あやかし達の溺愛ハロウィン

10月の最終日。今日はハロウィンだ。この街に住むあやかし達は、ここぞとばかりに張
り切ってハロウィンの準備をしていた。
「みんな着替え終わったん?着替えっちゅーかってヤツもいるけど。」
誰が見ても小悪魔的要素を持った夢魔に見える格好をしているのは種ヶ島だ。服はあえて
準備したものであるが、角や翼、尻尾は夢魔としての本当の姿を出したものだ。
「越知くんはだいぶ一般的なイメージの八尺様に寄せてますね。その帽子と和のイメージ
を持ったワンピースっぽい服、悪くないんじゃないですか?」
「大曲は思ったより竜感あるな。その腕と尻尾と翼、本物だろ?」
君島は越知の格好を見て、遠野は大曲の格好を見てそんなことを言う。この二人も種ヶ島
と同じくもとから怪異や人外なので、本当の姿を強めに出すことで仮装の代わりとしてい
る。
「遠野さんの本当の姿、そんななんですね。それが仮装やなくて本物って、信じられへん
わ。」
「実質全裸やけどな☆」
「仕方ねぇだろ。この上半身に合う服なんてねぇし、下半身はそもそも蛇なんだからよ。」
初めて見る遠野の姦姦蛇螺の姿に驚きつつも、ハロウィンというお化けの格好をするのが
当たり前な日ということもあり、毛利は遠野の姿をそれほど怖いとは思っていなかった。
当然、姦姦蛇螺の姿で身につけられる服などなく、そのことについて種ヶ島はからかう。
「君島は何の仮装なんだ?」
黒い和服を着ているが、何の仮装か分からなかったため、越知はそう尋ねる。越知の言葉
を聞いて、君島は腰の帯の部分に隠してある仕掛けを発動させる。腰の辺りから複数の蜘
蛛の足が飛び出し、遠野以外のメンバーは驚く。
『っ!!』
「これは遠野くんが作ってくれたんですけど、見ての通り蜘蛛です。正確には絡新婦(じ
ょろうぐも)ですけどね。」
「クオリティヤバ!アツすごいな!」
「だろ?君島に似合うと思って頑張って作ったぜ。」
「黒い蜘蛛と白い蛇って、何やホンマキミさんと遠野さんらしくてお似合いですね!」
そう言われて悪い気はしないと、君島と遠野はふっと笑う。
「毛利もなかなか分かりやすいし。白猫だろ?」
「ツッキーメッチャ好きそうやん。」
「愛らしいだろう?」
毛利の可愛らしさを自慢したいとばかりに越知はそんなことを言う。少し驚きながらも、
大曲と種ヶ島は顔を見合わせて笑う。
「さーて、みんなハロウィンらしい格好になったことやし、ハロウィンパーティー始めよ
か。」
大曲と種ヶ島の部屋は、ハロウィンらしい飾りつけが至るところに施されており、テーブ
ルの上にはたくさんのお菓子や飲み物が並んでいる。今からパーティーを始めようと、種
ヶ島は楽しげにそう宣言した。

それぞれ好きな飲み物で乾杯し、用意されたケーキやお菓子を食べながら談笑してしばら
くすると、種ヶ島が思いついたように立ち上がる。
「よっしゃ、そろそろお決まりのやつやっとこか。アツ、毛利、行くで!」
「おう。」
「はい!」
種ヶ島に続いて、遠野と毛利も立ち上がる。そして、それぞれパートナーの側に移動し、
楽しげな表情で相手を見る。
「ほいじゃあ、行くで!せーの・・・」
『トリックオアトリート!!』
声を合わせ、三人はハロウィンのお決まりの言葉を口にする。種ヶ島の提案で、端からイ
タズラを仕込んでおこうとこの三人で話し合っていたのだ。言われた側はお決まりの言葉
だし、お菓子でも渡してやるかと考えていると、今目の前にいるパートナーの姿が少しだ
け変化する。
(何故だか毛利の着ている服が破れて見える。そんなはずはないのに・・・)
越知の目には毛利が着ている白猫の仮装がところどころ破れて見えていた。破れて見える
場所は首元や胸、脇腹や内ももなど、触れれば毛利が敏感に反応しそうなところばかりで、
越知の胸はひどく高鳴る。
「月光さん!お菓子とイタズラ、どっちがええです?」
甘えるように首に腕を回し、無邪気にそう尋ねてくる毛利の姿は越知の目にはいつも以上
に魅力的に見えていた。ふと視線を落とすと、腰の下あたりも大きく破れ、ほどよい膨ら
みのある臀部が見え隠れする。
(いくら破れているとはいえ、下着は穿いているはずだから、このように見えるのはおか
しい。魔法の類か。)
毛利の見た目に気を取られ、毛利の言葉に対して何も返さないでいたため、毛利は首を傾
げて越知の名を呼ぶ。
「月光さん?」
今見えている格好もあいまって、その仕草が非常に愛らしく感じ、越知は思わず毛利をぎ
ゅっと抱きしめる。
「わわ、急にどないしはったんです?」
「・・・ちなみにイタズラはどんなことをするんだ?」
「へっ?え、えっと、そうですねぇ・・・猫のモノマネして、カプッと指を甘噛みすると
か?」
とりあえず思いつくままに毛利はイタズラの内容を口にする。そのイタズラをしている毛
利を想像し、越知は心の中で悶絶する。
「トリックだ。」
「えっ!?」
「お菓子かイタズラかを尋ねていただろう?俺はイタズラを選ぶ。」
そのイタズラをする毛利を是非見てみたいと、越知は真剣な表情で答える。まさかイタズ
ラを選ばれるとは思っていなかったが、それはそれで面白そうだと、毛利は先程述べたイ
タズラを実行する。
「にゃ、にゃあーん。月光さんの指、食べてやるにゃ。」
(あれ?これ結構恥ずかしいやつやんな。)
そう言いながら、毛利は越知の手を取り、人差し指をはむっと咥える。思ったよりも猫の
モノマネが恥ずかしく、毛利の顔はほのかに赤く染まっていた。
(可愛すぎる・・・)
甘噛みというよりは、ただ指を咥えるだけになっている毛利のその行動は子猫を連想させ、
猫好きの越知にとってはこの上なく庇護欲を刺激させられる光景であった。
「あ、あはは、何やメッチャ恥ずかしいですわ。」
指から口を離し、照れながらそんなことを言う毛利に越知は居ても立ってもいられなくな
る。その大きな体で毛利を包み、理性を失わないように耐えながら強く抱きしめる。
「!!」
「そのイタズラはよくないな。いろいろ我慢出来なくなってしまう。」
「ほんならイタズラ大成功ってことですね!!」
越知の葛藤を知ってか知らずか、毛利は無邪気にそう答える。この場所で毛利を襲いたく
なる衝動を必死で堪えながら、越知は毛利の可愛さにキュンキュンと胸を高鳴らせていた。
越知と毛利がそんなやりとりをしている間、大曲もいつもと違う雰囲気に見える種ヶ島に
少々戸惑っていた。
「これはどんな魔法だし?」
「あは、やっぱ竜次にはバレとるか。トリックオアトリートのイタズラの一つ、幻惑魔法
やで☆」
「なるほどな。」
「今の俺、竜次にはどんなふうに見えとるん?」
先程トリックオアトリートを口にした面々に、種ヶ島は同様の魔法をかけていた。その魔
法は想いを寄せている相手から自分の姿がより魅力的に見えるような魔法であった。
「何つーか・・・肌とか髪とかが宝石みてぇにキラキラして見えて、すげーイイ匂いがす
る。」
「ふーん。で、そんな俺を見て、竜次はどんな気持ちになっとるん?」
そんなふうに見えているのかと嬉しくなりながら、種ヶ島は質問を重ねる。
「最高の宝物を見つけたような気分で、誰にも渡したくねぇって気持ちだな。」
宝を守る竜の本能が種ヶ島をそのように見せ、大曲の中の独占欲が爆発する。『最高の宝
物』という表現が胸に響き、種ヶ島は夢魔らしい魅惑的な笑みを浮かべる。
「安心してええで、竜次。」
「何がだし?」
種ヶ島が口にした言葉の意味が分からず、大曲はそう返す。そんな問いに種ヶ島は大曲が
一番好きな妖しく楽しげな表情で笑いながら、大曲の首に腕を回して耳元で囁く。
「その宝物は、一生竜次のもんやからな。竜次以外のヤツには見つけられへんし、竜次が
手放さん限りなくなったりせぇへん。」
「お前・・・」
「全部竜次のもんやから、竜次の好きなようにしてええんやで?」
あまりに魅力的すぎる種ヶ島の言葉に、大曲の鼓動は速くなる。独占欲と今この腕の中に
ある『最高の宝物』をどうにかしてやりたい気持ちが大曲の中に溢れる。
「チッ、そんなに煽んなし。」
悪態をつきつつ、大曲は種ヶ島の腰を抱き、自分の方へ引き寄せる。種ヶ島が近づけば、
宝石のような心奪われる輝きは強くなり、甘く酩酊させるような香りに酔いそうになる。
「あ、そう言えば、竜次はお菓子とイタズラどっちがええんやっけ?」
「ずっとイタズラは受け続けてるが?」
「えー、こんなんイタズラに入らんやろ。」
「さっき自分で言ってたし。」
「はは、そうやったっけ?今更お菓子もらうんもアレやし、もっと分かりやすいイタズラ
したるわ。」
すっと大曲の首から腕を離し、少し体を起こすとそのイタズラを仕掛ける。他のメンバー
にはそうは見えないが、大曲にだけ数秒間種ヶ島が何も身につけていないように映る。
「なっ!?」
「ちょっとの間、スケスケやったやろ?」
ある程度そういう気分になっている状態で、そんな姿を見せつけられ、大曲は困惑するよ
うな表情を浮かべる。
「デカ勘弁しろし。」
ギリギリのところで理性を保ちながら、大曲はそう呟く。大曲の困ったような顔を見て、
イタズラは大成功だと、種ヶ島は嬉しそうに笑った。大曲と種ヶ島がイチャイチャしてい
る横では、君島が遠野の姿を非常に複雑そうな面持ちで眺めていた。
「君島にはどんな処刑をお見舞いしてやろうか。当然トリックを選ぶよなぁ?」
「・・・・・。」
いつも通り、処刑という言葉を交えながら遠野は君島に話しかける。しかし、君島は遠野
をじっと見つめたまま何も言わない。
「さっきから何だよ?そんなにじっと眺めてきて。お前にとっちゃそんなにいいもんでは
ねぇんだろ?」
幻惑の魔法がかけられているのは分かっているが、遠野自身、君島の目にどう映っている
かは分からないので、そう問いかける。
「いや、いつもはそうなんですけど、今日は何か・・・」
「どう見えてるんだ?」
「遠野くんの蛇の部分が真珠のように輝いて見えて、とても美しく感じるんです。」
「へぇ。」
「普段はこんなこと絶対に思わないのですが、そこに触れたいと思ってしまうくらいで。」
あまり得意ではないと思いながらも、遠野の本当の姿はしょっちゅう見るので、今の感覚
が普段と異なっていることを君島は理解していた。これが幻惑の魔法かと思いながら、遠
野はとある提案をしてみる。
「触りてぇなら別に触ってもいいぜ。」
「えっ!?」
「別に減るもんでもねぇしな。」
遠野のその提案に君島の胸は高鳴る。普段は苦手としている遠野のその部分に今はどうし
ようもなく触れたくて仕方がない。そんな想いが高まり、君島はおずおずと遠野の下半身
に手を伸ばす。
「っ!!」
君島の手が蛇の部分に触れると、遠野はビクっとその身を震わせる。幻惑の魔法の効果も
あり、遠野の蛇の部分の手触りは、君島にとって非常に心地のよいものに感じられた。
「遠野くんのこの部分、初めて触りましたがとても気持ちのよい肌触りですね。」
「そ、そうか?」
「ええ。いつまでも触れていたくなるような、そんな手触りです。」
そう言いながら、君島はゆるゆると蛇の肌を撫でる。蛇の部分にも当然感覚はあるので、
君島にそこを撫でられ、遠野はゾクゾクしてしまう。
(物理的な刺激もそうだが、それよりも君島が苦手だった俺の蛇の部分を撫でてくれてる
って事実がたまらなく嬉しい・・・)
物理的な心地よさよりも精神的な感激が勝り、遠野はもっと君島にそこを撫でてもらいた
くなる。六本の腕全てを使って君島に抱きつくと、遠野は自分でも驚くくらいの甘えるよ
うな声色で君島にねだる。
「もっとそこ、撫でてくれ。」
「え、ええ。」
そんな遠野の態度にドキドキしながら、君島はそこを撫で続ける。撫でられる感覚が気持
ちよく、遠野は君島の肩に顔を埋めて、必死で声を抑えていた。
(君島に撫でられるのスゲェ気持ちいい。蛇の部分に触られたことなかったから知らなか
った。)
「遠野くん。」
「ハァ・・・どうした?」
顔を上げた遠野のその表情を見て、君島の心臓は跳ねる。しているときのようなうっとり
とした官能的なその表情に君島の理性はぐらりと揺らぐ。
「な、何でもないです。」
「?」
今はそういうことは出来ないので、とにかく心を落ち着けようと、君島はしばらく手触り
のよい遠野の蛇の肌を撫で続けた。

種ヶ島、毛利、遠野が仕掛けたイタズラがだいたい終わると、今度は大曲、越知、君島が
アイコンタクトをして、例の言葉を口にする。
「今度は俺達の番だし。」
「こちらからも言わせてもらうぞ。」
「言うのくらいは合わせますか。」
『トリックオアトリート。』
答えを聞く間も与えず、三人はトリックすなわちイタズラを実行する。それは先程理性が
崩れるギリギリのところまで追い詰められたパートナーのイタズラへの仕返しの意味も込
められていた。
「ちょっ、月光さん俺まだ答えてへんです。」
「先程のイタズラのお返しだ。」
そう言いながら越知は白猫姿の毛利を自分の膝の上に乗せ、しっかりと自分の腕の中に捕
らえ、逃げられないようにする。思ったよりも密着した状態に毛利はドキドキしてしまう。
「つ、月光さんのイタズラはどんなことしよるんですか?」
「せっかくお前がそんな愛らしい格好をしているからな。存分に愛でてやる。」
「えっ!?」
その言葉通り、越知は白いふわふわとした猫耳がついた毛利の頭を慈しむように撫でる。
しっかりと抱き寄せられながら、優しく頭を撫でられているのが心地よく、毛利は気持ち
よさそうな顔で越知を見る。
「本当に可愛らしいな。」
「月光さん・・・」
「もっと八尺様らしく愛でたくなる。」
大きく手を広げ、その手を後頭部にそえると、越知はすぐ目の前にある毛利の唇を捉える。
「んっ!!」
越知に口づけられると、毛利は反射的に口を開いてしまい、その開いた口から越知の舌が
侵入する。
「んあっ・・・!!」
これくらいであれば許されるだろうと、越知は容赦なく深い口づけを毛利に施す。初めこ
そ驚き戸惑っていた毛利であるが、しばらくすると越知のキスを受け入れ、猫が喉をなら
すかのように甘い声を上げ始める。
「んっ・・・んんぅ・・・ぁ・・・」
とろけたような表情になっていく毛利の顔を眺めながら、越知は激しいながらも丁寧に毛
利の舌を食む。存分に毛利を味わうと、越知はずるりと白猫の口から自身の舌を抜く。
「ぷはっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
激しい口づけの余韻に呼吸を乱しながら、毛利はトロンとした瞳で越知を見る。
(月光さんのイタズラ、ホンマ最高やな。こないなイタズラやったらいくらでも受けたい
わ。)
「今出来るイタズラはこれくらいだな。」
「今・・・?」
「これ以上のイタズラは帰ってからだな。」
意味ありげにそんなことを言う越知の言葉に毛利の胸はときめく。ぎゅうっと越知に抱き
つきながら、越知にしか聞こえないような声で毛利は呟く。
「家に帰ってからも、ぎょーさんイタズラしてください。」
そんな白猫のおねだりは、八尺様の心にこの上なく響き、あまり表情の変わらない越知の
顔を緩ませた。越知と毛利のやりとりなど気に留めず、二人のすぐ側では大曲が種ヶ島を
ソファに押しつけ、大きく竜の翼を広げて種ヶ島を隠すかのようにその翼で覆っていた。
「こんなんされたら竜次しか見えへんのやけど。」
「そうしてるからな。」
「何でこんなことするん?」
「大事な宝物は、人に見られないように隠しておかなきゃだろ?」
ニッと不敵な笑みを浮かべながら、大曲はそう言い放つ。繰り返される『宝物』という言
葉に種ヶ島はキュンキュンしてしまう。
「今日の竜次は独占欲つよつよやな☆」
「それはお前のせいだろ。けど、今からはお前の好きにはさせねぇ。」
そう言いながら、大曲は竜変化させた手で種ヶ島の手首を掴み、抵抗出来ないようにする。
そして、種ヶ島の夢魔の角、額、まぶた、頬と順に力強いキスを落としていく。
(竜次にいろんなとこキスされんのメッチャドキドキする。)
期待感に胸を躍らせながら、種ヶ島は口にキスされるのを待つ。しかし、大曲はそれを分
かっているため、なかなか口にはキスしようとしない。
「何で口にはしてくれへんの!」
「お前がそれを期待してるの分かってるからな。」
「なあ、焦らさんといて。口にもキスして。」
(この表情、たまんねぇな。)
まだ種ヶ島の幻惑魔法が効いていることもあり、うずうずしながらキスをねだる種ヶ島が
いつも以上に可愛らしいと大曲はにやける。しばらく焦らした後、大曲はその望みを叶え
てやる。
「んんっ・・・」
やっとしてもらえた大曲からのキスに、種ヶ島は嬉々として自身の舌を絡ませる。その舌
も自由にはさせないと言わんばかりに、大曲は力でねじ伏せるように絡め取り、『最高の
宝物』に刻む刻印のように情熱的なキスを続ける。
「んっ・・・んぁっ・・・んんんっ・・・」
(竜次しか見えない状態で、竜次の翼で覆われて、竜変化の手で押さえつけられて、こな
いに激しいキスされとる。えっ、メッチャ最高なんやけど。)
大曲に全てを支配されているような感覚に、種ヶ島は恍惚とした表情を浮かべる。その表
情を満足するまで眺めると、大曲はゆっくりと唇を離す。
「今のはお前にとって、トリックか?それともトリートか?」
「そんなん最高のトリートに決まっとるやん!」
「フッ、じゃあそういうことにしといてやるよ。」
大曲からのキスをトリックではなくトリートと表現する種ヶ島に、大曲は気をよくする。
もう少し二人きりの感じを味わえるこの空間で種ヶ島を愛でていようと、大曲は竜の翼を
広げたままでいた。そんな越知や大曲の行動を横目に見ながら、君島は思案を巡らせてい
た。
(私も遠野くんにキスをしたいが、遠野くんはキスをすると人の姿になってしまいますか
らね。)
遠野が人の姿になること自体は問題ないのだが、今は完全に姦姦蛇螺の状態であるため、
そのまま戻ると全裸の状態で戻ることになる。それはいろいろな意味で問題があると、君
島はどうしたらよいかと考えていた。
「おい、お前はトリックオアトリートしといて、何にもしねぇのかよ?」
「どちらがよいかは遠野くんが選ぶんですよ。」
「ああ?お菓子はここにいくらでもあるから渡してやってもいいけどよ、お前は本当にそ
れでいいのか?」
自分も含め、どちらかと言えばイタズラをしたいがためにトリックオアトリートをしてい
るので、遠野はそう聞き返す。確かにそれはそうだと君島は再び考える。
(キスはしてはいけないが、似たようなことが出来れば・・・)
そんなことを考えながら君島はあたりを見回す。そうしていると、君島の目にあるものが
留まる。
「やはり、私もイタズラがしたいですね。」
「だったら、俺が選ぶのはトリックだ。どんなイタズラを見せてくれるんだ?」
君島がしてくれるイタズラであれば大歓迎と言わんばかりに遠野はそんなことを言う。そ
れならばと、君島は絡新婦のアイテムとして持ってきていた糸を取り出し、遠野の六本の
腕を後ろ手に縛る。
「俺をこんなふうにしてどうするつもりだ?」
「本当は口づけでもしてあげたいのですが、口づけをすると遠野くんは人の姿に戻ってし
まいますからね。」
「まあ、そうだな。」
「口づけはしませんが、それに近いことをしてあげますよ。」
そう言って、君島はテーブルの上に置かれているお菓子から遠野の好きそうな色のジェリ
ービーンズを手に取る。そして、それにちゅっと口づけると、これからすることを遠野に
宣言する。
「今からこれを遠野くんに食べさせてあげます。唇が触れないよう注意して受け取ってく
ださいね。」
「は?」
持っているジェリービーンズの端を口に咥えると、すっと遠野の顔にそれを近づける。君
島のしたいことを理解し、ドキドキと胸を高鳴らせながら遠野はそれを自身の唇で受け取
る。
(キスはしないのにギリギリまで顔が近づいて息がかかるし、唇同士は触れちゃいけねぇ
って制限がスリルがあってスゲェドキドキする。)
唇が触れないギリギリのところでお菓子を受け取り、遠野はそれを口に含んで咀嚼する。
「上手ですね。もっと食べさせてあげますよ。」
キスをせずともこれはなかなか興奮すると、君島はそれを続ける。君島からお菓子を受け
取るたびに口の中の甘さは強くなり、遠野は身体が熱くなるのを感じる。
「ん・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「お菓子を食べているだけなのに、随分やらしい顔になっていますね。」
「そ、そんなわけないだろ!」
「とても可愛らしくて、たまらないです。」
まるで獲物を前にしている絡新婦のような表情の君島に遠野は倒錯的なときめきを感じる。
もうどうにでもなれと思いながら、遠野はしばらく君島のお菓子を与えるというイタズラ
に付き合うことにした。

それぞれがトリックオアトリートのイタズラに満足すると、種ヶ島はかけていた幻惑魔法
を解除する。お互いのイタズラでイチャイチャしていたこともあり、それぞれのペアは始
まったときよりもベッタリな状態になっている。
「それにしても、越知くんは寿三郎に関しては本当甘いというか、人目も憚らず愛でます
ね。」
「確かにな。普通に可愛い可愛い言いまくってるし。」
イタズラを受けていてもしていても、君島や大曲は周りを見る余裕があり、チラリと見え
た越知の行動についてそんなツッコミを入れる。
「君島こそ、遠野の本当の姿が苦手だと言っているわりには、蛇の部分に触れたり、菓子
を口移ししたりと、随分情熱的に愛でていたようだが。」
越知も君島や大曲がしていることはある程度見ていたので、君島に対してそう返す。
「まあ、種ヶ島の幻惑魔法かけてたし、そういう影響もあるんじゃねぇ?」
「せやけど、今もサンサンとアツベッタリやん。幻惑魔法、とっくに解除しとるで。なあ、
サンサン。」
君島が本当の姿の自分に触れていたのは幻惑魔法のせいだと思っていた遠野だが、幻惑魔
法が解除されている今の状態でも、君島は遠野に触れるくらい近くに座り、無意識に遠野
の蛇の部分に触れている。
「こ、これは・・・その・・・」
「苦手意識が薄れてんならよかったじゃねぇか。お前の魔法、たまには役に立つな。」
「たまにはやなくて、いつも役に立っとるやろ。」
戸惑っている君島など気にせず、大曲も種ヶ島も好き勝手に会話を交わす。
「俺、ずっと月光さんにぎゅ〜ってされとったんで、他の人達が何しとったかなんて全然
分からんです。」
「俺もやけどな。竜次の翼で隠されて、竜次しか見えとらんかったわ☆」
好きな相手に愛されすぎていて、他のメンバーのことなど見えていなかったと惚気る毛利
と種ヶ島の言葉を聞いて、遠野は少し羨ましいと思ってしまう。
「種ヶ島はこっちからも見えなかったけどな。見えないとこで何してたんだよ?大曲は竜
人だし、喰われてたのかぁ?」
「近からず遠からずって感じやな。さすがに食べられてはないけど、ぎょーさんちゅうし
てもらったで☆」
「お前らイチャイチャしすぎだろ。こちとらキスの1つも出来ないってのに。」
毛利も越知に存分に口づけをしてもらっていたことを知っているので、遠野は思わずそん
な本音を漏らす。
「サンサンやってアツにしたかったと思うで。せやけど、キスするとアツは人の姿になっ
てまうのやろ?今の状態で戻ったら、ホンマ全裸な状態になってまうし、そうならんよう
にサンサンは我慢してくれとったんちゃうん?」
「遠野さん、メッチャ大事にされとりますね!」
種ヶ島と毛利の言葉を聞いて、遠野は君島に大切にされていることを実感し、どうしよう
もなく嬉しくなってしまう。チラリと君島を見て、口元を緩ませながら、遠野は君島に話
しかける。
「別に俺は人の姿に戻ってもよかったんだぜ?」
「遠野くんがよくても、私が嫌なんですよ。」
そっぽを向いてそう返す君島の言葉に、大切にされているのは間違いないと感じ、遠野の
胸はひどくときめく。
「いいように言ってるけど、遠野の蛇の下半身を触ってた君島の手つき、相当エロかった
からな。」
「ちょっ!!」
「菓子を口移ししていたときも、糸で全ての腕を後ろ手に縛っていたしな。別にそうする
必要はなかっただろう?」
「越知くんまで!」
君島の株だけ上がっているのが気に食わず、大曲と越知は君島がしていたことを他のメン
バーにバラす。
「別にいいんじゃねーか?君島らしいし、それはそれで俺は嬉しかったし。」
「と、遠野くん。」
そうフォローされるとそれはそれで恥ずかしいと、君島の顔は赤くなる。
「お前らだって十分イチャイチャしてるし。」
「同感だ。」
結局君島と遠野も負けず劣らずイチャイチャしていると、大曲と越知は苦笑する。

ハロウィンの夜、あやかし達はいつもより自分らしさを出しながら大好きな相手を溺愛し、
このにぎやかな祝祭を楽しむのであった。

                                END.

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