秋の夜長に共に寝ぬ

風が冷たくなり、木々が赤や黄色に色づく季節。そんな季節の週末に銀と財前は山間にあ
る旅館に泊まりにきていた。財前が高校に進学し、銀も高校二年生に進級。どちらもバイ
トなどを行い、お金を貯め、少し良い旅館を予約した。
「ええ雰囲気やな。」
「そうっスね。」
部屋から繋がっている縁側に二人並んで腰を下ろし、虫の音が響くのを聞いている。静か
で穏やかに流れる二人だけの時間。その心地良く幸せな時間を満喫しながら、銀と財前は
庭を眺める。
「はっ・・・くしゅんっ!!」
温泉に入り、体は温まってはいたものの、外に出ていれば夜風で体が冷えてしまう。少し
冷えたためか、財前は一つくしゃみをした。
「大丈夫か?ちょっと冷えてきたかもしれんな。」
「すいません。大丈夫です。」
「こんなに手ぇ冷たくなっとるやないか。そろそろ部屋の中に入るで。」
「はい・・・」
自分より一回り以上大きな手で冷えた手を握られ、財前の胸はきゅんとときめく。部屋の
中にはもう布団が敷かれており、いつでも寝れるような状態になっていた。
「師範、ちょっとここに座ってください。」
布団の真ん中を指差して、財前はそんなことを言う。財前に言われた通り、銀は布団の真
ん中に胡坐をかくような形で腰を下ろした。
「これでええか?」
「ええです。」
そう言いながら財前は銀の足の上に腰を下ろし、銀の胸に寄りかかる。そんな財前の体を
包み込むように銀は腕を回してやる。
「師範、メッチャあったかいっスね。」
「財前はんは体温低いからなあ。」
「俺にこんなんされて嫌やないですか?」
「嫌なわけないやろ。こないに素直に甘えてきて、かわええと思っとるで。」
いつもの優しい口調、落ち着いた声でそんなことを言われ、財前は頬を染めてうつむく。
そんな反応をする財前も可愛いなあと思いながら、銀はふっと笑った。
「か、かわええとか・・・師範に言われたら、その・・・」
「ああ、嫌やったか?それはすまん。」
「い、いや、全然嫌やないです!!」
あまりに必死で否定してくる財前に少々驚きつつ、銀はそんな態度もまた可愛いと思って
しまう。
「ホンマかわええなあ。」
「師範、可愛い言い過ぎっスわ。」
「財前はんが可愛すぎるからついな。せやけど、これで少しは温まったんちゃうか?」
財前の体を包んでいる腕から先程よりも高い体温が伝わる。恥ずかしさからか顔は紅色に
染まっており、血色が良く見えていた。
「確かに寒くはなくなったかもしれないっス。」
「それはよかった。」
「あっ、でも・・・」
「どないしたん?」
「まだ師範とくっついてたいです。」
自分の胸のあたりに回されている銀の浴衣の袖を両手でぎゅっと握りながら財前はそんな
ことを言う。普段他の者にはクールで毒舌な財前がこんなにも素直に甘えている。それが
何だか嬉しくて銀は顔を緩ませる。
「好きなだけくっついてたらええで。」
ちらっと上を見上げ、銀の顔を見るとニコニコと嬉しそうな顔をしている。
(そないな顔、ずるい・・・)
自分ばかりドキドキさせられているような気がして、財前は少し悔しくなる。自分も銀を
ドキドキさせたいと、財前はほんの少し身を捩り上を向きながら、銀を見つめる。
「師範。」
「何や?財前はん。」
「キスして欲しいです・・・」
財前のその言葉にドキッとする銀であったが、いつも通りの落ち着いた表情で言葉を返す。
「ええで。どこにして欲しいんや?」
「そんなんココに決まっとるやないですか。」
人差し指を唇にあて、財前は答える。財前らしい言葉に銀はふっと微笑み、その人差し指
をゆっくり退かすと、財前の柔らかな唇に自身の唇を重ねる。こんなに即してもらえると
は思っていなかったので、財前の心拍数は一気に上昇し、銀のことで頭がいっぱいになる。
「これでええか?」
唇を重ねるだけのキスをして、銀はすぐに唇を離し、至近距離でそんなことを問う。しか
し、財前としては全く足りていなかった。
「足りひん・・・もっと、長くて大人なヤツ、息が苦しくなるくらいしてください。」
「困った子やな、財前はんは。」
「困った子でええです。せやから、師範・・・」
顔を紅潮させながら期待に満ちた瞳を銀に向け、財前はさらに深い口づけをねだる。銀は
困ったような反応を見せるが、二人きりのこの空間で財前のその希望を断る理由もない。
優しく財前の頬を撫でた後、銀は再び財前の唇を捉え、小さく開いた唇の隙間から舌を差
し込む。
「ふぁっ・・・んっ・・・」
肩をピクンと震わせ、唇の隙間から漏れる財前の声に銀の鼓動は速くなる。おずおずと差
し出される舌をやわやわと食み、口内をゆるりと丁寧になぞる。銀の舌が口内のどこへ触
れても心地良く、財前はその心地良さに心も身体もとかされていく。
「んっ・・・ぅ・・・んっ・・・」
財前の希望通り、銀はしばらく唇を離さず、長く深い口づけを財前に与える。長い口づけ
を存分に味わった後、銀は財前の頭をしっかりと支えてやりながらその唇を離す。
「ふはっ・・・ハァ・・・はぁ・・・」
「大丈夫か?財前はん。」
「平気やないです・・・師範のキス、メッチャ気持ちよくて、いろいろアカンっスわ。」
とろけたような表情で、呼吸を乱しながら財前は答える。その表情に心を掻き乱されなが
ら、財前のより深いところに触れたくなる欲求を抑え、銀はぐっと拳を握る。
「師範・・・」
「何や?」
「また、師範困らせるようなこと言うてもええですか?」
「言うだけなら、別にかまへんで。」
何となく想像はつくものの、銀はそう答える。銀の胸にトンと背中を預け、上目遣いで銀
を見上げる。
「師範と・・・えっちしたいです。」
「それはどうしてもか?」
「どうしてもっス。」
今しがたのキスで、そういう気分になるには十分であった。可愛い可愛い後輩がそんなこ
とを言ってきているのだ。しばらく考えた後、銀は頷く。
「・・・ほんなら、するか。」
そう口にすると、財前の瞳が嬉しそうに輝く。財前のこんな顔を見れるのは自分だけだろ
うなあと思うと、胸の奥がむずむずくすぐったいような気分になり、銀は口元を緩ませた。
財前がどんなことをして欲しいかは分からないが、ひとまず浴衣のあわせ衿から大きな手
をすべり込ませ、ゆっくりと肌をなぞる。
「んっ・・・ぁ・・・んっ・・・」
「嫌やったら、ちゃんと教えてな。」
「嫌やなんてこと・・・ないです・・・もっと、いろんなとこ触ってください・・・」
財前の上半身をじっくりとなぞっていると、だんだんと体温が上がっていくのが分かる。
指に引っかかる突起を軽く弄ってやれば、ピクンとその身を震わせ、高い声を上げる。
「あっ・・・しは・・んっ・・・!」
いつもよりオクターブ高い声で、いつもの呼び方で呼ばれる。その声にゾクっとしてしま
い、銀はそこを重点的に責める。
「んっ・・・あ・・・んっ・・・くっ・・・ぅん・・・・」
嫌がることもなく甘い喘ぎ声を漏らす財前に、銀はもっと気持ちよくなってもらいたいと
考える。
「財前はん。」
「何スか・・・?師範。」
「コッチも触ってもええか?」
はだけかけている浴衣の帯の下の辺りに触れ、銀はそう尋ねる。銀の言わんとしているこ
とを理解した財前は、期待感に胸を高鳴らせ小さく頷く。
「ほんなら、下着は脱がしてまうで。」
「そんなん・・・いちいち聞かなくてええんで、勝手にしちゃってください。」
答えるのが恥ずかしく、財前は顔を赤く染めてそんなことを言う。浴衣の下の下着を脱が
してしまうと、既に熱を帯びている財前のそれを銀は掌で包む。すっぽりと大きな手に敏
感な熱を包まれ、財前は思わず吐息を漏らす。
「んっ・・・ふぅ・・・・」
「せっかくやから、両方とも触っといてやるで。」
「両方・・・?」
財前の問いに銀は行動で答える。胸の突起を弄られながら、ちょうどよい力加減で熱を擦
られる。あまりの快感に財前は銀の浴衣の袖をぎゅっと握り、感じるままに声を上げる。
「ふあっ・・・師範っ・・・あっ・・・あ・・んっ・・・!」
「どや?痛かったりはせぇへんか?」
「んんっ・・・気持ちい・・・し・・はんっ・・・」
「そうか。ほんならもう少し続けるで。」
財前の様子を確認しながら、銀は財前への愛撫を続ける。感じやすいところを大好きな人
の手で弄られているという快感と幸福感。全身を流れる血液は熱くなり、触れられている
場所にもその熱い血が集まる。それゆえ、硬く敏感になっているそこは財前を絶頂という
名の高みへと押し上げていく。
「ハァ・・・あっ・・・師範っ・・・俺、もう・・・アカンかも・・・」
「ええで。一回達っとき。」
「んっ・・・くぅっ・・・んっ・・・―――っ!!」
銀の腕をしっかり掴みながら、財前はビクンと一際大きくその身を震わせ、銀の掌に白濁
の雫を放つ。どろりとした熱く滑らかなその感触に銀はそこまで顔には出さないものの、
大きく胸を高鳴らせていた。
「ええ子や。」
「イって褒められるって、意味分からんっスわ・・・」
「はは、まあええやないか。気持ちよかったやろ?」
「そりゃ・・・まあ・・・メッチャ、気持ちよかったっスけど・・・・」
恥ずかしそうに頬を染めながら、財前は素直にそう返す。達した余韻に浸り、軽く息を乱
しながら銀に寄りかかっていた財前であったが、銀の手が自分の放ったもので汚れている
ことに気づき、布団のすぐ側にあったティッシュでその手を拭う。
「こんなんすぐに拭いてください・・・」
「いや、何やもったいなくてな。」
「もったいないって何スか。はい、綺麗になりました。」
「おおきに。」
「というか・・・」
銀に触れられている間、銀の膝の上に座っている状態であったので、財前はあることに気
づいていた。銀の膝から下り、銀と向かい合うように座るとその気づいていたことを指摘
する。
「師範のも結構おっきくなっとるやないですか。あっ、さっきのお返し、今度は俺がして
やりますわ。」
「何をするんや?」
銀を見上げてニヤリと笑うと、財前は銀の浴衣の帯を解き、脚の間で下着を押し上げてい
る熱を外に出す。そして、愛おしそうにその熱の塊を撫でた後、ちゅっとその先端に口づ
けた。
「っ!!財前はん、それは・・・」
「師範、口でされるの好きっスよね?せやから・・・」
大きく口を開け、財前は目の前にある熱をぱくんと咥える。銀が気持ちよくなれるように
と財前は丁寧かつ大胆にその口と舌を動かし始めた。
「くっ・・・そないにされたら・・・・」
財前の頭に手を置きつつも、銀は特にはがそうとしたり押しつけようとしたりはしない。
それを分かっているので、財前は熱い掌から伝わる体温を頭に感じながら、口での愛撫を
しばらく続ける。
(師範の熱くて大きくて、ホンマ口ん中いっぱいになってまう。けど、それがたまらん。)
銀の熱を口いっぱいに含み、うっとりとしながら財前はそんなことを考える。たまに銀の
様子を確認しながら口を動かしていると、銀の表情に余裕がなくなっているのに気がつく。
「財前はん・・・そろそろ離さへんと・・・財前はんの口を汚してまう。」
そんなことは全く構わないと、財前はチラっと銀を見た後、一際奥まで銀自身を咥える。
そして、ぎゅっと唇を閉じ、敏感な熱の裏側に熱い舌を押しつけた。
「くっ・・・う・・・っ!!」
財前の喉に向かって熱い雫が放たれる。多少むせそうにはなるものの財前は嬉々としてそ
れを飲み込む。ずるりと口の中から銀の熱を出すと、財前はべーっと舌を出し、全部飲ん
だということを銀に教えた。
「師範の飲んでやりましたわ。」
「そんなん飲んだらアカン。」
「せっかく師範が出してくれたのに、飲まなもったいないやないですか。」
先程銀が言っていたセリフと同じようなことを財前は口にする。それが何だか可笑しくて
銀はふっと笑う。
「やっぱり財前はんは悪い子やな。」
「まあ、基本はそうやないっスか。」
「そないな悪い子にはお仕置きやで。」
「っ!!」
銀の放った『お仕置き』という言葉に、財前は何故だかどうしようもなく胸が高鳴ってし
まう。手の届くところに置いてある自分の鞄の中から銀はあるものを出した。
「ほら、こっちに来ぃや。」
銀にそう言われ、財前はおずおずと膝立ちのような状態で銀に近づく。そんな財前の腰を
捉えると、銀はぐっとその体を自分の方へと抱き寄せた。
「お仕置きって、何するんスか?」
「さあ、何やろな?」
誤魔化すような言葉を口にしながら、銀は先程鞄から出したローションを利き手の指に絡
め、浴衣で隠れている財前の双丘の中心に持っていく。
「ひゃっ・・・あっ・・・!?」
「ちゃんと慣らさな入らないやろ?」
「何で、師範そんなもん・・・持っとるんスか・・・」
「財前はんがこないなことしたい言うたときのためにな。役に立ったやろ?」
「・・・ホンマ師範、ずるいっスわ。」
その用意周到さも自分がしたいと言った時に断る気がなかったということも、財前にとっ
てはこの上なく嬉しいことであった。ローションで濡れた銀の指が入口を抉じ開け、ゆっ
くりじっくりと内側をほぐしていく。銀と繋がる準備をしているということを無駄に意識
してしまい、財前はその行為にもひどく感じてしまう。
「あっ・・・ん・・・師範っ・・・ん・・ぅ・・・・」
「嫌やないか?」
「嫌なわけ・・・あらへんっ・・・ていうか、これはお仕置きちゃうんですか・・・?」
「どうやろな。適当に言ってみただけやしな。財前はんがどう思うか次第とちゃうか?」
「・・・師範にこんなんされるんは、お仕置き言うより、むしろご褒美ですわ。」
「はは、ご褒美か。財前はんはエッチやなあ。」
「しゃーないやないですか!師範のこと、メッチャ好きなんやから・・・こないなことし
てもろて、もう嬉しくて仕方ないんスわ。」
顔を真っ赤に染めて、銀の肩に顔を押しつけながら財前はそんなことを言う。そんな財前
が可愛くて仕方ないと、銀は空いている方の手でポンポンと頭を撫でる。そのまま内側を
弄っていると、財前は顔を押しつけたまま堪えきれない声を漏らす。
「んんっ・・・ふあっ・・・ぁ・・・」
「そろそろええか。どや?財前はん。」
「ハァ・・・大丈夫と思います・・・・」
「念のために確認やけど、挿れてもええか?」
「当たり前やないですか。早く挿れてください・・・」
どこまでも素直な財前に銀は顔を緩ませる。自分の脚を跨がせるように財前の足と腰を抱
えると、自身を財前の中に埋めるようにゆっくりとその体を下ろしていく。
「あっ・・・しは・・・んっ・・・師範っ・・・!!」
銀が自分の体の中に入ってくる感覚に、財前はその身を震わせ甘い声を漏らす。銀も敏感
な熱を柔らかい壁で締めつけられ、財前の身体を抱き締めながら熱い息を吐く。
「ハァ・・・何度しても、初めのこの感じは慣れへんな。」
「俺はわりと・・・慣れてきてますよ・・・・」
「ホンマか。さすがやな。」
「師範が俺の中に入ってくる感じ・・・メッチャ好きっス・・・」
「まだ慣れへんが、ワシも財前はんと繋がるこの感じ、好きやで。」
財前の頬に手を触れながら、銀はそう呟く。浴衣をはだけさせ、いつも通りの穏やかな笑
みを浮かべている銀に、財前はひどくときめき、胸を撃ち抜かれる。
「もぉ・・・何なんスか・・・・そんなん言われたら、ホンマ余裕なくなってまう・・・」
「もっと余裕なくしたってええんちゃうか。余裕ない財前はんの顔、ワシは好きやで。」
「っ!!」
冗談めいた口調ではあるが、その言葉が財前にはかなり刺さった。銀の言葉はどんな言葉
でも媚薬のように耳から身体の奥へと沁み込んでいく。そして、銀と繋がっている部分が
ゾクゾクと疼く。そんな財前の様子に気づき、銀はゆさゆさと財前の身体を軽く上下に揺
らす。
「う・・あっ・・・ああっ・・・・」
「もう動かしても大丈夫そうやな。」
「あっ・・・し・・はんっ・・・んんっ・・・」
銀の首に腕を回し、財前は銀に与えられる快感を存分に享受する。柔らかな内壁は熱い楔
で何度も擦られ、だんだんと感じやすくなっていく。じわじわ大きくなっていく絶頂感に
財前はビクビクと下肢を震わせる。
「はっ・・・あ・・・中、メッチャ気持ちええ・・・・」
「財前はん、今、ええ顔しとるで。」
「見んといてください・・・あっ・・・こないな顔・・・・」
「その顔も可愛くて大好きやで。」
「〜〜〜〜っ!!」
軽く呼吸を乱しながら紡がれる銀の言葉に、財前は心も身体も乱されまくりだ。恥ずかし
さと嬉しさがあいまって、財前の感度はさらによくなり、限界が近づいてくる。それを伝
えるかのように銀に抱きついている腕に力を込め、いつもの呼び方で何度も銀を呼ぶ。
「ハァ・・・あっ・・・師範っ・・・師範・・・しは・・んっ・・・!!」
「達きそうなんか?」
こくこくと頷く財前の背中を優しく撫でてやり、一際深く腰を落とさせる。最奥に銀の熱
が当たったのと同時にぎゅうぎゅうと内側が収縮する。もともと銀も限界に近かったこと
もあり、財前の中でこの上ない心地よさを感じ果てた。
「あっ・・・く・・・ぅんっ!!」
「・・・・っ!!」
どちらもふわふわとした甘い心地よさに包まれ、息もつかぬままお互いの顔を見る。その
幸せな気分を伝え合うかのように、二人はゆっくりと唇を重ねた。

浴衣をきちんと着直し、軽く後処理をすると、明かりを消して二人は一つの布団に二人で
入る。銀に腕枕をしてもらっているような状態で、財前はピッタリと銀にくっついていた。
「・・・師範。」
「何や?財前はん。」
「その・・・俺、メッチャしたがりで、すいません。」
「何で謝るんや?」
「いっつも、俺がしたいってわがまま言うて、師範は優しいからそれに付き合うてくれて、
迷惑かけてるんやろなあと思て・・・」
ぼそぼそとそんなことを言ってくる財前の頭を撫で、銀は苦笑する。
「さっきみたいなことは、好きだと想い合ってる同士がするもんや。」
「そうっスね。」
「財前はんはワシのこと好きやと思うとるんやろ?せやから、そういうことしたいと思う
んと違うか?」
「そうです。」
「ワシだって同じや。そないに言い出しはしないが、ワシだって財前はんとそういうこと
したいと思っとる。せやから、迷惑やと思ったことなんて一度もないで。言われて困るよ
うなところでは、財前はんはそないなこと言わへんしな。」
「師範・・・」
「してるときの財前はん、可愛さ10割増しやしな。」
「なっ・・・何言うてるんスか!ていうか、10割増しってどんだけやねん!」
銀らしくない銀の言葉に財前は真っ赤になりながらつっこむ。恥ずかしいなあと思いつつ
も、銀の言葉は財前を喜ばせるには十分すぎるものであった。
「師範。」
「ん?」
「・・・好きっス。」
「ワシも財前はんのこと大好きやで。」
思わず口から漏れてしまった想いにも、銀は即座に欲しい言葉を返す。幸せすぎてどうに
かなってしまいそうだと思いながら、財前は銀の胸に顔を押しつけた。
「今日はもうこのまま師範にくっついて寝ますわ。」
「ははは、財前はんはホンマ甘えん坊やなあ。」
「甘えん坊でええんで、ポンポンしてください。」
もうどうでにでもなれと、財前はぶっきらぼうにそう口にする。本当にどれだけ愛らしい
ところを見せてくるんだと、銀はニヤけてしまいそうになるのを堪えながら、財前の背中
をポンポンと叩いた。リズミカルに背中を叩かれ、先程の行為の疲労もあり財前はうとう
としてきてしまう。
(急にねむなってきた・・・アカン、もうまぶたが・・・・)
自然に下りてくるまぶたを止められず、財前の目は閉じられる。ほどなくして、財前は夢
の中へと落ちていく。
「今ので寝てまうとは、ホンマ子どもらしくてかわええな。ええ夢見るんやで。」
すーすーと穏やかな寝息を聞きながら、銀は優しく微笑む。いつもとは違う場所で、想い
を寄せる者と共に床につく幸せな時間。秋の虫が奏でる耳に心地の良い音を聞きながら、
銀は財前のぬくもりを胸に抱え、愛おしい寝顔をしばらく眺めるのであった。

                                END.

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