うわ、何かすごいだるい・・・・。
朝起きて早々感じたのが、異常なほどのだるさと嫌な寒気。滝はふらふらとした足取りで
ベッドから下り、引き出しにしまってある体温計を出した。風邪でも引いたのかなあと思
い熱を計ってみると、案の定、38.1℃。さすがにこれでは学校には行けない。再びベ
ッドの中に戻ると滝は少々かれ気味な声で呟いた。
「今日は誕生日なのに・・・嫌だなあ・・・。」
そう今日は10月29日。滝の誕生日なのだ。だが、そんなことにはかまっていられない
ほど、体はだるい。もう一度眠ろうと目を閉じると部屋の向こうから母親の声が聞こえた。
「萩之介、朝よ。起きなさい。」
「うー、今日熱あるから学校休む。」
「あら、ホントに?どうしましょう。今日はお隣さんとお出かけする約束してるのに。」
「別にいいよ。行ってきな。俺、一人で大丈夫だから。」
「そう?じゃあ、薬は置いとくからちゃんと飲みなさいね。」
「はーい。」
まだ、起きられないと滝はそのままベッドで眠ることにした。滝の母親は学校に連絡する
と、出かける用意をして滝が眠っている間に出かけてしまう。
それから数時間後、氷帝学園ではお昼の時間が終わったと同時にみんな帰る用意をしてい
る。今日は学校の都合で午前中授業になったのだ。当然、部活もオフになる。
「よっしゃー、今日は早く帰れるぜ!!」
「せやな。どうせだからどこか遊びにいくか?」
「そうだな。おい、跡部もジローも一緒に行かねぇ?」
「えー、何々?どこ行くの?」
部活はないものの、レギュラーメンバーは部活の振替をいつやるかということで集まって
いた。しかし、そんなことを決める前にまずは今日のこれからの予定。せっかく学校が早
く終わったのだから、遊びに行きたくなるのは当然であろう。
「あれ?そういえば、滝は?」
「あー、あいつ今日は熱出して休みらしいぜ。」
違うクラスでありながらも、部長の跡部はしっかりとそういう情報を把握していた。
「そういや、今日あいつの誕生日だったよな?一応プレゼント用意してきたんだけど、休
みならしょうがないか。」
鞄に入ったプレゼントを見ながら、岳人は残念そうに呟く。忍足やジロー、跡部や宍戸も
やはり誕生日だということでプレゼントは持ってきていたのだが、今日は渡せそうにない。
それならば、明日でいいかとまた今日の予定の話に戻った。するとそこへ、二年生メンバ
ーがやってくる。
「遅れてすいません。」
「ウス。」
「HRが長引いちゃって。」
二年生は三年生よりもHRが長かったようだ。二年生も加わり、また今日の予定を話し始
めた。
「うーん、じゃあ、久々にカラオケでも行くか?」
「おっ、いいな。それ。」
「悪くはねぇな。」
岳人が出した提案に他のメンバーも賛成する。今から行けば、結構な時間歌えるであろう。
「あれ?跡部さん、今日、滝さんはどうしたんですか?」
「あいつは熱出して休みだってよ。」
跡部に聞いたはずなのに答えたのは宍戸。しかし、宍戸や跡部など三年生メンバーにとっ
てはそれはもう終わった話題なので、この鳳の問いはさらっと流された。
「よーし、じゃあ、今日はカラオケで決まり!!」
「お前らも行くよな?」
三年生メンバーで盛り上がっていたので、宍戸は二年生メンバーに向かって尋ねる。樺地
と日吉はすぐに頷くが、鳳だけは申し訳なさそうな顔をして断った。
「ウス。」
「はい。」
「あの・・・俺、今日はちょっと用があるんで帰ってもいいですか?」
「ああ。用があるならしょうがねぇな。」
用があるならしょうがないと宍戸は、普通に頷く。部活の予定はカラオケで決めればいい
かということで、レギュラーメンバーは早速そこへ向かう用意を始めた。しかし、鳳だけ
は他のメンバーとは一緒に帰らず、一人違う方向へと向かう。
「じゃあな、長太郎。」
「バイバイ。」
「明日の朝練、サボるんじゃねーぞ。」
「はい。」
宍戸やジロー、跡部は鳳に手を振ると先をゆく岳人や忍足に合流する。それに樺地や日吉
もついて行った。
「よし、じゃあ行くか。」
小さな声で呟くと鳳は跡部達とは逆の方向に歩き始める。目的地は誰にも行っていない。
しかし、鳳の心の中では必ず行かなければとしっかり定まっている場所であった。
目的の場所へ到着すると、鳳は深呼吸をしてインターホンに指をあてる。
ピーンポーン
一回目のインターホンが聞こえた時、滝はキッチンにいた。母親が出かけてしまったため
に自分で昼食を作らなければならなかったのだ。
「お客さんだ・・・・。うー、玄関まで行くのだるいなあ。」
しかし、出ないわけにはいかない。滝は重い足取りで玄関まで歩く。
「あれ?滝さん、病院にでも行ってるのかな?」
普通なら親でも誰でも出てもいいものなのに誰も出ない。鳳はもう一度だけインターホン
を押してみた。
ガチャっ
その瞬間、ちょうど滝が玄関にたどり着きドアを開けた。鳳は予測不可能だったことに驚
き、声を上げる。
「うわっ・・・」
「はい、どちら様・・・って、長太郎?」
「滝さん!!起きてて大丈夫なんですか?」
「うーん、あんまり大丈夫じゃないんだけど、家に誰もいなくてさ。」
「すいません!!急に押しかけちゃって。あの、部屋に戻って寝ててください。」
「ううん、大丈夫だよ。朝より熱も下がったし。今、昼ごはん作ってたとこなんだ。」
それを聞いて鳳は慌てて家と上がる。熱を出している人に料理なんてさせてられない。
「滝さん、やっぱり部屋で寝ててください!!昼ごはんは俺が作ります!」
「えっ・・・別にいいよ。大丈夫だし。」
「ダメです!!病気してる人に料理なんてさせられませんよ。大丈夫です。おかゆくらい
はちゃんと作れるんで。」
そういう意味で言ったんじゃないんだけどなあと思いながら、滝は玄関のドアを閉め、家
に上がる。鳳は既にキッチンの方へ向かってしまった。
「長太郎らしいや。」
クスクスと笑いながら、滝は自分の部屋へと戻った。このままキッチンに戻ったら、また
鳳に怒られてしまうだろう。
部屋に戻り、ベッドの上でくつろいでいると鳳がおぼんを持って入ってくる。
「お待たせしました。遅くなってすいません。」
「大丈夫だよ。ありがとう長太郎。」
滝はおぼんに乗せられたおかゆを受け取ると、伸ばしている自分の足の上に置いた。その
おぼんは熱を通さないので、こう置いてもそれほど熱くはない。
「あの・・・本当に大丈夫ですか?やっぱり顔色がいつもより悪いですよ。」
「そんなに心配しなくてもいいよ。久々に風邪ひいたからちょっとダメージが大きいだけ。」
笑顔で答える滝だが、鳳はやはり心配そうだ。おかゆは特に加工されてるわけでもなく、
中心に梅干が置かれているだけだ。しかし、和食の好きな滝にとっては、玉子粥などより
こっちの方が断然よかった。
「うわあ、美味しそう。」
「ゴメンナサイ。本当は玉子粥とかの方がよかったのかもしれないですけど、俺、作れな
くて・・・・」
「ううん。俺はこっちの方がいい。さっぱりしてる方が好きだからね。」
そう言いながら滝は鳳の作ったおかゆを食べ始める。朝から何も食べていなかたので、す
っかりお腹が空いてしまっていた。スプーンにおかゆを乗せ、口へと運ぶ。
「熱っ・・・」
「だ、大丈夫ですか!?」
「あー、やっぱ、冷まして食べなきゃダメだね。失敗失敗。」
恥ずかしそうに笑いながら、滝は言う。もう一度すくって冷まそうと息を吹きかけると、
目の前に手が伸びる。
「あの・・・俺が食べさせちゃダメですか?」
「えっ・・・えっと、別にいいけど。」
いきなりそんなことを言われ、滝は照れる。素直におかゆ鳳に渡すと今度は鳳がおかゆを
スプーンですくい、ふーふーと息を吹きかけた。しかし、それだけではしっかり冷めたか
分からないので軽く唇に当て、温度を確かめてから滝の口元へと運んだ。その動作を一通
り見ていた滝はなんとなく恥ずかしくて、すぐには口を開けられない。
「どうしたんですか?」
「えっ、ああ。うん、何でもない。」
せっかく鳳が食べさてくれるというのだから、食べないわけにはいかない。ゆっくりと口
を開けると、口の中にちょうどよい温度のおかゆが入ってくる。ほのかに梅干の風味がす
るそれは空腹の滝にとって、とても美味しく感じられた。
「美味しい・・・」
「本当ですか?よかったー。」
美味しいと言われ、鳳は笑顔になった。本当は自分で食べてもよいのだが、鳳が食べさせ
る気満々でおかゆをすくってくれるので、滝はそれを素直に食べる。味は美味しいし、鳳
の行動は嬉しいし、風邪をひいて苦しいはずなのに今はものすごく幸せだ。そんなこんな
で滝は鳳の作ってくれたおかゆを少しも残さずたいらげた。
「はあ、美味しかった。ありがとう、長太郎。」
「本当によかったです。まずいって言われたらどうしようかと思ってましたもん。」
「ううん。まずくなんて全然ないよ。ホントありがとう。」
「あっ、滝さん、薬とかって飲みました?」
「まだだよ。今日ごはん食べたのこれが初めてだから。」
「じゃあ、飲まなきゃですよね。俺、取ってきます!」
すくっと立ち上がって鳳はドアの方へ向かった。しかし、ある場所を知っているわけでは
ないので、ドアの直前で立ち止まり、くるっと滝の方へ振り返る。
「あの・・・薬ってどこにありますか?」
「キッチンのテーブルの上にあるはずだよ。」
行動が本当可愛いなあと滝は笑いながら答えた。分かりましたと鳳はパタパタと薬を取り
に走った。
「はい、持って来ました。」
走ったためか、少々息を切らして鳳はコップに入った水と小さな箱に入った薬を持って戻
って来た。滝はそれを受け取りさっさと飲んでしまう。
「これで少しは楽になるかなあ。」
「大丈夫ですよ。でも、念のためもっと寝た方がいいんじゃないですか?」
「うーん、朝も結構寝たんだけどな。」
「ダメですよ。寝なくちゃ。」
「長太郎がそう言うならそうしようかな。」
心配してくれているということが、言動や行動からハッキリと見てとれる。それなら従わ
なきゃいけないなあということで、滝はベッドに横になった。
「苦しかったら言ってくださいね。」
「うん。ありがとう長太郎。」
風邪をひいているとやはり体力を消耗するらしい。朝方あんなに眠ったにも関わらず、滝
は再び深い眠りについた。
眠っている間、滝は夢を見る。風邪をひいているときに見る夢は悪夢になりやすいという
が、滝の見た夢もまさにそれだった。目の前に他のメンバーがいる。しかし、自分のこと
は全く気にもとめてくれない。むしろ、避けているようにも感じられた。必死でその輪に
入ろうとするが体が動かない。最後まで残っていた鳳でさえも自分から離れて行ってしま
った。レギュラーから外されたからいけないのか、自分の力が足りないからもうここには
いてはいけないのか、そんなことが頭をよぎる。不安と絶望でいっぱいなり、何かを叫ん
だと同時にその勢いで目を覚ます。
「ハッ・・・ハァ・・・」
体は汗をびっしょりかいていた。まわりを見渡すと鳳の姿はない。自分が眠っている間に
帰ってしまったのだろうと考えたが、さっきの夢のことが頭をよぎり、急に寂しくなって
しまう。こみ上げてくる涙を抑えられずに滝は膝を立てて座り、そこに顔を押しつけ、声
を殺して泣いた。風邪をひいていると普段はどうでもいいことでも泣いてしまうくらいに
感じてしまうのだ。
カチャ
すると、自分の部屋のドアが開く。その音に気づき、顔を上げてみてみると洗面器に水と
タオルを入れた鳳の姿があった。様子のおかしい滝を前にして、鳳は慌てる。
「どうしたんですか、滝さん!?どこか苦しいんですか?」
急いで滝のもとまで近寄ると、滝は安心感からかさらに涙を流す。情緒不安定になってい
るため感情のコントロールが利かないのだ。
「長太郎・・・」
「大丈夫ですか?」
「うん・・・・」
頷きながら、滝は鳳の首に腕を回して抱きついた。さっきのは夢だ夢だと思っても、まだ
その時感じた感覚が抜け切らない。しばらくそうしていると、鳳はポンポンと滝の頭を撫
でた。何が原因でこうなっているか分からないが、とにかく落ち着かせてあげようとして
そうしたのだ。
「長太郎?」
「あの・・・どうしたのか分からないですけど、落ち着いてください。俺にして欲しいこ
とがあったら、何でも言ってくれていいですから。」
「ゴメンね。ちょっと嫌な夢見ちゃってさ。もうだいぶ落ち着いたから大丈夫。」
そう言って滝は鳳から離れ、涙を拭う。それを聞いて鳳もホッとしたような表情になった。
「どんな夢、見たんですか?」
「うーん、みんなが俺を見放してどっか行っちゃうみたいな夢。ほら、俺、宍戸に負けて
準レギュになっちゃったじゃん。だから、もう仲間には入れてもらえないんだーみたいに
思ってさ。すっごい、悲しくなっちゃって・・・」
また夢を思い出してしまったためか、滝の目は次第に潤んできて、声も涙声になってくる。
その様子を見て、鳳は滝のことをぎゅうっと抱きしめた。
「仲間に入れてもらえないなんてことないですよ。それに、少なくとも俺は滝さんのこと
見放すませんし、宍戸さんや跡部さんだって同じだと思いますよ。」
「本当・・・?」
「はい。あっ、そうだ!」
何かを思い出したかのように鳳は滝の机に置いてある携帯を持ってくる。
「滝さんが寝てる間に先輩達からいっぱいメールが来てたんですよ。起こしちゃいけない
なあと思って勝手にマナーモードにさせてもらっちゃったんですけどね。」
「メール?」
鳳から携帯を受け取ると、滝はその内容を確認する。新着メッセージは7通。多いなあと
思いながらも滝はそれを開いてそのメールを読んだ。
『誕生日おめでと、滝!!プレゼント、ちゃんと用意してあるから楽しみにしてろよな。』
『おめでとさん。誕生日に風邪ひくなんてあんまりあらへんで?お大事にな。』
『誕生日おめでとう。こんな日に学風邪ひくなんて激ダサだな。早く治せよ。せっかく、
俺がない金使ってプレゼント買ったんだからよ。』
『俺様がじきじき祝いのメールを送ってやるんだ。ありがたく思いな。プレゼントも用意
してやったぜ。早く治して学校に来るんだな。』
『おめでとー!!滝!!本当は今日プレゼント渡したかったんだけどなあ。残念。治った
ら学校で渡すから楽しみにしてろよな!!』
『誕生日おめでとうございます。風邪、早く治るといいですね。』
『おめでとうございます。一応、俺もプレゼント用意したので、学校来たときに渡します。
お大事に。』
メールの内容は鳳以外のメンバーからの誕生日のお祝いメッセージだった。それを見て滝
はさっきの夢など、頭の中から消えてしまうほどの嬉しさを感じる。今度は違う理由でま
た涙ぐんでしまう。
「うわあ・・・嬉しい。」
「ほら、仲間に入れてもらえないなんてありえないでしょう?」
「うん。・・・よかった。」
携帯をぎゅっと抱きしめて滝は呟いた。その様子を見て、鳳も微笑む。
「滝さん。」
「何?」
「俺もプレゼント用意してきたんですけど、今渡してもいいですか?」
「本当?ありがとう。」
鳳は自分の鞄の中から、用意してきたプレゼントを出す。
「はい、誕生日おめでとうございます、滝さん。」
「うん。ありがとう。開けてもいい?」
「はい。」
鳳から受け取ったプレゼントを早速滝は開けてみる。中にはドーム状の置物。それもただ
の置物ではない。ガラスのドームの中には雪景色のような風景と白うさぎ。それもオルゴ
ールになっているようで、ドームの下にはネジがついている。
「わあ、可愛い。」
「ちょっと、女の子っぽすぎるかなあと思ったんですけど、曲とかもよかったんで。」
「うん、俺すごい気に入った。何か日本の雪国の風景って感じだよね。嬉しいなあ。」
「よろこんでもらえてよかったです。」
照れたようにニコっと笑う鳳は、幼い子供のようで滝にとってはものすごく可愛く感じら
れた。早速、オルゴールのネジを回して曲を聞いてみる。まだ、冬とはいえない季節では
あるが、その曲はなんとなく今の滝の心にじんわりと沁み込んでいった。
「曲も綺麗だね。」
「はい。俺、この曲すごく好きなんです。だから、滝さんにも聞かせてあげたいなあと思
って。」
「なーんか、この曲聞いてたら、早く風邪が治りそう。」
「本当ですか!?」
「うん。ありがとう長太郎。」
風邪をひいていながらも最高に幸せそうな笑顔を鳳に向ける。そんな笑顔でお礼を言われ、
鳳は思わず赤くなってしまった。
「本当はお礼にキスの一つでもしてあげたいんだけどなあ。でも、今したら長太郎に風邪
移っちゃうよね。」
「滝さん・・・」
「おでことかなら大丈夫かな?」
冗談っぽく言う滝の顔はすっかり熱の影響もなく楽になっているようだ。鳳としては唇に
されようがおでこにされようがいずれにしても嬉しいこと。しかし、今日は滝の誕生日。
どうせだったら、より滝が喜んでくれる方にしようと鳳は思いきった行動に出る。
ちゅっ
「・・・・っ!」
「少しくらいなら・・・大丈夫ですよ。俺、今、メチャクチャ健康ですから!」
真っ赤になりながらそういう鳳は、楽しそうに笑っている。思ってもみない行動をとられ、
滝はもうドキドキだった。
「ちょ、長太郎・・・そんなことされたら、俺、熱上がっちゃうよ?」
「えっ!!ゴメンナサイ。」
「あはは、冗談だって。いやー、風邪ひいちゃったけど、今日は本当いい誕生日だなあ。」
「本当ですか?」
「うん。だって、長太郎がこーんなにいっぱいプレゼントくれたんだもん。」
「俺、一つしかあげてないですよ?」
「長太郎がうちに来てくれたのも、看病してくれたのも、プレゼントをくれたのも、今み
たいにキスしてくれたのも、俺にとっては全部最高の誕生日プレゼント。」
嬉しそうにそう話しなが滝は鳳の頭を撫でる。まさかそんなことを言われるとは思わなか
ったので、鳳はちょっと困惑しながらも嬉しそうだ。
「本当は長太郎といろんなとこに遊びに行ったりしたかったんだけどなあ。」
「じゃあ、来年はそうしましょうよ。」
「来年もこういうふうに俺と一緒にいてくれるの?」
「はい!今度はデートみたいなこと出来るといいですね。」
「うわあ、長太郎にそう言ってもらえるとすごく嬉しい。あっ、でも、風邪が治ったら、
来年と言わず、今度の休みにどこか行かない?」
「いいですよ。じゃあ、早く風邪、治してくださいね。」
「うん!絶対治す!!」
そんな約束をしつつ、二人はしばらく話をし続けた。
次の日、滝の体調はすっかりよくなり、学校へ行くことが出来た。鳳以外からも誕生日プ
レゼントをもらい、鞄はいっぱい、心の中も嬉しい気持ちでいっぱいだった。そして、昨
日約束した通り、次の休みは鳳とのデートが待っている。風邪をひいてしまったが、今年
の誕生日は何だかいつもよりいいことがいっぱいだったなあと思う滝なのであった。
END.