あやかし達の心躍る日常

チョコレートの感想を聞いた日から一週間ほど経った日、種ヶ島はいつもより遅くまで眠
っていた。そろそろお昼になるという時間に、大曲が起こしに来る。
「おい、修二。そろそろ起きろ。もうすぐ昼飯の時間だぞ。」
「んー・・・ふあ〜、おはよ、竜次。」
「もう昼だし。昨日、そんなに遅くまで起きてたのかよ?」
まだ寝ぼけ眼の種ヶ島に大曲はそう尋ねる。その言葉を聞いて、種ヶ島の目はパチっと開
き、テンション高く喋り出す。
「そうそう!ツッキーとアツに頼まれとったヤツ作っとったんやけど、それが完成してな。
もうちょっとで出来るーって感じやったから、最後まで頑張ってもうた。」
「頼まれてたヤツって、触手とかスライムのことか?もう出来たのかよ?」
「せやねん。せっかくやから、早めに渡したいなーと思って。」
「流石だし。」
仕事の早さに大曲は感心する。どんなものを作ったのだろうと、部屋の中を見回すと、机
の上にいくつかの箱と瓶があるのを見つける。もっと良く見てみたいと、大曲はその机の
近くに移動する。
「作ったってのはコレか?」
「そうそう。瓶と箱のセットがツッキーので、箱だけのがアツのやで☆」
「瓶はスライムで、箱は触手って感じか?つーか、触手の箱、随分小さいんだな。」
手の平に収まるくらいの箱を見て、大曲は首を傾げる。どう見てもそういうことに使える
触手の大きさではないと思ったからだ。
「触手の方は、種とか卵みたいなイメージやな。使う人の意思とか魔力によって、好きな
ような形になるんや。せやから、どんな形になるかは正直俺にも分からん。」
「へぇ、そりゃ面白いな。」
「ツッキーのは、この前竜次がスライム操作してたみたいに、使役・操作系にしてみた。
アツのは使うのサンサンやろうし、もしかするとにょろにょろ無理で、何も出来ないって
なるとつまらんから、体液だけもらって後は自動で動くみたいにしといたで。」
「本当いろんなパターンで作れるんだな。すげぇし。」
「せやろ?もっと褒めてー。」
大曲に褒められ、種ヶ島は嬉しそうにそう言う。
「勘弁しろし。」
そう言いながらも、ニコニコとそう言ってくるのが絶妙に可愛らしく感じられ、大曲はポ
ンポンと種ヶ島の頭を撫でる。少し驚きながらも、種ヶ島のその顔はさらに嬉しそうなも
のになる。
「よっしゃ、ほんなら早速コレ渡しに行こか。」
「ついでに昼飯も食いに行こうぜ。」
「せやな。朝も食っとらんから、腹減ったわー。」
「今、起きたばっかだしな。」
そんな会話を交わしながら、二人は出かける準備をする。作ったモノをしっかりと鞄の中
に入れると、大曲と種ヶ島は街に向かった。

街の食堂で昼食をとった後、大曲と種ヶ島は君島と遠野のいる神社へと向かう。神社の鳥
居を抜けると、巫女服を着た遠野が境内の掃除をしていた。
「おっ、アツ発見!おーい、アツー!」
「ああ?種ヶ島と大曲じゃねーか。こんなところに何の用だ?」
この二人がわざわざ神社まで訪ねてくるのは珍しいので、遠野は怪訝そうな顔でそう尋ね
る。
「そないに警戒せんでも大丈夫やで。」
「例のモノが出来たみてぇだから持ってきてやったし。」
「例のモノ?あっ!」
大曲の言葉に遠野はそれが何かに気づく。
「もしかして、この前話してた触手か?」
「せやで。ほい、これ、アツの分。」
「随分と小さいな。」
「使わないときはそのサイズやねん。場所取らなくてええやろ?」
箱の中には白い卵のようなものが入っている。これが触手になるとは信じられないと、遠
野は不思議そうな顔をする。
「そういや今日は君島はいねぇのか?」
「いや、中にいると思うぜ。君島ー!!」
外から中に向かって遠野は君島の名を呼ぶ。遠野の声はよく通るので、すぐに本堂の中か
ら君島が出てくる。
「何ですか?遠野くん。境内で大声を出さないでください。」
「お、仕事着のサンサンやー。」
「おや、大曲くんと種ヶ島くん。来ていたのですね。」
「仕事中悪ぃな。」
「いえ、今日は特に忙しくはないので・・・」
「見ろよ、君島!種ヶ島が早速作ってくれたらしいぜ!」
種ヶ島が作ってくれたという言葉を聞いて、すぐに遠野が欲しがっていた触手のことであ
ると気づいた君島は、一瞬身構える。しかし、遠野が手にしていたのは、自分が苦手なに
ょろにょろしたそれではなかった。
「それが触手なのですか?」
「せやで。一応、サンサンが使えるように自動的に動くようなタイプにしといたわ。あっ、
動かすためには体液が必要なんやけどな。」
「体液?それはそういった・・・」
「いや、まあ、もちろんそれでも大丈夫やけど、唾液とか血液とかでも大丈夫やで。」
体液が必要ということを聞いて、そういうことを想像してしまったが、そうではないと聞
き、君島はホッとする。
「それは俺の?それとも君島の?」
「サンサンとするなら、サンサンのがええかもしれんな。体液与えた人の意思とか性格を
反映する仕様やから。その方がサンサンとしてる感あってええやろ?」
「なるほどな。じゃあ、今日の夜早速試してみようぜ!君島!」
「そうですね。考えておきます。」
断らないあたり、君島も興味があるのだなーと種ヶ島と大曲は口元が緩みそうになるのを
抑える。
「こんなに早くもらえると思ってなかったから、試すの楽しみだぜ。」
「はは、ホンマ、アツは素直でええなあ。」
「二人には渡せたし、早いとこ越知のとこにも行った方がいいんじゃねぇ?」
「せやな。ほんじゃ、サンサンもアツも楽しんでな。また感想は聞かせてもらうで☆」
本当にそこはブレないなと、君島と遠野は二人を見送りながら苦笑する。二人の姿が見え
なくなると、君島も遠野も種ヶ島から受け取ったそれに視線を移す。
「本当にこれが触手なのでしょうか?」
「なっ。俺もまだ信じられねぇけど、試してみりゃ分かるんじゃねぇ?」
「無理そうであれば、私は席を外しますからね。」
「まあ、それはしょうがないんじゃねぇ?別に俺自身は見といて欲しいとか思ってねぇし。
そういうもんなら一人でも十分楽しめるだろうしな。」
「それはそれで、少し腑に落ちませんけどね。」
興味はあるが、苦手なものの部類だと分かっているので、君島はそんなことを言う。遠野
自身も自分の好奇心のために君島が無理をする必要はないと思っているので、どちらでも
いいという雰囲気を醸し出していた。

君島と遠野がいる神社を後にすると、大曲と種ヶ島は越知と毛利の家へと向かう。二人の
家に到着すると、種ヶ島は呼び鈴を鳴らした。
「はーい。」
ガチャ
「お、出るの早いなあ。」
「種ヶ島さんに大曲さん。どないしはったんです?」
「ツッキーに頼まれとったものが出来たから持ってきたんや。ツッキーおるん?ちょっと
上がってってもええ?」
「はい、大丈夫です!」
玄関で毛利に用件を伝えると、二人は家に上がる。リビングに移動すると、越知がちょう
ど自室から出てきたところであった。
「あ、月光さん!何や種ヶ島さんが、月光さんに頼まれたものが出来たから持ってきたら
しいですよ。」
「頼んでいたもの?」
何か頼んでいたかと少し考え、越知はこの前集まったときのことを思い出す。
「あれか。随分と早いな。」
「せやろー?早めに楽しんでもらいたいと思て、頑張って作ったんやで☆あっ、これは毛
利へのお土産や。何も知らんみたいやったから、ちょっと勉強しといたらええんちゃうと
思っていいの選んどいたで。」
「へっ?俺にですか?」
毛利には紙袋に入った何かを種ヶ島は渡す。受け取った紙袋の中身を毛利は出してみる。
そんなものを持って来ているとは知らなかったので、何が入っているのだろうと大曲も横
から覗き込んだ。
「っ!!??」
「あー、なるほど。」
種ヶ島が毛利へのお土産にと持ってきたものは、触手やスライムネタのエロ漫画であった。
表紙からしてとても分かりやすいので、それを見て毛利の顔は真っ赤になる。
「えっ・・・なっ・・・!」
「種ヶ島、それはちょっと・・・」
「ダメやで、ツッキー。何も知らんでやるのは、毛利が可哀想やん。」
「しかし・・・」
ドキドキしながらも気になりはするので、毛利はもらった漫画のページをめくってみる。
初めて見る内容に驚きつつも、どの話も非常に気持ちよさそうな状態になっているので、
俄然興味が湧いてくる。
「うはぁ・・・ヤバ。えっ、せやけど、こんなん漫画やから出来ることですよね?」
こんなものは実際には見たことないと、毛利はそこにいるメンバーに尋ねる。
「普通はな。せやけど、俺がツッキーのために作って持ってきたヤツ使えば、似たような
ことは出来るで☆どんな触手になるかはツッキー次第やけどな。てなわけで、コレ、ツッ
キーへのお土産や。」
そう言いながら、種ヶ島は持ってきた触手とスライムを越知に渡す。
「へぇ、これがこの漫画に載ってるみたいなやつなんですか?」
「せやで。ツッキーのは、ツッキーの意思でどんなふうになるかが決まって、ツッキーが
動かすって感じやな。この漫画に出てくるやつは、触手自体が意思持ってる感じやけど、
これはツッキーありきのものやから安心してええで。」
現段階ではまだハッキリとしたイメージはつかないが、何だかすごいものを作ってくれた
のだなあということは理解する。こんな真ん丸のものが漫画に描かれていた触手のように
なるのかということは、毛利はまだ信じられなかった。
「この漫画見て、今の修二の話を聞いてどうよ?お前としては、使われてもいいのか?」
「えっと、ちょっと怖い部分もありますけど、月光さんが使ってくれるんなら、されてみ
たい気持ちのが大きいですかね。」
「毛利・・・」
「だとよ。よかったじゃねぇか。」
漫画を見た上で、毛利がどうしても嫌だというのであれば、使わないつもりでいた越知で
あったが、大曲の引き出した毛利の言葉を聞いて、非常に胸が高鳴る。
「ほいじゃ、渡すもんも渡したし、俺らは帰るわ。スライムの方もツッキーの魔力で自由
に動かせるから、ええ感じに使ってな。」
「せっかくだから楽しんだらいいし。」
「竜次の言う通りや。じゃ、使ったら感想聞かせてな☆」
持ってきたものを越知と毛利の家に置いていくと、二人はひらひらと手を振って帰って行
く。玄関まで見送った後、越知と毛利は胸がドキドキと高鳴るのを抑えられないまま、部
屋へ戻る。
「本当に使ってもよいのか?嫌であれば、嫌と言っていいんだぞ。」
「あの漫画に出てた子ら、みんなメッチャ気持ちよさそうやったんで、正直されてみたい
気持ちが結構あるんです。それに、月光さんが使うてくれるなら、全然嫌やないんで。」
(ああ、そんなことを言われたら我慢出来なくなってしまう・・・)
恥ずかしそうに笑う毛利に、越知は素直にムラムラしてしまう。毛利の意見を聞きながら、
今夜は種ヶ島からもらったそれを存分に使ってやろうと越知は心に決めた。

自分達の家に帰ってくると、大曲と種ヶ島は一息つく。
「今日あげたやつの感想聞くのメッチャ楽しみやな☆」
「確かに興味はあるし。特に越知がどんな使い方するかは結構気になるよな。」
「なっ!後はサンサンがどうするかやなあ。もともとアツ用に作っとるけど、やっぱ一人
で使うよりは二人で使った方がええだろうし。」
「ちなみにお前用にはあったりするのかよ?」
遠野や越知のために作っていたことは知っていたが、その前に自分用のも作っているので
はないかと思い、大曲はそんなことを尋ねる。
「もちろんあるで。何や竜次も触手興味あるん?」
からかうような口調で種ヶ島はそう答える。
「うるせーし。そりゃ興味あるかないかで聞かれたら、あるに決まってんだろ。」
「正直でええなあ。竜次が使うてくれるんなら、是非触手側にも竜変化をかけて欲しいわ。」
「竜変化を?何でだし?」
触手に竜変化をかけて欲しいとはどういうことだと、大曲は素直に疑問をぶつける。
「触手も竜っぽくなったら、ホンマに竜次にされてる感あるやろ?それに、竜の鱗ついた
触手で中ごりごりされたら、メッチャ気持ちいいと思うねん。」
また何てエロいことを言い出すんだと少々呆れつつも、そんな種ヶ島を想像して、大曲は
悪くないと思ってしまう。
「お前、よくそういうこと思いつくよな。」
「だって、俺、夢魔やし。気持ちよさそうなことにはいつでも全力やで☆」
「ま、そういうとこ嫌いじゃねーけどな。いいぜ。あいつらも今夜試すって言ってたし、
俺らも試してみようぜ。」
「竜次のそのノリのええとこ好きやで☆」
何だかんだで自分のしたいと言うことを大曲はいつも受け入れてくれるので、種ヶ島は実
に嬉しそうな表情でそんなことを言う。夢魔起因の性的な魅力を除いたとしても、やはり
可愛らしいと思ってしまうと、大曲は種ヶ島の笑顔に胸がときめくのを感じる。
「・・・結構楽しみになってきたし。」
「俺もメーッチャ楽しみやで☆」
ぼそっと呟いた言葉を種ヶ島は聞き逃さず、大曲よりももっと強い感情を込めて同じよう
なことを口にする。

どのペアも種ヶ島が作ったモノを試すことを楽しみにしながら、間違いなくいつもよりも
刺激に満ちた夜がくるのを心待ちにするのであった。

                                END.

戻る