氷帝学園ドキドキキャンプ 〜後編〜

ついにナイトハイクが始まった。このナイトハイクは2人ペアで決められたコースを回る
をいうものだ。絶対に他のペアとぶつからないように充分な時間がおかれる。
「順番は俺と宍戸。忍足と岳人。滝と鳳。樺地とジローの順だ。いいな。」
『分かった。』
始めは跡部と宍戸のペアだ。テニス部のメンバーは全体として最後の方である。

跡部&宍戸ペア
「じゃあ、行くぞ。宍戸。」
「あ、ああ。」
うわあ、始まっちまったよ。何でわざわざこんな暗くて何が出るか分からないとこ歩かな
くちゃならないんだ。怖ぇーよ・・・。
「宍戸?どうかしたか?」
「えっ、何でもない。」
宍戸さっきからなんか様子が変だな。・・・そうか、こいつさては怖がりだな。もう少し
奥へ行ったら脅かしてやれ。
跡部は宍戸が怖がりだということに気づいてニヤッと笑った。少し歩いていくと全く灯り
のない道に入った。懐中電灯がなければ何も見えないだろう。懐中電灯を持っているのは
跡部だった。
「暗いな・・・。」
「そうだな。怖いか宍戸?」
「な、何言ってんだよ。怖くなんかねーよ。」
必死で否定してるあたり、やっぱこいつ怖がりじゃねーか。もうそろそろ脅かしてやるか。
「あれ、急に懐中電灯が・・・。」
跡部は懐中電灯をわざと消した。その瞬間あたりは真っ暗になり、何も見えない。
ふふ、宍戸どんな反応するか楽しみだ。
「え、え、ちょっ・・・跡部、どこ?」
何だよ〜、何で急に懐中電灯の灯り消えるんだよ〜。ああー、どうしよう。マジで怖ぇー
よ。
「跡部、跡部、どこだよ!!いるんだったら返事しろよ!!」
宍戸すごい慌てっぷりだな。おもしれえ。もうしばらく黙ってようかな。
「跡部、返事してくれよー。跡部ぇ・・・。」
しだいに涙声なっていく宍戸をさすがの跡部も可哀想に思い、懐中電灯をつけた。
「冗談だよ宍戸。脅かして悪かった・・・!!」
懐中電灯をつけた瞬間、宍戸は思わず跡部に思いっきり抱きついた。そうとう怖かったら
しく、しばらく離れない。
「何だよ、宍戸。そんなに怖かったのか?」
「ウルセーよ。俺は怖がりなんだ!お前分かっててやっただろー。」
「まあな。いい加減離れろよ。早く行かないと岳人達が追いついちゃうぜ。」
思ったよりいい反応だったな。まさか抱きつかれるとは思わなかったけど。あー、まだ涙
目だよ。可愛い奴。
「宍戸、手つないでやろうか?」
うー、こいつ絶対俺からかってやがる。でも、またさっきみたいになるのは、絶対やだし
・・・。
「・・・途中で離すなよ。」
宍戸は潤んだ目で跡部を睨んで差し出された手を握った。

岳人&忍足ペア
いややな。何でこないなのが予定に入ってるんやろ?こんな真っ暗な道歩きたくないわ。
「侑士ってさあ、怖がりだよな?」
「そ、そないなことあらへんよ。こんなん何ともないわ。」
侑士、うそばっか。めちゃめちゃ顔引きつってるよ。素直じゃねぇんだから。
「ふーん。あっ、なぁ侑士アレ見ろよ。」
岳人は自分の右側を指差した。そっちの方を忍足が見ている間に後ろにまわり、忍足の視
界から消える。
「何もあらへんやないか。あれ?岳人?」
くすくす、後ろから脅かしてやろう。侑士、ビックリするかなー。
「わっ!!」
「うわああああーーーっ!!」
忍足は驚いて腰を抜かした。そのままへたり込む忍足を見て岳人は大笑いする。
「あははは、やっぱ侑士怖いんじゃーん。ちょっと、脅かしただけなのにー。」
「岳人〜〜。」
涙目になっている忍足は本気で腰が抜けて自力では立てなかった。
「あーもう、岳人のせいで立てへんわ。岳人、手ぇ貸してえな。」
「はい。ごめんな、こんなに驚くとは思わなかったからさ。」
「それ、うそやろ。」
「えへへ、バレたー?」
岳人の奴、俺が怖がりなの知っててわざとやったな。ホンマに意地悪なやっちゃなあ。
その時、2人の目の前に一つの黄色い光が現れた。
「あれ、何だろこれ?」
「蛍か?珍しいなあ。」
「へえ、蛍ってこんなんなんだ。初めてみた。」
「俺も実際に見たのは初めてやで。」
珍しさから岳人はその蛍を捕まえようをした。忍足はそれを止める。
「ダメや岳人。捕まえたらアカン。」
「何で?跡部とかにも見せてやりたいじゃん。」
「蛍はな成虫なってからは、少ししか生きられないんや。それなのにうちらが捕まえてし
もうたら可哀想やろ?」
「ふーん、そっか。」
やっぱ、侑士はすごいなあ。何でも知ってるし。
「侑士は優しいんだな。俺、侑士のそういうとこ好きだぜ。」
「なっ、こんなところで何言っとんのや!?」
「あはは、侑士真っ赤ー。」
岳人も忍足も当初の目的(ナイトハイク)をすっかり忘れているようだ。

滝&鳳ペア
「はあー。」
「長太郎、元気出せよー。宍戸にも何か理由があったんだよ。」
鳳を慰める滝だが、心情はかなり複雑だ。鳳とペアになれてかなり嬉しいが、宍戸にふら
れたことでかなり落ち込んでいる。
うーん、俺は鳳のことが好きだけどこういう時はどういうふうに元気づけりゃいいんだろ
う?宍戸はお前のことも好きだよって言ってやればいいのかな?それだとあまりにも俺が
惨めすぎるよなー。
「ねぇ、長太郎。宍戸のどこがそんなに好きなの?」
「えっ、えっと、男らしくて、努力家なところ・・・ですかね。」
「へえ。」
努力家で男らしいところか。まあ、見たまんまだな。でも、男らしいってあってるかな?
俺から見れば宍戸って、どっちかつーと受だよな。跡部とできてるみたいだし。これは長
太郎には言わない方がいいか。
「あ、あのさ長太郎・・・。」
「何ですか?滝さん。」
「俺、前からお前のこと好きだったんだ。」
「えっ・・・。」
2人きりということもあって滝は思い切って鳳に告白した。鳳は突然の告白にドキドキす
る。
え、えーー!!滝さんが俺のこと好きって。どうしよう。俺には宍戸さんがいるのにー。
あー、でも、滝さんもかっこいいし、何よりも髪がとっても綺麗だ。俺、髪の毛の綺麗な
人に弱いんだよなー。えー、マジでどうしよう・・・。
「あっ、ごめんね、長太郎。長太郎は宍戸が好きなんだよね。変なこと言ってゴメンね。」
「そ、そんな謝んないでくださいよ。」
「今の迷惑だったら、気にしなくていいから。」
滝は恥ずかしそうな笑みを浮かべる。鳳はその表情にもドキッとさせられた。
うー、何告ってんだよ俺!鳳は宍戸が好きだってこと分かってんのに。あー、今頃恥ずか
しくなってきた。
「滝さん。」
「な、何?長太郎。」
「俺、滝さんのこと嫌いじゃないですよ。」
鳳はふっと呟いた。一番じゃないと分かっていても滝は嬉しかった。少しは脈アリのよう
だ。鳳もこの時から少し滝のことが気になり始めた。

樺地&ジローペア
この2人のペアは樺地はあまりしゃべらないタイプないが、ジローは起きている時は岳人
と同じくらいテンションが高く騒がしい。樺地がしゃべらない分ジローが独り言のように
ベラベラとしゃべっている。
「眠いー。何でこんなのやんなくちゃいけないのー。」
「・・・・。」
「ねえ、樺地ぃ。俺、眠いから抱っこして。」
こんなことを言われたら、普通の人は確実にひくだろう。だが、樺地は違った。
「ウス。」
「わお、本当に抱っこしてくれるの?ありがとー、樺地。」
軽々とジローを抱き上げて、そのまま歩く。ジローは本当にそのまま眠ってしまった。ち
ょうど、お姫様抱っこのような形でジローは抱かれている。傍からみると、巨人が人をさ
らってきたようにも見えかねない。一般の生徒がこれを目撃したら間違いなく驚くだろう。
「ん・・・。」
ジローが突然目を開けた。
「樺地ー、なんか白いのがいっぱいいるよぉ。」
「?」
ジローにはなにか通常では見えないようなものが見えているらしい。樺地にはなにも見え
ないので、ジローの言っていることの意味がさっぱり分からなかった。そして、ジローは
もう一度寝てしまう。しょうがないので樺地はそのままナイトハイクのコースを歩き続け
た。何事もなく無事にナイトハイクは終わった。ただし、白いものを連れて来てしまった
樺地を除いては・・・。

コテージに戻ったメンバーはお約束でトランプなどのゲームをして遊んでいた。
「よっしゃー、あがり。」
「また、忍足が一番かよ。お前、強いな。」
「ズルイ侑士ー!さっきからもう四連勝じゃん。」
「あっ、もう就寝時間やで。布団だけでも敷いとかんと先生達が見回りにくるから怒られ
るで。」
就寝時間は一応10時半だった。この時間に素直に眠る生徒はあまりいないだろう。だが、
このコテージにいるメンバーの中ではジローと樺地が就寝時間通りに寝た。ジローに関し
てはコテージに戻ってくる前から眠っていた。
「ふあー、俺もう眠いー。」
「俺も眠いな。もうそろそろ寝るか。」
時計が12時を回ったので、さすがの岳人達も眠くなってきた。
「侑士ー、一緒に寝ようぜ。」
「ああ、ええよ。」
岳人と忍足は一つの布団で眠るようだ。跡部と鳳も宍戸と一緒に寝たいと思って声をかけ
ようとしたが、すでに一人で眠っていた。
(ちっ、何だよ。宍戸の奴。一緒に寝てやろうと思ったのに・・・。)
(向日先輩も忍足先輩もうらやましいなあ。)
結局、跡部も鳳もそれぞれ自分の布団で眠ることになった。
それから二時間後、ちょうど丑みつ時と呼ばれる頃に宍戸がふと目を覚ました。
(何か、すっげえ寝苦しい。何でだろ?)
体を起こして、周りを見回す。すると、宍戸の目に恐るべきものが映った。樺地の周りに
いくつかの白い物体が浮いていて、それも見ようによっては樺地を祭っているようにも見
える。
(○×△☆〜※×▲!!)
宍戸は声にならない叫びをあげる。誰かに助けを求めようとするが声が出ない。どうやら
金縛りにあっているようだ。
(うわっ、ちょっ・・・どうすりゃいいんだ!?声も出ねーし、体も動かねー・・・。嫌
だ!怖い!誰か助け・・・)
「宍戸!宍戸!」
隣に寝ていた跡部が宍戸の異変に気づいて目を覚ました。声をかけられたことで金縛りが
とけ、動くことも声を出すことも出来るようになった。
「・・・あ。」
「どうしたんだ宍戸?何があった?」
「うわあ、跡部ー!!」
宍戸は恐怖と安心感から泣きながら跡部に抱きついた。そして、今起こった出来事を切れ
切れに話す。跡部はそれを聞いてふうっと溜息をついた。
「時々あるんだよな。樺地、自分では気づいてないらしいんだけど、あいつ霊感が結構強
くて、わけの分かんないもん連れてくんだよ。」
「跡部も見たことあるのか?」
「ああ。でも俺はそういうの全然怖くねえから。」
そうなのかという表情を見せて、宍戸は脱力した。とその時、宍戸にある異変が起こる。
「どうした?」
「あ、あのさ、跡部・・・。」
「何だよ。」
「お願い、一緒にトイレ行ってくれ!」
このキャンプ場のトイレはコテージの外にある。この時間帯だったら怖がりな人でなくと
も、一人で行くのは怖いだろう。跡部は笑いながら、立ち上がった。
「しょうがねえ奴だな。ついてってやるよ。」
跡部についてきてもらい宍戸はトイレに行った。コテージに戻ってきて、もう一度眠ろう
と二人は布団に入る。ところが、宍戸はさっきのことがまだ怖くてなかなか寝つくことが
出来ない。そんな宍戸の様子を見て跡部は声をかけた。
「宍戸、怖いならこっちの布団来いよ。一緒に寝ようぜ。」
しばらく悩む宍戸だったが、一人で眠るのはやっぱり怖いので跡部の布団で寝ることにし
た。
「今日はやけに素直じゃねーか。」
「ウルセー・・・。」
少しの沈黙があった後、宍戸がふと跡部に声をかける。
「なんかさ、跡部って・・・。」
「何だよ。」
「いい匂いするな。」
「はあ!?」
「前から思ってたんだけど、石鹸とかの匂いとは違うんだよ。何つーか、落ち着く匂い。」
宍戸は跡部の首すじに鼻を近づける。
「誘ってんのか?お前。」
「ち、ちげーよ!!本当のこと言っただけじゃねーか!」
「ふーん。」
「もう寝る。おやすみ!」
宍戸は本当にそのまま眠ってしまった。話している時は平静を装っていたが、跡部は宍戸
以上にドキドキしていた。
(ったく。そんなこと言われたら理性保てなくなっちまうじゃねーか。あーあ、どうして
こいつらと一緒の部屋なんだよ。2人部屋だったらよかったのに・・・。)
そんなことを考えながら跡部も眠りについた。

次の日の朝、宍戸と跡部以外のメンバーが先に目を覚ました。
「あーーー!!何で跡部さんと宍戸さん、一緒に寝てるんですかあー!!」
「本当だあ。あれ?でも始めは別々じゃなかったけ?」
「そやな。それにしても、ホンマに仲良さ気に眠っとるな。」
「ズルイです。」
あまりにも周りがギャアギャアうるさいので、さすがの跡部達も目を覚ます。
「何だよ、ウルセーな。」
「宍戸さん!!何で跡部さんと寝てたんですかあ!?」
「え、えっと、それはその・・・」
「こいつすっげえ寝相がわりいんだよ。いつの間にか俺の布団で寝てやがった。動かすの
も面倒だからそのまま寝てたんだよ。」
(ナイスフォロー!跡部。)
「そうなんですか?宍戸さん。」
「そ、そうそう。俺すっごい寝相悪くてさあ。」
跡部のフォローのおかげで本当のことはバレずにすんだ。
「おい、ジロー起きろよ。もうそろそろ朝飯の時間だぜ。」
「うー・・・もうちょっと・・・」
「もうちょっとじゃねえ、早く起きろ!!」
滝はいまだに眠っているジローを起こそうとがんばっている。あと少しで朝食の時間にな
るので、みんな普通の服に着替える。このキャンプは1泊2日なので朝食を食べたら帰る
ことになっていた。

いろいろ大変なことがあったが、全員それなりに楽しめたようだ。こうして氷帝学園のキ
ャンプは幕を閉じた。

                                END.

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