Destiny

デジタルワールドに平和が訪れてからもうだいぶ時が経った。そんなデジタルワールドに
も新しい年が訪れようとしている。そんな時、ふとしたことからある事件が起こる。
「レオモン、今日はどこに行くんだ?」
「そうだな・・・久しぶりに始まりの町にでも行ってみるか。」
「始まりの町かぁ。本当久しぶりだな。」
最近はサーバ大陸や他の場所に行くことが多く、ムゲンマウンテンのすぐ近くにある始ま
りの町には久しく足を運んでいなかった。
「そういえば、今年もそろそろ終わりだな。何か本当あっという間だったよなー。」
「そうだな。」
「でも、俺としては今年はなかなか良い年だったと思うぜ。」
ほんの少し照れたような顔で、オーガモンはそんなことを言う。
「何故だ?」
「そりゃ・・・アレだよ、ほら。・・・・レオモンに、また、会えたからよ。」
「私も再びお前に出会えてよかった。約束も守れたしな。」
穏やかに微笑みながら、そう返してくれるレオモンに、オーガモンは嬉しさと恥ずかしさ
で胸が高鳴る。
「きっと俺とお前が出会って戦うってのは運命なんだ。だから、たとえ一回どっちかが消
えちまったとしても、また出会えるんだぜ。」
「お前が運命なんて言葉を使うなんて、少し意外だな。」
「ひでぇな。別にいいだろ。そう思うんだからよ。」
「まあ、それがもし本当に運命だとするならば、とてもいい運命だな。」
レオモンの言葉にオーガモンはきゅんとしてしまう。自分の言ったことをいい運命だと言
ってくれたことが嬉しかった。何だかとてもいい気分だなあと思い、切り立ったムゲンマ
ウンテンの道を歩いていると、オーガモンの目にあるものが留まる。
「おい、レオモン。あれ見ろよ。」
オーガモンが指差す先には、すっかり熟した美味しそうな木の実がたくさんなっていた。
「ああ、美味そうな木の実だな。だが、あれを採るのは少し無理があるんじゃないか?」
その木の実は、崖の少し出っ張っている部分に生えた木になっており、それを採るにはか
なりの危険が伴うことが容易に想像が出来た。
「大丈夫だって。」
そんなレオモンの言葉に耳を貸さず、オーガモンはその木の実に手を伸ばす。もう少しで
実のなる枝に手が届くというところで、オーガモンの体はバランスを崩し、崖から落ちる
ことになった。
「うわっ・・・」
「オーガモン!!」
レオモンはとっさにオーガモンに腕を伸ばし、その体を捉える。オーガモンの体を捉えら
れたものの、崖からの落下は避けられなかった。オーガモンを庇うような形で、レオモン
は数メートル下に落下する。
ドサッ
「痛ってー・・・って、何で俺レオモンの上に落ちてんだよ!!」
レオモンがオーガモンを庇ったことにより、オーガモンは掠り傷程度で済んだが、レオモ
ンは頭と足に大きな傷を負ってしまった。
「う・・・くっ・・・・」
「お、おいっ、大丈夫かよ!?」
「ぐっ・・・オーガモン・・・無事だったんだな・・・よかった・・・」
頭からも足からもかなりの出血があり、誰が見ても危険な状態であることは間違いなかっ
た。そんなレオモンを見て、オーガモンの胸は不安で締めつけられる。
「レオモン、何で俺なんか庇ったんだよ!!」
「お前が・・・崖から、落ちるから・・・・う・・ぐ・・・・」
その姿はレオモンが致命傷を負ったあの時のことを思い出させ、オーガモンの目には涙が
浮かぶ。
「嫌だっ!!レオモン、死ぬな!!」
「はは・・・もし、これで私が死んだら・・・これもきっと、運命だな・・・・」
そんなレオモンの言葉にオーガモンは胸が張り裂けそうになる。レオモンが再び消えてし
まうかもしれないという不安から、オーガモンはボロボロと涙を流し、力強くレオモンの
手を握る。
「そんな運命俺は信じねぇ!!そんな運命、俺が絶対に変えてみせる!!」
「オーガモン・・・・」
出血が多いため、レオモンはそのまま気を失ってしまう。オーガモンはレオモンを背負い、
全速力でムゲンマウンテンを駆け下りる。普段ならレオモンを背負ったまま全力で走るこ
となど、オーガモンに到底出来ないことであるが、まさに火事場の馬鹿力。オーガモンは
あっという間にふもとに辿り着いた。
「どうしよう。早くレオモンを手当てしないと・・・・」
オーガモンは自分が今いる場所から、どの町が一番近い町かを考えた。この時、オーガモ
ンの肩は、レオモンの流した血で真っ赤に染まっていた。
「・・・・そうだ、始まりの町。始まりの町へ行こう!」
独り言のように呟き、オーガモンは始まりの町へ向かって走る。自分の大好きなそして大
事なレオモンを助けるため、そして、今直面している運命を変えるために。

「おい!!誰かいるか!!」
オーガモンがそう叫ぶと周りにいた小さなベイビー達が騒ぎ出す。その異変に気づき、エ
レキモンはオーガモンの方を見る。
「オーガモン!!どうしたんだよ、その格好!!肩が真っ赤に・・・あっ!!」
「レオモンが怪我してんだ。何か止血出来そうなものを貸してくれ!!」
「わ、分かった!」
エレキモンはオーガモンに背負われているレオモンが負傷していることに気づいて、慌て
て止血出来そうなものを探した。始まりの町はいろいろなものがたくさんあるので、簡単
にそれは見つかった。
「これでいいか?オーガモン。」
「ああ、サンキュー。レオモン、今、助けてやるから絶対死ぬなよ。」
オーガモンは唇を噛み、泣くのを必死で堪えながらレオモンの傷にエレキモンからもらっ
た布をしっかりと巻き、止血をした。
「エレキモン、この町にきず薬ってあるか?」
「ゴメン。今、ちょうど切らしちゃってて・・・」
「しょうがねぇ。他の奴らにもらいに行くか。エレキモン、すまねぇがレオモンを見てて
くれねぇか。頼む。」
オーガモンの真剣な眼差しにエレキモンは胸が締めつけられる。本当は自分がレオモンの
側にいてやりたいが、この深い傷を治すためには薬を探さなくてはならない。そんなオー
ガモンの気持ちがその眼差しからビリビリと伝わってきた。
「分かった。レオモンは俺にまかせろ。」
「ありがとな。それじゃ、ちょっくら行ってくるぜ。」
オーガモンは走り出し、始まりの町を出て、まずはファクトリアルタウンへと向かった。
「アンドロモン、アンドロモン!」
「どうしたオーガモン?」
かなり緊迫した様子でオーガモンが自分の名前を呼んでくるので、何事かとアンドロモン
はすぐに返事をする。
「お前、きず薬持ってないか?」
「きず薬?すまないが、持っていない。一体どうしたんだ?」
「レオモンが怪我しちまって・・・持ってないならいいや。」
アンドロモンからきず薬を持っていないことを聞くと、オーガモンはファクトリアルタウ
ンを出て走り出す。再び走って向かった先は、もんざえモンのいるおもちゃの町であった。
「ようこそ、おもちゃの町へ。」
事情の知らないもんざえモンは、いつも通りの挨拶でオーガモンを迎える。しかし、オー
ガモンとしてはそれどころではなかった。
「歓迎はいいからよ、お前、きず薬持ってないか?」
「きず薬?持ってないけど・・・」
「そうか、じゃあな。」
もんざえモンも持っていないということを聞き、オーガモンは一瞬顔を曇らせた後、あっ
という間におもちゃの町を後にする。事情を話さずに、その場を離れたため、もんざえモ
ンは頭にハテナを浮かべて、走り去るオーガモンを見送った。
「そうだ、ユキダルモンなら・・・」
おもちゃの町を後にし、オーガモンは走りながら考える。以前自分が風邪をひいたとき、
レオモンはユキダルモンに風邪薬を分けてもらったと話していた。そんなユキダルモンに
一縷の希望を託し、フリーズランドへ向かう。ところが、いくら探してもユキダルモンは
見つからなかった。
「くそっ・・・レオモンを助けたいのに・・・・」
オーガモンの目には今にも溢れそうなほどの涙が溜まっていた。次はどこへ行けばいいの
か、オーガモンは焦る心で必死に考える。他に頼れそうなデジモンは誰かと考えると、メ
ラモンとケンタルモンが頭に浮かんだ。その二匹のうち、どちらの方へ行くか、オーガモ
ンは考える。メラモンはミハラシ山で登るのに時間がかかりそうな上、きず薬を持ってい
る可能性が低そうだ。それなら残りはケンタルモンだと、ケンタルモンに全ての希望をた
くし、フリーズランドからは遥かに離れたダイノ古代境へと向かった。
「ハァ・・ハァ・・・ケンタルモン!いるか!?」
息を切らしたオーガモンにケンタルモンはすぐに気づく。いつもとは明らかに雰囲気の違
うオーガモンにケンタルモンはどうしたのかと尋ねる。
「一体どうしたんだ?オーガモン。」
「お前・・・きず薬持ってないか?」
「持っているが・・・誰か怪我しているのか?」
ケンタルモンに差し出されたきず薬を見て、オーガモンの目から涙が一気に溢れた。
「お、おい、オーガモン!?」
まさかきず薬を渡して泣かれるとは思っていなかったので、ケンタルモンは戸惑う。
「ありがとう、本当ありがとな!ケンタルモン!!」
涙声でそう言いながら、オーガモンはケンタルモンに頭を下げる。ケンタルモンからきず
薬を受け取ると、今度は始まりの町へ向かって走り出した。
「何なんだ?あいつは。」
事情が全く飲み込めないと、ケンタルモンは首を傾げてオーガモンを見送った。

レオモンにきず薬を塗ってから、数時間が経とうとしていた。始まりの町にはレオモンの
怪我を聞いたデジモン達が集まってきていた。
「う・・・ぅ・・・・」
「レオモン!!」
「・・・私は、生きているのか?」
レオモンがやっと目を覚ましたのを見て、オーガモンは嬉し涙を流し、思いきり抱きつい
た。
「よかった、本当よかった・・・マジで心配したんだからな!!」
他のデジモン達もホッとした表情で二人を見守る。
「レオモン、オーガモンに感謝するんだな。」
そんなことを言ったのは、エレキモンであった。
「本当本当。オーガモンね、レオモンのためにきず薬を探して、ファイル島中を走り回っ
てたんだよ。」
もんざえモンがエレキモンの後に言葉を続ける。レオモンはそんな話を聞いて、オーガモ
ンを優しく抱きしめた。
「すまんな、オーガモン。心配かけて悪かった。それから、ありがとう。」
「言っただろ、運命は変えられるんだって・・・変えようと思えば、いくらでも。」
オーガモンは涙声で、レオモンの胸に顔を押しつけながらそんなことを言う。その言葉を
聞いて、レオモンの胸は熱くなった。
「そうだな。運命は変えられるんだな。オーガモン、顔をあげてくれ。」
「何・・・っ!」
オーガモンが顔上げた瞬間、レオモンは目の前にある柔らかい唇に優しくキスをする。周
りのデジモン達は驚きはしたが、眠り姫の件で一度見ているので、それほどおかしなこと
ではないと思っていた。
「な、何しやがる!!他の奴らがいるってのに!!」
あまりに不意打ちだったので、オーガモンは思わずレオモンを殴ってしまう。
「痛っ・・・何も殴ることはないだろう。しかも、怪我をしている頭を。」
「あっ、わ、悪ぃ・・・」
そんなやりとりをするレオモンとオーガモンを見た他のデジモン達はくすくす笑う。本当
にこの二匹はお似合いだなあと改めて感じ、少しうらやましいなあと思っていた。
「そういえば、もう日付が変わっているんだよな。」
思い出したようにケンタルモンが呟く。昨日が現実世界では大晦日と言われる日であった
ので、日付が変わったいまは年が明けている状態であった。
「そういえばそうだね。もう新年だ。」
「じゃあ、あけましておめでとうだな!」
エレキモンがそう言うと、そこにいたどのデジモンも笑顔になった。そして、口々に新年
の挨拶を側にいる他のデジモン達に言った。
「レオモン、今年もよろしくな!」
「ああ、今年もよろしく、オーガモン。」
こうして新たな年の幕開けを迎える。今年も彼らにとって、きっと良い年になるのだろう。

                                END.

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