Like a Police

「ただいまー。」
「おっ、お帰り兄貴。どうだった?文化祭。」
帰ってきた兄を迎え、宍戸はそんなことを尋ねた。今日は兄の学校での文化祭だったのだ。
準備の段階からいろいろ聞かされていて、それがどうなったのか宍戸はものすごく気にな
っていた。
「もう大うけ。本番だっつーことで、他のやつらもノリノリでさ、かなり好評だったぜ。」
「へぇ。でも、ありえねぇよな。兄貴がミニスカポリスだなんて。」
宍戸は笑いながら言う。そう、宍戸の兄は文化祭の出し物でミニスカポリスの格好をし、
コントのようなことをやったのだ。宍戸自身は文化祭に行くことは出来なかったが、どだ
ったのかは帰ってくる前から聞きたいと思っていた。。
「まあ、似合ってなくはなかったと思うぜ。そうだ。亮、この衣装お前にやるよ。お前も
文化祭か何かで使えば?」
「えー、そんなの着ねぇよ。あっ、でも他の奴らに着せたら面白いかも。」
自分が着る着ないはさておき、他のメンバーに着せるのは楽しそうだと宍戸は兄から今日
文化祭で使った衣装を受け取った。誰に着せたら似合うだろうといろいろ考えてみる。誰
に着せても面白いなあとその姿を想像しながら、宍戸は思わず笑った。
「あー、もう俺疲れたから、部屋で一休みするわ。飯時になったら呼べよな。」
「おう。」
兄が自分の部屋へ入ってしまうと、宍戸は紙袋に入ったその衣装を取り出してみた。スカ
ートが少々短すぎることを除けば、かなり本物の婦警の制服に近い。
「このサイズだったら、忍足くらいなら問題なしに入るよな。うーん、でも、長太郎は無
理か。」
テニス部メンバーの誰に着せてみようかなあなどということをその服を見ながら考える。
そのとき、とあることがふと頭の中をよぎった。
(忍足とか滝とかもはもちろん似合いそうだけど、もしかしたら俺も似合うんじゃねぇ?)
しばしば跡部に女装させられることがあるので、宍戸はそんなことを思ってしまった。試
しに着てみようと思い、自分の部屋に戻り、こっそりと着替えてみた。鏡の前に立ってみ
ると、思った以上にその衣装は自分に似合っている。
「ふーん、俺ってば、結構似合ってんじゃん。少なくとも兄貴よりはマシだな。」
鏡を見ながら自画自賛していると、いいことを思いついてしまった。もしこの格好を跡部
の前でしたら、跡部は相当驚くのではないか。普段はさせられてばかりだが、自らこんな
格好をすることはそう滅多にない。そこを狙って驚かせてやろうという気持ちが宍戸の中
でふつふつと湧き上がってくる。
「こんな格好して、跡部の前に出たらかなりビックリするだろうな。よっし、明日も休み
だし、跡部んち行ってみようっと。」
思いついたらすぐに実行したくなるのが、宍戸だ。明日もちょうど休日なので、跡部の家
に遊びに行ってやれと自分の中で勝手に決めた。

次の日、宍戸は昼ちょっと前に跡部の家へと向かう。あの大きなお屋敷の前まで来るとイ
ンターフォンを押した。
『はーい。』
普段は執事かメイドが出るのであるが、今回は聞きなれた跡部の母親の声である。
「宍戸です。景吾いますか?」
『今、景吾ちゃん、買い物に行っちゃってるのよ。でも、お昼までには帰ってくると思う
わ。よかったら、うちに上がって待ってる?』
「いいんですか?」
『もちろんよ。どうぞ、上がって亮くん。』
跡部の母親にとって宍戸はかなりお気に入りの人物なのだ。跡部はすぐに帰ってくる。そ
んなことを言って、宍戸を家の中へと上げた。家の中へ上げてもらうと、宍戸は跡部の部
屋まで案内される。そこで待っていてもいいということらしい。
「もうすぐ帰ってくると思うから、くつろいで待っててね。」
「はい。ありがとうございます。」
跡部の母は紅茶とお菓子をテーブルの上へ置いて、跡部の部屋から出て行った。跡部の母
親がいなくなると、これはなかなかいい状況だと宍戸はニヤっと笑った。そして、持って
きていた例の服を出し、いそいそと着替え始める。跡部の部屋には全身を写すことの出来
る大きな鏡があるので、どんな感じかをそれでチェックし、よりよく見せようと工夫して
みる。
(もうちょっと女の子っぽく見せてもいいよな。まさか、こんなとこであいつからもらっ
たこれが役に立つなんて思わなかったぜ。)
あいつとはもちろん跡部のこと。もらったものとは、女の子向けの髪留めだ。もらった時
はこんなものはつけられねぇと怒ったが、今はもらっておいてよかったと思う。真っ赤な
ピンをいくつか髪につけると、思った以上の女の子っぽさに宍戸は自分で驚きつつも、こ
れなら跡部も驚かせてやれるだろうとやる気満々になっていた。
「結構いい感じじゃねぇ?やっぱ、俺ってこういう格好似合うんだな。」
跡部が帰ってくるまで、どうしてようか考え、適当に跡部の部屋をあさっていると机の引
き出しから手錠が出てきた。何でこんなところにこんなものが入っているんだと呆れつつ
も、これは使えるとそれを取り出してみる。
「いいオプション見ーっけ。てか、机の中にこんなもんが入ってるって、激ありえねぇし。」
手錠を腰にかけ、宍戸はお茶でも飲もうとソファに座った。用意されたお菓子も平らげ、
あとは跡部の帰りを待つのみだ。
「早く跡部帰って来ねぇかなあ。」
自分を見て驚く跡部の顔を想像するとうきうきしてしょうがない。ドキドキわくわくしな
がら跡部を待つ宍戸は、格好は婦警さんであるがまるで幼い子供のような表情だった。

「ただいまー。」
「あら、景吾ちゃん、おかえりなさい。さっき亮くんが来てね、今、景吾ちゃんの部屋で
待ってるの。」
「宍戸が?何の用だ?」
「遊びにでも来たんじゃない。だいぶ待たせてるから、早く行ってあげなさいね。」
「ああ。」
宍戸が来ていると母親に聞かされ、跡部の顔は若干緩む。宍戸からアポなしで自分を訪ね
てくることはほとんどない。何が理由であれ、これはなかなか嬉しいことだと跡部は軽く
心を躍らせながら自分の部屋へと向かう。
「おっ、跡部帰ってきたかな。」
部屋の外から足音が聞こえたので、宍戸は跡部が帰ってきたことに気がついた。どんな反
応をするのだろうとドキドキしながらドアの前で待つ。そんなことはつゆ知らず、跡部は
ただ宍戸がソファにでも寝転がって自分のことを待っているのだろうと思いながら、自分
の部屋のドアを開けた。
「待たせて悪かったな、しし・・・・」
「へへへ、逮捕しちまうぞ。」
ミニスカポリスなコスプレをした宍戸が今自分の目の前で楽しそうに笑っている。普段な
ら絶対にありえない光景に跡部は自分の目を疑った。思わず買ってきたものをドサッと床
に落としてしまう。
(よっしゃー、跡部驚いてる!!大成功じゃん!!)
「・・・宍戸。」
「おう?何だよ?跡部。」
「それは、誘ってるとみていいのか?」
真剣な眼差しで跡部はそんなことを聞いてくる。もちろん宍戸にはそんなつもりはない。
ただ跡部を驚かせたかっただけなのだ。
「い、いや、違う違う!!ちょっと跡部を驚かしてやろうと思って・・・・」
必死で否定する宍戸だが、そんなことを跡部は全く聞いちゃいない。宍戸の腰に手錠があ
るのを見て、これはいいとそれをパッと取り上げた。そして、その手錠をガシャンと宍戸
の腕につけてしまう。
「あっ!!」
「逮捕してやったぜ、宍戸。」
「逮捕するのは、俺の方だろ!?何で俺が逮捕されなくちゃいけねぇんだよ!!」
「俺の理性を奪った罪だ。盗難罪だぜ?」
「い、意味分かんねぇよ!!外せ!!」
がしゃがしゃと必死で手を動かしてみるが、手錠は全く外れる気配はない。変なふうに跡
部をあおってしまったと宍戸は自分のした悪戯を少々後悔した。
「なかなかいい格好でお出迎えじゃねぇか。何のサービスだよ?」
「だから、ちょっとお前を驚かせたかっただけだって言ってるだろ!!手錠外せよ!!」
「嫌だね。そんなに外して欲しかったら少し俺様の言うこと聞いてもらおうか。」
「何だよそれ!?」
手錠をされ、短いスカートということで身動きが取れず、宍戸はぶすっとした顔で跡部を
睨む。確かにこんな格好をしたのは自分だが、こんな展開になるとは全く予想していなか
った。
(くそー、手錠かけるなんて反則だあ!!せっかく婦警の格好してんのにこれじゃあ立場
が逆じゃねぇか。)
「さてと、何をしてもらおうかねぇ。」
「な、何にもしねぇからな!」
「じゃあ、手錠は外さなくてもいいんだな。」
「うっ・・・それは困る。」
「そんなにひどいことはさせねぇよ。そうだな、じゃあ、手始めにテメェからキスしても
らおうか。」
「なっ・・・くそ、分かったよ。」
下手に反論するともっと大変なことをさせられるかもしれない。まだ自分からキスくらい
ならマシだと、宍戸は素直に従うことにした。跡部は悠々とソファに座っている。隣に座
るとやりにくいので、宍戸は床に座って、下から跡部を見上げる形でゆっくりと顔を近づ
けた。
「目、つぶれよ。」
「あーん?ちゃんとテメェがするかどうか見てなきゃいけねぇだろ。」
「激ムカツク・・・」
そうぼやきながらも宍戸は自分の唇を跡部の唇にピッタリくっつける。頬を染め、顔を傾
け自分にキスをしている様は跡部にとってたまらない光景だった。ゆっくり唇を離し、小
さく息をつくためにうつむく表情もなんとも言えない。
「これでいいだろ。」
「いや、全然足りねぇな。キスっつったら、舌入れるのが普通だろ?」
絶対違うとつっこみたかったが、宍戸はあえてそれを口に出さなかった。仕方なくもう一
度跡部にキスするために宍戸は大きく深呼吸をした。
「もっかいだけだからな!」
「ちゃんと出来たらそれで終わりにしてやるよ。」
動かない腕をだらんとたらしながら、宍戸はぐっと上半身を起こし、跡部の唇にもう一度
キスをする。今度は少し唇を開き、おずおずと跡部の口腔内に熱くなっている舌を入れた。
宍戸の舌が自分の口の中に入ってくるのをじっくりと味わい、跡部はしばらく何もしない
でいる。跡部が何もしないとなると宍戸の方から、舌を絡めていかなければいけないこと
になってしまう。
(くそー、マジ跡部の奴ムカツクし。何で、俺がこんなことしなくちゃいけねぇんだよ。)
そんな文句を心の中で呟いていると、それを感じとったのか跡部が突然動きだした。しっ
かりと腰を抱き、頭に手を添え、宍戸をさらに動けないようにしてしまう。そして、宍戸
の口内を探るように激しく舌を絡め出した。
「んっ・・・んん・・・・!」
突然、跡部主導のキスに変わり宍戸は戸惑う。こうされるともう自分では何も出来なくな
ってしまう。息苦しさと全身が痺れるような気持ちよさに宍戸の頭は真っ白になってしま
った。うっすら目を開けると跡部の真っ青な瞳と視線がぶつかりあう。そんな瞳から目が
離せなくなり、宍戸は金縛りをかけられたようにすっかり固まってしまった。
「ん・・・あと・・べ・・・・んぅ・・・・」
自分が満足するまで跡部は決して宍戸から唇を離そうとしない。宍戸の息が絶え絶えにな
っていることにも全く構わず、跡部はしばらく宍戸の味を楽しんだ。
「ふ・・・はぁ・・・ハァ・・・」
銀色の糸を引きながら跡部が離れた時には、宍戸の顔はすっかり紅潮し、息もだいぶ乱れ
ていた。もう何があったかを把握することが出来ないほど、頭がぼーっとしている。今の
キスですっかりうるんでしまった瞳は、虚ろな様子で跡部の顔を眺める。
「いい顔してるぜ、宍戸。そんなによかったのかよ?」
跡部の言葉にハッと宍戸は正気に戻る。正気に戻るとさっきまでの出来事が鮮明に蘇り、
恥ずかしくなってしまう。
「そ、そんなことねぇよ!!もういいだろっ、早く手錠外せよ!!」
「まだ外さねぇ。」
「何でだよ!?ちゃんと俺からキスしたじゃねぇか!」
「せっかくこんな格好してんだ。これで終わらすのは勿体ねぇだろ?そうだな・・・写真
でも撮らせろよ。」
「はあ!?何、ふざけたこと言ってんだよ!?絶対やだからな!!」
「だったら、犯らせろ。」
「それはもっと嫌だ!!」
宍戸の婦警姿にすっかりハマってしまった跡部は次から次へと無理難題を宍戸に押し付け
る。宍戸はもう跡部の言うことに反抗するしかない。
「どっちかだ。そのどっちかをやらせてくれたら、今度こそ何の文句もなしにそれ外して
やるよ。」
「くっ・・・」
(もう跡部のやりたい放題じゃねぇか。写真かやられるのかどっちかって、ふざけんなっ
ての!!でも、この二つだったらどう考えても写真の方だよな。)
このままの格好でどちらをされる方がマシかと言ったら、そりゃ写真の方であろう。しか
し、跡部が普通の写真を撮るはずがない。しかし、宍戸はそこまで頭が回っていないので、
写真を撮られる方を選んだ。
「じゃあ、写真の方。まだそっちのがマシだ。」
「ふっ、写真だな。それじゃあ、そのいい格好、しっかり収めさせてもらうぜ。」
机の上にあるデジカメを手に取ると跡部はこれ以上なく嬉しそうな顔で宍戸を見る。その
笑顔に妙な不安を感じたが、まだそれくらいなら我慢出来ると怒る気持ちをぐっと抑えた。
「まずは普通に撮るか。」
そういうと跡部は特にポーズの指定もなしに、何枚か婦警姿の宍戸を撮り始めた。宍戸は
当然のことながらムスっとした表情だ。
(まあ、初めはこれくらいで我慢してやるか。この後が本番だもんな。)
心の中でそう思いながら、跡部はくっと喉の奥で笑った。7枚か8枚程、普通の宍戸を撮
り終えると跡部は、宍戸に様々な注文をつけ始めた。
「今のは手慣らしだ。こっからが本番だぜ。」
「はあ?まだ撮るのかよ。」
呆れつつも早く終わって欲しいと宍戸は特に跡部の言うことに反抗することはしなかった。
跡部の言う意味の分からない注文に素直にしたがってゆく。
「そうだな・・・まず、もっと床にぺたんと座って俺の方見ろ。」
「ぺたんと座って?こうか?」
ちょうどあひる座りのような形に宍戸は座り直す。そして、そのままソファに座っている
跡部のことを見上げた。
「で、目つぶって口開けろ。」
「はあ?意味分かんねぇし。」
そう呟きながらも宍戸は言われた通りにする。その瞬間、シャッターをきる音が宍戸の耳
に聞こえた。
(跡部の奴、意味分かんねぇポーズさせるよな。何がしてぇのか全く検討がつかないぜ。)
そんなことを考えていると跡部の指がつっと首を撫でた。目をつぶっているところにそん
なことをされ、宍戸は思わず声をあげる。
「ひゃっ!!」
その瞬間にもシャッター音が一度か二度聞こえた。文句を言おうと目を開けると跡部は実
に満足そうな表情で笑っている。
「いい写真撮れたぜ。想像以上だ。」
「いきなり何すんだよ!?もういいだろ!!」
「あと何枚か撮らせろ。ソファに座ってとあとベッドでも撮りてぇな。」
調子に乗った跡部はまだまだ撮りたいといろいろな場所に移動させ、様々な種類の写真を
撮る。もうやけくそだと宍戸はその全部につきあってやった。全て撮り終わるとやっと跡
部は満足したようで、宍戸の手錠を外し、カメラを机の上に置いた。
「まあ、今日はこれで勘弁してやるよ。」
「ったく、どんだけ撮れば気が済むんだよ・・・」
何十枚とこんな格好を撮られ、宍戸はもうへとへと。特に何をしたわけではないが、精神
的に疲れてしまった。
「景吾ちゃーん、ちょっと来て頂戴。」
宍戸がぐったりソファの上でつっぷしていると跡部は母親に呼ばれた。面倒くせぇなと言
いながらも跡部はいったん部屋を出てゆく。跡部が出て行ったのを確認すると、宍戸は机
の上にある手に取った。
「あんなにいっぱい何撮ったんだよ?そんなにこの格好が気にいったのかねぇ。」
表示機能で宍戸は先ほど撮られた写真を一つ一つ見てゆく。初めのほうは普通の写真なの
だが、ポーズを指定され始めたあたりの写真からかなりおかしなものになっているという
ことに宍戸は気がついた。
「な、何だよこれ・・・?」
写っている自分の姿を見て、宍戸は顔を真っ赤に染めた。確かに跡部に言われてしたポー
ズではあるのだが、その一つ一つが何か他のことをしているように見えるのだ。これが目
的だったのかと宍戸は跡部があれほどたくさんの写真を撮っていた理由を理解した。
「こんな写真残しておいてたまるか!!まだ帰ってきそうにないし、消しちまえ。」
宍戸は跡部が今部屋にいないのをいいことに自分の気に入らない写真は全て消去してしま
った。
「よっし、これで全部消えたぜ。」
「何が消えたって?宍戸。」
「っ!?・・・あ、跡部?」
写真を消すのに夢中で気づかなかったが、跡部はいつの間にか部屋へと戻ってきていた。
その表情は笑ってはいるが、確実に怒っている。
「せっかく撮った写真をテメェは消しちまったみたいだな。」
「だ、だって、あんな写真っ・・・・」
「俺は手錠を外してやったのに、テメェは写真を消しちまった。これじゃあ、ギブアンド
テイクは成立しないよなあ?」
「もともとテメェが手錠なんてかけるのがいけねぇんだろ!!俺は悪くねぇ!!」
さすがに我慢の限界だと宍戸は跡部を怒鳴る。しかし、跡部の怒りはそんな宍戸以上だっ
た。
「写真じゃ嫌だっつーんなら、もう一つの方がいいってことだよな?さっきの写真消した
代償、しっかり返してもらうぜ。」
笑顔の中の怒りというのは恐ろしいものがある。メデューサの顔を見たかのように宍戸は
石のように固まってしまった。声も出せず、抵抗も出来ないでいるとあっという間に宍戸
の体は跡部の大きなベッドに転がされてしまった。
「わ、悪かった跡部っ、さっきの写真、もう一回撮らせるから・・・・」
「もう遅ぇーよ。安心しろ。写真はこの後ちゃーんと撮ってやるからよ。」
宍戸を組み敷きながら跡部は笑いながらそんなことを言う。宍戸はすっかり涙目。余計な
ことをしなければよかったと激しく後悔した。

「ひっく・・・う・・・跡部のアホ。あそこまですることねぇじゃねぇか。」
自ら着替えた婦警の制服はすっかり跡部にはがされていた。イメクラ状態でやられた上に
写真まで撮られてしまった。ひどいひどいと宍戸は、枕に突っ伏して泣いている。
「何もそんなに泣くことねぇだろ。別に今日はそこまでひどくはしてねぇぜ。」
「うそつけ!!もう絶対絶ー対、自分からあんな格好しねぇ!!跡部に頼まれたってする
もんか!!」
「自分でするしないは勝手だが、俺がしろって言ったらしてもらうぜ。」
「絶ー対しない!!」
あんな格好したのは自分だが、跡部のしたことはひどすぎると宍戸はかなり怒っていた。
もう絶対コスプレチックな格好はするもんかと起き上がりながら跡部に激しい口調で言う。
「テメェがあーいう格好が似合いすぎるから、俺もそういう気分になっちまうんだぜ。」
「全然理由になってねぇよ。」
「じゃあ、俺はテメェのことが好きだから、あーいう格好されると興奮しちまう。これで
どうよ?ちゃんと理由になってるだろ?」
「・・・・・・」
好きだからということを強調されると、宍戸としても文句を言えなくなってしまう。跡部
がすることはどこか屈折したところもあるが、どんなことでも宍戸に対する愛情表現なの
だ。
「・・・・そこだけは認めてやるよ。」
「そこってどこだ?」
「跡部が・・・俺を好きだってコト。」
「へぇ、なかなか物分かりがよくなったじゃねぇか。」
「でも、他のところは認めねぇからな!もう無理矢理あーいうことすんじゃねぇよ!」
怒りが確実におさまってきていることを跡部は感づいて、さらにとどめをさしてやろうと
愛情をこめて宍戸の体を抱きしめてやる。
「っ!」
「あれも俺としては一種の愛情表現だからなあ。そうすぐにはやめられねぇぜ?」
「少しは自制しろ、アホ・・・」
跡部に抱きしめられながら、宍戸はぼそっとそう呟く。しかし、その言葉に先ほどのよう
な怒りは感じられない。どうしてここまで跡部にハマっているかは分からないが、ちょっ
とでも愛のある言葉を感じると思わず機嫌も直ってしまうのだ。
「まあ、出来るだけ善処してやるよ。」
実際はそんなことはしないだろうと思っていても宍戸はそれで満足してしまう。もうこの
まま寝ちまえと宍戸は跡部の背中に腕を回して、頭を肩に預けた。
「もう疲れた。寝る!!絶対起こすなよ。」
「この状態で寝るのかよ?」
「いいだろ別に!おやすみ!!」
宍戸の不器用な愛情表現に跡部は苦笑。それでもやはり、可愛い奴だと思ってしまう。し
ばらくすると本当に宍戸は眠ってしまった。
「ま、こういうのも悪くねぇな。」
髪留めがされたままの宍戸の頭を撫で、跡部はさっきまでのからかうような笑顔とは全く
違う優しく穏やかに微笑む。腕の中の宍戸のぬくもり。跡部はそれが大好きだった。勢い
からあんなことになってしまったが、大満足だとそれを表すかのように跡部は宍戸の髪に
優しく口づけを施すのであった。

                                END.

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