街中に甘い香りが溢れるバレンタインデー。今年も宍戸は跡部と過ごしていた。
「随分と高そうな感じの酒だな。」
「そうでもねぇぜ。」
「お前のそうでもねぇは、信じられねぇからな。まあ、いいや。これどうやって飲めばい
い?」
「好きなように飲めばいいが、とりあえずは俺が作ってやるよ。」
跡部がボトルの蓋を開けると、ふわりとチョコレートの香りが漂う。チョコレートの香り
のするそれが注がれる前に、ミントの香りのする液体が、宍戸の前に置かれたグラスに注
がれた。そして、その後で濃いチョコレート色の液体が注がれる。仕上げにミントの葉を
乗せ、跡部はそれを宍戸に手渡した。
「ほら、飲んでみろ。」
「おー、サンキュー。」
跡部から受け取ったそれを宍戸は一口口に含む。甘いチョコレートの味と爽やかなミント
の香り。自分好みの非常に飲みやすいカクテルに、宍戸は嬉しそうな声を上げる。
「すげぇ美味い!」
「当然だ。俺様が作ってやったんだからな。」
「飲みやすいし、これならいくらでも飲めちまうな。」
「飲みやすいと言っても、酒だからな?あんまり飲み過ぎんなよ。」
跡部の作ったチョコミントのカクテルが非常に気に入り、宍戸は何杯も飲む。飲み過ぎる
なと言った跡部も、宍戸のリアクションがあまりにも可愛いので、ねだられるまま何杯も
それを作った。
「あー、何かちょっとふわふわしてきた。」
さすがに酔ってきたと、宍戸はそう口にする。しかし、まだ泥酔というほどでもないので、
気分はいい。
「跡部ー、ちょっと横になってもいいか?」
「構わねぇぜ。」
ふわふわとした足取りで、宍戸は跡部のベッドにその身を預ける。仰向けになり、天井を
見上げると何か物足りなさを感じる。
「跡部ー。」
「どうした?」
自分用に作った宍戸とは違うカクテルを口にしながら、跡部は返事をする。
「跡部もこっち来いよ。」
宍戸に呼ばれ、跡部はグラスを置いてベッドに移動する。宍戸が横になっているすぐ側に
腰掛け、優しく頭を撫でる。
「何だよ?眠たいんじゃないのか?」
「ふわふわするけど、眠くなんてねぇし。」
「一人で寝るのが寂しいから、俺を呼んだんじゃねぇのか?」
跡部がそう言うと、宍戸は黙って腕を上げる。まるで、抱いてと誘っているようなその仕
草に跡部はふっと口元を緩ませ、宍戸の上に覆いかぶさった。すると、宍戸はふにゃっと
顔を緩ませ、跡部の首に腕を回す。
「やっぱ、跡部の顔がここにあるのがいい。」
先程感じた物足りなさはこれだったかと、宍戸は満足気に笑う。この状況で、そのセリフ
と表情は反則だろうと、跡部はちゅっと宍戸の唇に自分の唇を落とした。跡部にキスされ
たのが嬉しいのか、宍戸はさらに笑顔になり、あからさまな誘い文句を口にする。
「跡部ー、しようぜ。」
普段ならこんなに素直に誘いの言葉を口にすることなど滅多にない。酒の力はすごいなあ
と思いつつ、跡部はその誘いに喜んで乗った。
チョコレート味のキスを十分に堪能すると、跡部は宍戸の服を脱がしにかかる。酔っぱら
って気分のいい宍戸は、全く嫌がらず跡部にされるがままになっていた。
「今日は大人しいな。いつもなら、服脱がすのにも抵抗したりすんのによ。」
「今日はー、跡部としたいからいい。」
「ほら、これで全部だ。」
宍戸を一糸纏わぬ姿にすると、跡部は宍戸の首筋に口づける。ぞくっとするような甘い感
覚に宍戸は、小さな喘ぎ声を漏らす。
「・・んっ・・ぁ・・・」
すぐ近くにある跡部の姿を見て、宍戸はあることに気づく。
「ま、待てっ・・・跡部・・・」
「何だ?」
「俺だけ脱いでて、跡部脱いでねぇのずりぃ・・・」
それならばと、跡部はさっと自分の身に着けていたものを脱ぎ去る。そして、再び宍戸の
上に覆いかぶさった。
「これで満足か?」
自分で言ったものの跡部の裸体が目の前にあると、胸がドキドキしてしまう。顔が真っ赤
になっている宍戸を見て、跡部はからかうように笑う。
「そんなに真っ赤になってどうした?」
「何でそんなにカッコイイんだよ・・・」
「アーン?何当たり前のこと言ってんだ。」
いつも通り自信満々に答える跡部に、いつもなら少し腹が立つところをひどくときめいて
しまう。ドキドキする胸に口づけられ、宍戸の心臓は大きく跳ねる。
「あっ・・・」
胸だけでなく、様々な場所に口づけられ、宍戸の熱は次第に高まっていく。しかし、跡部
はなかなかそこに触れてくれない。焦らされているようなその感覚に、宍戸は我慢出来な
くなる。
「んっ・・・ふぁ・・・跡部ぇ・・・・」
「そんな切なそうな声出して、どうした?」
「もう・・・触って欲しい・・・我慢出来ない・・・・」
目に涙を浮かべ、息を乱しながらそんなことを言う宍戸に、跡部は思わずゴクリと唾を飲
む。
「触って欲しいのはここか?」
「ひぅっ・・・ああっ・・・!」
既に濡れている熱の中心を握ると、宍戸はビクンと体を震わせる。いつもよりよい反応を
見せる宍戸に、跡部はニヤけてしまう。
「お前はこうされるのが好きだったよな。」
「あっ・・・跡部っ・・・ああぁっ・・・!!」
宍戸の好きな触り方をしてやると、ビクビクと身体を震わせ、大きな声を上げる。だんだ
んと宍戸の蜜で濡れる手に興奮しつつ、跡部はさらに宍戸を責めた。
「んっ・・・ダメっ・・・気持ちい・・・・やっ・・あぁ・・・・」
「ダメなのかイイのか、それじゃ分からねぇぜ。」
「気持ちイイ・・・あっ・・・もっ・・・イクっ・・・!」
ドクンと手の平に熱い雫が放たれると、跡部は自分の熱も限界近くまで大きく熱くなって
いるのを感じる。ハァハァと息を乱し、くたっと脱力している宍戸の足を大きく割り開く
と、先程触れていたところよりもう少し下の部分へ濡れた手を持っていった。
「んんっ・・・!」
「本当はすぐにでも入れてぇくらいだが、せっかく今日はいつもよりイイ反応を見せてく
れてるからな。痛いより気持ちいい方がいいだろ?」
宍戸の入口と内側を濡れた指でほぐしながら、跡部は言う。ぬるついた指でゆっくりと中
を弄られ、宍戸は身を捩るように喘ぐ。
「んあっ・・・あ・・ん・・・・」
「思ったよりすぐほぐれそうだな。ほら、もう一本入っちまうし。」
「いっ・・・あぁ・・・っ・・・」
指を増やされても、痛みなど一切感じない。内側を掻き回される感覚に、宍戸の頭の中は
すっかりとろけていた。
「ハァ・・・跡部ぇ・・・・」
「すげぇエロい顔してるぜ。そんなにイイのか?」
「ん・・・気持ち・・・いい・・・」
「確かにココの具合もかなりよさそうだしな。そろそろ入れても大丈夫か?」
跡部の問いかけに、宍戸はうっとりとしながら頷く。入口をほぐしていた指が抜かれると、
代わりにもっと大きく熱いモノがあてがわれる。これから跡部が入ってくるという期待感
に宍戸は胸を躍らせ、熱い吐息を漏らしながら跡部を見た。
「行くぜ。」
低く艶めかしい声が耳をくすぐる。次の瞬間、疼く入口が一気に押し広げられ、敏感な粘
膜が熱い楔と絡み合う。跡部のモノが全て中に入ると、内側から溶かされてしまいそうな
快感に、宍戸は腰を揺らした。
「ふあっ・・・ああぁっ!!」
「ハァ・・・いい感じだぜ、宍戸。」
「んっ・・・跡部・・・跡部ぇ・・・・」
ぎゅうぎゅうと自分の内側が跡部を締め付けるのを感じ、宍戸は濡れた声で跡部の名を呼
ぶ。
「ああ・・・本当たまんねぇな、お前の中。」
「中・・・熱くて、跡部のでいっぱいで・・・・すげ・・イイ・・・」
「お前はこれが大好きだもんな。」
「好きぃ・・・跡部のが俺ん中入ってるの・・・気持ちよくて・・・すげぇ好き・・・」
酔っ払っていることもあり、宍戸は普段なら恥ずかしくて言えないようなことも平気で口
にする。その言葉を聞いて、跡部はさらに興奮を煽られる。
「なら、存分に味わえよ。」
宍戸も自分もより気持ちよくなれるように、跡部は大きくその腰を動かす。敏感な部分が
激しく擦れ合う極上の快感に、二人は夢中になっていく。
「ああっ・・・ああぁっ・・・・!!」
「最高だぜ、宍戸。お前のその表情も反応も身体の中も。」
「俺も・・・跡部に気持ちいいこと・・・たくさんしてもらって・・・嬉しいこと・・・
たくさん言ってもらって・・・今、激幸せ・・・」
跡部の首に腕を回し、宍戸はとろけるような笑みを浮べてそんな言葉を口にする。あまり
に魅力的なその笑顔に跡部は完全に落ちた。濃厚な口づけをし、さらに激しく宍戸の中を
穿つ。唇を離すと、唇がまだ触れ合いそうな至近距離で、跡部は宍戸の目を見ながら囁い
た。
「お前の心も体も全部俺のものだ。」
少し驚いたような表情を見せた後、宍戸はふにゃっと笑って跡部に言葉を返す。
「跡部も・・・全部俺のもんだぜ。」
「ふっ、そうだな。」
「跡部・・・大好き・・・」
「俺も世界で一番お前のこと愛してるぜ。」
跡部のその言葉を聞いて、宍戸は胸の奥と腰の奥がきゅーんとなるのを感じる。次の瞬間、
腰が砕けてしまいそうな甘い絶頂感が襲い、宍戸は幸せの絶頂に達する。宍戸の甘い悲鳴
を聞きながら、跡部も宍戸の中でこの上なく甘い絶頂を迎えた。
心地よい肌触りの布団にくるまれたまま、宍戸は目を覚ます。寝ぼけ眼で目をパチパチさ
せていると、頭の上で声が聞こえた。
「起きたか?」
声のする方に目をやると、跡部が上半身裸のまま本を読んでいた。跡部のその姿を見て、
宍戸は昨日の晩のことを思い出す。泥酔していたなら記憶がなくなっていたのかもしれな
いが、そこまで酔っていなかったため、昨日の記憶はハッキリと残っていた。
「〜〜〜〜っ!!」
昨日の自分がしたこと言ったことを鮮明に思い出し、宍戸の顔は真っ赤に染まる。そんな
状態で跡部の顔を見るのは恥ずかしすぎると、宍戸は布団を頭までかぶった。
「何してんだよ?」
「き、昨日のは、酒に酔ってたからで・・・あんなの俺じゃねぇんだからな!」
布団をかぶったまま、そんなことを言う宍戸に、跡部の口元は緩む。あまりに可愛いので、
もっとからかってやろうと無理矢理布団を剥ぐ。
「ちょっ・・・やめろよ!!」
「アーン?起きたんなら、ちゃんと顔見せろよ。」
「嫌だ!!」
「昨日はあんなに素直だったのに。可愛かったぜ。甘えるような笑顔で、気持ちいいやら
大好きやら言ってくるんだからな。」
「うるせー!!だから、あんなの俺じゃねぇって言ってんだろ!!」
そんな状態だったことは自分でもよく覚えているので、宍戸はもう恥ずかしくて仕方ない。
いつものケンカ腰な口調で文句を言うが、跡部は余裕の笑みを浮べている。
「だったら、今、昨日と同じようなことしても反応しないってことだよな?」
「は?昨日と同じようなことって・・・ふ、ふざけんなよ、こんな朝っぱらから・・・」
少し考えて、宍戸はさらに顔を赤く染める。昨日のような反応でなくても、これはこれで
可愛いと跡部はニヤニヤしてしまう。
「何想像してんだよ。別にそこまでするとは言ってねぇだろ。」
「なら、何を・・・」
仰向けに横になっている宍戸の手をぎゅっと握り、跡部は優しく唇を重ねる。軽く唇を吸
われ、宍戸の胸は激しく高鳴った。
「俺もお前のこと世界で一番愛してるぜ。」
唇が離れると、超至近距離で昨日と同じ言葉が紡がれる。その言葉で、宍戸はそのときの
感覚を思い出し、身体の奥が熱くなるのを感じる。
「なっ・・あ・・・」
「ほら、お前も言えよ。俺のこと大好きだって。」
「うっ・・・」
「俺だけに言わせるのは不公平だろ?」
「お前が勝手に・・・」
「言葉にはしなくたって、体はもう反応してるみてぇだけどな。」
「っ!!ち、違っ・・・!!
布団の中に手を入れ、宍戸の反応を確かめると、跡部はニヤリと笑う。ドギマギとしなが
ら、宍戸はすっかり跡部のペースにはまっていた。
「もう一回したいだろ?」
「・・・・した・・・ぃ・・・」
恥ずかしがってはいるが、昨日の記憶の大部分はひたすら気持ちいいことばかりだ。跡部
の言葉と行動で、そのことも思い出してしまい、宍戸は思わず頷いてしまった。
「バレンタインはもう終わっちまったが、今日は休みだ。せっかく二人でいるんだから、
とことん楽しもうぜ。」
全く勝手だなと思いつつ、宍戸は昨日と同じように跡部に向かって腕を伸ばす。何だかん
だで、やっぱり跡部のことが好きなんだよなあと思いながら、宍戸はこれからすることに
胸を躍らせるのであった。
END.