで犯っちまうぞ。
「宍戸。」
「あ?」
「今日の朝の占い見たか?」
「占い?あー、見たぜ!今日は天秤座が1位なんだよな!!」
「パートナーとの嬉しいハプニングがあるらしいな。ラッキーカラーは赤でよ。」
「跡部も占いなんて見るんだ。意外ー。」
「この状況は嬉しいハプニングと見ていいのか?まあ、今日はいろいろ他にもハプニング
があったけどよ。」
ここまで言われてやっと宍戸は跡部の考えていることに気がついた。
「えっ、ちょっ、ちょっと待った跡部っ!!俺、別にそういうつもりじゃ・・・」
「その格好で言われても全然説得力ねぇよ。」
「あっ・・・これは、ただ暑くて制服ちゃんと着るのが面倒だったから・・・」
「うるせー。俺は朝からずっと堪えてんだよ。もう我慢ならねぇ!」
跡部は勢いよく宍戸をソファに押し倒す。思った以上に跡部の目が本気なので宍戸はかな
りあせった。
「や、やめろよ・・・やっぱ、帰ろうぜ!!なっ?」
「もう遅ぇーよ。部室だしな。そんなに時間はかけねぇよ。一回だけ犯らせろ。」
「お前、率直すぎー!わっ・・・あっ・・・」
もう誰も戻ってくることはない部室で、跡部は今日一日で溜まった興奮を発散させてしま
う。跡部にとっては、やはり占い通りかなり運勢のよい日であった。パートナーとの嬉し
いハプニングも起こりまくりだ。しかし、宍戸も跡部と同じ天秤座。宍戸にとってラッキ
ーな一日だったのか、はたまたハプニング続きのアンラッキーな一日だったのか、それは
宍戸以外誰にも分からないのであった。
END.