二匹の猫の物語

あるところに黄金色の毛を持った猫がいました。この猫は近所でも評判なお金持ちの家で
飼われています。彼の名前は跡部景吾。今日も気ままにお散歩です。しばらく歩いている
と橋の上で見たこともない猫を見つけました。その猫は橋の上から川の底をじっと眺めて
います。綺麗な黒い毛を持ったこの猫に跡部は興味を持ちます。
(見たこともねぇ黒猫だな。ちょっと近づいてみるか。)
跡部はその黒猫にゆっくりと近づいていきますが、黒猫は跡部の気配に全く気づきません。
川の中に何かがあるようです。その何かを見るのに一生懸命になりすぎ、黒猫は頭から川
へ落ちてしまいました。それを見て跡部は驚きます。
「うわ・・・」
バシャンっ!!
橋の上から落ちた黒猫を見るとバシャバシャと手足を動かしもがいています。どうやら泳
げないようです。跡部は慌てて川へ下りました。川辺から手を差し出すだけでは到底助け
られそうにありません。
「何やってんだよ。」
跡部は川に飛び込みました。跡部は猫でありますが、泳げるのです。手足を動かし、黒猫
のもとまでゆくとしっかりと腕に抱えます。水を飲んでしまっているようで、黒猫はぐっ
たりとしていました。跡部は岸に黒猫を引き上げるとすぐさま口から息を吹き込みました。
一度では効果はなかったものの何度か繰り返しているうちに黒猫は水を吐き出しました。
「ゲホ・・・」
「大丈夫か?」
水を吐き、息を吹き返した黒猫はぼーっとしながら跡部の顔を眺めます。自分自身に何が
起こったのか分からないのです。
「あんなとこで、何してたんだ?テメェ泳げないなら落ちないように気をつけろよな。」
「・・・・俺、どうしたんだ?さっぱり分かんねぇんだけど・・・」
あっという間の出来事だったので、黒猫は今の状況を全く把握していません。大きな溜め
息をつきながら跡部は今あったことを黒猫に説明しました。
「テメェはあの橋の上からこの川に落ちたんだよ。それで溺れて、俺様が助けてやったん
だ。俺がいなけりゃ、お前今頃死んでたぜ。俺様に感謝するんだな。」
「マジで!?うわあ、危ねぇ。助けてくれてサンキューな。お前は俺の命の恩人だぜ。」
跡部から自分に何があったかの説明を聞いて、黒猫は驚きながら、跡部にお礼を言いまし
た。にこっと笑う黒猫の顔を見て、跡部は何故だかドキドキしてしまいます。
「ところで、お前、名前なんて言うんだ?野良でも名前くらいあんだろ?」
「俺は宍戸亮って名前だ。お前は?首輪してるってことは飼い猫だよな?」
「俺は跡部景吾だ。まあ、一応飼い猫だな。昼間はほとんど外に出て散歩してるけどよ。」
「跡部っつーと、あの超デッカイお屋敷の猫か?」
「まあな。」
あのお金持ちの家の猫だと聞いて宍戸は驚きます。宍戸も散歩はよくするので、この街の
ことはだいたい知っているのです。そんな猫と知り合いになれて嬉しいと宍戸の顔は笑顔
になりました。
「すげぇな。それじゃあ、俺、ものすっごい奴にかり作っちゃったんだな。このかりは絶
対いつか返すからな!」
「お前に返せんのか?川眺めててそのまま落ちる奴が。」
「ウ、ウルセーな!!返すっつったら返すんだよ!!」
「何ムキになってんだよ?面白ぇ奴。」
宍戸の反応が面白くて、跡部はくすくす笑います。笑われて恥ずかしいと思う宍戸でした
が、他の猫とこんなに親しげに話したのは久しぶりだったので、何となく楽しくなってき
てしまいました。跡部につられて宍戸も声を立てて笑いました。さっき出会ったばかりの
二匹ですが、もうすっかり仲良くなっています。ひょんな出会いから二匹は仲のよい友達
になりました。

それから跡部と宍戸は毎日のように一緒に遊ぶようになりました。跡部は自分に出される
豪華な食事をわざと残して宍戸に持ってきてやったり、飼い主につけられるアクセサリー
を壊し、キラキラ光る宝石をプレゼントとしてあげたりもしました。
「宍戸、今日も持ってきてやったぜ。」
「うわあ、マジで!?サンキュー!!」
あのお屋敷で出される食事は相当なものです。お屋敷の前を通る度、いい匂いがするので
すが、今までは想像するだけで食べれるなどとは思ってもいませんでした。それが今、目
の前にあるのです。宍戸はゆっくり味わいながら、跡部が持ってきてくれた食事を平らげ
ます。
「マジうめぇ。いいよなあ、跡部。毎日こんないいもん食ってんだもん。」
「最近は宍戸だって、毎日食ってんじゃねぇか。」
「まあな。ホント感謝してるぜ、跡部。」
跡部は宍戸が嬉しそうな顔をしているのを見るのが大好きでした。だから、毎日お土産を
持って宍戸のもとへ来るのです。
「そうだ。今日も綺麗な石ころ持ってきたぜ。」
跡部の言う綺麗な石ころとはもちろん宝石のことです。自分でも綺麗な石だということは
分かるのですが、猫であるためそれがどれほどの価値のあるものか分かっていないのです。
しかも、毎日のように飼い主が買ってきてつけてくれるとなっては、そんなに高価なもの
であるとは感じません。
「今日は赤い石と透明な石だ。」
「うっわあ、激キレー!!この前の青い奴も綺麗だったけど、この赤いのもいいな。透明
なのも超キラキラしてるし。」
跡部が持ってきた赤い石とはルビーのことで、透明な石とはダイヤモンド、また宍戸の言
うこの前の青い奴とはサファイアのことです。しかもどれもかなりの大きさがあり、値段
をつけるとしたら何百万、何千万単位のものでした。しかし、当然のことながら宍戸には
そんなことは全く分かっていません。とにかくキラキラしていて綺麗だということが気に
入るポイントなのです。跡部にもらった宝石の数々を宍戸は大事に大事にしまってありま
した。宍戸にとっては、跡部からもらうもの全てが宝物なのです。

跡部が何かを持ってきてくれるお返しとして、宍戸は自分しか知らない秘密のスポットに
毎日跡部を連れて行っていました。色とりどりの花が咲く野原や、夜になると月や星がも
のすごく綺麗に見える場所など、自分が行ったことのない場所に連れて行ってもらえるの
は跡部にとって、とても嬉しいことでした。
「跡部、ここすごくねぇ?」
「本当だな。うちの庭もかなり広いが、ここもそれに匹敵するぜ。」
「俺、ここすっげぇ好きなんだ。いろんな花咲いてるし、それにこの葉っぱうまいんだぜ。」
「葉っぱ?」
宍戸がちぎって口にしているのは、ミントの葉っぱでした。猫でありながら、宍戸はミン
トの味が大好きなのです。ミントの葉っぱを噛みながら、宍戸はクローバーの咲いてると
ころにしゃがみこみます。そして、何やらそのあたりを手でかき分けながら、じっと目を
凝らしています。
「あっ、みーっけ。」
「何やってんだ?」
「ほら、四葉のクローバー。跡部にやるよ。」
宍戸は四葉のクローバーを差し出し、跡部に渡します。幸運を呼ぶ四葉をもらい、跡部は
ふっと微笑みました。
「サンキュー。ここ、クローバーもあるんだな。」
「おう。他にもいろんな花があるんだぜ。」
跡部も宍戸の隣に腰を下ろしました。宍戸と同じように三つ葉のクローバーをかき分けて
いると、跡部はもっと珍しいものを見つけました。
「おっ。」
「どうした?」
「見ろよ、すげぇの見つけたぜ。」
跡部が手にしていたのは、葉が六つに分かれている六つ葉のクローバーでした。初めは二
つのクローバーが重なっているだけだと疑っていた宍戸ですが、それは確かに一つのクロ
ーバーが六つの葉に分かれているものでした。
「すっげぇ!!六つ葉のクローバーだ!俺、こんなの初めてみたぜ!!」
「さっきの四葉のお返しだ。これ、お前にやるよ。」
「いいのか!?だって、これ激珍しいぜ。」
「いいんだよ。ほら、素直に受け取っておけ。」
とても珍しい六つ葉のクローバーをもらい、宍戸の目は幼い子供のようにキラキラと輝い
ています。そんな宍戸の顔を見て、跡部は満足でした。

夜になると、宍戸は跡部を星のよく見える丘に連れて行きました。この丘からは空にある
幾千もの星や黄金色に輝く月がどこよりも綺麗に見えるのです。
「星ってこんなにいっぱいあったんだな。」
「知らなかったのか?」
「ああ。普段はこの時間は家の中にいるから。」
「そっか。今日はこんなに遅くまで俺と一緒にいてもいいのか?飼い主、心配するんじゃ
ねぇ?」
「大丈夫だ。最近、もう一匹新しい猫が増えてな。そっちにばっか構ってやがるから、俺
がいないことになんて気づかねぇよ。」
「ふーん。」
跡部の話を聞いて、宍戸は複雑な気持ちでした。確かに長い間跡部と一緒に居られるのは
嬉しいのですが、飼い主に見向きもされなくなった跡部が可哀想だと思ったのです。しか
し、跡部は全く寂しいなどとは思っていませんでした。今は飼い主と居るよりも宍戸と一
緒に居た方が何倍も楽しいと感じているのです。
「なあ、宍戸。」
「何だよ?」
「今日は一緒に寝ねぇか?」
「えっ・・・?」
宍戸は耳を疑いました。跡部はこのまま帰らないつもりなのです。しかも、他の猫と一緒
に寝るなどということは今までに一度も体験したことのないことでした。宍戸はドギマギ
しながら、もう一度言って欲しいと頼みました。
「だから、今日は一緒に寝ねぇかって言ってんだよ。」
「・・・マジで?」
「嫌なら別にいいけどよ。どうだ?」
「べ、別に俺は構わねぇぜ。ただ、俺すげぇ寝相悪いぞ。それでもいいっつーんなら、一
緒に寝てやるよ。」
「構わねぇよ。」
それだけ言うと跡部は黙ってしまいました。宍戸の心臓はドキドキしています。こんなこ
とは初めてです。その日、二人は大きな満月の下で一緒に眠りました。宍戸はドキドキし
ていましたが、跡部の体温がとても心地よくあっという間に深い眠りに落ちていきました。
もちろん跡部も同じでした。触れ合う部分からお互いの温もりを感じ合い、今までに感じ
たことのない柔らかな心地よさを感じながら、二人はぐっすりと眠ることが出来ました。

それから数日後、今日はどんよりと空が曇っていました。この天気の所為なのか、宍戸は
妙な胸騒ぎを感じています。
(何だろ?すげぇ胸の奥が変な感じ。すっげぇ、嫌な感じだ・・・)
こんなのは気のせいだと何度も思おうとしましたが、その胸騒ぎは次第にだんだんと大き
なものになっていきます。それは、跡部がいつもの時間に自分のもとへ来ないことでさら
に大きくなりました。
「跡部の奴、どうしたんだよ・・・」
そう呟くと、ひどく胸が締め付けられるような嫌な予感を感じました。その時、跡部が飼
われている屋敷の方向から、何台もの消防車のサイレンの音が聞こえてきました。宍戸の
心臓はドクンと高鳴ります。不安な気持ちが募っていき、宍戸は跡部の家に向かって駆け
出しました。

跡部の家へ到着すると、宍戸の顔は色を失います。今、自分の目の前で跡部がいるはずの
屋敷が大きな炎に包まれているのです。宍戸は直感的に跡部がまだ屋敷の中にいることを
悟りました。そう感じた瞬間、ザーザーと大雨が降り始めます。
「跡部・・・・」
跡部がまだ中に居る。そう確信した宍戸は走り出しました。雨に濡れ、体が十分に湿った
ことを確認するとまだ火の気の少ない裏口から、燃えさかる屋敷の中へと宍戸は飛び込ん
で行きます。屋敷の中は煙と炎で視界は悪く、自分が火傷を負わないようにするので精一
杯でした。しかし、宍戸は諦めません。煙を吸って咳き込みながらも、跡部の名前を何度
も呼びます。
「跡部、跡部っ!!どこだ!?」
しかし、返事はありません。宍戸はとにかく跡部を探し回りました。そして、一階にある
一番奥の部屋で、跡部が倒れているのを見つけます。
「跡部っ!!」
手足の火傷と煙を吸ってしまったことで、跡部の意識はありませんでした。しかし、まだ
呼吸はしています。宍戸は跡部を抱えて逃げようとしました。
「嘘だろ・・・」
しかし、火の手はもうそこまで迫って来ていました。さっき来た道を戻って逃げるという
ことはもはや不可能です。
「跡部・・・俺が絶対お前を助けてやるからな。」
そう呟くと宍戸は側にあった椅子を手にしました。一か八か、宍戸はその椅子を使い、大
きな窓を思いきり割ります。普通なら空気が入ることで、炎がより大きくなるのですが、
今回は運よくいきなり炎が大きくなるということはありませんでした。宍戸はそこから意
識のない跡部を抱えて脱出します。

降りしきる雨の中、宍戸は跡部を背負い、いつも自分が寝床として使っている空き家まで
連れて行きます。そこに跡部を寝かせると宍戸は跡部の怪我の程度を確かめました。意識
がないのは煙を吸ったためでしたが、手足の火傷も相当ひどいものでした。
「冷やして、手当てしないと・・・」
そうは思うものの、ここは空き家なので、氷も薬も見当たりません。宍戸は焦る気持ちを
抑え、氷と薬をどこかから盗ってくることにしました。人間がそんなことをすれば犯罪に
なってしまいますが、宍戸は猫です。そんなことをしても悪い悪戯だ程度にしか思われま
せん。

急いで必要なものを盗ってくると宍戸は跡部の看病を始めました。じっくり氷で傷口を冷
やしたあと、薬を塗って包帯を巻きます。しかし、あの傷からしてそれで十分だとは宍戸
自体全く思っていませんでした。
「跡部・・・」
そう思うと次第に不安になってきてしまいます。このまま跡部が目を覚まさずに死んでし
まったらどうしよう、そんな考えが頭をよぎります。そんなことを考えてはいけないと思
いつつも、今、目の前で静かに瞳を閉じている跡部を見ていると自然にそんな考えが出て
きてしまうのです。不安と恐怖で宍戸は涙を抑えることが出来ませんでした。
「跡部、死ぬなよ。絶対、俺が助けてやるから・・・」
ポロポロ涙を流しながら、宍戸は一晩中跡部を看病していました。傷口を何度も繰り返し
冷やして、これ以上ひどくならないように努めました。しかし、どんなにそうしていても
跡部はいっこうに目を覚ましません。看病をしている間、宍戸の涙はとどまることを知り
ませんでした。そして、そろそろ東の空が明るくなるという頃、宍戸は極度の疲労から眠
りに落ちてしまいます。

日が昇って数時間後、跡部はふと目を覚ましました。しっかりと手当てされた腕や足を見
て跡部は不思議に思います。痛みを感じながらもゆっくりと起き上がってみると、自分の
傍らで宍戸が眠っていることに気づきます。その目は一晩中涙を流していたため、ひどく
腫れていました。
「確か昨日、うちで火事があって・・・・」
昨日の記憶は途中で途切れていました。しかし、この状況から、自分は宍戸に助けられた
んだということを悟りました。そう思うと、急に宍戸が愛しくなってきます。隣で眠る宍
戸の黒い毛を優しく撫で、跡部は生きていてよかったと心の底から思いました。
「う・・・ん・・・」
跡部に撫でられていることに気づいたのか宍戸はゆっくりと目を覚まします。泣き腫らし
た瞳を開けると、そこには自分の頭を撫でる跡部の姿が映りました。跡部が目を覚まして
いることに気づき、宍戸は再び涙を流して思いきり跡部に抱きつきます。
「跡部―――!!」
「お前が俺を助けてくれたんだよな。ありがとよ。」
心のこもったお礼の言葉、確かに跡部は生きている、自分に話しかけている、それが本当
に嬉しくて宍戸は跡部に抱きついたまま泣きじゃくりました。
「心配かけて悪かったな。あの火事な、うちの飼い主が心中しようとして起こったんだ。
何か会社が不祥事起こして倒産したかなんがでよ。それで、俺、逃げ遅れちまって・・・
気づいたらもう意識がなかった。」
「跡部、全然悪くねぇのに・・・ひっく・・・何で巻き込まれなきゃいけねぇんだよぉ。」
「そうだな。でも、お前が助けてくれて本当によかったぜ。お前がいなきゃ、俺、今頃焼
猫だもんなあ。」
「これで・・・かりは返せたよな?」
跡部が冗談じみてそんなことを言うので、宍戸もほのかに笑顔を取り戻しながらそんなこ
とを言いました。跡部はちょっと驚いたような顔をした後、笑顔で頷きます。
「ああ。十分すぎるくらいだ。」
「へへ、俺だってやりゃあ出来るんだ。」
涙を目にいっぱい浮かべながら、宍戸はニッコリ笑ってみせました。跡部が生きている、
それは宍戸にとって、何よりも嬉しいことでした。そんな宍戸の顔を見ながら、跡部は首
に付けられていた金色の首輪を自ら外します。そして、宍戸をぎゅっと力強く抱きしめま
した。
「跡部・・・?」
「屋敷も燃えちまったし、俺の飼い主はいなくなっちまった。もうあんな贅沢な暮らしに
は二度と戻れねぇ。」
「・・・そうだな。」
「でも、今はお前がここに居る。」
「ああ。」
跡部がゆっくりと呟く言葉を宍戸は一言一句逃さないように聞きます。抱きしめられなが
ら聞く跡部の声は今までにないくらい近くに聞こえました。
「贅沢な暮らしが出来なくても、飼い主がいなくなっても・・・・宍戸、お前が俺の側に
居る。それが今の俺にとって一番幸せなことだ。」
「跡部・・・・」
跡部の心のこもった言葉に宍戸はひどく感動しました。さっきまで止まっていた涙がまた
こみ上げてきます。再び泣き顔に戻ってしまった宍戸を見て、跡部は笑いながら舌で涙を
拭います。
「お前、本当泣き虫だな。」
「ウルセー。跡部が俺を泣かすようなことばっかするからいけねぇんだ。」
「俺がお前を泣かすのは今日限りだ。これからはずっと笑顔でいさせてやるよ。」
跡部の言葉一つ一つが宍戸の心に響きました。これからずっと笑顔でいさせてやる、その
言葉はこれからずっと一緒にいようという意味が込められています。それが嬉しくて宍戸
はぎゅっと跡部に抱きつきます。
「出来るもんならやってみろ。」
「ああ、やってやるぜ。」
不敵な笑みとともに跡部は宍戸の額に口づけます。ドキンとして顔をあげると、今度は唇
にキスをされてしまいました。しかし、宍戸はそれが嫌だとは全く思いませんでした。大
好きな跡部とこれからずっと一緒にいられる、そんな気持ちがそのキスを甘く心地のよい
ものにしてくれました。

それからしばらくして、宍戸が寝床の整理をしていると跡部からもらった数々の宝石が出
てきました。
「あっ。」
「どうした?宍戸。」
「これ、跡部からもらった綺麗な石なんだけど、この前、街歩いてたらな、ホーセキ店っ
つーところで、これと同じ石がいっぱい売ってたぜ。」
「へぇ。」
「何か0がいっぱいの紙がついてたけど、あれって人間のお金の意味だよな?」
「たぶんそうだろうな。」
「これさ、売ったらものすごい0がいっぱいのお金もらえるんじゃねぇ?」
「あー、確かに。」
猫ではありますが、二匹はお金を出せばいろいろなものが買えるということを知っていま
した。全部ではないにしてもいくつかの宝石を売ったら、それだけで大きな額のお金がも
らえます。跡部は試しに透明な石を宝石店に売ってみました。
「何か思った以上に・・・・」
「いっぱいお金もらえたな!!」
跡部が売った石は大きな大きなダイヤモンドです。その石は0が8個はつく値段で売れま
した。綺麗な石が紙に変わってしまったのは、少々残念な気がしますが、二匹はそれでお
いしいものやふわふわのベッドや布団を買いました。
「これでちょっとは贅沢出来るな♪」
「ま、今のままでも十分だけどな。」
猫なので、それほどの贅沢は望みません。しかし、おいしいものが食べれたり、ふわふわ
の布団で眠れることはやはり嬉しいことなのです。二匹で過ごす幸せとちょっとの贅沢。
黄金色の猫と黒猫は二匹で仲良く幸せに暮らしました。めでたしめでたし。

                                END.

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