昼休み中、跡部は特にすることがなかったので、交友棟にやって来ていた。そこでは、滝
がかなりご機嫌な様子で本を読んでいた。
「滝じゃねーか。」
「あ、跡部。今日は一人なの?」
「まあな。」
跡部が来ても、滝の嬉しそうな顔は変わらない。気持ち悪いほどニヤけている滝を不思議
に思い、不本意ながらも跡部はその理由を聞いてみた。
「さっきから、何そんなにニヤけてんだよ?」
「へへへー、ちょっといいことがあってねー。」
「いいことって何だよ?」
「今さ、監督が出張中なの知ってるよね?」
「ああ。だから音楽の授業は全部自習だし、部活も今日はねぇな。」
滝のご機嫌の理由にはどうやら太郎が関係しているらしい。
「監督がいないからさ、音楽室がフリーに使えるんだ。それでね、昨日・・・・」
昨日音楽室であった出来事、それを滝は跡部に語り始める。
昨日の放課後、滝は鳳が音楽室でピアノの練習をしているのを聞いていた。
「長太郎って、やっぱりピアノ上手いよね。」
「いえ、まだ全然練習中で下手くそですよ。」
「そんなことないよ。すごく綺麗な音だよ。」
鳳の奏でる美しいピアノの音に聞き惚れながら、滝はじっと鳳を眺めていた。初めは黙っ
て聞いていただけの滝であったが、鳳を見ているうちに悪戯心が湧いてきてしまう。真剣
にピアノの練習をしている鳳の後ろに滝はゆっくりと近づいてゆく。そして、鍵盤を叩く
鳳の体をぎゅっと抱きしめる。
「滝さん?」
「長太郎のピアノ大好きだよ。」
「ありがとうございます。」
ただ抱きしめてくるだけでは、特に気にしていなかった鳳だが、いつの間にか滝の手は下
腹部に伸びていた。それに気づいた時には既にベルトが外され、ジッパーが下ろされてい
た。さすがにヤバイと思った鳳はピアノを弾いていた手を止める。
「た、滝さん・・・?」
「ピアノ弾くのやめないで。続けて・・・」
ゆっくりと鳳の熱を撫でながら滝は耳元で囁く。その声に逆らえず、鳳は再びピアノを弾
き始めた。しかし、その音色はさっきのなめらかなメロディーとは打って変わって、鳳の
呼吸と同じように激しく乱れたものになっている。
「はぁ・・・んっ・・・」
「いい音色だね。さっきのなめらかな感じもいいけど、今の感じもすごくいいよ。」
そんな乱れたピアノの音色と鳳の口から漏れる艶やかな歌声に滝はすっかり興奮してしま
う。だんだんと大きくなる鳳の歌はピアノを弾き終わったと同時に終わった。
「あっ・・・ああ―――っ!!」
「ふふ、長太郎可愛い。ねぇ、続きしよ?」
「・・・滝さんっ・・・」
潤んだ瞳で鳳は滝を見上げる。そんな視線に滝はすっかり落ちた。結局、流れで二人は最
後までしてしまう。最後までしたとしても、ドアに鍵をかけ、音楽室自体が防音壁になっ
ていたために誰にもバレることはなかった。
「ってなことがあったんだー。その時の長太郎、すごい可愛いしさ、音楽室って意外と燃
えるんだよねー。」
「へぇ。確かに音楽室は、監督さえいなけりゃいいかもしれねぇな。」
「でしょ?もうすっごいよくってさぁ、今日は超いい気分なんだ♪」
「ふーん。」
それほど興味がなさような様子で軽い反応しか見せていない跡部だが、内心は滝の話に感
化されていた。今滝が話したことを宍戸で試したくて仕方がない。跡部の頭はそんなこと
でいっぱいになってしまった。
キーンコーンカーンコーン・・・
「あっ、昼休み終わっちゃった。」
「そうだな。早く授業行かねぇと・・・」
昼休みが終わっても、跡部の頭はさっき聞いた滝の話でいっぱいだった。どうやって宍戸
を音楽室に呼び出そうか、どんなふうに誘おうか、午後の授業はひたすらそんなことを考
えていた。今日も太郎は出張中。しかも部活は休みときた。やるなら今日しかないであろ
う。
そんなこんなで、跡部は放課後宍戸を音楽室に呼び出した。宍戸は放課後に特に予定がな
かったので、素直に音楽室にやってきた。
「跡部ー、来てやったぜ。」
「ああ。」
「いきなり音楽室になんて呼び出して、何の用だよ?今日は監督出張だろ?勝手に入って
いいのか?」
「それは問題ねぇ。宍戸、ちょっとドアの鍵閉めてくれねぇか?」
「ああ?別にいいけど・・・」
何故鍵を閉める必要があるのかと疑問に思う宍戸だったが、深く考えることなく言われた
通りに鍵を閉めた。それを確認すると跡部はおもむろにピアノの椅子に座る。
「お前もこっち来いよ。」
「おう。」
跡部は宍戸を自分の方に招き、連弾用の椅子に座らせた。そして、何も言わずにピアノを
弾き始める。
「何だよ?俺にピアノを聞かせたかったのか?」
「いや、お前をここに呼んだのに深い理由はねぇ。ただ何となく二人きりになりたかった
だけだ。」
「ふーん、そっか。」
いきなり二人きりになりたかったなどと言われ、宍戸はほのかに赤くなる。どうしてこう
照れるようなことをポンポン言えるのかと心の中でつっこみながら、黙って跡部の弾く曲
を聞いた。
(跡部って、本当何でも出来るんだな。ピアノなんて絶対ぇ弾けねぇし。)
曲名も知らない曲で、途中で飽きるだろうと思って聞いていた宍戸だったが、そのうち跡
部の弾く曲にすっかり聞き惚れてしまう。
「何か・・・いい感じの曲だな。」
「そうか?」
「うん。題名とかは知らねぇけど、俺は好きだな。」
激しいながらもどこか甘美さも内に含んだ曲は宍戸の耳にはひどく心地よかった。しばら
くピアノを弾く跡部を手を見ていると何だかドキドキしてしまう。
(跡部の指って、何でこんなに器用に動くんだろう?だから、あの時も・・・・って、俺
何か今おかしなこと考えてなかったか!?うわー、何か恥ずかしいー・・・)
跡部の指からとあることを連想してしまった自分を恥ずかしいと思う。しかし、いったん
そんなことが思いついてしまうとなかなかその思考は離れない。さらに激しくなる曲とそ
れに合わせしなやかに動く跡部の指。それがさらに宍戸の心臓を激しく高鳴らせた。
「ここからがクライマックスだぜ。」
「へ、へぇ。」
宍戸が微妙な気分になっていることにもちろん跡部は気づいていた。クライマックスにな
ると言いながら、跡部はピアノを弾くのをやめてしまう。中途半端なところで終わってし
まったことに宍戸はあからさまに残念そうな顔をした。
「な、何で途中でやめちまうんだ?」
そう問う宍戸の唇に跡部は軽くキスをする。驚いた宍戸は石のように固まってしまう。
「言っただろ?ここからがクライマックスだって。」
「だから、何でやめちまうんだよ?」
困惑しまくっている宍戸を見て、ふっと笑いながら跡部は宍戸の感じやすい耳たぶを甘噛
みしながら妖しく囁く。
「続きはテメェの身体で奏でてやるよ。」
「・・・っ!?」
さっきの曲と今の台詞で宍戸はすっかり跡部のペースに引きずり込まれてしまった。抵抗
する気も全く起きない。跡部の奏でた音楽、それは催眠術のように宍戸の気持ちに作用す
るものであった。
先程まで、ピアノで美しい音楽を奏でていた跡部の指は、熱くなった宍戸の茎を器用に弄
り、さっきとは一味違うメロディーを奏でている。
「やっ・・・あ・・っとべ・・・」
「ピアノよりもいい音出してるじゃねぇか。」
「そんなこと・・ねぇ・・・やぁ・・・」
溢れる蜜と宍戸の口から漏れる甘い響き、他にはあり得ない艶やかな音の重なりは跡部の
耳を激しく刺激する。ここが音楽室であるところなど忘れ、跡部は自分の思うがままにや
りたいことを進めていった。
「跡部っ・・・こんなとこですんのはヤバイって・・・」
「何がヤバイんだよ?部室でも教室でもやったことあるんだから、変わんねぇだろ。」
「でも・・・ひっ・・あぁっ・・・!!」
「ヤバイと思ってる割には随分と感じてるみたいじゃねぇか。それともヤバイって思った
方がテメェは興奮すんのか?」
太郎が管理している音楽室でこんなことをするのは宍戸としては気が引けた。しかし、そ
う思えば思うほど、身体は跡部のすること全てに敏感に反応してしまう。この何とも言え
ない心理状態が宍戸の理性をだんだんと役に立たないものにしていく。
「くっ・・・ふ・・あっ・・・あん・・・・」
あまりの気持ちよさに声が抑えられなくなる。気持ちの中ではもちろん抑えたいとは思っ
ているのだ。だが、それを凌ぐ跡部の愛撫。もうわけが分からなくなる。
(何で俺はいつもこう流されちまうんだ!?でも、あんな曲聞かされて、あんなこと言わ
れたらこうなっちまうよなあ。しかも、跡部、やっぱり上手いし・・・。こんなふうにさ
れたら、その気がなくてもしたくなっちまうよなぁ。)
もう宍戸の頭の中では、したくないよりしたいという気持ちの方が何倍も上回っていた。
跡部の指が奏でる快感にだんだんと溺れてゆく。まだ、前の方にしか触られていないにも
関わらず、宍戸の蕾はひくひくと跡部に触れられるのを待っていた。
「宍戸。」
「・・・んだよ?」
「まだ、前しか触ってねぇのにお前のココ、もう挿れてくれと言わんばかりにひくついて
るぜ。そんなに俺様に触られるのが嬉しいのか?」
ニヤけながらそう言う跡部に違うと怒鳴りつけてやりたかった。しかし、それは宍戸には
出来なかった。何故なら跡部の言うことはほとんど間違っていないからだ。自分でもまだ
触れられていないそこがひどくひくついているのは嫌というほど分かる。だからこそ、そ
れを指摘されるのは恥ずかしくてたまらない。宍戸は顔を真っ赤に染め、羞恥心から涙目
になり、跡部のことを睨みつけた。
「触って欲しいんだろ?宍戸。」
「・・・・・」
「俺様に、ココを・・・」
跡部の指がまだ閉じかけている蕾に触れると、宍戸の胸は期待と羞恥で激しく高鳴る。早
く指を入れて掻き回して欲しい。言葉には出せないが、その瞬間宍戸の頭の中で生じた淫
らな言葉。それは口を通さず、跡部を見つめる瞳からしっかりと跡部に伝わった。
「宍戸、俺様のために歌ってもらうぜ。」
そう言いながら跡部はゆっくりと宍戸の内側へ指を埋め込んでゆく。初めから跡部の指を
求めていたそこは、軽々と二本の指を飲み込んでしまった。中に埋め込まれた指は、先程
ピアノで奏でていたメロディーをもう一度再現するかのように激しく、しかし、なめらか
に動かされる。宍戸はそれに応えるかのように両方の口から、跡部を満足させるような歌
声を聞かせてみせた。
「んっ・・ああっ・・・やぁっ・・跡部っ・・・あ・・あっ・・・」
「いいぜ。でも、まだ物足りねぇ。もっと激しく歌えるだろ?」
仰け反るように喘ぐ宍戸の濡れた茎を跡部は軽く握ってやる。当然そんなことをされれば
どんなに強い快感を与えられたとしても達することは出来ない。そうした上で、跡部は宍
戸の内側で一番敏感で感じやすい部分を器用な指先で何度もなぞった。
「ひあぁ・・・っ・・!!やっ・・・はぁんっ―――!」
「最高だぜ。今のお前の声も顔も。まだまだ歌ってもらうぜ!」
ギリギリまで高まっている熱を握られ、達することを許されないまま、宍戸は弱い部分を
何度も何度も弄られる。初めはそれがつらくて堪らない宍戸だったが、そのうちそれが果
てしない快感へと変わる。声が枯れてしまいそうな程、喘ぎ、許しを請い、跡部の名前を
呼び続ける。それが跡部に他のものでは与えることの出来ない悦びをもたらしていた。
「もう・・・変になっちまう・・・跡部・・・挿れて・・・・」
自然と宍戸の口から出た跡部を求める言葉。それを聞き、跡部は何とも言えない愉悦感を
感じる。既に宍戸の蕾をいつ入れられても大丈夫なほどに解れていた。宍戸の身体を反転
させ、ピアノの椅子に手をつかせると、跡部は容赦なく熱くなった楔を宍戸の内側へ埋め
込んだ。
「あぁっ・・あぁん―――っ!!」
その瞬間、宍戸は今まで溜まっていた熱を放つ。しかし、跡部は全く動きをとめようとは
しない。いったん達してしまったことで敏感になった身体は、跡部の与える刺激をより強
いものとして受け止める。
「あっ・・・いいっ・・・跡部・・・もっと・・・・」
「ああ、お前が欲しいならもっと激しくしてやるぜ。」
「ふっ・・・あ・・・跡部――っ!!」
久々の獣の体位に二人は夢中になっていた。ここが学校であることも忘れ、お互いを求め
合うことだけに没頭する。二人の乱れた呼吸と繋がった部分が奏でる濡れた音、それらが
織り成す狂想曲が音楽室に響き渡る。どちらの快感もクレッシェンドで高まった後、その
楽曲はエピローグを迎えた。
激しい歌曲を歌い終え、宍戸はぐったりとして跡部に寄りかかっていた。喘ぎすぎて喉は
渇くし、体も重い。しかし、残っているのは単なる疲労感だけではなかった。
「あー、だりぃ。」
「確かに今日のは少し激しかったかもしれねぇな。」
「少しどころじゃねぇよ!!かなりだろ!?かなり!!」
「でも、お前、全然嫌がってなかったじゃねぇか。」
「・・・だって、気持ちよかったんだもん。」
「あ?何だって?聞こえねぇよ。」
「だから、気持ちよかったっつってんだろ!!何度も言わせんじゃねぇ!!」
真っ赤になりながら宍戸は跡部を怒鳴りつけるように爆弾発言をする。よくもまあそんな
ことをデカイ声で言えるなあと跡部はウケまくっていた。
「くく・・・」
「わ、笑うなっ!!」
余計なことを言ってしまったと宍戸は真っ赤になって、跡部を怒鳴る。しかし、跡部は笑
うのをやめない。そんなことをしているうちに宍戸はすっかり拗ねてしまった。
「もう、跡部なんて知らねぇ!あんなことしといて、何でそんなに笑うんだよ・・・」
「悪ぃ悪ぃ。お前が可愛いことばっか言ってるから思わずな。機嫌直せよ。」
そう言いながら跡部は宍戸の顔を自分に向けさせ、唇を重ねる。こんなことで誤魔化され
てたまるかと思っていた宍戸だったが、何度かされているうちにどうでもよくなってしま
う。唇が離れた時には、もうすっかり機嫌は直っていた。
「はあ・・・」
「さて、休んだことだし、そろそろこのへん片付けて帰ろうぜ。」
「そうだな。よっこらしょ。」
汚れてしまった床の片付けは跡部に任せ、宍戸は乱れている制服をキチンと直す。片付け
終わるのとしっかりと着替えるのが同時に終わり、二人はそろってドアの方へ向かった。
「跡部。」
「どうした?」
「今日弾いてた曲、また聞かせてくれねぇか?」
思ってもみない宍戸のお願いに跡部は唖然。しかし、すぐに自信ありげに笑って頷いた。
「いいぜ。今度はしっかり最後まで聞かせてやるよ。」
「おう!今度は途中であーいうことするのはなしだからな。」
「さあな。それはその時の気分次第だ。」
くすくす笑いながら、跡部はドアを開ける。宍戸もつられて笑顔になった。滝に感化され、
こんなことをした跡部だが、結果は思った以上にいいものとなった。宍戸もそれほど嫌が
っていなかったので、その満足感は絶大なものだ。気分の良いまま、二人は音楽室をあと
にした。
次の日の部活で、跡部は滝に昨日あったことを話す。
「昨日、お前がしたみたいなことを宍戸とやったんだけどよ、かなりよかったぜ。」
「でしょー?だから言ったじゃん。」
「また監督が出張の時はしたいもんだな。」
「だよね。でも、ブッキングしないように気をつけなきゃ。」
「確かに。そりゃそうだ。」
宍戸と鳳がダブルスの練習をしているのを眺めながら、二人はそんな話で盛り上がる。意
気投合した二人は、しばらくそのネタで話を続けていた。一方、宍戸と鳳は休憩中、鳳は
一昨日のこと、宍戸は昨日のことを思い出していた。練習相手である岳人と忍足が今日あ
った音楽の授業のことを話しているのを聞いて、思い出してしまったのだ。
「音楽室かぁ・・・・」
「お、音楽室がどうかしたんですか?宍戸さん。」
「い、いや、別に何でもねぇよ!」
お互いに平静を保っているように見せているつもりだったが、どちらも明らかに動揺して
いた。あんなことをしてしまったのだ。当然であろう。しかし、宍戸も鳳もそれぞれのパ
ートナーと音楽室でしたことを全く後悔していないし、嫌なことだとは思っていなかった。
むしろ、たまにはあーいうのもいいよなあと思っているくらいだ。
(俺ってば、ホーント跡部にハマってるんだなあ・・・)
(やっぱ、俺、すごい滝さんのこと好きなんだな。)
そんなことを考えていると、それぞれのパートナーが二人のことを呼ぶ。
「宍戸、ちょっとこっちへ来い!」
「長太郎、こっちに冷たいドリンクあるよ。」
宍戸と鳳の二人はお互いに顔を見合わせ、行くかと笑って、向こうで待つ二人のもとへ駆
け出した。少し離れたところにいるとしても、いつでも心の中にいるのは大好きな相手。
以心伝心のようにタイミングよく声をかけられ、やっぱり相手も自分のこと思っていてく
れているのだなあと二人の顔は笑顔でいっぱいになるのであった。
END.