雨ときどき桜

「なあなあ、今って超桜咲いてんじゃん?」
「そーだね。ちょうど花見の季節だし。」
「みんなでさ、花見行かねぇ?」
部室のソファに腰かけながら、岳人はふと思いついたように呟いた。着替えやパソコンを
していた他のメンバーはその提案に乗ってきた。
「へぇ、ええやん。花見。」
「楽しそうですよね。」
「俺も賛成。やっぱ、春は花見しなきゃだよな!」
「いいんじゃねぇ?なあ、樺地。」
「ウス。」
「悪くはない。」
「ふあ〜・・・何の話してんの?」
「みんなで花見に行こうって話になってんだけどよ、お前も来るよな?」
「花見?うん、行く行く!!ちょー楽しそうじゃん!!」
全員一致ということで、次の休みに花見に行くことになった。次の週末はもう満開の桜が
だんだんと散り始めるころである。満開で大きく花開いている桜を見るのもよいが、散り
始めている桜を見るのもなかなか情緒があってよい。その日が晴れることを願いながら、
そこにいるメンバーは帰る用意をし始めた。

花見の当日。天気は一応晴れであった。しかし、天気予報によれば、夕方近くから雨がパ
ラつくところがあるらしい。
「わあー、すごーい!!」
「跡部、よくこんな場所知ってるよな。」
「当然だろ?どうせ花見するんだったら、人ごみん中より静かな場所の方がいいからな。」
跡部に連れて来られたのは、かなり山の奥にあり、たくさんの大きな桜の木がある場所だ。
急な道を歩かなければいけない場所にあるということもあり、人は跡部達以外にはいない。
まさに穴場中の穴場。ここなら思う存分花見が楽しめる。
「中心、どこにしようか?」
「あの木の下とかよくねぇ?一番デカイしよ。」
「せやなぁ。あの木の下なら仮に雨が降ったとしても平気そうやしな。」
宍戸の指差す先には、他の桜の木より一際大きな木が立っている。確かにその下ならば、
桜を見るのはもちろんのこと、例え雨が降り始めたとしても雨宿りが出来そうだ。他のメ
ンバーもその木の下で異存はなく、持ってきたシートや弁当をそこに広げた。
「うわあ、うまそー。なあなあ、早く食べようぜ。」
跡部が持ってきた弁当は、当然のごとく重箱に入った超豪華な弁当だ。そんな弁当の中身
を見て、岳人ははしゃぐ。
「花見に来たのにいきなり弁当かい。ホンマ、岳人は花より団子って感じやな。」
「腹が減っては戦が出来ぬって言うじゃねーか。まずは腹ごしらえからだろ?」
「桜と戦うんか?」
「いーんだよ!ほら、早く食べようぜ。」
とにかく岳人は早く弁当食べたいらしい。そんな様子を見ながら、滝や鳳はくすくす笑っ
ている。
「確かに跡部の持って来る弁当は御馳走だもんねー。」
「はい。こんな豪華な花見弁当、他にはないですよ。」
「このくらい当然だ。ほら、お前らも早く食っちまえ。岳人に全部食べられちまうぜ。」
「うん。じゃ、いただきます。」
「いただきます。」
まずは弁当を食べようと全員は箸を伸ばした。豪華な弁当に舌鼓を打ちつつ、風で散る桜
を眺める。春らしい暖かい風は、そこにいるメンバーの気持ちを何となくウキウキさせた。

「はあー、腹いっぱいになったし、桜も綺麗だし、やっぱ花見っていいな。」
豪華な弁当に大満足な岳人は、ぐーっと伸びをして大きく息を吸った。ほのかに桜の香り
がする空気で肺が満たされる。
「侑士、せっかくだからさ、このデッカイ桜の木、登ってみねぇ?」
「登るって、ホンマに?」
「おう。きっと、眺め最高だぜ!」
「確かにそうかもしれんけど、俺、あんまり木登りとかしたことないで。」
「大丈夫だって。侑士、背高いし。俺よりかは全然楽だと思うぜ。」
そう言いながら、岳人はひょいっと跳ねて一本の枝に手をかけた。そして、逆上がりをす
るかのようにその枝の上に乗る。
「ほら、侑士も早く登って来いよ。」
「そんな登り方、俺は出来ひんで。」
「普通に登ってくりゃいいんだって。」
岳人に急かされ、忍足はしぶしぶその木に登り始めた。しぶしぶ登ったものの、上から景
色を見てみると岳人の言う通りで眺めは最高だった。
「わあ・・・上から見るのって綺麗やな。」
「だろ?どうせだから、もうちょっと上行ってみようぜ。」
「せやな。」
すっかり景色に魅了され、忍足は岳人の誘いにポンポン応じてしまう。
「落ちてくんじゃねーぞ。」
「大丈夫だって!!落ちねぇよ。」
あまりにも高いところまで登っていくので、跡部は一応声をかける。一人で落ちるのは勝
手だが、巻き込まれるのは勘弁願いたい。ここにいると後者の確率が相当高くなってしま
うため、そんな注意をしたのだ。
「おー、すっげぇ!!こっから学園見えるぜ。」
「ホンマやな。」
「やっぱ高いとこっていいよな。な、侑士♪」
「・・・・・・」
「どうした?侑士。」
岳人は枝に座り、足をぶらぶらさせていたが、忍足は何やら下を見て固まっている。思っ
た以上に高いところまで来てしまったところに気づき、怖くなってしまったのだ。
「いや・・・思った以上に高いところまで来てもうたなあと思って・・・・」
「そうか?俺はもっと高いとこまで言ってもいいくらいだけどな。あっ、もしかして侑士
怖いのかぁ?」
からかうように言う岳人に忍足はムッとしたが、ここは素直に頷くしかない。嘘がつける
ほど余裕がないのだ。
「こないに高いとこまで来ることそう滅多にないから・・・・」
「あはは、可愛いなあ侑士は。じゃあ、下りるか?」
「いや、今は無理や。怖くて下りられへん。」
「仕方ねぇなあ。じゃ、景色でも見て落ち着いてきたら下りようぜ。何だったら俺に掴ま
っててもいいけど?」
ニッと笑いながら岳人は言う。確かに安定しない細い枝に掴まっているよりは、岳人の体
に掴まっていた方が安心だ。忍足は遠慮がちに岳人の腕を掴んだ。ここで岳人の悪戯心が
働いた。
「あっ、手が滑った。」
わざと忍足が掴んでいる腕を振ってみる。すると忍足はバランスを崩し、一瞬落ちそうに
なった。もちろん本当に落ちられては困るので、岳人はその体をしっかり支えてやる。
「ぅわっ!!」
驚いた忍足は必死で岳人にしがみついた。もう遠慮なんてあったものではない。抱きつく
かのように岳人の首に腕を回し、ぎゅっと目をつぶった。
「冗談だよ、侑士。こんなに抱きついてきてくれちゃて、そんなに怖かったのか?」
「あ、当たり前や!!ホンマに心臓止まるかと思ったわ。」
「悪い悪い。でも、俺的にはこのままの体勢の方がいいかなあなーんて。」
初めからこれが目的であったのだろう。それが分かっていても、忍足はその体勢を崩せな
くなっていた。さっきのように驚かされるのはもうこりごりなのだ。
「仕方あらへんなあ。今回は特別にこのままでいてやるわ。」
「マジで?ラッキー。」
「その代わり、ちゃんと俺が落ちんように支えといてな?」
「りょーかい。」
作戦成功というような笑顔を浮かべ、岳人は返事をする。してやられたと思っている忍足
だったが、岳人と一緒にいればこんなことは日常茶飯事。まあ、いいかと割り切って、と
もかく落ちないように岳人に掴まっておく。木の上からのお花見はもうしばらく続きそう
だ。

そんな岳人や忍足の下では、ジローがもうすっかり睡眠モードに入っていた。弁当を食べ
終わった後の満腹感と暖かい春の空気がジローに睡魔を運んできたようだ。
「ふわ〜、もうダメ・・・寝る。」
「花見はいいのかよ?」
「えー、もう十分見た。オヤスミ〜。」
「ったく、しょうがねぇ奴だな。」
宍戸と跡部が呆れているのを尻目にジローはひょこひょこと樺地の方へと歩いてゆく。そ
して、座っている樺地の足に頭を置き、ゴロンと転がった。樺地の了解も得ずにこういう
ことをするのはさすがジローと言ったところだ。
「樺地、嫌だったらそのへんに転がしておいてもいいんだぜ。」
跡部にこんなことを言われてもウスとは答えない。首を横に振って、そのままにしておい
た。もうこんなことは慣れっこなのだ。
「ジローも花見まで来て寝ることないのにな。」
「でも、ジローはそういうキャラでしょ。」
「ずっと起きてることの方が珍しいですもんね。」
すっかり寝入ってしまったジローを見ながら、宍戸達は苦笑した。
「樺地も偉いよな。こんなことされても文句一つ言わねぇんだもん。」
「何だかんだ言っても樺地はジローのこと好きなんだよね。」
滝の言葉に樺地は照れる。確かにそうなのだが、言われるとやはり気恥ずかしいものだ。
「あれ?そういや、跡部は?さっきまでそこにいたのにな。」
「えっ?あっ、本当だ。どこ行ったんだろうね?」
「トイレにでも行ったんじゃないんですか?」
「部長なら、さっき向こうの方に歩いて行きましたよ。」
樺地について話しているうちに跡部の姿が見えなくなってしまった。日吉は本を読みなが
ら、一際花の散りの激しい木を指差す。そこに他のメンバーはそこに目をやるが、跡部の
姿はどこにも見当たらない。
「どこ行っちまったんだろう?」
「さあ?」
「跡部さんも気まぐれなところがありますからね。」
そんな話をしていると、突然宍戸の体にありえない量の桜の花びらが降り注いだ。何が起
こったか分からない宍戸は、花びらまみれになりながら呆然とする。
「何やってんの・・・?跡部。」
宍戸の後ろに立ち、楽しそうな顔をしている跡部に滝は声をかける。多量の花びらが宍戸
に降ってきた原因は紛れもなく跡部だった。背後に跡部が立っていることを知り、宍戸は
怒りながら後ろを振り向く。
「いいざまだな宍戸。」
「な、何しやがんだー!!」
「あっちにな、他の木よりたくさん花びらが落ちているところがあったんだ。花びらまみ
れになって可愛いぜ宍戸。」
「意味分かんねーよ!!何、ガキみたいなことしてんだ。このアホベ!!」
「あーん?そんな口きいていいのか?」
「ちょっと二人とも、何こんなところで喧嘩してんのさ。」
「ウルセー!もう頭来た!!来いよ、跡部。」
「ああ、望むところだ。」
何がしたかったのか、跡部は宍戸にちょっかいを出し、喧嘩をふっかける。宍戸は跡部の
腕を引き、先程跡部が花びらを集めてきた木の方へと歩いていった。
「いきなりどうしたんでしょうね、跡部さん?」
「分かんない。跡部の行動、予測不可能だもん。」
「単に宍戸先輩と二人になりたかっただけじゃないんですか?」
パラっと本のページを繰りながら、日吉はポツリと呟く。その言葉を聞いて滝と鳳は納得
してしまった。
「あー、そうか。」
「それなら、納得いきますね。」
「でも、あんなやり方普通しないっしょ。」
「跡部さんらしいって言ったら、らしいですけどね。」
二人が歩いて行った方を眺めながら、滝と鳳は顔を見合わせて笑った。

桜の絨毯がしかれているようなほど、花びらが落ちている木の下まで来ると宍戸は跡部を
怒鳴りつけた。
「さっきのあれは何なんだ!?喧嘩売ってんのか?」
「さあな。まあ、そんなにカリカリすんなって。」
「テメェの所為だろ!!」
宍戸の怒りがおさまりそうもないので、跡部は優しく髪や服についた花びらを払ってやり、
耳元でそっと囁いた。
「少しの間、二人きりになりたかったんだよ。さっきのはちょっとやりすぎだったかもし
れねぇけどな。」
「っ!!」
それを聞いて宍戸の顔は火がついたように赤くなった。それだったら、そう言ってくれれ
ばいいと言ってやりたかったが、そのことをあの二人の前で言われたらどうだろう?そう
考えるとやはりさっきの誘い方は無難ではないのかと思ってしまう。
「もうちょっとマシな誘い方は出来ねぇのかよ・・・?」
「悪ぃな。あんなことしか思いつかなかった。桜で着飾ったお前も見てみたかったし。」
「ったく、わけ分かんねぇ。」
そう言いながら、宍戸はすっと両腕を跡部に向かって伸ばす。滝や鳳から見えない位置だ
ということを確認すると、跡部は誘われるままに宍戸の唇に自分の唇を重ねた。桜の木の
幹に手をつき、何度か重ねていくうちにだんだんと深いものになってゆく。
「ふ・・・ぅ・・ん・・・」
口の中を深々と探られながら宍戸は薄っすらと目を開ける。目の前にある綺麗な顔。そん
な顔に見惚れながら、宍戸は思わずうっとりしてしまう。じっと顔を眺めていると、跡部
の髪にもたくさんの桜の花びらがくっついていることに気がついた。
(跡部も変わんねーじゃん。でも、桜がくっついててもカッコ良く見えるっつーのはズリ
ィよなあ・・・)
「どうした?そんなに見つめてきて。」
「べ、別に見つめてなんかっ・・・」
「薄っすら目開けて、じっと俺の顔見てただろ?」
宍戸が自分を見ていたことに跡部は完璧に気がついていた。それが恥ずかしくて宍戸はう
つむいて黙ってしまう。
「俺様に見惚れてたんだろ?」
「・・・・うだよ。」
「あーん?聞こえないぜ。」
「そうだよ!!悪ぃか!!」
真っ赤になりながら顔をあげ、怒ったような口調で宍戸は言う。そんな宍戸を見て、跡部
顔を手で覆いながらくっくと笑った。
「な、何だよ?」
「いや、お前ホントに可愛いなあと思って。」
「ウルセー!さっきの続きでもして、黙っとけ!!」
「いいのかよ?テメェがいいっていうなら、俺が満足するまでするぜ?」
「勝手にしろ!!」
怒りながらも跡部を誘うようなことを言う宍戸は、もう跡部が好きで好きで仕方ないのだ。
しかもまわりは一面ピンク色。何となく気分が甘くなってしまうのは仕方がない。

「跡部達、帰って来ないね。」
「本当に喧嘩だったらどうしましょう?」
「それはないね。宍戸の怒鳴り声とかも聞こえてこないし。あながちあの桜の木の下でイ
チャついてるって感じじゃない?」
姿の見えなくなった二人が気になるのか、滝と鳳はそんな会話を交わす。しかし、そんな
ことをいつまでも気にしていても仕方がないので、話題をパッと変えることにした。
「にしても、桜綺麗だねー。」
「はい。」
「俺さー、散ってる最中の桜って好きなんだよね。普通なら儚いとか寂しいとか思うのか
もしんないけど、俺は思わないな。」
「どうしてですか?」
「単純に言っちゃえば、綺麗だから。確かに咲いてる桜もすごく綺麗だと思うけどさ、そ
れよりヒラヒラと舞い散ってる桜の方が綺麗だと思わない?」
そんな質問をされ、鳳は枝についたまま咲いている桜と風に乗りヒラヒラ舞い落ちている
桜をじっと見比べてみる。確かにどちらが綺麗かと言われたら散っている方の桜の方が綺
麗だ。
「確かにそうですね。」
「それにさ、花びらが散るったって、別になくなるわけじゃないじゃん。落ちた桜はまた
土に還るでしょ?ほとんどの桜はその木の下周辺に落ちるんだから、自分の咲いていた木
に戻るってことになるし。何か短期間の輪廻転生って感じだよねー。」
ニコニコ笑いながら、滝はそんな話をする。桜が咲いて散るのを輪廻転生と呼ぶのは滝く
らいであろう。しかし、鳳は素直にそんな滝のことをすごいなあと思っていた。
「桜見て、輪廻転生なんて思う人そう滅多にいないと思いますよ。すごいですね、滝さん。」
「変わってると思う?この考え方。」
「いえ、俺は散っていく桜を儚いと思うより、滝さんの考え方の方が断然いいと思います。」
滝の考えに共感して、鳳もニッコリと笑顔になる。本を読み、二人の会話に関心のないふ
りをしている日吉も滝の話す話には陰ながら感心していた。
「でも、桜の下って死体が埋まっているとも言われてるんでしょう?」
こんな話をふっかけたらどうなるだろうと日吉は興味本位で言ってみる。
「そういうこと言うなよ、日吉。」
「いや、俺的にはその話もちょっといいなあって思うよ。」
「どうしてですか?」
「だってさ、自分の体が埋まっている土の上にこんなに綺麗な花が咲くんだよ。しかも、
それが人を喜ばせてるんだから、いいことじゃない。俺は死んで、土に埋められて、桜に
なれたら結構嬉しいと思うけどなぁ。」
「滝先輩って、滅茶苦茶プラス思考なんですね。」
まさか自分がふっかけた少々ホラーチックな話をこう返されるとは思っていなかった。そ
の思考回路に日吉は半分呆れ、半分尊敬する。滝はどうやら突拍子もない思考の持ち主の
ようだ。
「で、さらに欲を言えば、長太郎と一緒になって桜の木になりたい。」
「た、滝さん・・・・」
一緒に桜の木になりたいというのは、なかなか思いつかない告白の言葉だ。そんなことを
言われ、鳳は激しく照れる。妙な雰囲気になっている二人を見ながら、日吉はやれやれと
いうような表情で再び本に目を落とした。その瞬間、本の上に一つの水滴が落ちる。
「あれ?」
そのことに気づいたのは日吉だけではなかった。木の上にいる岳人と忍足、他の木の下に
いる跡部と宍戸、そして、何となく他の桜を眺めていた樺地も気がつく。
『雨だ。』
天気予報通り、雨がパラパラと降り出した。すぐに雨足は強くなり、バラバラになってい
たメンバーはいったん初めにいた一番大きな木の下へと避難する。

「うわあ、本降りになってきちゃったねー。」
「ここ、いい感じに雨宿り出来るからまだマシだけど。」
「しばらく帰れそうにないなあ。」
本降りになりながらも雨の音はほとんど聞こえない。しとしとと桜の絨毯が敷かれた地面
を静かに濡らしてゆく。
「何か・・・雨の所為ですかね?桜の匂いがすごくありません?」
「ああ、確かに。さっきより匂いは強いかも。」
雨で空気が湿ったためか、桜独特の香りが辺りに広がる。そんな日常では味わえない雰囲
気の中、今までにないほど強い風が吹いた。
『うわっ・・・』
突然の強風に思わず目をつぶるメンバーであったが、ゆっくりとその目を開けると、映る
景色に言葉を失う。先程の強風で、たくさんの桜がまるで吹雪が起こっているかのように
散っているのだ。しかも、静かに降り注ぐ雨に混じり、その花びらはキラキラと輝いてい
る。
「すげぇ・・・・」
「雪みてぇだな。」
「雨の中の桜って、こんな綺麗だったんだな。」
「案外、ええ感じやん。」
「雨の日のお花見って、考えられないと思ってたけど、そうでもないね。」
「はい。こんなにキラキラ舞ってる桜、初めて見ました。」
「意外だな。」
「ウス。」
そこにいるメンバーは雨の中舞い散る桜にしばらく目を奪われていた。今、目に映ってい
る景色はまるで別世界。こんな景色は今の今まで見たことも想像したこともなかった。
「ジローも起こしてあげた方がいいんじゃねぇ?」
「そうだね。こんな景色滅多に見れないし。」
「樺地、起こしてやれ。」
「ウス。」
というわけで、すっかり眠っているジローを起こしてやる。初めは無理やり起こされ、不
機嫌顔のジローであったが、今、目の前にあるその光景を見て、パッチリ目を覚まさせた。
「うっわあ、何これ!?すっげー!!雪が降ってる。」
「雪じゃねーよ。桜だ。」
「桜!?マジマジすっげー!!超キレイだC〜!!」
ジローもこの景色には感動しているようだ。雨はまだまだやみそうにないが、もうそんな
ことはどうでもよくなってしまった。
「雨がやむまで、花見、しっかり楽しめそうじゃねぇ?」
「せやなあ。こんな花見もありやろ。」
「やっぱ、散ってる桜っていいですね、滝さん。」
「うん。これは特にね。」
「また来年も見てぇよなあ。」
「なかなかこういうのは見れないかもしれねぇけど、行く価値はあるよな?」
「ウス。」
「絶対来年もみんなで来ようぜ!」
「そうですね。」
降り続く雨と桜を見つめながら、そこにいるメンバーは実に楽しそうに、そして、嬉しそ
うに、言葉を交わすのであった。

                                END.

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