とある秋の日の午後、暇を持て余していた大曲と種ヶ島は、君島と遠野のところに遊びに
来ていた。木々が色付くこの季節。神社の周りの木々も赤や黄色に染まっている。
「ちょっと腹減ったな。何や甘いもん食いたいわー。」
「分かるぜ。」
時間的にはお昼を少し過ぎた時間であるが、種ヶ島と遠野はそんなことを言い出す。
「先程お昼を食べたばかりでしょう。」
「俺も今はいらねぇ感じだな。」
昼食後ということもあり、君島と大曲はそこまでお腹は空いていなかった。しかし、遠野
と種ヶ島は何か甘い物を食べたい気分が治まらず、どこかに食べに行きたいと考える。そ
ういえばと、遠野はあることを思い出す。
「最近この近くに雰囲気のいい甘味処が出来たんだ。ちょっと行ってみねぇか?」
「おっ、そりゃええな。竜次行ってきてもええ?」
それは是非行ってみたいと種ヶ島は遠野の誘いに乗る。先程の話から大曲は行かないだろ
うと予想し、種ヶ島は大曲に許可を得ようとする。
「構わねーよ。俺はここで待ってるし。」
「君島はどうする?」
そうなると、君島も行かない可能性が高いと遠野は尋ねる。
「私も大曲くんと待っていますよ。」
「ほいじゃあ、ちょっと行ってくるな。」
君島と大曲は神社で待っていることにし、遠野と種ヶ島は近くの甘味処へ向かった。
境内の参道を少し外れたとこにある甘味処に到着すると、各々食べたいものを注文する。
注文したものが届くと、外の縁台に腰を下ろし、二人はそれを食べ始めた。
「おっ、なかなか美味いやん!」
「確かに悪くねーな。」
思った以上に頼んだ和菓子が美味しく、どちらも嬉しそうに顔を緩ませる。それとは別に
遠野がどこか嬉しそうであることに種ヶ島は気づいていた。
「なあ、アツ、何かいいことあったん?」
「えっ!?い、いや、別に・・・」
「何や嬉しそうやなーと思って。」
さすがの洞察力だなと思いながら、遠野は少し恥ずかしそうにしながら目を逸らす。
(まあ、コイツになら話してもいいか。)
正直あのことは誰かに話したいと思っていたので、遠野はどこから話そうかと考えながら
口を開く。
「ハロウィンのとき、お前の幻惑魔法を君島とかにかけただろ?」
「せやな。ていうか、今ハロウィンの話?」
ハロウィンからは少し時間が経っているので、今更そこで嬉しい要素があるのかと種ヶ島
は首を傾げる。
「いや、ハロウィンのときの話じゃなくて・・・それがきっかけではあるんだけどよ。君
島がな、ハロウィンの幻惑魔法かけられてから、俺の本当の姿に触れたくてたまらねぇっ
て言ってきやがって・・・」
遠野のその言葉を聞いて、これは面白い話が聞けそうだと、種ヶ島の表情はパァっと期待
に満ちたものになる。
「へぇ。サンサン、アツの本当の姿苦手やったのになぁ。ほんで触らせてやったん?」
「ま、まあな。それで・・・」
遠野が恥ずかしそうに口ごもるのを見て、急かしたい気持ちを抑えつつ、種ヶ島は遠野が
話し出すのを待つ。
「・・・本当の姿のままで、君島と最後までしちまった。」
「ホンマに!?えっ、本当の姿って、姦姦蛇螺の姿ってことやんな?」
「ああ。」
「いや、それ、ホンマすごない?えっ、せやけど、姦姦蛇螺の姿ってどうやって最後まで
するん?」
遠野の本当の姿を知っているため、種ヶ島は純粋に分からないといった様子でそう聞き返
す。そのときのことを話すのは少し恥ずかしいと思いながらも、遠野は言葉を選びながら
答える。
「俺も君島もそのままの姿で繋がりたいと思ったら、挿れるとこの周りだけ人な感じにな
ってよ・・・」
「マジで!?それ、メッチャすごいやん!うっわあ、そりゃテンション上がる話やな!!」
そういう話が大好きな種ヶ島は、遠野の話を聞いてドキドキわくわくしてしまう。そこま
でテンション高い反応をされると少しウザいと思いつつ、遠野は話を続ける。
「それでよ、本当の姿のまま繋がれて、それだけでもメチャクチャ嬉しかったんだけどな
・・・繋がったままで、君島が本当の姿も含めて俺の全てが大好きだって言いやがって。」
話しながら嬉しさとときめきが抑えきれず、遠野は非常に緩んだ顔になる。遠野のその言
葉と表情に、種ヶ島は人のことながらもキュンキュンしてしまう。
「それ、メッチャええなぁ。似たような状況で、同じようなこと竜次に言われたら、俺、
泣いてまうかも。」
「ああ、正直泣きそうだった。イク直前だったし、さすがに本当に泣きはしなかったけど
な。」
そのときのことを思い出し、遠野は本当に幸せそうな笑みを浮かべる。封印されていたと
きには決して見ることがなかった遠野のその顔を見て、種ヶ島は胸が熱くなる。
「よかったな、アツ。」
優しく微笑みながら種ヶ島はそう口にする。その言葉を聞いて、遠野は少し驚いたような
顔をする。
「・・・何言ってやがる。」
「だって、アツはサンサンのこと大好きやん?好きな奴に全部を受け入れてもらえるって、
ホンマ幸せなことやと思うで。ほんで、アツはその幸せを噛み締めとるみたいやし。アツ
のことは、封印されてたときから知っとるから、今がホンマ幸せそうで俺も嬉しいわ☆」
種ヶ島の言葉に図らずも胸が熱くなり、遠野は泣きそうになる。その瞬間、秋風が通り抜
け、二人の髪を揺らす。
「チッ・・・目にゴミが入りやがった。」
涙が溢れそうになるのを遠野はそんなふうに誤魔化す。遠野が泣くのを誤魔化しているこ
とに気づいてはいたが、種ヶ島はそのことを茶化すことはしなかった。
「アツも幸せそうやけどな、サンサンもアツと同じくらい、いやそれ以上に今の状況を幸
せやと思ってる筈やで。」
「えっ?」
思ってもみない種ヶ島の言葉に遠野は驚くような反応を見せる。
「どうしてそう思うんだよ?」
「アツが封印されとるときから、サンサンとは知り合いやったんやけどな、サンサンは人
当たりもええし、爽やかやし、優しいし、見た目もええやろ?もともと有名な神社やった
ってのもあるけど、神主っていうよりホンマアイドルみたいな感じやったんよ。」
「まあ、分からなくはねぇな。」
「そういう力も強いから普通に除霊とかもしとったんやけどな、サンサン的にはそれが結
構しんどかったらしいんよ。」
「確かにそれは言ってたな。悪霊退治みたいな攻撃的な力の使い方は性に合わねぇって。
まあ、俺が倒せなかった悪霊を秒で倒してたから、そこまで辛いってことはねぇんだろう
けど。」
封印から解放してもらったときに聞いた話を思い出し、遠野はそんなことを言う。
「はは、さすがサンサンやん。まあ、サンサンは、ああ見えて責任感は強いし、結構気に
しぃなとこあるからな。人に見せてる顔もサンサンらしいっちゃサンサンらしいけど、ホ
ンマはもっと自由にいろいろしたいんちゃうかな。」
「俺の前では結構したい放題してると思うけどな。つーか、爽やかとか優しいとかいいよ
うに言ってたけど、君島って、打算的で、自分勝手で、ドSなとこあるよな。まあ、俺は
君島のそういうとこが好きだけどよ。」
遠野のその言葉を聞いて、種ヶ島はニパッと笑う。
「そこやねん!俺もサンサンにはそういう部分があるんやろなあって薄々気づいとったん
やけど、やっぱ立場上そういう部分って出せないやん?せやけど、アツと一緒にいるよう
になってから、そういう部分をちゃんと出せるようになっとるなーと思て。」
「俺に対してはいつもそういう態度だから、もともとそうなのかと思ってたぜ。」
「ちゃうちゃう。アツだけが特別なんやって!本来の自分が出せるようになって、サンサ
ンメッチャイキイキしとるで。そういう部分見せても、アツには嫌われないって分かっと
るみたいやしな。それって、メッチャええことやと思うで。」
種ヶ島のその言葉を聞いて、遠野は何となく嬉しくなる。
「ま、君島のそういうとこ受け入れられるのは俺くらいなもんだからな。」
「ホンマそれやで。せやから、サンサンも今アツと一緒にいられて幸せっちゅーことやん
な☆」
何となく胸の奥が温かくなるのを感じながら、遠野は口元を緩ませる。自分といることで、
他人から見ても君島が幸せに見えるというのは遠野にとって素直に嬉しいことであった。
「俺らの時間感覚からすれば、出会ってからそんなに時間は経ってへんけど、俺は竜次に、
アツはサンサンに出会えてホンマによかったよな。ほんで、アツとこないな話が出来るん
も嬉しいわ☆」
「まあ・・・悪くはないんじゃねーか?」
「また、何かオモロイ話あったら聞かせてな!いつでも大歓迎やで!」
「考えといてやるよ。ま、さっきの話は聞いてもらえてよかったぜ。」
「俺も聞かせてもろてよかったわ。」
どちらもふっと笑いながら、残っている和菓子を口へと運ぶ。甘い和菓子の香りと共に、
ほんのりとした幸福感がその場を包み込む。そんな穏やかな空気が秋風に乗り、君島や大
曲がいる神社の方へ流れていった。
遠野と種ヶ島が甘味処に行くのを見送ると、君島と大曲は大きなイチョウの木の下にある
石段に腰を下ろす。甘味処はこの場所からそこまで離れてはいないため、時折種ヶ島と遠
野の楽しげな声が聞こえていた。
「アイツら、随分盛り上がってるみてぇだな。」
「楽しそうで何よりですよ。」
「ま、そうだな。アイツの楽しそうな声を聞くのは嫌いじゃねーし。」
「それは種ヶ島くんのことですか?」
「まあな。」
イチョウの枝から、ひらりと黄金色の扇が舞い落ちる。君島はそれを手の平に受け止め、
静かに目を細めた。
「大曲くんは、本当に種ヶ島くんのことが好きなのですね。」
「は?なんだよ急に。」
唐突に君島がそんなことを言ってくるので、大曲は怪訝な顔でそう返す。
「大曲くんと種ヶ島くんを見ていて思ったんですよ。種ヶ島くんはふざけているように見
えてアナタのことを一番に考えている。大曲くんもそんな種ヶ島くんのことを呆れながら
も受け入れて、種ヶ島くんのことを想っている。本当にお似合いだなと思いまして。」
「・・・勘弁しろし。そんなこと言われても照れるだけだし。」
君島の言葉に、大曲は後頭部をかき、照れながら少し顔をそらす。遠くからかすかに聞こ
える遠野と種ヶ島の声を聞きながら、君島は言葉を紡ぐ。
「遠野くんも種ヶ島くんも、自分の心に正直で、わりと好き勝手しますよね。でも、私達
が思っている以上に相手のことを考えている。言葉にしていない感情さえ読み取って、欲
しい言葉をくれる。だからこそ、私達は彼らに惹かれてしまうのかもしれませんね。」
「まあ・・・確かにそうかもな。そういうところはアイツら似てるし。」
そんな会話の後、少しの沈黙が流れる。その間に秋風吹き抜け、イチョウの葉が音を立て
た後、ふわりふわりと舞い落ちる。そん様を眺めながら、君島はポツリと言葉を紡ぐ。
「・・・大曲くん。」
「ん?何だよ?」
「少し聞いて欲しいことがあるのですが・・・」
「お前がそんなこと言うなんて珍しいな。」
遠野とのあの夜の出来事を誰かに聞いて欲しいと君島は思っていた。種ヶ島がいない今な
ら、その話をしても茶化されることはないだろうと、君島は大曲に話そうとする。
「実はハロウィンパーティーのあの日から、どうしても遠野くんの本当の姿に触れたくな
ってしまって・・・」
「へぇ。それは幻惑の魔法なしでってことだよな?」
「ええ。間違いなくその魔法の効果は切れていたと思います。遠野くんの本当の姿を前に
すると、やはり怖いと感じていたので。」
「そうだよな。それでも触れたいって思ってたってことか?」
「そうですね。それで、遠野くんに頼んで触れさせてもらったんです。」
「なかなか無茶なことするな。それで、大丈夫だったのか?」
苦手を克服すると言うには、なかなかハードルの高いことをしていると、大曲は感心する。
「それが何というか・・・なし崩し的に遠野くんが本当の姿のまま、最後までしてしまっ
たんです。」
「・・・は?」
まさかの君島の告白に大曲はポカンとしてしまう。君島のしたことの重大さを理解すると、
大曲は一旦頭の中を整理しようと、君島に質問を重ねる。
「いやいや、待て待て。展開が急すぎて理解が追いつかねぇ。えっ、お前、遠野の本当の
姿苦手だったんだよな?」
「そうですね。」
「で、修二の魔法の影響で遠野の本当の姿に触れたくなるってのは分かる。それで、何で
急に遠野が本当の姿のまま最後までするって話になるんだ?」
「遠野くんの蛇の部分に触れさせてもらっていたら、遠野くんがすごくイイ反応をするん
ですよ。始めは怖いや気持ち悪いって気持ちが強かったんですが、遠野くんがそんな反応
をずっと見せてくるので、怖さや嫌悪感はいつの間にかなくなっていて。」
「あー、俗な言葉で言えば、そのままの姿でもムラっときちまったってことか。」
「まあ、そうですね。」
そんなこともあるのかと、大曲は驚きつつも興味を持つ。
「ん?でも、遠野が本当の姿ってことは、下半身は蛇だろ?どうやって最後までするんだ?
蛇のそういう場所ってどこだ?」
まあ、そこは気になってしまうよなと君島は苦笑する。
「これは遠野くんが怪異ですし、普段は人間の姿でいられることが影響しているのかもし
れませんが、下半身のその部分だけ、人に近い状態に変化したんです。鱗は若干残ってま
したけどね。」
「マジかよ?へぇ、そりゃスゲェな。あー、でも、俺も段階的に竜変化は出来るしな。そ
れに近い状態だと考えりゃあり得るか。」
自分の変化魔法を考えると、あり得ないことはないと大曲は納得する。
「それで、遠野が本当の姿で最後までしてどうだったんだよ?遠野に対する認識とかは変
わったりしたのか?」
大曲の質問に君島はふっと笑いながら答える。
「そうですね。繋がった状態で見た遠野くんの本当の姿は、髪も肌もあの蛇の鱗も、とて
も眩く愛おしかったです。今まで怖いと思っていたことが信じられないくらいに。」
そのときのことを思い出しているのか、君島の顔ほのかに赤く染まり、本当に遠野のこと
を愛おしく思っているのが見てとれる。そんな君島を見て、大曲はフッと笑う。
「そりゃよかったじゃねーか。苦手だったもんが好きになるって、簡単なことじゃねーし。」
「そうですかね?」
「ああ。遠野もさぞ喜んでたんじゃねーの?」
「そうですね。喜びながら戸惑っていました。幸せすぎて心がキャパオーバーしてしまう
と。」
「フッ、なかなかいい表現するじゃねーか。それだけお前のことが好きってことだろ。」
第三者から見てもやはりそうなのかと君島は改めて遠野から自分への、そして自分から遠
野への想いの強さを認識する。
「こんなにも心から遠野くんのことが好きになるなんて思っていませんでした。いや、も
ちろんまだ苦手な部分はありますよ?聞いてもない処刑の話を延々としてくるところとか。
でも、今は圧倒的に好きな気持ちが大きいです。」
そんな君島の言葉に、大曲は自身の種ヶ島に対する想いの変化に重ねる。
「まあ、俺も初めの頃に比べたら、アイツのこと絶対に手放したくないくらい好きになっ
ちまってるけどな。」
「種ヶ島くんは大曲くんにとって『最高の宝物』ですもんね。」
ハロウィンパーティーのときに言っていた言葉を思い出し、君島はほんの少しからかうよ
うな口調でそう口にする。
「最初はアイツに振り回されることが多くて、本気で勘弁しろしと思ってたけど、今じゃ
一緒に楽しんじまうしな。こんなにも自分らしくいられる場所は、アイツの隣以外はねぇ
し。」
「自分らしくいられる場所・・・ですか。それは素敵ですね。」
「本当の姿をお前に受け入れてもらえた遠野もきっと同じ気持ちだと思うぜ。それにお前
自身もな。」
「えっ?」
「お前も遠野の前だと、他の奴らには見せない顔してるぞ。お前も遠野と一緒いると、本
当の自分らしくいられてるんじゃねーの?」
大曲の言葉を聞いて、君島は初めてそのことに気がつく。
(そうか。遠野くんと一緒にいると、他の人には見せられない自分でいられるから、こん
なに楽なのか。)
「確かにそうかもしれませんね。逆に私は遠野くんの居場所になれているでしょうか。」
「それは間違いないと思うぜ。お前と一緒にいるときのアイツを見れば分かるし。」
君島はだんだんと遠野のことを好きになっている感じだが、遠野は初めから絶対的に君島
を好いている。それは誰が見ても分かるくらいに態度に表れていると大曲は思っていた。
そんな大曲の言葉を聞き、君島にある感情が芽生える。
「私も大曲くんと同じ気持ちです。私も遠野くんを絶対に手放したくないです。」
「いいんじゃねーの?アイツほどお前のことを想ってくれるヤツなんていないと思うぜ。
ちゃんと大事にしてやれよ。」
「それは大曲くんも同じですよ。種ヶ島くんのこと、しっかりその手に留めておいてくだ
さいね。」
「言われなくてもそうするつもりだし。」
そんなことを口にしながら、大曲は少し目を細めて、黄金色に染まるイチョウ越しに空を
見上げる。色付いた葉の合間から淡い陽光が射し、大曲と君島を照らしていた。その優し
い光は自分の存在を照らしてくれる大切な存在を思い起こさせる。
「こんな話をしていると、遠野くんに会いたくなってきます。」
「同感だし。今からでも甘味処行ってみるか。」
「そうですね。」
遠くからまた二人の笑い声が聞こえる。ほんの少し離れているだけでも、こんなにも会い
たくなってしまう。自分のことを心から想ってくれる相手のもとへ向かおうと、君島と大
曲は大好きな声が聞こえるその場所に向かって、足早に歩き出した。
END.