ここは跡部邸。それも何万冊の本があろうかというような図書室だ。そこに氷帝のレギュ
ラーメンバーが終結している。今日は8月31日。そう最後の追い込みで宿題を終わらそ
うという魂胆で集まったのだ。跡部の家の図書室ということでいくら騒いでも怒られるこ
とはない。
「あー、どうしよ〜。終わんねぇ!!」
「俺も無理〜。侑士ー、見せてー。」
「うわーん、まだ美術も数学も作文も終わってねぇよー。」
宿題がまだまだたっくさん残っているのは、宍戸・岳人・ジローの三人だ。宍戸において
は、英語も数学も国語も自分の得意な教科以外は全て残っている状態だ。岳人も得意な英
語は終わらせたものの、国語系のものには何も手をつけていない。ジローは時間のかかる
芸術系の宿題も残っている。
「ったく、何やってんだよバーカ!宿題なんて7月中に終わらせるのが普通だろ?」
「しょうがあらへんなあ。数学は見せたるわ。でも、作文は自分で書くんやで。」
跡部は当然のことながら、7月中に全ての宿題を終わらせていた。忍足も8月の下旬にな
る前までには終わらせている。真面目な樺地も既に宿題は終わっており、今日は手伝いと
いうことになっている。
「長太郎ももう全部終わってるよね?」
「えっと、実はまだあと少しだけ残ってるんですよね。」
「へぇ、そうなの?何が残ってるの?」
「英語で訳せないところがあって・・・」
「そっか。じゃあ、そこは教えてあげる。で、相談なんだけど、長太郎美術得意だよね?」
「はい。」
「色塗り手伝ってくれないかなあ。なかなか自分じゃうまくいかなくて。」
鳳は英語がまだ少し残っているようで、滝も美術の絵画が残っている。しかし、これはお
互いに手伝いあうようだ。ほとんど終わっているものが終わっていないものの手伝いをす
るという形で夏休みのラストスパートを始めた。何故こんなことをしなければいけないか
というと、テニス部顧問の榊の意向でレギュラーは必ず夏休みの宿題を締め切り日に提出
しなければいけないということになっている。もし、それが守れない場合はレギュラー落
ち。そのため、みんな必死になっているのだ。
細かいことで一番量が残っているのは宍戸。歴史の年表作りは終わらせてあるが、英語の
訳と数学のワーク、そして、国語の読書感想文が終わっていない。跡部はまず、英語から
終わらせるぞということで、教科書を広げさせ、文法的なことを教えていった。
「本当何もやってねぇんだな。」
「しょうがないじゃんか!!夏休み中はずっとテニスの練習してたんだからよ。」
「そんな言い訳は通用しねぇ。ほら、ゴタゴタ言ってねぇでさっさと進めろ。」
「お、おう。」
宍戸は根本的に単語の意味が分かっていないので、跡部は教科書を見ながら単語の意味を
ポンポン言う。それを宍戸は教科書に書き込んだ。
「Englandがイギリス、historyが歴史、kingが王、queenが女王、
centuryが世紀、Industrial Revolutionが産業革命だ。」
「・・・これって、もしかしなくてもイギリス産業革命の文章?」
「ああ、そうだぜ。」
「そっか。それなら俺、だいたいの流れ覚えてる!!」
社会科系の教科が得意な宍戸は当然世界史も得意である。そのため、産業革命についてが
説明されたこの英文は今持っている知識で十分に訳せてしまうのだ。分からない単語だけ
跡部に聞き、あとは文の流れから歴史上の出来事が並べてあるだけなので、宍戸はすいす
いと教科書の英文を訳していった。
「よっしゃー!!英語終わり!!次は数学だ。」
「数学も全く手付かずなのか?」
「いや、半分くらいはやってある。」
「それならそんなに時間はかかんねぇな。」
今回の数学の問題は本当に基礎的な問題しか出ていなかったので、跡部は自分のやってあ
るものを見せ、写させた。教えるのはあとでもよい。今はとにかく終わらせることが大事
だとそうしたのだ。と、宍戸が必死で答えを写していると横から樺地がじっと跡部の解答
を見ている。
「どうした?樺地。」
「・・・・・。」
樺地は無言でとにかくその問題と解答を眺めている。その目はまるで試合の時、相手の技
をコピーするときのようだった。それが少し気になるが、そんなことをいちいち気にして
る暇はないので、宍戸はとにかく手を動かした。
「よーし、終わり。あとは読書感想文!!」
「お前にしてはいいペースじゃねぇの?で、何の本の感想を書くんだ?」
「・・・・やべぇ、俺、夏休み中何も本読んでねぇよ。」
本なんて滅多に読まない宍戸が、特に意味もなく本を読んでいるはずがない。しかし、読
書感想文というのは本を読まなければ書くことは出来ない。
「ここにはいくらでも本がある。今からでも読めばいいじゃねぇか。」
「無理無理!!絶対読み終わんねぇって!!跡部ー、何か簡単に読める本ねぇ?」
「そうだな・・・」
跡部は最近読んだ本で面白そうな本をピックアップし、宍戸の前に持ってくる。
「ゲーテのファウストはなかなか面白かったぜ。あっ、あとこれ、カーリダーサのシャク
ンタラー。それから、これは物語じゃねぇけど、ボードレールの悪の華っつー詩集も結構
いい感じだったな。それから、千夜一夜物語にホメロスのオデュッセイアなんかも・・・」
「ちょ、ちょっと待て跡部!!」
跡部があまりにもポンポンと本を置いていくので、宍戸は慌てて止める。タイトルを聞く
限りでは、自分の読めそうな本はない。どれも海外文学で見るからに難しそうなものばか
りだ。
「俺、そんな難しい本読めねぇって!!」
「あーん?そんなに難しい本はねぇぞ。」
「いや、俺にとっては難しいから。」
せっかく人が面白い本を薦めてやっているのにと跡部は不機嫌顔になる。ここで機嫌を損
ねると宿題を手伝ってもらえなくなりそうなので、宍戸は目の前に置かれた本の中で一番
薄そうな本を手にした。パラパラとページをめくるが、文体が古典風で理解するのが難し
い。
「・・・・・・。」
「シャクンタラーか。その話面白いぜ。最後に王が天国までシャクンタラー姫を迎えに行
くあたりとか、なかなかこっちにはない発想でよかったな。」
楽しそうに物語の内容を説明する跡部の話を聞いて、宍戸はふと気がついた。自分でこの
本を読まなくても、跡部がどういう話だったかを詳しく説明してくれれば、感想が書けな
いこともない。むしろ、そっちの方が話の内容をしっかり理解出来て、ちゃんとした感想
が書けるだろう。
「跡部、この本ってどんな話だ?最初から説明してくれよ。」
「いいぜ。この話はお前も知ってる通り、インドの有名な作家のカーリダーサが・・・・」
さすが読書が趣味の跡部。すらすらと物語の内容を話し始める。宍戸はそれに頷きながら、
だいたいのあらすじをノートに書きとめていった。
宍戸が跡部に本の内容を聞いている横で、ジローは数学のワークと格闘していた。内容は
因数分解と2次方程式が中心。普段授業中寝まくっているジローにとってはさっぱり分か
らない問題ばかりだ。すると、先ほどまで宍戸が跡部の解答を写しているのをじっと見て
いた樺地がジローの隣にストンと座った。そして、問題を指差し、ポンポンと解答と言い
始めた。
「問1 X2+6X=91 X2+6X+32=91+32 (X+3)2=100 X+3
=+10,−10 X+3=10よりX=10−7 X=7 X+3=−10よりX=−
10−3 X=−13 よって答えはX=7,−13。」
ジローは呆然とする。何故2年の樺地が3年の数学の問題が解けるのか。それもご丁寧に
途中式までも完璧に答えてくれている。よく分からないが、ジローは樺地が言った答えを
ワークに写した。そして、樺地は次から次へと問題を指差しては解答を完璧に答えていく。
宍戸が写していたのをじっと見ていたのは、跡部の解答を覚えるためだったのだ。
「・・・・で、答えはX=8です。」
「樺地、すげー!!あっという間に数学の宿題終わっちまったよ。」
「ウス。」
思ったより早く終わったとジローははしゃぎまくりだ。ジローも当然読書感想文は残って
いたが、それは面倒なので先に美術をやることにした。大きなスケッチブックを出し、机
のに開く。そこには鉛筆で様々なものが描かれていた。羊にテニスボールにラケット、枕
にたくさんのお菓子。この統一性のない絵から何がテーマなのか、樺地にはさっぱり分か
らなかった。
「樺地ー、美術の宿題手伝って!!」
「ウ、ウス。」
手伝ってと言われても何をしたらよいのやら。まずテーマが分からない。しかし、ジロー
の逆隣に座っていた岳人がその絵を見て笑っていた。
「あはは、ジロー何だよそれー。」
「何がぁ?ちゃんとテーマ通りの絵じゃん!!」
「確かになあ。ジローの頭ン中はそんなかもしれへんけど、ここまで率直に描けるんはス
ゴイわ。」
「?」
頭の中とはどういうことだろうか。まだハッキリとしたことは分からない。すると向かい
側に座っている滝と鳳の会話が耳に入った。この二人も3年生の美術の宿題の話をしてい
るらしい。
「滝さん達は美術の宿題のテーマって何なんですか?」
「ボク達は『自分の心』。長太郎は?」
「2年は写生なんですよー。だから結構難しくて。」
二人の会話を聞いて、樺地は納得した。ジローのスケッチブックに描かれているのは、ジ
ローの心の中だ。それが分かるとジローの絵は実に分かりやすいものである。とにかく好
きなものを自由気ままに描いている。
「下書きは終わってるんだけどさー、色塗りがまだで。樺地、一緒に塗って〜。」
にこーっと笑ってジローはそう言う。当然手伝わないわけにはいかないので、樺地は頷い
た。
「ウス。」
「サンキュー!!樺地が一緒にやってくれるなら百人力だぜ。」
ジローも樺地が美術が得意だということは知っているので、そんなことを言う。持ってき
た絵の具セットを出し、二人はスケッチブックに色を塗り始めた。
同じように美術の宿題をやっているのは滝と鳳。さっき話していた通り、3年生の美術の
宿題のテーマは『自分の心』。滝のスケッチブックには幻想的な背景に一匹の犬が描かれ
ている。
「滝さん、絵上手いですよねー。」
「そんなことないよ。それにボク色塗り苦手だし。」
「えー、色合いもすごくいいと思いますよ。この背景とかもなかなか描ける絵じゃないで
すもん。」
「ありがとう。長太郎にそう言ってもらえると嬉しいな。」
ただ宿題をしているだけなのに、この二人の場合は余裕がある上に無駄にラブラブな雰囲
気が漂っている。
「この犬も可愛いですよね。でも、何で犬なんですか?」
「知りたい?」
「はい。」
幻想的な雰囲気とは少し不似合いな犬に疑問を持ち、鳳は尋ねてみた。テーマは『自分
の心』。当然この犬にも何かしらの意味があるのだろう。滝はふっと微笑んで、楽しそう
にその意味を鳳に教える。
「この犬は長太郎♪」
「えっ!?」
「長太郎って犬に似てると思うんだよね。それにこの絵のテーマ『自分の心』だし。背景
はマジックをイメージして描いたんだけど、この犬は長太郎だよ。ボクの心の中にはいつ
も長太郎がいるもん。」
恥ずかしげもなくそんなことを言う滝の言葉に鳳は照れが隠せない。一緒に色塗りをして
いた手を思わず止めてしまう。そんな反応をする鳳を見て、滝はクスクス笑った。
「この犬、俺っスか?」
「そうだよ。でも、やっぱ犬で表されるのは嫌?」
「いや、そんなことないですけど・・・・何か恥ずかしくて。」
「大丈夫だよ。他の人にバレるわけでもないし。」
「でも・・・」
あからさまに描かれるとやっぱり恥ずかしいと鳳は赤くなっている。可愛いなあと滝はニ
コニコしながら色塗りを進めた。もう半分以上は塗ってあるので、そこまで時間はかから
ない。
「ここは何色がいいと思う?」
「えっ、えっと、青とかどうですか?」
「青か。うん、いいかも。」
時間がかからないはずなのだが、わざと鳳に色を聞いたりしてゆっくりと作業を進める。
鳳の英語に入るまではまだまだ時間がかかりそうだ。
一方、実技系ではなく主要教科の宿題ばかりが残っている岳人は、忍足に手伝ってもらい
順調に宿題を進める。数学は写すだけなのですぐに終わったが、苦戦しているのはやはり
読書感想文。岳人も宍戸やジローと同じく本など読んでいないのだ。
「う〜、本って何読みゃいいんだよ〜。」
「何でもええんとちゃうの?ここにはいろんな本があるみたいだし?」
「侑士は何読んだ?」
「俺は源氏物語を読んだで。」
さすがラブ・ロマンスが好きなだけはある。どんな感想を書いたか気になるが、今は何と
かして岳人の方を終わらせなければならない。まずは本を探さないとということで、二人
は席を立って簡単に読めそうな本を探し始めた。
「うわー、何か難しそうな本ばっかだ。」
「こんなところに簡単な本なんてあるんかいな?」
てくてくといろいろなところを歩いてみるが、哲学書や洋書、分厚い本ばかりで岳人が読
めるような本はなかなか見つからない。しばらく歩いているともう嫌になってしまったの
か岳人が本棚によりかかり、座り込んでしまった。
「あー、もう!!わけわかんねぇ!!読書感想文は捨てようかなあ。」
「ダメやで、岳人。そないなことしたらレギュラーから外されてしまうで。」
「うっ、それはヤダ!!はぁ〜、しょうがねぇ。ちゃんと探すか。」
岳人が立ち上がったと同時に上から一冊の本が落ちてきた。しっかりと本棚に入っていな
かったようだ。
「痛ってぇ〜。何だよ。」
頭を押さえて岳人は涙目になっている。しかし、下に落ちている本を見ると、他の本とは
比べものにならないくらい薄く、まるで絵本のようなものだった。
「これなら読めるんちゃうの?」
「ああ。読んでみるか。」
その本を手に取ると二人は他のメンバーがいる机へと戻る。さっきと同じようにイスに座
るとその本を読み始めた。中身もやはり絵本のようで、パステルで描かれたような柔らか
なタッチの絵に短い文章が書かれている。これなら読めると岳人は読み進めていった。
『・・・・・・。』
忍足も岳人一緒に読んでいたのだが、読み終わると二人とも涙目になっていた。確かに絵
本のようで、そんなに長くないのだが、内容はとても深く感動出来るものだった。
「これ、すげぇいい話じゃねぇ?」
「ああ。何か心温まる話って感じやな。」
「俺、これなら感想文書けそう!!」
思ったよりもおもしろい話だったので、岳人はシャーペンを持ち、原稿用紙に感想を書き
始める。文章的におかしなところは忍足に直してもらい、何とか読書感想文も終わらせる
ことが出来た。
それから数時間が経ち、それぞれあともう少しだというところまできた。かなり多くの宿
題が残っていた三人はすっかり疲れきっていた。
「よーし、感想文終了!!やっと、全部終わったー!!」
宍戸は最後の読書感想文をやり終えると机の上に突っ伏した。本の内容を事細かに説明し、
宍戸の書いた文章の添削をやった跡部もだいぶ疲れたような表情だ。しかし、その表情は
面倒なことをやらされて不機嫌になっているというよりは、一つのことを終わらせてやっ
たぞというような満足感あふれるものだった。
「これで、全部終わりだな。」
「ああ。サンキューな跡部。すげぇ助かったぜ。」
「当然だ。俺様がじきじきに手伝ってやったんだ。出来て当たり前だぜ。」
自信満々にそんなことを言う跡部の頬っぺたに宍戸は軽くキスをしてやった。その瞬間、
跡部の顔はぴしっと固まった。
「今のは手伝ってくれたお礼だ。素直に受け取っておけ。」
そういう宍戸の顔はほのかに赤く染まっている。自分でしておきながら、相当照れている
ようだ。キスをされた頬に手を当てながら、跡部はしばらく宍戸からキスをしてきてくれ
た嬉しさに浸る。しかし、この程度でお礼だというのは少々少なすぎると、恥ずかしがっ
てそっぽを向いている宍戸の肩をがしっと抱き、耳元で囁いてやった。
「今のだけじゃ少なすぎるぜ。ちゃんとしたお礼はあとでしっかり受け取ってやるからな。」
「〜〜〜〜!!調子に乗んなっ!!」
真っ赤になりながら、宍戸は跡部をどついた。しかし、本気で殴ったわけではないので、
跡部も反論する。
「手伝ってもらってその態度は何だ?あーん?」
「うっ。分ーかったよ!!あとでな!!」
結局跡部の勝ちだ。手伝ってもらって助かったのは事実なので、跡部の言葉には逆らえな
い。まあ、それを見越して跡部はここまで宍戸の宿題を手伝ったのであろう。
「Zzzzz・・・・」
絵の具を手や顔につけ、すっかり寝入っているのはジローだ。美術の宿題をやりおえると
もう力つきたのか、いつものように眠ってしまった。絵の具セットの片付けは全て樺地が
やってくれていた。スケッチブックも片付けようとジローの腕の下から抜く。出来上がっ
た絵を見て、樺地は何となく嬉しくなる。確かにこれはジローの宿題ではあるが、ある意
味共同制作のようなものだ。二人で仕上げた絵だと考えるとそんなに上手いとは言えない
絵でもすごくいい絵に見えてくる。
「・・・・・。」
じっとその絵を眺めていると、ひょいっと後ろから滝が覗いて、話しかけてきた。
「ジローらしい絵だね。」
「ウス。」
ちょっとビックリしながらも樺地は返事をする。
「でも、色使いは樺地っぽいな。樺地の絵って上手いからよく美術室に飾られてるじゃん。
その色使いにそっくり。」
色塗りは樺地が中心でやったので、そうなってしまったのだ。そう言われてやっぱり嬉し
いと感じる。言葉には出さなくても樺地は本当に素直なのだ。
「変・・・ですか?」
「そんなことないよ。二人で頑張って描いた感がよく出てて、すごくいい絵。」
「・・・・ありがとう・・・ございます。」
少し照れたような表情で樺地は呟いた。滝はやっぱり2年生メンバーは可愛いなあと思い
ながら、鳳のところに戻る。
「長太郎、片付け終わった?」
「はい。滝さん、英語教えてくれてありがとうございました。」
「どういたしまして。でも、長太郎もボクの宿題手伝ってくれたじゃん。俺からもありがと
う。」
にこっと笑って滝は言う。この二人は早めに宿題が終わってしまったので、もう帰る用意
をしていた。まだ、日暮れまでには時間が少しあるので、二人で遊びに行こうということ
になったのだ。
「よし、じゃあ行こうか。跡部、ボク達先に帰るね。」
「ああ。じゃあな。」
「また、学校でな。」
「それじゃあ、お先に失礼します。」
滝は手を振り、鳳はぺこっと頭を下げて出て行った。
「あの二人、結局最後までバカップルやっとたなあ。」
「あはは、確かに。よーし、俺も何とか全部終わったぞー。侑士、サンキューな。」
「どういたしまして。それにしても、あの絵本ホンマええ話やったな。」
「ああ。跡部もああいう本読むんだな。」
「あーん?何か言ったか?」
『別にー。』
跡部の家の図書館にこんないい本があったのかと二人は顔を見合わせて笑っていた。あん
な絵本があること自体が意外なのに、跡部はしっかりとその本の存在を把握しており、尚
且つその文章を暗記しているくらい読んだというのだ。
「さてと、俺達も帰るか。」
「せやな。」
「あっ、今日は夏休み最後の日だしさ、うちに来て花火でもやんねぇ?」
「そりゃええなあ。是非行かせてもらうわ。」
「そのまま泊まっちゃえよ。」
「ええの?」
「おう!!せっかくだから、一緒に寝ようぜ。」
この二人も滝と鳳に負けないくらいラブラブモードを醸し出している。そんな光景に半ば
呆れつつ、跡部と宍戸は二人を見送った。あとこの図書館に残っているのは、跡部と宍戸、
そして、樺地とジローだ。
「樺地、ジローを家まで送ってってやってくれねぇか?」
「ウス。」
「全くジローもしょうがねぇよな。樺地、頑張れよ。」
「ウス。」
ジローは眠ってしまっているので、帰りのことは全て樺地に任せる。樺地としてはいつも
のことなので、何も気にせずジローを背中におぶった。そして、自分の荷物とジローの荷
物を持つと、図書室を出て行った。
「さて、俺達も他の部屋に移動するか。」
「そうだな。あっ、そういえばさあ、お前美術の宿題どんなの描いたんだ?」
「あー、あとで部屋に行ったら見せてやるよ。あえて題名をつけるなら『the oth
er side of Eden』って感じだな。」
「は?」
「とにかく見りゃ分かる。」
「何かすごそうだな・・・。」
そんな他愛もない会話をしながら、二人は図書室をあとにした。どのメンバーも何とか夏
休みの間に宿題を終わらせることが出来たようだ。まあ、教訓としてはギリギリまで宿題
を残すのはやめようということであろう。
END.