一方、部屋を出て行った滝達は他の部屋にこもって宍戸にとあることをしていた。服をも
っと可愛らしいものに着替えさせ、まるでプレゼントのラッピングをするかのようにリボ
ンを巻く。酔っ払っているためにそれほど大きな抵抗はせず、宍戸はされるがままだ。
「よっし、出来た。」
「ホンマにプレゼントって感じやな。」
「宍戸、跡部のところに行ったら、ぎゅうって抱きついて『俺がプレゼント。返品はなし
だぜ♪』って言うんだぜ。分かったか?」
「俺がプレゼント・・・?」
「そう。それが一番跡部の喜ぶプレゼントだと思うよ。」
「景吾・・・喜ぶ?」
「おう。絶対喜ぶって。ほら、行くぞ宍戸。」
「おう!!」
跡部が喜んでくれると聞いて、宍戸の顔は笑顔になった。短いズボンにぶかぶかの上着。
その上に緑と赤のリボンが巻かれ、頭にも可愛らしくリボンが結ばれている。そんな格好
でパタパタと駆けながら、宍戸はさっきの部屋に戻っていった。
「跡部、どんな顔するやろな?」
「きっと、驚いて声も出ないぜ。」
「とにかく俺達も戻ろう。」
宍戸を追いかけるようにして三人もパーティーをしていた部屋に戻ってゆく。
バタンと宍戸がドアを開けるとその音に反応し、そこにいた全員がドアの方を見る。宍戸
は迷わず跡部のもとへ駆けて行った。思ってもみない宍戸の格好に跡部は呆然とする。そ
んな跡部に宍戸は思いきり抱きついた。
「景吾ー、クリスマスプレゼントー!!」
「はあ!?」
「俺がプレゼント。返品はなしだぜ♪」
さっき岳人に言われた通りの言葉は宍戸は満面の笑みを浮かべて言う。そんなことを突然
言われ跡部はたじたじ。まさか自らをプレゼントと言うとは思ってもみなかった。いや、
そうだったらいいとは思ってはいたのだが、本当にそうなるとは考えなかったのだ。
「お前・・・自分がプレゼントって・・・」
「俺がプレゼントだから、俺は景吾のもんだ。どうだ、嬉しいか?」
キラキラとした瞳で宍戸は跡部に尋ねる。酔っ払っているとは言えどもここまで言われた
ら嬉しくないわけがない。跡部は思わずぎゅうっと抱きしめ返し、軽く接吻をして答えた。
「嬉しくないわけねーだろ。」
「本当か!?」
「ああ。」
滝達の仕組んだことと分かっていても嬉しいものは嬉しい。跡部はかなり悦に入った表情
で宍戸の姿を眺める。それとほぼ同じくして、滝や岳人、忍足が戻って来た。滝の姿を見
つけると鳳はすぐにそこまで駆けてゆく。
「滝さん、何で俺のことおいてっちゃうんですかぁ?」
潤む瞳で見つめられてそんなことを言われれば、謝らないわけにはいかない。
「ゴメンね、長太郎。って、長太郎、その顔どうしたの!?」
「顔ですか?」
謝る滝だったが、鳳の顔を見てその異変に気づいてしまった。しかし、鳳は何のことがか
さっぱり分かっていない。首を傾げながら自分の顔をペタペタ触る。すると手についてい
たはちみつがべたべたすることに気づいて、その不快感を滝に訴えた。
「滝さん、手がべたべたですよ〜。」
「えっ!?な、何で〜!?」
「鳳、俺らがいない間に何したん?」
「何でしたっけー?忘れちゃいました。」
酔っているためにケーキを食べたこともはちみつを食べたことも覚えていない。それを聞
いて滝はさらにパニック状態に陥る。跡部の思惑通り、どうやらそういうふうなことに解
釈してしまったらしい。
「あ、跡部っ、長太郎に何したの!?」
「別に何にもしてねぇぜ。なあ、樺地?」
「ウス。」
「じゃあ、ジロー!?」
「跡部じゃないんだから、そんなことするわけねーだろ。」
「じゃあ、何で〜!?」
とにかくそこに残っていたメンバーに問いつめまくる滝だが、その傍らで岳人があること
に気づく。鳳の手や顔から甘い匂いがするのだ。
「なあ、滝。」
「何、岳人!?」
「鳳の手のべたべた、はちみつじゃねーの?あと顔のはケーキのクリーム。」
「ホントに?」
岳人に言われ、滝は鳳の手を取り舐めてみる。確かにそれははちみつだった。
「ひゃっ!!いきなり何するんですか〜。」
「本当だ。はちみつの味する。」
「何考えたんだ滝?やらしい奴だな。」
「ち、違っ!!」
ニヤニヤと笑いながら跡部は滝を見る。滝は真っ赤になって否定しようとするが、あそこ
まで慌ててしまってはもう遅い。いたずらに大成功と跡部、ジロー、樺地は楽しそうに笑
っていた。その場にいるのが恥ずかしくて滝は鳳を連れて、部屋を出て行こうとする。
「ちょ、長太郎、べたべた落とさなくちゃ。跡部、お風呂借りるよ。」
「ああ、滝、これお前らの部屋の鍵だ。一応、持ってとけ。」
「あ、うん。ありがと。行くよ、長太郎。」
「はい。」
さっきまで放って置かれていたため、鳳は嬉しそうに滝の手を握った。多少べたべた感が
気になるが、はちみつと分かるとそれほど嫌ではない。この二人は部屋を出て行くとその
まま今日泊まる部屋に行くようだ。その証拠に跡部が投げた鍵を受け取ると滝は残ってい
るメンバーに軽く手を振る。
「滝と鳳はもうそのまま直接部屋に行くみたいだな。」
「景吾ー、俺も部屋行きたい。」
「別にいいが、もう飲んだり食ったりしなくていいのか?」
「おう。景吾と二人がいいー。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。樺地、俺らは先に部屋に戻るけどいいよな?」
「ウス。」
宍戸が部屋に戻りたいというので、跡部も部屋を出ることにした。この部屋の管理は全て
樺地に任せる。残された四人はどうしようかと顔を見合わせ、ひとまず座ろうかというこ
とでイスに座った。
「それにしてもあいつらホンットおもしいよな!」
「跡部も滝もあの二人にぞっこんやからなぁ。からかい甲斐があるわ。」
「でも、岳人達だってあいつらと同じくらいラブラブなんじゃないの?」
「まあな。俺、侑士のために今日はすっごいプレゼント用意してきたんだぜ。」
「えっ、そうなん?俺、何にも用意してへんで。」
「侑士はあれでいいよ。さっきの宍戸みたいに、俺がプレゼントってやってくれれば問題
なし!」
「そ、そないに恥ずかしいこと出来へん。」
「せっかくのクリスマスなんだから、それくらいしてくれてもいいじゃん。」
「でも・・・・」
「あはは、本当にお前らもバカップルだな。ここでそういうの見せてくれててもおもしろ
いけどさ、そろそろ二人きりになりたいんじゃない?」
珍しくジローは気をつかってそんなことを言う。この珍しさがある意味酔っ払っていると
いうことを表しているのかもしれない。
「せやなあ。跡部や滝ももう行ってまったし・・・」
「お腹いっぱいだしな。俺達も部屋行くわ。鍵とかあんのか?」
「ああ。はい。」
机の上にもとから置いてあった鍵を取るとジローは岳人に手渡した。この屋敷はそれぞれ
の部屋に専用の鍵がついている。その鍵を受け取ることで、自由に出入りしてもよいとい
うことになり、その部屋を好きなように使うことが出来るのだ。
「よし、じゃあ行くか侑士。」
「せやな。ジロー、樺地、また明日な。」
「ああ。せっかくのクリスマスなんだし、ちゃんと楽しもうぜ。」
「そうだな。じゃあな。」
「バイバイ。」
ニコニコしながらお互いに手を振ると岳人と忍足は部屋を出て、ジローと樺地はその場に
残った。一番最後の最後までこの部屋に残された二人は軽くテーブルの上を片付けた後、
さっきのように隣合わせでイスに腰かける。ジローが岳人と忍足に早く部屋に行った方が
いいのではないかと促したのは、樺地と二人きりになるためでもあったのだ。
「なんか一気に静かになったって感じだねー。」
「ウス。」
「樺地、今日はこんないっぱいご馳走作ってくれてサンキューな!」
「ウス。」
樺地のご馳走に関してお礼を言ったのはジローだけだ。やはりジローは自分のことを認め
てくれているのだなあと樺地は心底感じる。そんな嬉しさを感じながら、樺地はポケット
から何かを取り出す。そして、それをジローの前に差し出した。
「これ・・・クリスマス・プレゼントです・・・」
「マジで!?これ、俺にくれるの!?」
「ウス。」
「うわあ、マジサンキュー!!何が入ってるか楽しみだなー。あとで部屋行ったときに開
けるな。」
「ウス。」
今ここで開けるのもいいが、あとでのお楽しみにとっておこうとジローはプレゼントをそ
の場では開けなかった。素直に喜んでくれたジローを見て、プレゼントを用意してよかっ
たなあと樺地は思う。樺地からプレゼントをもらって嬉しがるジローだったが、さっきか
ら頭の中を占領してしょうがないことがあった。
「あのさ、樺地。」
「ウス。」
「プレゼントもらったついでと言っちゃなんだけど・・・ちょっと血飲ませてくんない?」
久々にお酒を飲んだ所為か、何故だか血が飲みたくてしょうがないのだ。吸血鬼なのだか
ら別にこう思うことは全くおかしくないのだが、これほどまでに飲みたくなるのはあまり
ない。今は本当に我慢出来ないほど体が血を求めていた。
「いい?樺地。」
「ウス。」
ジローの問いかけに樺地はイエスの意味で頷く。樺地の許しを得るとジローはカタンと立
ち上がり樺地の首元へ口を持っていった。鋭い牙が皮膚に触れるとさすがに樺地も緊張す
る。しかし、ジローに血を与えるのはこれが始めてではない。今までに何度もあげている。
「う・・・」
牙が首に突き刺さると樺地は小さくうめく。だが、それほど痛くはないらしい。ジローは
そこから滲み出る血をごくごく飲むのだが、その間、樺地はほとんど表情を変えない。特
に苦痛を感じるということはないようだ。
「ぷはっ・・・サンキュー、樺地。助かった。」
「どういたしまして・・・」
「やっぱ、樺地の血ってうまいよなあ。って、樺地以外の血なんて飲んだことないけど。」
にっと笑いながらジローは言う。その口は樺地の血で赤く染まっていた。そんなジローの
姿を見て、樺地は何となくドキドキしてしまう。首筋の噛み傷が跡部にバレるとやっかい
なので、ジローはその部分に手を当て傷を消した。滝ほどではないが、ジローにもそうい
う力が備わっているのだ。
「大丈夫、樺地?痛くない?」
「ウ、ウス。」
「よかった。跡部にバレたら何言われるか分かんないからねー。まあ、今は宍戸に夢中だ
からたぶん大丈夫だと思うけど。」
「ジローさん・・・」
「何、樺地?」
「あの・・・自分もクリスマス・プレゼントが欲しいです・・・・」
控えめに控えめに樺地はジローにそう伝える。しかし、当然のことながらジローはクリス
マス・プレゼントなど用意していない。
「うーん、ゴメン樺地。俺、プレゼントなんて用意してない。」
「物は・・・要りません・・・・」
「えっ?」
「宍戸さんが跡部さんにされるように・・・頭を撫でててもらったり・・・その・・・・
抱きしめてもらったり・・・されてみたいです。」
かなり恥ずかしいのかその言葉は途切れ途切れになっている。意外だなあと思いつつもそ
れなら十分自分にはしてあげることが出来るとジローは喜んで樺地の前に立った。そして、
愛情をいっぱい込めていいこいいこをし、ぎゅうっと抱きしめてやる。
「・・・・・・。」
「樺地、だーい好きVv」
ぎゅっとしたままジローは心を込めてそう呟く。そこまで言ってもらえるとは思わなかっ
たので、樺地は少し照れるがそれ以上に嬉しくて仕方なかった。跡部や宍戸、滝や鳳など
を見ていると誰もが幸せそうで、いつもうらやましいと思っていた。そんな感じを今、自
分自身が感じている。こんなに嬉しいクリスマス・プレゼントはないと樺地はひたすらそ
の幸福感に浸る。
「ありがとう・・・ございます。」
「こんなことでいいなら、いつでもやってあげるよ。俺的にはもうちょっと進んでもいい
と思うけどね。」
「い、いえ、今はこれで・・・十分です。」
「そっか。さぁてと、俺達も部屋に行こうか。俺、今日はまだ眠くないからもっといろん
なこと話そうな!」
「ウス。」
ここに残るのもいいと思うが、ベッドがないためここでは眠ることが出来ない。ゆっくり
と話すためにはやはり自分の部屋の方がいいだろうとジローは樺地を誘い立ち上がる。も
ちろん樺地は頷いて、ジローについて行くことにした。
クリスマス・イブの夜は更けてゆく。長い長いクリスマスの夜はこれから始まるのだ。
END.