ソファでしばらく抱き合っていた二人は、自然の流れで何度か唇を重ねる。唇を重ねなが
ら、跡部は宍戸の髪を縛っている赤いゴムを外した。パラパラと肩に落ちる黒髪は、宍戸
の幼い表情をいくらか大人っぽくさせる。
「ん・・・んぅ・・・」
「亮、そろそろベッド行くか?」
「おう・・・」
跡部のキスですっかりとろけている宍戸は、頬を染め、跡部の言葉に頷く。手を引かれる
ようにベッドに移動すると、そのまま仰向けに押し倒される。
「わっ・・・もうちょっと、優しくしろよな!」
「悪ぃ悪ぃ。ここからはうーんと優しくしてやるよ。」
そう言いながら跡部は宍戸の喉元をくすぐる。普段はくすぐったいとしか感じないのだが、
こういう状況になると猫の血が騒ぐ。
「ん・・にゃ・・・ぁ・・・」
普通の猫が見せるような反応を宍戸は見せる。気持ちよさそうな顔をして、もっとしてく
れと言わんばかりに首を上げる。その顔が跡部はお気に入りだった。確かに猫っぽいのだ
が、猫耳がついている以外は、人間の顔なので、その表情はかなり艶めいている。しばら
く宍戸のそんな表情を楽しむと、跡部は宍戸の着ている上着を脱がせた。
「下は脱がさねぇのか?」
「まずは上からだ。楽しみは後にとっておくもんだろ?」
にっと笑いながらそう言うと、跡部は露わになった宍戸の肌にちゅっちゅと唇をつけ、ま
るでチョコレートでも舐めているかのようにペロペロと舐める。
「あはは、くすぐってぇよ、景吾!」
臍のあたりを舐められ、宍戸はパタパタと手足を動かして、くすぐったがる。臍からだん
だんと上に跡部の接吻が上ってくるにつれて、その感覚はくすぐったさとは少し違う別の
感覚になる。それはとある部分に跡部の唇が触れた時、完璧に別のものとなった。
「ふっ・・あ・・・っ!」
思わず漏れてしまった声に恥ずかしさを感じ、宍戸は掌で口を塞ぐ。
「ここは、くすぐったくねぇのか?」
宍戸が素直に反応してくれるのを見て、跡部は悪戯にその部分を舌で弄る。その何ともい
えない感覚に宍戸は首を振った。
「やっ・・・景吾、そこやだっ・・・」
「何でだよ?」
「だって・・・変な感じするんだもんよ。」
「どんな感じだ?」
「くすぐったいみてぇなんだけど・・・身体がビクンってなっちゃうみたいな・・・変な
感じ。」
「じゃあ、こうしたらどうよ?」
ぷっくりと立ち上がっている赤い突起に跡部はカリっと歯を立てる。ほんの甘噛み程度な
のだが、宍戸の身体はその刺激にビクンと反応した。
「あっ・・・あぁんっ・・・!」
「イイ声出すじゃねぇか。もっと聞かせろ。」
思った以上にいい反応を示す宍戸に、跡部は顔を緩ませる。痛くないほどに歯を立て、ち
ゅっと吸ってやる。そんなことを左右交互に繰り返してやると、宍戸は大きな瞳に溢れん
ばかりの涙を溜め、だんだんと乱れてくる呼吸の合間に跡部の名前を呼ぶ。
「んっ・・・やぁ・・・けーご・・・」
そんなふうに名前を呼ばれ、跡部は胸の奥の何かが沸き立ってくるような感覚を覚える。
身体が熱くなり、もっと宍戸のことを自分の自由にしたくなる。
「何かすげぇ興奮してきたぜ、亮。」
「何で・・・?」
「テメェがいい反応ばっか見せてくるからだよ。」
いったん胸の飾りを弄るのを止め、跡部は顔を上げてそんなことを言う。煌々と妖しく輝
く瞳に見つめられ、宍戸も不思議と跡部と似たような気分になってくる。
「な、なあ、景吾・・・」
「どうした?」
「今のでな・・・下の方が・・・きつくなっちまって・・・」
「へぇ、直接そっちの方に触って欲しいって?」
「・・・おう。」
恥ずかしそうに頷く宍戸の頼みを跡部は早速行動に移してやる。残っていたズボンと下着
も取り去ってしまい、半分くらい勃ち上がっているそれをじっくりと眺めた。
「確かに少し勃ってんな。さっきの気持ちよかったか?」
「うーん、ちょっとだけな。」
「ちょっとか。それならこれからもっともっと気持ちよくさせてやるよ。」
自信たっぷりの口調で跡部は言う。つっと指先でなぞってやれば、それはさらにあからさ
まな反応を見せる。
「やっ・・・あ・・・」
「ちょっと触っただけで、こんなになるのかよ?そんなに触って欲しかったのか?」
「だ、だって・・・」
「でも、その反応は悪くないぜ。もっとちゃんとしてやるから、いったん起き上がれ。そ
の方がやりやすい。」
それに触れながら、宍戸の顔が近くで見たいと跡部は、宍戸を起き上がらせる。ベッドの
背もたれ部分によりかからせ、膝を割り開くように座らせた。自分もその足の間に座り、
すっかり形を変えた宍戸の熱を握る。ほんの少し上下に擦ってやるだけで、宍戸は身体を
小刻みに震わせる。
「あっ・・・あ・・ぁ・・・」
「本当、お前の身体素直だよな。」
「だって・・・景吾に触られんの・・・すげぇ気持ちイイから・・・」
恥ずかしそうにうつむきながら、宍戸はそう漏らす。その言葉がたまらなく嬉しくて、跡
部はより宍戸の感じるように手を動かす。
「うぁっ・・・あ・・あっ・・・んぅ・・・・」
「なあ、うつむいてねぇで顔上げろよ。テメェの感じてる顔、もっとよく見てぇ。」
そんな顔を見せるのは恥ずかしいと思う宍戸だったが、思いきって顔を上げた。すっかり
赤く染まった頬に、涙で潤んだ瞳、熱い吐息を漏らす唇は、先程のキスですっかり濡れて
いる。少し手を動かせば、その表情はさらに色めいたものになる。そんな表情をじっくり
眺めながら、跡部は宍戸に快感を与えることを心から楽しむ。
「ふぁ・・・あっ・・・景吾っ・・・あっ・・・」
「今のお前の顔、最高だぜ。すげぇそそられる。」
ニヤリと笑いながら、跡部は目を開けたまま口づけをし、下から上へ中の熱を絞り出すか
のようにそれを擦ってやる。
「んぅっ・・・!んん――・・・っ!!」
そんな刺激に耐えきれず、宍戸は跡部の掌に熱い精を放った。最後の一滴まで絞り出され
るように何度か擦られ、宍戸はしばらく身体の震えを止められないでいた。
「ハァ・・・ぁ・・・あっ・・・」
「たくさん出たな。熱いぜ、お前のミルク。」
唇を離すと跡部は見せつけるかのように、宍戸に自分の手を差し出してみせる。自分の放
ったものを見て、宍戸は言いようもない興奮を覚える。
「俺も景吾のしたい。」
ふと口から出た言葉。それはもうほとんど無意識に出た言葉だった。
「いいぜ。どっちでしてくれるんだ?」
「どっちって?」
「手か口か。俺はどっちでもいいけどよ。」
「口・・・かな?俺、景吾みたいに手でやるのそんなにうまくねぇし。」
どっちでもいいと言った跡部だが、本当は口でして欲しいと思っていた。宍戸は部分部分
で猫の部分があるが、舌もその一つなのだ。人間の舌とは違うざらざらとした表面の舌で
舐められるのは、宍戸でしか味わえない感覚だ。それが今から味わえる。跡部は期待に胸
を躍らせ、宍戸の頭を撫でる。
「それじゃあ、口で俺のこと気持ちよくさせろ。出来るよな?」
「うーん、たぶん。」
「たぶんじゃねぇよ。ちゃんと出来るって言え。」
「だって、そんなに自信ねぇもん。でも、俺なりに頑張ってするからな。」
頑張ってするとはなかなか可愛いことを言ってくれるものだと、跡部の顔は思わずニヤけ
る。
「じゃあ、するぜ、景吾。」
「ああ。」
ドキドキと胸を高鳴らせながら、宍戸は跡部の脚の間に顔を埋める。ベルトを外し、チャ
ックを下ろすと、既に昂ぶっている熱が顔を見せた。
「すげぇ・・・」
自分のように触られたりはしていないはずなのに、どうしてこんなふうになっているんだ
ろうと不思議に思いながら、宍戸はおずおずとそれを舐める。ざりっとした感覚に跡部は、
小さく声を漏らした。
「くっ・・・」
そんな小さな声も宍戸の耳にはしっかり入り、ちゃんと跡部が感じてくれているのだとい
うことを確認させる。それが分かると宍戸は、自分が入れられるギリギリのところまで深
く、熱くなっているそれを口に含んだ。
「ぁ・・・んむ・・・」
しばらく咥えたまま、ゆっくり口を動かしたり、舌を動かしたりして、跡部の様子をうか
がう。端からそんなふうに刺激され、跡部は熱い吐息を漏らす。
「ハァ・・・やるじゃねぇの。」
「んっ・・・んぅ・・・」
「夢中になって咥えて、そんなに美味いのか?」
「ぷはっ・・・んー、結構俺は美味いと思うけど。少なくとも不味くはねぇよ?」
「マジかよ?」
冗談で言った言葉に対してそんなふうに返され、跡部は苦笑する。確かに人間と猫では味
覚が違うが、美味いと言われるとは思っていなかった。
「俺ばっか気持ちよくなるのは不公平だからな。テメェも気持ちよくさせてやるよ。」
そう言いながら、跡部は宍戸の双丘に手を伸ばす。そして、まだ今日は一度も触れていな
い蕾に指を入れてやった。
「ひゃっ・・・!」
その感覚に宍戸は思わず跡部のそれから口を離してしまう。
「どうした?ちゃんと最後までしてくれよ。」
「で、でも・・・あっ・・・ん・・・」
「続けねぇと、指抜いちまうぜ。」
「んっ・・・んぅ・・・ん・・・」
蕾を弄られ、何も考えられなくなりながらも宍戸は跡部のモノを必死で咥える。
「いいぜ、もっと下の方から上の方まで丁寧に舐めろ。」
「はぁ・・・あ・・・んぅ・・・」
言われた通りに宍戸は舌を動かし、跡部の茎を丁寧に丁寧に舐めてゆく。自分が感じれば
その分を宍戸に返してやろうと、跡部は蕾を弄っている指の動きを激しくしてやる。
「んぅっ・・・ん・・・んぁっ・・・」
「ハァ・・・亮、そこで吸え。思いきりな。」
「んっ・・・んんっ・・・!」
「くっ・・・!」
そろそろ限界だということを感じ、跡部は宍戸にそんな指示を出す。宍戸は何を考えるこ
ともなくその指示に従った。その瞬間、口の中にたくさんの熱いミルクが放たれる。反射
的に口を離しそうになったが、宍戸はそれを堪えた。
「んっ・・・んん――っ!」
跡部が達すると同時に、内側の一番感じるところを擦られ、宍戸は熱を飲み込みながら自
分も達してしまう。上も下もとろとろになり、宍戸は全身が痺れるような感覚に恍惚とな
る。
「ハァ・・・ハァ・・・」
「飲み込みながらイクなんて、やらしい奴だな。」
「るせー・・・気持ちよかったんだから、仕方ねぇだろ!」
「俺もすげぇよかったぜ。でも、まだ、これがおさまらねぇんだよな。今度は下の方の口
で気持ちよくさせてくれねぇか?」
率直な跡部の言葉に宍戸は少々戸惑う。しかし、下の蕾ももうすっかり慣らされている。
別に断る理由など一つもない。
「痛くすんなよ。」
「分かってる。ほら、来いよ。」
邪魔なズボンを脱ぎ捨ててしまい、跡部は宍戸を自分の膝の上へと招く。多少の羞恥心を
感じながらも、宍戸は跡部の足を跨ぎ、腰を浮かせたまま跡部の首に腕を回した。
「このまま挿れてもいいか?」
「おう。」
「じゃあ、ゆっくり腰を落とせ。挿れるとこまではテメェのペースに合わせてやるよ。」
なかなか難しいこと言ってくるなあと思いつつ、宍戸はゆっくりと腰を落とし、跡部のモ
ノを自分の内側へと収めてゆく。指とは比べ物にならない程の質量に多少の苦しさを感じ
ながらも、ゆっくりゆっくりそれを奥へと挿れていった。
「くっ・・・んぅ・・・ん・・ぁ・・・」
「ふぅ・・・全部入ったな。どうよ?まだ苦しいか?」
「ハァ・・・ん・・・へーき・・・」
「それじゃあ、少し動くぜ。」
もっとよくしてやろうと跡部が少し動くと、宍戸はビクンっと身体をしならせる。
「あっ・・・にゃっ・・・」
「猫の言葉が出ちまうくらいいいのか?」
「そ、そこ・・・気持ちいいっ・・・」
「どこだよ?ここか?それともここか?」
宍戸の弱い部分は全て知り尽くしているので、そこを擦るかのように跡部は腰を動かす。
弱い部分ばかりをピンポイントで擦られ、宍戸はたまらず、跡部の背中を引っかいてしま
う。
「ひっ・・・あっ・・・にゃぁ・・・っ!」
「痛っ、相当いいみてぇだな。自分でも腰動かしてみろよ。もっとよくなるはずだぜ。」
跡部の動きに合わせ、宍戸も自ら腰を揺らす。そんなふうにして快感は相乗効果で高まっ
てゆく。
「ふ・・・ぁ・・・あ・・・あっ・・・!」
「いい感じに締めつけてくれるじゃねぇか。すげぇイイぜ。」
「景吾っ・・・はぁ・・・もっとぉ・・・」
「アーン?もっと何だよ?」
「もっと・・・してぇ・・・」
快感の波にのまれながら、宍戸は濡れた声で跡部にねだる。そんなふうにねだられては、
跡部も何もしないわけにはいかない。蜜を溢している前を軽く握り、先程していたように
上下に擦ってやる。同じようにしているのだが、さっきとは比べ物にならないほど濡れて
いるので、擦る度にくちゅくちゅとやらしげな音が響く。
「にゃ・・・あぁん・・・」
「くっ・・・こっちを弄ると後ろにも響くって感じだな。でも、悪くないぜ。」
前も後ろも弄られれば、そう長くはもたない。ふとしたはずみに、跡部の茎が感じる部分
に当たった瞬間、宍戸は達してしまった。
「あっ・・・ああ――っ!」
思ってもみないところで限界を迎えられ、跡部も思いがけずに達してしまった。
「く・・・ぅ・・・」
不本意ではあったが、それがまた非常に気持ちよく、跡部は満足気な吐息を漏らした。
「ハァ・・・お前、今のは少しいきなりすぎるだろ。」
「だって・・・景吾のが、すっげぇイイとこに当たるんだもん。仕方ねぇじゃんか。」
「まあ、こっちもよかったからいいけどな。それじゃ、抜くぜ。」
宍戸も自分も出すだけ出したということで、跡部は内側に埋め込まれている楔を抜こうと
する。
「やだっ!まだ抜くな、景吾っ!」
「は?だって、もうテメェもイッたし、俺もイッたんだから終わりだろ?」
「もっと景吾と繋がっててぇんだよ。なあ、もっかい気持ちよくさせてくれよ。俺まだ終
わりにしたくねぇ・・・」
そんなことを言われれば、中にあるそれも元気を取り戻してしまう。
「ちっ、仕方ねぇなあ。」
舌打ちをしつつも、顔は緩みまくりだ。体位を変えるのも面倒なので、再び前に触れなが
ら、跡部は宍戸の身体を揺らし始める。
「ふっ・・・んにゃっ・・・あ・・・」
「もう一回してやるんだから、テメェも俺様に何かしろよな。」
「な、何かって・・・?」
「そうだな・・・リップサービスでもしてくれりゃ、俺的にはかなり嬉しいんだけどよ。」
「リップ・・・サービス・・・?何だよそれ?」
「気持ちイイとか好きだとか、まあ、とにかく俺が聞いてていい気分になれることを言え
ばいいんだよ。」
「そんなことでいいのか・・・?」
そんなことだったら、いくらでも出来ると言うような様子で、宍戸は跡部の耳元に唇を近
づける。そうされるだけでも、跡部の鼓動はドクンと速くなった。
「はぁ・・・景吾、激気持ちイイ・・・」
吐息混じりの言葉に跡部の身体は電気を流されたかのように痺れる。
「もっと・・・俺ん中ぐちゃぐちゃにして・・・景吾でいっぱいにしてくれよ・・・」
「亮・・・」
「んっ・・は・・・景吾・・・」
宍戸の紡ぎ出す言葉全てが跡部にとっては、強力な媚薬となった。名前を呼ばれるだけで、
たまらなく気持ちよくなる。そんな宍戸の言葉に応えるかのように、跡部も跡部で与えら
れるだけの快楽を宍戸に与えてやる。もちろんテクニックで気持ちよくさせるだけではな
く、どの動作にもありったけの想いを込める。それが伝わるかどうかは分からないが、跡
部はそんな気持ちで宍戸を抱いた。
「なあ・・・けーご・・・」
「どうした・・・?」
「景吾にこういうことされてるとな・・・身体的にはドキドキして、気持ちよくなって、
すっげぇ熱いって感じなんだけどな・・・」
「ああ。」
「心の中はな、熱いっつーよりもあったかくなるんだぜ。それで、景吾を好きだって気持
ちでいっぱいになって、こういうこと出来るってことが、すげぇ嬉しいって感じるんだ。」
呼吸を乱しながらも宍戸は笑いながらそんなことを言う。リップサービスのために便宜的
に言う言葉ではなく、心からの気持ち。その言葉を聞いて、自分の想いは宍戸にちゃんと
届いているのだということを、跡部は確信する。
「俺もテメェとこういうこと出来るのは、すげぇ嬉しいって感じるぜ。」
「本当か?」
「ああ。だって、俺はテメェのこと・・・」
ここまで言って、跡部は次に続ける言葉をどうしようか迷った。『愛してる』と『大好き
だ』どちらの方が気持ちが伝わるか、それが分からなかったのだ。しかし、宍戸の顔を見
ていたらどちらにしたらよいのかが何となく分かった。
『大好きだから。』
跡部がそう口に出したと同時に宍戸の声が重なる。ピッタリと重なったことが嬉しくて、
宍戸はニッと笑った。
「俺もそう思ってるぜ、景吾」
「俺達、ホーント相性ピッタリみてぇだな。」
「当然だろ?なあ、もっともっと一緒に気持ちよくなろうぜ。俺、早くお前と一緒にイキ
たい。」
「そうだな。一緒にイこうぜ、亮・・・」
お互いの想いを確かめ合い、二人は再び快楽の海に飛び込んでゆく。一緒に果てるその瞬
間、どちらも自分自身の全てが満たされるのを感じる。それはこの二人にとって、他の誰
でもなく、今自分の腕の中にいる相手のみが与えてくれる唯一無二の幸せという名のぬく
もりなのだ。
一通りの後始末を終えると二人は、汚れた体を洗いにシャワーを浴びに行き、さっぱりと
したところで、再び布団にもぐりこむ。枕を並べ、同じ布団に寝転がると跡部は宍戸をぎ
ゅっと自分の腕の中へと抱き寄せた。
「景吾の体、あったけぇな。」
「風呂入ってきたばっかだからな。テメェの体だってあったかいぜ。」
お互いの体のぬくもりを感じながら、二人はくすくす笑う。チョコレートのような甘い雰
囲気が二人の周りを覆っている。
「俺さ、バレンタインデーなんて初めて経験したけど、すっげぇ楽しいイベントなんだな。」
「楽しかったのか?」
「おう!景吾にケーキ作って喜んでもらえたし、テニスも出来たし、施設の子ども達とも
遊べたし、さっきみたいな気持ちいいことも出来たし、最高の一日だったぜ!」
嬉しそうにそう話す宍戸を見て、跡部はふっと微笑んだ。自分が宍戸に味わわせてやりた
いと思っていたバレンタイン・デーをちゃんと味わわせてやることが出来た。そんな満足
感と安心感が、跡部を微笑ませたのだ。
「そりゃよかったな。俺としても、今日は最高の一日だったと思うぜ。テメェが来る前は、
バレンタインデーはチョコがたくさん届くだけで、それほど楽しいって感じるようなもん
じゃなかったからな。」
「ふーん、そっか。じゃあ、今年は俺にとっても景吾にとっても、いいバレンタインデー
になったってことだな。」
「そうなるな。まだバレンタインデーは終わってねぇけど、やり残したこととか俺にして
欲しいってことはもうねぇか?」
まだ日付が変わっていないことを確かめ、跡部は宍戸にそんなことを尋ねる。少し考えて、
宍戸は少し恥ずかしそうに答えた。
「俺がやり残したことは別にねぇけど、景吾にして欲しいことはある。」
「何だよ?今出来ることなら何でもしてやるぜ。」
「えっとな・・・俺が寝るまでな、ぎゅうって抱き締めて、頭撫でて欲しい。ガキみてぇ
なお願いで悪いんだけどよ。」
「いや、俺は全然構わねぇぜ。他にはねぇのか?」
「じゃ、じゃあ、えっと・・・キス・・・してくれねぇ?」
「いいぜ。唇にするのでいいんだよな?」
「お、おう。」
眠るまでキスは出来ないので、まず何度か唇にキスをしてやる。軽く唇を重ねるだけの甘
く優しいキス。それが宍戸にはひどく心地がよかった。その後で、跡部は宍戸の体をぎゅ
っと抱き締め、猫耳のあたりから絹のような黒髪の感触を確かめるかのように、頭を撫で
てやる。
「景吾。」
「どうした?」
「来年のバレンタインデーもよ、こんなふうにすごそうぜ。」
「ああ。」
跡部が頷くのを聞くと、宍戸はにっこり笑い、跡部の肩に顔を埋めて目をつぶる。しばら
くすると、小さな寝息が聞こえてくる。
「もう寝ちまいやがった。まあ、今日はマジでいろんなことしたからな。仕方ねぇか。」
もう少し宍戸と話していたいとも思ったが、寝顔を眺めるのも悪くはない。
「本当、眠ってるとガキみてぇだな。・・・来年のバレンタインデーもこんなふうにすご
そう・・・か。楽しみじゃねぇの。」
宍戸がさっき言った言葉を繰り返し、跡部はくすっと笑う。宍戸が来たことで、今までは
何とも思っていなかった日が、楽しみになってゆく。そんな日が増えてゆく度に、跡部は
宍戸のことをより好きになってゆく。
「ハッピー・バレンタイン、亮。」
今まで言ったことのなかった言葉が自然と口から出てくる。それは今の雰囲気にピッタリ
の言葉であった。
「さてと、俺もそろそろ寝るか。」
大きなあくびを一つして、跡部はそう呟く。寝る前にもう一度宍戸の寝顔をしっかりと見
ておこうと視線を宍戸の顔に移した。そんな宍戸を見て、無性にあの言葉が言いたくなり、
真っ黒な猫耳に唇を近づけ、小さな声で囁く。
「大好きだぜ、亮。」
宍戸は完全に夢の中なので、言葉で返すことはなかったが、背中に回されていた手が、ぎ
ゅっと服を掴んだ。それだけで跡部はもう大満足であった。もう一度だけ軽く唇にキスを
し、ゆっくりと目を閉じる。宍戸のぬくもりを全身で感じながら、跡部は甘い甘い夢の中
へと落ちてゆくのであった。
END.