岳人と鳳が帰ってしまうと、忍足と滝は仕事に戻る。そして、ある程度のことをやり終え
ると二人は少し休もうと休憩室に向かった。休憩室には跡部と宍戸が先にいて、話しをし
ていた。
「あっ、忍足に滝。」
「何やまた自分らかい。」
「仕事は?」
跡部は完璧に外科医なので、仕事は多いはずだ。しかし、ここに来ると必ずと言っていい
ほど、宍戸とお茶を飲みながら休んでいる。
「今日はもう二つの手術を終わらせたぜ。まあ、そんなに重傷なやつじゃなかったからそ
んなに時間はかからなかったけどな。」
「跡部の奴、すごいんだぜ!!普通なら二時間とかそこらかかる手術をすっごいテキパキ
進めて半分くらいの時間で終わらせちまうんだ。」
「そんなんで失敗とかせぇへんの?」
「するわけねーだろ、バーカ。それに手術は患者の体力を激しく消耗させる。正確で尚且
つ早く終わらせるのが成功の鍵なんだよ。」
自信満々に跡部はそう答えた。さすが天才外科医と呼ばれているだけのことはある。
「へぇー、やっぱすごいね跡部。」
「だろ?あっ、そうだ。そういや今日って岳人とか鳳の退院日だよな?もうあの二人帰っ
たのか?」
「うん。岳人は昼前に長太郎はさっき帰ったよ。」
ニコニコしながら滝は答える。確か滝は鳳とくっついたはずだ。退院すれば会えなくなる
ということは分かっているのにどうしてこう嬉しそうなのだろうと宍戸は疑問に思った。
忍足もそんなに寂しいというような顔はしていない。
「やっぱ、寂しいんじゃねぇ?あの二人がいなくなって。」
「まあね。でも、退院するのはやっぱ担当医としては嬉しいじゃん。それに、元気になっ
たんだからいろんなところに遊びに行けるし。」
「せやな。まあ、岳人はまだリハビリせなアカンけど。」
「ふーん。そんなもんか。」
顔を見合わせながら楽しそうに話す二人を見ながら宍戸はそう呟く。すっかり三人の会話
になってしまって、暇になってしまった跡部は宍戸にちょっかいを出し始めた。いきなり
肩に腕を回してきて、自分の方へと引き寄せる。
「わっ、いきなり何だよ!?跡部。」
「別に。特に深い意味はねぇ。」
わざわざ忍足と滝がいる前でそんなことする必要はないだろうと宍戸は必死で離れようと
するが、跡部の力にはかなわない。忍足と滝はそれをまた始まったと笑いながら見守る。
「宍戸が俺達とばっか話してるから、妬いたんじゃないのー?」
「跡部はやきもち焼きやからなぁ。」
「んなことでいちいち妬くな!!てか、離せー!!」
バタバタと暴れて抵抗するが、跡部は全く動じない。少し大人しくしろとそのままの状態
で軽く耳たぶを噛んだ。
「ひゃっ・・・ぁ・・・」
思わず高い声が出てしまう。当然こんなことされたら大人しくならざるを得ない。しかし、
それよりこんな声を忍足や滝に聞かれてしまったことが恥ずかしい。真っ赤になって跡部
に文句を言おうとした瞬間、忍足と滝が口を挟んだ。
「随分、女の子みたいな声出すんやなぁ宍戸。」
「ふっ、でも宍戸は俺様のだからな。これ以上は聞かせてやらねぇ。」
「別に聞きたいとも思わないし。むしろ、俺は長太郎のそういう声を聞きたいなあ。」
「テメーら、好き勝手なこと言ってんじゃねぇよ!!それに、忍足!!この前のお前の方
がよっぽどすごかったじゃねぇか!!」
「なっ!?」
またその話題かと忍足は赤くなりながら反論する。跡部は状況が分からず、首を傾げてい
るが滝は大爆笑だ。
「もうそのネタはええやろ!!わざわざこんなとこで言うな!!」
「テメーが先に言ったんだろ!!」
「宍戸、この前のことって何のことだ?お前、忍足と・・・」
「違ぇーよ!!忍足がこの前岳人としてるのを見ちまったただけだ。」
「そういうことか。」
自体が飲み込めて跡部は納得。しかし、またバラしたなーと忍足はさらに怒る。
「いい加減にせぇよ!!宍戸。そんなにいろんな人にバラすな!!」
「お前らがあんなとこでしてるのがいけねーんだろ!!」
「ほらほら、もういいじゃない。せっかく休憩しに来たのにこれじゃ、疲れちゃうよ。」
『うるさい!!』
せっかく止めてあげようと思ったのに、こんなことを言われ滝はカチンとくる。こうなっ
た滝は怖い。普段が温厚なだけに何をするか分からない。
「二人とも・・・あんまりそんなことばっかしてると、いろんな人に全部バラすよ?仲間
の研修医にも看護士にも内科病棟の人にも・・・。跡部、お前は別に構わないよな?」
「あーん?俺は別にそういうのは気にしねぇけど。」
それを聞いて宍戸と忍足は青ざめる。今の滝の表情からして冗談で言っているとは到底思
えない。そんなことを本気でされたらたまったものではない。病院内の注目の的になって
しまうのは必至だ。
「わ、悪かった滝っ。ケンカやめるからそれだけは勘弁!!」
「俺ももう黙るから、なっ?そないなことはやめとき。」
慌てて二人は滝をなだめようとする。自分の思い通りになって満足したのか、滝はニッコ
リ笑ってソファに座りなおした。
「分かればいいよ。」
(滝の奴、激怖ぇ〜。もう怒らせないようにしよ。)
(意外に力持ってるのって実は滝かもしれへんなあ。あないなこと言われたら嫌でもやめ
てまうわ。)
冷や汗をかきながら二人は黙ってしまう。また、自分だけ無視されてると跡部はひどく不
機嫌顔だ。
「宍戸。」
「・・・・・・。」
さっきのことがまだ尾を引いていて宍戸は返事をするのを忘れている。もちろん耳には入
っているのだ。しかし、宍戸が返事をしないことに跡部は微妙に腹が立った。もう一度名
前呼んでみるが再び返事はなし。カチンときた跡部は無理やり宍戸をソファの上に押し倒
し、自分の下に組み敷いた。
「うわあっ!!な、何だよ跡部!?」
「さっきから、俺様が声かけてやってるのに気づかないみたいだったからな。」
「あっ、ゴメン。ちゃんと聞こえてたんだけど・・・・。」
「それじゃあ、尚更悪ぃ。滝、忍足、この部屋から出て行け。」
唖然としている二人を睨み、跡部は休憩室から出て行くように命じる。当然、滝と忍足に
はこのあと起こると思われることが容易に想像出来た。確かに自分達はここにはいてはい
けないだろうなあと思い、言われるままドアの方へ向かう。
「分かった。一応、ボク達は出て行くけど、ここ、誰が来るか分からないよ。あんまりそ
ういうことはしない方がいいと思うけど・・・・。」
「俺も滝と同意見やな。」
「テメーらには関係ねぇだろ。ほら、さっさと行け。」
跡部に急かされ二人はそのまま出て行ってしまう。しかし、微妙にこのあとの展開が分か
るようなことを聞かされてしまった宍戸は内心メチャクチャ焦っていた。
(なっ、えっ、ちょっと待てよ!!跡部まさかここでする気じゃねぇだろうな!?そんな
ん冗談じゃねぇ!!うわぁ、ヤバイヤバイー!!)
「さてと、邪魔者のいなくなったことだし・・・・」
「ちょっ、ちょっと待った!!お前、本気でこんなところで・・・・」
「するわけねぇだろバーカ。」
「へっ?」
予想外の跡部の言葉に宍戸はきょとんとする。今、跡部は確かにしないと言った。
「あいつらがいると、どうもお前は俺のことを無視しがちになるからな。」
「それじゃあ・・・」
「ああ。こういうことがしたいんじゃなくて、ただお前と二人きりになりたかっただけだ。」
「なんだ・・・。よかったー。」
跡部の言葉を聞き、宍戸はホッと胸を撫で下ろす。だったら、最初からそう言えよと言い
たいところだが、あの状況でそれは無理であっただろう。
「まあ、お前がヤりたいって言うんなら俺は大歓迎だけどな。」
「し、しないしない!!こんなとこで出来るか!!」
「冗談だ。第一こんなとこじゃ、ムードも何もねぇからな。時間もそんなねぇし。どうせ
だったら、ちゃんと時間かけてしたいだろ?」
「そりゃ・・・まあ。」
思わずそのまま肯定してしまう。それに気がつき、宍戸は何言ってんだ!!と自分の口を
押さえた。顔も真っ赤だ。そんな宍戸が可愛いと跡部はそのままキスをする。一回目は口
覆っている手の甲にされ、ビックリして手を離すと今度は唇にキスが落ちる。
「ん・・・・」
「今夜も楽しみにしてるぜ。今日は早く帰れるはずだ。うちでゆっくり可愛がってやるよ。」
そんなセリフを耳元で囁き、跡部は宍戸の耳を軽く舐めた。声までは出ないものの一瞬体
がビクっと震える。必死で普通を装おうとするが、出来るはずもなくその表情はすっかり
跡部好みの表情になっていた。
「あ、あんまり痛いのはやだかんな!!」
「了解。それじゃあ、今日は特別に優しくしてやるよ。」
そんなことを言いながら、跡部は再び唇を落とす。相手が退院してしまった二人とはうっ
て変わって、いつも通りこの二人はところ構わずイチャイチャしているのであった。
END.