鍵を受け取り、部屋まで来た岳人と忍足はとりあえずソファの上に腰かけた。山の中には
ないふわふわのソファと暖かな部屋の温度が二人をリラックスさせる。
「跡部んちの部屋はどこもこんななん?」
「うーん、だいたいそうじゃねぇの?いいよなあ、俺らが住んでるとこなんて超ボロ屋だ
もん。」
「でも、あそこはあそこでいいと思うけどな。わび・さびって感じがあるやん。」
「何だよ?わび・さびって。何かの調味料か?」
岳人は何を勘違いしているのだろうか。わび・さびといえば古典での美的な感覚を表す言
葉の一つだ。それを聞いて忍足は思わず笑ってしまった。
「何で調味料やねん。俳句とか短歌で趣があるような時に使われる言葉や。」
「へぇ、侑士物知りだな。」
趣があるという言葉の意味もよく分からない岳人はそう答えるしかなかった。こんなに難
しい話ばかりされても困るので、岳人はパッパと話題を変える。
「あ、そういえば侑士。さっき、すごいプレゼント用意してるって言ったろ?それ、実は
もうここにあったりするんだな。」
「ホンマ?」
「おう。見たらビックリするぜ。」
自信満々に笑って岳人は洋服ダンスの中から真っ白で大きな袋を取り出した。中にはぎっ
しり何かが入っている。まるでサンタクロースの袋のようだ。
「まずは・・・これ!!この前見た映画のDVD。侑士、こういうの好きなんだろ?」
「うわあ、ホンマに?メッチャ嬉しい。おおきにな。」
「これだけじゃないぜ。」
ラブ・ロマンス映画のDVDを始めとし、岳人は様々なものを出す。コートに手袋、マフ
ラーに帽子、その他、アクセサリーや小物などとにかくたくさんのプレゼントがその袋の
中には入っていた。
「が、岳人、こんなにどないしたん?金は持ってないやろ・・・?」
「んー、盗ってきた。」
「それアカンやん!」
「冗談だよ。確かに盗ってきたって言ったら間違えじゃないかもしれねぇけど、ただでじ
ゃないぜ。俺、座敷わらしだもん。もらってきたお店は、いつもの倍以上の売り上げが出
てるはずだぜ。何たって幸福を運ぶ妖怪だからね。」
「そ、そうなん?それなら・・・ええのかな?」
「いいんだって!!それより、どう?このプレゼント。すげぇだろ?」
ベッドいっぱいにプレゼントを広げ、岳人はニッと笑った。あまりの多さと豪華さに驚き
ながらも、忍足は素直に喜ぶ。
「ああ。手に入れた方法は微妙やけど、ホンマにすごいでこのプレゼントは。おおきに岳
人。」
「いいって、いいって。それより・・・・」
「何や?」
ベッドに腰かけながら岳人は手招きをする。忍足はソファから立ち上がり、ベッドの方へ
向かった。岳人は広げたプレゼントをさっきのように白い袋に入れる。そして、忍足が座
るスペースを作るとそこに座らせた。
「今度は侑士が俺にプレゼントをくれる番だぜ。」
「えっ・・・?」
「侑士からは愛でいいよ。体ってのは微妙だろ?」
「が、岳人っ!?」
忍足の膝の上に乗ると岳人は首に腕を回し、顔をギリギリまで近づけた。いきなりのそう
いう体勢に忍足はたじろぐ。しかし、たじろいだところでどうこうなるわけでもない。ド
キドキする心臓が顔を赤く染めてゆく。目の前の顔を見るのが恥ずかしくて、忍足はぎゅ
っと目を閉じた。
「侑士、そんなに緊張しなくても平気だよ?」
「べ、別に緊張なんてしてへん・・・。」
「だったら、何でそんなにぎゅっと目つぶってんのさ。俺の顔見るのそんなに嫌?」
「そういうわけやあらへんけど・・・・」
「なら、ちゃんと俺の顔見て。」
恐る恐る目を開けると、岳人が真面目な顔でじっと自分の顔を見ている。普段はあまり見
せない表情を見たような気がして、忍足の心臓はまたドクンと高鳴った。そんな状態のま
ま目を離せないでいると、岳人は忍足の額に軽くキスをし、眼鏡を外す。眼鏡をベッドの
横に置くと、トンと忍足の肩を押す。特に構えていたわけではないので、忍足はそのまま
ベッドの上に倒れた。
「よっし、じゃあいただきまーす。」
「ちょっ・・・ちょい待ちっ!!いきなりするんか?」
「うん。いいだろ?」
「まだ・・・心の準備が・・・・」
「うーん、じゃあちょっとだけ待ってやるよ。いーち、にー、さーん・・・」
待ってやると言って、岳人は数を数え始めた。これでは心の準備も出来たもんじゃない。
忍足は呆れて自ら岳人の頬にキスをして許しを出した。
「岳人、そないに数なんて数えられたら落ち着かれへんやん。もうええよ。ちょっと待っ
てたくらいじゃ変わらんもんな。」
「マジ?じゃあ、始めちゃうぜ。」
「ああ。」
今度は岳人から忍足にキスだ。軽いフレンチキスをすると岳人は自分へのプレゼントのラ
ッピングを解き始めた。
「ハァ・・・ハァ・・・」
「侑士、次はどこがいい?」
体をベッドに横たえたまま息を乱す忍足に岳人は無邪気な口調で尋ねる。当然、忍足に答
える余裕など残ってはいない。ただ、岳人の方を見て瞳を潤ますだけだ。
「ふっ・・・ぁ・・・岳人・・・」
「すげぇ、侑士の心臓メチャクチャドキドキいってるぜ。」
胸の突起を指で弄りながら、岳人は忍足の胸に耳をつける。行為とこの雰囲気の所為で忍
足の鼓動はマラソンをしているかのように速くなっている。その心臓の真上に岳人はそっ
とキスをした。そして、花びらのような跡をしっかりとつける。
「あっ・・・!」
「へへ、俺のだってマークつけちゃった。侑士のハートは俺のもんだぜ。」
「岳人・・・そないなことされたら、俺の心臓ビックリして止まってまうで?」
「大丈夫だよ。鬼はこの程度じゃ死なないもん。」
自分達は妖怪なのだから、こんなことで心臓は止まらないと岳人は笑った。それは確かに
そうなのだが、心臓の真上という部分にキスマークをつけられ、それほどドキっとしたと
いうことを忍足は伝えたかったのだ。しかし、岳人がそんな比喩を理解出来るはずがない。
言葉通りの意味で受け取り、あんな答えを返したのだ。
「なあ、岳人・・・」
「何?」
「何でいつも俺は脱がされてて、岳人は服着たままなん?」
「えっ?そうだっけ?」
話題を変えようと忍足は岳人を見ていた。するとこんな疑問が浮かび上がる。これはなか
なか納得のいかない疑問だ。それも岳人はそんなことに全く気づいていなかったらしい。
「せや。こんなん不公平やん。」
「あー、ゴメンな、侑士。じゃあ、侑士が俺の服脱がしていいぜ。」
「へっ?」
「別に俺が自分で脱いでもいいんだけど、そっちの方が侑士も楽しいだろ?」
予想していなかったことを言われ、忍足は困惑。別に脱がしたいとかそんなことを思って
言ったのではない。それも楽しいだろと言われても恥ずかしいの方が上にきてしまう。
「俺が脱がすん・・・?」
「おう。嫌なら自分で脱ぐぜ。」
「ほなら・・・」
せっかく岳人がそう言ってくれているのならと、忍足は体を起こし、岳人の服に手を伸ば
した。フルジッパーのパーカーだったので、ジッパーを下げてしまえばそれで終わりなの
だが、忍足はなかなかそのジッパーを下げようとしない。顔を真っ赤にして、ジッパーの
引き金を握る忍足を、岳人は本当に可愛いなあと思いながら眺める。
「侑士、無理だったらいいぜ。」
「いや、大丈夫・・・」
岳人に促されるようなことを言われ、忍足は思いきってジッパーを下げる。岳人はその下
には何も着ていなかったようで、ほどよく筋肉のついた裸体が現れた。それを見て、忍足
はまたカアと赤くなった。
「侑士、マジ可愛いな。脱がすにも照れて、裸見ても恥ずかしがって、やっぱこういうこ
とするときは下がむいてるね。」
「だって・・・」
「はい、俺も服脱いだことだし続き始めるぜ。ほら、横になって。」
起き上がっていた忍足を再びベッドに倒すと、足を広げさせる。いきなりそんなことをさ
れ、忍足は慌てた。
「わっ・・・い、いきなりそっちか・・・?」
「いいだろー?ここだってこんなになってるんだし?」
「そ、それは・・・岳人が・・・・」
「俺がいろんなことするからこうなるって?そんなの分かってるって。それより、こっち
慣らすぜ?」
「いっ・・!!・・うあ・・・」
まだ全く慣らされていないこともあり、忍足は痛がるような声をあげる。少しずつ解して
いけば大丈夫であろうが、さすがにこれはつらそうである。
「痛い?侑士。」
「す・・少し・・・ぁっ・・・」
「こっちを弄ってれば少しはいい?」
「ひゃっ・・・あ・・・ぁん・・・」
後ろだけ弄るというのは痛いだろうということで、岳人は前の方も一緒に弄り始めた。確
かに前への刺激の方が強く感じられるので、痛みは気にならなくなったが、また違う感覚
が忍足の体を凌駕する。
「ふ・・ぁ・・・あ・・・がく・・と・・・」
「・・・・・・」
前から落ちてくる先走りの蜜がいい感じに潤滑油の代わりを果たす。解れていけばいく程、
忍足の反応も艶やかなものになり、岳人は思わず言葉を失ってしまった。しばらく何も言
えぬまま慣らしていくと忍足が震える手で服を掴んできた。
「が、岳人・・・」
「どうしたの?」
「も・・・アカン・・・これ以上弄られたら・・・ぅあっ・・・」
息を乱し、もう限界だということを岳人に伝える。しかし、岳人はやめなかった。涙で濡
れた頬に軽くキスをすると耳元で何かを囁く。それを聞いて、忍足の張り詰めていた糸は
ふっと切れた。それと同時に熱い飛沫をほとばしらせる。
「あっ・・・岳人―――っ!!」
忍足の放った熱をペロペロと舐めながら、岳人は小悪魔のように微笑む。これがあの幸せ
を呼ぶ座敷わらしとは誰が信じられるであろうか。
「たくさん出たな。なあ、もうそろそろ繋がってもいい?」
「ハァ・・・ハァ・・・少し休ませて・・・」
「俺も結構限界だからさ、少しだけな。」
「分かってる・・・・」
乱れた息を整えようと忍足は何度も深呼吸をする。少しは落ち着いてきたと感じると忍足
は岳人の手に触れ、もういいと言うことを伝えた。
「岳人・・・もうええで。」
「ホント?俺、もう少しなら待てるぜ。」
「大丈夫や。あんまり時間空けると・・・さっき岳人が慣らしてくれたのも無駄になって
まうやろ・・・?」
潤んだ瞳で笑いながら忍足はそんなことを言う。そんな忍足につられて岳人も笑いながら
頷いた。
「確かにそうだな。じゃあ、いくぜ。」
「ああ・・・」
ゆっくりゆっくり忍足を気遣いながら岳人は自分自身を挿入していく。多少の圧迫感はあ
るもののそれほどつらくはない。忍足は岳人の腕をぎゅっと握り、初めの方にだけ感じる
異物感に耐えた。
「くっ・・・ぅん・・・」
「ハァ・・・痛くないか侑士?」
「平気・・・ハァ・・・けど・・・熱い・・・・」
「うん・・・繋がってるトコすげぇ熱い・・・・」
結合部にお互いの熱を感じながら二人は体を重ね合わせる。初めはほとんど動けないでい
る二人だったが、体がその状態に馴染むようになると少しずつ動き始める。
「んっ・・あ・・・あっ・・・ふ・・・」
「侑士・・・超気持ちイイ・・・・」
「ハァ・・・あっ・・・岳人っ・・・・ぁん・・・・」
岳人の動きに合わせて、忍足も腰を揺らす。どちらの息も次第に上がってゆき、感じる気
持ちよさもだんだんと高まってくる。岳人は忍足の手に自分の手を重ね、唇を合わせた。
「んっ・・・んん・・・ぁ・・・」
「侑士は俺の座敷わらしだな。俺、侑士といるとすごい幸せだもん。」
唇を離しながら岳人はそう呟く。その顔は屈託のない笑顔で、忍足を嬉しがらせるには十
分なものだった。
「ホンマ・・・?」
「うん。俺、侑士といる時がいっちばーん幸せVv」
「そないに言われると照れるけど・・・メッチャ嬉しいで。」
「侑士は?」
「えっ・・・・?」
「侑士は俺といて、どんな感じ?」
「俺も、岳人といるとメッチャ幸せやで・・・」
岳人の背中に腕を回して、きゅっと抱きしめると忍足は瞳を閉じて微笑んだ。お互いを思
い合うことに幸福感を感じながら二人はそのまま果てる。繋がり合う部分から溢れる熱は
限りない心地よさと全身を包む温もりを残すのみだった。
後始末をある程度終わらせてしまうと二人はそのままベッドにもぐり込む。すっかり疲れ
てしまったのか岳人はベッドに入った瞬間眠ってしまった。
「なんや、もう眠ってまったんかい。」
隣でスヤスヤ眠る岳人の寝顔を見ながら、忍足は呆れつつも笑った。こんなふうに眠って
いるのを見れば、座敷わらしという名にふさわしくひどく子供らしい顔をしている。
「眠ってればこんなに子供っぽいのになあ。」
眠っている岳人の頬をふにふにと突きながら呟く。しかし、さっきの岳人も確かに岳人な
のだ。
「んん・・・侑士ぃ・・・」
「どんな夢見てるんやろ?嬉しそうな顔しとる。」
自分の名前を寝言で言われ、忍足はにこにこしながら岳人を眺めた。さっき言われた言葉
が頭をよぎる。自分が岳人の座敷わらしだということ。自分といるときが一番幸せだとい
うこと。今思い出しても嬉しさが溢れてくる。岳人と出会うまではそんなことを言われた
ことは一度もなかった。
「俺、鬼なのになあ。岳人はホンマ意外なことばかり言いよるわ。」
独り言を漏らしていると岳人がぎゅうっと抱きついてきた。少し驚く忍足だが、思わず自
分も抱きしめ返してしまう。
「クリスマスなんて、人間だけが楽しむものやと思ってたけどなかなかええもんやん。た
くさんプレゼントもらえたし、気持ちいいことも出来るし、最高の日やな。」
クリスマスは最高の日だなあと思いながら、忍足はこの甘い雰囲気に浸る。しばらく岳人
の寝顔を見ていたが自分も眠くなってしまったので、眠ることにした。
「ふあ〜、俺も眠くなってもうたわ。そろそろ寝るか。」
瞳を閉じる前、忍足は軽く岳人の唇に口づける。
「おやすみ、岳人。」
おやすみのキスをし、忍足も眠りに落ちた。クリスマスの聖なる夜。妖怪達も幸せな一夜
を過ごすのであった。
END.