とある休日、ほんのちょっとしたきっかけから、氷帝レギュラーメンバーは跡部の家でド
リンク・パーティーをすることに、すなわちお酒を飲んで騒ぎあおうということになった。
好奇心が強い盛りであるので、それはそれはもうみんなノリノリであった。
「うわあ、結構集まったな。」
「すごいですね、先輩達。どうやってこんなに集めたんですか?」
「俺は家にあったのをくすねただけだぜ。山ほどあるからいくつか取ったって分かりゃし
ねぇよ。」
「俺は兄貴に買ってきてもらった。」
「俺はちょっと大人っぽい格好して買いに行ったら、普通に買えたで。」
それぞれ様々な方法で、アルコール類を集めてきた。テーブルに並んだそれは缶・ビン合
わせ、ゆうに二十本は越えていた。その中には、チューハイなどのように比較的度数の低
いものもあれば、ワインやリキュールなどそれなりの度数なものもあり、中にはジンやウ
ォッカ、泡盛などかなり高い度数のものもあった。
「見てるだけだと面白くねぇしな。さっさと飲み始めようぜ。」
『おう!!』
跡部の一言で、そこにいたメンバーは各々自分の気に入るアルコールを手に取った。軽く
乾杯をすると、わくわくしながらそれを口に運ぶ。
『うめー!!』
どうやらそれぞれ手に取ったものが自分の舌にあっていたようで、まず飲んだ感想がそれ
であった。他のメンバーが楽しげにお酒を飲む中、樺地だけは飲むことを躊躇していた。
真面目な性格のため、未成年でお酒を飲むということに抵抗があったのだ。
「樺地ー、うまいぜ。飲んでみろよ。チューハイならジュースと変わらないって。」
「ウ、ウス。」
にっこり笑いながら勧められれば、断るわけにはいかない。一口だけなら大丈夫だろうと
思い、口にしてみると、これがなかなかいける。
「な、うまいだろ?」
「ウス。」
確かにこの程度ならジュースと大して変わらないと、樺地も他のメンバーと同じようにお
酒を飲み始めた。
しばらくすると酔っているものとそれほど酔っていないものの差が出てくる。もともと強
くないためにすぐ酔ってしまったものもあれば、度数の強いものをガンガン飲んで、酔っ
てしまったものも居る。具体的に言えば、前者は宍戸や忍足、ジローで、後者は滝や岳人、
跡部である。要するに三年メンバーはバッチリ酔っているのだ。一方、二年生メンバーの
鳳や樺地は度数の低いものを少ししか飲んでいないので、そこまでは酔っていない。
「あはは、何かすっげー楽しい!!」
「俺も〜。なあ、跡部。」
「そうだな。ほら、もっと飲めよ。」
「おう!」
「あ、俺も飲みたい。それ取って。」
「鳳も樺地ももっと飲み。」
すっかり出来上がっている先輩メンバーを前に少々困惑しながらも、楽しいからまあいい
かと鳳も樺地も笑っている。
「先輩達、楽しそうだね。」
「ウス。」
そんな二人の前に滝とジローがやってくる。どちらもかなり酔っ払っていて、自分の飲ん
でいるお酒を手にしながら、二人に絡み始めた。
「なあ、樺地〜。」
「ウス。」
「抱っこして〜vv」
「ウ、ウス。」
幼い子供のようにジローは腕を伸ばし、樺地にそんなことを頼む。酔っていても酔ってい
なくても、これは普段から頼まれるようなことなので、特に嫌な顔もせず樺地はジローを
膝に乗せた。
「へへへ、樺地好きーvv」
ぎゅうっと抱きつきながら、ジローは笑う。そんな二人を見て、滝も本格的に鳳に絡み始
めた。
「長太郎ももっと飲みなよ〜。」
「俺はそんなに飲めないんで。」
「大丈夫だよ。俺が注いであげる♪」
断っているにも関わらず、滝はリキュールのビンを鳳の目の前にあるコップへと傾ける。
しかし、酔っているために距離感覚が失われ、そのリキュールはコップではなく、鳳の服
へなみなみ注がれた。
「わっ・・・」
「あっ!ゴメンね、長太郎!!今、拭いてあげるから。」
そう言いながら、滝は鳳の服をいそいそと脱がす。もろにかかってしまったので、露わに
なった鳳の肌からは、フルーティーなリキュールの香りが漂っていた。その香りに誘われ
るように滝は鳳の腹部にちゅっと唇をつける。
「わあ、長太郎の体お酒の味がする。」
「ちょ・・・滝さん?」
「長太郎、おいしーvv」
そのリキュールの味が相当気に入ったようで、滝は犬が水を飲むかのように鳳の腹部をペ
ロペロ舐める。初めは少しくすぐったい程度にしか感じない鳳だったが、そのうちそれは
別に感覚に変わってしまう。
「やっ・・・滝さん、やめてください!」
「何で?こんなにおいしいのに。」
「く、くすぐったいんですよ。」
くすぐったいと言うものの、鳳の顔はアルコールの所為だけではないくらいに、顔が赤く
染まっていた。そんな鳳の顔を見て、滝はへらっと笑いながらすごいことを口走る。
「今ので感じちゃった?」
「なっ!?」
「なんか今の長太郎見てたらすごいしたくなってきちゃった。」
「ダ、ダメですよ!!」
二人きりならまだしも、今はドリンク・パーティーの真っ最中。他のメンバーがいる場所
でそんなことは出来ないと鳳は激しく首を振る。普段なら冗談でこういうことを言う滝だ
が、今回は酔っているため冗談と本気の区別がついていない。いつもとは比較にならない
ほどの力で鳳を押し倒し、ぐっと肩を押さえつけた。
(嘘っ!?動かない!!)
手加減なしで押さえつけられ、鳳はすっかり身動きが取れなくなってしまった。これは冗
談ではないと悟った鳳は本気で焦る。
「ちょ、ちょっと待ってください滝さん!!本当にここではダメですって!!」
「嫌。俺は今ここでしたいの。」
「で、でも、他の先輩達が・・・」
酔っ払っているとは言えども、他人がいる前でなど出来ないと鳳は必死で滝を制止しよう
とする。しかし、滝も相当酔っている。鳳の言葉に全く耳を貸さず、耳から首元へ順々に
キスを落としていった。
「うっ・・・ぁ・・・」
当然そんなことをされれば、鳳は素直に感じてしまう。思った以上に強い力で押さえつけ
てくる滝を押し返すことが出来ず、困惑した瞳を樺地に向けた。ところが、樺地は樺地で
動けない状態になっている。
(どうしよ〜。このままじゃ本当に・・・)
必死でどうしようか頭を働かせていると、今度は下半身の方から妙な感覚を感じる。酔っ
ている滝は、鳳の様子など全く気にせず、自分のしたいことを進めているのだ。
「わっ・・あ・・・ダメですって、滝さん!!」
「ダメじゃない。」
「本当にこんなとこで、やめてくださっ・・・!?」
鳳が制止してる声は聞こえるらしく、ちょっと困ったような顔はするものの、その行動を
止める気はないらしい。先程、こぼしてしまったリキュールの残りを軽く口に含むと滝は
それを鳳の口の中へと移した。
「んっ・・・」
「酔っちゃえば恥ずかしいのもなくなっちゃうよ。」
「そ、そういう問題じゃ・・・・」
いきなり度の強いものを飲まされ、鳳は軽くむせながらも反論しようとするが、何故か頭
がぼーっとしてくる。鳳も全くアルコールを飲んでいなかったわけではない。今のをきっ
かけにアルコールが体の中を巡り始めたのだ。
(なんか・・・頭が働かなくなってきた。)
こんなところでしちゃいけないことは分かるし、本気で嫌だとは思う。しかし、いったん
頭が働かなくなると、それを伝える言葉が出てこない。しかも、体温が上がっている所為
で鳳の身体はいつも以上に敏感になっていた。滝が再びそれに触れれば、さっきよりもあ
からさまな反応を鳳は示す。
「やっ・・・あん・・・」
「ほら、やっぱり長太郎も感じてるじゃない。ねぇ、しようよ。」
「嫌です・・・」
ギリギリ働く理性からそんな言葉を放つが、身体的にはもうされた方がマシな状態になっ
ていた。中途半端に高められた熱は、何もしなくてもアルコールの所為で疼いてくる。も
っとちゃんとして欲しい、しかし、今それをするのはいけない。そんな拮抗する意識が鳳
の頭を混乱させる。
「滝っ!」
と突然跡部が滝の名前を呼ぶ。酔っ払いながらも、止めてくれるのかと安心しかけた鳳だ
ったが、所詮は酔っ払い。やはり、まともなことを言うはずがなかった。
「何だよ?跡部ー。」
「面白そうだから、続けていいぜ。」
「跡部さん!?」
跡部は実に楽しそうに笑いながら滝にそう言い放つ。跡部からの許しがもらえたのなら、
もう何も気兼ねをすることはない。すっかりその気になった滝を、もう鳳は止めることが
出来なかった。
「跡部の許しももらったし、それじゃあ。」
もう全部お酒の所為だ。そう思いながら、鳳はかすかに残っていた理性を手放した。
「いやっ・・・あ・・・滝さん・・・・」
「今日は随分テンポが速いんじゃない?」
「あっ・・・そんなとこ・・・やぁ・・ん・・・」
とっくに理性の欠片もなくなっている二人は、他の人が居るということを全く気にせず、
事を進めている。しかし、そんなものを見せられれば少なからず他のメンバーも影響され
てしまう。アルコールでそういうことのたがが緩んでいるなら尚のことだ。
「なあ、岳人ぉ。」
「何?侑士?」
「俺、もう我慢出来へん・・・」
「やっぱ?あんなの見せられたら、こっちもしたくなっちゃうよなぁ。俺らもしよっか?」
コクンと忍足は頷く。アルコールに酔っている忍足は、他の人がいる前では絶対に見せな
いような顔をして、岳人を誘う。そんなふうに誘われれば、岳人もその気になってしまう。
もちろんあの二人の影響を受けているのは、岳人と忍足だけではなかった。
「人のを生で見るってのもなかなか悪くねぇな。」
「・・・ああ。」
「ただ、こっちもその気になってきちまうってのが難点だな。」
冷静に見ているように見えて、跡部も相当酔っている。跡部でこうなのだから、宍戸はそ
れ以上に冷静さを失っている。自分のダブルスのパートナーが目の前でそういうことをさ
れているのだ。ちょっと心配になりつつも、宍戸が一番感じているのはまた別のことだっ
た。
「長太郎・・・羨ましいな。」
それが思わず口に出てしまう。そんなに大きな声で言ったわけではないが、跡部はそれを
聞き逃さなかった。
「テメェもあーいうことして欲しいのかよ?」
「・・・・・。」
「この部屋には他の奴らもいるんだぜ?ま、それでもいいっつーんなら、俺は喜んでして
やるけどな。」
普段の宍戸なら絶対にしないと言うところだが、今回は状況が違う。酔っている上に目の
前でそういうことが繰り広げられているのだ。
「・・・・しい。」
「アーン?聞こえねぇよ。」
「俺も・・あーいうことして欲しい・・・」
酔っていても羞恥心はまだ残っているらしい。顔を真っ赤にして、恥ずかしがりながら宍
戸はそんなことを言う。そんな宍戸に跡部の理性は一気にぶっとんだ。
「あいつらに負けねぇくらい気持ちよくなろうぜ。」
「おう・・・」
跡部の首に腕を回し、宍戸は頷く。滝があんなことを始めてしまったがために、お酒を飲
むだけだったはずのパーティーは大変なことになってしまった。
窓から差し込む朝日で、跡部の部屋にいたメンバーは目を覚ます。
「ん・・・」
一番初めに目を覚ましたのは、あのありえない状況を作った滝であった。二日酔いはして
いないものの、昨日のことは全く覚えていない。ゆっくりと体を起こすと、背中にかけら
れていたブランケットが落ちた。
「あれ・・・?」
落ちたブランケットに目を落とすと、とんでもない状況に気がつく。自分の隣にはほとん
ど全裸状態の鳳が寝ていて、そのすぐ側には自分が脱いだと思われる服が落ちているのだ。
何が起こったか分からないで、混乱していると、すぐ隣で眠っていた鳳が目を覚ました。
「あっ、おはようございます滝さん。」
「あ・・・うん、おはよ。」
「どうしたんですか?顔色がよくないですよ。」
「いや・・・その・・・・」
記憶がないためにこの状況をどう説明したらよいのかが分からない。
「長太郎、昨日何があったか覚えてる?」
「え・・・?えっとぉ、すいません。たぶんお酒飲んだ所為で全然記憶が・・・」
考えるようにうつむいた瞬間、鳳は今自分がどういう格好をしているのかに気がつく。
「うわあっ、な、何で俺、こんな格好っ・・・」
「ったく、何だよウルセーな。」
「んー、もう朝か?」
鳳の叫び声で他のメンバーも目を覚まし始める。体を起こしてみると、それぞれ今の自分
のありえない格好に気づき、叫び声を上げる。
『うわああっ!!』
宍戸は上を羽織っているだけで、下半身は何も穿いていない上、跡部の体に重なるように
眠っていた。一方、忍足はそれこそもう全裸状態。当然跡部や岳人も似たような格好をし
ているわけで、自分達が何をしたかは記憶はないが検討はついた。
「ちょっと待てよ。ありえねぇって!!」
「人の上でごちゃごちゃウルセーな。何だよ?宍戸。」
「跡部、テメェ俺に何しやがった!?」
「あーん?何のことだ?」
もちろん跡部は昨日の記憶は一切ない。なので、宍戸の格好を見て驚く。
「お前、何て格好してやがんだ。俺様が寝てる間にしようって魂胆か?」
「違ぇーよ!!それはテメェの方だろ!?」
記憶がないために二人は今の事実に頭がついていっていない。
「ありえへん・・・こないに人がたくさん居る中でやで?」
「うーん・・・全っ然、思い出せねぇ。こんな格好してるってことは絶対やったと思うん
だけどなあ。」
「いちいち口に出さんでええわ。何でこないなことになっとるん?」
忍足と岳人もかなり困惑気味だ。やったのは確かなのだが、全く思い出せない。そのまま
の格好で考えこんでいると、やっと冷静になってきた滝があることをつっこんだ。
「思い出す出さないは後にしてさぁ、まずは服着ない?」
『あっ。』
風呂場でもないのに、ほとんどのメンバーが裸の状態というのはまずいだろうと滝は言う。
それには誰もが頷いた。とにかく着替えようと自分達の周りに脱ぎ捨てられた服を手に取
っていると鳳があることに気づく。
「あれ?」
さっきの混乱状態で忘れかけていたが、この部屋にはジローと樺地もいるのだ。この二人
は他のメンバーがいる場所より少し離れたところで、仲良く一つのブランケットをかけて
眠っていた。いまだに起きる気配はないが、樺地の周りにたくさんのルーズリーフが広げ
られている。
「何だろう?これ。」
しっかり服を着ると鳳はそのルーズリーフを手に取った。非常に綺麗な字で書かれ、御丁
寧にページ番号までふられているそのルーズリーフの中身を読んでみる。一ページも読み
終わらないうちに鳳はそれ以上先を読めなくなる。
「嘘だろ・・・?」
樺地の傍で何故だか固まっている鳳を不思議に思い、着替え終えた宍戸と忍足がそこにや
ってくる。
「どうした?長太郎。」
「なんか変わったものでもあったん?」
これ以上このルーズリーフは持っていられないと、鳳はそれを二人に渡し、樺地から離れ
る。そんな鳳の顔は真っ赤に染まり、恥ずかしさから泣きそうな表情になっていた。
「どうしたんだろうな?長太郎の奴。」
「さあ。てか、何やろな?これ。」
鳳に渡されたルーズリーフの束に二人も軽く目を通す。ある程度のところまでくると、何
故鳳があんな態度をとったのかを理解した。
「マジかよ・・・?」
「何で樺地、こないなことしとるん?」
「何見てんの?侑士。」
「樺地がどうしたって?」
「俺にも見せて。」
先程の鳳と同じような状態になっているところに、やっと着替え終わった岳人、跡部、滝
がやってくる。この三人には見せられないと二人は慌ててそのルーズリーフを隠した。し
かし、見ていたのは確かなのだ。動揺しまくっている二人の隙をつき、跡部はそのルーズ
リーフを取り上げた。
『あっ!!』
「何々・・・」
跡部がそれ自体を手に持ち、横から岳人と滝が覗く。そこに書かれた内容を見て、この三
人も言葉を失う。そこに書かれていたこと。それは記憶のない部分で行われていた行為の
こと細かな詳細であった。それぞれが放っていたセリフ、どんなことをしていたか、どん
な状態であったか、それが一つも残らずリアルに描写されている。コピーが特技の樺地に
とってはこんなことは朝飯前だったのだ。
「うわあ、俺らこんなことしてたのかよ。」
「これ見る限りでは、どう考えてもことの発端は俺だよね・・・?」
「そうらしいな。でも、悪くないんじゃねぇ?思い出せない部分がこんなに詳しく書き残
されてんだからよ。」
「てかさ、何で樺地こんなことしたんだろ?普通しねぇだろ。」
「樺地も何だかんだ言って、飲んでたからねぇ。きっと酔っ払ってたんだよ。」
「俺らがこんなに騒いでるにも関わらずまだ熟睡してるしな。まあ、謎が解けたんだから
よかったじゃねぇか。」
そんな跡部の言葉に受メンバーは心の中で大反論。出来れば忘れたままでいたかったと心
底思う。しかも、そのメモを面白いと思ってしまった跡部や岳人、滝によって、結局最後
まで読まされてしまった。もう絶対にお酒は飲みすぎないようにしよう、そして、何より
樺地に飲ませてはダメだと鳳、宍戸、忍足は強く心の中で思うのであった。
END.