とある暖かな春の日曜日。今日は会社が休みなので、元氷帝学園の面々はそれぞれ有意義
な休日を過ごしていた。
滝と鳳の二人は川原にピクニックに来ている。おいしそうなサンドイッチと手作りデザー
トをバスケットに入れ、日の当たる川べりに腰を下ろしていた。
「長太郎は何食べる?玉子サンドにシーチキンサンド、ハムチーズサンドにミックスサン
ド、何でもあるよ。」
「えっと、そんなにあると迷っちゃうな。じゃあ、ミックスサンドにします。」
「はい。じゃあ、俺は玉子サンドにしよーっと。」
バスケットからサンドイッチを出して、それを食べ始める。もちろんこれは、滝の手作り
で味はバッチリ。種類もかなり豊富だった。
「やっぱ、滝さんが作るものおいしいですね。」
「そうかな?ありがとう。」
ニコッと笑って、滝は鳳にもう一つサンドイッチを渡す。
「たくさん食べてね。いっぱいあるから。」
「はい。」
鳳も笑顔で渡されたサンドイッチを受け取った。バスケットに入ったサンドイッチがなく
なる頃、二人は満腹で満足そうな溜め息を漏らす。
「はあー、お腹いっぱい。」
「俺もです。でも、量的にはちょうどいいですよ。」
「あっ、お茶も持ってきたけど飲む?」
「はい。ありがとうございます。」
温かい紅茶を滝は水筒にに入れてきていた。それを水筒のふたに注ぎ、鳳に渡す。淹れて
からだいぶ時間が経っているはずなのに、紅茶の味は全く落ちていなく、おいしいままだ
った。
「これ、淹れてからだいぶ時間経ってますよね?何でこんなにおいしいんっスか?」
「内緒。ちょっとした裏技があるんだよね。」
「何ですか、それ。教えて下さいよー。」
「ダーメ。これは俺だけの秘密なの。」
「むぅー、滝さんのケチ。」
教えてあげないと滝が笑いながら言うと、鳳はほっぺを膨らませ拗ねたような表情を見せ
た。滝はそんな鳳が可愛いと軽く頬にキスをする。
「ふふふ、長太郎、本当可愛いよね。ゴメンゴメン。ここじゃ教えてあげられないから、
うちに帰ったら教えてあげる。」
「滝さーん、からかわないで下さいよー。」
顔を真っ赤にしながら、鳳はまた少し怒ったような表情を見せた。だが、こんな他愛もな
いやりとりが鳳にとってはうれしくて仕方がない。それは滝も同じだった。
「あっ、見て長太郎。タンポポが咲いてる。」
「本当だ。あっ、あっちにはつくしがありますよ。」
「こっちには、スミレもある。なんかもうすっかり春だねー。」
最近、すっかり暖かくなったので、春の植物がたくさん顔を出しているのだ。
「俺さ、こういうとこに咲いてるこういう花とかすごい好きなんだ。」
「何でですか?滝さんって、なんか、バラとかユリとかそういう感じの花の方が似合うと
思うんですけど。」
「確かにそういう花も好きだよ。でもさ、こんなふうに小さな花が一生懸命咲いてるの見
ると、気持ちが落ち着くっていうか優しくなれない?」
「えっと・・・そうですね。」
穏やかな表情で滝は語り出す。
「バラとかユリとか花屋さんに置いてある花ってさ、みんなキレイだし、それが好きで買
って行く人もいっぱいいるでしょ。それで、その花達はお店にいる時もそうだし、買われ
てからもいろんな人にキレイとか言われるじゃん。それって、花にとってはすごくうれし
いことだと思うんだ。だけど、こういうところに咲いてる花も同じだと思う。確かに花屋
さんほど、いろんな人に見てもらえるわけでもないし、飾られるってこともないと思う。
でもさ、やっぱり可愛くてキレイなのは変わらないじゃん?だから、見つけた人が可愛い
とかキレイだねとか言ってあげれば花もうれしいと思うんだ。」
滝はタンポポに細い指で優しく触れながら、鳳に話した。鳳はそれを聞くと花が本当にそ
ういう心を持っているように思えてきて、滝の指の上から一生懸命に花を咲かせているタ
ンポポに手を触れた。
「確かにそうかもしれませんね。人だってやっぱり褒められたりするとうれしいんだから、
花も同じですよね。たとえそれがどんなに置かれている状況が違っていても、“うれしい”
って思う気持ちはきっと変わらないですよね。」
「うん。だから、俺達がいっぱいここにある花を褒めてあげようよ。」
「はい!」
二人は川原に咲いているいろいろな種類の小さな花達に可愛い、キレイと語りかけた。花
達はそれをうれしいと言っているかのように風の手を借り、小さく揺れる。
「こんなこと言ってきたけどさ、俺が一番可愛いとかキレイとか言ってるのって花相手じ
ゃないんだよな。」
「えっ、どういうことっスか?」
「そんなの決まってんじゃん。一番そういうこと言ってる相手って言ったら、長太郎だろ?」
「へっ!?」
「なんか、俺、一日三回くらいは長太郎にそういうこと言ってるような気がする。」
「そうでしたっけ?」
「そうだよ。あっ、長太郎、もしかしてそういう言葉全く耳に入ってない?」
「そんなわけないじゃないですか。言われすぎててもう一日何回なんて考えてませんよ。」
鳳は照れながら、滝に言う。滝はからかうように笑って、鳳の頭を撫でる。
「長太郎、可愛い、可愛い。」
「子供扱いしないで下さい。」
「俺に可愛いって言われるの嫌?」
「うっ、嫌じゃないですけど・・・。」
「じゃあ、いいじゃん。」
いったん寂しそうな顔を見せたあと、また楽しそうに滝は笑う。結婚してから初めて迎え
る春という季節。だが、この二人の頭の中は年中春なのであろう。
岳人と忍足の二人は公園に散歩に来ている。ポカポカとした暖かい空気の道を二人で仲良
く歩いていた。
「今日は暖かいね、侑士。」
「せやな。絶好の散歩日和や。」
まわりを桜の木で囲まれた散歩道をテクテクと歩いていく。まだ開花はしていないが、だ
いぶ蕾が膨らんでいて、おそらく今週中には開花すると思われる。
「もうすぐ桜咲きそうだね。」
「ああ。今週中には咲くんとちゃうか?」
「マジで!?じゃあさ、今度の休みはお花見に来ようぜ。」
「あっ、それええな。そんなら、お花見弁当作らんと。」
「俺、ハンバーグと卵焼き入れて欲しい!」
「ええよ。岳人の好きなもんいっぱい入った特製のお花見弁当作ったる。」
「やったー!あっ、じゃあさ、あとデザートもちゃんと入れてね。」
「ああ。今から楽しみやな。」
「うん!!」
二人がお花見について話しているとどこからか不思議な鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「ホ・・ホケ・・・ホキョ・・・」
「ん?なんやこの声。」
「なんか変なのー。聞いたことある感じなんだけど何の鳥だろう?」
「・・ケキョ・・・ホ・・ホケ・・・ホケ・・キョ・・・」
「あー!分かった!!」
岳人が突然大声を出す。鳥の正体が分かったようだ。
「侑士、これウグイスじゃねぇ?」
「ああ!そっか、確かにこんな鳴き声の時もあるもんな。」
「こんな鳴き声の時もあるってどういうことだ?」
岳人に尋ねられ、忍足は詳しく説明する。
「ウグイスはな、大人になりたてだと、まだ上手く鳴けんのや。だから、あんなふうに小
さい声で鳴く練習をするんやで。」
「へぇ、そうなんだ。侑士って物知りだな。」
「そないなことあらへんよ。」
「ホー・・・ケキョ・・・ホー・・・ホキョ・・」
「あっ、さっきより上手くなってる。あと、もう少しだ。」
「頑張りや。」
ウグイスの止まっている桜の木に向かい、二人は声をかけた。ウグイスは一生懸命鳴く練
習を続ける。そして、二人がその場を去ろうとしたその時・・・
「ホーホケキョ・・・ホー・・ホケキョ・・・」
二人は顔を見合わせうれしそうに笑った。
「侑士、今の聞いたか!!」
「ああ。しっかり鳴いとったな。ホーホケキョって。」
「すっげぇ、やるじゃんアイツ。」
ちゃんとしたウグイスの声を聞くことができたので、二人はうれしくなった。にこにこし
ながら、散歩を続ける。
「うっわあ、なんか俺あんなの聞いたの初めて。」
「俺もやで。あんなふうに鳴けるようになるんやな。」
「なんかいいな。春の日の散歩って。」
しばらく歩いて行くと、また二人の間の前に春ならではの動物が姿を現した。
ピョコンッ・・・ピョコンッ・・・
「あっ、カエル発見!!」
「ホンマや。土の中からもう出てきてんのやな。」
「可愛いー。」
「可愛いかあ?俺はそうは思わんけど。」
「何でー、可愛いじゃん。ピョンピョン跳ねててさ。」
「それ、自分と同じやからとちゃう?」
「あっ。」
忍足にそう言われ、岳人は全くその通りだと思ってしまった。自分と同じような動きをし
ているから、妙な愛着感がわいているのだ。
「で、でもさ、俺なら可愛いと思うだろ侑士?」
「自分で言うか?それ。あー、でもカエルと同じと考えるとなんかなあ・・・。」
「そんなー。ほら、俺、カエルなんかより全然高く飛べるぜ。」
岳人はその場でいつものように飛び跳ねた。そして、空中で宙返りをするが途中でバラン
スを崩してしまう。
「うわっ・・・侑士、危ない!!」
「えっ!!」
ドサッ
見事に岳人は忍足の上に落下。思いきり下敷きにしてしまった。
「いてて、って、わああ!!侑士ゴメン!!大丈夫!?」
「大丈夫なわけあるか。もう何やっとんのや岳人。」
「ゴメンな、ゴメンな!!」
「もうええよ。別に怪我もしてへんし。」
「本当ゴメンねー。あっ、じゃあ、お詫びにちゅうしてあげる。」
「えっ、そんなこないなとこで・・・・」
忍足の言葉に全く耳を傾けず、岳人はそのまま忍足の唇にキスをした。恥ずかしいなと思
いながらも、さっきのことは今ので許そうと思ってしまう忍足なのであった。
ジローと樺地はうちでのんびりと日なたぼっこをしている。樺地の膝を枕にし、ジローは寝
転がっている。それもただ膝枕をしてもらっているわけではないのだ。
「んー、樺地やっぱ上手。全然痛くない。」
「ウス。」
「あっ、もうちょっと右側。そう、その辺。」
ただいまジローは樺地に耳かきをしてもらっている。器用な樺地はこんなことも朝飯前。
それも、痛くないようにとかなり丁寧にしてもらえるので、ジローにとってはかなり心地
のよいものなのだ。
「気持ちE〜、あー、なんか眠くなってきちゃった。」
穏やかな太陽の光と耳かきの気持ちよさから、ジローはいつものように睡眠モードに入っ
てしまう。うとうとと目を閉じようとしたその時、ジローの目に興味深いものが映った。
「あっ!!」
ジローが急に動こうとするので、樺地はとっさに耳かきをジローの耳から抜く。ジローの
目にとまったもの、それは二匹のモンシロチョウだった。開けっ放しの窓から入ってきた
のだ。
「わあ、ちょうちょだー。樺地、ちょうちょだぜ。ちょうちょ。」
「ウス。」
「家に入ってくるなんて珍しいよな。マジマジスッゲー!!」
体を起こし、まるで子供のようにはしゃぐ。モンシロチョウを触りたいと飛び回る蝶のあ
とをパタパタと追いかけ回した。上を見ながら走っていたので、床に置いてあった本につ
まずき思いきりこけた。
「うわっ!!」
「!!」
転んだジローを樺地は慌てて起こす。ジローは笑いながら、心配する樺地の顔を見上げる。
「あはは、転んじゃった。ちょうちょってすぐ逃げちゃうからつかまえられないんだよな。」
「・・・・。」
樺地は蝶を見つめながら、右手をすっと上に上げる。すると、二匹の蝶が樺地の大きな手
に止まった。そして、それをジローの目の前に差し出す。
「ウス。」
「わあっ、スッゲー樺地。何で、何で?」
「・・・・。」
黙ったままで樺地はそっとジローの手を取り、モンシロチョウに触れさせた。ジローは簡
単に蝶に触れたことに大感激だ。
「うわあ・・・」
目を輝かせ、樺地の顔を見る。樺地はもう一度腕を掲げ、蝶を逃がした。
「マジマジスッゲー!!樺地、すご過ぎ!!俺、超感激ー!!」
「ウス。」
「樺地って、なんか人とは違うもん持ってるよな。人ができないことができるっていうか
さ。」
そう言いながら、ジローは立ち上がろうとする。ところが、足が痛くて立てない。
「痛ってー!!」
「!?」
「樺地〜、さっき転んだので足捻っちゃったよ〜。」
痛い痛いと足を押さえているジローを樺地は軽々と持ち上げ、ソファへと運んだ。そして、
優しく下ろすと、救急箱を取りに行く。戻ってくるとその中からシップと包帯を取り出し、
足の手当てを始める。
「ゴメンな樺地ー。俺、ドジだからさあ。」
「・・・・。」
「怒ってる?」
ジローが不安そうな表情で尋ねると、樺地は黙って首を横に振った。すると、ジローはに
こっと笑い、ぎゅっと樺地の首に腕を回した。
「樺地って、本当やさC〜よね。だから、きっとちょうちょも懐くんだよな。うわっ!」
腕を伸ばして樺地に抱きついたが、体がついていかなかったので、ジローは樺地の足の上
にストンとソファから落ちてしまった。
「ありゃ、落ちちゃった。」
「足・・・大丈夫です・・・か?」
「あっ、うん。全然へーきだよ。」
樺地が急にしゃべるのでジローは少し驚いた。そのままの状態で動かないでいると、先程
のモンシロチョウが二人の方に飛んできた。そして、二匹ともジローの頭にとまる。
「あっ・・・。」
「・・・・!」
ジローはくすぐったそうにしながら、頭を見上げる。だが、もちろんジローの視界には入
ることはない。
「スッゲー、俺の頭にちょうちょがとまってくれたよ。」
「ウス。」
「なんか、うれC〜。これもきっと樺地のおかげだよね。」
またもや、うれしそうな笑顔になってジローは目の前にある樺地の顔を見た。そして、唇
ギリギリのところに軽くキスをする。
「っ!!」
「あはは、ビックリしたでしょー。樺地、顔真っ赤ー。」
悪戯に成功したような笑顔でジローは笑う。樺地は珍しく顔を赤くして、うつむいてしま
った。
「いっぱいはしゃいだから、眠くなってきちゃった〜。ちょっと、寝かせてね樺地♪」
そのままの状態でジローは眠ってしまう。樺地は少し困惑しながらも、このまだ純粋な子
供のような先輩を膝に乗せたまま、ソファに寄りかかるのだった。
跡部と宍戸もジローや樺地と同じく、どこにも出かけずに家にいた。
「亮、どっか出かけねぇか。」
「まだ洗濯物がたたみ終わってねぇから無理。」
「そんなのあとででいいじゃねぇか。」
「ダメだ。あとにまわすと無駄に増えて面倒くさくなっちまう。早く出かけたいんだった
ら、お前も手伝えよ。」
「それはお前の仕事だろ。何でわざわざ俺がそんなことしなくちゃいけねぇんだよ。」
「何だよ、その言い方。激むかつく。俺だって、毎日大変なんだからな!」
「そんな怒ることねぇだろうが。」
跡部の無神経な言葉に宍戸は少しキレ気味。跡部はソファに座りながら、ただ、宍戸が洗
濯物をたたむのを見ているだけだ。
「亮。」
「・・・・。」
「亮、聞こえねぇのかよ。」
「・・・・。」
「ちっ、そんなことしてるともう声かけてやんねぇぞ。」
「・・・・。」
宍戸は相当怒っているようで、跡部に声をかけられても返事をしない。跡部も怒って、自
分の部屋へと行ってしまった。
「何だよ、景吾の奴。俺だって、本当に大変なんだぞ。」
愚痴をこぼしながらも宍戸は跡部がどこかに行ってしまって寂しく思っていた。洗濯物を
さっさとたたんでしまい、気持ちを落ち着かせようと庭へ出る。
「おっ!」
宍戸は窓のすぐ横にある長方形のプランターに大きな変化が起こっているのに気がついた。
「わあ、結構キレイに咲いたなあ。」
宍戸がうれしそうにその花を眺めていると、跡部が部屋から戻ってきた。
「あっ、景吾。洗濯物たたみ終わったぜ。」
前々から育てていた植物が一気に咲き乱れて、上機嫌になった宍戸はさっきのことはなか
ったかのように跡部に声をかける。
「・・・・・・。」
跡部が返事をしないので、宍戸は家に上がり、跡部の手を無理やり引っ張って庭に出した。
「んだよ。亮。」
「ほら、見ろよ。俺が育てたんだぜ。」
宍戸はプランターに咲き乱れるチューリップを指差し、うれしそうに言う。跡部はそれを
見て、表情を変えた。それは、宍戸と同じように喜ぶといった表情でもなく、全く興味が
ないから怒っているという感じでもない。何かヤバイなというような気まずそうな表情だ
った。
「どうした、景吾?さっきのことまだ怒ってんのか?」
「あっ、いや・・・」
跡部は宍戸から目を逸らす。宍戸はその跡部の態度に疑問を抱いた。
「何なんだよー、さっきから。さっきのことは悪かったって。」
「別にそれは関係ない。」
「じゃあ、どうして俺と目合わせてくんねぇんだ。」
「何でもねぇって言ってんだろ!」
跡部は宍戸を振り払うかのように慌てて家の中に入っていった。宍戸はいまだに自分のさ
っきの態度が悪かったと思い、跡部のあとを追いかける。跡部はテーブルの横のイスに何
かを隠していたらしく、それが宍戸に見つからないようにとしようとしたのだ。
「景吾っ!」
バサッ
宍戸が突然声をかけるので、跡部は持っていたものを床に落とした。
「ヤベッ・・・」
「景吾、それ・・・」
跡部が落としたもの、それは赤と紫と緑のチューリップの花束だった。宍戸は変わった色
の組み合わせだなあと思ったが、球根を植える時に見た花言葉のことを思い出す。
「くそっ、かぶるとは思わなかった。」
「どうしたんだよ、その花束?」
宍戸がそう尋ねた瞬間、跡部の顔が赤く染まる。
「昨日、花屋の前通って・・・お前、チューリップ似合いそうだなって思ったから・・・。」
宍戸は落ちた花束を拾い上げ、それを抱きしめて最高の笑顔を見せる。
「あんがとな。すっげーうれしいぜ。」
「そんな嘘つくんじゃねーよ。お前が育てた花と同じなんだぜ?」
「違うぜ。赤と紫と緑のチューリップの花言葉って、確か全部恋に関していい感じの奴だ
ったよな。愛の告白とか不滅の愛とかだっけ?」
そこまでバレてたのかと跡部はまた顔を赤く染めた。こんなに恥ずかしいと思ったのは久
しぶりだと思わず顔を手のひらで覆う。
「何、そんな照れてんだよ。」
「べ、別に照れてなんかねぇ!」
「これ、ベッドの横に飾っていいか?」
「勝手にしろよ。」
「ああ。じゃあ、勝手にさせてもらうぜ。」
宍戸は受け取ったチューリップを花瓶に生けて、自分達の部屋のベッドの横に飾った。そ
して、跡部のもとへ戻り、自ら跡部の唇にキスをした。
「!」
「さっきのお詫びと感謝の気持ち。お前がこんなことしてくれるとは思ってなかったから、
なんかスゲーうれしい。」
「そうかよ。でも、お前からしてくれるってのも珍しいよな?」
「そうか?」
「ああ。だけど、あんなキスじゃ俺は満足させられないぜ。やっぱ、これくらいはしない
とな。」
「ん・・・んぅ・・・」
宍戸の体を抱きしめ、跡部はさっきのお返しだと言わんばかりに深く唇を重ねる。宍戸は
こうされ、やっぱり跡部は跡部なんだなと心底感じた。
「ぷ・・・は・・・」
「亮、今日はやっぱ出かけんのやめだ。部屋行くぞ。」
「はあ!?こんな昼間っからすんのかよ。」
「嫌なのか?」
「まあ、嫌じゃねぇけどさ。」
跡部は宍戸の手を引き、寝室へと向かった。宍戸もそれなりに乗り気ではあるようだ。
とある暖かな春の日曜日。どのカップルも全てが春色に染まっているのだった。
END.