眠れる森の王子

あるところにとても仲のよい王様(跡部)と王女様(宍戸)が住んでいました。二人は本
当に仲がよく、人目も憚らず、イチャイチャ、イチャイチャしています。
「宍戸、どうだ、これから?」
「何言ってんだよ?まだ昼間だぜ。」
そんな仲睦まじい二人でしたが、残念ながら二人には子供がいません。それ以前に男同士
で子供が出来るはずもありません。二人はそれで満足だったのですが、後継者の問題やら
何やらでやはり子供は必要だったのです。

そんなある日、家来の一人が森に赤ん坊が捨ててあったのを拾って来ました。子供がいな
かった二人は即行で、その赤ん坊を跡取りというか、一応自分達の子供という名目で城に
引きとることを決めました。
「子育てなんて面倒くせぇが、あいつらに任せておけば大丈夫だろ。」
「そうだな。なあ、跡部、せっかく子供が出来たんだからさ、何かお祝いのパーティーと
かしたくねぇ?」
「そりゃ楽しそうだな。お披露目パーティーみたいな感じでやるか?」
「おう!いろんな奴ら呼んで、でっかいパーティー開こうぜ。」
というわけで、跡部の城で大きなパーティーが行われることになりました。ちなみに森で
拾われてきた赤ん坊は『ジロー』と名づけられました。

ジローが城にやってきたことを祝うパーティーでは、たくさんの御馳走が用意される他に
そのパーティーに招かれた人々がアトラクションや一発芸、手品などを行いました。その
中で、特に目立った出し物をしたのは魔法使いの滝でした。滝は得意の魔法で壮大なイリ
ュージョンをやってのけます。
「俺の手にかかれば、何だって出来るよ。」
滝は手に持った黄色の球を消したり、増やしたりを繰り返しながら、そこに来ていたたく
さんの観客達を沸かせました。それで調子に乗った滝は、もっとこの場を盛り上げてやろ
うととある言葉を口走ります。
「そこに寝ている赤ちゃん、16歳の誕生日につむぎ車に刺されて、百年の眠りにつくよ。」
それは有名な話の一節でした。それを聞いて、周りにいた人々はざわめきます。そんな反
応が楽しくて、滝はニヤニヤと笑い、その場から姿を消しました。
「ふーん、なかなかやるじゃねぇか滝のヤツ。」
「でも、あんなこと言って大丈夫なのか?結構、みんなまともに捉えてるみたいだぜ。」
「あーん?知ったこっちゃねぇよ。騒ぎたい奴は勝手に騒がせとけ。」
「そうだな。」
滝が言ったことも冗談としか捉えていない跡部と宍戸は、テーブルの上に用意されたワイ
ンを飲みながら、次のアトラクションを眺めています。滝の発した冗談でありながらも、
なかなか不吉な言葉、跡部と宍戸の無関心さ、そして、そこに来ている人達のざわめき、
これのどれ一つにも気づくことなく、このパーティーの主役のジローはすやすやと眠り続
けていました。

そんなことがあってから十五年。ジローが妖精である岳人、忍足、日吉の三人に適当に育
てられました。適当に育てられた割にはなかなか素直で明るい子に育っています。そんな
ジローは妖精の三人と共に森の中で暮らしていました。
「岳人ー、忍足ー、日吉ー。ちょっと散歩に行ってくんな。」
「ああ。ちゃんと夜までには帰ってくるんやで。」
「森の中で寝るんじゃねーぞ。結構ヤバげな動物だっていっぱいいるんだからな。」
「まあ、ジローさんなら大丈夫だと思いますけど。」
「分かってるって。じゃあ、行ってきます。」
三人に見送られつつ、ジローは散歩に出かけました。今日は空は真っ青、風も穏やかでま
さにお散歩日和です。そんな中、ジローは何となく気分がよくなり、歌を歌い始めました。
「だけど Fly high あのころより 身長は伸びたのに〜♪ くやしいね 今も
いつも 空は遠いまま〜♪」
ジローのご機嫌な声に森の動物達が集まってきます。動物達に囲まれながらジローは大き
な木の下に腰かけました。
「blowing wind 始まりのストーリー 心にイメージして立つ〜♪ 向かい
風が強いほど 僕をひきつける〜♪」
サビを歌い終えるとジローは大きく伸びをします。この大きな木の下はジローのお気に入
りの場所でした。生い茂る葉の隙間から差し込む木漏れ日が何ともいえない暖かな空間を
作っているのです。
「ふわあ〜、何か眠たくなってきちゃった。あー、もうダメだぁ。寝よ。」
岳人に注意されたことなど、全く無視でジローはその木の下で眠っていまいます。あまり
の気持ちよさにジローはそのまま熟睡してしまいました。

ジローが目を覚ました時には、辺りはもう真っ暗でした。森の中には街灯などという便利
なものはありません。そんなに真っ暗であるともう自分の家がどっちの方向にあるのか分
からなくなってしまいます。
「うわあ、どうしよ〜。これじゃあ、うちに帰れねぇよ。」
さすがに明かりの何もないところに一人でいると、次第に怖くなってきてしまいます。ど
うしようどうしようと狼狽していると、突然目の前の茂みががさがさと音を立てます。
「な、何々っ!?」
ジローはビクビクしながら、その茂みの方をじっと見ていました。しばらくすると大きな
影がぬっと出てきます。
「うわあっ、食べないで〜!!」
何が出たか分からないジローは思わずそんなことを叫んでしまいます。
「ウス?」
「えっ・・・・」
茂みから出てきたのは跡部の城の家来の一人、樺地でした。樺地は森の治安保全係なので
す。跡部の城の住人ですが、ジローが樺地に会ったのはこれが初めてです。
「どうしたん・・・ですか?」
「何だ人かあ〜。よかったー。あのな、ちょっとここで昼寝してたらさぁ、いつの間にか
真っ暗になっちゃって、家がどっちか分からなくなっちゃったんだよねー。」
「分かりました・・・ついて来てください・・・・」
ジローのことは跡部や宍戸から聞かされていたので、樺地はすぐに今目の前にいる人物が
ジローであることに気づきます。森の治安保全係ということで、もちろんジローの家がど
こにあるのかも把握していました。ランプであたりを照らしながら、樺地はジローを森の
家へと導いていきます。
「でもよかったー。おめぇが来なかったら、俺、家に帰れないところだったぜ。」
「ウス。」
「それにしても夜の森って本当真っ暗だよなぁ。あっ、そうだ!おめぇの名前何ていうん
だ?」
「樺地・・・崇弘です・・・」
「樺地かあ。あんがとな樺地!!」
そんな他愛もない会話を交わしながら、二人はてくてくと歩いて行きます。しばらく歩い
ているとジローは歩くのをやめてしまいました。
「・・・?・・・どうしたんですか?」
「あー、何かまた眠たくなってきちゃった。樺地ー、もう歩けねぇ。おぶって?」
「ウス。」
この暗さが影響し、ジローは再び眠くなってしまいます。小さな子供のようにおぶってと
言ってみたところ、樺地は全く表情を変えず頷きました。そして、ジローが背中に乗れる
ようにいったんその場にかがみます。
「おー、サンキュー樺地。」
「ウス。」
あっさりおんぶしてもらえ、ジローは嬉しそうに笑います。樺地にしっかりおぶってもら
うとジローはすぐに睡眠モードに入ってしまいました。
(うわあ、樺地の背中、超あったけー。初めて会ったのに超優しいC〜。何かこういうの
いいなあ・・・)
樺地の優しさと大きな背中の温かさにジローはすっかり心を奪われてしまいました。

それからというものジローは暇さえあれば眠るようになりました。散歩に出かけることも
少なくなっています。ジローがここまで、睡眠を求める理由。それは樺地にありました。
現実に会うことは難しいのですが、夢の中ではいつでも会えるのです。そのうちジローは
全く目を覚まさなくなってしまいました。
「ジロー、今日も起きねぇな。」
「もう三日も起きてませんよ。」
「さすがにそれはアカンちゃう?このままだと脳みそ溶けてまうで。」
「それはないでしょうけど、このまま寝かせ続けるってのはやっぱりよくないですよね。」
岳人と忍足と日吉の三人は、目を覚まさなくなったジローが心配です。よく寝る子供だっ
たけれども、三日間も目を覚まさないのはやはり異常なことです。三人は何とかジローの
目を覚まさせようといろいろなことを試してみることにしました。

まずは岳人が試してみます。岳人は家にあった目覚し時計を鳴らし、鍋とおたまでがんが
んと大きな音をジローの耳元でたててみます。
ジリリリリ・・・ガンガンガン!!
どんなに大きな音をたてても、ジローは表情一つ変えません。周りの音が聞こえないほど、
深い深い眠りについているようです。
「こんなにうるさくしても起きねぇなんて、どんだけ熟睡してんだよ?」
「もう熟睡の域とか越えてますよね。」
「よっしゃ、次は俺いくわ。」
「頑張れよ、侑士!」
忍足は岳人とは発想を変え、好きなものの匂いで起こしてやろうということを考えました。
ベッドのすぐそばで、羊の肉を焼き、匂いがジローのもとへ行くようにうちわでパタパタ
とあおぎます。また、好物のムースポッキーを鼻の近くへかざしてみました。
『・・・・・・』
「何かさ、ジローメッチャ幸せそうな顔してんだけど。」
「絶対、夢の中で食べてますよね。」
「夢じゃなくて、現実にあるんやでー。」
「失敗だな。」
「ですね。」
「絶対うまくいくと思ったんやけどなあ。」
残念そうな顔をして、忍足は諦めました。どうやら好きな食べ物作戦は失敗なようです。
残った日吉は自分の部屋に何かを取りに行きました。
「おっ、日吉はどうやって起こすんだろうな?」
「見ものやな。次で起きるとええけど。」
しばらくすると、古武術の服に着替えた日吉が木刀を持って戻ってきます。
「向日さんも忍足さんも甘いんですよ。ここは力ずくで起こさないと・・・・」
そう言いながら日吉は、木刀を振りかざします。さすがにこれはヤバイと思い、岳人と忍
足は慌てて止めにかかりました。
「わああ、日吉!!さすがにそれはダメだって!!」
「そないなことしたら、余計に深い眠りに落ちてまうわ。」
「でも、こうするしかないでしょう?」
「いや、他になにかいい方法があるはずや。ここは少し落ち着いて考えた方がええって。」
二人になだめられ、日吉は強行手段で起こすことを諦めました。いったん落ち着こうと三
人はしばらく黙ってどうすればいいかを考えてみます。
「そういえば・・・」
「どないしたん?日吉。」
「ジローさんが城に来た時、大きなパーティーが行われたじゃないですか。そのパーティ
ーで魔女の滝さんが妙なことを言っていたような気がするんですけど・・・」
「あー、確かに言ってたな。」
「確か・・・ジローは16歳になったらつむぎ車に刺されて、100年の眠りにつくとか
そんな感じやなかったっけ?」
「そうそうそれだ!!じゃあ、ジローが起きないのは滝の所為かもしれねぇな。ちょっと
問いつめに行ってみようぜ!」
そんなわけで、三人は滝のもとへと出かけました。

滝の家に行くと、跡部の城のもう一人の家来、鳳が一緒にいました。ただいまはくつろぎ
タイムなようで、鳳のバイオリンを聞きながら、滝は本を読んでいます。
「おじゃましまーす!」
「あれ、岳人に忍足に日吉。俺んちに来るなんて珍しいじゃん。どうしたの?」
「いや、どうもこうもさ、ジローがここ三日間全く目覚まさねぇんだよ!」
「ふーん、で、そのことと俺と何の関係があるわけ?」
「滝さん、ジローさんが城に来た祝賀会のパーティーで、妙なこと言ってましたよね?そ
れが原因じゃないかと思って来てみたんですけど。」
そんなこと言ったっけ?と滝はしばらく考えました。そして、自分が眠り姫に出てくる一
節を言ったことを思い出します。
「あー、あのことか。あんなのその場を盛り上げるための冗談に決まってるじゃん。それ
に今の時代、つむぎ車なんてそうそうないし、第一ジローはまだ16歳になってないでし
ょ?」
『それもそうだ。』
三人は滝の話に即行で納得してしまいます。それならジローはどうしてあんなに眠り続け
ているのだろう、謎はますます深まるばかりです。
「何なら俺も協力してあげようか?ジローを起こせばいいんだよね?」
「俺も出来ることがあるなら手伝いますよ。」
「悪いなあ。お願いするわ。」
「結構手強いぜ。俺らがどんなことしても起きなかったもん。」
三人は滝と鳳を連れて、家へと戻ります。ジローの家に行く前に滝は自分の家から様々な
薬や起こすのに使えそうなものを持って行きました。

ジローが眠る家へ到着すると、滝は様々な方法でジローを起こそうと試みます。覚醒作用
のあるハーブを使った香料を鼻の下につけたり、どんな人でも聞けば起きるという蚊の羽
音を耳元で聞かせてみたりしますが、一向に起きる気配はありません。鳳も冷たい氷を顔
にあてたり、持ってきていたバイオリンでかなりうるさい音を作り出しますが全く効果は
ありません。あまりの手強さに二人もお手上げ状態です。
「うーん、全然起きないね。」
「俺には無理ですよ。」
「やっぱアカンかあ。仕方ないこうなったら・・・・」
『こうなったら?』
「跡部に相談してみるか。跡部なら何とかして起こせるやろ。」
「どうかな?てか、跡部がこの程度のことでここに来てくれるとは思わねぇんだけど。」
「まあ、相談するだけ相談してみましょう。」
最後の手段だと言わんばかりにそこにいた五人は跡部の城へと向かいました。

跡部の城に到着すると、すぐに五人は跡部のいる部屋へと向かいます。そして、早速今の
ジローの状態を報告しました。
「・・・というわけなんやけど。」
「はあ?どういうことだよそれ。お前らの教育が悪かったんじゃねぇのか?」
「俺らの所為かよ?てか、あれは教育とかそういう問題じゃねぇだろ。」
「ほっときゃいいんじゃねぇ?腹減ったり、喉渇いたりすりゃ勝手に起きんだろ。」
跡部も宍戸もジローのこの大変な状態に全く無関心なようです。ジローの世話は岳人達三
人に任せっきりだったので、急にそんなことを言われても対処のしようがないのです。二
人の無関心さに少々腹立たしさを感じつつ、五人はそれぞれの家へと帰ります。

ジローの眠る家に帰る途中、岳人、忍足、日吉の三人は偶然樺地に出会いました。
「あっ、樺地。」
「ウス。」
「この前はおおきにな。ジロー家に連れてきてもろて。」
この前のことを思い出しながら、忍足は樺地にお礼を言います。そして、続けて今のジロ
ーが大変なことになっているということを話し始めました。
「樺地がジロー連れてきてくれてからな、ジローの様子がメッチャおかしいねん。ここ三
日間全く目を覚まさないんやで。あの時、何か変わったことでもあったんか?」
「・・・別にないと・・・思います。」
もちろん樺地にもジローが眠り続ける理由など分かりませんでした。しかし、三日間も目
を覚まさないというのは、やはり樺地にとっても心配なことです。
「これから・・・家に行ってみてもいいですか?」
「ああ。全然構わねぇぜ。一か八か、樺地も試しに起こしてみてくれよ。」
「ウス。」
自分がジローを起こせるという自信はそんなにありませんでしたが、樺地は岳人達と一緒
にジローのもとへと向かいます。初めてジローに会ってから、樺地も不思議なもやもやと
した感覚を感じていました。そんな感覚がジローを心配する気持ちをより増大させている
のです。

樺地が家に入るとジローは死んだようにぐっすりと眠っています。しかし、その顔はどこ
か幸せそうです。夢の中で出会える樺地と一緒に時を過ごしているのです。
「見ての通り全く起きる気配ないねん。」
「どんな起こし方でもいいからさ、とにかく起こしてみろよ。」
「ウス。」
岳人や忍足に言われ、樺地はジローを起こしにかかります。体を軽く揺すって、声をかけ
ました。
「起きて下さい・・・ジローさん。」
そんなんじゃ絶対起きないと思いながら、三人は黙って樺地を見守ります。一度声をかけ
ただけではやはり起きなかったので、樺地はもう少し大きな声をだし、さっきと同じよう
に起こそうとしました。
「起きて下さい、ジローさん!」
すると、どんな大きな音にも匂いにも感触的な感覚にも反応を示さなかったジローがうな
りながら、体を動かします。
「うーん・・・・」
「ジローさん、起きて下さい。」
「う・・・ん・・・あれ?樺地?何でこんなとこにいんの?」
樺地が普通な起こし方をしたことで、ジローは目を覚ましました。どんなことをしても起
きなかったジローが何故この程度のことで起きるのだと三人は激しく驚きました。目を覚
ましたジローは初めは寝ぼけ眼でぼーっとしていましたが、しっかりと覚醒すると今目の
前に樺地がいるということに大喜びしました。
「おー、樺地じゃん!俺ね、ずっと樺地に会いたいなあって思ってたんだ。でもさ、どう
やったら会えるか分かんなくて、考えてんのも何だからぱっと寝てみたんだよ。そしたら
樺地、夢の中に出てくんだもん。だから、ずっと夢ん中にいたいなあと思ってたらさぁ、
起きれなくなっちゃった。」
ものすごい内容のことをジローは子供っぽい口調で楽しげに語ります。そんな理由があっ
たのかあと妖精の三人は感心しました。逆に樺地は自分が原因でこんなことになってしま
っていたんだと知り、少々罪悪感を感じていました。
「でもさ、今は現実に樺地がいるじゃん!やっぱ、夢より現実で会えた方がいいもんな!
俺、樺地のこと超好きになっちゃった。なあ、樺地もこの家で暮らせよ。」
屈託のない笑顔で告白をし、なかなか大胆な要求をしてくるジローに樺地はしばし困惑し
ました。しかし、ジローにそう言われたことで最近心の中でもやもやしていたものが何で
あったかに樺地は気づきました。
「自分も・・・ジローさんのことは・・・好き・・です。」
「ホントかぁ!?うわあ、超うれC〜!!」
「でも、この家に住むのは・・・・」
自分の判断だけでは決められないと樺地は岳人や忍足、日吉の顔を見上げます。三人は顔
を見合わせて笑い、頷くように言いました。
「樺地がいないとジローまた眠り続けちゃうかもしれねぇなあ。」
「俺らは別に構わんよな?」
「別に今人が一人増えたくらいじゃ何も変わらないですよ。」
それを聞いて、樺地はもう一度ジローの方に視線を移します。樺地と目が合い、ジローは
もう一度さっきと同じお願いを口にしました。
「樺地、この家にずっといてくれよ。」
「・・・ウス。」
少しの間をおいて、樺地は恥ずかしそうに頷きました。樺地が頷いてくれた嬉しさにジロ
ーは花が咲いたように笑顔になり、樺地に抱きつきます。
「やったー!!これからは樺地も一緒だー!!」
「よかったなあ、ジロー。」
「もうあんなふうに眠り続けないでくださいよ。」
「大変だったんだからな。」
「分かってるって。すぐそばに樺地がいてくれるのにずーっと眠り続けてるなんて勿体ね
ぇじゃん。うわあ、これから超楽しくなりそうだC〜♪」
思ってもみない展開になり、頭が混乱している樺地でしたが、その感じは全く嫌ではあり
ませんでした。こんなに歓迎されるようなことは今まで一度も経験したことがありません。
この日、小さな森の家に一人の家族が加わりました。

樺地が一緒に暮らしてから、ジローはひたすら眠り続けるということはなくなりましたが、
いつでもどこでも寝てしまうという癖は治りませんでした。しかし、樺地がどこにいても
見つけてくれるので、安心して眠れるようになりました。森の中の眠り王子は寝ても覚め
ても大好きな人と一緒にいられる喜びを感じ、いつまでも幸せに暮らしました。

                                END.

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