宍戸の誕生日の二日後。そして、跡部の誕生日の三日前。10月1日に二人の誕生パーテ
ィーがいつものあのメンバーで行われた。その日はちょうど休みだったので、昼前から夕
方まで存分に遊ぶことが出来る。それぞれ思い思いのプレゼントを持ち寄って跡部と宍戸
に渡してゆく。それを受け取り、どちらも嬉しそうに笑いながらお礼を言った。そして、
話のネタは宍戸の誕生日に跡部が何をあげたかということになった。
「なあ、跡部。お前、今年は宍戸に何あげたんだよ?」
「あーん?そんなことどうでもいいだろうが。」
「宍戸、跡部から何もらったん?」
「内緒。でも、すっげぇ豪華なプレゼントだったぜ。」
ニコニコしながら宍戸は話す。すごく気になるのだが、宍戸のこの表情を見た限り、そう
とうな物だということはまず間違いない。この後もかわるがわるプレゼントの内容を聞き
だそうとしたが、二人は絶対に教えてはくれなかった。
「まあ、いいや。まだちょっと気になるけど別にそれほど超知りたいってわけじゃないし。」
「そうっスね。」
「なあ、跡部に宍戸。カメラ持って来たからさ、お前ら二人撮ってやるよ。」
滝は鞄からカメラを出し、それを二人に向けた。たまにはこういうのもいいだろという感
じで跡部も宍戸もノリノリだ。
「じゃあ、撮るよ。ハイチーズ。」
パシャッ
フラッシュが光ると同時に跡部は宍戸の頬にキスをする。宍戸は驚いたがその後笑った。
「何やってんだよ、跡部。」
「いいじゃねぇか。記念だ記念。」
「ま、いいけどさ。」
もうバカップル全開のこの二人を半分呆れて眺めながらも、他のメンバーもどこか嬉しそ
うだった。この二人の幸せオーラは周りをも巻き込むほどなのだ。そして、大騒ぎのまま
誕生パーティーは終わりに近づく。最後は全員で写真を撮った。ただの誕生パーティーに
も関わらず、メンバーの表情は本当に楽しそうな笑顔だった。
大騒ぎの誕生パーティーから三日後。約束通り跡部と宍戸はこれから二人で住む予定のマ
ンションへとやって来た。かなり大きなマンションでここの部屋を買うとしたらどれだけ
のお金がかかるのだろうと宍戸は数学の苦手な頭で計算してみるが、全く検討がつかない。
だが、跡部はそんなことは全く気にせず、つかつかと自動ドアをくぐりエレベーターのボ
タンを押した。
チンッ
エレベーターが到着すると跡部は迷わずそれに乗る。宍戸も後を追うようにしてそれに乗
った。
「跡部、俺達の部屋って何階なんだ?」
「それは着いてからのお楽しみだ。」
跡部が教えてくれなくてもエレベーターの表示はしっかりとその階を示している。エレベ
ーターは最上階を示していた。まさかとは思ったが本当に最上階とは宍戸はまだ信じられ
ない。
チンッ
やはりエレベーターは最上階で止まった。当然のことのように跡部はそこで降りる。宍戸
もつられてそこで降りた。通路から見える景色もかなりの眺めだ。これが部屋からの景色
になるとどうなるのだろうと宍戸は期待で胸が躍る。
「宍戸。俺達の部屋はここだ。」
一つの部屋の前で跡部は足を止めた。まだ表札などは何もない。住んでいないのだから当
然であろう。跡部はこの前宍戸に渡した鍵と全く同じものをポケットから取り出し、鍵穴
にそれを差し込んだ。そして、それをゆっくりと回す。カチャっという音がすると跡部は
鍵を鍵穴から抜き、ドアを開けた。宍戸の心臓はドキドキと高鳴っている。自分達が住む
部屋はどんなものだろうと心の中は期待でいっぱいだった。
「入るぞ。」
「あ、ああ。」
中に入ると短めの廊下が伸びていて、その先にガラスがはめ込まれた白いドアがある。跡
部はまずそこへ宍戸を連れて向かった。
「ここがリビングだ。」
「うわあ・・・・」
リビングには大きなテレビと小さめのテーブル、そして、真っ白な大きなソファが置かれ
ていた。右側にはピカピカの広いキッチンのスペースがある。そのまま真っすぐ突っ切る
とベランダに出ることも出来た。
「跡部、ベランダ出てみていい?」
「ああ。」
宍戸は窓を開け、ベランダに出る。ベランダから見える景色はそれはもう最高で、とても
家から見られる景色とは思えなかった。
「すげぇー!!超眺めいいじゃんここ。」
「当然だろ?このマンションの中で一番眺めのいい部屋だぜ。」
「俺達ここに住むんだよな!?」
キラキラと目を輝かせながら宍戸は跡部に尋ねる。この景色にそうとう感動しているよう
だ。
「そうだぜ。ここは俺とお前だけの部屋だ。」
「うわあ、ホントすげぇよ。どうしよ、夢みてぇ。」
宍戸のはしゃぎっぷりは次第に増してゆく。ベランダだけ見ていてもしょうがないので、
跡部は宍戸の手を引き、部屋の中へと戻った。リビングには左側に他の部屋に行くことの
出来るドアがある。跡部はそのドアを開けた。
「ここが寝室だ。」
寝室には服を入れるためのタンスと豪華なダブルベッドが置いてある。その豪華なダブル
ベッドに宍戸の目は釘付けだ。
「ダブル・・・ベッド・・・?」
「どうせ、寝るときは一緒だろ?ダブルだったら広いからそういうことするのにも都合い
いし、この布団かなりいい感じだぜ。」
そう言って跡部はそのベッドに座った。手を伸ばしてくるのでその隣に宍戸も座った。
「うわっ!!」
宍戸が隣に座ると跡部はベッドの上に押し倒してみる。そうされても衝撃はそれほどなく
ふわふわしてとても気持ちよかった。だが、その体勢がやっぱりヤバイので宍戸は慌てて
跡部を押しかえそうとする。
「ちょっ、ちょっとたんま跡部っ!!まだ、ダメだ!!こういうことは後で・・・」
「今は何もしねぇよ。ほら、寝心地いいだろ?このベッド。」
今は何もしないと言われ宍戸はホッとする。確かに横になるとこのベッドはかなり寝心地
がいい。
「ああ。すげぇ柔らかくて、いい感じ。」
「だろ?じゃあ、次行くか。」
ベッドから離れると、跡部はリビングに続くドアを出て、さらに廊下に出るドアも通り過
ぎた。この廊下の両側にもいくつかドアがある。
「まず、こっち側だ。ここがトイレでその隣が風呂だ。」
一応どちらのドアも開ける。トイレはいたって普通なのだが、風呂場はかなり広い。バス
タブも通常のものより一回りか二回りくらい大きかった。
「風呂、激広いな。」
「そうか。俺はもっと広くてもいいと思ったけどな。」
さすが跡部。この程度ではまだ満足出来ないらしい。風呂場が見終わると今度は逆側にあ
るドアに手をかけた。こちら側にも二つのドアがある。
「ここは俺の部屋。隣がお前の部屋だ。大学行ったら教科書とか他の私物とかいろいろ出
てくんだろ。ここはそういうもんを置く場所だ。さすがにこればかりは分けた方がいいだ
ろ?」
「おう。・・・俺の部屋までもとからあるんだな。」
「当然だ。お前が居なきゃ意味がねぇ。」
さらっとこういうことを言うので、宍戸は嬉しいながらも何だか恥ずかしくなってしまい
頬を赤く染める。こんなにも豪華で嬉しい誕生日プレゼントは生まれてきて初めてだと感
じずにはいられなかった。
「まあ、部屋ん中はこんな感じだな。」
「すげぇよ、ここ。俺、激感動した!!」
「そうか。そりゃよかった。」
宍戸が素直に喜んでいるので跡部はふっと笑顔になった。二人はまたリビングに戻る。そ
して、ささやかながら二人だけの誕生パーティーを始めた。
小さなケーキをテーブルに置き、宍戸の誕生日の時にしたようにローソクを立て、火を吹
き消す。いっぺんに消えるのを見ると二人は顔を見合わせて笑った。
「跡部、消す時ちゃんと願い事したか?」
「願い事?」
「誕生日のローソクを消す時に願い事をすると叶うんだぜ。」
「へぇ、そうなのか。消す時はしなかったけど、今してもいいよな?」
「うーん・・・まあ、別にいいんじゃねぇ。」
消した後でもまあ時間的にはそんなに経っていないので、大丈夫じゃないかと宍戸は跡部
に言った。
「じゃあ、お前とずっと一緒に居られますように。」
軽く唇にキスをしながら、跡部は笑いながら言う。宍戸はそれを聞いて嬉しくてたまらな
かった。跡部の願い事も自分と同じだとこんなにも簡単に知ることが出来たのだ。嬉しく
て当然であろう。
「誕生日おめでとう跡部。」
「サンキュー。」
まずは心を込めて誕生日のお祝いの言葉を言った後、宍戸は持ってきたプレゼントを跡部
に手渡した。花が欲しいと言った跡部の要望通り宍戸は二種類の花を用意してきた。
「これ、誕生日プレゼント。この二つのどっちか選ぶなんて出来なかったから両方買って
来ちまった。」
一つは花束とまではいかないが、そんな感じに束ねられた枝に咲いている花。ほととぎす。
もう一つは少し大きめの鉢に入った白い花。アングレカムだ。
「何かどっちも変わった花だな。それで、花言葉は?」
「どっちもカードに書いて入れてあるよ。」
顔を真っ赤にしながら、宍戸は跡部から目をそらしてそう言い放った。よく見てみると確
かにどちらの花にもカードが添えられている。そのカードを見て、跡部の顔はあからさま
に笑顔になる。カードに書かれていた言葉それは・・・
ほととぎす −永遠にあなたのもの−
アングレカム −いつまでもあなたと一緒に−
こんなものを見てしまったらニヤけずにはいられないだろう。それも宍戸の手書きときた。
これを書いている宍戸の表情が容易に想像出来、跡部はとにかく顔を緩ませるしかなかっ
た。
「やっぱ、それじゃあウザイ?」
「んなわけねーだろ。最高だぜ。すげぇ嬉しい。」
跡部は愛情を込めて宍戸のことを抱きしめる。そのホッとするような感覚に宍戸も跡部の
ことを抱きしめ返した。そのままの状態で跡部は宍戸に尋ねた。
「なあ、ほととぎすの方の花言葉、お前が誕生日プレゼントって解釈してもいいか。」
「そのつもりで選んだ・・・。」
「後、アングレカムの方。あれを送ったってことは、一緒に住むこと返事はYESでいい
んだよな?」
「当たり前だろ。つーか、いちいち確認すんな。・・・恥ずかしい。」
赤くなった顔を隠そうと宍戸は跡部の肩に顔を埋める。そんな宍戸が可愛くて愛しくて、
跡部は顔を上げさせ、これ以上なく優しく口づけを施した。その心地よさに宍戸はゆっく
り瞳を閉じる。ある程度、そのキスを満喫すると跡部は突然立ち上がり、宍戸のことをふ
わっと抱き上げた。
「うわっ・・・!!」
「今日は最高の誕生日だぜ。ここじゃ何だから寝室連れていくぞ。」
「跡部、俺、自分で歩ける・・・。」
「今日は俺様の誕生日だ。素直に俺様の言うことを聞いとけ。」
「・・・・分かったよ。」
宍戸は抱き上げられ、このあと何をするかバッチリ分かってしまいながらも跡部の首に腕
を回してしまう。そのまま跡部は寝室に宍戸を連れて行った。そして、誕生パーティーの
続きをするのであった。
二ヶ月後、跡部の推薦の結果が出た。結果はもちろん合格。宍戸は指定校推薦だったので、
校内選考を通った時点で決まったも同然だったので、これでどちらも大学が決まったこと
になる。それが分かってから数日後、二人はあのマンションへ引っ越した。
「よし、俺の荷物はこんなもんだな。跡部、そっちは?」
「ああ。俺もほとんど自分の荷物は片付け終わったぜ。」
自分の荷物を部屋に移すと二人はあの広いリビングに行く。暖色のカーテンの外では、ア
ングレカムがいまだに元気よく育っていた。
「あの花結構もつな。」
「そりゃそうだろ。俺が今までちゃんと世話してやったんだぜ。」
「そうなのか?」
「だって、せっかくお前がくれたもんだぜ。来年も絶対咲かす。」
「ありがと・・・。」
そこまで大切にしてもらえていると知って宍戸はほのかに顔を赤くした。白いソファに座
りながら、跡部に甘えるように寄りかかる。
「なあ、もうすぐクリスマスだよな。」
「そうだな。」
「今年はここでクリスマスパーティーするんだよな?」
「当然だろ。もちろん二人きりでな。」
「うわあ、楽しみー。」
ニコっと笑って宍戸は言った。しばらくそのままだったが、突然、宍戸が何かに気づいた
ように立ち上がった。
「跡部!!重要なもん忘れてた!!」
「何だよ?もう自分のものは全部片付け終わったんじゃねーのか?」
「違う、表札だ表札!!」
「あー、そういや、まだつけてなかったな。」
宍戸は自分の部屋に戻って表札を取ってきた。木で出来たそれほど派手でない表札には、
ローマ字で『KEIGO&RYO』と書かれている。名字を書くよりも名前で書いた方が
イイ感じだと宍戸が提案し、跡部もそれを了承した。
「一緒につけようぜ。」
「そうだな。」
跡部を立ち上がらせ、宍戸はパタパタと玄関まで駆けてゆく。そこまで行くとドアを開け
て早く来いよと手招きをした。跡部は歩くスピードを少しだけ速め、宍戸のもとへ行く。
「ここらへんでいいよな?」
「ああ。」
ちょうどドアの真ん中あたりに表札をかける。それを見て宍戸は心の底から笑った。
「あー、ここが俺達の家になるんだよな。何かもうすげぇ嬉しい!」
「ああ。俺もかなりこれから先楽しみだ。」
「これからよろしくな、跡部。」
「もっと仲良くなっていこうぜ、宍戸。」
「ああ。」
大学は違うが、二人は同じ時を一緒に過ごしていくことが出来る。もう大学も決まってし
まい、これからは時間的に余裕がある。これからの生活を楽しいものにしていこうと二人
は自分達の新しい家の前で幸せなキスを交わすのであった。
END.