関東大会青学VS氷帝戦が終わって、しばらく経った時のこと。青春学園テニス部顧問、
竜崎すみれはただいま氷帝学園にいた。この前の試合でいろいろと問題(ケガ等)が多々
起こっていたので、そのお詫びというかなんというか、とにかく顧問同士でさまざまなこ
とを話すことになったのだ。
「先日はすいません。手塚くんや河村くんのこと。」
「いえいえ、こちらこそいろいろご迷惑をお掛けしてしまって。」
「その後、ケガの具合はどうですか?」
「河村はもうすっかり直ってるし、手塚も九州で頑張っとるよ。」
「そうですか。」
やはり、太郎が気になるのはあの試合でケガをしてしまった手塚や河村のことらしい。し
ばらく話した後、竜崎はふと壁に掛かっている時計に目をやった。
「おっと、もうこんな時間だ。すいませんが、この後用があるので帰らせてもらいます。」
「そうですか。お気をつけて。」
「あっ、そうだ!これこの前のお詫びと言っちゃあ何なんだが、お土産です。たぶん榊先
生とレギュラーメンバー分くらいは入っていると思うので、是非食べて下さい。」
「ありがとうございます。」
「それでは。」
「はい。」
竜崎は軽く会釈をして部屋を出て行った。
それにしても、乾と不二の奴。何で私が今日氷帝学園に行くって知っておったんじゃろう。
特に誰にも話してなかったと思うのだが・・・。まあ、ちょうどよくお土産が出来たこと
だしいいか。
さっき、太郎に渡したお土産はどうやら乾と不二が用意したものらしい。この二人の渡す
もので今までまともなものがあっただろうか?だが、太郎は何も知らずにそのお土産を跡
部達レギュラー陣のもとへ持って行った。
この箱の中身は10個か。私の分を抜いたとして残りは9個。あの試合に出たメンバーだ
けだと1つ余るな。
そんなことを考えながら、太郎はテニスコートに向かう。最近はもう3年正レギュラー陣
はほとんど引退でまともに練習をしているのは鳳や日吉の2年生sだけだった。だが、3
年のメンバーはほぼ毎日練習を見に来てる。なので、コートに行くと正レギュラーのメン
バーは全員揃っているのだ。
「旧正レギュラー、集合!!」
「監督だ。何の用だろ?」
「俺らもう引退なのになあ。」
「鳳、やっぱり俺も行った方がいいのか?」
「うん。この前の試合出たんだから、一応行った方がいいんじゃない?」
「俺は行かなくてもいいんだよね。」
滝の姿を見て、太郎は残りの1つは滝にやろうと決めた。
「滝、お前も一緒に来い。」
「えっ!?俺もですか?」
太郎に呼ばれたレギュラー陣は、正レギュラー専用の部室へと向かった。もちろん鳳と日
吉と樺地以外は全員制服。図的にはかなり微妙な光景だった。
「で、何ですか監督。」
跡部が代表して太郎に何の用かと尋ねた。太郎はとっての付いた紙箱を机の上に置く。
「これをさっき、青学の竜崎先生からもらった。この前の試合に出たメンバーに食べさせ
てやってくれということだそうだ。」
食べ物と聞いて過敏に反応したのは岳人。真っ先に紙箱に手をかけ蓋を開けた。
「うわあ、カップケーキだ!!」
出てきたのは小さなカップケーキ。かなり美味しそうで、レギュラーメンバーはうれしそ
うにそれぞれそれを手に取った。
「なかなかうまそうじゃねーか。」
「ちょっと小さいけどな。」
「まあ、この数だったらこの大きさくらいが無難じゃない?」
「そうですね。あれ?あと1個余ってますけど。」
「これは私のだ。」
太郎も岳人達と同じようにカップケーキを手に取る。これで箱の中は空っぽになった。
「じゃあ、食おうぜ!」
『いただきまーす!!』
みんな一斉にそのカップケーキを口にする。大きさがそれほど大きくないのであっという
間に食べ終わってしまった。
「あー、うまかった。ふぁ〜、何だか眠くなちゃった・・・。」
ジローはケーキを食べ終わると近くにあった長椅子に横になり、眠ってしまった。
「何か、俺もすげぇ眠い・・・」
「俺もや・・・。」
「俺も何か眠みぃ・・・。」
「何でこんなに眠いんだろ?おかしいよね・・・。」
ジローだけでなく他のメンバーも尋常ではない眠気を感じている。そのまま倒れこむよう
にして、そこにいたメンバーは眠ってしまった。もちろんそれは太郎も同様で崩れるよう
に壁に寄りかかり眠ってしまう。どうやらこれはアノ薬の副作用らしい。即効性を極めた
結果こうなってしまったようだ。
数十分後、眠ってしまったメンバーは揃って目を覚ます。目を覚ました後、かなり異常な
出来事に一番初めに気づいたのは忍足だった。
「うわああーーー!!」
「んー、どうしたの?侑士。」
まだ寝ぼけ眼の声で岳人は尋ねた。忍足の方を見るが岳人はまだその異変に気づいていな
い。
「ど、どうしたのやないで・・・。お、俺ら女になってる!!」
「はあ?何言ってんだよ侑士。そんなことあるわけな・・・」
岳人はちゃんと目を覚ました後、忍足を見て自分の体を見た。どちらにもあってはならな
いものが上半身にある。
「うっわあ!!何これ!?何で何で!?」
「うるさいなー。目覚めちゃったじゃん。」
「ジロー、大変!!俺達女になってるよー。」
「女になってる?うっそだー。」
ジローもやはり自分の体に目を落とす。ジローにもあってはならない場所が膨らんでいる。
「こ、こんなのきっと気のせいだよ。」
そう言ってジローは自分のハーフパンツの中を確かめた。その瞬間、ジローの表情は固ま
る。
「岳人、忍足どうしよ!!俺のねぇ!!」
「だから、さっきから言ってるやろ?何でこないなことになってしまったんやろ?」
忍足がその原因を探ろうと考えていると、他のメンバーもぞくぞくと目を覚ます。
「ふあ〜・・・よく寝た。って、何だよこれ!?」
「宍戸、お前いつから女になった?」
「アホ!!んなこと知るか!!つーか、お前の方がもっとあからさまだぞ。」
「は?」
そう言われて跡部は自分の胸に目を落とす。そこには自分の周りにはいないだろうという
程に大きな胸が存在していた。
「何だよコレ!?おかしいだろこれは。」
「うっそ、何これ!?何で、俺女になってるの!?」
「滝さーん、どうしましょう。これじゃあ、練習に戻れないですよー。」
「・・・・・。」
「こんなのありえない。何で俺が女に・・・・。」
滝や鳳、樺地や日吉もだいぶ困惑している。このメンバーに遅れて、太郎がやっと目を覚
ました。それに気づいてジローが抗議しようとパタパタと走り、太郎に飛びついた。
「何なんだよー、これ。監督どういうこ・・・」
飛びついてジローは気がついた。ちょうど顔のところに来る太郎の胸が柔らかい。そう当
然のことながら太郎も女になっているのだ。
「どういうことだこれは・・・。」
太郎も今何が起こったのかなかなか理解が出来ないらしい。だが、思い当たるものは1つ
しかない。そうさっきのカップケーキだ。それ以外に理由は考えられなかった。
「何のつもりなんだ、竜崎先生は・・・・。」
はっきり言ってしまえば、このことに竜崎はあまり関係ない。元は言えば乾と不二が元凶
だ。
「監督、俺達どうすりゃいいんだよ?」
「そうだな。その状態だとやはりマズイ。まずはあそこに行かなければならないな。」
『?』
太郎はレギュラーメンバーを連れてとあるところに向かった。鳳、日吉、樺地は早退と言
うことで部活を抜け出す。さずがにこの状態で練習に戻るわけにはいかないのだ。
太郎がレギュラーメンバーを初めに連れて行った場所・・・それは、ランジェリーショッ
プだ。全くない程度のものだったら、必要ないのだが、誰もがそれを必要とするくらいの
大きさになってしまっている。それもあの短ーいワイシャツの制服。あの格好をノーブラ
で、いろいろ歩き回るのは犯罪に近いだろう。
「監督、ホントにこんな店入るんですか?」
「しょうがないだろう。そのままの格好で歩き回るのはやはりよくない。」
『はぁー・・・。』
こんな店入りたくねぇよと跡部達レギュラー陣は大きな溜め息をつく。だが、こうなって
しまったらしょうがない。全員思いきってその店に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませー。」
「すまないが、私とこの子達のサイズを測ってやって欲しい。それにあったものが欲しい
のだが。」
「はい。分かりました。少々お待ち下さい。」
店員はメジャーを取りに行った。笑顔で対応しているが、おかしいと思わないはずがない。
それも見た感じ全員がスタイル抜群で身長も高い。しかも、顔もいいときた。パッと見、
どう見てもモデルの集団だ。10人もの人数を測らなくてはいけないので、何人かの店員
が店の奥からやって来た。
「じゃあ、その髪の長い子と金髪の子は私のところに来て。」
『はい。』
跡部と宍戸は髪1つに束ねた店員に測ってもらうことになった。
「つーか、お前何で髪長ぇんだよ?確か、短かったはずだよな」
「あっ、ホントだ!!うわあ、ありえねぇ。」
宍戸は切る前の髪の長さになっていることに今更ながら気づく。それも結んでいないので、
本当に女の子らしくなっているのだ。そんな二人を全く気にせず店員は二人のバストサイ
ズを測る。
「あなたはCの75ね。」
「Cの75?」
「あなたこんなに大きいのによくつけてなくて平気ね。Fの75よ。」
「Fの75?」
実際は男なのでサイズを言われても全く分からない。二人が困った顔をしているので、そ
の店員はいくつかのブラを持って来てくれた。
「あなたはこの中から選んで。あなたはこの中から。」
宍戸にと持って来てくれたのは、花柄、ハート柄、イチゴ柄でかなり可愛い感じのものだ。
それとは対照的に跡部のは、豹柄に薔薇柄、レースのついたヒラヒラのものとどう考えて
もセクシー系なものばかり。
「宍戸、お前イチゴにしろよ。絶対似合うって。」
「そうか?じゃあ、それにするか。つーか、お前のどれもエロい感じのばっかだな。」
そう言われて跡部は嫌そうな顔をした。
「これ以外ないんですか?」
「ゴメンナサイね。あなたのサイズじゃこんなのしかないの。」
「それならしょうがない。じゃあ、これにするか。」
結局跡部が選んだのはレースのものだ。これと同時に他のメンバーも測ってもらいそれぞ
れ自分の気にいったものを選んだ。
「あなたはBの70で、あなたはCの75ね。」
岳人はピンクのシンプルなデザインのものを、忍足は薄い緑色のワンポイントで花の模様
が付いたものを選んだ。
「あなたはDの70。あなたはEの75よ。」
滝はブルーの花柄のものを、鳳は白に葉っぱの模様が入っているものを選んだ。
「君はCの70で、君は・・・かなり大きいわね。何cmくらい身長あるの?」
「樺地は190cmだよ。」
「190cm!?すごいわね。スタイルもいいし、モデルさんみたい。あっ、君のサイズ
はGの80ね。ここにはあんまりいいのないから、今奥から持ってくるわ。」
ジローはオレンジの水玉模様とすぐに決まったのだが、樺地のはサイズからしてあまり多
く置いていないらしい。
「君はCの75で、あなたはFの75です。」
日吉はベージュの無地なものを、太郎は地が黒で薔薇の模様がついたものを選んだ。こう
して何とか、この問題は解決した。合計でおよそ3万円。太郎は何の躊躇いもなく会計を
済ませ、それぞれのものをちゃんと着けさせる。
「よし、これでおそらく大丈夫だろう。また学校に戻ってもいろいろ問題が生じるかもし
れない。ここで解散だ。あまり目立つような行動はとらないように。」
『はい。』
「それでは、行ってよし!」
というわけで、メンバーはそこで解散してそれぞれ好きなところに行くことになった。
「宍戸、これからどこか行くか?」
「そうだな・・・あんまりこの格好で歩きたくないような気がするけど、だからって家に
も帰れねぇし。ゲーセンでも行くか。」
「別にいいぜ。じゃあ、行こうぜ。」
跡部と宍戸のペアはゲームセンターに行くことにした。このデパートの近くにあるので、
そこまで移動する。
「やっぱ、今の時間帯は空いてるな。」
「そうだな。あっ、そうだ。跡部プリクラ撮らねぇ?」
「お前好きだよなそういうの。」
「だってさ、最近男同士じゃ入れなくなっちまったじゃん。でも、今なら堂々と入れるぜ。
なあ、撮ろうぜ跡部。」
「確かに最近こういうのは女専用になってんだよな。ま、後々見ておもしろそうだから撮
っておくか。」
女になったところで急に口調は変えられないらしく、そのままの口調でしゃべっている。
だが、声質的にはちゃんと女の子になっているので問題はない。プリクラコーナーに入る
と跡部はあるものを発見する。
「なあ、宍戸。」
「何だよ?」
「どうせ撮るんだったらこういうふうに撮らねぇ?」
跡部が指差したのはコスプリの写真だった。宍戸は一瞬どうしようか迷ったが、こんなこ
とが出来るのは女になっている今だけなので、跡部の誘いにのった。
「お前、ウェイトレスとか似合いそうだな。」
「跡部はやっぱ、学校の制服系じゃねぇ?」
受付の服の写真を見ながら、どれにするか選ぶ。結局、宍戸はウェイトレスで跡部はセー
ラー服ということになった。更衣室で着替えて、1つの機械の中に入る。
「この制服、キツイな。」
「いや、跡部それ単にお前が胸デカすぎなだけだと思うぞ。」
「まあ、いいや。さっさと撮ろうぜ。」
跡部は機械に百円玉を投入して、設定を適当に決めた。やはり基本は全身とアップどちら
も撮るというものだろう。
「跡部、ポーズはどうすんだ?」
「まあ、初めは普通でいいんじゃねぇ。」
普通と言ってもこの二人のこと。宍戸が跡部の右肩に両手を乗せ、跡部は宍戸の腰を抱く。
パシャッとシャッター音が鳴って、一枚目の写真が撮り終わった。次はアップだ。
「次はアップだけど、どうする?」
「そりゃ、決まってんだろ。」
「へっ?」
跡部は宍戸の体を抱いて、唇にチュッとキスをした。その瞬間、2回めのシャッター音が
鳴る。
パシャッ
「って、おい跡部!!」
「何だよ?」
「何だよじゃねーよ。何でキスなんか・・・」
「いいじゃねーか。俺ららしいだろ?」
跡部は本当に嬉しそうに笑う。いつもとは違う女の子チックな表情に宍戸はドキドキだっ
た。しばらくすると、プリントされたプリクラが出てくる。
「うっわあ、すっげぇ百合っぽい。」
「へぇ、おもしれぇなこれ。マジで別人だぜ。でも、お前はあんまり変わんねぇな。」
「そ、そんなことねぇよ。」
要するに宍戸はもとから女みたいだよなと言われているようで、宍戸はムッとした表情で
反論した。だが、跡部はさっきからずっと笑顔で何かが楽しくて仕方がないらしい。
「じゃあ、さっさと着替えて他のトコ行こうぜ。」
「ああ。」
二人は他の場所へ移動しようと、プリクラの機械を出て着替えをしに更衣室へ戻って行っ
た。
「樺地ー。俺ね行きたいところがあるの。だから、一緒に行こ?」
「ウス。」
ジローは樺地を連れて、とある店に向かった。跡部が宍戸と他の場所へ行ってしまったの
で自分はもう何もしなくてもいいと思い、真っすぐ帰ろうと思ったのだが、ジローに誘わ
れ樺地は寄り道をすることになった。ジローが樺地を連れて来た場所。それは、通りの中
ほどにある小さなケーキ屋さんだった。
「ここね、ケーキがおいしいってすっごく評判なんだ。でも、見たところどう見ても女の
子向けのお店でしょ。だから、一人で入るの恥ずかしかったんだ。」
「ウス。」
確かに外観もかなりファンシーで、男子が一人で入るにはかなり気が引ける。前々から入
ってみたいと思ってたので、ジローはこれはいい機会だと思って、ここに来たのだ。
チリンチリン♪
「いらっしゃいませ。」
「うわあ、すっごいいっぱいケーキがあるー。どれにしようかなあ?迷っちゃう。」
その店はケーキの種類がとても豊富で、見かけも可愛くキレイなものばかりだった。ジロ
ーは目を輝かせて、ケーキを選ぶのに没頭している。
「コレもおいしそうだし、あー、でもコレもいいなあ。ねぇ、樺地はどれにする?」
「何でも・・・いいです。」
「そう?じゃあ、俺が選んじゃうよ。」
ジローは樺地の分も選ぶことになった。ムース系のものが好きなジローは、1つはチョコ
ムースのケーキにし、それプラスフルーツがたくさん入ったロールケーキを買った。樺地
にはいろいろなベリー系の木の実が乗っているケーキを買ってあげた。
「ジローさん・・・お金・・・。」
「いいよ、いいよ。今日は俺の奢り。あっちに席空いてるから、そこで食べようぜ。」
窓際の席がちょうど二人分空いていたので、そこに座って食べることにした。
「いっただきまーす!!」
ジローはまずチョコムースを口にほおばる。樺地もフォークを使い、しとやかに食べ始め
た。
「おいC〜Vvやっぱ、ここ来てよかった。」
「ウス。」
樺地もだいぶ美味しいと感じているらしく、パクパクとベリーたっぷりのケーキを口に入
れていく。ジローはチョコムースを食べ終え、ロールケーキに手をつける。それと同時に
樺地も食べ終えてしまった。
「これもかなりいける!樺地も一口どう?」
ジローはフォークで一口サイズにケーキを切り、樺地の口の前に差し出した。樺地は素直
にそれを食べる。
「おいしい・・・です・・・」
「でしょー?ここさ、また来ようぜ♪」
「ウス。」
ジローはここのケーキが相当気に入ったらしく、また来ようと樺地を誘った。樺地もここ
のケーキは気に入ったので、即答で頷いた。二人は全く気がついていないが、その時、窓
の外に人だかりが出来ている。樺地もジローも女の子になって、かなり可愛くなっている
上、樺地においては190cmにGカップのナイスバディというモデルばりの状態だ。そ
れもジローはさっきのように平気でフォークで樺地にケーキをあげたりしている。それを
見て、人だかりを作っている人々はキャーやらオオッやら様々な歓声ををあげていた。
「何か外が騒がしいね。どうしたんだろう?」
ふと窓の外を見て、ジローは人だかりが自分達を見ているのだと気づく。ジローはその人
達に笑顔で手を振った。樺地は何の反応もせずにその人だかりに目をやる。
「ねぇ、樺地。少しでいいから笑ってみなよ。そしたらきっとみんな喜ぶと思うぜ。」
ジローに言われた通り、樺地はふっと軽く微笑んで見せた。人垣の男性陣はその笑顔にメ
ロメロだ。
「何か俺達芸能人になったみてぇ。楽しいな樺地♪」
「ウス。」
二人はその状況をかなり楽しんでいるようだった。
滝と鳳は下着を買ったデパートの洋服売り場にいる。普段は行ったことのない女の子の服
が売っている店に入り、気に入ったものはいろいろ試着してみるというようなことをして
遊んでいる。
「長太郎、この服着てみてよ。絶対似合うと思う。」
「そうっスか?じゃあ、ちょっと試着してみようかな。」
滝が鳳に渡したのは、アジアンテイストのブラウスとレースアップパンツだった。
「俺、滝さんにはこれが似合うと思うんですよね。」
逆に鳳が滝に渡した服は、白のチャイナブラウスと紺系のプリントスカートだ。二人はそ
の洋服を持って、1つの試着室に入った。実際は一人ずつ入るべき試着室に二人で入るの
だから、やはり少しキツイが着替えに支障をきたすほどではなかった。
「滝さん、やっぱキレイっスよね。」
「何言ってるの。長太郎だって十分可愛いよ。」
着替えをしながら、二人はお互いに褒めあっている。着替え終わると二人は鞄の中からあ
るものを出した。
「わあ、やっぱ長太郎似合うねー。俺の想像通り。」
「滝さんだって、メチャクチャ似合ってますよ!スタイルいいですよね。」
「じゃあ、これも撮ろうぜ。」
滝と鳳は試着をしては、お互いに写メールで写真と撮りまくっている。滝は鳳を、鳳は滝
を撮った後、二人で顔を寄せ合って自分を撮るような形でシャッターをきる。
「うん。よく撮れてる。」
「何か楽しいっスねこういうのも。」
「そうだね。次どこ行こうか?」
「まだ行ってないとこって言ったら、アクセサリーとか髪飾りのとこっスかね?」
「行ってみようか。髪飾りは結構いいのありそうだもんね。」
ということで二人はアクセサリーや髪飾りが売っている店に行くことにした。そこにはカ
ラフルなゴムやヘアバンド、リボンやウィッグがたくさん並んでいる。
「滝さんこういうゴム似合いますよ。ちょっとつけてみていいっスか?」
「うん。」
鳳は丸いボールのついたゴムを滝の髪に結ぶ。それのお返しと言わんばかりに緑のリボン
を鳳の髪に結んだ。
「滝さん、可愛いですVv」
「長太郎も似合いすぎーVvねぇ、これ買っていこうよ。」
「そうっスね。」
二人はそれぞれの髪につけた髪飾りを買った。だいたい行きたいところは回り終えたので
もうそろそろ帰ることにした。
「侑士ー、これ可愛いと思わねぇ?」
「それもええなあ。でも、こっちも可愛ええと思うんやけど。」
「それ欲しいー!!マジで可愛いんだけど。」
岳人と忍足は普段絶対入れないようなファンシーグッズの店にいる。ぬいぐるみや鞄、キ
ャラクターもののメモ帳や文房具がところせましと置かれている。
「あっ、このメモ帳イイ感じじゃん。なあ、侑士。これおそろいで買わねぇ?」
「ええよ。なあ、岳人このうさぎの耳つけてみ。」
「いいよ♪どう侑士、可愛い?」
「やっぱ、岳人はうさぎさんやな。メッチャ似合っとるで。」
「ホント?うれしー。侑士も何かつけてみろよ。」
「俺はええよ。恥ずかしいもん。」
口調はいつもと変わりないが、雰囲気とやっていることは普通の女の子と変わらない。も
うすっかり馴染んでいるのか、全くその行動に違和感がないのだ。
「何かいろいろ買っちゃったな。」
「せやな。」
「侑士、俺、お腹空いちゃった。何か食べようぜ。」
「えっ、でも俺、もうそんなに金持ってへんよ。」
「そっか。じゃあ、俺ソフトクリーム買うからそれ一緒に食べようぜ。」
「ええんか?」
「うん。もちろん。一緒に食べた方がおいしいもんね。」
「おおきにな。」
岳人は近くの売店でバニラのソフトクリームを買ってきて、忍足と一緒にそれを食べ始め
た。交互に食べたり、いっぺんに食べたりといろいろな食べ方をする。
「冷たくておいしー。」
「ホンマやな。あっ、もうコーンの部分になってしもうた。あとは岳人が全部食べてええ
よ。」
「そう?じゃあ、食べるね。あっ、侑士。」
「何や?」
「ほっぺについてる。」
岳人は何の躊躇いもなしに忍足のほっぺたについているソフトクリームをペロッと舐めた。
忍足はその行動に顔を赤くしてうつむいてしまう。
「侑士、可愛いー。」
「岳人、そういうことはここではやめてーな。」
「何で?いいじゃん減るもんじゃないし。侑士好きー。」
岳人はいつものように忍足にベタベタする。だが、今日は二人とも女の子。いつもはこう
いうことをしていると女の子の視線が集まるのだが、今日は男の子の視線の方が断然多い
のであった。
残された日吉は家に帰ろうと思ったが、この格好で帰れるわけがない。どうしようか考え
ていると太郎が声をかけ、甘味処に行くことになった。
「うまいか、日吉。」
「はい。」
「こんなことになってすまないな。」
「監督の所為じゃないですよ・・・。」
もくもくとあんみつを食べる日吉はどこかやはり不機嫌そうだった。だが、女の子になっ
ているので、そんな姿もまわりの人から見ればとても可愛らしい。
「このあと行きたいところはあるか?」
「特に・・・ないです。」
「そうか。」
どうもこの二人は会話が続かないらしい。だが、日吉は食べ終わるとふぅと溜め息をつい
て、じっと太郎のことを見た。
「どうした日吉?」
「俺、この格好じゃ家に帰れません。監督、何とかしてください。」
「分かった。じゃあ、今日はうちに来るか?」
「いいんですか?」
「まあ、こうなってしまったのは、半分は私の責任だ。教師として責任をとるのは当然の
ことだからな。」
淡々と説明する太郎だが、それを聞いて日吉はかなりほっとしていた。家に帰れないのに
行くところがないというのはとても不安だったのだ。
「じゃあ、行くか。」
「はい・・・。」
日吉は太郎についていくことにした。今日は太郎の家にお泊りだ。
女の子同士のデートを終えると、氷帝メンバーはそれぞれ今日デートした相手のどちらか
の家に帰ることになる。それはもちろんその姿を見て、親のショックが少ない方で跡部と
宍戸の場合は跡部の家で、ジローと樺地の場合はジローの家、滝と鳳の場合は滝の家で、
忍足と岳人の場合は岳人の家だった。それぞれ、夜になりこの後どうするか、明日はどう
するかという話をしている時、薬の効力が切れ、もとに戻ることが出来た。そうなって、
ちょっと残念だなあと思うものもいれば、心からよかったーと思うものもいた。だが、い
ずれの場合にしても、共通して言えることは、女の子になってしまったメンバー全員が今
日は普段は絶対に味わえない楽しい体験が出来たなあと思っているということであった。
END.