あやかし達の甘やかな日常

ここはどこにでもあるにぎやかな町。ただ他の場所と少し違うのは、様々なお化けや怪異
の末裔や人ではない種族が人のふりをして暮らしているということ。これはそんな町に住
む彼らの日常のお話。

「欲しかったもんは買えたのかよ?」
「バッチリ買えたで!あっ、何や竜次美味そうなもん食っとるやん。俺にも半分ちょーだ
い。」
欲しいものがあるという種ヶ島に付き合い、大曲は買い物に来ていた。時間がかかりそう
だと言う種ヶ島を大曲は店の外で待つことにする。何もせずに待っているのも暇なので、
大曲は近くのたい焼き屋でいくつかのたい焼きを買って、食べながら待っていた。
「何個か買ってあるし、半分と言わず一つやるよ。」
「わーい、おおきに竜次!」
大曲からたい焼きを一つ受け取ると、種ヶ島はぱくっとそれを口に含む。
「もしかして、竜次結構待ってた?このたい焼き、だいぶ冷めとるな。」
「まあ、それなりにな。冷めてるんだったら、ちょっと貸してみろ。」
種ヶ島からたい焼きを受け取ると、大曲はふぅーっと軽く息をかける。大曲が息を吹きか
けたたい焼きは、湯気が出るほどにほかほかに温まっていた。
「ほらよ。」
「おーきに☆竜次のそれ、メッチャ便利やんな!」
パッと見は人に見える大曲は実は竜人であった。竜人であるため、ドラゴンに変身するこ
ともドラゴンの能力を使うことも可能なのだ。ドラゴンが火を吹く能力を応用して、たい
焼きを温めたというわけだ。
「で、今回は何買ったんだし?」
「素材をいくつかな。基本は俺の能力でどうにかなるんやけど、人に使うなら飲めたりし
た方が便利かなーと思うて。」
「人に使うって何作ろうとしてるんだし?」
「エロ漫画媚薬。」
「ぶっ・・・」
種ヶ島のその答えに大曲は思わず吹き出してしまう。普通の人であればそんなものは作れ
ないが、種ヶ島なら作れてしまうことを大曲は分かっていた。
「どう考えてもオメェには必要なさそうだが、作ったところでどうすんだ?」
「サンサンとアツ、ツッキーと毛利にあげたらオモロイかなーと思て。」
「君島と毛利は一応まあ人だから効くかもしれねぇけど、遠野と越知は実質怪異だろ。怪
異にも効くのか?」
「そこは俺の腕の見せどころや。まあ、たぶん効くやろうけど。」
「さすがだし。」
怪異にも効く媚薬を自信を持って作れると言う種ヶ島は夢魔、即ちインキュバスだ。そこ
は専門分野だから心配するなと材料を手にニッと笑って見せる。正直面白そうだというの
は同意見なので、大曲は種ヶ島のその計画を止めることはしなかった。
「おっ、噂をすればだし。」
「ホンマや。おーい、サンサン、アツー。」
少し離れたところに君島と遠野を見つけ、種ヶ島は手を振りながら二人の名前を呼ぶ。パ
タパタと走って二人のもとへ行くと、楽しげに話しかける。そんな種ヶ島の後を大曲はゆ
っくりと追いかける。
「サンサンとアツも買い物に来たん?」
「ええ。日用品と服を買いに。」
「テメーらも買い物かよ?」
「せやで。それにしても、そういう格好してると、とても神主と巫女さんには見えへんな。」
買い物中の君島と遠野はどちらもオシャレな服を身に纏っている。モデル顔負けの見た目
であるが、君島はこの辺りでは有名な神社の神主であり、遠野は表向きはそこの巫女とい
うことになっていた。
「それにしても、遠野はその姿だとマジで人にしか見えねぇな。」
「まあ、もとは人間だったしな。それに、本当の姿はコイツが嫌いだって言うからよ。処
刑するとき以外はなるべくこの姿でいられるように意識してんだよ。」
「サンサン、にょろにょろしたもん苦手やしなあ。アツの本当の姿、下半身蛇で腕も六本
あるんやろ?なかなかのビジュアルしとるもんな。」
今はどう見ても人間にしか見えないが、遠野は姦姦蛇螺だ。もともとが非常に強い力を持
った巫女と言うこともあり、封印を解いてくれた君島との交渉の末、現在は悪霊の除霊を
担っている。悪霊の除霊を行う際は、本当の姿になり、処刑と称して悪霊を消滅させてい
る。
「この姿の方がファッションも楽しめるし、俺にとっても都合はいいけどな。」
「はは、アツらしいな。」
「おや、あちらから来るのは・・・」
種ヶ島と遠野が離している横で君島が何かに気づき、声を上げる。君島の視線の先には、
かなり目立つ二人組がこちらに向かって歩いて来ていた。
「こんにちは!キミさんらも買い物ですか?」
四人に声をかけてきたのは毛利だ。手には夕食の材料と思われる食材が入った袋が下げら
れていた。
「ここでそろって何をしている?」
「買い物の途中でたまたま会って話してるだけだし。」
「そうなんですね。こないなところで会うなんて、珍しいですね!」
「寿三郎達は夕食の買い物かな?」
「はい!今日は親子丼と更科そばにしようと思って、材料買いに来たんですわ。」
生活感たっぷりの買い物をしている越知と毛利は、八尺様と人のコンビであった。八尺様
としての本能を抑えて生活していた越知であったが、毛利と出会って抑えられなくなって
しまう。しかし、毛利も越知と交流するうちに越知のことを好きなっていったので、今は
ただ仲良く一緒に過ごしている状態だ。
「ホンマツッキーと毛利は仲良さそうでええなぁ。どっちも二人の好物やん。」
「せっかく作るんやったら、食べたいもん作りたいと思て。」
「毛利の作る料理は美味いぞ。」
「普通に惚気られてるし。」
越知の一言に大曲はクスッと笑う。四人が他愛もない話をしていると、君島と遠野は急に
真剣な表情になり、ある方向に視線を向ける。
「すみません、ちょっと仕事が入りそうなので、私達は帰らせてもらいますね。」
「フッ、なかなか処刑しがいのあるヤツが出て来やがったな。」
他のメンバーには見えていないが、どうやら近くに処刑対象となる何かがいるらしい。そ
ちらの方へ向かう二人を見送った後、他の四人もそろそろ帰ることにする。
「あっ、鶏肉とかも買っとるんで俺達も帰らせてもらいますわ。」
「おっ、そりゃ早めに帰って料理せんとな。」
「また、暇があったら集まろうぜ。」
「そうだな。行くぞ、毛利。」
「はい!」
買い物袋を下げ、越知と毛利は仲良さげに帰って行く。
「さーてと、俺らも帰って、今日買ったもんで色々作ろか。」
「作るのはオメェだけだけどな。」
「効果の確認には付き合ってくれるやろ?」
「勘弁しろし。竜人に効くようなブツは強すぎだろうが。」
「はは、どうやろな?」
「ったく、とりあえず俺らも帰るぞ。」
「ちゃーい☆」
今日買ったもので、どんなものが出来るかわくわくしながら種ヶ島は歩き出す。呆れなが
らも、大曲は種ヶ島が作るものをほんの少し楽しみにしていた。

二人で住んでいる家に帰ると、買って来た材料で毛利は親子丼と更科そばを作る。好物を
存分に堪能すると、どちらも満足気な様子で箸を置く。
「ごちそうさまでした。とても美味かった。」
「ごちそうさまでした。よかったです。ほんなら食器片づけちゃいますね。」
空になった食器をキッチンに持って行き、毛利は椅子に掛けていたエプロンをつける。
「食器洗っちゃうんで、月光さんは待っとってください。」
「分かった。」
シンクに置いた食器を毛利は洗い始める。待っているように言われた越知であるが、すっ
と立ち上がり、毛利のもとへ行く。そして、皿洗いをしている毛利を後ろから抱き締める。
「つ、月光さん?」
「こうしているだけだ。邪魔はしない。」
「ま、まあ、刃物使うてるわけでもないし、ええですけど。」
越知に抱き締められ、ドキドキしながらも毛利は洗い物を続ける。もう少しで終わると言
うところで、越知が耳元で何かを呟く。
「ぽぽぽ・・・」
八尺様特有のその言葉を耳にすると、毛利の身体はゾクゾクっと痺れる。
「ふあっ・・・つ、月光さん、それはアカンです・・・」
「まだ終わらないのか?」
「す、すぐ終わりますから。」
手に持っていた皿の洗剤を流し、水切りかごに入れると、毛利はおずおずと越知の顔を見
上げる。
「本当は拭くまで終わらせたかったんですけど、月光さんが待ちきれないみたいみたいな
んで、ここまでにしときますわ。」
「そうか。」
「エプロン外したらすぐ戻るんで、月光さんは先に向こうに戻っとってください。」
「ああ。」
少しこのドキドキ感を落ち着かせたいと、毛利は越知に先に戻るように頼む。エプロンを
外し、数回深呼吸をすると毛利は越知のいるリビングに戻る。リビングに戻ると、ソファ
に座っている越知が腕を広げて待っていた。
(そないな感じで待たれたら・・・)
越知の待ち方にうずうずしてしまい、毛利はその腕の中に飛び込むように越知の膝に乗る。
越知の服を両手でぎゅっと握り、毛利は上目遣いで越知を見上げる。
「この待ち方はずるいです。」
「可愛らしいな。」
膝に乗っている毛利の腰を抱き、優しく頭を撫でる。越知にそのようなことをされ、毛利
はキュンキュンしてしまう。
「月光さんとこうしとると、メッチャドキドキしよるけど安心します。」
「そうか。」
しばらくどちらもお互いのぬくもりを感じながら、この穏やかで幸せな雰囲気を味わう。
越知に抱きしめられながら、毛利はふと思ったことを口にする。
「月光さんって、八尺様なんですよね?」
「ああ、そうだな。」
「俺、八尺様に魅入られると、取り憑かれて殺されるのかと思ってました。聞いたことあ
る話だとそんな感じやったんで。」
「そういうことをする者もいるだろうな。」
それを聞いて、毛利はドキッとしてしまう。越知は違うと思いたいが、越知の口からそれ
を聞くと少し怖くなる。
「つ、月光さんはそういうふうにはせんのですか?」
「俺はそうしたいとは思わない。」
おずおずとそう尋ねる毛利に、越知はキッパリとそう答える。なるべく怖がらせないよう
に、毛利の顔をじっと見ながら言葉を続ける。
「出来ることなら、永遠に側に置いて愛でていたい。」
「っ!?」
「こんなに愛しい存在を自分の手で消してしまうなんて考えられないな。」
真剣な越知の眼差しと言葉に毛利の顔は真っ赤に染まる。しかし、それならば安心だとふ
わっと笑う。
「それなら安心ですわ。俺もずっと月光さんと一緒にいたいです。」
「毛利・・・」
嬉しそうな表情でそう言ってくる毛利に、越知の胸は愛おしさでいっぱいになる。
(ああ、口づけたい。もっと触れたい・・・)
その欲求から、越知は毛利の顎を上げ、軽く唇を下げる。
「えっと・・・月光さん?」
「キスしてもよいだろうか?」
「は、はい・・・」
そうしたいのだろうと予想はしていたものの、言葉にされると恥ずかしくなってしまう。
越知の言葉に頷くと、毛利はぎゅっと目を閉じる。
(可愛らしい。)
ほのかに赤く染まる唇を食べてしまうかのような勢いで越知は毛利に口づける。もっと深
く毛利を味わいたいと、人よりはいくらか長い舌を毛利の口内に滑り込ませる。
「んぁ・・・んんんっ・・・」
唇が触れ合ったまま、口内を長い舌で撫で回される。
(月光さんの舌、すご・・・口の中気持ちええ・・・)
少し息が苦しくなるくらいの激しい口づけに、毛利はビクビクとその身を震わせながら越
知にしがみつく。
「んんっ・・・んんぅ・・・んぁっ・・・」
越知の舌が動くたびに濡れた音が響き、その音で毛利はより気持ちよくなる。越知として
も毛利との口づけはこの上なく心地良く、そうすぐには離そうとしない。越知が満足する
頃には、毛利はすっかり蕩けたような状態になっていた。
「ふはぁ・・・ハァ・・・月光さん・・・」
とろんとした瞳に、紅潮した頬。半開きの口の端から垂れる雫。そんな毛利の表情は越知
の理性を奪うには十分であった。
「毛利、ここか寝室かどちらがよいだろうか?」
「ここがええです・・・」
越知の言わんとしていることを理解し、毛利はそう答える。するのであれば移動している
時間がもったいない、回らない頭で毛利はそう考えていた。
「月光さん・・・」
「何だ?」
「今日もぎょーさんしてください。」
にっこりと笑いながら両腕を伸ばしてくる毛利に越知は一瞬で落ちる。ドキドキしながら
も口元を緩ませ、越知は「ぽぽぽ」と呟いた。

街にいた悪霊を特別な方法で捉え、神社に戻って来た君島と遠野は仕事着に着替える。君
島は神主の装束を、遠野は巫女服を纏い、本殿からは少し離れた場所にある悪霊を除霊す
るための建物に移動する。
「準備はいいですか?遠野くん。」
「ああ、いつでも大丈夫だぜ。」
建物の中で悪霊を放つと、君島は一旦外に出る。そして、その建物から悪霊が逃げられな
いように結界を張る。それと同時に遠野は本当の姿、即ち姦姦蛇螺の姿になる。
「公開処刑の始まりだぁ!!」
中から聞こえる遠野の声にやれやれといった雰囲気で、君島はその建物のドアに寄りかか
る。得意の処刑法を叫ぶ遠野の声を聞きながら、悪霊の気配が一つまた一つと消えていく
のを確認する。
(順調に減っていってはいるが、今日は随分時間がかかっている気がするな。)
今日はそこまで数は多くないのだが、除霊に時間がかかっていると感じる。その見た目と
処刑と紐づけるやり方は気にいらないが、遠野の実力は確かであることを君島は理解して
いた。そのため、除霊出来ないということはないだろうが、これだけ時間がかかっている
と少し心配になってくる。
「これでとどめだ!くらえっ!!」
最後の一体を処刑する声が聞こえた後、悪霊の断末魔と共にドサッと倒れ込むような音が
聞こえる。全ての悪霊の気配がなくなったことを確認すると、君島は外から遠野に向かっ
て声をかける。
「遠野くん、大丈夫ですか?」
「・・・・・・」
返事の代わりにずりずりと這いずるような音が聞こえる。ドアのすぐそばに遠野の気配を
感じ、君島は一旦ドアの前から移動する。君島が移動すると、ゆっくりとドアが開いた。
「ハァ・・・君島・・・」
「ひっ・・・!」
ドアが開くと、遠野はぐったりとした様子で上半身を外に出し、君島に声をかける。その
見た目が苦手なこともあり、君島は驚くような声を上げ、後退ろうとする。
「悪ぃ、ちょっと力使いすぎちまった。人間の姿になる力が残ってねぇ。」
「た、確かに今日は苦戦していたみたいですね。」
「意外としぶとくてな。この姿が嫌いなのは分かってるんだけどよ、力を分けて欲しい。」
人の姿に戻るためにはもう少し力が必要だと、遠野は君島に助けを求める。しっかりと力
を分け与えるにはまぐわうのが一番なのだが、この姿のままでそれは出来ない。ちらりと
遠野に目をやると、かなりしんどそうな表情で呼吸を乱している。体は違っていても顔は
いつもと変わらないことに気づき、君島は遠野の側に膝をついて、遠野の身体を起こす。
「仕方ないですね。」
そう言いながら、君島は遠野の唇に口づける。少し長めに唇を重ねた後、唇を離すと、物
足りないと言った表情で遠野は君島を見る。
「君島、もっと・・・」
上気した顔でそう頼まれ、君島はドキッとしてしまう。目を閉じているか顔だけを見てい
れば、今の遠野の姿も気にならないと、君島はもっと深い口づけを遠野に施す。
「んっ・・・ぅ・・・」
遠野と口づけを交わすこと自体は嫌いではないので、今度はかなり長めにする。そのおか
げで、遠野は人の姿に戻るためには十分過ぎるほどの力を分けてもらうことができ、口づ
けの間に人の姿に戻っていた。
「ん・・・はぁ・・・」
「これでいいですか?」
君島が唇を離すと、遠野はとろんとした表情で君島の言葉に頷く。姦姦蛇螺の姿になると、
着ていた服は意味をなさなくなるので、人の姿になった遠野は全裸に巫女服の上を軽く羽
織っているだけの状態だ。キス後の蕩けた表情もあいまって、そんな姿の遠野に君島はム
ラっとしてしまう。
「立てますか?」
「ああ、サンキューな。助かったぜ。」
「もっと力、分けてあげましょうか?」
その言葉がまぐわいの誘いであることを遠野は分かっていた。君島がその気ならと遠野は
その誘いに乗る。
「そうだな。今日はもう十分処刑したし、だいぶ力を使っちまったしな。お前がいいなら
お願いするぜ。」
「それなら、向こうに移動しましょうか。」
「ああ。」
除霊を行う建物のさらに奥に、遠野のコレクションが置かれている場所がある。本殿から
はだいぶ離れた場所なので、遠野に力を分ける際には、基本的にその場所を使っていた。
ギイイィィ・・・
重い扉を開けると、二人はその中に入る。そして、中から鍵をかけ、君島は灯りをつける。
「ここにあるものはあまり好きではないのですが、アナタはここでするのが一番興奮しま
すもんね。」
「まあな。鉄の処女にファラリスの雄牛、聖アンデレの十字架にギロチンのレプリカ。ど
れも自慢のコレクションだぜ。」
うっとりとした表情で、遠野はそう口にする。その場所には、遠野が集めた処刑道具のレ
プリカが並べられていた。とても元巫女とは思えないその趣味に君島は呆れつつも、遠野
がいることでこの神社の評判が上がっていることは確かなので、特に咎めることはしなか
った。
「さて、今日はどのようにしましょうか?」
「まずは手っ取り早くこっちから力を分けてもらえると有り難いんだがな。」
自分の口を指差し、ニヤリと笑って遠野はそんなことを言う。何がしたいかを理解した君
島は口元を緩ませ、同意するような言葉を口にする。
「それは悪くない提案ですね。」
「なら、さっそく始めるぜ。」
「ええ。」
君島が頷くと、遠野は君島の前で跪き、君島の袴に手をかけた。

大曲と一緒に住んでいる家に帰ると、種ヶ島は自室で買ってきたものを調合していた。
「粉よりは液体の方がええかな?あっ、せっかくやから竜次のちょっともろてスタミナつ
けるのもありやな。」
途中まで作ったそれを机に置いて、種ヶ島は大曲の部屋に行く。
「竜次ー、ちょっと手伝って。」
「ああ?俺が手伝えることなんてねぇだろ。」
「メッチャあるわ。とにかく俺の部屋に来てー。」
「ったく、しょうがねーなー。」
自室で読書をしていた大曲は面倒くさがりながらも、種ヶ島の部屋へ移動する。
「で、何をすりゃいいんだ?」
「竜の鱗が一枚欲しいから、手とか腕だけでもいいから、竜になって。」
「はあ?まあ、別にいいけどよ。」
何に使うかは分からないが、大曲は手だけを竜に変化させ、鱗を一枚剥がす。
「ほらよ。」
「おおきに。手痛かったよなあ?」
「いや、別に痛くはねぇし。こんなもん何に使うんだよ?」
「竜の鱗って、強力な滋養強壮作用があるんや。せっかくやから、そういうこと長いこと
楽しめた方がええやろ?」
「なるほどな。」
本来なら薬研で細かく砕くところを種ヶ島は夢魔の魔力でさっと粉にする。
「これをこれに混ぜて・・・よし、ベースはオッケーやな。んー、あいつらに飲ませるん
ならどういうふうにすればええかな?」
普通に媚薬だと言って渡しても警戒して飲むはずがないので、種ヶ島はうーんと考える。
食べ物に混ぜるにしてもどういう状況で渡せばよいのか思いつかない。それこそ警戒され
て食べてくれなさそうだと、頭を悩ませる。
「知り合いに土産でチョコもらったって言って食べさすのはどうよ?土産配る感じで、俺
達も食べてよ。もちろん俺らが食べる分には入れずにな。」
「おっ、それええな!チョコだとその場で食べないと溶けてまうしな。せやったら効果は
遅効性にした方がええな。」
この計画には大曲も乗り気なので、種ヶ島に案を出す。大曲の出した案がなかなかよいも
のだったので、種ヶ島はテンション高めに賛同する。
「よっしゃ、どうするかは決まったし、あとはエロエロになる効果をつけるだけやな☆」
「そこが一番重要なんじゃねぇの?」
「せやで!せやから、竜次に協力してもらわんと。」
「はあ?何でだし?」
「夢魔はな、自分が気持ちええときにそういう能力を使った方が、より強い効果をつけら
れるんやで☆」
ニッと笑いながら種ヶ島は大曲を見る。
「そういうことしながらつけるってことかよ?」
「さすがにガチでしながらは無理やで?そっちの方に夢中になってまうからな。せやから、
ちゅうくらいにしとこうかなーと思っとるんやけど。」
チラチラと大曲の方を見ながら、種ヶ島は言う。夢魔の誘いは呆れていても断れない魅力
がある。
「勘弁しろし。」
そう言って溜め息をつきながらも、大曲は種ヶ島に近づき、顎を掴む。大曲がその気にな
っているので、種ヶ島は作った媚薬の瓶をぎゅっと抱え、色気たっぷりの視線を大曲に向
ける。
「なあ、ちゅうして。竜次。」
(ああもう、この顔は本当ずるいよな。)
種ヶ島の魅力に抗えない自分にほんの少しイラつきながら、大曲は種ヶ島に口づける。唇
が触れたと同時に種ヶ島は大曲の唇をぺろりと舐める。もっと激しいキスをして欲しいと
伝えるその合図に、大曲はすぐに応える。
「んっ・・・」
大曲の舌が自分の舌に触れると、種ヶ島は嬉々としてその舌を絡ませる。煽られるような
その動きに大曲も負けじと対抗する。
(やっぱ、竜次のキス好きやわぁ。俺の好きなトコ舐めてくれるし、メッチャ気持ちええ
し。)
大曲のキスをじっくりと味わいながら、種ヶ島は持っている瓶の中身にそのような効果を
込めていく。もともとは無色に近い色の液体がチカチカと光りながら、次第にピンク色に
染まっていく。
「はぁ・・・りゅうじ・・・」
「まだするか?」
一旦唇を離して大曲はそう尋ねる。大曲のキスにすっかり魅せられている種ヶ島はうっと
りとして呟く。
「ん、もっとして・・・」
「しゃーねーなあ。」
こういうときの種ヶ島は、本当に愛らしくてたまらないと大曲は苦笑しながら再度口づけ
る。
(せっかくやから、これ使うたらどんなことでもメッッチャ気持ちようなって、心の中で
こんなふうにされたい、こんなふうにしたいと思うとることが出来るようになったらええ
な。うん、そないな効果もつけとこ。)
大曲にキスされながら、種ヶ島は手元の媚薬に思い浮かんだ効果を付与する。先程とは少
し違う光り方をしているので、それに気づいた大曲はちらりと種ヶ島の手元を見る。
(こんなに光ったり色が変わったりすんだな。夢魔の能力さすがだし。)
さぞ強い効果が付与されているんだろうなあと思いながら、大曲は純粋に種ヶ島との口づ
けを楽しむ。十分過ぎるほど深く長いキスを堪能すると、大曲は満足気に唇を離す。
「はぁ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「どうよ?満足か?」
「エロ漫画媚薬はバッチリやと思うわ。せやけど、こないに激しいキスずっとしとったか
ら・・・」
濃いピンク色になった瓶を机の上に置くと、種ヶ島は大曲の首に腕を回して、甘い声で誘
う。
「もっとええことしたくなってもうた。」
「ったく、デカ勘弁しろし。ま、俺も同じ気分だからいいけどよ。」
もっと楽しいことをしようと、二人は種ヶ島のベッドに移動した。

それからしばらくして、大曲と種ヶ島は、越知、毛利ペア、君島、遠野ペアを呼び出した。
もちろん目的はこの前作成した例のモノを試すためだ。
「急に呼び出して悪かったな。」
「竜次の知り合いにお土産もらったんやけどな、二人で食べるにはちょい多かったから、
みんなにも分けよー思うて。」
そう言いながら、種ヶ島は用意してきた媚薬入りのチョコレートを出す。
「うはぁ、美味しそうなチョコですね!」
「確かにこの量は二人で食べるには多いかもしれませんね。」
箱いっぱいに並べられたチョコレートを見て、毛利と君島はそんなことを口にする。
「俺らもまだ食べてへんねん。てなわけで、いただきまーす。」
「俺も食べてみるか。」
まずは自分達が食べて怪しいものではないことを見せようと、種ヶ島と大曲は率先して箱
の中のチョコを食べる。そんな二人を見て、他のメンバーもチョコを食べ始める。
「おっ、すげぇ美味いじゃねーか。」
「確かに美味いな。」
「これ、メッチャ高級なチョコとかやないんですか?」
「さあ、あんまり詳しくは聞いてねぇからな。」
食べやすいようにと、種ヶ島はそれぞれが美味しく感じるように細工をしていた。その甲
斐あり、そこにいる誰もが疑うことなく、パクパクとチョコを食べる。これはどうなるか
楽しみだと、種ヶ島は心の中でにやりと笑った。
「本当に美味しかったです。ありがとうございます。」
「悪くなかったぜ。」
「あまりこういうものは食べないのだが、美味しくてたくさん食べてしまったな。」
「ホンマですね。大曲さん、種ヶ島さん、ありがとうございます!」
「そないに喜んでもらえたなら持ってきた甲斐があったわ。な、竜次。」
「そうだな。んじゃ、俺達はこの後ちょっと用事があるから。」
「今度会うとき、感想聞かせてな!」
効き目が出るのはまだ先のものの、とりあえずは帰ってもらった方がよいだろうと、大曲
と種ヶ島は帰ることにする。別れ際の種ヶ島の言葉に少し違和感を覚えたものの、特に気
にすることなく、他のメンバーも自分達の家に帰って行った。
「最後のは余計な一言だったろ。」
「あはは、気づかれてへんから大丈夫やって。次会うとき、どんなふうに楽しんだか聞き
たいやん?」
「まあ、それはそうだけどよ。」
「俺も今夜は楽しみやわー☆」
「別に俺らはいつも通りだろ。」
「いつも通り楽しもうってことやで。」
誤魔化してはいるが、実は自分達が食べたチョコレートにもがっつり自作の媚薬が入って
いた。作った本人にはもちろん効かないので、変化があるのは大曲だけだ。今日はどんな
ことが出来るか楽しみだと、種ヶ島はうきうきしながら家路を辿る。チョコレートを食べ
た他のメンバーも、今日はいつもとは違う刺激的な夜を迎えるのであった。

                                END.

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